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夢と少女と旅日記  作者: タチバナ
第2話
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2.お城のパーティ


 こうして、私は荘厳なるお城に招かれることになりました。どうやら大きなパーティがこのお城で催されるようです。きっと立派な装飾がされた部屋の中で美味しい食事を食べられるに違いありません。ああ、私はなんて幸せ者なんでしょうか。こんなのまるで夢みたい!

「いや……、夢なんですけどね、ネルさん」

「あ、はい」

 これもある意味、夢オチなんでしょうか。まあ、最初から分かってて言ってたんですけど。

 メシティカさん(――ちょっと暗い雰囲気のメイドさんでしたね)の話では、別にティアナさんはお城のお姫様という訳ではありませんでしたし、看板にはお城でパーティが開催されると書いてあるだけで私たちは別に招かれてませんでしたし。ティアナさんが大富豪の娘、――だったというのは確かなようですが。

 何故“だった”という過去形になるかと言えば、フローラル家は事業に失敗し、没落してしまったからです。どうやらフローラル家は貿易業を営んでいたようですが、正直他人事だとは思えません。

 しかし、ティアナさんが夢魔にとりつかれるほどに心が弱ってしまった理由はそれだけではないようです。メシティカさんによると、ティアナさんはフローラル家の没落により、友達の輪から孤立してしまったとのことでした。

 ティアナさんが友達だと思っていたみんなは、ティアナさんにいつも高価なプレゼントや食事を奢るように要求していたのだそうです。しかし、ティアナさんは友達だからと、嫌な顔一つせずにその要求に応えていたのです。誰もがみんな、ティアナさんのことをいい金づるだとしか思っていなかったというのに。

 故に、その関係はフローラル家の没落により崩壊しました。みんなが求めていたのは“栄光あるフローラル家の娘であるティアナさん”であって、“没落したフローラル家の娘であるティアナさん”ではなかったのです。

 そのときのティアナさんのショックは、私には理解できます。でも、だからと言って、こんな夢の世界に引きこもっていたって仕方がありません。現実逃避をしたって何も生み出せはしませんから、こんな悪夢からは早く解放してあげないといけないと私は思いました。

 というか、なんか妄想が膨らみすぎて、大富豪の屋敷じゃなくてお城になってますし。ショックを受けたが故の反動なのも分かりますけど、せめてもう一度過去を振り返ってみて欲しかったです。

「でも、今回はどこにエターナルドリーマーと夢魔がいるのかは一目瞭然ですね」

「まあ、確かに。この立派なお城の中だと考えるのが自然でしょう。問題はどうやって中に入るかですが、正面から行って入れるでしょうかね。とりあえず様子を窺ってみましょうか」

 私はそう言って、看板の案内通りにお城の正門前に向かいました。すると、ちょうど一人の男性がお城に入ろうと門番と話をしているところでした。

「パーティの招待状を確認させていただきます。…………はい、間違いありませんね。どうぞ、お通りください」

 その男性は門番に封筒サイズの紙を見せて、城の中へと入っていきました。多分招待状を見せていたのでしょう。そして、お城に入るには招待状が必要だということを知った私たちは、少し悩みました。

「どうしましょう、ネルさん。私たち、招待状なんて持ってませんよ? このままじゃ門前払いになってしまうんじゃ……」

「うーん、確かに困りましたね。別のところから忍び込むことも不可能ではないでしょうけど、怪しまれないために招待客として中に入りたいところですね。招待状を忘れてしまっただけだと言って、門番を騙せないでしょうか」

「え。そんなことできますか」

「あはは、任せてくださいよ。これでも舌先三寸で誤魔化すのは得意ですし。門番騙すくらいならちょろいです」

 私にそれだけの自信があったのは事実です。元々お喋りが好きでしたし、旅商人になってからは更に口先で人を騙すことが得意になりました。実際、詐欺紛いのことをやったこともあります。まあ、商売の世界では騙される方が悪いんですが。

 だけど、今回はそれには及びませんでした。私が意気揚々と門番に話しかけようとしたとき、どこからか1羽の鳩が封筒をくわえて、私たちのところに飛んできて目の前でその封筒を落としました。伝書鳩のようなものだと思いますが、その封筒の中身はお城のパーティの招待状でした。しかも、ご丁寧に2名分の。

「招待状、……ですよね。一体どうして……」

「んー、まあ気にしない気にしない。夢なんだから、こういうご都合主義があったっていいじゃないですか。これで私もエメラルドさんも堂々と胸を張って正門から入れますよ」

「うーん、私は何かの罠じゃないかと思えてきたんですが、悩んでも仕方ありませんよね。私たちは前に進むしかありません!」

「ええ、その意気です! 私たちの目は前に進めるようについてるんですしね!」

 こうして、私たちは門番に招待状を見せ、お城の中へと案内されました。そして、また看板があったので、それに従いパーティ会場である大広間に向かうことにしました。城の内部はやはり豪華な装飾が細かくされていて、もしかしたらモチーフとなったお城が実在するんじゃないかと思いました。

 そして、大広間の前の扉には奇妙な男性が立っていました。男性はスーツ姿で、シルクハットを被り、杖を突いていました。そこまではまだいいのですが、男性の顔はどう見ても人間ではありませんでした。

 目は白目で、眉毛も睫毛もなく、鼻は木の枝のように長く伸びていて、同様に耳もエルフのように長く鋭く尖っていました。顔のしわは老人のように多く、白い口ひげとあごひげもあり、身長は子供のように低かったです。

 つまり、歳を取ったゴブリンをイメージしてくれればいいかと思いますが、さすがにこれは夢の中とは言っても違和感がありました。彼は明らかに異形の者だったのです。

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