第11話 本音と賭け
ドバドバと血が流れるロイに、リエルは右手で治癒魔法をかけた。
だがリエルも己の身体に限界が来始めていた。
リエルは鼻から大量の血を吹き出し、口からも少し血が垂れ始めてきていた。
ロイは治っていく傷に驚きつつも、どんどんと弱っていくリエルを見て止めるよう大声をあげた。
「おい何してんだよリエル!! お前、血だらけじゃねぇか!!」
「何してるも何もアンタを治癒してるだけよ... 大丈夫。 アタシまだよゆ〜だから」
「俺を治すより自分の事治せって!! 俺は最悪どうとでもなるんだからよ!」
「最悪の道を行かせる仲間がどこに居るってのよ。
救えるなら救う。 それが仲間ってもんでしょ」
「お前らを身代わりに、上のアレを斬ろうとした俺はクソ仲間だな... 」
「何言ってんの..? 多分、『氷龍』のアレを取るにはその作戦しかないわよ?
例え見向きはされなくても、妨害する事は出来るもの」
「にしてもいつお前らを身代わりにして、『氷龍』の背中に乗るんだ?
賭けをして、 乗れん事もねぇが成功するかわかんねぇぞ?」
「どうせその賭けってのは危ないんでしょ!? アタシが浮遊魔法で浮かばせてまた登らせるわよ!! アンタはその痛みに耐えながら頑張って斬りなさい!!
危なかったら助けてあげるから!!」
「んな事して耐えれんのか? リエルの体は」
俺がそう言うとリエルはフフンと笑い、こう言ってきた。
「アタシは大精霊 リエルよ。 こんなのでくたばる程弱くないわ」
「フラグじゃねぇといいな」
「えぇ、そうね!!」
リエルが大声を上げたその瞬間、『氷龍』が作り出した氷柱が魔力結界めがけて飛んできた。
だが、氷柱は魔力結界に当たるとパリンと音を立ててどんどんと割れていく。
並の魔術師の結界じゃ、おそらく氷柱が魔力結界を突き破って体を切り裂かれて死ぬ。
リエルは三人を魔力結界で守りつつ、氷柱を割れる程の魔力結界を作り出している。
魔力結界は防御魔法なんだぞ...? なんでそれで攻撃出来てんだ..?
俺は痛みに耐えながら、何とか立ちあがろうとしていた。
だがその時、俺達を守る魔力結界にヒビが入り始めた。
「やっぱりいきなり開いたせいで、完璧に開けてない!! 最後まで防げないかも!」
「大丈夫私に任せて!!」
「だからルカは斬れないっ.... あっ!!」
攻撃を受けていた正面部分のヒビが完全に割れ残った一本の氷柱が射線上に居るリエルの元に飛んできていた。
ルカはすぐさま剣を取り出し、氷柱を弾いた。 だがその氷柱は再びロイに向かって飛び始めた。
でも俺はこうなるのを読んでいた。
俺は動く右手で大鎌を背の方に持ち空を斬った。
すると、パリンと音が鳴り氷のカケラが降ってきた。
「やっとこの攻撃が止んだな...」
「えぇ... やっと、やっとよ! 行けるかしら? ロイ!!」
「もちろん、行ける!」
『浮かべ、花々よ』
リエルが再びそう唱えるとロイの体が浮かび上がった。
「ロイには悪いけど、この運び方が一番安全だから怒らないでよ!!」
「えっ? 一体何っ... ておい!!」
俺はリエルによって勢いよく吹っ飛ばされた。
俺は『氷龍』の角を掴み、滑って背中の方に降って行った。
その最中ルカとリエルは『氷龍』の足元に近づき、ルカは剣を振りかざした。
「喰らわなくても痛いでしょ!! エイ、エイ、エイ!!」
切り傷一つ付きやしないが、『氷龍』は大きな目をギロっとルカの方に向けた。
俺はリエルのおがけで背中に乗る事に成功した。
俺は使えない左足を背中につけ、痛む右手に力を込め大鎌に俺が出せれるであろう限界の魔力を覆わせた。
そして大鎌を振りかざそうとしたその瞬間、俺は全身の力が抜け、体のバランスを崩した。
いや、崩されてしまった。
「おい... 嘘だろ?」
俺の身体に刺さっていた氷柱が爆破し、右腕と左足が千切れて、宙に浮かんでしまった。
「ロイ!?」
「ロイ!!」
「俺は大丈夫だ!! 気合いで治す!」
俺は飛びそうな意識をなんとか保ち、欠損した部位に意識を集中させた。
俺はその欠損した部位に魔物を作り、千切れた腕や足を捕まえ融合させた。
前々から出来るか?... と思っていた技だったが、本当に出来てしまった。
だが、想像以上に痛てぇし完璧には治せてねぇから激しく動いたら取れちまうな。
まぁ、でもコレでやっとこの硬え氷を斬ることが出来るぜ!!
