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邪神  作者: 霧島樹


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032「電話」

 タイチが朝から自分の母親を泣かせていた、その日の夜。

 俺はタイチが酒を飲んでいる気配を感じて目を覚ました。


 視界に映る周囲の状況や聞こえてくる会話などから察するに、どうやらタイチは高校の時の同級生である高橋カズヤと一緒に酒を飲んでいるようだった。


 タイチと高橋は木製のカウンターに並んで座っている。

 こぢんまりとした店内と内装を見る限り、個人経営の居酒屋か何かだろうが……まったく、タイチにも困ったものだ。

 友人と飲みに行くならせめて、対面で座れる個室の居酒屋に行ってくれれば良いものを。


 そんなことを考えていると、タイチが大げさにため息をついた。


「はぁ……もう、どうすりゃいいんだよ、オレは……」


「それは結婚すればいいだけのことだろ」


「そりゃ普通だったらそうすればいいんだろうけど、オレはダメなんだよ」


「なんでだ?」


「…………」


 タイチが無言で手元のグラスを傾けると、なぜか当たり前のように左隣に座っているスーツ姿のレジーナが冷たく言い放った。


「社長。お酒はそれで最後ですから。追加で注文しないでください」


「わかってるって。それ今さっきも聞いたっての」


「その一杯前にも最後と言って、結局やめてくれなかったからもう一度言ってるんです」


「キビシーなぁレジーナは。っていうか堅苦しい。別にそんなわざわざ日本語で敬語使わなくてもいいんだぜ? むしろ堅苦しいからやめてほしいんだけど」


「仕事中ですので」


「……あのさ、タイチ」


「んー?」


「その、レジーナさんはタイチの投資会社の秘書をやってる……んだよな?」


「ああ、まあ、そうだなー」


「じゃあさ、あちらのテーブルの方々も、その会社の関係……なのか?」


 高橋がチラリと視線を背後へ向けると、そこにはスーツ姿の屈強な黒人の男たち計六人が狭いテーブルで大人しく座っていた。

 ただし、全員タイチを凝視しているため非常に怪しく見える。


「そうだけど? あれ? 言ってなかったっけ?」


「いや、最初に聞いた気がするけど……なんか、どう見ても普通の会社員には見えないっていうか……」


「SPとかボディーガードとか、そういうのに見えるって?」


「そうそう、そういう感じ。……え、やっぱそうなのか?」


「んー、まあな。会社員兼ボディーガードって感じかな。そういう設定」


「設定?」


「社長」


「冗談だってレジーナ。そう怖い顔すんなよ」


「……社長。この後のスケジュールに差し支えますので、もうそろそろお開きにしてはいかがでしょうか?」


「あれ? オレこの後なんかあったっけ?」


「あります。睡眠、というとても大事な予定が」


「ははっ、そりゃ確かに大事だ。じゃあ明日は起きる時間ずらして睡眠時間確保するわ。それで良いだろ? レジーナ」


「……ッチ」


「露骨に舌打ちすんなよー。別に朝まで飲むって言ってるわけじゃないんだからさ。なぁカズヤ?」


「お、おう……いや、いいのか?」


「あたりまえだろ。いいよな、レジーナ?」


「……それ以上お酒を飲まなければ、多少の夜更かしは問題ありません。ですが、ほどほどにしてくださいね」


「だってさ。こわーい秘書のお許しも出たところで……えーと、オレたちなんの話してたっけ……?」


「タイチが親に結婚しろって言われてつらいって話」


「あー……その話か。その話は……もういいや。なんか、別の話題ない?」


「別の話題?」


「さっきからオレばっかり話してるじゃん。カズヤもちょっとは話せよ」


「そうだなぁ……あ、そういや、この前中学校の同窓会行ったんだけどさ」


「おおー、どうだった?」


「まあ色々あったけど、一番ビックリしたのはアレだな、ほら、藤村ふじむら沙希さき


「え……あいつ、そんなに変わってた?」


「……タイチ、知らないのか? 今、藤村が何やってるのか」


「知らねぇな。電話もメールも拒否ってるから連絡取ることもないし」


「そうなのか……じゃあ黙っておくわ」


「は? なんでだよ? 教えてくれよ」


「本人から直接聞けよ。どうせだったらその方が面白そうだから」


「聞けねぇよ。今となってはオレのこと完全に嫌ってるだろうし、電話にすら出てもらえないって」


「それなら大丈夫だと思うぞ。藤村の奴、タイチに会いたがってたし」


「会いたがってた? ……なんで?」


「その前に確認なんだけど、タイチさ……当時、藤村と高校生になってから付き合って、んですぐ別れたんだって?」


「あー……うん、まあ、そうだけど……なに、あいつから直接聞いたの?」


「聞いた。別れ方がひどかったってさんざんグチってた。……タイチ、そんなひどい別れ方したのか?」


「…………したな」


「そっか。じゃあ謝った方がいいな」


「……は?」


「藤村、同窓会で言ってたぜ。『タイチに謝りに来いって伝えて』って」


「いやいやいや……え? 冗談だろ?」


「確かに酒は入ってたけど、あれはマジな目だった。おれ、当事者じゃないのに刺されるかと思ったよ」


「えぇ……マジで……?」


「マジマジ。タイチさ、藤村の番号を着拒ちゃっきょしてるってことは、まだ番号自体は登録してあるんだろ?」


「してるけど……」


「じゃあ電話した方がいいと思うぞ。今だったらまだ間に合うだろ。逆にこのままずっと放置してたら、おまえいつか居場所探し当てられて刺されるぞ」


「はは……冗談……」


「あの藤村だぞ?」


「…………」


「一言だけでも電話しといた方がいいって」


「……わかったよ」


 しぶしぶ了承するタイチ。


 ……ふむ、危険な状況にはなりそうもないな。

 どうやらこの場はレジーナに任せておけば大丈夫そうだ。


 そう判断した俺は再び睡眠時間の確保に移るべく、意識を深い闇へと没入させていった。

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