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第1話 赤眼の剣士 ①


ジリジリと焼け付くほどの直射日光に、男は思わずうんざりした。

まだ夏は訪れていないと言えど、これだけ太陽が元気だと暑さを感じるには十分すぎる。

両手に握りしめた農具の鍬を思いっきり持ち上げて、ブンッと音を立てて振り下ろす。

ザクッという感触を気怠そうに感じながらも、もう一度鍬を持ち上げて振り下ろす作業を延々と繰り返し、額から流れる汗を拭う。


「……何いい汗を流してんだろうな、僕は」


恨めしそうに真っ青な空を見上げながら、男は呟いた。

奇妙な事に男の外見は農民とはかけ離れた姿であった。

少しだけ逆立ったブラウンの髪に淡く光るエメラルドグリーンの瞳、背は高く何処か幼さは残しているものの、美形な顔立ち。

焦げ茶色のコートに黒い革のブーツといい、はっきりと言えば何処からどう見ても農業をするような恰好には見えなかった。

だが、それは当然だ。

彼は別に農作業をしに来たわけではない。


「いやぁ、悪いねぇ、兄ちゃんよぉ。 畑仕事の手伝いまでさせちまってさぁ」


「別にいいさ、これも依頼の一つだと思えばね」


男は、中年の男に向けて微笑みながら告げた。

鍬を肩に担ぎ、泥だらけのシャツに短パンの男はいかにも農業を営んでいますというのをアピールしているかのような外見だ。

中年の男は、ガハハと大口を開けて笑い声をあげていた。

成り行きで農作業を手伝わされている男の名は、『ディーク・アルド・フォーレ』。

ディアという愛称で呼ばれている。


ディアはセティアシティのギルドに所属するワーカーの一人だ。

大都会と呼ばれるセティアシティには、ギルドという大規模な組織が成り立っている。

簡単に言えば、金さえ払えばどんな仕事でも請け負ってくれる何でも屋の総称を指す。

魔物退治や人探しといった事は勿論の事、中には暗殺といった裏稼業でも取り扱っている事から世間一般の評価は決していいものではない。

しかし、人々からの需要は絶えず、ここ最近規模を広げている新たなビジネススタイルであるのも事実であった。

ちなみにワーカーとは依頼を請け負うギルド員を指す言葉である。


ディアはギルドからとある依頼を受けてこの地へやってきたのだが……何故か今はこうして、汗を流しながら畑を一生懸命耕している。

何故ワーカーである自分が農作業を手伝わなければならないのか? そんな面倒な事はしたくない、というのが本音ではある。

しかし、ワーカーは依頼人との信頼関係を築くのが第一であり、一番重要な事項でもあった。

出来る限り依頼人には好印象を持たせる為にもディアは断りきれずに、畑仕事を手伝わされていた。


「しかし兄ちゃんよぉ、随分サマになってんじゃねぇか? どうだい、ウチで農業でもやってみねぇか? たーっぷり給料は出してやるぞ」


「嬉しい誘いだけど、遠慮しておくよ。 僕の本業はやっぱり、こっちだしね」


冗談じゃないっ! と思わず口走ってしまいそうであったが、何とか堪えてディアは笑顔で告げた。

腕を振るう動作を見せつけて、鼻を高くすると、農夫はガハハと笑いながら拍手をした。


「いいねいいねぇ、頼もしいよ兄ちゃん。 でもよぉ、本当に兄ちゃん一人で大丈夫なのか? 相手はこーんなにでっけぇ怪物なんだぜ?」


「騎士団の連中よりかは上手くやれるさ。 大丈夫、心配しなくていい。 貴方の大事な畑は、ちゃんと守れるさ」


農夫が言う通り、ディアが受けた依頼というのは魔物の討伐であった。

ここ最近、セティアシティの南地区で畑荒らしの被害が急速に広がっていた。

目撃者の話によると、畑荒らしの正体はどうやら凶悪な猛獣だと言うが、恐らく魔物である事は間違いないだろう。

魔物とは大昔から存在する異形の事を指すが、今の時代で言えばそのニュアンスは若干異なっている。

今では政府が定めた人に襲い掛かる等の凶暴性を持つ猛獣などを魔物と定義していた。

セティアシティの南地区は農業が盛んであり、数多くの作物が育てられている。

魔物にとってはまさに餌の宝庫と言え、魔物による被害が最も高い地域であった。


