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なろうラジオ大賞6

スモウバイザプール

作者: 壊れた靴

 プールサイドのデッキチェアに座っている。

 夏休みで騒々しい子供たちにか、あるいはいつも通り家でゴロゴロと過ごす私にか、ともかく嫌気が差したらしい妻の、子供たちを連れて遊びにでも行って、というどこか脅迫めいた頼みを、一も二もなく受け入れたのである。

 子供たちの要望によりやってきたのは、この辺では中々人気のあるレジャープールであり、今日も大いに賑わっている。人混みは好かぬが、妻の機嫌を損ねるよりはマシだろう。

 子供たちが派手に水しぶきを上げて楽しんでいるのを眺めていると、横から不快を催す男女の怒声が聞こえてきた。

 どうやら痴話喧嘩のようである。楽しい雰囲気が台無しだ、と言うように周囲の人間が眉を顰め、彼らから距離を置く。

 子供たちを眺めながら、時折横目で彼らを見る。どちらも自分の言い分を譲るつもりはないらしく、段々と熱を帯びてきた。

 とうとう、つかみ合っての肉弾戦が始まった。お互いに、プールに叩き落そうとしているらしい。

 どちらとも立派な体格をしているため、相撲の観戦をしている気分になった。外に出てみると思わぬことが起こるものである。

 のこったのこった、などと頭に浮かべていると、ついつい彼らを見つめてしまっていたらしい。

「見てんじゃねぇぞ」と彼氏がこちらに声を上げた。

 私は首を捻って周囲を見回すが、他にそれらしい人はいない。私に言っているのに間違いないようだ。

 相撲を続けるつもりがないのなら見る意味もない、と子供たちに視線を戻す。見てはならぬのならば、これでよかろう。

 私の予想に反し、彼氏は「()()()してんじゃねぇぞ」と体を揺すりながらこちらに近寄ってきた。先ほどまで喧嘩していた彼女はそのことを忘れたように、死地に赴く英雄でも見送るような視線を彼氏に送る。

 私の前に彼氏が立った。私の前といっても、デッキチェアに寝転ぶように座っていたため、足元に立つような形である。

 私を見下ろした彼氏は「見るんじゃねぇぞ」と言い放つと、こちらの返事も待たず、そのまま彼女のもとに戻っていった。

 結局私は、彼らを見るべきなのだろうか、見ざるべきなのだろうか。

 薄情な子供たちは私の身に起こった不幸になど気付かなかったらしく、遊び続けている。

 彼女のもとへの生還を果たした彼氏は、感激した様子の彼女に勢いよく抱き着かれた。

 そのことで体勢を崩してしまったのか、彼氏は彼女を抱きかかえたまま、倒れるようにプールに飛び込んだ。

 同体である。

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