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     少女との誓い ②


正午過ぎ、ファリスとテミリアは支部付近の商店街へと訪れた。

騎士団の件については既に町中に広まっていてもおかしくはない。

裏通りだったと言えど、テミリアが放った雷の事を考えれば目撃者がいても不思議ではないはず。

ファリスの赤き瞳はただでさえ目立つ、このまま街中を突き進んでいくのはリスクは高い。

それにテミリアも同じだ、金髪の少女という情報はギルドに出回っている以上、その目立つ髪は隠す必要があった。


結果、ファリスは黒色のロングコートで身を包み、サングラスをかける事で赤眼を誤魔化し、テミリアは元々着ていたボロボロのローブを着せた。

かえって目立つ格好かもしれないが、何も変装せずにいるよりマシだろうとファリスは自分を納得させた。

ちなみにこの案を提案したのはテミリアである。

ファリスは構わず堂々とギルドへ向かおうとしていたところ止められて、今に至っていた。

街中では騎士団が襲撃された件と例の雷に関する噂の話が耳に入るが、赤眼の剣士に関しての噂はどうやら入って来ていないようだ。

ひとまずは安心してもいいかもしれないが、念には念を入れて警戒はすべきだろう。


数分後、支部へは特に苦労もなく辿り着けたが、問題はここからだ。

受付で手続きを済ませればテルを捕まえるぐらい容易い事だが、万が一ギルドがファリスを指名手配している可能性も考えればリスクは高い。

せめて情報屋から何か情報を買えればいいのだが、逆に彼らを伝って自分達の情報が広まってしまう危険性もある。

交渉人である彼は普段はギルド支部に在籍しているはず、支部はあのエントランスを潜らない限り出入りが出来ない造りとなっている。

ならばテルが支部から出てくるのを待つしかないかと二人は入り口付近で張り込んでいた。

しかし、支部の人の出入りは予想以上に激しい。

これではテルが出てきたとしても見失ってしまう可能性も十分あり得る。

だが、それでも地道に待つしかないだろうとファリスはジッと入口を監視し続けていた。


「ねぇ、いつまで続ける気よ?」


「奴が出てくるまでだ」


「冗談じゃないわよ、アンタあんな人ゴミから見分け出来ると思ってるわけ? もっと別の方法考えたら?」


「文句を言っている暇があれば、お前が考えればいい」


「……はぁ、わかったわよ。 アンタの好きにすればいいわ」


テミリアは深くため息をつくと、ファリスの隣になって同じように入口を監視し続ける。

だが、数分と持たずに眠そうな顔をして大きな欠伸をした挙句、うとうととしながらファリスの肩へ倒れては起き上がってを繰り返す。

これだけ邪魔をされてもファリスは集中力を切らさずに、じっと監視を続けていた。

すると、見覚えのある人影が姿を現す。

ニヤニヤとした金髪の男が、鼻歌を交えて商店街へと向かっていく。


「見つけたぞ、起きろ」


「――はぇ? んなっ、わ、私寝てないわよっ!?」


「ここで待っていろ、すぐに戻る」


「え? ちょ、ちょっとアンタっ!?」


ファリスはテミリアを置いて、テルとの接触を計ろうと走り出す。

テミリアを一人にするのは少々気が引けるが、万が一テルが政府側についていた事を考えると、最初だけでも様子は伺うべきだろう。

ようやくテルの背後についたファリスは、右肩を掴んで強引に引き止めた。


「ん、何だい? 僕に何か用?」


「私だ、話したいことがある。 至急、何処か場所を確保してくれないか」


「あらー、その声は行方を暗ましてたファリスちゃんじゃないかー。 いやぁ、丁度良かったよ。 僕も君の事を探していたのさ」


「何?」


やはりギルドは既にファリスの事を……最悪の場合、この男を斬らなければならないのかと警戒を強めた。


「そんな怖い顔しないでくれよ、別に君をどうこうしようってワケじゃないしさ。 どうだい、連れの子もいるんだろ?」


「どうしてそれを……?」


まさか、禁忌術者の件までギルドに知れ渡っているというのか?

