第22話 偶然かあるいは必然か
少し時間が経った頃、リーニャは多数の面々を連れて部屋に来た。
「ロイ!! 大丈夫なの!?」
ルカは俺を見るや否や走ってきた。 そして俺の手を掴んできた。
「フローレンスのおかげで大丈夫だ。
フローレンスが居なけりゃ多分今頃空の上だろうな」
「フローレンスさん...!! ロイを... ロイを助けてくれて... 」
ルカは今にも泣きそうになっていた。別に俺とルカの仲はまだ浅い。
会って一年も経っていない。 なのにルカは俺を必要以上に心配する。
「僕はただ、塞がりきってない傷を塞いだだけだよ。 傷を塞いだのはそこの小さな妖精さんだ。 じゃ僕はちょっとリーニャのとこに行ってくるね」
フローレンスはそう言ってリーニャの元に行った。 リエルはフワフワと飛んできた。
「リエルぅ...!! そうなの?」
「アタシ驚いたんだからね? 初めて見たわよ... 心臓に穴が空いてるの」
「俺の心臓に... 穴が?」
俺は自身の胸に手を添えた。 本当に穴が空いてたのだとしたら... なぜ俺は今生きている?
普通即死するはずじゃないのか?
「アタシはアンタの身体に入り込んで、傷を探したわ。 本来この治療法は危ないし... やっちゃいけ ないけど、緊急事態だったからアタシはアンタの身体に入り込んだの。
身体中を探し回ってアタシはどこが怪我してるか探したの。
そしたらなんとまぁ!! アンタの心臓に紫色でウネウネと動く触手みたいなのが居て、アンタの 心臓に刺さってたのよ。
アタシはそのウネウネを頑張って引っこ抜いてアンタの開いていた傷を塞いだわ。
でも、ウネウネがまたアンタの心臓の近くに来て今度はアンタの心臓を覆ったの。
取り除こうと引っ張ったけど... 余りにも強い力で取り除けなかったの。
そのウネウネは塞いだ所に少しの隙間を作ってアンタの心臓の中に入っていったの。
アタシも何が何だか分からなかったわよ。
心臓に穴が空いてるくせに... 鼓動は動いてるし.. 変な触手みたいなのはいるし...
アンタほんとどうなってんのよ」
「んなの俺が知りてぇよ。 そら馬鹿みたいに痛てぇわな。 心臓に穴が空いてりゃあな」
「痛いとかそういうレベルじゃないわよ? 普通の人だったら即死よ、即死」
「やっぱ俺はおかしいのか? 普通の人間じゃないのか....?」
俺は重なる鼓動の音を聞き、自身の手を見た。 魔物が作り出せる身体... 欲が感じられない身体.... やっぱり俺は人間じゃ..
気分が暗くなりかけたその時、リエルが話しかけてきた。
「アンタは育ちが特殊だもの。
ラ... アンタを育ててくれた人が何かしたかもしれない。 その人が仕掛けた罠か..
お守りかは分かんないけど.. それがさっき悪い方向に作用したんじゃないのかしら」
「ラ... あぁ.. アイツはそんな事しねぇと思うがな。
人が好きだったアイツが俺に罠を仕掛けるとは思わねぇけどな..」
「アタシも調べれるのなら調べてあげたかったけど、今のアタシにはそんな力がないわ。
でも、気をつける事ね。 今はまだ、その触手が自我を出してないけど、出してきた時今のアタシ じゃどうにも出来ないわよ」
「もし... 触手がお前らに危害を加えようとしたら俺は自身の手で心臓を貫く。
今は、どうしようも出来ねぇが... ちゃんと向き合って調べる... 治してくれてありがとよリエル」
「どういう条件でその触手が暴れるか分かんないから.. 暴れたり変な行動をするのはナシよ?
分かったかしら」
「暴れる条件の見当はついてる。 だから安心してくれ。 無茶はしない」
「なら良いのよ。 さ、立てるかしら?
こんな狭い部屋で今後の話するより、騎士団内にある会議室で話をしましょ?
良いわよね、リーニャ?」
リエルはリーニャにそう聞いた。
カルトやフローレンスと話していたリーニャは呼ばれた事に驚きつつも首を縦に振っていた。
俺はベットから降りて、皆と共に会議室へと向かった。
___________
星空騎士団会議室にて...
