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第4話 少女との誓い ①


セティアシティ西区の外れ。

かつてここには大きな工場があったらしいが、今はただの廃墟と化している。

人通りが少ないが、金のないワーカーがよくこの地で寝泊まりする事が多い。

ファリスは気絶した少女を、この地まで運んでいた。

繁華街では彼女の身なりは目立つため、騎士団が見たらすぐに彼女の正体がばれてしまう危険性も高い。

ここまで運べば騎士団の監視も少ない上に、隠れる場所も多いはず。


当分の間は何処かで少女を匿って生活していこうと考えた。

だが、感情に身を任せたと言えど……騎士団を斬ってしまった事は少々やりすぎてしまったと後悔している。

いくら禁忌術者の少女を守る為と言えど、これでは騎士団から目をつけられて動きにくくなってしまっただけだ。

もっと冷静になれば別の方法に取る事も出来ただろうにと、ファリスはため息をつく。

ファリスは手頃な一室を見つけて、そこにある石造りのベッドに気絶した少女を寝かせた。

まだ目を覚ます気配はない、余程ショックが強かったか……それとも、例の魔法による反動なのだろうか。

隙間から入ってくる風が、少し肌寒く感じる。

既に時刻は深夜を回っている、夜のこの地は冷えるので少女が風邪をひかないようにと上着を被せた。


「―――うぅ、ん……」


すると、少女が目をうっすらと開ける。

どうやら目を覚ましたようだが、次の瞬間少女はキッと強くファリスを睨み付けた。


「アタシをどうする気なの? このままギルドにでも突き出す気かしら?」


「そんな事をするぐらいなら、あの時既に騎士団にお前を渡していた」


「何が目的なの、アタシの力が欲しいんでしょ? そうじゃなきゃ、アンタがあそこでアタシを助ける意味なんて……」


「お前の力には興味はない。 所詮、魔法とやらはムラクモ流を前にしては無意味なようだからな」


ファリスがそう呟くと、少女は何処か納得がいかないのか頬を膨らませた。


「――何だか腹が立つわ。 大体アンタが本当に魔法の力を掻き消したかどうかすら怪しいわ。 もう一度この場で試してやろうかしら」


「やめておけ、騎士団に位置を知らせる事になるぞ」


「わ、わかってるわよ……冗談に決まってるじゃない。 アンタがアタシと同じ禁忌術者なら別だけど、そうには見えないわね。

もしかして闘気の使い手? だとすれば、魔法の力が掻き消される可能性もあり得るわね」


「ムラクモ流を知る事は闘気を知る事から始まる、私の師が口癖のようにそう言っていたな」


闘気、それは人の精神力から生み出されると言われている力。

人の精神力に比例するらしいが、詳しくは解明されておらず現在も研究が進められている第3の力を指す。

一説によれば太古に封印された魔法の源【マナ】の名残として残ったのではないかと推測されている。

闘気の力が確認されるのは常に戦いの中にあり、戦いの中で生み出される感情の力から【闘気】と呼ばれるようになった。

ムラクモ流とはまず、その闘気を知る事から始まり、闘気を制しなければ扱うことが出来ない。

恐らく少女は限りなく魔法に近い闘気の力が魔法の力とぶつかって相殺した、と言いたいのだろう。


「何なのよ、そのなんとか流って。 本当アンタって、意味わからないわ」


「それはお互い様だろう。 もう深夜を過ぎている、そろそろ体を休めたらどうだ」


「ふん、アンタが寝た隙を狙って逃げ出してやるんだから」


少女は鋭い目付きでファリスをキッと睨み付けると、再び横になった。


「……言っておくけど、アタシはアンタの事なんか信用してないから。 昼間の件だって別に、助けてもらっただなんて思ってない」


「私が勝手にやった事だ、どう取ってもらっても構わない。 だが、私はお前を必ず安全なところにまで送り届けてやる。 それがお前を助けた、私の責任だ」


「余計なお世話よ、アタシは一人でも生きていける。 アンタみたいなバカをカモにすればお金にだって困らないしね」


「いいから、寝ていろ」


「い、言われなくてもそうするわよっ!」


少女の言葉は乱暴ではあるが、何処か不安が生じている事が伝わってくる。

無理もない、禁忌術者という理由だけで殺されそうになっているのだ。

周りが全て敵と見えてしまっても、仕方ない事だろう。

今までもこうして、何人もの禁忌術者が政府によって殺されてきたのだろうか。

そもそも魔法とは一体、何なのかすらファリスにはわからない。

大昔に消え去ったと言われた技術が、何故今もこうして残っている?

禁忌術者はどうして未だに、魔法を使うことが出来るのか?

それとも、今でも技術さえあれば魔法は誰にでも扱える力?

考えれば考える程、わからない。


すぅすぅ、と寝息が耳に入ってきた。

既に少女は深い眠りに入っているようだ。

何だかんだでファリスの事を信用しているのか、平然と背を向けて無防備な状態で眠っている。

確かにこんな少女が何もないところから雷を放った事は驚きだ。

しかし、どうしても政府が言うほど危険な存在には見えない。

赤眼の剣士が騎士団を斬った、恐らく明日辺りは西区で騒がれるだろう。

まだまだセティアシティでは調べなければならない事があったが、この街を離れる事が一番の得策だ。

自分の力だけで無事、セティアシティを脱出することが出来るのか?

