↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/28

    交差する運命 ②

東区発の馬車に乗ってゆらゆらと身体を揺らされながら約半日かけて二人は西区へ辿り着いた。

既に日が沈んでいた事もあり、宿が取れるかどうか不安ではあったが、どうにか野宿は避けることが出来た。


「はぁ、いくら護衛の為と言えどせめて部屋ぐらい分ける配慮をしてほしかったのですが」


「やれやれ、君に合意はとったはずだけどね。

それに、部屋は一つしか空いてなかったし、君だって野宿よりはマシと言っただろう?」


「わかってます、それでも男の人と同じ部屋というのはいい気分ではありません」


「まぁ、僕はただの置物とでも思ってくれればいいさ」


エリーの言っている事はわからなくもないが、結局信用されていないんだなと思うと深くため息をつく。

ベッドは二つあるし、カーテンで仕切る事もできる。

それなりに気は使っているはずだけど、それでもご不満のようだ。


ディアは改めて窓の外を見るが、既に深夜にも関わらず騎士団が巡回している姿が目に入る。

深夜の巡回自体は珍しい事ではなく、騎士団の仕事の一つではあるが、問題は時期だ。

東区では騎士団は中央区の事件で追われていて、今はほとんど騎士団は東区に姿を見せていない。

にも関わらず、西区には騎士団の姿をよく見かけるのだ。


「何をしているのですか?」


「一応、警戒しておかないとね」


偽者と言えど、レッド・プリズナーを自由にしてしまったのはディア自身のミスでもある。

せめてエリーの安全だけは守ろうと彼なりに努力をしているつもりだ。

エリーもそれを理解したのか、一言おやすみなさいと告げるとそのままベッドで横になった。


ふと、あまり思い出したくない出来事がディアの頭を過った。

そもそも事件の八端となったのは、西区のワーカーと依頼がバッティングした事から始まっている。

ディアの前に姿を現した赤眼の剣士、噂通りとてつもない剣士だった。

彼女はディアと同じムラクモ流の使い手だ、ディアが知る限りムラクモ流を扱う事が出来るのは師匠と自分の二人だけだ。


彼女が何者なのかはわからない、ディアにとって赤眼の剣士は越えなければいけない存在となっていた。

剣の腕に相当自信はあったし、ムラクモ流を取得するのに相当訓練を重ねた。

それなのに赤眼の剣士はディアよりもずっと若く、華奢な体付きなのに……別格の強さだった。


「あの人は西区のワーカーか……もしかすると、ね」


彼女と遭遇するかもしれない、そう思うと不思議と手が震えはじめた。

既に赤眼の剣士という存在はディアのトラウマと化している。

だが、あの敗北があったからこそ得た力もあった。

こうしてエリーを無事守り抜くことが出来た事がディアが確実に前進した事を証明している。

しかし――


「情けないな、いくら忘れようと思っても……身体はずっと覚えてるんだな。 あの時の敗北を」


ディアはギュッと拳を強く握りしめて、気持ちを落ち着かせた。

今は余計な事を考えず、事件を解決する事だけを考える。

それが今、ディアに与えられた使命だ。


「明日に備えて、少し仮眠をとっとかないとね」


ディアは座ったままの姿勢で静かに目を閉じると、そのまま仮眠を取った。






翌日、ディアが真っ先に向かった先は西区のギルド支部だった。

しかし、ディアが東区のワーカーである事が知られると門前払いされてしまった。

西区と東区のギルドは対立関係にあると聞いてはいたが、まさかここまでとは思っていなかった。

だとすれば、ネイルの言う通り西区が毒ガスの情報を一向に開示しないのも納得が出来る。


「仕方ない、ギルドを通せない以上……情報収集方法は一つしかないね」


ギルドがダメなら別のルートから情報を仕入れるのみ。

こういう時に役立つのが、情報屋だ。

情報屋は金さえあればどんな相手にも有力な情報を売り出してくれる。

流石にギルドも情報屋まで制御する事はできないだろうと、ディアは判断していた。


西区の情報屋から情報を買いだすには少しコツがいると本業者のカリスから聞いたことがある。

東区にも東区独自のルールがあるように、西区にもまた独自のルールが存在するのだ。

ディアは昔カリスから聞いた情報を頼りに、情報屋との接触を試みた。

その結果――


「もう、日が暮れますよ。 どうするつもりですか?」


「いや、流石に参ったねこりゃ……」


結局、情報屋から有力な情報を手にすることが出来なかったのだ。

何人か情報屋を捕まえて見たものの、毒ガス事件に繋がりそうな話は何もない。

手に入った情報は西区に潜む禁忌術者の噂と呪われた人形の話。

禁忌術者についての噂は曖昧すぎるし、今回の事件とはそれ程絡んでいるようには思えない。

そもそもレッド・プリズナーが放った炎を見るまでは、ディア自身も禁忌術者の存在を疑っていた。

が、あの光景を見てしまえばそれ以外に説明がつかない。

