3 日常の変化
翌日
秋晴れの澄んだ空に鳴り響く昼休み始まりの合図。
教科書、ノートを机の中に入れ、給食当番がやってくるまでに手でも洗いに行こうと
席を立とうとする。
すると、
「おーい! 花咲ー!」
昨日の人の話を全く聞かない男、遠野がやってきた。
クラスメート達は一斉に僕か遠野に注目する。
僕は、その視線に耐えられなくて遠野がいる扉まで早歩きで向かい
遠野の腕を乱雑に掴んで人気のない美術室前の廊下目指し、無言で歩く。
その際遠野が大声で
「おい花咲ー。何だよ昨日会ったのにもう寂しかったのかー」
とか変な発言をするので
遠野の腕を掴む力を強くさせる。
これを聞いたら誰だって勘違いするだろ!
やっとの事で美術室前の廊下に辿り着いた。
何時もより距離が長く感じたなー。
僕は乱雑に遠野の腕を放し
「で、何だよ」
「何怒ってんの?」
「別に怒ってなんか…」
遠野と顔を合わせるのが何だか居心地悪くて、壁に背を預け、暗い廊下に差し込む窓を見る。
「昨日ちゃんと話聞いてやれなかったから、今日の放課後
どっかで集まろうって言いに来たんだけどな…」
僕がそっぽを向いてしまったから、遠野は困った声色でポツリと言う。
「放課後ここの中の教室で話し合おうぜ!
じゃあな」
遠野は 美術室を指で指し
相変わらず 人の意見なんて聞きやしない。
遠野の足音がだんだん小さくなると僕は彼が歩いて行った方向をこっそり横目で見た。
だけど 遠野の姿はもうなかった。
誰が 放課後行くもんか
そんな風に思いながらも
給食前だったことを思い出した僕は 教室に急いだ。
教室に戻ると 配膳はとっくに終わっていて まだ取りに行っていない僕は慌てる。
だけど 同じ班の人達が気を利かせて 代わりに運んでくれたみたいだ。
僕のクラスでは 席ごとに4人グループを作り 給食の時なんかは向かい合わせになって食事をする、と言う先生が決めた約束事がある。
何でも 連帯責任を持つことが 一番結束力が生まれるとかなんとか 尤もらしいことを言ってたけど
あの担任は 口を開けば青春、青春。
生徒のアンの噂(くっついた、別れたとか)が大好きだから、きっと 僕らの様子を見て 楽しんでいるに違いない。
全く迷惑だ。
と思っていたが 今回はこの班のメンバーに感謝して、ちょびっとだけ 先生にも感謝しよう。
僕が教室に入ると 班の人が気付いて 近づいきた。
「花咲君、用事があったみたいなんで運んどいたよ」
後ろの席の 大葉さんが話しかけると
「早く食べよう!」
と 隣の席 前田さん。
「ほらほらっ、」
後ろから背中を押し 席へと歩かせるのは 斜め後ろの高田君。
いつもはこんなに話さないのに 一体どうしたんだ?
状況が掴めない僕だけが キョロキョロと教室内を見回す。
「それじゃ、いただきます」
教卓前で待機していた給食委員は 僕たちの班が席に着いたのを確認すると いつものように食べ始めの号令をする。
すると 給食の配膳場所である前のドアの入り口に おかわり目当ての男子がデザート争奪戦を繰り広げ始めた。
ぼーっとそれを見る僕に高田君が
「花咲ー、お前って見た目とは違うんだな」
「え?」
「ちょっと! 失礼じゃない」
前田さんが高田君の方を軽く睨む。
「いや、あーその
花咲って、取っ付きにくいって言うか、話しかけ辛いオーラだったから。
でも、さっきの友達見たら、案外花咲って良い奴なのかなーって」
「あー、それ分かる、分かる!」
言葉を選びながら話す高田は 僕に上手く伝わるか心配だったみたいだけど 大葉さんの頷きにより 安堵の表情だ。
さっきの友達って 遠野だよな…
まぁ 確かに
髪染め ダルダルな制服の生徒と 片や 眼鏡にキチッとした生徒の生徒 が隣仲良く歩いてたら 誰だってそのギャップに驚くだろうし。
ヤンキーととても優しい生徒会長が一緒に仲良く歩いていたら
ヤンキーって実は…なんて思ってしまうだろうし。
まぁ 逆も考えられるけど。
僕と遠野って それくらい
普段だったら 交流しない人間なのだろう。
「俺さ、花咲の友達が前に木から降りれなくなった子猫を助けているの見たことがあるんだ」
高田君は話を続ける
いやいや 遠野は友達でも何でもないから!
「そう言えば、あの人昨日重い荷物を持ったお婆さんを助けてたわ」
高田君の話で思い出した前田さんが頷く。
ベタな優しい奴だな、遠野って。
バカだな、とか偉いとかではなく、呆れに近い
見た目に反して、彼は真っ直ぐな心を持っている。