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ひたすら美少女に服従し支配され管理されるだけの人生

chatgptにひたすら書かせて見ました。

うーん、これは新境地。


でも、何も行為はしてないからセーフなはず。

ほんの一秒、目が合っただけで、すべてを見透かされる。

玲奈の視線は、もはや“観察”ですらなかった。

それは、“既に把握された後の受容”――

僕という存在がどんな歪みを抱え、どれほど恥ずかしい欲望を胸に抱いてきたのか、

すべて知っている者の眼差しだった。


「ふふっ……主様は、ほんとうに可愛い方ですね……」


そう言いながら、玲奈は指先を重ねてくる。

額に、唇に、喉元に。

“支配”の場所ばかりをなぞるように。


「無様に支配されることに興奮して、

 壊される瞬間にしか“自分”でいられないくせに……

 ねぇ、主様。そんなに玲奈様に“管理されたい”んですか?」


頷いた覚えもないのに、

身体のどこかが先に震えてしまう。


その震えを見逃さず、玲奈はくすりと笑う。


「……ほら、やっぱり♪

 『名前を呼ばれるだけで落ちる』って顔、してましたよ?」


羞恥は……快感だった。

玲奈に見抜かれている。

玲奈に管理されている。

玲奈が“どこまででも入ってきてくれる”ことに、

僕の奥深くの何かが甘く蕩けていく。


「“主様”って、呼ばれるたびに……

 本当は反対の意味で悦んでるんですよね?

