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邪神  作者: 霧島樹


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104/110

104「報復」

 燃え盛るナヴァル家を目指して駆けるリオナンドに、問い掛ける。


『これからどうする?』


「残りの聖衛騎士には、死んでもらう。……もう二度と、ナヴァル家に手は出させない」


 リオナンドはそう、暗い声で呟いた。わざわざ死体から鎧などを剝ぎ取り、聖衛騎士に扮した時点で予想はしていたが、やはりそういうことだったらしい。


『そうか。いいと思うぞ。今後も死神として活動するならば、生かしておく利点は何ひとつとしてない。むしろ教会本部の連中も全員、始末するべきだろうな』


「……うん。今回の件に関係ない人たちはともかく、指示をした人たちは生かさないよ。でも今はとりあえず、襲撃してきた聖衛騎士を殲滅しないと」


『そうだな。しかし、ここから先は容易だろう。今のキミは見た目だけなら完全に聖衛騎士だからな』


「簡単に言ってくれるなぁ……」


 リオナンドが苦笑しながら言う。とはいえ、その声色に不安はない。彼は既にソウルスティールを十全に使いこなしているから、こちらとしても心配はしていない。ただ一応、聞くだけは聞いておく。


『俺の助言が必要か?』


「ううん、大丈夫。フェイスさんは見ててくれればいいよ」


 しばらく貴族街を走ると、石塀の向こうに炎と黒煙が立ち昇る光景が見えてきた。火を付けられたナヴァル家の屋敷だ。激しく燃え盛る炎が、すっかり暗くなった夜空を赤く染める。


 リオナンドは駆け足のまま、屋敷の裏門に向けて回り込んだ。そこには数人の聖衛騎士が、ナヴァル家の敷地内を見張るような形で警備に立っていた。鎧姿のリオナンドが小走りで近寄ると、そのうちのひとりが訝しげな様子で問い掛けてくる。


「おい、お前、どこに行っていた? 持ち場を……」


「――死神だ!!」


 リオナンドは大声で叫んだ。その声に、敷地内で燃え盛る屋敷を見張っている聖衛騎士たちも含め、全員が一斉に振り向く。

 その瞬間、彼は屋敷の後方、やや離れた場所にある別邸を指差した。


「死神を発見しました! あの建物です!」


 リオナンドがそう言うと、数秒の間を挟み、数十人の聖衛騎士が別邸に向かって駆けていく。だが、大多数の聖衛騎士は燃え盛る屋敷を囲んでおり、その場から離れない。


 彼らは死神が屋敷から出てくるところを見ていないし、別邸に向かえという命令も受けていないだろうから当然だ。今さっき動いた聖衛騎士たちは、様子を見に行く命令を受けたか、自分で動ける裁量があるかどちらかだろう。


「おいお前、今の話は本当か? 死神が入った屋敷は全方位を漏れなく包囲している。この状況で見逃すとは思えんが……」


 聖衛騎士のひとりがリオナンドに近づいて話し掛けてくる。

 そのタイミングに合わせてリオナンドは意識を集中し、別邸に向かった連中のうち、一番手前の聖衛騎士に狙いを定めてソウルスティールを発動した。


 狙われた聖衛騎士を瞬時にして不可視の力が襲い、その魂を奪い取る。

 一拍置いて、魂を奪われた聖衛騎士はぐらりと傾き倒れた。

 それを見ていた指揮官格であろう聖衛騎士が、大声で号令を掛ける。


「死神はあそこだ! 囲め、囲めぇ!!」


 続けて、指揮官が各部隊に細かい指示を出していくと、あっという間に数百の聖衛騎士が別邸を取り囲んだ。そんな中、リオナンドは何食わぬ顔で正面を囲む部隊の最後尾に移動する。

 そして今度は別邸に近い聖衛騎士から順番に、手当たり次第ソウルスティールでその魂を奪っていった。


「突入! 突入しろ! 距離を取らせず近距離で仕留めるんだ!!」


 部下が次々やられていくのを見て焦ったのか、指揮官が早々に突入命令を出す。別邸に向けて全方位から、聖衛騎士が突入していく。扉を蹴破り、窓を割って、まるで雪崩のように流れ込んでいくその様は圧巻だった。


 もしリオナンドが中にいたら、ひとたまりもなかっただろう。狭い別邸内では屋敷のホールでシャンデリアに飛び乗った時のような、距離を活かした一方的な攻撃はできないからだ。

