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邪神  作者: 霧島樹
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023「正義」

 待合室のドアを勢いよく開けて部屋に入ってきたのは白衣を着た白髪の老人、ヤーコフ博士だった。

 タイチの邪神能力研究チームの主任である。


 見た目は丸メガネで恰幅がよく、とても優しそうな顔をしているが、実は研究チームで一番のマッドサイエンティストだ。

 その最たるエピソードとしては……いや、止めておこう。思い出すのもはばかられる。


「タイチくん! 大変だ!」


「そんな慌ててどうしたんだよオッチャン」


「ハァ、ハァ、ハァ……タイチくん、大変だ。悪いニュースと、すごく悪いニュースがある」


「おいおいオッチャン。良いニュースが見当たらないぜ? 勘弁してくれよ」


「そうも言ってられない。まずは悪いニュースだ。またここの予算が削られた!」


「あぁ、またか。まあなんの成果も上がってねぇもんな。そりゃ削られるだろ」


「しかもそれに伴って、キミに関わる検査や実験をするのも月に一回と言われた!」


「え、マジで? それオレにとっては良いニュースじゃん」


「私にとっては全然良くない! ただでさえどんどん研究予算が削られて、今や二週間に一度しかタイチくんと会えないのに、それが一気に月一になるなんて……」


「どんまいオッサン。んで、すごく悪いニュースってのは?」


「それが……実は、キミのことを要人の暗殺に使うって話が上層部にあるらしくって……」


「はぁ? 暗殺?」


 タイチが素っ頓狂な声を上げると同時に、部屋の中へ高そうなスーツを着た金髪碧眼の優男が入ってきた。


「続きは私が話すよ、ヤーコフ博士」


「う…………わ、わかった……」


 優男の言葉でヤーコフ博士が部屋から退出する。


「……アンタ誰だ?」


「そういえば直接会うのは初めてだね、タイチ。私が誰だか分かるかな?」


「その声……もしかして、セオか!?」


「その通り」


 タイチの向かい側にあるソファに座り、優男――改めセオドリックはニッコリと笑った。


「ひぇー……マジかぁ……」


「私が直接出て来たのがそんなに予想外だったかい?」


「いや、まあそれもそうだけどよ……それ以上に見た目が若くてビックリしたぜ。もっと歳いってるかと思ってた。三十代前半ぐらいか?」


「ハハ、それよく言われるよ。実はこれでもあと少しで五十代なんだけどね」


「マジで!?」


『タイチ。そんなことより俺はさっきの話が気になるんだが』


「あー、そういや暗殺がどうとかって話があったな」


「実はそうなんだよタイチ。私たちにはキミの力が必要なんだ」


 セオドリックは言った。

 現在世界は国際的なテロ組織が乱立しており、世界情勢は非常に不安定なものとなっている。

 だがそれらテロ組織を根絶やしにしようとしても、武器商人や犯罪組織シンジケートが手を組んでテロ組織を支援するため、すぐに復活してしまう。


 そして武器商人は各国の上層部と深い関係にあるため、そう簡単には摘発されない。

 犯罪組織シンジケートも各国の必要悪を背負っている部分もあり、根絶やしにすることは現実的に難しい。


「あれ? でもそういや、ついこの間すっげぇ有名な武器商人が捕まってなかったっけ? なんかのニュースで見たけど」


「よく知ってるねタイチ。だけどそれは氷山の一角なんだ。むしろ彼が捕まったことによって武器商人たちは警戒心を強め、地下に潜り、より一層各国の上層部と繋がりを強化すべく働きかけている」


「へぇ……そりゃ困ったもんだな」


「ああ。それでも今は規制の強化でアメリカ国内からテロ組織へ武器が流出するようなことは防げてはいるが、中国やロシアからは依然として流出が続いている。だがそれらの国へ規制強化を呼び掛けても形ばかりの規制で意味を成さない」


「嫌われてんじゃねぇの? 中国もロシアもアメリカの仮想敵国じゃん」


「端的に言ってしまうとそうだね。それに加えて、武器商人の活動を本気で規制すると国や個人に対する膨大な献金がなくなってしまうから、なおさら動く気にならないんだろう」