だが、現在騎士団は政府からの命令により、中央区における重大な事件の対応に追われているという。

結果、騎士団の警備が物理的に薄くなってしまい、今回のような事態を招いてしまった。

本来であれば魔物退治というのは、政府直属の自警組織である騎士団が行うべき仕事ではあるのだが、どうも政府にとってはよほど中央区の事件が重要らしい。

国の治安維持が第一であるはずの騎士団が、結局政府の手足として使われているのは本末転倒ではないかとディアは不満を抱いている。

しかし、こんな時にこそギルドという組織が必要なのだ。

騎士団と違い民間企業である以上、政府に縛られている騎士団と比べれば自由に動きやすい身である。

ある意味ギルドという組織が成り立っているのは、騎士団がこのように政府に使われているからこそなのだろう。


「しかし、騎士団の連中は何してんだろうなぁ。 前まではここまで被害が広がる前に対策してくれてたはずなんだがねぇ」


「騎士団は少し頭が固いからね、自由に身動き取れない事が多々あるのさ」


「全くよぉ、農業区の被害なんて国にとっても大打撃なはずだろうになぁ。 勘弁してほし―――お、おい兄ちゃん……あれ」


「やれやれ……ようやくお待ちかねの、か」


農夫が口をあんぐりと開けたまま、何かを指さして固まっていた。

その視線を辿ると、その先には鋭い牙を持つ四本足の猛獣が涎を垂らしながらグルルル、と唸っている。

真っ赤な瞳に紫と黒が交えたような毒々しきその姿は、間違いなく『魔物』の特徴に当てはまる。

被害規模から推測した通り、魔物は単独でこの辺りを荒らしまわっていたというのは間違いなさそうだ。

ディアよりも二回りほど大きい巨体に農夫は思わず腰を抜かしていたが、ディアは動じずに鍬とコートを投げ捨て、魔物の前に立つ。

革の胸当てに黒いシャツと、魔物と戦うにしてはあまりにも軽装過ぎる武装であった。

しかしディアのイメージとは程遠い徹底的に鍛え上げられた腕は、まさに本物の剣士である事を物語っている。


「兄ちゃん、本当に一人で大丈夫なのか? あ、あんな魔物騎士団の奴らでも部隊を組んで討伐するクラスなんじゃないのか?」


「言ったはずだよ、騎士団よりかは上手くやれるってね」


「あ、あんま見栄を張らねぇ方がいいぞ。 お、お前さんの腕を疑ってるわけじゃねぇがよ、目の前で命を落とされちゃ後味が悪いったらありゃしねぇぞ」


想像以上に凶悪な魔物を前にし、農夫はすっかり怖気づいてしまい思わずディアに警告し続けていた。

半面、ディアは驚くほど冷静に魔物の様子を観測し、鞘に収められた剣を片手に握りしめている。

両者は一歩たりとも動かずに、睨み合ったまま静寂に支配される。

グルルルと唸り続ける猛獣の声がより一層緊迫感を高めていた。

猛獣が前足で土を踏みしめると、僅かに砂が蹴られて舞い上がる。

次の瞬間、静寂は一瞬にして崩された。


猛獣が後ろ足で地を蹴り、高くディアへと向かって飛び掛かる。

同時にディアは僅かに腰を低くし、握りしめていた長剣を抜刀した。

風を裂く音と同時に、猛獣が持つ紫色の鮮血が舞い散る。

猛獣は宙で体勢を崩し、巨体を地面に激しく叩きつけ横たわった。

呻き声をあげ、猛獣がよろよろと体を起こそうとすると、ディアは容赦なく追撃を浴びせる。

長剣は綺麗な横一線を描き、再び紫色の鮮血が舞い散ると獣は甲高い叫び声を上げ、やがて動かなくなった。

猛獣が完全に沈黙した事を確認すると、ディアは一息ついて長剣を鞘に収めると額の汗を拭う。


「ほらね、騎士団よりかは上手くやれるって言っただろ?」


農夫は何が起きたのか理解できずに、ただ呆然を口を開けたままだった。

我に返ると、魔物が討伐されたにも関わらず何故か腰を抜かしてしまっていた。


「こ、こりゃたまげたな。 お前さんただの剣士じゃねぇな、ワシは昔剣術に携わっていた事はあったが、

たった一人で……それも一撃でこれだけ巨体な魔物を仕留めた奴なんざみたこたねぇ……一体、何者だ?」


「名前なら最初に名乗ってるはずだよ。 それに僕はただのしがないワーカーに過ぎないさ」


「そうかっ! お前さんまさか、噂の『グレディス・フォーレ』の息子かぁっ!?