 しかし、リオナンドは中にいない。


「うっ……!」

「おい、やられたのか!?」

「くそ、死神め、どこに……ぐっ……!?」

「二階は誰もいないぞ!」

「仲間がやられてる! 天井裏に隠れてるんじゃ……がぁっ……!?」


 リオナンドは別邸の外を取り囲む連中に紛れ、ひたすら中の聖衛騎士たちを片付けていた。棒立ちで意識を集中しているからか、ソウルスティールは最速理論値を下回ることなく、毎秒ごとに敵の数を減らしていく。


 数分後。

 別邸に突入したまま戻ることなく、みるみるうちに減っていく部下たちを見て、指揮官の聖衛騎士がブツブツと呟き始めた。


「おかしい……これだけの人数で探して、見つからないはずがない。だがあの忌まわしき力は、遠く離れた場所からは使えん。死神は間違いなく近くにいる。近くに……」


 指揮官の呟きがピタリと止まる。

 そして何かに気がついたように声を上げた。


「待て……最初に死神を見つけたと叫んだ奴はどいつだ! そいつが──うっ!?」


 直後、彼は小さな呻き声を上げ、その場に倒れ込んだ。

 リオナンドは指揮官に駆け寄る聖衛騎士たちを横目で見ながら、小さく息を吐く。


 その後も、仲間の中に死神が紛れ込んでいると気がついた聖衛騎士はいた。しかし気がついたが最後、リオナンドのソウルスティールによって倒れることになる。


 終盤には確信を持った聖衛騎士の叫びにより、その場にいた全員が姿を偽った死神の存在を知ったが、もはやその頃には鎧を脱ぎ捨てたリオナンドを追い詰められるだけの人数は揃っていなかった。


 こうして、最初に街中で遭遇した三百以上と合わせ、総勢千を超える聖衛騎士団は一日と経たぬうちに、死神の手によって壊滅したのである。




 〇




 襲撃してきた聖衛騎士団を壊滅させた後。リオナンドはしばらくの間、生き残った聖衛騎士を探し回って始末することに専念した。

 そして近場にいる聖衛騎士は片付けたと判断した頃、商隊の護衛に紛れる形で、聖衛騎士団の本部があるアポスオリ聖国の聖都、ルヴァンシアへと向かう。


 聖都ルヴァンシアについたリオナンドは、商隊の護衛をしていた間に信用を得た商人から、教会本部に出入りしている商家を紹介してもらった。

 そこで偽の経歴と、俺の偉人同化で得た知識を使い、自らの有能性をアピールしたリオナンドは、紹介された商家に護衛兼、商人見習いとして雇われることに成功する。

 運搬や商品の整理、時には荷の受け取りに同行するなど、仕事は多岐に渡ったが、それが却って自然な形で教会関係者と接触する機会を生み出していく。


 教会本部に出入りする商家は限られており、その関係者として信用を得るには、言葉選びひとつとっても細心の注意が必要だった。だがリオナンドは抜け目なく振る舞い、必要な時には少しばかり芝居がかった態度すら見せて、次第に『教会に顔の利く若手』として認知され始めていた。元々、地方とはいえ教会に属していたリオナンドである。教会関係者から気に入られる振る舞いは熟知していた。


 情報収集の結果、教会本部は死神の報復を恐れ、末端の聖衛騎士でさえリオナンドの手配書が配られていると判明したのだが、この世界には写真など存在しない。それにリオナンドと同じ金髪碧眼という特徴の人物は、聖都にも掃いて捨てるほどいる。


 そういった事情もあってか、リオナンドの素性がバレることはなかった。

 単身で千を超える聖衛騎士を壊滅させた死神だ、来るなら真正面から派手に襲撃してくると思ったのかもしれない。実際は慎重を期して、教会本部お抱えの商家で働きながら情報を集めていたのだが。


 リオナンドは教会本部に出入りする聖騎士や、聖衛騎士の顔ぶれを把握し、記録を密かに取り続けた。必殺であったはずのソウルスティールが効かないオベライという前例があった以上、油断する余地はない。


 夜には商家の関係者が住む社宅の一室で身を休めつつ、たまに俺との会話で情報を整理する。現在この大陸で戦争の気配はなく、死神殺しを指示した人間の始末を急ぐ必要もない。

 リオナンドは今後の旅に必要な資金を稼ぎつつ、着実に情報収集を進めていった。

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