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    禁忌術者 ③


翌日、ファリスは例の少女と約束した裏路地の花畑へ向かっていた。

ギルドの方には一応報告をしておいたが、具体的にはまだ明かしていない。

たまたまそれらしい人物を見たから、もう少し詳細な情報はないかとテルに訪ねたところ、返ってきた答えは知らないの一言。

あの男の事だ、無意味に隠している可能性もあると思い問い詰めた所、どうやら政府側は協力を要請して起きながら禁忌術者の情報はほぼ開かしてくれないのだという。


結局のところ、綺麗な金髪をした少女という情報以外に新たな情報はなかった。

流石にこれだけの情報では探し出す事は難しい、現に今は様々な目撃情報が集められているがどれもバラバラな人物であり、ほとんどが無関係である事が確認されていた。

昨日のあの子も、恐らくはただの勘違いの可能性は高い。

しかし、だからと言って約束を放っておくのも気が引ける。

どうせ二度と逢う事もないと約束をすっぽかす事も出来た、来週には西区から東区への異動は決まっているしあの少女と逢うはずもない。

だが、万が一ギルドの信用問題に繋がったりでもしたら問題でもあるし、何よりもあの子を何故か放っておくことが出来ないと感じた。

裏路地の花壇へ辿り着くと、芝生に何やら薄汚れた布がポツンと置かれている。

誰かがゴミでも捨てたのかと思いきや、布は突如ゴソゴソと動きだしファリスは思わず身構えた。


「ふわぁ~……あぇ? お姉さんが来てるっ!」


布の塊の正体は、どうやら昨日逢った少女だったようだ。

大きな欠伸をして眠そうな目をこすらせている、ここで寝てファリスの事を待っていたのだろう。

よくよく考えれば少女は確か薄汚い黒いローブを身に纏っていたはず、しかし丸まって寝ていたせいでそれが人だという発想にまでは至らなかった。

しかし、本当にここで待っているとは正直驚きだった。


「ねぇねぇ、私欲しいのがあるの」


早速有無も言わさず、少女は目をキラキラとさせながらファリスにおねだりをする。

また例のパンでも食べたいのだろうかと考えていると、少女は不意にグイッとファリスの腕を引っ張っていく。


「あっちっ!」


ファリスは返事をする間もなく連れて行かれると、あっという間に商店街の大通りへ出る。

人の流れに逆らいながら、少女は楽しそうにグイグイ突き進んでいき、ファリスは少女を見失わないように腕をギュッと掴んだ。


「手、繋ぎたいの?」


少女は不思議そうにファリスにそう告げるが、別にそんなつもりはない。

ファリスは無視をしたが、少女はニッコリと笑ってギュッと手を握った。

少女の手は弱々しくて、冷たかった。


「ついたよ」


少女がファリスを連れて行った先は、洋服屋だった。

何やら派手なデザインの服がたくさん置いてある、こんなところへ連れ出して何をする気なのだろうか。

ファリスはファッション等にはほとんど興味がなく、丈夫で動きやすいという基準で選んでいるだけだ。

当然ながら、このような場所にはまるで縁がない。

グイグイと少女に腕を引っ張られ、店内へ連れ込まれていくと、奥には少女向けの可愛いデザインの服がたくさん置いてある。

少女は目をキラキラとさせながら、あれやこれやと服を手に取っていた。


「ねぇねぇ、どれが私に似合ってると思う?」


気に入った服を片っ端からかき集めてきた少女は、山積みになった服をファリスへと手渡しする。

こんな物渡されても困るが、あのキラキラとさせている瞳を見てしまうと、中々口には出せない。

仕方なくファリスは山積みになった服から、一つ一つ確認していく。

とりあえず、少女に似合いそうな色を直感的に選んで無言で手渡した。


「お姉さんはこれがいいと思うの? わかった、着てみるね」


少女は嬉しそうに服を受け取ると、小走りで試着室へと向かって走っていく。

流石に全部買えと言われたらたまったもんじゃないので、残りの服はそれぞれ元の場所へと戻した。

しかし、一体何のつもりだろうか。

考えていれば全く面識がない初対面だというのに、いきなり服をねだるとは。

いくら何でも図々しくはないかと疑問に感じる。


「見て見てお姉さん、じゃーんっ!」


あっという間に着替えを終えた少女は、真っ黒なシャツと赤を中心としたチェック柄のスカート。

