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邪神  作者: 霧島樹
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024「暗殺」

「つまりこれから先オレはアメリカの手先になって、悪党どもを『正義ジャスティス!』とか言いながらソウルスティールしていく感じ?」


「そのように言われると肯定しづらいが、そうだね、悪党どもを相手に正義を成すという点では間違ってはいないよ。『正義ジャスティス!』と言いながらソウルスティールするのはやめてほしいけど」


「ははっ、だろうな」


「それで、どうだろう? 報酬はできる限りキミの望みに応えられるよう尽力するつもりだ。キミ専属の護衛部隊も付ける。段取りはすべてこちらが手配する。キミはただこちらの指定する対象にソウルスティールを実行してくれればいい」


「へぇ……そりゃ楽でいいな」


『タイチ。迂闊なことは言うな。まずはもっと詳しい内容や条件、任務期間などを聞き取るんだ。そしてメリットとデメリットを照らし合わせ、あまりにもデメリットが大きいようであれば断れ。強制させられるようだったら一度は了承したフリをして対策を考えよう。最悪の場合は国外逃亡も視野に入れる』


「りょーかい。セオ、ちなみにそれってどれぐらいの期間やる感じなんだ? あと、これって断ったりするのはオッケーな感じ? 途中でやめるのはあり?」


「期間としては無理がない範囲での活動で十年から十五年の計画だ。そしてもちろん断られたからといって我々がキミに危害を加えることはない。できれば途中でやめないでほしいが、結局のところすべての選択はキミに委ねられている」


「十年から十五年かぁ……」


『論外だな。あまりにも長すぎる。その間にどれだけのリスクがあるか計り知れない。断ってくれタイチ。この話を受けるのは破滅の道だ』


「はは……はははっ!」


『……タイチ?』


 タイチは心底おかしそうに笑って、言った。


「フェイス。伏線回収だぜ」


『なに?』


「オレはいつの日だか言ったよな? 『今日お前がわからなかったその答えを、オレはいつか必ず言う。フェイス、楽しみに待っててくれよ?』……ってな」


『……ああ、そういえばそんなこともあったか。よく覚えていたな』


「そりゃそうだよ。この日が楽しみで楽しみで、待ち遠しかったからな」


『そうか。今の状況とその『答え』がどう関係してくるのかは知らないが、キミが楽しそうでなによりだ。どうやら俺にとっては望ましい『答え』ではなさそうだが』


「よく言うぜ。ここまで来たらもうわかってるだろ?」


『さぁな。では改めて聞こう、タイチ。キミがあの時言いかけたことは、いったいなんだったんだ?』

「いいぜ、教えてやるよ。オレがあの時言いかけたのはな、『オレはいつか必ず、お前に反抗する時が来る』ってことだ」


『……あくまで自分の『面白さ』を優先する、ということか?』


「ははっ! よくわかってんじゃんフェイス!」


『タイチ。俺の忠告を無視する人間は……』


「『大抵が自滅する。それを忘れないでくれ』……お前がいつの日だか言ってたよな? 覚えてるぜ、フェイス。忘れちゃいねぇよ」


『……後悔するぞ、タイチ』


「しないね。オレは後悔しない。なんなら賭けようか? ハッピーエンドか、バッドエンドか。もちろんオレはハッピーエンドに賭ける」


『俺もできることならハッピーエンドに賭けたいし、できる限りキミが幸せになれる方向へと誘導するつもりだが……宿主が暗殺者となった場合、俺の経験上ほぼ間違いなく宿主は不幸になる。答えがわかっているのだから、賭けにはならないな』


「おいおいフェイス。『ほぼ間違いなく』ってのは『絶対』じゃねぇだろ? そもそもこの世に『絶対』なんてありえないしな。まあ、オレは『絶対』後悔しないし、『絶対』ハッピーエンドを迎えるけど」


『前後で言葉が矛盾しているが……タイチ、それはギャグで言ってるのか?』


「本気に決まってんだろ。矛盾を抱えながらも己を貫き通す。それがオレだぜ。サトウ・タイチだ」


『タイチ……』


「おいおい、湿っぽい声出すんじゃねぇよ。今まで上手くやってきただろ? これからだって上手くやるさ」


『…………』


「さて、話はまとまったな。セオ」


「なんだい?」


「受けるぜ、この話」


「……ありがとう、タイチ。本当に、ありがとう」


 セオドリックはホッとした顔で息をついた。

 それに対しタイチはソファの背に寄りかかり、訝しげな様子で言った。


「にしてもさぁ、なんでそこまでしてアメリカがテロ撲滅に乗り出すわけ? オレみたいなのまで使ってさ。どう考えてもメリット、デメリット見合ってないんじゃねぇの?」


「……ここまで来ると、事はそう単純な話じゃないんだよ、タイチ」


「ふーん?」


『タイチ。そんなことよりできる限り詳細を聞いて、キミの安全性が十分に確保された計画かどうか確かめるんだ。彼らはこういうことに関するプロフェッショナルだろうが、邪神の能力とは付き合いが浅い。もしかしたら計画に俺たちじゃないと気づかない『穴』があるかもしれない』


「お、なんだよ、急に乗り気になったな」


『乗り気なんかじゃないさ。だがしかし、やらなければならないのなら、やるしかないだろう』


「さすが前向き思考。頼もしいぜ。んじゃ細かい話を詰めていくとするか。セオ、いいか?」


「もちろん。なんでも聞いてくれ」


 それから俺とタイチはセオから計画の全容から細部までを詳しく聞いて、意見、要望を交わし合った。










 ◯










 それからというもの、タイチは組織の主導で年に数人から十数人もの武器商人や犯罪組織(シンジケート)の幹部、そしてそれらと繋がりのある政府の要人を暗殺していった。


 上流階級の人間が集うパーティーにて。

 ホテルのロビーにて。

 レストランにて。

 ゴルフ場にて。

 標的の自宅にて。


 場所を変えて、時間帯を変えて、不規則に。

 淡々と。粛々と。

 セオが語る『悪党』に対してソウルスティールによる暗殺を続けていった。










 そして、タイチが組織による暗殺者となってから、五年の月日が流れた。










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