「なるほどねぇ、武器商人の活動制限はメリットよりデメリットの方が大きいってことか。金の力は偉大だなぁ」


『タイチ』


「ん? どうしたフェイス?」


『セオドリックの話をすべて鵜呑みにするんじゃないぞ。俺たちは実情を知らないんだ。彼がアメリカにとって都合の良い話を作っている可能性がある』


「そうか? でも今ぐらいの話だったらテレビのニュースとかインターネットで出てるぐらいの情報じゃね? オレもそこそこ知ってるぐらいだし」


『それが情報化社会の恐ろしいところだな。なまじ有用な情報がすぐ手に入り、日々それらの情報を活用しているがゆえに、ある程度の信頼性があれば自分の目で見たものでなくとも、それが真実だと容易く信じてしまう』


「あぁ……そういうことか。世の中に出回ってる情報がすでに嘘ってことね」


『あくまで可能性の話だがな』


「ま、陰謀論とか、そういう話はオレも結構好きだけど……セオ、そこんとこはどうなの?」


「私の言っていることはすべて本当だよ。神にだって誓える」


『タイチ。彼は敬虔なクリスチャンか?』


「さぁ、どうだろ? オレは知らねぇ、わからねぇ」


『では信用しない方が無難だな。話半分で聞いておいた方がいい』


「タイチ。邪神の彼……フェイスさんは今なんと言っているのかな?」


「オレに『セオのことは信用すんな』って言ってるよ」


「そうか……残念だな。私もフェイスさんと直接話すことができれば、もっとちゃんとした信頼関係を築くことができると思うんだけどね……」


「オレとセオみたいに?」


「そうさ」


「ははっ、よく言うぜ。今まで一年以上もスピーカー越しに会話しといて」


「私はずっと直接会って話したかったんだが、周りが許してくれなくてね」


「調子がいいなぁセオは。そういうの嫌いじゃないけど」


『タイチも基本的に調子がいいからな。同族嫌悪ならぬ、同族好意と言ったところか』


「オレそんな普段から調子がいいこと言ってたっけ?」


『言ってるぞ。いつも言ってる』


「へぇ、自分じゃわかんないもんだな。……っと、わりぃなセオ。そっちからしてみりゃオレの一人芝居を見させられてるようなもんなんだよな」


「気にしないでいいよ。私としても、キミとフェイスさんの仲が良いのは好ましいことだ」


『怖い笑顔だな。気がついたら後ろからブスッと刺されそうな笑顔だ』


「そうかぁ? いい笑顔じゃん」


『……キミはもう少し警戒心というものを覚えた方がいいな』


「フェイスが慎重すぎるからバランス取れてていいじゃん。……って、また話が脱線してるな。ええと……」


「つまり、私はキミに『正義の矛』となってほしいんだ」


「正義の矛?」


「そうだ。アメリカが正義を成すための、『矛』になってほしい」


「あれ? この組織はアメリカ政府とは一切関係がないんじゃなかったっけ?」


「そうだね。表面上、私たちの組織は独立している。どこの国とも関係性はない」


「だけど実質的には……ってヤツか。言っちゃっていいのかそれ?」


「ああ。一年間と少しキミのことを観察して分かったんだ。キミは信頼に足る人間だとね」


「うはぁ、嘘くせぇ」


「本当さ。これでも観察眼は優れていると自負しているんだ」


「ははっ、そうかよ。んじゃついでにどこの所属なのか教えてくれよ。もしかして大統領行政府(ホワイトハウス)直属とか?」


『テロに対して動く時点で国防総省(ペンタゴン)の暗部という可能性が高いんじゃないか? いつぞやの特殊部隊もどちらかと言えば軍隊よりの装備だった』


「ははぁ、なるほどね。それっぽいな。んで、どうなのよセオ?」


「ハハ……それはご想像にお任せするよ」


「なんだよ、そこは秘密かよ。ケチだなぁ」


「すまないね。色々としがらみが多いんだ」


「へぇ。にしてもさ、アメリカだったら無人航空機(ドローン)での暗殺が有名じゃん。随分前からそーゆー技術があるんだから、今だったらもっと小型化した奴でサクッと暗殺できるんじゃねぇの? オレみたいにリスキーな人間使わなくてもさ」


「できるかもね。だけど、さすがに何も痕跡を残さず、物理的障害を物ともせず、何の規制も受けない無人航空機(ドローン)は存在しないよ。キミが持つ邪神の能力には到底及ばないさ。……それで、タイチ」


「ん?」


「答えを聞かせてほしい。正義を成すために、我々に力を貸してくれるかどうか」


「正義を成すため、ねぇ……」


 セオドリックの言葉に、タイチはニヤリと笑って机の上に身を乗り出した。








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