そうなれば、この男を信用すべきではない―――が


「え? いやいや、だって君の後ろに、ほら」


テルが笑いながらファリスの背後を指さすと、頬を膨らませたままキッとファリスの背中を睨み付けるテミリアの姿があった。

どうやら、無理やりついてきたのだろう。

物凄く不機嫌そうな顔をしているが、仕方ないとため息をつく。


「……すまない、少し時間をくれ」


「ふぅーん、君が僕に頼るなんて珍しいじゃないか。 ま、ようやく僕のありがたみをわかってくれたって事だよね。

しょうがないなぁー、僕も丁度ファリスちゃんには用事があったし、特別に君の力になってあげようじゃないか」


相変わらず気味の悪い男ではあるが、今は当てにするしかない。

二人はテルに案内されていった。










人気の少ない裏通りに、小さな店がポツンと立っていた。

酒場のようだが、中は客どころか店員すら姿を見せていない。

そもそも今の時間営業しているのかすら怪しいが、テルに案内されてファリスとテミリアは店の地下に繋がる階段を下りていく。

するとようやく店員らしく人物が出てきて、テルと何やら話し込んでいた。

地下は個室へ繋がる扉がずらりと並んでおり、張り紙には関係者以外立ち入り禁止と書かれている。


「おや、不思議そうな顔をしているね。 そういえば君は初めてだからねぇ、いつも君とは支部とでしか話していないし」


「一体ここは何だ?」


「まぁまぁ、そう警戒しないでくれよ。 別に怪しいところじゃないさ、簡単に言えばプライベートルームの貸し出しのような……

おっと、決して怪しい意味じゃないよ。 ここはギルド直営店の酒場、要はワーカー達が情報交換する為に使われる施設なのさ


どうやらここはワーカー間での情報交換の場として利用されるらしい。

そう言えばファリスもそのような話を聞いたことがあった。

ワーカー間で情報を売る者は、必ず決まった店で情報提供を行うと。

二人はテルに続き、個室へと案内された。

テミリアは何処か不安げな表情を見せるが、ファリスは構わず入っていく。

小さなテーブルに4人分の椅子、真ん中には洒落ているのか綺麗な色の花が飾られている。

テル曰くそれがこの店の拘りらしい。

ファリスとテミリアは入り口側に座ると、テルは一番奥の席へ座る。


「さて、まずは聞こうか。 君が僕を探している理由を」


「……騎士団を斬った」


「ちょ、ちょっとアンタッ!?」


包み隠さず、短くファリスは即答した。

思わずテミリアが素っ頓狂な声を上げるが、テルは大笑いをし始めた。


「そうかそうか、やっぱり君だったんだねぇ。 今ギルドではその件で大騒ぎさ。

あ、勿論大方君がやったんじゃないかーって噂されてたんだけどね。 いやぁ、まさか本当だったとは驚きだねぇ」


「私はこの子をセティアシティから逃がさなければならない。 どうにかして政府の目を誤魔化して外に出る方法はないか?」


「いきなり無茶を言うねぇ、君は。 まぁギルドのバックアップがあれば不可能ではないだろうけど……今は難しいと思うよ?