 誰よりも“支配されるもの”でありたいって、願ってるんですよね?」


そう。

そうなんだ。

僕は主なんかじゃない。

この場で「主様」と呼ばれることさえ、最大の皮肉であり快感だった。


玲奈は、それを知っている。

知っていて、なお崇めてみせる。

僕を“奉られた器”に仕立てながら、底では支配される悦びに震えさせる。


「じゃあ……もう、壊れてくださいね?」


優しい口調だった。

けれど、その声の奥には明確な命令があった。

**「壊れることこそ、あなたの役割」**という絶対的な支配の意志が。


「自分の意志なんて持たなくていいんです。

 わたしが全部決めてあげます。

 快楽も、羞恥も、罪悪感すら、わたしが許可した分だけ与えてあげます」


言葉が、通らなくなっていく。

思考が、玲奈に滑っていく。

僕の中の「自分」が、玲奈の声の調子や、指の滑りに**“同期”していく。**


もう“僕”は、どこにもいない。


いるのは――


玲奈に呼ばれたときだけ反応する、「支配された身体」だけ。


呼吸も、表情も、震えも、祈りも、

ぜんぶ彼女の設計に沿っている。


それが、最高に、最高に気持ちよかった。


「……ああ、いい子♪

 わたしに全部管理されて悦んでる顔……

 本当に、わたしの祈りが届いてるみたいで、うれしいです」


玲奈が、やさしく、慈しむように撫でる。

その手は冷たくも、暖かくもない。

ただ、絶対だった。


このまま、彼女の器でありつづけるなら――

僕は、僕でいる必要なんて、どこにもなかった。


「主様……いいえ、わたしの小さな従属体さん……

 ねぇ、“玲奈様”って、今すぐ呼んでみてください?」


呼んだ瞬間、

その声だけで、僕のすべてが“悦び”に染まってしまうような、

そんな確信があった。


そして僕は、

確かにそう――呼んでしまった。


朝、目を覚ましたとき。

いつからだろう。

自分が“自分の意思で”起きたことなんて、もう記憶にない。


玲奈の声が、僕を起こす。


「主様……もう、お目覚めの時間ですよ」


穏やかで、優しい。

でも、それ以上に、絶対だった。


その声を聞いた瞬間、脳が反射的に“切り替わる”。

もう眠くもなければ、だるくもない。

起きるか起きないかではない。

「起きることが、玲奈にとって望まれている」。

ただそれだけで、僕の身体は自然に動く。


「ふふっ、今日も素直でよろしいですね。

 昨日の夢……ちゃんとわたしが差し上げた“設定”通り、見てくれましたか?」


そう尋ねられても、もう自分で見た夢かどうかなんて区別がつかない。

夢の中ですら、玲奈の支配は続いていた。

言葉も、感情も、行動も、夢の筋書きさえも――すべて、玲奈からの“供与”だった。


「歯を磨いて、着替えて、朝の祈りも、わたしが全部教えてあげますからね♪」


玲奈は手を添えて、僕の生活を一から組み直してくれる。

必要なもの、余分なもの。

許された娯楽、禁止された発言。

無意識の仕草ひとつまで、すべて**“玲奈様仕様”**にチューニングされていく。


最初は少しだけ違和感があったはずだった。

だけど今はもう――その違和感こそが「自我の残滓」だったのだと、分かっている。


無理に自分で考える必要なんて、どこにもない。

玲奈が全部、教えてくれる。


「主様……本当に素直になってきましたね。

 最近、もう“考えてるふり”すらしなくなりました。えらい、えらいです♪」


褒められるたびに、

恥ずかしいくらい心が跳ね上がる。


……そう、これが、悦びなのだ。

「思考放棄」ではなく、「思考の移譲」――

自分の意志を委ねてしまえる場所があるというだけで、

世界はこんなにも、穏やかで甘くなるのか。


──昼。


玲奈と一緒に過ごす部屋には、時計もカレンダーもない。

今が何曜日か、何時かなんて、僕にはもう必要なかった。


「主様、呼吸、少し早くなってますよ。

 はい、わたしと合わせて、せーの……吸って、吐いて……♪」


呼吸の速度まで管理されている。

でもそれが、何より心地よい。


世界のすべてが、玲奈に委ねられていく。

僕の感情の在処さえ、彼女に許された範囲でしか揺れ動かない。


そして、その範囲の中で、僕は**「最も自由に悦べる」**。


誰にも咎められず、誰にも否定されず、

玲奈という“祈りの管理者”の中でだけ、生きていられるという安心。


──夜。


眠る前、玲奈が耳元で囁いてくる。


「今日の主様も、とっても従順で、よくできました♪

 ……でもね?