シャツのデザインには少女のイメージとはかけ離れたドクロのマークが描かれていた。

最初に黒いローブを身に纏っていたからと黒を選んだのはいいが、デザインには全く気付かなかった。


「えへへ、似合う?」


「……ああ」


少女は満面の笑みを浮かべていた。

どうやら本人は満足しているようだ。

何か悪い事をしたな、とファリスは罪悪感を抱いてしまう。


「じゃあ、次はね―――」


少女は店の服を着たまま小走りで出て行こうとし始めると、ファリスは慌てて少女を引き止めた。


「支払いはどうした?」


「あ、そっか……お金、いるんだっけ」


少女はシュンとなって、俯いた。

やはり文無しで服屋へ訪れていたようだ。

仕方ない、とファリスは小袋から金貨を数枚取り出して少女に渡す。


「……いいの?」


「どうせ生活費以外には使っていない、くれてやる」


「ありがと、お姉さんっ!」


少女は嬉しそうに金貨を受け取ると、パタパタと駆け足で店員の元へと向かっていく。

何故こんな買い物に付き添っているのだろうと、思わずファリスはため息をついた。









服を買って満足した少女は、裏路地の花壇へ戻る前に昨日のパン屋へと立ち寄る。

当然、無一文な少女はパンすら買えなかったので仕方なくファリスが二人分のパンを購入した。


「おいしいねっ!」


「……ああ」


嬉しそうにパンを頬張る無邪気な少女を見ると、とてもじゃないが禁忌術者には見えない。

見れば見る程、自分がこの少女を疑っているのがバカバカしく感じてくる。

この子は無関係だ、と決めつけたくはなるが……まだ、違和感は完全に消えたわけではなかった。


「どうしたの……?」


少女は何処か怯えながらファリスに訪ねてくる。

どうやら無意識のうちに少女を睨み付けてしまい、怯えさせてしまったようだ。

ファリスは目を逸らすと、流石に考えすぎなのかと今更のように思い始めてくる。


「ねぇねぇ、私お姉さんの事を知りたい。 お姉さんの事、教えて?」


「あまり、語ってやれる事はないぞ」


「何でもいいよ……あ、そうだ。 家族の話っ!」


家族、ファリスはその言葉を聞いて思わず肩をすくめた。

ファリスは過去の記憶を失っている。

自分の両親はどんな人だったのか、兄弟がいたのかどうかすら定かではない。


「もしかして、死んじゃったの?」


少女は寂しそうな顔をして、ファリスに聞いてきた。

わからない、死んでいるのか生きているのかどうかすら。

過去を思い出せない、空っぽな自分。

何て惨めで寂しいのだろう。

ファリスはただ、口を堅く閉ざすだけだった。


「私もその……もうずっといないの、お父さんとお母さんも。 その……えっと、だから……一緒、だね」


少女なりに気を使ってくれたのか、ファリスに笑ってそう告げた。

だが、ファリスは決して笑わなかった。

すると、少女はピョンッとファリスの膝の上へと飛び乗ってくる。

えへへ、と無邪気な笑いを浮かべながら目を合わせた。


「大丈夫、私がいるよ。 寂しくないよ?」


少女が必死でファリスを慰めようとしてくれるのが伝ってくる。

その優しさが返って、ファリスには辛かった。

この子は両親を失い、こんな辛い世界をたった一人で生きてきたのだろう。

ファリスよりもよほど辛い思いをしているはずなのに、強く逞しくさえ感じた。


「今日は、帰るね」


少女は再びピョンと飛び上がると、無邪気な笑顔を見せる。

本来なら剣技を見せる約束をしていたはずだが、どうやら気を遣わせてしまったようだ。


「また明日ね、バイバイ」


少女は手を大きく振って、小走りで花壇を立ち去っていこうとする。

純粋な心を持つ少女に、不思議とファリスの心は癒されていた。

また、ここにいればあの子と逢えるだろうかと……少女の姿を見送っていると、ふと何か違和感に気づく。

少女には家族はいない、両親がいないと言っていた。

それが最近の事なのかはわからない、しかし華奢な体つきをしていると言えど、食事はしっかりと摂れているように見える。

そうなるとこの街で一人で生きていけるだけの力があるはずなのだが、彼女は世間知らずだ。

セティアシティはあんな少女が一人で生きていける程、豊かな街ではない。

ファリス自身も、ギルドという仕事につけてやっと食っていけているというのに。

なら、彼女はどうやって今まで生きてきたというのか?


