第16話 第一国 リーニャ帝国
俺達の目の前に映るのは、氷龍でも楽々入れるぐらいの大きさの門と石で出来た城壁だ。
チラッと見えてるが城壁の上にはどうやら兵士が居るようだ。
今、リーニャ帝国では検問をしているらしい。 リーニャ帝国に来た旅人や冒険者達が兵士達によって検問されている。
俺達は2番と書かれた看板がある列に並び順番を待った。
俺達は順番が来るまで進みながら話していた。
「革命が起きてまだ10年も経ってねぇのに、こんなに安定してる情勢は初めて見たな...
大体の国はまず革命なんて起きねぇけどよ..」
「リーニャ帝国第一王子のリヒト•アルヴィが
星空騎士団... 旧ゴルド王国騎士団を使って反乱を起こしたのよね」
「20歳の時に革命だなんてヤベェ奴だよな。 しかも王を守るはずであろう騎士団を使ってな」
俺とリエルが帝国の歴史について話していると、ルカが話に割り込んできた。
「なんで二人はそんなにこの国の事知ってるの?」
「爺さんの家に行って昔の新聞とか見せてもらったら、そう書いてあったからな。
まぁ、全部リヒトが出してる情報だから嘘もあるかもしれねぇがな」
「アタシはロイから聞いたのを覚えてただけ。
まぁ、 でも革命した割に政治は妹のリーニャに任せてるのが謎ね。
革命をするだけして妹に政治を任せたのかしら?」
「でも、最初の頃はリヒトが政治をしてたんだろ? 新聞でもリヒトが写ってる写真が何枚かあったしな。 でも、3年前... リヒトが23歳の頃から途端に姿を表さなくなった。
暗殺でもされたのか...?」
俺達が帝国について話してたその時、俺の後ろから女の叫び声が聞こえてきた。
俺は声が聞こえてきた方に振り向いた。
確かに後ろに女は居た。 髪の毛はボサボサでメガネを掛けている。
だがその女は後ろ.... と言うよりかは下にいた。
声の正体の女は転けていたのだ。
「はわ、はわわわわ!! 避けて、避けてください〜!!」
「お前大丈...」
転けた女に手を差し出したその時、俺の腕に変な緑色の液体がかかった。
そして俺の頭にガラス瓶が当たり、コンと鈍い音を立てた後地上に落ちた。
「お前.... なんだ? 急に変な液体かけてきやがってよ... 」
「わ、わざとじゃないんですぅ〜!! ご、ごめんなさい〜!」
「わざとじゃないにしろ俺以外の奴に当たってたらどうすんだ馬鹿野郎。
てか、なんなんだよこの液体?」
俺が女の腕を強く掴んで引っ張り立たせたその時、誰かが俺の腕を掴んできた。
俺は掴んできた手を辿っていき、掴んできた奴の顔を見た。
そこには金髪で青い目をした男が立っていた。 背中には魔法を使う為の杖を持っている。
大量の荷物を雪の上に置いている。
「ごめんよ旅人。 僕の仲間が失礼な事をした。 見ず知らずの人に薬品をかけるだなんてあっては ならない事だ... 毎回気をつけて運べって言ってるのに君って奴は....」
男はそう言ってため息を吐いた。 薬をかけた女はアタフタして焦っていた。
「薬品...?」
「薬品と言ってもただの治療薬さ。 彼女はそれを僕の元に持ってこようとして転けてしまったんだ。 つまり、今回の件は僕に責任がある。すまない」
「わ、私からもごめんなさい!! ほ、本当にかけるつもりなんてなかったんです!!」
かけてきた女や金髪男、そしてその仲間の三人も俺に向かって頭を下げてきた。
他の列の奴らはこの騒ぎを見てコソコソと何かを話している。
帝国に入る前に騒ぎを起こすのは良くねぇ... まぁ、でもリエルやルカにかからなかったし
わざとじゃねぇんだったら許してやるか。 俺も根から怒ってるわけじゃねぇしな。
俺は女の腕を離して出来た服のシワを直してあげた。
「こっちこそ強引に引っ張ってすまねぇな。
治療薬だったから良かったけど、コレがヤベェ薬だった時に俺の仲間にかかってたら洒落にならね ぇと思って、ちと怒っちまった」
俺は少し頭を下げた。
だがそんな俺を見た金髪男は爽やかな声でこう言ってきた。
「無理もないさ。 僕だって同じ状況ならそうする。
というか僕が最初から持ってたら良かった話なんだ。
今度、この件の埋め合わせでもさせてくれないかい?」
「いや、別にそんなに怒ってねぇよ。 埋め合わせなんていらねぇよ?」
「君が気にならなくても僕が気になるんだ。
僕は医者をやっててね、君のその治りきってない腕も治せるよ?」
服で隠れている腕を指で指してそう言ってきた。
確かに... リエルに治療されたが完治はしてない.. 少し指が動きにくい。
「だから治療薬を持ってたってわけか.... んじゃまぁ今度俺の腕を見てくれよ。
それでおあいこって事でよ」
「うん、それでいいよ。 それと君達二人もごめん。僕の仲間が君達の仲間に無礼を働いてしまって」
金髪男はリエルとルカに深々と頭を下げようとした。 だがリエルとルカは肩を抑えてこう言った。
「ロイに何も起きてないから大丈夫ですよ!」
「えぇそうよ!! 何も起きてないから大丈夫!! それに何かが起きてもアタシが居るしね!」
「君達は優しいんだね...助かるよ。 お、君達兵士達に呼ばれてるよ?