俺は出せる限りの魔力を大鎌に覆わせ、『氷龍』の背中にある氷めがけて振りかざした。
俺が振りかざした大鎌は硬い氷を少しずつ削っていた。
だがこんなスピードじゃまだまだ時間がかかりやがる。
俺は全身の意識を大鎌に集中させ、一呼吸した後出せる限りの力で大鎌を握り斬っていった。
「おい『氷龍』!! お前、本当は俺達を傷つけたくないんだろ!!
だったらよ! 大人しく斬られてくれよ!」
そう問いかける俺の足は『氷龍』の冷気によってどんどんと凍らされていた。
だが、今はそんな事どうだっていい。 斬る。 斬り落とす!!
「うぉぉぉぉぉ!!」
大鎌を再び上にあげ、思いっきり振りかざした。
俺が振りかざしたその刃はスパッという氷が斬れる音を上げ、氷で守られていた怪しい石が露出した。
「コレを抜けば良いんだろっ!!」
俺は凍る足を軸にして、全身の力を腕に集中させ抜く事に成功した。
その瞬間、洞窟内を覆っていた氷が一斉に割れ氷の結晶がユラユラと降ってきた。
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俺の足を覆っていた氷も割れ、俺は地上へと落とされた。
だがルカが俺をキャッチしてくれた。
「おいおい、お姫様抱っこかよ」
「大丈夫...? 大丈夫なのロイ?」
「ちゃんと治療すれば治るぐらいの傷だ。 まぁ、腕と足が吹っ飛んだ時は驚いたけどな」
「コレなんで繋がってるの? 魔法? 治癒魔法?」
「いや、魔物を糸代わりにして縫合してるだけだ。
だから今変に激しく動かそうもんなら取れちまう」
「じゃあこの持ち方だと足触っちゃうからこうしないとね! よいしょ!」
「お、おい!」
俺はルカにおんぶされてしまった。 横を見るとニヤニヤと嫌な笑顔をしたリエルが浮かんでいた。
「お似合いね」
「うっせ。 俺もこうなると思ってなかったよ」
「傷見せて頂戴? アタシココで治してあげるから」
「だってよルカ。 ちょっとあそこの岩に座らしてくれねぇか?」
「お任せあれ〜」
俺はルカによって運ばれ、岩に寄りかかった。
リエルはまたルカの肩に乗り、目を閉じてルカの魔力を吸い取っていった。
そしてその吸い取った魔力を使って、俺のボロボロの足と腕を治癒してくれた。
「とりあえず安静にしなさい? 分かった?」
「動く体力なんかもうこれっぽっちも残ってねぇよ。 息をするので精一杯だ」
「『氷龍』が起きるまで寝ときなさい。 起きたら起こしてあげるから」
「んじゃあ... お言葉に甘えてそうさせてもらう....」
俺は沈みゆく意識の中、優しい声と誰かの肌が触れる感覚を感じた。
「よく頑張ったわロイ」
俺はその言葉を聞いた後、ルカの肩に寄りかかった状態で眠りについてしまった。