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河野民子は子ども時代、母子家庭で育ったこともありホールケーキを食べたことがなかった。仕事を頑張ってくれている母親には言えなかったけれど、民子は小学生時代はみんなでホールケーキを食べたという友達が羨ましかったのだ。大人になったらホールケーキを食べてみたいと本気で思ったほどだった。
民子は成人し、30代後半で結婚と出産をする。40代になり、娘が幼稚園に通う年齢になった。その際に家族3人でクリスマスパーティーをしようという話になり、夫と娘と3人でホールケーキを買いにケーキ屋に行く。民子は初めて自分のお金でホールケーキを買ったのだけれど、子ども時代に「ホールケーキを食べられる友達が羨ましい」と思っていた自分をようやく救ったような気がした。