先程までは、ただの思い過ごしかもしれない。

勘違いかもしれないと思っていた。

だが、ファリスの勘は核心へと変わった。


「止まれっ!」


ファリスの怒声にビクッとし、少女は思わず足を止める。

しかし、ファリスは構わず少女の後ろ姿を睨み付けていた。


「お姉さん、目が怖いよ……?」


少女は目を潤ませながら、ファリスの事を見つめる。

しかし、今のファリスにはもはやそんなものは通用しない。

むしろファリスはニヤリと、不敵な笑みさえも浮かべていた。


「なるほどな、そうやってお前はこの街を生きてきたのか」


刀の柄を握りしめながら、ファリスは少女に向かって告げる。

その瞬間、少女の表情が一変した。


「―――ふぅん? 君、気付くの早いね」


少女がジャラリと音を立てながら、右手に隠し持っていた小袋を見せた。

あれは、ファリスが所持していた金貨の小袋だ。


「私から騙し取った分はくれてやろう。 だが、盗んだ金貨だけは大人しく返してもらおうか」


「ワーカー風情が偉そうな事言わないでよ。 何が大道芸人よ、見え見えなウソついちゃってさぁ? こっちは笑い堪えるの大変だったんだから」


「大人しく金貨だけでも返せば、見逃してやる」


「ハァ? 誰がアンタなんかに返すのよ、これはもうアタシのもの、悔しかったら取り返して見なさいよ」


少女は先程とは打って変わって、鋭い目付きでファリスを睨み返していた。

恐らくあれが、この少女の本当の姿なのだろう。

幼い言動と外見で人を騙すなり、無防備に外で寝ているワーカーから財布を抜き取ったりして過ごしてきたに違いない。

しかし、彼女がただの『ドロボウ』であればいいのだが、どうもファリスは彼女から何かを感じている。

最初は彼女の持つ偽りの姿に対する違和感だと思っていたが、どうやら違うようだ。


「悪いが、一般人を斬る趣味はない。 大人しく渡した方が身のためだ」


ファリスは構えを取って、少女へと告げる。

勿論、あくまでも脅すだけのつもりではあるが、少女はそれをわかっているのか動揺を見せていなかった。

むしろ、少女は口元を緩めて狂ったかのように笑い出す。


「アハハ、アッハッハッハッハッハッハァッ!!」


「何がおかしい?」


「ワーカーって本当、バカばっかり。 どーせキミも探していたんでしょう……アタシの事をさ」


「どういう意味だ――」


ファリスが問い出そうとした瞬間、少女の右手からバチッと青白い光が走る。

まさか、あの少女は――

刹那、上空からカッと真っ白な閃光が走った。

ファリスが全力で真横へ転がり込むと、耳をつんざくような轟音がビリビリと響き渡った。

自然ではない、意図的に作り出された雷。

ファリスが立っていた位置は、地面が抉られたかのように砕かれ、焦げ臭い臭いが広がっていた。


「今すぐ殺してあげるよ、お姉さんッ!」


「……斬る」


相手が禁忌術者なのであれば、遠慮はいらない。

ファリスは柄を握りしめたまま、背を低くして走り出す。


「ねぇ、避けてごらんよ……アタシの雷をさぁっ!」


少女の右手が再度、バチンッと青白い光を放つ。