ディーク・アルド・フォーレってどっかで引っかかる名前だと思ってたんだがなぁ、いやいやこりゃぶったまげたぁ……

そりゃぁ、その強さにも納得いくって奴だなぁ、ガッハッハッハッハッ!」


農夫はディアの名を記憶から穿り返すと、ポンと掌を打ち耳に響くほどの大きな声で告げた。

思わず、ディアは深くため息をついた。

確かにディアは『グレディス・フォーレ』の息子である事は事実だ。

グレディスはセティアシティではその名を知らぬ程の凄腕の剣士であり、ワーカー間では伝説とまで言われている存在である。

しかし、ディアはそんな父親と比較される事が好きではない。

例え悪気がなくとも、父親の名が目の前に出されるだけで嫌な顔をしてしまう程であった。


「僕は、あの人とは違う」


ディアはボソっと呟くと、農夫は不思議そうに首を傾げる。

するとディアは長剣を握りしめ、目にも留まらぬ速さで抜刀した。

農夫は思わず驚いて、再び腰を抜かしてしまった。


「僕はあの人から一切剣術の類は教わっていない。 僕の流派は『ムラクモ流』、あの人すら使っていない幻の流派さ」


「ム、ムラクモ流だぁ? お、お前さんはムラクモ流の使い手だって言うのか?」


「信じる信じないは貴方の自由さ。 だけど、ムラクモ流はあの人にはない……僕自身の強さだ」


ディアは長剣を鞘に収めると、眉間に眉を寄せながら告げた。

父親と比べられる事を嫌うディアは、父親が持たない強さを求めていた。

ギルドのワーカーとして採用されたその日から父親すら知らない最強の剣術を求め、辿り着いた答えというのが『流派:ムラクモ流』である。

それは世界で使用者が少ないとされ、幻とさえ言われた太古から存在する剣術だ。

戦いにおける実用性と見る者を虜にする美しさ、即ち芸術性の両方を求めた究極の剣術であるが故に、満足に扱える者はほとんどいない。

居合から始まる一撃の重さを重視した剣技から始め、闘気を利用した呼吸法からカウンター術と幅広く扱っている。

とてもじゃないがディアの話が事実とは受け入れ難い……しかし、現にあの凶暴な魔物を一瞬にして仕留めた実力を見るからには、嘘を言っているようには見えなかった。


「い、いやいや兄ちゃんすげぇじゃねぇかっ! ヘヘッ、気に入ったぜ……オラは兄ちゃんみてぇな強い男は大好きだ。

こうなったら報酬も弾んでやらねぇとな、ちぃーっと待ってくれ」


農夫の男は大声で笑いながらディアの肩をポンポンと叩くと、のしのしと蟹股で倒れた魔物へと近づいていく。

先程まで怯えていたのが嘘のように、農夫は魔物を隅々まで調べてうんうんと強く頷いていた。


「あの……何しているんだ?」


「いやいや、兄ちゃん。 ひょっとしたらこいつで大儲けができるかもしれねぇ、こいつの毛皮は確か高値で出回っているはずさ。

せっかく兄ちゃんが倒してくれたんだからな、こいつの収入に関しては兄ちゃんとワシの山分けって事でどうでい?

どーせ兄ちゃんじゃこいつをさばけねぇだろうしな、そこんとこはワシに任せて貰えば悪い話じゃねぇと思うぜぇ?

いや、兄ちゃんには畑仕事も手伝ってもらってるしな、もうちょっと分け前を増やすかぁ?」


「魔物の毛皮が市場に? へぇ、それは驚いたな……それ、本当に売り物になるのかい?」


「とんでもねぇ、魔物だって所詮そこらの獣と何ら変わりはねぇさっ!