会議室に入った俺達は用意された席へ座った。
メンバーはどうやら俺達と、第一王女であるリーニャ、星空騎士団隊長と副隊長、そしてリヒトの友人であるフローレンス、後は... ソワーズ商会の使者だ。
今日は前と違って若い二人組が来ている。
なんでコイツらがここに...。
そんな事を思っていると、リーニャが立ち上がり話を始めた。
「本当はちゃんと順序を踏んで、やっていくものなのでしょうが... 今の私にその様な事は出来ませんでした。 急遽皆様を呼び、ここに集めた事に対して私は申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ですが、私にはそんな気持ちに浸っている時間はないのです。
今、ここリーニャ帝国は危機に瀕しているのです。
本来... 本国の問題は本国で解決すべき事なのですが... 私に解決出来るような力はありませんし..
お兄様と違って頭脳もありません。
一国の王女として自身の力で解決出来ない事が情けないという事は身に沁みて分かっております。
情けなくても良い.... 国中から批判されても良い... 私は... 私は今解決出来る力が欲しいのです!!
どうか... ご協力いただけないでしょうか?」
リーニャは涙を流しながらそう言った。
実際問題、20も行かない子が一国の政治を任されてるなんてあり得ない事だ。
本来政治をするはずだったリヒトが失踪し、妹であるリーニャにその責任がいった。
リーニャはよく、ここまで一人で耐えたものだ。 普通の子供なら重さに耐えられず逃げ出しているだろうに。
リーニャは隊長に宥められながら椅子に座った。
すると、俺たちの向かい側に座るソワーズ商会の若い使者が口を開いた。
「僕達はそれを承知してここに来ています。
だから、自身を責めて泣かないでください。
リーニャ様は一人でよく頑張った。後は、 僕達に任せてください」
「もちろん、リーニャ様は私達の条件を覚えてらっしゃいますよね?」
リーニャは涙を手で拭き使者の方を見た。
「もちろんです... ソワーズ商会の支部を設置ですよね。
今回の件が終わり次第... 早急に作るつもりです」
「僕達は無償でも召集を受けるつもりだったんですけど... 会長がそれを許してくれなくて..
条件を付けてしまってこちらこそ申し訳ない」
「そんな... 謝らないでください。
こちら側の無理な願いを受けてもらったのですから... こちらこそ申し訳ないです」
「んん.... でリーニャ様。ここに僕達や冒険者を呼んだのは理由がもう一つありますよね?
協力の願いと... それぞれの事件の捜査を僕達にしてもらいたいんですよね?」
「えぇ、そうなのです。
本来事件には星空騎士団が対処すべきなのですが... 魔王軍の攻撃を受けた騎士団は今怪我人で溢れ かえっております。 もちろん無償で... とは言いません。 ソワーズ商会様には支部の設置。
ロイ様達は... どの様な事をお望みで?」
俺達は急に話を振られた。 協力するとは俺達はっきり言った覚えはないぞ?
いや... 協力しねぇよと言うつもりはねぇけどよ。 何が何でも急すぎないか?
俺、今日身体の中にある変な触手に心臓ブッ刺されてんだぞ?
で、起きたら王女とご対面&衝撃の事実を暴露。 最後に協力申請。
色々起きすぎだろ。 何がなんでもよ。
まぁ... でも色んな事を学ぶのは今後の力になる。
それに手伝ったら報酬がもらえると来たもんだ。 手伝うしかないだろ。
「今まではっきりと協力するとは言ってなかったが、ここではっきり言おう。
俺達はリーニャ様の協力に応えよう。
だが、 俺達もソワーズ商会の使者と同じで条件がある。
今回の件の報酬として、俺達は勇者の遺物が欲しい。 まぁ... 今は盗まれてないが」
俺がそう言うとリーニャは口を開いて驚いていた。 まぁ... だろうな。
国の宝である勇者の遺物をくれって言ってるんだから、驚くのにも無理はない。
「少し... 少し考える時間をくれないでしょうか? 私... 勇者の遺物をあまり知らなくて」
リーニャは困った顔でそう言った。
「王女が遺物を知らない...? なんでだ?」
「勇者の遺物を見た事があるのはお兄様と、私の隣に座るカルトのみなのです。
居場所に関してもお兄様と、カルトのみなのです」
「うん、リーニャの言うとおり。 俺とリヒトしか場所を知らない。
なのに泥棒に盗まれてしまった。 ほんと、恥だよ恥」
カルトは急に話に入ってきた。
俺は疑問を感じつつも.. 今は触れない事にした。
「まぁ... 無理だったら無理で見せてくれるぐらいで良いんだ。 俺達はその条件で良い」
「無理な願いを言ったのはこちら側なのです。 遺物を取り戻し次第考えさせてください」
「取り戻し次第... って取り戻せるのか?」
「大怪盗に盗まれた日から、星空騎士団で動ける兵士を使って全力で捜査しております。
リーニャ帝国から外に通じる門は全て封鎖しており、帝国から出れる隙はありません。
ですので... 捕まるのも時間の問題かと」
「まぁ... それで捕まえられたら良いな。 じゃあ、俺達は何をすれば良いんだ?
