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邪神  作者: 霧島樹
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034「制約」

 タイチは元カノである藤村沙希と話した日の翌日、何事もなく無事にアメリカへと戻った。


 ……が、しかし、戻ったその日に護衛隊の隊長であるフレデリックとテニスをしている最中、何もないところで転び足首をひねって捻挫した。


『任務でも滅多にケガをしないのに、遊びでケガをするなど……何をやってるんだキミは……』


「いやー、油断したぜ。ちょっと必死になりすぎた」


 ケガをした日の夜。

 タイチは自宅でテレビを見ながら療養していた。


『しかも松葉杖を使わなければならないほど重症な捻挫など……今この時、何者かに襲われたらどうするんだ』


「ははっ、ホワイトハウスよりも警備が厚いこの家で、何者かに襲われる? ありえないだろ」


『完全、完璧な警備など存在しないからな。そういった事態も想定しておくに越したことはない。それにキミはただでさえ普段から油断しがちなんだ。こういう時ぐらいは油断しないでくれ』


「はいはい、わかりましたよ。……あーあ、ソウルスティールしたらケガとかが全回復したら楽なんだけどなぁ」


『エナジードレインを使えばいいじゃないか』


「エナジードレイン? ……ああ、そういやエナジードレインでケガとか治せるんだったな」


『忘れていたのか? とても重要な能力だぞ』


「だってエナジードレイン自体数えるほどしか使ってないし、エナジードレイン使うほどのケガもしたことないし」


『そんなことはないだろう。キミは任務中、何度も死にそうに……ん?』


「ヒヤッとしたことも、あと一歩間違えたら死んでた的なことも結構あるけど、そんな大ケガはしたことないぜ?」


『……言われてみればそうだな。凄まじい強運だ』


「そりゃどーも」


『だがしかし、その強運がこれからも続くとは思わないことだ』


「あー、はいはい。わかってるよ。もうそれ耳にタコ」


『ならいいんだが』


「……なぁ、フェイス」


『なんだ?』


「フェイスってさ……オレがもし『組織』に見つからないで、そのまま大学卒業して順調に金稼ぎしたら、どうするつもりだったんだ?」


『どうするつもり、とは?』


「だから、最終的な目標だよ。金稼ぎは土台固めで、前準備だって言ってたじゃん」


『最終的な目標か。もちろん状況によって変えたつもりだが……あのまま金稼ぎが終わったら、俺はキミに慈善団体を作るよう指示しただろうな』


「慈善団体?」


『ああ。貧困家庭において、要介護認定を受けた老人をタダ同然で受け入れる慈善団体だ』


「それって……老人ホームじゃん」


『そうだな。そして世界各国に施設を作り、キミはその団体の代表としてそれら施設を定期的に回ることになっただろう』


「……いつ死んでもおかしくない年齢の老人から、安全にソウルスティールをするためか?」


『そういうことだ。それからは邪神の能力を調べるための研究施設を作り、世界各国から秘匿義務を守れる優秀な頭脳を集め、ゆくゆくは俺を消せるように研究を進める。……というのが当初の計画だった』


「はぁー、なるほどねー。あ、でも今だってアメリカ政府直属の研究施設で色々と邪神の能力に関して調べられてるんだから、その部分は当初の目的を達成できてるよな?」


『そうだな。目標としていた条件や環境は違うものの、邪神の能力を研究するという面では達成しているな。キミが政府の暗殺者になると言った時は『あ、これダメなやつだ』と思ったものだが』


「ははっ、ここまで生き延びるとは思わなかったって? それこの間もう聞いたって……ん?」


『来客だな』


「ああ。これは……マリアか」


『そうだな。しかし、キミも昔に比べて随分と感知速度、および感知精度が高くなったものだな』


「口うるさいヤツが訓練しろ訓練しろってずっと言ってたからな」


『そうか。ならばキミはその口うるさいヤツに感謝しなければな』


「ははっ、うっせーよ。感謝はするけど。……にしても、速度とか精度とかは高くなったけど、感知できる距離とかはそこまで伸びないよなぁ。っつーかもう一年以上、距離伸びてないし」


『そうだな。今で大体五十メートルほどか。歴代と比べても短い方だが……ここで打ち止めかもしれないな』


「うぇ、嫌なこと言うなよ。普通はもっと伸びてくんだろ?」


『そうだな。通常、大体の宿主は感知距離、射程距離はともにソウルスティールをするたびに伸びていく。だが一番初めの頃に言った通り、それはあくまでそういった宿主が『通常』というだけだ。場合によっては一定のところまで感知距離が伸びて、そこからは逆に距離が縮むこともある。最初から長い感知距離で、それが伸びることなく縮む一方の宿主もいる』