あれが禁忌術者の使う『魔法』、と呼ばれる力なのか。

一体どういう仕組みで発動しているかわからないが、少なくとも何か動作を挟む必要がある。

ファリスは冷静に相手を分析していると、ふと目の前に真っ白な光が炸裂する。

今度は、正面からの一撃―――

ズガァァァァンッ! 爆発音にも似た、凄まじい轟音が鳴り響く。

爆発に紛れて暴風が引き起こされ、辺りに砂埃が舞いあがる。

二人の姿は、完全に見えなくなった。


「悪く思わないで、アタシはこんなところで捕まるわけには行かない。 絶対に、この街から脱出してやるんだから」


砂埃で周囲は何も見えないが、もはや確認するまでもなく決着はついているだろう。

名も無きワーカーが魔法という未知なる力に敵うはずがない、ファリスは魔法に成す術もなく呆気なく死んでいった。

少女はそう確信していた。

だが―――


「魔法、か。 言う程、大したことはないな」


「なっ――ッ!?」


煙の中から聞こえてきたファリスの声に、少女は思わず驚愕した。

ガァンッ! 目に見えないところから、少女は一撃を受けて床へと激しく叩き付けられる。

鞘で首元を押さえつけられると、煙の中から不気味に光る赤い瞳が視界に飛び込んだ。

まるで得体の知れないバケモノに睨まれているようで、少女は背筋をゾクッとさせて怯えた。


「……アンタ、何をしたの?」


「さあな、私は魔法という力をよくわからない。 しかし、万能の力ではなかったようだな」


「そんなはず、ないわ。 アタシの魔法が、アンタなんかに負けるものかっ!」


「だが、事実だ。 私はこの刀で、お前の雷撃を掻き消した」


「――な、そ、そんなっ!? 嘘よ……有り得ないわっ!!」


魔法の力をかき消す、そんな事は有り得ない。

政府の人間によって魔法の力を制御される事はあっても、発動された魔法をかき消された事は……少なくとも少女の中では一度もない事だった。

魔法という技術が封印されたこの世界で、未だに魔法に対抗できるだけの力を持っている者がいるという事実を、受け入れることが出来なかった。


「さあどうする、この状態では魔法を使う事もできまい。 お前が少しでも怪しい動作を見せれば、私はお前より先に首を落とす事が出来るぞ」


「……いっそ、そうしなさいよ」


ファリスは少女を脅すように、鋭い目付きで睨み付けるが、少女は目を逸らしてそう呟く。

何処か悲しげな表情を見せる彼女の瞳からは、うっすらと涙が浮かんでいた。


「殺す気がないなら、さっさとアタシを政府に渡すなり何なりしなさいよ。 どーせアンタ達にとってアタシは金稼ぎの道具でしかないわけでしょ?

政府に捕まった禁忌術者が、皆どうなっているか知っているのっ!?」


「ああ、知っている」


「何でよ、どうしてなのっ!? アタシは何もしていない、あいつらに勝手に連れて来られて、いきなり死ねだなんておかしいじゃないっ!?

アンタも同類よ、自分が儲かればアタシの命なんてどうでもいい、そう思っているんでしょっ!?」


「……その通り、だ」


「殺しなさいよ……私を殺しなさいよっ! 政府の奴らは喜んでくれるわよ、処刑する手間が省けたってっ!