順番が来たんじゃないかい?」
その男が言った通り、確かに門の近くから兵士の声が聞こえてくる。
「んじゃあまぁ、また今度な」
「あぁもちろん。 楽しみに待ってるよ」
俺達は医者らしき人達に別れを告げて、門の前へといった。
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門の前に着くと、兵士に止められ身分証明が始まった。
「まず、大きい荷物を持った君。 名前は? 何歳? 役職は? 冒険者証明書があるなら見せて」
俺は腰につけていた魔法袋に手を突っ込み、奥の方から冒険者証明書を取り出し兵士に渡した。
「ロイ•コロニクス... 17歳... 2級冒険者と... あれ? 住所が書いてないけどどうしてだい?」
「あぁ家が魔物に襲われて無くなったんだよ。
で、そこから家買ってねぇから住所書いてないだけだな」
「あぁ... すまない失礼な事を聞いた。 もう君は大丈夫だ。
じゃあ次は剣を持った君。 名前、年齢、役職。 冒険者証明書があるなら見せて」
「は、はい!!」
ルカは元気よく返事をした後、リエルとコソコソ話し合いリエルが指をパチンと鳴らすと
リエルの前に冒険者証明書が現れルカの手のひらへと飛んで落ちていった。
「冒険者証明書です!」
ルカから冒険者証明書を貰った男は証明書をジロジロと見た後、ルカの顔を見た。
「ルカ•ドリスタン... 15歳... 若いね君。 3級冒険者... 精霊のリエルを従えている。
ふむふむ、その小さい子がリエルと...住所はあるし、お父様は学者なんだね。
もしや君達は、何か頼まれごとをされてここに来たのかい?」
兵士はニコッとした笑顔でそう言ってきた。
「いや、俺は勇」
俺がそう言おうとした瞬間、リエルに口を抑えられた。
ルカはそんな俺を見て急遽嘘の理由を言い始めた。
「私達冒険者で〜! リーニャ帝国が気になって来たんです〜!!
お父様の頼まれごとももちろんありますけど〜!
雪花の王女と呼ばれるリーニャ様にも会ってみたいなぁ... って思って!!」
ルカがそう言うと兵士は驚いた顔をして、ルカの肩を掴んだ。
ルカはどうやらリーニャの事を調べてらしい。
「君もリーニャ様に会いたい人の一人なのかい!? 僕もそうなんだ!!」
「え... あ、はい!!
だ、だって雪花の様に美しく可憐な容姿をした王女リーニャ様ですもの!!
私も、 会ってみたいですよ!」
「あぁもう... 君はよく分かってる!! 良き理解者が現れたみたいで僕はとっても嬉しいよ!!!」
兵士の男はそう言って喜んでいたが、何かを思い出したのかルカの肩から手を離した。
「あぁ... でも今はリーニャ様に会えないかもしれないね.... 最近少し城に篭っているらしくてさ」
「何かあったんですか?」
「残念ながら僕ら兵士にもその理由は言われてないんだ。
まぁ、帝国内の噂を聞くに兄弟喧嘩説が有力らしいよ?
あ... まだ入ってもないのにこういうの言っちゃダメなんだった...
