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父は建国王、母は不死鳥。俺は鍛冶師になって世界を鍛え直す  作者: 月神世一


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EP 6

「焼肉とトカゲと、空から降るジャージ」

ファルデンの街に戻った俺とビアラが真っ先に向かったのは、ネオンサインがギラギラと輝く巨大な遊技場――『ルナミスパーラー・ファルデン支店』だった。

「キュインキュイーン! ピーロロロー!!」

「っしゃあ! 確変突入や! トラックのおっちゃん、もっとガッツリ轢いたれや!!」

店内は、魔導スピーカーから流れる爆音と、銀色の玉が弾ける音で満ちていた。

そのパチンコ台の列のど真ん中。専用の椅子に器用に腰掛け、短い前足でハンドルを握りしめているずんぐりむっくりなジオ・リザードがいた。

足元には、信じられない量のドル箱(玉が入った箱)が山のように積まれている。

「……あいつ、時間操作チートで当たりを引き続けてやがるな」

「えっ? ちょっとヒエン君、あのトカゲ……パチンコ打ってるんだけど!? しかも『CR異世界転生トラックでドン!』のシマで一番出してるよ!?」

驚愕するビアラをよそに、俺は足早にロードの背後に近づき、その首に巻かれた手ぬぐいをガシッと掴んだ。

「ロード。いくらなんでも出しすぎだ。黒服の店員たちがトランシーバーでヒソヒソお前のこと話し始めてるぞ」

「おわっ!? ヒエンのにいちゃんか! いや待てや、今連チャン止まらんモードに入って……」

「出禁になる前に換金して逃げるぞ。タロキン奢ってくれるスポンサーも連れてきたからな」

「タロキン!? スポンサー!? っしゃ、すぐやめるわ!!」

オッサン・トカゲは素早い身のこなしで玉を流し、景品の換金所へと向かった。

それを見ていたビアラは、長い兎の耳をピーンと立てて俺の袖を引いた。

「ヒエン君……あのトカゲ、もしかして喋った?」

「あぁ。俺の相棒のロードだ。見た目はあんなだが、賢竜種……の、一種らしい」

「へ、へぇー。ルナミス帝国って面白い生き物がいるんだねぇ」

神話級の化け物(始祖竜)だと知ったらビアラもパニックになるだろうから、ここは適当に誤魔化しておく。

◆ ◆ ◆

その後、俺たち三人は街のメインストリートにある大衆焼肉店『タロウ・バイキング』――通称『タロキン』のボックス席に陣取っていた。

「じゅぅぅぅっ……はむっ、んん〜っ! やっぱこれだね! ロックバイソンの上カルビ最高!」

「にいちゃん、この『ポポロ村産・肉椎茸』も網に乗せたるで。タレは醤油草ベースが一番合うんや」

テーブルの上には、山のように積まれた肉の皿。

ビアラは目をキラキラさせながら肉を口に運び、ロードは器用にトングを使って肉を焼きながら、ジョッキになみなみと注がれた『イモッカ』を煽っている。

「お前ら、よくそんなに食えるな……」

「私たちは『闘気オド』を使うからね! 基礎代謝が普通の人の何十倍もあるの。食べないと動けないんだよー」

ビアラは言いながら、大盛りの米麦草ライスに肉をバウンドさせて掻き込んだ。

その細い体のどこにそれだけの肉が消えていくのか不思議だが、彼女の圧倒的な身体能力を支えるための燃料だと思えば納得できる。

「ワイは単に飯が美味いから食うとるだけやけどな! ガハハ! にいちゃんも食いなはれ!」

「俺は適度でいいよ。……で、ビアラ。本当に俺についてくる気か?」

網の上で肉をひっくり返しながら尋ねると、ビアラは真剣な顔で頷いた。

「うん。ヒエン君の鍛冶の腕は本物だよ。私の全力の闘気を流しても、あのトンファーはビクともしなかった。あんな武器を作れる人は、世界中探してもヒエン君だけだもん」

彼女は腰に提げた『真・雷光トンファー』を愛おしそうに撫でる。

「私ね、堅苦しいのは嫌いなの。サウナ行って、美味しいもの食べて、楽しく生きたいの。でも、自分の身は自分で守れる『力』も必要なんだ。ヒエン君が最高の武器を作ってくれるなら、私がヒエン君の『最高の矛』と『盾』になる。どうかな?」