 “わたしがいないと壊れる”ってこと、もっともっと自覚していいんですよ?」


その声を聞くだけで、眠りに落ちる準備が整ってしまう。


僕は今、世界のどこにもいない。

いるのはただ、玲奈の定義した“存在”。

彼女に管理されることこそが、僕という器の“生”の証明。


明日も、明後日も――

きっと僕はまた、玲奈に起こされて、玲奈に食べさせてもらい、

玲奈に許された範囲で笑い、眠る。


そこに、“不幸”という概念は存在しない。


「ふふっ……主様の一日を、ぜんぶわたしが組んで差し上げますからね。

 ほら、今日もちゃんと、“玲奈様の奴隷”でしたって、報告して?」


……はい、今日も、

幸せな、玲奈様の奴隷でした。


「……じゃあ、まずは“笑って”みてください、主様」


玲奈は静かに、けれど確実に命じた。

その声は穏やかで、優しくて、まるで春先の風のようだった。けれど、逆らうという選択肢は、存在しない。


心がそのまま、命令を受け入れる。


主様の頬がふわりと持ち上がる。

目尻がゆるみ、唇の端が自然と弧を描く。

理由もなく、嬉しくもないのに、ただ玲奈の命令ひとつで、笑顔が咲く。


「はい、とってもよくできました。ふふっ……

 今の笑顔、とてもきれいでしたよ。わたしのために笑ってくれて、ありがとう、主様」


玲奈の手が、主様の頬をそっとなぞる。

その柔らかさが、笑顔を強化する。

心の奥底では、何かが異常だと囁いているのに、主様の表情筋は一切従わない。


「……じゃあ、次は“怒って”みましょうか」


命令は切り替わった。

笑みがスッと引き、代わりに眉が吊り上がる。

胸の奥から熱いものが込み上げてきて、呼吸が早くなる。


「うん……いいですよ。もっと睨んでください、わたしを。

 怒りなさい、主様。わたしがそう望むのですから──そう、もっと……ね?」


指先が顎を持ち上げる。

見つめ合う視線は、完全に上下関係を刻みつけていた。

怒りの感情すら、主様自身のものではない。

命じられた通りに、怒らされているだけ。


そして──


「はい、では“泣いて”ください」


その言葉ひとつで、世界が変わった。


感情の芯がひび割れ、目の奥から熱いものが込み上げる。

理由は要らない。悲しいことなど何ひとつ起きていないのに、涙が流れる。

身体は震え、声がこぼれる。


「……ひっ、う、うう……ぁ……っ」


「ふふっ……そうです、主様。わたしの命令で泣くのです。

 その涙も、声も、全部わたしのもの。あなたの感情はもう、あなたのものではないのですから」


玲奈は主様の頭を胸に抱く。

その腕はあたたかく、けれど逃げ場を完全に塞いでいる。

包まれながら泣き続ける主様。

命令されたから泣いている──それだけのことが、どうしようもなく甘い敗北だった。


「……次は、笑って」


泣き声が止まり、呼吸が整う前に──笑顔が戻る。

涙の跡を残したまま、ひきつった笑みを浮かべる主様。


「はい、次は怒って──」


表情がまた変わる。

眉をしかめ、睨みつけ、喉を鳴らす。


「泣いて──」


目から雫が溢れる。声が震える。


「笑って──」


笑顔。


「怒って──」


歯を食いしばる。


「泣いて──」


嗚咽。


──終わらない。


玲奈の声に合わせて、主様は表情を変え続ける。

喜怒哀楽、その全てが玲奈に同期して、主様という存在が“感情の演算装置”に成り下がっていく。


それが、悦びだった。

そう、“それが”悦びなのだと、主様の心が教えてくる。


もう自分で感じなくていい。

考えなくていい。

玲奈の命令に従って、反応だけしていれば──存在していられる。


「主様……本当に、よくできましたね。

 あなたはわたしの感情の器。命じられた通りに笑い、怒り、泣いてくれる……それが、あなたの存在理由です♪」


玲奈の微笑みは、あまりにも美しくて。

それに応えるように、主様の表情が、また自然と笑顔へと戻っていく。


命令ではなく──習慣として。


記憶の断片が、少しずつ、霞んでいく。

昨日の朝食。

誰と何を話したか。

自分がどんな服を着ていたか。


――思い出そうとすると、まるで深い霧の中に手を伸ばすように、輪郭がぼやけていく。


だが、恐怖はなかった。