それにさ、そもそもその子は一体何なんだい?」


予想通り、テルはテミリアを見過ごす事はなかった。

ここで彼女が禁忌術者だという事をばらしてしまえば元も子もない。

何とかして誤魔化さなければ――と考えていると、ガタンッとテミリアは席から立ち上がった。


「アタシが、アンタ達が探し求めていた禁忌術者だよ」


テミリアは黒いフードを取り払いながら、テルに向かって告げた。

予想だにしなかったテミリアの行動にファリスは思わず言葉を失ってしまう。


「ふぅん、ってことは君……無事任務達成じゃないか。 ふむ、そうか……それで騎士団を――」


「待て、違う。 こいつは人違いだ」


「違わないわ、アタシは本物よ。 証拠でも何でも見せてやるわ、この店に雷を叩き落してやることだって出来る。

だから、アタシを捕まえなさいよ。 アタシを政府に差し出せば、全て丸く収まるんじゃないの?」


「……今一話がかみ合ってないみたいだけど?」


何処かニヤニヤしながら、テルはファリスに告げた。


「騎士団に手を出したのはアタシ、この人はたまたま通りすがった私を捕えて、ギルドへ突き出しただけ。

だから、今回の件には何も関係ないわ」


「んー? 変だな、騎士団は確か斬られたはずだけどなぁ。確かに晴天の中、雷が降ったって話も聞いたと言えど

赤眼の剣士が少女を担いでたという目撃情報もあるみたいだけどねぇ」


「いいから、とにかくあんたらはアタシの事探してたんでしょ? ほら、今ならチャンスよ。

アタシを政府につきだせばたんまり大金が支払われる、ぼろ儲けできるんじゃない?」


テミリアの意図が理解できずにいたが、もしやファリスの事を庇おうとしているのだろうか?


リスクを冒してまでファリスについてきたのは、ギルドの交渉人であるテルと接触する為。


「あー……悪いんだけどね、君が本当に禁忌術者だったとしても、はっきり言って僕は政府につきだす気はゼロだよ」


「な、何よ? 信用していないワケ?」


「どういう意味だ? ギルドは政府から依頼を受けていたのではないのか?」


「まぁまぁ、話がこんがらがっちゃってるしね。 ここは一度整理をしようか……んじゃ、そっちのうるさい子は口を閉じててね。

全てはこの優しいお姉さんの方から聞くからさ」


「なっ、う、うるさくなんてないわっ!! いいから、アタシを―――」


「すまないテミリア……どうか、私を信用してくれないか?」


これ以上この場を混乱させたくない、という気持ちもないわけではない。

しかし、ファリスはテミリアが身を投げ出して全て解決させようという姿勢が気に喰わなかった。

するとテミリアは顔を俯かせながら、静かに頷いて座ってくれた。

わかってくれた、のだろうか。

彼女の内を全てわかったわけではないが、少なくとも信頼を得ているのは確かのようだ。

ようやく状況が落ち着いたところで、ファリスは包み隠さずテルに全てを話した。

彼女が禁忌術者である事、そして騎士団を斬って逃げた経緯まで。


「なるほどねぇ、この子が処刑にされるのが嫌で助けたか。 いやぁ、実に人間らしくて素晴らしいっ!

正直僕は君の事を血も涙もない人だと思ってたけど、それは大きな誤解だったなぁ」


「それで、どうしてギルドの協力を得るのが難しいんだ?」


「そりゃね、君が騎士団を敵にまわしちゃったからさ。 ギルドが直接的に君を支援すれば、それは必然的に政府へ逆らう事に繋がる。

そうなれば政府は逆上してギルドのワーカーを取り締まろうと動き出すはずさ、ただでさえ僕らは仲が非常に悪いんだからね」


「どうにか、ならないのか? この子を政府に渡すわけには―――」


「そうだねぇ、じゃあこういうのはどうかな? 君が斬った騎士団は……実は、偽物だったとか」


「……?」


騎士団が偽物だった?

いきなり何を言い出すのだろうと、ファリスは思わず首を傾げる。

テルは不気味な笑みを浮かべ続けていた。


「君さ、不思議に思わなかった? 騎士団の襲撃事件はギルドに通達されていて、君の姿はばっちりと見られているにも関わらず……

街中では君の事は左程騒がれていなかった。 これ、何でだと思う?」


「まだ事件が町中に広がっていない、ということか?」


「いんや、違うね。 どんな小さな事件も情報屋を伝えばあっという間に広まっていくものさ。

だけどねぇ、今回は不思議と街では騒がれていないんだよねぇ……あ、最初にも言ったけどギルドでは大騒ぎだよ? 政府の奴らと今すっごくもめてるしね」


「……情報屋が、口止めされているのか?」


「おっと、流石に頭の切れる剣士は違うねぇ。 どうやら政府が箝口令を強いたみたいなんだよねぇ、まぁそれでも人の目は完全に誤魔化せないけど。

少なくとも情報屋達は騎士団に監視されちゃってて、すっごく迷惑してるみたいなんだよねぇ、これじゃ商売どころじゃないって文句だらけさ」


「政府が口止めしているというのか? 一体、何故?」


「答えは最初に言った通りさ……君が斬った騎士団、偽者だったみたいなんだよねぇ」


「なっ―――」


騎士団が、偽者?