だからと言って禁忌術者が毒ガス事件に絡んでいるとはあまり考えられない。

そしてもう一つの呪われた人形については論外だ。


「どうやら、毒ガス事件については徹底的に外部に漏らさないようにされてるとしか思えないね。

情報屋の目を掻い潜るなんて不可能だとは思っていたのだけど」


「そもそも、本当に西区のギルドが毒ガスを保管しているのですか?」


「正直、あの後の毒ガスの行方ははっきりとしていないんだ。

まさかあんなものを洞窟に置き去りにするはずはないし、間違いなく回収はされているのだと思うけれど」


「何故わからないのですか? そんな危険物をしっかりと管理しないなんて、貴方達ギルドは毒ガスを何だと思っているのですかっ!?」


「そんなに大声で毒ガスと言うキーワードを出さないでくれよ。 君の言う通りかなりの毒ガスは危険物だ、街一つが全滅しかねない程のね。

流石にギルドで厳重に管理はされてるはずだよ、ただ気味が悪いくらい徹底的なだけでね」


ディアは深くため息をついた。

このまま情報屋をあたり続けるのは資金の問題もあって難しい。

こういう時カリスがいれば心強いのだが、肝心な時に限って彼の行方は分からない。


「そういえば私、不思議に思った事があるんです」


「なんだい?」


「どうして西区には騎士団が多く姿を見せているのですか?」


「……君も気づいたか」


「当たり前です、東区ではほとんど活動をしていないはずなのに、西区ではそうは見えません」


流石にエリーの洞察力は侮れない、彼女は西区の異常な点に気づいた。

騎士団が中央区の対応で人手不足に陥っている噂は、セティアシティの住民にも知られている事だ。

だからギルドは一般市民から魔物の討伐依頼を受ける事が圧倒的に増えている。

毒ガスが保管されている以上、騎士団もギルドを警戒しているのではないかとも考えた……が。

ふと、ディアはあまり考えたくない可能性を過ぎらせる。


「まさかとは思うんだけど……毒ガスが盗まれた?」


「――そうかも、しれません」


「いや、そんなまさかね」


「さっき、騎士団がコソコソと何かを話していましたよ。 まだ見つからないのかって」


「まだ見つからない?」


まさか本当に毒ガスが盗み出されたというのか?

だが、あれだけ大掛かりな兵器だ。

少なくともディアは馬車1台を使って運んでいた。

とてもじゃないが自在に運び込める物ではないし、ギルドも危険物については相当厳重に管理するはず。


「半分は、正解かもしれない」


「う、うわっ!?」


突如、ディアの目の前に現れたのは例の仮面をつけた少女だった。

間違いない、偽者のレッド・プリズナーだ。


「貴方はっ!」


「き、君は偽者の?」


「こっちへきて」


少女は路地裏へと向かうと、ディアは後についていこうとするが

エリーが腕を引っ張り強引に止めた。


「どうしたんだ?」


「わかっているのですか? 仮にも彼女は暗殺者を名乗っていたのですよ」


「だけど、彼女は何かを知っているようだった」


「罠とわかっているのなら、いいです」


彼女を信用してはいけない、エリーの言う通りディアもそのつもりではいた。

少なくとも彼女は何らかの情報を持っているように見えた。

ディア達の見解を半分正解といったのも気になる。

少しでも真相に近づけるのであれば、リスクを避ける事はできない。


遅れてディアは彼女の事を追うと、彼女は木箱退けて一つの隠し扉を開く。

彼女が先に中に入った事を確認すると、ディアはエリーを連れて一緒に扉の先へ入った。

そこは大きな空洞となっていた。

僅かな明かりと書物の数々に机、誰かがここで過ごしているようにも見える。


「ここ、情報屋の一人が使っていた場所みたいなの。 でも、彼は死んでしまったから使わせてもらっている」


「情報屋が死んだ?」


「殺されたの、何者かに」


ディアの背筋にゾクリと寒気が走る。

情報屋は危険が伴う仕事である事はカリスの話からよく聞いてはいる。

しかし、彼女が口にした殺されたという言葉は非常に重く感じた。

この街が何かが起きている、そんな事を思わせる一言だった。


「その仮面、まだつけるつもりなのかい?」


「貴方が外せと言うのなら外す。 ただ、偽者とだけは呼ばないで。

私は一度も彼の名を名乗った事はないし、勝手にそう呼ばれていただけだから」


「君の目的を教えてくれ、君は一体何がしたいんだ?」


「貴方が全てを知ったら、話す」


それは事件の真相の事を指しているのだろうか。

だとすれば、彼女は毒ガス事件の全てを知っている事になる。

そんな一言だけで「はい、そうですか」と引き下がるディアではない。

だが、先に動いたのはエリーだった。


「貴方は明らかに私に敵意を向けていますね、認めますか?」


「そうよ」


彼女はエリーの言葉を否定しなかった。

本気で彼女を狙っていたのも事実だという事になる。

ならば何故、助けたというのか?


