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邪神  作者: 霧島樹


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027「対話」

 交感対話装置を起動させてから数十分後。


「すげぇなこれ!」


 タイチはカプセルから出て、巨大なディスプレイに映し出される映像をヤーコフ博士と見ながら大興奮していた。


「フェイスと直接話せるのはともかく、それに加えてフェイスの記憶から過去の異世界映像を映し出せるとか……大発明じゃん! オッチャン! なんで言わなかったんだよ! オッチャン……うぉ!?」


 タイチは横で涙を流しながら感動しているヤーコフ博士を見てギョッとした。


「色んな世界の終わりが見れるなんて……なんて素晴らしいんだ……生きてて良かった……」


「な、なんで泣いてんだよオッチャン……」


『キミは外の声が聞こえなかったから知らないだろうが、今回の『俺の過去の記憶から映像を映し出す』という機能は完全なるイレギュラーだったようだぞ。以前の役に立たなかった発明品と組み合わせて成功したようだ。マリア博士が実験データを計測しながら『これならもしかして』と、以前の発明品と組み合わせることを思いついたらしい」


「おお、マジか! さすがマリアちゃんだな! よーし、お祝いだ! 今日はみんなで宴会……ってうおぁ!? セオ!?」


 タイチの背後ではいつの間にか研究室に入っていたセオドリックが、自分たちと一緒にディスプレイを見上げていた。


「び、びっくりしたぁ……心臓に悪いぜセオ……」


「…………」


「ん? どうしたよセオ? んな怖い顔しちゃってさ」


「……キミは」


 セオドリックはまるで信じられないようなものを見るような目で、タイチに問い掛けた。


「キミは、これを見てなんとも思わないのか……?」


「は? なんとも思わない?」


 タイチは首をかしげてから、再びディスプレイを見上げた。

 そこには以前、俺が宿っていた人間の生きていた世界が、闇に飲まれていく光景が映し出されていた。


 街が、人が、家畜が、作物が。

 森が、山が、大地が、海が。


 すべてが闇に飲み込まれていく。


 緩やかに。成す術もなく。例外なく。

 何もかもが飲み込まれていく。


「いや、なんとも思わなくはないけど?」


「ならばなぜ、そんな平然とした顔で……」


「だってオレ夢で一度見たし。それにしょせんは別世界の出来事じゃん? オレに直接関係ないんだから、映画見てるようなもんじゃん」


「そう、か……そうだね……」


 セオドリックは腕を組みながら口もとを手で押さえた。


『タイチ。あまり無責任なことは言わない方がいいぞ。確かにキミの言う通りではあるし、話したことも会ったこともない別世界の人間に同情しろとも言わないが、キミが死んだらこの世界があの光景と同じことになるのだから、『関係ない』と言ってしまうのは乱暴だろう。基本的に正直であることは人として美徳だが、時と場合によっては本心を言わないことも必要だ』


「えぇ……それ、お前が言っちゃう?」


『もちろんだ。俺はちゃんと、言ったら自分に都合の悪いことは言ってないぞ』


「それ言ってる時点でもうバカ正直だと思うけどな。今の話でちょい不安になったから、あとで色々と聞かせてもらうぜ」


『…………話せることは話そう』


「はいはい、それでいーよ」


 それからは俺の過去の記憶から取り出した異世界映像を見終わったあと、『タイチが寝ている最中に交感対話装置を使った時のデータ』を計測することになり、タイチは睡眠薬の錠剤を飲んでからカプセルの中で横になった。


 そして三十分後。


『フェイスさん、起きてるかな?』


 暗闇の中、交感対話装置越しにセオドリックの声が聞こえてくる。


『ああ。起きている』


『タイチは寝ているかな?』


『熟睡しているな。この分だと俺の声が聞こえることもないだろう』


『そうか。そしたら、フェイスさんにだけ聞いてもらいたい大事な話があるんだ』


 セオドリックはそう言って、『将来』のことについて話し始めた。







 ◯







 一通りの実験データ計測が終わり、夜の十九時頃。

 タイチは研究室を見回ってマリアを探した。


 だがヤーコフ博士いわくマリアはもうすでに帰ったとのことで、タイチはガックリと肩を落としながら施設内の廊下を歩いていた。


「なぁ、フェイス」


『なんだ?』


「さっきオレが寝ている間、セオと何を話してたんだ?」


『……ふむ』


「なんだよ、やましいことでも話してたのか?」


『いや、そういったことは一切ないぞ。ただ、タイチが先ほどの会話内容を聞いた場合、後悔しないかどうかと思案しただけだ』


「後悔?」


『ああ。セオドリックとは色々なことを話したが、一番多く話したのは主にキミの将来についての話だからな』


「将来についての話ね……なんとなく予想つくけど、んじゃつまらなくならない程度にちょっとだけ聞こうかね。オレの将来についてって、たとえばどんな内容よ?」


『そうだな……たとえば、この先俺を消すことができず、その前に宿主であるキミ自身が病気、事故、天災などで命がもう残り時間わずかとなってしまった場合の『処理方法』や、キミ自身がなんらかの要因で乱心した場合の『処理方法』、そしてキミがそれらの『処理方法』に抵抗した場合の……』


