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第一話:酒飲みの師匠と、出来損ないの弟子

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

――正直に言うと。

僕は、あの人のことが嫌いだった。

だってそうだろう?


昼間から酒を飲む。金が入ればすぐ消える。口を開けば女の話。

挙げ句の果てには、これだ。


「エディぃ! 酒が切れた! 買ってこい!」


工房の奥から響く濁った怒鳴り声に、僕は深く、深いため息をついた。


「……三十分前に買ってきたばかりですよ」

「それは『三十分前までのワシ』の話だ! 今のワシの喉は砂漠なんだよ!」


意味がわからない。

いや、理解したくもない。


机の上には、分解されたまま放置された魔術具の残骸。

床には無造作に転がる空瓶。

開け放たれた窓からは、湿った風と共に、隠しきれない酒臭さが部屋中に居座っている。

これが、国家最高権威「七賢人」の工房だなんて。

誰が信じるっていうんだ。


――エンビィー・ノワール。

「戦神具」の異名を持ち、一国を滅ぼす兵器すら構築する、王国最高峰の魔術技師。

そして。

僕にとっては、最悪で最強の師匠だ。


「ほら、さっさと行け。ついでに肉もだ。女もいればなお良し」

「無理ですよ。買い出しの予算、もう底を突いてます」

「根性が足りん。魔素の運用と同じだ、無いところから捻り出すのが技術だろうが」

「それは単なる横領か詐欺です」


はぁ、と重い腰を上げる。

結局、僕は買い出しに行くのだ。

断れないからじゃない。……いや、少しはあるけれど。

本当の理由は、この人が作業の手を止めると――ろくなことにならないからだ。


三十分後。

案の定、工房の空気は一変していた。


「……やっぱり」


部屋の中央。

巨大な魔術具が、奇怪な骨格を晒しながら組み上がっている。

いや、正確には。

暴力的に組み上げられてしまっている。


「おかえりエディ! 見ろ、この加速器! 最高にイカしてるだろ!」

「勝手に触らないでくださいって言いましたよね。構築のバランスが崩れる」

「手が勝手に動いたんだよ。魔術(数式)がワシを呼んでたんだ」


悪びれもしないその目は、けれど――獲物を狙う獣のように鋭かった。

酒で濁った顔をしているくせに、魔術具を前にすると、この男は「神」に近い何かに変貌する。


僕は買い物袋を置き、恐る恐る魔術具へ近づいた。

……一目で、背筋に冷たいものが走る。


「……ここ、ズレてます」

「ほう?」

「魔素の流動角がコンマ数ミリ甘い。第三回路と第五回路の接合部、干渉(ノイズ)が出てます」

「……続けろ」


僕は指先で空間をなぞり、不可視の構築を追う。


「このままだと、魔素の圧縮率が臨界点直前で不安定になります。出力を上げた瞬間、この回路は――暴れる」


工房に、短い沈黙が流れた。

そして。


「――いいな」


エンビィーは、凶悪に、満足げに笑った。


「いいぞエディ。実にいい。お前、その揺らぎが見えてるんだな」


ぐしゃぐしゃの白髪をかきあげ、僕の指摘した箇所を覗き込む。


「ほら見ろ。この僅かな歪み。並の魔術師どころか、七賢人連中だって気づきやしねえ」

「僕は、人より少し神経質なだけです」

「そうだ。お前は普通じゃない。魔術を『神秘』として拝むんじゃなく、『数式』として解体してる」


断言された。

……あまり、嬉しくない評価だ。


「直せるか?」

「直す前提なんですね」

「当たり前だ。壊すために作っとるわけじゃない。……まだ、な」


最後の一言が引っかかったが、僕は作業台から工具を手に取った。

銀の針。

細く、鋭いそれを、魔術回路の隙間に滑り込ませる。

ほんの少し。

魔素の流れの中にある、微かな「淀み」に触れる。


「……ここだ」


針をミリ単位で押し込む。

――チッ、という微かな金属音。

それだけで、狂いかけていた魔素の循環が、まるで精密機械のように整った。


「ほう……」


エンビィーが目を細める。


「今のは『遮断(インターセプト)』か。お前、いつの間にそんな手つきを」

「不安定な結節点に、物理的な負荷をかけて位相を変えただけです」

「それを『だけ』と言えるのは、世界でお前一人だよ」


彼は大きく息を吐き、椅子に深く沈み込んだ。


「やっぱりなぁ。お前、ワシより向いてるわ」


――また、それだ。


「やめてください。冗談に聞こえない」

「冗談じゃないから言ってるんだよ、バカ弟子」


エンビィーは、巨大な魔術具のフレームに無造作に手を置いた。


「ワシはな、壊す方が得意だ。より強く、より巨大に、より効率的に殺せるもんを作る」


フレームを軽く叩く。その音が、なぜか酷く寂しく響いた。


「だが、それだけだ。ワシの技術は、いつか行き詰まる」


視線が、真っ直ぐに僕を射抜く。


「お前は違う。不備を見つけ、直せる。別の形に組み替えられる。理屈ロジックで魔術を制御しようとしている」


その言葉は、酒臭い息と共に、僕の胸に重く突き刺さった。


「血塗られた兵器の先にある『未来』を作れるのは、お前だ。エディ」


……やめてくれ。

そんな、重たい期待。僕には背負いきれない。


「僕は――」


言いかけて、言葉を飲み込んだ。

何を言っても、この人は笑い飛ばす。それはわかっている。

だから僕は、逃げるように別の話題を口にした。


「酒、買ってきましたよ。エールと、安い蒸留酒」

「おお! でかした! これだ、これこそがワシの魔素だ!」


一瞬で顔が緩む。

本当に、この人は。

さっきまでの真剣な空気が嘘みたいに、いつもの「ロクデナシ」に戻る。


「よし、今日は飲むぞ! エディも付き合え! 祝い酒だ!」

「嫌です。まだ回路の調整が残ってますから」

「ワシも手伝ってやる!」

「あなたは飲むでしょう」

「当然だ! 飲みながらの方が演算が冴えるんだよ!」


威張って言うことじゃない。

でも、まあ。

……ほんの少しだけ、僕は口角を上げた。


こんな騒がしくて、酒臭い日常が、ずっと続くと思っていた。

いや、続けなければいけないと、思っていたんだ。

この時は、まだ。

【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

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「引き続き頑張ってください!」


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