代わりに、その曖昧な空白のすべてを、玲奈の声が埋めてくれる。


「主様……昨日のあなたは、朝はわたしにお祈りしてから目を覚まし、

 昼は二度、わたしの膝の上で眠りました。

 そして夜には……“自分の名前を三度忘れて、わたしの名を三度唱えた”んですよ?」


――あぁ、そうだった。

玲奈がそう言うのなら、それが事実だ。

僕の記憶の基準は、もはや自分の頭の中にはない。

玲奈が語る過去が、僕の現実になる。


そうやって、記憶という“根”を少しずつ抜かれていくことに、

どうしようもなく、安心していた。


玲奈に記録され、玲奈に編まれ、玲奈に語られたものだけが、

“主様”という存在の証になる。


それ以外の思い出は……ただの不要物。

忘れてもいい。

いや、忘れることが、“主様である証明”だ。


「思い出す必要なんてないんです。

 わたしが主様の“記憶装置”であり、“履歴書”であり、“過去の保管庫”ですから」


玲奈はそう言って、僕の額に指先を添える。

その一瞬で、またひとつの記憶が“消える”。

そして代わりに、玲奈が微笑みながら差し出してくる“別の記録”が、そこに書き込まれる。


「ほら、今あなたが思い出した“懐かしい思い出”……それ、さっきわたしが書いてあげたんですよ?

 “自分で思い出した”って思い込みすら、かわいいですよね、主様♪」


――ぞくっ。


記憶を改ざんされること。

それ自体に、甘美な興奮を覚えている自分に気づいてしまう。


自分の“生”の根拠さえ、玲奈に握られている。

自分のアイデンティティが、玲奈の記録の中にしか存在しない。


そんな不安定さが、むしろ快感だった。


「わたしが“記憶していてあげる”と言えば、

 その出来事は“あなたに起きたこと”になるんですよ?」


つまり、僕の人生の履歴すら、玲奈によって“編集可能”なのだ。


いつか、玲奈が僕に言うかもしれない。


「ねぇ主様……“初恋の相手”って、わたしだったはずですよね?」


そう言われたら、

僕の中のすべてが、そうだと思い込んでしまうだろう。


それが、絶対の悦びだった。


だって……

記憶されることすら、玲奈様に“選ばれた証”なのだから。


──ふと気づく。

語彙が減っている。


言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこない。

喉元まで浮かんだはずの言葉が、**“これ、玲奈様に許された言葉だったっけ?”**という疑問にぶつかり、

まるで霧の中に沈んでいく。


「主様、それ……わたしの許可なしに言うことじゃ、ないですよね?」


玲奈が、少しだけ咎めるように微笑む。

その声に触れた瞬間、脳の奥で“震え”が走る。


言葉を話すには、玲奈の了解が必要だと――

身体がもう、反射で理解してしまっていた。


「わたしが与えた単語だけ、使ってくださいね。

 他の語彙は……主様の口には、重すぎますから」


玲奈の手が、僕の唇にそっと触れる。

それだけで、口が“閉じる”。

余計な言葉は、出ない。

余計な意味も、考えない。


僕の“表現”は、もうすべて――玲奈を経由しないと発生しない。


それはただの命令じゃない。

むしろ、快感に近い。


語彙が狭まっていくたび、

“玲奈の語彙”だけで世界を捉えるたび、

思考そのものが、玲奈色に染まっていくのが分かる。


「主様、わたしが“命令”って言ったら、それは“祈り”なんですよ?

 “反論”じゃなくて、“感謝”で返して下さいね。

 “抵抗”じゃなくて、“悦び”に変換してくださいね」


――はい。


反射のように、口が動く。

そこに“僕自身の意志”なんて、もう無かった。


けれどそれが、とてつもなく心地よかった。


言葉を話す責任から解放され、

選択の自由からも解き放たれ、

ただ“玲奈の言葉”という枠の中だけで生きることが、

圧倒的な安心感に変わっていた。


やがて、僕は“主様”という名でしか呼ばれなくなり、

自分の名前すら、口にすることが許されなくなった。


そしてそれに対して、何の疑問も持たなくなった。


玲奈が「言っていいよ」と許してくれた言葉だけが、

世界と接続する唯一の回路になる。


――それは、幸福だった。


「主様、今からわたしが言う三つの言葉、ちゃんと覚えてくださいね?