月兎族の最強騎士が、ボディガードを志願してくれているのだ。

しかも道中の食費ルナキンやタロキンは彼女がパトロンとして稼いでくれるという。断る理由はない。

「……わかった。よろしく頼む、ビアラ」

「やったー! 決定! 店員さーん、追加で厚切り牛タン五人前と、食後に特大ルナキン・パフェお願いしまーす!」

こうして、俺とロードの男二人(?)旅に、大食らいの兎の少女が加わった。

◆ ◆ ◆

翌日の昼下がり。

俺たちはファルデンの街を離れ、さらに東へと向かう街道を歩いていた。

「ヒエン君、次はどんな街に行くの?」

「特に決めてない。色んな素材を見てみたいし、親父が作った国の歪み……というか、俺の鍛冶で直せるものがないか、適当に探しながら旅をするつもりだ」

「いいね、気楽な旅! あー、でもこの先はしばらくコンビニ(タローソン)もないから、ちょっと寂しいなぁ」

ビアラが背伸びをしながら言った、その時だった。

「……ん?」

「どないしたんや、にいちゃん?」

俺はピタリと足を止め、上空を見上げた。

雲一つない青空。そこから、何かが猛スピードで落下してきている。

「……隕石? いや、魔獣か?」

目を凝らすと、落下してくる『それ』は、ピンク色の布地……いや、初心者マークの刺繍が入ったピンクのジャージを着た、人間の女の子だった。

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!? しまったぁぁ! 画面に夢中になってたら足場踏み外しましたぁぁぁっ!!」

上空から、情けない悲鳴が響き渡る。

よく見ると、彼女の両手には四角い板……地球で言うところの『スマートフォン』が握りしめられている。空中で歩きスマホをしていて墜落したらしい。どんな状況だ。

「危ない! ヒエン君、下がって! 私が空中でキャッチする!」

「いや、俺がやる。ビアラの脚力で受け止めたら、あの子の体が衝撃で千切れる」

俺は即座に【神鍛冶】の炎を右手に灯し、足元の土と岩を蹴り上げた。

空中に浮かんだ岩石を一瞬で『巨大なスライム状のクッションマット』へと打ち直す。

ボムゥゥゥンッ!!

落下してきたジャージの少女は、俺が即席で作ったクッションに見事命中し、ボヨンと弾んで地面に転がった。

「い、痛たたたた……死ぬかと思いました……」

涙目で起き上がった少女は、金色の美しい髪に、背中には小さな『白い翼』を生やしていた。

天使族。しかも、ただの天使ではない。微弱だが、母さん(調停者)たちに近い『神気』を感じる。

「お前、大丈夫か? 空から落ちてくるなんて」

「あ、はい……ありがとうございます。下界の景色を写真に撮ってたら、つい雲の切れ間に足を滑らせて……って、ああああああっ!!」

少女は突然、この世の終わりのような悲鳴を上げた。

彼女の視線の先には、地面に激突し、画面がクモの巣状にバキバキに割れてしまった『スマートフォン』が落ちていた。

「わ、割れてる!? 私のエンジェルすまーとふぉんがぁぁっ!!」

「あー、打ち所が悪かったな」

「ど、どどどどうしよう! これ、ルチアナ先輩のクレジットカードと連携してるのに! 修理代出せって怒られますぅぅ! 委員長ヴァルキュリアにも『また歩きスマホですか!』って5時間は正座で説教されますぅぅ!」

ピンクのジャージを着た天使の少女は、割れたスマホを抱きしめてワンワンと大泣きし始めた。

俺とビアラ、そしてロードは、そのあまりにもポンコツすぎる姿に顔を見合わせた。

「……にいちゃん。ワイら、また厄介なモン拾うてしもうたんちゃうか?」

「……かもしれないな」

世界を鍛え直す旅。

どうやら次は、『神の道具スマホ』の修理から始めることになりそうだった。

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