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邪神  作者: 霧島樹
31/85

031「実家」

 組織で健康診断を受けた次の日。

 昼過ぎに日本へと着いたタイチは、さっそく実家へと顔を出していた。


「ただいま、母さん」


「お帰りなさい」


 久しぶりに会ったタイチの母君は昔よりも大分シワが増えて、明らかに老け込んでいた。


「あれ……なんか……」


「どうしたの?」


「いや……家がぜんぜん昔と変わってないような気がするんだけど……」


 タイチは家の中を見回しながら訝しげな顔をした。


「そう?」


「そうだよ。オレが送ったお金使ってないの?」


「使ってないわよ」


「え……なんで?」


「そんなに使うことないもの。もともとお金に困ってるわけでもないし、貯金してるわ」


「えぇー……使ってよ。使ってもらうために送ったんだけど……」


「でも……個人投資家っていうのは不安定な仕事なんでしょう? もしもあなたが一文無しになった時、再起するためのお金が必要だと思って」


「母さん……」


 そのあとはしばらく押し問答が続いたが、母君は結局タイチが送ったお金を使うつもりはないようだった。


「そういや、父さんは? 相変わらず家にはほとんど帰らない感じ?」


「あの人とは、あなたが二十歳になった時に離婚してるわよ?」


「え……えぇ!? 聞いてないけど!?」


「私も色々と思うところがあってね。直接会ってから話そうと思ってたのよ。……まさか、家を出てから十二年間も帰って来ないとは思わなかったけど」


「はは……ごめん」


「そんなことより、最近どうなの?」


「どうって?」


「あなたもう三十路よ。今いる彼女との結婚とか、ちゃんと考えてるの?」


「いやいや、それよりまず先に今現在オレに彼女がいるかどうか聞こうよ。オレ彼女がいるなんて話したことないじゃん」


「いないの?」


「……いるけどさ」


「でしょう? あの人の子なんだから、そこは心配してないわ。高校生の時だって、あなたは隠してたけど知ってたわよ私。彼女がいたこと」


「え……なんで知ってんの?」


「母親の勘ね。それで、どうなの? 結婚とか、ちゃんと考えてるの?」


「いや……考えてないけど……」


「タイチ……今は晩婚化が進んでるって言うけど、それでもやっぱり適齢期に結婚するに越したことはないのよ? 男だからって気楽に考えてるのかもしれないけど、あなただってもういい年なんだから、真剣に将来のこと考えないと……」


「あー……まあ……うん……」


「相手の女の子はどんな子なの? 歳は? 今どれぐらいの期間付き合ってるの?」


「ちょ……勘弁してよ……」


「なに言ってるの。真剣な話をしているのよ私は」


「……歳は二十九。知り合ってからは十一年経ってるけど、ちゃんと付き合い始めたのは二年ぐらい前から。純粋で純朴ないい子だよ。もう『いい子』っていう年齢じゃないけど」


「あら、いいじゃない年も近くて。お国はどちら? 何かお仕事はしてるの?」


「国はアメリカだよ。ロシア系アメリカ人。仕事は……研究者だな」


「研究者! すごいじゃない。彼女、頭が良いのね」


「ああ、頭はすげぇ良いよ。学校を飛び級しまくってどこだかの大学を十六歳で卒業して、十七歳で国の研究機関にスカウトされたらしいから。天才だね。普段はメッチャ普通の人だけど」


「公務員なの? 安泰じゃない! 研究はどんな研究をしているの?」


「もともとは人体構造の研究専門で、今は……いや、今も人体構造専門か」


「へぇ、そうなの……ねぇ、彼女とはどこで出会ったの? 馴れ初めは?」


「いやそーゆーのはホントに勘弁して。プライバシーの侵害だよ」


「結婚したら馴れ初めのエピソードも流すでしょう? だったら今聞いてもいいじゃない」


「いや、だからまだそういうのは考えてないから」


「ダメよ考えないと! それとも何か彼女に不満でもあるの?」


「そういうわけじゃないけど……」


 グイグイくる母君にタイチはシドロモドロ、といった感じだ。


 ……ふむ、タイチが母君に触れられそうな要素もないし、どうやら俺は寝てても大丈夫そうだな。


 寝よう。







 ◯







 次の日の朝。

 俺はタイチに異変を感じて目を覚ました。


「ったく、しつこいなぁ……だから、ちゃんと考えるって言ってるじゃんか」


「嘘よ。全然そんなつもりないでしょ」


「嘘じゃないって。なんで決めつけんの?」


「言葉が軽いから。話を終わらせようとしてその場しのぎで答えてるのが丸わかり。……ねぇ、理由は? なんでそんなに結婚したくないの?」


「結婚したくないとかじゃねぇって」


「じゃあなんで?」


「うるせぇな! もうオレは『いい年』で、『いい大人』なんだろ!? ほっといてくれよ! もう大人なんだから自分の人生ぐらい自分で決めるっての!」


「タイチ、あなたそれじゃ……」


「――オレに触んな!」


 踵を返そうとしたタイチに母君が手を伸ばすが、その瞬間タイチは大声を上げた。

 ビクリ、と母君の手が止まる。


「……ごめん」


「タイチ……」


「母さん……オレさ、多分、当分は結婚できないよ」


「…………当分って、どれぐらい?」


「わかんねぇ……もしかしたら、一生結婚できないかも……」


「…………」


「……母さん?」


「…………どうして、そんなこと言うの?」


 伏せていた視線を上げながらそう言ったタイチの母君は、その目に涙を浮かべていた。


「な……泣くなよ……泣くほどのことじゃないだろ……」


「だって……タイチが一生結婚できないなんて言うから……」


「別に今の時代は珍しくもないじゃんか……」


「でも……」


 本格的に泣き始める母君。


 これは……別に俺が起きてる必要はなさそうだな。

 寝てても大丈夫そうだ。


 となれば、ここで寝ない手はない。

 よし、寝よう。













 そして俺は寝た。










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