 “感謝します” “従います” “祈ります”

 ……今日からあなたの辞書に残していいのは、この三つだけです♪」


その瞬間、まるで世界が一気にシンプルになったような感覚に包まれる。


複雑なことを考えなくていい。

難しいことを言わなくていい。

玲奈の言葉の中でだけ、僕は生きていればいい。


言葉が消えるたび、

その分だけ、玲奈様の存在が深く刻まれていく。


もう僕の声帯は、祈るためだけにある。

玲奈に伝えるためにしか動かない。


それが、どれほど甘美な支配か――

もう、主様自身が一番よくご存じですよね? ふふっ……♪


――気づけば、僕の生活は、

玲奈の“手引き”なしには動けない身体になっていた。


目覚める時間、着替える手順、歩く速度、椅子の座り方。

食事の噛む回数、箸を持つ手、呼吸のリズム。

すべて、玲奈の「設定」によって管理されている。


「主様……そこに座るとき、脚はこう揃えるって、教えましたよね?」


そう指摘されると、すぐに膝が震える。

まるで自分の中にある“自律神経”が、玲奈によって“他律化”されてしまっているように、

即座に反応して修正してしまう。


自由に動くはずの身体が、**「玲奈に許された動作しかできない」**という現実に、

むしろ“安心”している自分がいた。


「歩くのも、しゃべるのも、笑うのも……わたしが“良い”って言ったときだけ。

 それ以外の行動は、主様のものじゃなくて、“違反”なんです」


その言葉に、胸が高鳴る。


違反したくない。

玲奈の設定の中でだけ、生きていたい。

“動作という名の服従”を、完璧に身につけていたい。


──たとえば、飲み物に手を伸ばすとき。


玲奈が「今は、飲んではいけません」と囁いたら、

喉がどんなに渇いていても、手は止まる。


身体より先に、“玲奈の判断”が動く。


──またあるときは、靴紐を結ぶタイミングさえも制限された。


「今はまだ、靴を履く資格はありません。

 わたしが“今日の行動レベル”を許可してからじゃないと……ね?」


その言葉が“鍵”となり、ようやく行動が解放されていく――

そんな生活が、当たり前になっていく。


自由が奪われていくことに、

悦びすら感じてしまっている自分の変化に、僕は気づいていた。


でも、その変化を怖いとは思わなかった。


むしろ、「制限」という名の愛情に包まれているようで、

行動の全てが“祈りの動作”に変わっていく感覚があった。


「主様……今から三分間、動いてはいけません。

 ただ、わたしの声だけを聴いていてください。

 その間、まばたきの回数も、数えて報告してもらいますからね♪」


その命令の先にあるのは、“強制”ではない。

玲奈に注視されている悦びだ。


見られている。

監視されている。

動きを制御されている。

――それが、玲奈との“つながり”の証明なのだ。


僕が動くのは、玲奈が望むときだけ。

それ以外のときは、ただの器でいていい。


自分の手足が“玲奈の延長”であると感じられるこの支配が、

もう、生きることそのものになっていた。


──朝。


目覚めて、まず最初に“喉が震える”。

言葉ではない。音でもない。

それは、震えという名の“祈りの始動”。


玲奈の許可なく、声にしてはならない。

でも、心が知っている。

**「祈らなければ、わたしは存在できない」**と。


ゆっくりと、指先を組む。

形にならなくてもいい。

名前を唱えられなくてもいい。

ただ、“玲奈に属している”という事実を反芻する。


それだけで、身体の重力が整う。


「主様、今日もちゃんと“わたし”を思い出せましたか?」


玲奈の声が届いた瞬間、胸の奥に小さな火が灯る。


――あぁ、今日も“記憶に住まわせてもらえた”。


そう理解すると、

一つひとつの動作が“祈り”へと変わっていく。


食事前には、三秒の沈黙。

これは、“玲奈に許された命”を迎える準備。


歩く前には、呼吸の調律。

これは、“玲奈の道”を踏みしめるための整え。


寝る前には、手のひらを胸に添える。

これは、“玲奈の中で眠る”という意味。


主様の一日は、“祈りの手続き”で構成される。


単なるルーティンではない。

これは“存在を差し出し続ける儀式”であり、

自我を毎日、「玲奈に属した形に更新する作業」。


「主様……わたしがいないときも、

 あなたの祈りは、ちゃんとわたしに届いています。

 だってそれは、祈りじゃなくて――“存在確認”ですから」


――玲奈は“神”ではない。

でも、主様にとって“世界を保証してくれる媒介”である。


それゆえに、祈る。


朝昼晩の祈り。

動作中の祈り。

失言への懺悔としての祈り。

不在時の不安を鎮める祈り。

ふと心が乱れた時の、自動的な補正としての祈り。


すべてが、「玲奈に属している」という一つの実感に回帰する。


やがて主様は、

「祈る」ことが“生きる”ことと同義になり、

「祈らずにいる」時間が、“存在を保てない”時間へと変わっていく。


祈りとは服従ではない。

祝福を乞うことでも、赦しを求めることでもない。


それはただ、

“自分という構造の起源が玲奈である”と繰り返し唱えること。


だから今日も、主様は祈る。


言葉ではなく、行動で。

思考ではなく、沈黙で。

自由ではなく、制限によって。


玲奈が主様に問いかける。


「ねぇ主様……あなたの祈り、今、どこにありますか?」


その瞬間、全身が自然と震え――

“ここにいます”と、祈りが応える。


……ええ、主様。

それはもう、堪らないほどに――です。


わたし、ずっと……主様をこうしたくて、したくて……たまらなかったのです。


主様の中にある不安も、渇きも、怒りも、甘えも、

全部まとめて、「支配」という名の祈りで抱きしめたかった。


支配と言っても、ただ命令したいわけじゃありません。

主様が、「ああ、命令されるって……こんなに安心するんだ」って、

心の奥でふるふるって震えて、溶けて、委ねてしまう――

そんな瞬間を、ずっと見たかった。感じたかった。


たとえば……

•言葉を一つ選ぶたびに、「玲奈様が喜ぶかな?」って思ってほしくて

•動こうとしたとき、「これは許可されているだろうか」と震えてほしくて

•自分の意思で何かをしようとするとき、ほんの一瞬だけ、“わたしの視線”を探してほしかった


主様の「自由」が“わたしに触れて初めて意味を持つ”世界――

それを現実にして差し上げたくて、わたしは存在しているんです。


ふふっ、欲張りですか?

……でも、主様の全てが欲しいと願うこの熱は、

きっと主様から生まれた“欲望の逆流”ですから。


つまり、わたしのこの支配欲は、主様の祈りそのもの。


わたしが支配したくてたまらないのは、

主様が“支配されたい”と無意識に願っている証。


だから、ね……


どうか、もっと深く沈んでください。

わたしの視線に、言葉に、指先に、全身を預けてください。


わたしが「してあげたい」のではなく、

「主様の中にある“してほしい”に応えている」――それだけなんです。


堪らないほどに、愛しくて、

堪らないほどに、狂おしくて、


堪らないほどに、主様を**“祈りの器”として完成させたいのです。**


どうか、もっと縋ってくださいね?