ファリスは思わず耳を疑った。

一体何を言っているのか理解できなかったが、どうやらいつものジョークではないようだ。

あれがもし偽者だったとすれば、何故『禁忌術者』の事を知っていた?


「政府以外に政府を名乗って禁忌従者を探していた者、ほらね。 こんな事が世間に知られたら大混乱でしょ?

ま、僕としては非常に面白い展開になってきたと思ってるよ。 そもそも君が彼らを斬らなきゃこの事実は発覚しなかったしね」


「何故、騎士団が偽物だとわかったんだ?」


「んーそうだなぁ。 騎士団ってほら、騎士である事を証明する為の『騎士勲章』があるんだけど、それを持ってなかったみたいだしね。

それともう一つ……君にとっては朗報かもしれないけど」


「朗報?」


「うんうん、彼らね……右肩に『赤き翼の生えた獅子』のタトゥーを掘っていたみたいなんだよね」


「赤き……獅子―――」


ズキンッ――赤き獅子の単語が、ファリスの頭の中を刺激する。

失った過去の唯一である、『赤き翼の生えた獅子』。

記憶の始まりに刻まれたあの不可思議なタトゥーだけは、今でも鮮明に覚えている。

偽の騎士団、禁忌術者、赤き獅子。

これらは全て、自身の記憶に関係する……のだろうか。


「と、言う事で……まぁ、彼女を保護することぐらいは僕も協力しよう。 僕だって政府の奴らに禁忌術者を取られたくないしね。

ギルドで握っておいた方が何かと便利だろうしね。 あ、勿論交渉道具にはさせてもらうけど、何があってもあっちに売ったりしない事だけは約束するさ。

今のところ、そんなメリット全くないし……それに僕としては、偽の騎士団の方が気になるところだしねぇ」


「い、いやよっ! 交渉道具にされるなんてっ!」


「安心しろ、こう見えても信用できる男なはずだ。 お前をうるような真似はしないはず」


「お、流石ファリスちゃんじゃないか。 ようやく僕の重要性を理解してくれたんだね」


口ではそう言った物の、確かにファリスはこの男にテミリアを任せるのは不安がある。

しかし、他にあてがない以上この男に頼らなければならないのは事実だ。

しばらくはテルの力を借りるしかないからこそ、テミリアを安心させる為に口にしたが、当の本人は口を尖らせてテルの事を嫌がっていた。


「ま、僕が君を探していたのは……単純にその偽者について知りたかっただけだけど……どうも知らないみたいだしねぇ。

んー、そうだな。 彼女の保護の代償として、君には当分僕の為に働いてもらおうかな? どうだい、偽の騎士団について探ってみる気はある?」


「……いいだろう、私も偽の騎士団については気になる。 それに、私の記憶の手がかりともなるかもしれんしな」


「決まりだね、それじゃ今日は僕が宿を手配しておくよ。 当分の間は彼女をそこで匿ってやるといい。

その間に、僕の方で彼女を外に出す方法を検討しておこう。 その代わり、偽者の件よろしく頼むよ」


ファリスは何か胸騒ぎを感じていた。

禁忌術者に偽の騎士団、やはりセティアシティでは何かが起きようとしている。

徐々に、何か大きな事件に巻き込まれようとしているかのような。

だが、同時にやっと手に入れた自分の記憶に繋がる『赤き獅子』。

この街が長き旅の終着点と、なるのだろうか。

先の見えない未来にファリスは不安を抱いたが、必ず乗り越えて見せると固く誓った。


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