「はぁ!? そんなの聞いてないけど!?」


『わざわざそんな不安を煽るようなことを言う必要もなかったからな』


「じゃあ今なんで話したよ!? メッチャ不安になったけど!」


『キミは昔と比べて大人になったからな。話しても大丈夫かなと、おそらく無意識のうちに俺の気が緩んだのだろう。ぶっちゃけ口が滑った』


「ぶっちゃけすぎだろ!?」


『ああ。眠いからな』


「眠いからって……テキトーだなぁ……正直なのもそこまでいくとホント清々しいぜ」


『ありがとう』


「褒めてねぇよ。……ちょっと待てよ。まさか、他にまだ言ってない邪神の能力に関する事とか、制約の事とかあるか?」


『細かいものから重要度の高いものまで、そこそこあるぞ』


「そこそこあるのかよ!? こんだけ長い付き合いで!?」


『ある。特に、制約に関してはキミの命に関わる重大なものをひとつ、俺は話していない』


「…………ちょっと待って。今、すっげぇ重大な発言したよな。サラッと」


『したぞ』


「……なんでオレにそれ、今まで話さなかったの?」


『その制約に関しては、話せば間違いなく宿主との関係が悪化するからだ。正直に言ってしまうと、俺は基本的な邪神の呪いに関しては宿主に対して説明義務の制約があるが、それ以外に関しては特に説明をしなければならないという制約はない』


「へぇ……そりゃ衝撃の真実だな。じゃあなんで『その制約』の存在があることを今オレに話したんだ?」


『……俺はキミにいつか、『その制約』の内容を話す可能性がある。だからこそ、その時になってキミがヤケを起こさないように今、話している』


「おいおい、なんだよそれ。十年前にオレが『伏線回収だぜ』って言って、お前に反抗した時の意趣返しか?」


『いや、そういうつもりはない。言っただろう。『可能性がある』と。実のところ、『その制約』に関してはいつも俺が内容を話すことなく、宿主が一生を終えることがほとんどだ。だからキミにも『その制約』を話さず、キミが一生を終えるという可能性もある。決して意趣返しなどではない』


「うん、まあ、なんつーか……まあいいや。……で? そういう風に言うってことは、今は『その制約』の内容は教えてくれないってことだよな?」


『そうだ』


「なるほどね……ぜんっぜん見当つかないんだけど。ヒントくれよ、ヒント。当てられちゃ困るだろうから、当たり障りないヒントで良いからさ」


『当たり障りないヒントか。それならば今までの会話にヒントはあるぞ』


「今までの会話にヒント? …………んー、サッパリわかんねぇ。それはさすがに当たり障りなさすぎだろ。追加でヒント頼むわ」


『ふむ……確かにそうだな。ならば追加のヒントは、『一回しかできない』だ』


「一回しかできない?」


『そうだ。俺の『その制約』は、『あること』を『一回しかできない』という制約だ』


「あることを一回しかできないって……かなり具体的だな。でも偉人同化は違うだろうし、宿主同化は一回しかできなかろうが、オレの知ったことじゃねぇし……あんまピンと来ないな。まさかあとからオレの知らない新たなファンタジー能力とかが出てくるわけじゃねぇよな? だとしたらそれフェアじゃねぇぞ?」


『そんなものは出てこない。ヒントは今までの会話にあると言っただろう。俺自身に関する、極めて単純な『制約』だよ』


「フェイス自身に関する単純な制約で……あることが一回しかできない? ……マジでわかんねぇ」


『だろうな。そうでなければ困る。……さて、もうそろそろマリアがここに着く頃だな。俺は寝るぞ』


「えぇ、マジかよ。もうちょっとだけ起きててくれよ」


『なぜだ?』


「いや……マリアに避けられ始めてから、初めて会うからさ。ほら、ちょっと勇気が必要じゃんか。でもひとりだとこう……なんつーの? 心細いっていうか……」


『……人の恋路を観察する趣味はない。勝手に仲直りしてくれ。俺は寝る』


「あっ、ちょ、フェイス!」


 ……引き止められながら寝るのも久しぶりだな。

 俺はそんなことを考えながら、意識を深い闇の中へと没入させていった。










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