一部のマニアでは特に高値で売れてな、魔物を扱った新たなビジネスすら確立されてるぐらいなんだぞぉ?」


農夫は誇らしげに語ってくれた。

どうやらその手の情報には詳しいらしく、ただ単に農業をやっているだけではないようだ。

もっともギルドに携わっている時点で、その手の情報に詳しくても何ら不思議ではないのだが。


「でも、あの魔物一体何処に運ぶ気なんだい? 流石にこんなところで放置しとくのも問題だと思うけど」


「そりゃまぁ、馬か何かで引っ張っていくしかねぇだろ。 それとも何だ、兄ちゃんがやってみるか?」


「いや、流石にそれは勘弁だね」


「まぁまぁ、こっからならワシ一人でも何とかできるさ。 兄ちゃんはもう帰ってくれて構わんぞ、先に今日の分の報酬でも受け取って、その金で旨い酒でも飲んでくれい」


農夫は馴れ馴れしく肩を組んでガハハと笑うと、ディアは思わず苦笑いをする。

農作業等も半端な状態になっているが、依頼人がああいっているなら別に無理する必要はない。

しかし、ワーカーとしてはサービス精神といったものも大事だ。

本当は帰りたい気持ちも山々であったが、ディアは農夫に告げた。


「どうせなら、最後まで付き添うさ」


「お、そうかい。 悪いな兄ちゃん、んじゃ馬引っ張ってくるからよ、この辺りをちぃーっと見張っといてくれよ」


農夫は機嫌よさそうにディアに告げると、蟹股で鍬を担ぎながら遠くにうっすらと見える小屋へ向かって歩き出す。

ディアはやれやれと呟きながら、ため息をついてその場に腰を掛けた。













数時間後、ようやく全て片づけたディアはヘトヘトになりながらセティアシティの東部へと還ってきた。

セティアシティのギルドはナンバーズと呼ばれる制度によって、それぞれ各支部で管轄されている。

当初その数値は低ければ低い程良質のギルドである事の証明であったのだが、今はそれほど大差はない。

ナンバー単位でワーカーの質の差が出てしまえば、支部毎に受けられる依頼が制限されてしまう為だ。

ディアはセティアシティ東区にあるナンバー3支部へと向かっていた。

人ごみの中を通り抜け、多くの人が出入りする支部の門を潜っていくと、エントランスには大勢の人々が集まっている。

もうすぐ日が暮れそうだというのに、相変わらずの人の多さにディアは思わずため息をつく。

ここでは多くの人々がギルドへ依頼を申し込んだり、或いは仕事を求めてやってきたワーカーが足を運んだりと常に活気に満ちていた。

人が多いところが苦手なディアは、嫌な顔をしながらも受付で並ぶワーカーの最後尾に立つ。

まだ当分時間がかかりそうだなとため息をついた。


「おうディア、今仕事から帰ったのか?」


「ああ、カリスじゃないか。 丁度今、こうして報告しに来たところさ」


最後尾に並ぶディアに声をかけてきたのは、ギルドに所属した時の同期である『カリス・ベイナード』だ。

背が小さく、綺麗な小麦色の肌と整った短い銀髪、青い瞳からは一見少女と間違えられても不思議ではない。

しかし、黒いシャツにマントに白い短パンと腰には小道具の類とナイフの数々……といった少年的な外見に可憐な少女とは程遠い口の悪さを目の当たりにすれば、そんな勘違いはすぐに正される。


「いやぁ、丁度俺も一仕事終えた所さ。 そういや畑荒らしの魔物がどうとか言ってたよな。 大丈夫だったのかよ?」


「予想よりちょっと強そうなのが出てきて内心焦ったけどね、でも……見た目ほど大した事なかったよ」


「だろうな、ったくお前を心配するだけ無駄だな。 それだけの腕を持ちながらも未だにCクラス止まりなんだよなぁ」


「闘えるだけでは昇格は難しいさ、地道に依頼人からの信頼を得て行かないといくら力を持っていてもギルドは認めてくれない」


ディアはため息を交えながら、カリスにそう語った。

ギルドにはワーカーの質を現す『ランク制度』といった物が導入されている。

ギルド設立当初は、ワーカーであればどんな依頼でも受ける事が出来たのだが、ワーカーが好き勝手に依頼を放棄したり、或いは自分の力量に合わずに次々と依頼を失敗していく事件が多発してしまった。

