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001「狭間」
声が聞こえる。
「……あくまでお試し、一時的な処置のつもりだったが、思ったより悪くないな」
燕尾服にシルクハットを被った男が、背中を向けて喋っている。
「であればまだ、しばらくの間は稼働させておくか。いずれにせよ結果は変わらん。そうだな、最低限……おっと、お目覚めかな?」
男がこちらを振り向く。
その顔には目も、鼻も、口も――何もついていなかった。
「ふむ……やはり経過は良好そうだ。安定している。これであれば問題はないだろう」
男がいつの間にか持っていたステッキをこちらに向ける。
「さぁ、行きなさい。なに、心配する必要はない。次の宿主にはちゃんと情報を与えておく」
意識が遠く、薄れていく。
「それでは、いつかまた会おう――フェイス」