「だけど、今はその気はない。 でもその時が来たら覚悟して。 私は常に貴方達の事を監視しているから」


「なるほど、ずっと僕達の後をつけていたわけか」


「いい迷惑ですね、おかげで私は職を失って途方にくれてます」


場合によっては敵となりうる、ディアは思わず身構えてしまった。

赤眼の剣士ほどではなかったが、あの少女も相当手ごわい相手だ。

例え赤眼の剣士ではなくとも、ムラクモ流と互角に渡り合える相手であることには変わりない。


「僕達をここへ呼び出したのは何か理由があるのかい?」


「それは貴方達が追っている物と関係している」


もしや、毒ガスの事を言っているのだろうか。

西区に毒ガスが存在するのは間違いないという事だろう。

彼女も恐らく独自で毒ガスの存在を追い続けていたというのか?


「鍵」


「か、鍵?」


「っ!?」


鍵という単語でディアが首を傾げると同時に、エリーはビクッと肩を上げた。


「鍵って、何の話だ?」


「忘れて、少し試しただけ」


「試した? ……わからないな、君は一体何がしたいんだ?」


「貴方と話して、私の推測が確信へと変わった。 これを見て」


少女はディアの言葉を無視して、一方的に話を続けた。

彼女はディアに1枚の写真を手渡した。

それは、ネイルからもらったクラウンの人形写真と同じだった。


「これは――何故君が持っているんだ?」


「貴方は何を知っているのですかっ!?」


ディアが尋ねようとすると、エリーが突然大声を上げた。

何が起きたのかわからずディアが呆気にとられていると、少女は無言で仮面を取り外して捨てた。


「貴方達の追っている毒ガス、それは――この人形よ」


「なっ――人形がそのものが……毒ガスとでも言うのかっ!?」


「そんな……これは毒ガスなんかじゃありませんっ!」


エリーは真っ先に否定した。

まるでその人形の事を知っているかのように。

まさか、エリーは事件に関係している?

いや、違う――彼女は――


「事件はこの人形を巡って起きている。 ここの情報屋も毒ガスの正体を知って殺された。

そして私も……レッド・プリズナーに追われている」


「本当なのか? 毒ガスの正体が……この人形だというのは」


「それは、貴方の依頼人に聞いた方がいい。

でも気を付けて、恐らく彼は狙われている。 レッド・プリズナーに」


「クラウンが? どうしてだ、彼は政府に捕まっているはず……」


「私から言えるのは、毒ガスの正体を知った者は全員レッド・プリズナーに殺されている事実だけ。

急いだ方がいい、中央区へ」


少女はディアに紙切れを手渡した。


「私の名はミスト。 きっと、貴方とはまた逢う事となる。 覚えておいて」


「待ってくれ、君は一体――」


突如、ディアの目の前で突風が吹きあがった。

想いっきり壁に叩き付けられたディアは反射的に抜刀して身構えるが、既にミストの姿はなかった。

……消えた?

しかし、何故こんな地下道で突風が起きた?


「エリー、無事か?」


「……はい、大丈夫です」


「顔色があまりよくないな。 少し休んだ方がいい」


「いえ、大丈夫です……それよりも、お願いがあります」


「なんだい?」


「私を中央区へ連れて行ってください」


「ほ、本気かい?」


封鎖されている中央区へ侵入するには正規の方法ではまずは入れない。

それが意味する事は政府の許可なく中央区へ潜入する、つまり政府に見つかったら下手すれば処刑されるリスクを背負う事となるのだ。

そんな事エリーも承知の上だろう、しかし彼女は強い眼差しで訴えた。

まるで何かを覚悟したかのような強い意志を感じる。


「まぁいいさ、いずれにせよ中央区へ向かうつもりだったしね。

それに、例の彼女は秘密ルートもご丁寧に残してくれたみたいだよ」


ディアは受け取った紙切れを開き、エリーへ見せた。

それは地下を通じた中央区への侵入ルートだ。


「やれやれ、事態は穏便に済まなくなってきたね。

ここまで言われたんじゃ指を咥えて見ているわけにもいかないさ。

君も何を知っているか知らないけど、それなりに覚悟しているみたいだしね」


「……聞かないのですか?」


「レディーを詮索する趣味はないさ。 それに、君は悪い事をできるような人じゃない」


彼女は恐らく何か重要な事を知っている。

しかし、ディアはあえて彼女を問い詰めるような真似はしなかった。

どんな理由であれど彼女がレッド・プリズナーから狙われているのも事実だし、守ると約束した。

ただそれだけの理由で、彼女を信用しようとしていた。


「君を中央区へ連れて行く。 この先何があるかわからないけど、君だけは守ると約束するよ」


「いえ、私だけではなく……貴方自身も守る事を忘れないでくださいね」


「ああ、そうだね。 訂正するよ」


不思議と奇妙な信頼関係が芽生えているように思えた。

それは師匠が言った刀が生み出す絆の意味なのだろう。

師匠の言葉をはっきりと理解したわけではないが、この力は今後ディア自身のために役立つはずだ。


「さあ、行こうか」


ディア達は覚悟を決めて、中央区へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。