そうなってしまってはギルドという仕組みが成り立たない、そこで初めてワーカーに『ランク』というものが導入された。

要はFランク~Sランクまでの段階評価をギルドで行い、ワーカーの実力を可視化させる為に設けた制度である。


「何言ってんだよ、次の査定は来週だろ? 今度こそBランクに昇格間違いないぜ、そしたら一緒に酒でお祝いしようぜっ!」


「そうだね、今度こそ昇格して見せるさ」


ディアが話していた通り、ワーカーのランクは単純に剣術といった実力だけでは定められていない。

ギルドではどんな依頼も確実に遂行させるワーカーが求められる。

密偵から暗殺といった裏稼業から事件の調査や人探し、護衛等と求められるスキルは幅広い。

ギルドはそういった総合的な観点を元に、半年に一度ワーカーの査定を行っているのだ。


「そう来なくっちゃな、お前ならもっともっと高みに行けるはずだぜっ! そうだ、そんなお前にとっておきの情報が二つあるぜ?」


カリスはニカッと真っ白な歯を見せつけて、親指をグッと立てる。

この目はいつものアレだな、とディアはため息をつきながら頭を掻いた。


「……で、いくらなんだ?」


「さっすが話が早いねぇ、ディアちゃんよぉっ! ま、一つ目の情報は大したことねぇ、特別サービスとして無料で提供してやるよ」


「出来れば全部、無料で聞かせてほしいんだけどね」


「バカ言うんじゃねぇよ、こっちもちゃんとした商売なんだからな? その代わりサービスしまくってんだから大目に見ろよ」


カリスはディアとは違い直接的な戦闘を得意としないが、密偵等といった裏方稼業に関してはスペシャリストだ。

その手の仕事が多いギルドでは、カリスのようなワーカーの需要は非常に高く、現にカリスはディアと比べてランクは一つ高い『B』に位置する。

まさにランク=強さではないというのを証明していると言えた。

カリスはディアを無理やり屈ませて肩を組むと、ニヤニヤとしながら耳元で囁いた。


「あまりでかい声では言えねぇんだけどよ……支部からすぐ出て東の方にでかい温泉宿があるだろ?」


「ああ、僕もよく利用しているところか。 それが、どうしたんだ?」


「イヒヒッ、それがいいとこ見つけちまってよぉ。 1F旅館の102号室と103号室の間に地下に繋がる階段があってよ。

どうやらそこは従業員が掃除用具だとか出し入れする時に使われてる倉庫らしくてな……」


「地下室、ねぇ。 それで?」


「あの宿って地下に浴場があるのはお前も知ってるよな。 んでよ、その地下室に木箱がごっちゃりと重ねられてたんだけど、その木箱をどかしていくとな」


「……何でそこで浴場の話が出るんだ?」


「おい、察しろよ。 実はな、木箱をどかしていくと何か不自然に壁の穴があけられていてな。 で、そこを覗いていて見ると―――」


そこまで聞くと、ディアは思わず深いため息をついてカリスの事を振り払った。


「おいおい、もっとテンション上げろよっ! 今の本来ならめっちゃくちゃ高額で売りに出せる情報なんだぜっ!?」


「そんな犯罪まがいな事、君一人でどうぞ」


「つれねぇ奴だな畜生ッ!」


「で、もう一つのは? まさか同じような情報じゃないだろうね?」


「ま、一つ目のは軽いジョークってとこさ。 悪いけどこの場では話せねぇ、ちょっと場所を変えさえてもらう必要があるんだが……」


カリスが気色悪くウインクをすると、ディアは思わずげんなりとする。


「とりあえず、手続き全部終わらせてからでいいかい?」


「おう、かまわねぇぜ。 んじゃ、いつもの場所でその件については話してやるさ」


「次の方、どうぞー」


ディアとカリスが話している間に、いつの間にか列が大分進んでいたようだ。

受付に返事をすると、ディアはカリスにまた後でと告げて手続きを済ませに行った。


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