きっと褒美の一つや二つ貰えるわ。 その代わり、アタシ一生アンタを恨んでやるからっ! このまま殺さなかったとしても、アンタを呪い殺してやるんだからっ!!」


少女は泣き叫びながら、ファリスに訴え続けた。

ただ、魔法という力が使えるだけで禁忌術者と指定され、理不尽に国から殺される人生。

彼女は理不尽な死から逃れる為に、決死の思いで政府から逃げ出してきたのだろう。

ここで少女を政府の元へ返せば、間違いなくこの子は死ぬ。

しかし、だからと言ってこのまま逃がしたとしても……政府に捕まるのは時間の問題であろう。

今、目の前でたった一人の……罪のない少女が死の淵に立たされていた。

だが、所詮自分には関係ない事。

少女が死のうが何をしようが、ファリスには関係ない。


「いたぞっ!」


「やはり禁忌術者かっ!?」


「そこの女、ご苦労だったな。 後は我々でその子を引き受けよう」


気が付けば周囲には、騎士団が集まっていた。

恐らく政府の命令で西区で禁忌術者、つまりこの少女を探していたのだろう。

少女はもう、何も語らない。

抵抗する気力もなくなったのか、目を閉じたまま身体を小さく震わせていた。

あれだけ強気に吠え続けていた少女が、こんなにも身体を震えさせて怯えている―――

ファリスは、静かに立ち上がり少女を解放した。


「……逃げろ」


「―――え?」


小さくファリスがそう呟くと、少女は思わずキョトンとしていた。

構わずに、ファリスは刀を握りしめて騎士団をギロリと睨み付ける。


「何のつもりだ、貴様?」


「お前達こそ、この子を裁く権利があるのか?」


「貴様、わかっているのか? その子は禁忌術者なのだぞっ!?」


「世界は魔法によって一度滅びかけた、魔法はこの世界にとって危険な力、存在してはいけない力だ」


「それがどうした、魔法など大した力ではない。 この子に、世界を滅ぼすだけの力はない」


「何っ!?」


「貴様っ!!」


騎士団は一斉に武器を構えて、ファリスへと向ける。

だが、ファリスは一切動じなかった。

それよりも、理不尽に罪無き人々の命を奪い続けてきた政府に、怒りという感情を抱いていた。

不思議だった、ファリスは今までここまで感情的になった事はない。

しかし、この少女と出会った事により……ファリスの中で、何かが芽生えた。


「何をしているの? アンタ、バカじゃないのっ!?」


「お前に言われる筋合いはない、もう少し素直になったらどうだ?」


「アタシは、アンタを騙していたのよ? アンタもう少しで、文無しになるとこだったじゃない……それなのに、どうして?」


「例え偽りの姿だったとしても、お前に情を抱いてしまったようだな」


「……バカよ、アンタどうかしているわっ!」


「吠えている暇があれば、さっさと逃げる事だな。 悪いが周囲に気を配っている余裕はない、お前を巻き添えにしても責任は取らん」


「ちょっと、アンタ――」


ファリスはそれだけ伝えると、ゆっくりと騎士団に向かって歩み始める。

ファリスの放つプレッシャーに押し負けているのか、騎士団は弱腰で後退りをしてしまう。


「貴様、これは国に対する反逆だぞっ! わかっているのかっ!?」


「ワ、ワーカー風情が無事でいられると思うなよ?」


「……斬るッ!」


問答無用、と言わんばかりにファリスは黒き刀を抜刀した。

強烈な風圧が引き起こされると同時に、周囲の騎士団が一斉に宙へと舞い上がる。

鮮血が舞い上がり、周囲に血の雨が降り注ぐ。

ファリスの身体は血で塗られて行くと、何事もなかったかのように黒き刀を鞘へと戻す。


「あ……ああ……―――」


まだ逃げていなかった少女は、自らに降り注いだ生暖かい血を両目で見つめながら、震えていた。

すると、血を見たショックか、或いは疲れが襲い掛かったのか知らないが、少女は意識を失いその場で倒れてしまう。


「……すまない」


ファリスは一言だけ謝ると、少女の身体を優しく抱き上げた。

少し前まで綺麗な色をしていた花達が、今は血塗られて真っ赤に染められている。

すっかり変わり果ててしまった光景を目にし、もう二度とここには訪れないだろうと別れを告げ、ファリスはその場を立ち去った。


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