第5話 悩みの種
俺はルカ達を置いて村長の家に向かった。
約束を2日後にしていたが、案外早くにルカの体調が復活したので1日早くに訪問する事にした。
俺は村長の家の扉をノックした。
「爺さん、今大丈夫か? ちょっと話したい事があんだけどよ」
そう扉越しに問いかけると、扉の先から杖をコンコンと鳴らす音と爺さんの声が帰ってきた。
「もちろん良いぞ。 今、扉を開けるからちょっと待っててもらえるかい?」
「あぁ」
数秒後爺さんの家の扉が開いた。 俺は爺さんの家に入って行き、用意された椅子に座った。
爺さんはあったかいお茶を作って俺の前に置いてくれた。
爺さんはあったかいお茶を飲みながら話しかけてきた。
「ところでどうしたのじゃ? こんな朝早くから」
「ちょっとした話があってな? 多分爺さんも悩みの種にしてる代物だ」
「はて、なんの事か?」
俺は昨日の夜感じた強い魔力の事を話す事にした。
「昨日の夜、いや夜中だな。 夜中に一瞬、ほんの一瞬だけなんだが強い魔の波動を感じたんだ」
「魔の波動...? 魔の波動とはなんじゃ?」
「簡単に言うと、強い魔力を持つ人や魔物のオーラみたいな奴だ。
強い魔物とかの波動を普通の人間がくらうと気絶したりするやべぇものだ」
「それを昨日感じたと...?」
「あぁほんの少しだがな。 で、俺はココらへんに居る魔物を調べさせたんだ」
俺は昨日ルカに嘘をついて外に出た。
アクサンタラを旅しながら、俺は度々強い魔の波動を感じていた。
日や場所を変えて色んな魔物に調べさせていたが、対象の魔物を見つける事は出来なかった。
でも今日の朝、スライムが俺に報告してきた。
「爺さん、ここアクサンタラには魔龍が二匹居るだろ?」
「そうじゃな... 『氷龍』と『死龍』がいるのぉ」
「場所的に『死龍』はねぇ。『死龍』はリーニャ帝国の近くにある洞窟に居るはずだからな。
まぁ、もうそうなったら一匹しかいねぇよな?」
「『氷龍』じゃな... 今の時代の冒険者でも魔龍の事を知っておるんじゃな」
「俺は色々調べてっからな。
まぁ、調べてるからこそ今回の件がおかしい事に気付けたって訳だ。
魔龍はそもそも人間に魔の波動を出したりはしない存在だ。
魔龍は見た目こそ怖いが、中を覗けばただの人間が好きな龍だからな。
だが、そんな魔龍が度々魔の波動を出してる。
その魔の波動も普通の波動と違って、 どこかおかしい波動だ。
何が原因でそうなってるかはわかんねぇが、今のアクサンタラの気候が狂ってるのはそのせいだと俺は思ってる」
俺の考えを伝えると、爺さんは少し悲しげな表現をしながら話し始めた。
「ロイ君は博識なんじゃな。
あぁ、そうじゃ。 ロイ君の言う通り『氷龍』はワシ達人間に優しい魔龍じゃった。
だが100年前から様子が変わってしまたんじゃ。
『氷龍』ガンドゥフェンは急に自分の洞窟に篭る様になったんじゃ。
そしてその洞窟から強い冷気や吹雪を吹かせ人間を寄せ付けない様にしたんじゃ。
前の村長は『氷龍』と仲が良かった。
だから村長は村の有能な魔術師の若者二人を『氷龍』の元に向かわせた。
だがその若者二人が帰ってくる事はなかった。 魔龍も魔物と言えば魔物じゃ。
ワシらは何回も話し合いをして、魔龍と関わらない様にしたんじゃ。
だが、 年を越す事にどんどんとアクサンタラの気候は悪くなっていく。
ワシもそろそろこの事について向き合おうとしていたんじゃ。
まぁだが正直な事を言うと、本当はリーニャ帝国に対応をしてもらいたかったんじゃがな」
「リーニャ帝国は今不安定な情勢だからな、自分達の事で大変なんだろ。
んで爺さん。 この話を爺さんにした意味は分かるか?」
爺さんは持っていたコップを机に置き、ショボショボの目を開けて真剣な眼差しで俺の方を向いてきた。
「ロイ君.... 魔龍を倒すつもりかい?」
俺は予想外な返答に腰を抜かしかけた。
「違う違う! 俺はんな事しねぇって!!
原因を突き止めて『氷龍』をどうにかして治すんだよ」
「ロイ君.... それは辞めた方がいい。 ワシは君みたいな若者を失うのは嫌じゃ」
爺さんは自分の拳を強く握っていた。 俺はそんな爺さんの手を優しく握った。
「安心してくれ爺さん、俺は強い。 それに最近出来た仲間も強い。
だから任せてくれ。 俺達がどうにかすっから」
そう言うと爺さんは優しい笑顔を見せた。
「やはり君は... 伝説の勇者に似ているの」
「俺はあんなすげぇ存在じゃねぇよ。 ま、でもあんがとよ。
その言葉忘れねぇぜ。
じゃあこの話仲間にもしねぇといけねえから今日はコレで帰るぜ。
また、 行くときにでも会おうぜ爺さん」
そう言って俺は椅子を立ち上がった。
爺さんも杖を手に持って立ち、 俺に深い礼をしてきた。
「ありがとう... ありがとうロイ君。 ワシ達ではどうにも出来なかった。
本当に... 本当に....」
「こちらこそ泊めてくれてありがとよ。 まぁお礼とでも思ってくれよ。
じゃあな爺さん。 元気でな」
「あぁ...」
俺は爺さんに別れを告げて宿へと帰った。 外はまた吹雪が来そうな空模様をしていた。