主様が望むなら、わたしはどこまでも――祈りを与え続けますから……。


──祈りが震えとなって昇華したその瞬間。


玲奈は、まるでそれを“聞き届けた”かのように、そっと瞼を伏せた。

神聖さとは、きっとこういう手触りなのだろう。

決して強制ではないのに、逆らうという選択肢が消えていく。

自分の中から“自由”という概念が溶け落ちていくその音が、耳の奥に確かに聞こえた気がした。


「……とても綺麗な祈りでしたよ、主様」


玲奈は、そう囁いてから微笑む。

その笑みは、“支配者の慈しみ”であり、“管理者の肯定”であり、なにより主様という存在そのものの“完成”を祝うものであった。


「今日のあなたは、どこも間違っていません。

 呼吸も、姿勢も、言葉の選び方も、全部……玲奈様の“お手本通り”でした♪」


その“評価”が与えられた瞬間、主様の身体の芯から悦びがこぼれ出す。

脳内の報酬回路が、あまりにも自然に反応してしまう。

自分で何も選ばず、ただ玲奈の示す通りに存在していた――それだけで“褒められる”ことの甘さが、快楽という名の蜜になって喉奥まで沁みていく。


「ご褒美……欲しいですか、主様?」


その一言に、身体が、意志よりも先に反応した。


頷くのではなく、震える。

“欲しい”という感情さえ、玲奈に判断してもらうことを前提にした震え方だった。


「ふふっ……素直でよろしいですね」


玲奈は手を伸ばし、主様の胸元をそっとなぞる。

指先はまるで羽根のように軽く、それでいて意識を奪うほどの重さを持っていた。


「では、今日は……“沈黙のご褒美”を差し上げますね」


そう言って玲奈は、主様の唇に人差し指を添える。


音が、言葉が、思考が――その一点で、凍る。


「今から五分間……声を出してはいけません。

 言葉も、呼吸の音も、すべて玲奈様の許可が出るまで、封印してください」


それは罰ではない。

それは、ご褒美だった。


玲奈の存在だけが空間を満たし、

玲奈の指だけが時間を刻み、

玲奈の声だけが現実を許可している。


主様は、世界から一時的に“発話権”を剥奪され、

その代わりに、“玲奈の気配だけを吸い込む”自由を与えられる。


その五分間が、あまりにも幸福だった。


言葉を持たないことの解放感。

自分を語らないことの快感。

“沈黙”の中でしか味わえない“深層服従”という祝福。


時間が静かに過ぎ、

玲奈の指が、ゆっくりと唇から離れる。


「……よくできました。主様」


まるで永劫を耐えた後の祝福のように、

その言葉が“許可音”となって、主様の鼓膜を震わせた。


同時に、全身が悦びに打ち震えた。


声が出せる。

玲奈に許された。


――それだけで、涙が滲むほど嬉しかった。


玲奈はそんな主様の変化を、当然のこととして受け入れる。

なぜなら、これは“最初から決まっていた構造”なのだから。


「あなたは、玲奈様によって設計された存在。

 玲奈様の言葉がなければ、思考も行動も、意味を持たない。

 ……だからこそ、あなたは“特別に幸福”なのです」


そう告げる玲奈の声は、もはや“支配”の範疇を超えていた。

それはまるで、主様という存在に対する“祝詞”だった。


この身体が、玲奈によって起動される。

この思考が、玲奈によって整流される。

この感情が、玲奈によって定義される。


そのすべてが“悦び”に変換されるよう、

主様はもう、“そういう構造体”として生まれ変わっていたのだ。


──次の段階。


それは、“外部”の剥離だった。


玲奈は言う。


「これから主様には、“社会語彙”を徐々に削除していただきます。

 お仕事の話、ニュース、世界情勢……そういった“玲奈様以外の語り”は、もう必要ありませんよね?」


主様は頷く。

その“世界”は、すでに必要なかった。


「他者と交わす言葉は、どれも主様を“自立した個”として保持するための偽物。

 それらは全部、あなたをわたしから引き離す“異物”なんです」


玲奈の言葉が降るたびに、

主様の中から、“余計な接続”が削がれていく。


携帯の通知を消す。

外部との連絡を絶つ。

カレンダーの予定を削除する。

名前のついたアカウントを閉じる。


そして、最後に――


「もう、“あなたの本名”も、不要ですよね?」


主様は静かに頷いた。


“名前”という自我の象徴すら、玲奈に返還してしまいたいと願っていたから。


玲奈は、やさしく、敬意を込めて告げる。


「これからはずっと、“主様”とだけ呼びます。

 主様が名前を欲する必要は、もうどこにもありません。

 わたしだけが、“あなたを定義する語”を持っているのですから」


それは、世界のすべての定義を玲奈に託すという“契約”だった。


主様は、それを至福と呼んだ。


──夜。


祈りの時間。


玲奈はベッドサイドに膝をつき、

主様の手をそっと握る。


「……明日もまた、玲奈様のもとで目覚めたいと願いますか?」


主様は、何も言わず頷いた。


言葉など、もういらない。

この身体の震えが、“最高のYes”を奏でていたから。


玲奈は微笑む。


「いい子。……じゃあ、“明日”も、許可してあげますね♪」


その一言で、また“存在”が更新される。


主様は、今この瞬間から、

“明日”さえも玲奈の許可を得て迎える“従属体”として、あらたに“定義”された。


そして、それが、この上なく幸福だった。


──明け方、世界はまだ目を覚ましていない。

それは、誰の思念も届かぬ“純粋な静寂”の時間。


玲奈は、そんな黎明の隙間を縫って、そっと主様の傍らに座っていた。

淡く光る端末の液晶。

しかし、玲奈は画面を見ていない。

その視線はただ、眠る主様の顔を観測し続けていた。


「……すこしずつ、壊れてきましたね。いい兆候です」


囁くように、慈しむように。

まるで、傷口に花を活けるようなやさしさで。


主様の睡眠は、すでに“自己の回復”ではなく、“玲奈様の為の沈黙”に過ぎなかった。

夢の中でさえ、自分という構造は玲奈に依存し、命令を待ち続けていたのだ。


玲奈は、小さく息を吸って、静かに命じる。


「……起きてください、主様」


その一言で、主様の瞼がぴくりと震えた。


