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藤木あいりは子ども時代、近所に住む5歳年上の幼なじみである多々良開にひそかに片想いしていた。しかし開は親の仕事の都合で海外に引っ越してしまい、会えなくなったのだ。
大学生になってケーキ屋でのアルバイトを始めた頃、あいりのアルバイト先に開が客としてよく来てくれるようになった。開もあいりのことを覚えてくれていて、再会した頃は思い出話で盛り上がるほどだ。
「なんでここに来てくれるようになったの?」
あいりが訊くと、開は
「インスタで人気になってて、1回買ったらハマっちゃった」
とのことだ。開は甘党なので様々なケーキをあいりのアルバイト先で買っていた。
しかしある日を境に、開がぱったりと店に来なくなる。開は社会人なので忙しいのだろうとあいりは思っていた。開が来店しなくなって3ヶ月が経った頃、あいりはアルバイト先からの帰宅中に開とばったり会う。
「最近お店に来なくなったけど急にどうしたの? いま新作スイーツも売ってるのに」
とあいりが訊くと、開は顔を赤くした。それから
「だってこれ以上店に行ったら、どんどんお前のこと好きになってしまうから……」
とパーカーのフードで顔を隠しながら、しゃがみ込む。あいりはまさかそんな理由だとは思わなかったので、嬉しいような恥ずかしいような気持ちだった。