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プロローグ 発芽する欠落

 その力は、望んで手に入るような高尚なものではない。思春期の不安定な精神が極限まで軋んだとき、あるいは人生を根底から覆すような惨劇に直面したとき――。脳の奥底に眠っていた「バグ」が、宿主の欠落を埋めるようにして不格好に発芽する。


 それが、『特異質スペシメン』。発芽した力には、必ず等価の代償ペナルティが伴う。熱を生む者は体温を奪われ、未来を視る者は過去の記憶を削り取られる。それは神からの贈り物などではなく、生存のための「歪な特化」に過ぎない。世間は、この呪いのような力を保持する者を、皮肉を込めてこう呼んだ。――『ギフトホルダー』と。


 この不条理を管理し、社会から隔離するために建設されたのが、海上人工都市、特区『アジール』だ。ここは、能力者たちが自分たちの毒で溺れないための檻であり、非能力者ノーマルが安寧を守るための防波堤でもある。


 だが、全ての「発芽」が成功するわけではない。力の暴走に肉体が耐えきれなかった者、あるいは代償によって精神が崩壊し、人としての形を失った成れの果て。彼らは社会から忌み嫌われ、『エラー』という蔑称で切り捨てられる。アジールの路地裏には、そんなエラーたちの音もなき悲鳴が絶えず満ちている。


 しかし、力の行使に理由が必要なように、犯罪にもまた理由がある。真実が能力という名の霧に隠されるこの街で、ある男は色彩を差し出すことで、他人の嘘を「色」として視認する権利を得た。


 これは、欠落を抱えた者たちが、さらに深い闇へと踏み込む物語である。

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