「ちょっと待って。タイム。ストップ」


『なんだ?』


「あのさ、もうちょっとオブラートに包んでくれても良いんだぜ? 『処理方法』ってさ、生々しすぎだろ」


『そうか? 『処分方法』、もしくは『始末方法』よりも穏やかな言い方だと思ったのだが』


「いやもう、それ五十歩百歩っていうか、どれもまったく穏やかじゃないっていうか……まあいいや。どっちにしろこれ以上細かいこと聞くのはやめとくわ」


『いいのか?』


「ああ。……いや、やっぱいくつかは聞かせてくれ。なぁフェイス。……実はオレ、もうすでに何らかの方法で『処理』されることが決定してたりする?」


『いや、まだ決定はしていない』


「本当か? セオと共謀してオレをハメようとしてるとか、そういうのはないか?」


『ない。少なくとも今のところは、そうせざるを得ないような状況にはなっていない』


「そっか。『今のところは』ってとこがまた、なんとも言えねぇけど……うん、まあいいや。自分の死ぬ時期と方法なんて、あらかじめ聞いてたら興ざめだもんな。あとさ」


『なんだ?』


「最近、ちょっとだけソウルスティールの射程距離が伸びたり、魂を短い間隔インターバルで連続吸収できるようになったりしてるけど……渇望の期間も昔は一ヶ月だったのが、今は三週間とかになってるじゃん? これってさ……」


『…………』


「……いや、なんでもねぇ。ははっ……オレとしたことが、つまらないこと聞いちまうとこだったぜ」


『タイチ……』


「だから、湿っぽい声出すなって。なにも数年以内に死ぬとか、そーゆーわけじゃないんだろ?」


『それはわからないな。キミが数年以内に死ぬ可能性も否定はできない』


「あー、そういうこと言っちゃう? じゃあ今からもうバンバン豪遊しちゃおうかなー。株取引での儲けも五十億ドルの大台を突破したことだし」


『もうすでに十分豪遊しているだろう。ついこの間、超大型クルーザーを特注したばかりだったと思うが?』


「なに言ってんだよ。自家用ジェット機がまだじゃんか」


『クルーザーはともかく、ジェット機はまず使うことがないだろう。無駄なものに金を使わないでくれ。まだまだ株取引での金稼ぎは途中なんだ』


「……へ? まだやんの? すげぇな、どんだけ稼ぐんだよ」


『そうだな、ここの研究設備への資金援助などもしたいから、あと五百億ドルぐらいは稼ぎたいな』


「うはぁ、そりゃまたすげぇな。まさしく桁が違うってヤツだ。よっしゃ、燃えてきたぜ。最近は株取引も飽きてたけど、いっちょオレも久しぶりに自分の力で稼いでみっか!」


『キミには本当に投資の才能がないから、それだけは勘弁してくれ。キミに任せたらいくら金があっても足りない。あとタイチが株取引で黒字を出したことはないから、『久しぶりに自分の力で稼いでみっか!』という言葉は完全なる誤りだ』


「細かいなーフェイスは。細かい男はモテないぜ?」


『いい加減な男もモテないと思うがな』


「ははっ、言うねぇ……ん?」


『お、今回はすぐに気づいたようだな』


「今回は……ってことは、やっぱりこの魂は!」


 廊下を駆けた先、組織の地下施設から地上へと移動するためのエレベーター前には、私服姿になったマリアが小さなバッグを手に佇んでいた。


「マリアちゃん!」


「あ……お疲れ様です、タイチ」


「どうしたの? こんなところで。もしかして、オレを待っててくれた系? ははっ、なんつって……」


「……そうです」


「……へ?」


「私は、タイチを待ってました」


 マリアはタイチから視線をそらし、やや頬を赤く染めながら言った。


「よくよく考えたら、あなたは大事な職場の同僚のようなものですし、毎回食事の誘いを断っているのも失礼ですし、あなたはいつもすごくがんばってますし……」


「マリアちゃん……」


「あ、でもあくまで同僚として、友人としてですよ。『攻略された』とか『落とされた』とかじゃないですから。友人と食事に行くのは普通でしょう? 」


「マリアちゃんが……デレた……」


「え? 『デレタ』? ……ってなんですか?」


「な、なんでもないよ。うん、普通だな、普通。友人と食事に行くのは普通。よし! んじゃさっそく行こうぜ!」


「あ……ちょっと、待ってください! 『デレタ』ってなんですか!?」


 そして、初デートを終えた次の日。


 タイチは日本語の『デレた』の意味を知ったマリアに、『私はデレてません!』と怒られるのであった。

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