ギルドの力を借りる事ができないかと考えたが、恐らく無理だろう。

明日になれば、ギルドはファリスの事を政府へ突きだそうとするはず。


いや、だがあの男なら―――と、ファリスは頭に交渉人「テル・シェイター」の顔を浮かべた。

何処か気色悪い男ではあるが、少なくともギルドに入った頃から色々と世話になっている。

だが、彼もまたギルドの関係者だ。

当然ギルドの事を優先するだろうし、この状況に陥ったファリスの助けになるとは限らない。

それでも、あの少女を助ける為なら……


「私の身に、構ってる場合ではないか」


無防備に眠っている少女を見守りながら、ファリスは呟いた。










翌日、日が昇り建物の中に朝日が差し込んでくる。

念の為警戒はしていたが、深夜に襲撃されるようなことはなかったようだ。

だが、このままでは捕まるのも時間の問題だろう。

そろそろ少女を起こしてここを離れた方がいい。

西区を出て南区にでも逃げられれば、隠れられる場所が多いはずだ。

まずは安全に少女を匿う場所を確保し、それからテルに連絡を取って協力を要請する。

最悪の場合、ギルドを敵に回す必要性も出てくるが……元より覚悟の上だ。


「呆れた、アンタ本当に何もしなかったのね」


気が付くと、少女が目を覚ましていたようだ。

相変わらずの鋭い目でファリスの事を睨み付けてくる。

だが、昨日までのようなとげとげしさは不思議と感じない。


「……テミリア」


少女は、ボソッと呟いた。

テミリア? 一体何の事だろうか。

セティアシティにはそのような地名もなかったはずだが、それとも魔法に関係する言葉?

ファリスが首を傾げると、少女は急に顔を真っ赤にさせた。


「な、何よ……私が名乗ってるのよっ! アンタも、名乗りなさいよ」


「……? すまない、私はファリス。 ファリス・レミニオンだ」


どうやらテミリアは少女の名だったようだ。

しかし、突然名乗る等と一体どういう風の吹き回しなのか。

ファリスは多少困惑しながら名乗った。


「ファリス、ね。 私はテミリア・プラッシェル、ちゃんと覚えなさいよ」


「ああ、わかった」


「……それと、昨日は、その……えーっと……」


テミリアは鼻を掻きながら上を向いて、必死で言葉を選んでいる。

何故か頬を赤くしながら、意図的にファリスから視線を逸らしていた。


「き、昨日のは訂正。 助けてくれた事はその、感謝する。 アンタ、そこまで悪い奴には見えないし……」


「また、私を騙そうとしているのか?」


「し、失礼ねっ! あ、アタシがせっかくアンタにお礼言っているのに何てこと言うのよバカッ!」


テミリアからキッと鋭い目付きで言い寄られると、ファリスは思わずたじたじとなってしまう。

信用してもらえた、と捕らえていいのだろうか。

昨日までは頑なにファリスの事を信用していなかったというのに。


「はぁ、もういいわ。 で、アンタこれからどうする気? アタシを助ける為とは言え、騎士団に手を出しちゃったんでしょ?

あいつらってアタシの事捕まえに来たわけだし、それに逆らったって事は、政府の奴らにケンカをうったようなもんよね?」


「西区に長居する事は危険だろう。 一度南区へ向かうぞ、森や洞窟に隠れれば騎士団の奴らもそう簡単に見つける事は出来まい。

それと、ギルドの人間に協力を要請する」


「バッカじゃないの。 ギルドの協力なんて、そんなの無理に決まってるじゃない」


「一応だが、信用できる奴がいる。 上手くいけばそいつに協力を得られるはずだ」


「政府に続いてギルドまで敵に回したら、アンタ本当に逃げ場を失うわよ。 それをわかってて言ってるの?」


「その時は、せめてお前だけでも逃がす事を約束する」


「止めなさいよ、そうなったらアタシだって逃げ場を完全に失うわ」


「だが、守ってみせる」


ファリスの口から、自然と守るという言葉が出て来ていた。

何故、ファリスはここまでして少女、テミリアを守ろうと思うのか?

禁忌術者であるというだけで殺されそうになっている彼女を、放っておくことはできない。

理不尽に命を奪い続ける政府に対しての怒り、なのだろうか。

ファリスは自分自身でも、明確な理由はわからなかった。

だが、守りたいという気持ちは確かなのは事実だ。


「一度南区へ移動したら、私は西区へと戻る。 それまではお前は南区で大人しくしていろ、ギルドとの話は私でつけてくる」


「まさか、私を一人にして置いていくつもり? 冗談じゃないわ、私も行くわよ」


「いいのか、お前が禁忌術者とわかればギルドが黙っていないぞ」


「どっちにしろ騎士団の連中に追われてんだから変わらないわよ、それとも何? アンタのさっきの『守ってみせる』、嘘だっていうの?」


テミリアはギロリとファリスを睨みながら、告げた。

何があったのかはわからないが、少なくとも今はテミリアから信頼されているのだろう。

そうでなければ、このような言葉が咄嗟に出るはずもない。


「わかった、ギルドへは二人で向かおう」


「決まりね、それじゃ急ぎましょ。 いつまでこんな場所に居座っていたくないし」


テミリアの言う通り、まずはギルドへ向かいテルと合流すべきだろうとファリスも考えた。

荷物を軽くまとめると、二人はナンバー4支部へと向かっていくのであった。


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