うゔん... よし!! 君達とは何か特別な縁を感じるからまた暇な時にでも話そうじゃないか。
中に入る為に最後の検査をするから、まず女の子二人組僕の方に来てくれるかい?」
兵士はそう言って、召喚魔法を使い杖の先っぽに緑色の石が付いた杖を取り出した。
リエルとルカは荷物を持ったまま、兵士の前に行き立った状態のままで止められた。
「君達が魔物か魔物じゃないかを調べる検査さ。 痛くも何とも無いから怖がらなくていい。
じゃあ、いくよ」
「は、はい!!」
兵士はそう言うと、杖をリエルとルカの方に向けて魔法を唱えはじめた。
『聖なる者には聖なる光を悪なる者には消滅の光を示せ、ゲルザヴォーグ』
兵士が持った杖の先に付いた石が強く緑色に光り輝いた。
「よし、緑色って事は君達は正真正銘人間だ。 じゃ次は君。 僕の前に来て」
「あぁ」
リエルとルカは兵士の後ろ側に行き、俺の検査を待っていた。
俺は大荷物を持って兵士の前に行き先と同じように立った。
「先も言った通り、危害を加える様な魔法じゃ無いから怖がらなくていいよ。
じゃあ、いくね」
『聖なる者には聖なる光を悪なる者には消滅の光を示せ、ゲルザヴォーグ』
兵士が持った杖の石が赤色に光り輝いた。 どうやら俺は悪なる者らしい。
「はぁ!?」
「赤色... って事は君は魔物なのかい!? ちょ、ちょっとそこで止まるんだ!!
応援を呼ぶから!!」
兵士がそう言い杖を置きどこかに行こうとした瞬間、さっきの金髪男が走って俺達の元に来て兵士を呼び止めた。
「君!! 待ってくれ!! 彼は正真正銘人間だ!!」
「で、でも杖が赤色に光り輝いて...」
「僕の助手が作った薬を浴びてしまったんだ。 薬に魔物の素材やエキスを結構使っていてね。
ほら、この魔法瓶に魔法を唱えてみてくれるかい? 多分、赤色に光り輝くからさ」
「貴方は一体... ?」
「僕はリヒトの良き友、フローレンス•ザラザール。 医者だ。
リーニャから要請を受けてここに来たんだ」
金髪の男はどうやらリーニャ帝国第一王子の友達らしい。 繋がりがあるみたいだ。
「最近騎士団で噂になっている人は貴方だったのですね... 貴方が言うならわかりました..
試してみます」
兵士はまた杖を持ち魔法を唱えた。
『聖なる者には聖なる光を悪なる者には消滅の光を示せ、ゲルザヴォーグ』
杖は俺の時と同じ様に光り輝いた。
「あ、赤に光った...」
「僕の助手が作った薬のせいでこんな騒ぎを起こしてすまない...
そして兵士の君も驚かせてしてすまない... 後でちゃんと叱っておくから... 」
「い、いえ! こちらも冷静に事態に対応出来ずに申し訳ありません!!
ロイ様、フローレンス様!! ロイ様は通ってもらって大丈夫です! 人間と証明されたので!」
兵士は頭を下げて謝ってきた。 フローレンスは顎に手を置いてため息を吐いていた。
「まぁ... 通れるんなら大丈夫だ。 俺も色々迷惑かけてすまねぇな」
俺はルカ達と合流し開いた門の方へと歩き出そうとしたその時、フローレンスが俺の肩を掴み耳元で囁いてきた。
「僕の助手が作った薬に魔物の素材は使われてない... 君一体何者なんだい?」
「ただの人間だよ。 てか、アンタこそ俺を通していいのか?
コレでもし俺が魔物だとしたらお前は大罪を犯す事になるぞ?」
「僕は人を見極める事が出来る。 僕の心が君を人間って言ってるから大丈夫さ。
まぁ、人間だったら赤色に光り輝かないはずなんだけどね」
俺は咄嗟に石の事を聞くことにした。
「医者って石とかに詳しかったりするか?」
「まぁ、それなりに詳しいよ。 石がどうかしたのかい?」
「怪しい石を持っててな。多分それのせいで赤く光り輝いたんだ。
時間が出来次第、見てもらいてぇからどこに行くか教えてくれよ」
「僕は星空騎士団の基地に居る。
騎士団に僕の名前を伝えたら入れると思うから会いにきてくれ。
君の事も気になるし、その石とやらも気になるしね」
フローレンスは俺の肩から手を離して、仲間達と合流した。
俺はルカ達から何を話したのか聞かれたが
後で答えると言って開いた門の方へと歩いて行った。
ルカとリエルも俺に付いてきてやっとリーニャ帝国に入る事が出来た。