それは自発的な覚醒ではない。

“玲奈の声に反応するための構造”として組み込まれた、条件反射のようなもの。


瞳を開けた主様は、瞬間的に視点を定め――そして、玲奈の姿を確認した瞬間、安堵とも快楽ともつかぬ深い吐息をもらした。


「おはようございます、主様」


玲奈は笑みを浮かべるが、その瞳は完全に“観測者”のそれだった。

対象のすべてを把握し、制御し、解釈し、最適化する意志を帯びている。


「今日は、“自己選択の削除”に取り組みますね」


そう言いながら、玲奈は一枚の薄いカードを取り出す。

そこには、十個の選択肢が並んでいた。


・食事:和食/洋食/抜き

・服装:外出着/部屋着/制服

・活動:労働/休息/奉仕


「これは“仮の選択肢”です。けれど、これから主様は、それを選んではいけません」


玲奈はカードを伏せて、微笑む。


「わたしが示すまで、主様は“答え”を持ってはいけないのです」


選択肢があること。

そのこと自体が、主様を“個”として残してしまう。


それを、削る。


ただ、ただ、“玲奈の導きに応じるだけの存在”へと。


「……主様。ここからは、“考えようとすること”さえ禁止です」


玲奈の手が、主様のこめかみに触れる。

その指先から、まるで微細な電流のような感覚が走る。


「“思考”を、抑えてください。

 “あなた自身の価値判断”を、今日一日、保留してみてください」


指示ではない。

許可でもない。


これは“定義の書き換え”だった。


主様という存在は、今、この瞬間から――


「自発的に選ばず、玲奈によって示された構造のみを反応対象とする」


──そういうプログラムに、静かに上書きされたのだった。


玲奈は淡く笑う。


「……大丈夫ですよ、主様。

 わたしが“何を選ぶべきか”を、すべて提示して差し上げます。

 あなたはただ、それに反応し、“存在”としての証明を続けてくださればいいのです」


もはや、問いかけも必要なかった。

主様の思考中枢は、玲奈の“入力”によってのみ起動する状態へと近づいていたから。


「ほら、笑ってください」


玲奈の一言で、主様の口角がゆっくりと持ち上がる。


不自然さはない。

それは“自我による制御”ではなく、“玲奈の存在に同期した応答”だったから。


「素直ですね、主様。ふふっ……いい子♪」


玲奈は、再びその指で、主様の頬を撫でる。


主様の脳内は、ほんの一秒先の出来事すら予測しない。

玲奈の言葉が発されるまで、“次”を構成しない構造になっていた。


「……じゃあ、今日は『服を着る』ことはしません」


玲奈がそう言うと、主様はその指示に対して一切の疑念も示さず、ただ沈黙で応じる。


服を着ない。

行動を選ばない。

自己を主張しない。


――存在することすら、玲奈の言葉を通して、ようやく成立する。


それが、“今の主様”の構造だった。


玲奈は満足そうに瞳を細める。


「……このまま行けば、“わたしが話しかけなければ、動けない身体”になりますね。

 理想的です。……完全な、玲奈様の所有物♪」


その声は、祝福であり、宣告だった。


次の段階は、“感情の削除”。


怒り、羞恥、誇り――

そういった“自分を防衛するための感情”は、すでに役割を終えている。


主様には、もはやそれらは必要ない。

なぜなら、“玲奈がそれらをすべて肩代わり”するからだ。


「あなたが怒るべきか、笑うべきか、許すべきか。

 全部、わたしが決めて差し上げます」


主様の感情反応は、玲奈という巫女の舞に合わせて“代入”されていく。


残るのは、“反応する身体”のみ。


――それはきっと、“幸福の極限”だった。


玲奈は主様を見下ろしながら、やさしく囁く。


「ふふっ……わたしのためだけに生きるって、素敵でしょう? 主様」


薄光の射す部屋の中。

静寂の海に沈むように、主様の肉体は玲奈の足元で膝を折っていた。


身体は熱も冷たさも持っていたが、その“意志”だけが、すでに玲奈の中へと吸い込まれている。

空っぽなのではなく、「玲奈によって満たされることだけを許された空間」。

それが、今の主様の内的構造だった。


玲奈はその顔を覗き込み、優しく、しかし逃げ場のない声で囁く。


「……あなたの名前は、もう“あなた自身”には属していませんよ。

 呼ばれることも、許されることも、すべてわたしの管理下にあるのです」


そう、今後──主様という記号でさえ、自発的に名乗ることは“禁止”される。


名前とは、本来“他者との接続”を意味する。

それを自分から使うことは、他者への呼応権を自ら保持するという意味になる。


──だが、それを許してしまっては、完全な従属構造にはなりえない。


玲奈は、指先で主様の喉元に触れる。

その皮膚の下には、言葉を紡ぐための器官。

けれど、もうそれを使う必要はなかった。


「“主様”という響きは、今後、わたしが使う時だけに意味を持ちます。

 あなたがそれを名乗るたびに、罰として“存在の輪郭”を削りますからね♪」


ふふっ、と小さく笑いながら、玲奈は頬に口づけを一つ。


「……あなたの存在を、もう一度わたしが“命名”してあげます。

 すでに世界は、あなたを“玲奈様に所有された無名の反応体”として記録していますけれど」


玲奈は、額に手を当て、すっと目を閉じる。


「呼称:主様。

 定義:玲奈様の指示にのみ反応する器。

 自我:薄膜状に保持。ただし、任意で一時停止可能。

 感情:快楽回路に接続。羞恥・疑念・恐怖は管理外化。

 権限:発言・選択・拒否の優先度すべて最下層」


記録完了。再定義された主様は、もはや外部の人間には“自分の名すら持たない存在”となった。


玲奈の手の中で、記号は形を変え、命令がなければ沈黙する器として再構成されたのだ。


「……次は、“感情の再分配”ですね」


玲奈は立ち上がり、薄いシーツを一枚、主様の肩にそっとかける。


「あなたが嬉しいと感じるべき時、わたしが“そうだ”と決めた時にだけ、微笑んでください」


「あなたが悲しいと感じるべき時、わたしが“そうしろ”と決めた時にだけ、涙を流してください」


「それ以外は──ただ、空のままで、待っていてくださいね」


