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邪神  作者: 霧島樹
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019「挨拶」

「あら? 日本語での挨拶は『こんにちは』だと思ったけど、違ったかしら?」


「……誰だお前?」


「あぁ、そうね、アタシたち初対面だったわ。じゃあ『初めまして』ね。アタシはレジーナ・ミューア。四年生よ。アナタと同じ」


 そう言って片目をつむりウィンクする金髪碧眼の美女レジーナは、肩が露出している白のタンクトップに下は短パンというラフな格好だった。

 豊満な胸がややキツめのタンクトップで強調されており、かなり扇情的である。


「よろしくね」


「…………」


 ニッコリと笑って右手を前に差し出すレジーナを、タイチは黙って見続ける。

 当たり前だが、レジーナによって出された右手は放置である。


「あら……シャイなのね。今日本で流行りの草食系男子ってヤツ?」


「……それは結構前の話だな。今は絶食系男子ってのが流行りだぜ」


「ゼッショクケイ?」


「女を必要としないってタイプの男だよ」


「女を必要としない? それって同性愛者なの?」


「同性愛でも異性愛でもねぇよ。ただ恋人を作らないってだけだ」


「んー、よくわからないわね」


 レジーナはそう言いながら隣の席に座り、その整った顔に微笑を浮かべながら言った。


「でも人間なんだから、人は好きになるんでしょ?」


「さぁな。オレは人間かどうか、あやしいところがあるからな」


『タイチ!』


 ――わかってるよ。


 俺の呼びかけに声を出さず、口元だけを動かして答えるタイチ。


「人間かどうかあやしい? なんで?」


「さぁ、なんでだろうな。っていうか、レジーナ……だっけ? 日本語上手いな」


「そう? ありがと。アタシ日本のアニメ好きだから、日本語いっぱい勉強したの。日本のアニソンもいっぱい歌えるのよ」


「へぇ……そりゃすごい」


「それで、タイチ。さっきの話だけど、なんでタイチは人間かどうかあやしいの?」


「その前にレジーナ。なんでお前はオレのこと知ってるんだ?」


「知ってるわよ。だって有名人じゃない。この大学唯一の学費全額免除の首席入学特待生で、しかも三学年飛び級の天才。宿題も講義もほとんど免除で、噂によるとノーベル経済学賞が確実とされる論文を学長と一緒に共著で学会に提出したとか」


「それはオレの顔を知ってる理由にはならないだろ。顔写真が出回ってるわけじゃあるまいし」


「人に聞いたに決まってるじゃない」


「ふぅん……オレの顔を知ってるのは当時の一年生、その中でも一部の人間だけどな」


「この大学では日本人ってだけで珍しいから、結構みんな話題にしてるのよ。それにタイチってなんだかミステリアスじゃない?」


「ミステリアス?」


「ええ。最近では大学内でほとんど見ないし、いても誰かと仲良くしてる様子はないって聞くし、いつも手袋してるし、いつもイヤホンマイクで誰かと話してるし」


「……お前、オレのストーカーかよ」


「違うわ。アナタの『ファン』よ」


 そう言いながらレジーナは左手をゆっくりと伸ばし、机の上にあるタイチの右手に重ねようとした。

 だがしかし、タイチは素早く右手を手前に引いてそれを回避した。


「……あら?」


「オレに触るな。死ぬぞ」


『タイチ! 余計なことは喋るな!』


「え……それって、どういう意味?」


「そのまんまの意味だ」


 タイチはそう言って席を立ち、レジーナの横を通り過ぎていく。


「待って!」


「…………」


「ねぇタイチ、アタシたちお友達になれないかしら?」


「……お友達?」


「そう、お友達。アタシ、タイチと仲良くなりたいのよ。ダメ?」


「ダメだな」


 短く答え、そのまま返事を聞くこともせずタイチはレジーナを残して講義室から出ていった。







 大学を出て、帰り道。


『タイチ』


「なんだよ。あ、説教はやめてくれよ? あれぐらいはいいじゃんか別に。ただの中二病って思われるだけだって」


『いや、そうじゃない。説教はしたいが、それどころの話じゃない』


「それどころの話じゃない? どういうことだよ?」


『タイチ。キミはさっきの女性についてどう思う?』


「どう思うって……そうだなぁ、『目の毒』って感じだな、あの格好は」


『そういうことじゃない』


「え? んじゃどういうことだよ?」


『……本気で言っているのか?』


 俺は内心ため息をついてから、話を進めた。


『タイチ。結論から言うぞ。おそらくあの女の『背景』は、俺たちのことを相当よく調べている』


「……は?」


『FBIか、CIAか、それともまったく別の組織か……いずれにせよ、今となっては我々に取れる選択肢は限られている』


「いやいやいや……え? なんで? なんでそういう話になるの? ただオレに興味を持った同級生が話し掛けてきたってだけじゃねぇの?」


『タイチ……キミは演技をする能力に関しては天才的な才能があるが、演技を見破る才能に関してはからっきしなようだな』


「おいおい、随分な言い草だな。そりゃオレだってさっきの女は『なんか変だな』程度には思ってたぜ? だけどよ、普通に考えてここでいきなりFBIやらCIAやら出てくるのはおかしくねぇか? 月一回の『食事』の時もそうだけど、普段の生活でも尾行されたり見張られたりしてる様子なんてないじゃん」


『そうだな。だが、忘れてはいないか? 俺たちが『それ』を感知できる範囲は限られていることを』


 初めは十メートルほどだった射程距離は月に一回のソウルスティールを繰り返すごとにどんどん伸びていき、今ではタイチを中心に半径三十メートルは魂を感知できるようになっている。

 だが、逆に言えば『三十メートルしか』感知できないのだ。


「ちょっと待てよ。んじゃつまりオレたちが感知できない射程距離外から監視されてたってことか?」


『そうなるな』


「いや、それだっておかしいだろ。オレたちが射程距離内だったら尾行や監視を感知できるなんてこと自体、そもそも知ってるわけが……」


 タイチはハッと何かに気づいたように息を呑んだ。


「日本の警察……?」


『そこから俺たちの情報が伝わったとしか考えられないな』


「で、でも物的証拠が一切ないのに……」


『そうだな。公式に伝わったものとは考えにくいだろう。俺たちは常識的に考えてありえない存在だ。証拠が一切ない以上、日本の警察がアメリカに情報を渡すとは思えない。自国の恥を晒す上に、信じてもらえたとしても多大な貸しを作るだけでメリットがないからな。推測になるが、正義感溢れる『個人』がアメリカ政府にタイチの情報をリークをしたのかもしれん』


「個人って……」


 タイチは思い当たる人物がいたようで、歯ぎしりをしながらその顔を歪めた。


「空港での、アイツか……!」


『かもしれないな。あの若くて正義感溢れる刑事なら、あるいは口止めされていてもアメリカ政府にタイチの情報をリークしかねない』


「くっ……! んなの予測しようがねぇし、予測できても対策しようがねぇな……!」


『そうだな』


「はぁ…………で? オレはこれからどうすりゃいいんだ?」


『随分と冷静だな。頼もしい限りだ』


「さっき『取れる選択肢は限られてる』って言ってたろ? なら今さら騒いだって意味ねぇし」


『タイチ……成長したな。以前警察にマークされた時とは違い、実に無駄のない合理的な判断だ。素晴らしい』


「だからそういうのはいらないっての。このやりとりが非合理的で無駄だよ。さっさと続きを話してくれ」


『コミュニケーションは大事なのだが……まあいい。それでは次にキミが取るべき行動だが……』


 俺はタイチに今後の計画を話し始めた。

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