兄さんの捜索か? それとも...」
「リヒトさんの捜索は僕達がやろう」
ソワーズ商会の使者がそう口を挟んできた。
「星空騎士団の方々は『死龍』の洞窟付近を捜索出来ないと聞きました。
まぁ... 無理もないでしょう。
近づくだけでどんどんと身体が死んで行くんですから...
でも、僕達はそれに対抗出来る魔法がある。 だから、任せてください」
「良いのですか...? そんな危険な場所に向かわせてしまって」
「僕達は魔術に生涯を費やしてるような人間ですから、任してください。
『死の域』の対処法ぐらい頭に入ってますから」
「で、では... お願いしてもよろしいでしょうか?」
「任せてください、僕達が絶対に見つけますから。
そちらの冒険者... いえ、ロイ君には僕が頼む仕事をしてくれないかい?」
使者はそう言い立って、俺の方に近づいてきた。
「名前も知らなぇやつから俺は頼まれ事をしなきゃならねぇのか?」
「これは失礼失礼... 僕の名はロロ•フランソワ。 ソワーズ商会の魔術師だ」
ロロはそう言って俺の耳元に顔を近づけ、耳元で囁いてきた。
「実を言うと僕はね... 前からこの国に潜入して情報を探っていたんだ... 僕はそこで裏切り者の情報 を得たんだ... だけど、この身分で来てしまったからこの情報を言おうにも言えない状況にいるん だ。 だから僕は君に頼る事にした。裏切り者を見つけて、処刑台に連れてきてくれないかい?
僕は君に最大限協力するからさ」
「だったらその裏切り者とやらを教えてくれよ。 最大限協力してくれんだろ?」
俺の言ってることは至極真っ当だ。 身分とかどうとか置いといて、言えば良いじゃないか。
「真実は自分で掴んでこそ、真実だと分かる。 ただし、ヒントぐらいは教えてあげるよ。
『愚者は嘘を吐けず、愉悦を好む』 これがヒントさ」
「何がヒントだバカやろう。 俺がお前の頼まれ事をのんでなんのメリットになる?」
「真実を知れる... 君はそれだけで突き動かされる原動力があるんじゃないのかい?」
俺はロロの言葉を聞いて、脳裏にライの言葉がよぎった。
『知を知り... 貴方は世界を知るのです』
知るという事を知り... いずれそれは世界を知る力になる。 ライはそう言っていた。
あぁクソっ! なんでコイツにライの面影がチラつくんだ?
でも、ライの教えは今までも俺の力になってきた。 また... 力を貸してくれるのか?
いや... 俺は知を知り.. 力を得なきゃならねぇ..
俺はこの時何かに取り憑かれた気がした。
「あぁ... そうだな。 俺は世界の全てを知りたい。 いいぜ、お前の頼み事のんでやるよ」
「取引成立だね。 じゃ、僕は妹と洞窟付近に行ってくるから後は頼んだよ」
ロロはそう言ってリーニャ達と軽く会話をした後、妹と一緒に部屋を出て行った。
俺もロロの言葉を聞き... 大切な何かを思い出した。
「ねぇ、リエルさん。 ちょっと頼み事があるんだけどいいかな?」
フランソワはリエルを呼び、何かを喋った。 するとリエルはルカを呼び、何か事情を説明していた。
話が終わったのか、リエルは俺の元に飛んできてこう言った。
「アタシ達、星空騎士団の所に行って兵士達の治療を手伝わないといけなくなったわ。
ロイ、アンタはどうするの? アタシ達と来る?」
「いや、俺はやる事が見つかった。 だから、大丈夫だ」
「やる事...? 何をするつもり?」
「ただの頼まれ事だよ。 安心しろ、怪我もしねぇし事件を起こしたりもしねぇよ。
じゃあ俺早速行ってくっからよ」
「アンタちょっと... 傷は!!」
俺はリエルの言葉に耳を向けず、情報を探る為に外へ出る事にした。