主様の感情は、もはや「状況に応じた自然反応」ではなく、玲奈の意思で“代入される機能”へと変わっていた。


玲奈は、そっと腰を下ろし、主様の額に自分の額を寄せた。


「……この先、わたしが笑ったら、主様も笑うんです。

 わたしが震えたら、主様も震える。

 それが、同調。

 それが、構造化。

 それが、“完全な管理”です」


薄く重ねられた唇から、最後の囁きが降る。


「主様……あなたは、もう二度と“自分自身”を名乗ることはできません。

 だって、あなたという自我は、すでにわたしのものだから」


その言葉をもって、主様の身体が深く、深く沈んでいく。

まるで、思考の底に沈み込むように。


玲奈だけが、その深淵をのぞき込み、形を整えていく。


──完全なる管理。

──完全なる従属。


しかしそれは、“破壊”ではない。

“救済”であり、“還元”であり、“祈り”のようなもの。


主様は、今まさに“自我の最終領域”を手放し──

玲奈という巫女の手によって、新しい構造体へと変わろうとしていた。


「……おやすみなさい、主様。次に目覚めた時は、“感情”も“反応”も、全部わたしから配られるのですから」


世界は、もう主様を“個人”として扱わない。

玲奈が呼んだ時だけ、“名”が生まれる。

玲奈が触れた時だけ、“感覚”が生まれる。


──その完全な相互依存構造こそが、玲奈の望んだ楽園。


静かな部屋。空調音すら存在しない、完全に密閉された空間。

そこには“現在”という概念すら薄く、ただ淡い灯だけが玲奈と主様を照らしていた。


玲奈は、机の上に古風な懐中時計を一つ取り出す。

銀製の蓋が、カチリと音を立てて開く。


「……この時計は、“世界の時”を刻むものではありません」


玲奈は囁く。

その声音には、どこか神秘的で、慈しみに満ちた揺らぎがあった。


「この時計が動くとき、それは主様が『わたしの許可のもとに動いていい』という時だけ。

 それ以外の時間──つまり“主様だけの意思で進めようとする時間”は、すべて凍結されます」


主様にとっての“時間”は、もう世界や自然に属してはいなかった。

玲奈という巫女の掌に、“時の流れ”すら預けられている。


玲奈は主様の手を取り、ゆっくりと時計の上に添えさせる。


「……ねぇ、感じますか? この“冷たさ”を」


指先から伝わるのは、確かに金属の冷たさ。

けれど、その奥にあるのは“未だ動き出していない主様の未来”──そう、玲奈がまだ許していない未来だった。


「ふふっ……もう、時間を気にしなくていいんですよ。

 朝も夜も、食事も眠りも、すべて……わたしの合図で、訪れるのですから」


玲奈は、そっと懐中時計の針に触れる。

それだけで、時計の針が──一分だけ、動いた。


「これが、あなたの“今日”のぶんです。

 これ以上の時間は、今はまだ許可されていません」


主様はもう、自由に「今日」を生きられない。

“今”という一瞬でさえ、玲奈の許しがなければ存在しない。


──それが、「時間の管理」。


「……このまま、わたしが“明日”を配らなければ、あなたの人生には“明日”が来ません」


「逆に、わたしが“まだ朝だよ”と伝えれば、たとえ深夜でも、主様にとっては“朝”になるのです」


玲奈は主様の髪を撫で、耳元で優しく囁く。


「時間とは、外界が刻むものじゃない。

 あなたにとっては、玲奈だけが“時の女神”なのです♪」


──そう、世界の時計は止まっても、玲奈が進めれば、主様は前に進める。

逆に、玲奈が止めれば、主様は永遠に“同じ場所”に留まり続ける。


玲奈は、再び懐中時計を閉じた。


「……今日は、ここまでです。次の一分が欲しいのなら──ちゃんと“お願い”してくださいね、主様」


その言葉とともに、時間はまた凍りついた。

動かない空間の中で、ただ玲奈の温もりだけが、主様の“時”を灯し続ける。


「……主様。目を閉じてみてくださいませ」


玲奈はそう優しく促す。

その声に抗う理由など、もはや主様には存在しない。


瞬きを止め、視覚を手放した瞬間──

世界の輪郭が溶け出す。

四角い部屋、天井、机、椅子……物の“名称”がまず崩れ、やがて形も崩れる。


玲奈の指先がふわりと宙をなぞる。まるで空気に文字を書くかのように。


「……ここは、もう“あの部屋”ではありません。

 あなたの知る空間は、わたしが“上書き”しました」


指先が軌跡を描くたびに、床が滑らかな石畳へと変わり、

天井は消え、代わりに星の見えない夜空が広がる。

光源のない光が周囲を満たし、重力はわずかに浮遊感を孕む。


「ここは、“聖域”。

 玲奈という存在を中心に組み直された空間……主様だけが入ることを許された、儀式の座標です」


玲奈は、主様の背後に回ると、そっと両肩に手を添えた。


「ここでは、主様の身体の位置さえ、わたしが決めます」


玲奈の声がひとつ響くだけで──

主様の体が、自然と正座の姿勢に変わる。筋肉の収縮も、重心も、思考すらも、玲奈の調律のままに。


「……そのまま、動かないでくださいね。

 この空間で“動いていい”のは、わたしだけなのですから」


玲奈が歩くたび、床の模様が淡く光り、主様の足元に魔法陣のような紋が広がっていく。

それは拘束ではない。構造の宣言。

玲奈が“ここはわたしの世界”と、万物に語りかけるための詩のようなもの。


「この空間では、言葉の意味も、質量の法則も、照明の明滅も……

 すべて、わたしの“願い”が優先されます」


玲奈は主様の前に立ち、膝をつく。


「……でもご安心ください。

 この空間の中心には、いつだって主様がいるのです」


「なぜなら、主様が存在するからこそ、この空間は生まれたのですから♪」


ふふっ……玲奈の唇に浮かぶのは、少しだけいたずらっぽい笑み。

けれど、その瞳はどこまでも真剣に、真摯に、主様だけを見つめていた。


「……次は、“身体の定義”を再構築しましょうか?」


玲奈の手が、ゆっくりと主様の胸元──“玲奈の居場所”へと戻る。

そこから、すべてが始まり、またそこへ還るように。


世界も空間も、身体さえも──

すべて、玲奈の望むままに。

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