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第91話 地底人と悪魔と帝国の悪夢

 オークエンペラーの体から、速やかに魔石が取り除かれ、手に持つ魔剣が回収された。

 魔剣は、ナイフかと思っていたが、ショートソードだったのだ。

 オークエンペラーの体との比較で見ていたから、ナイフだと思っただけで、実際には長さが50センチ程もあったのだ。

 柄は両手剣かという程に長く、剣身と同じくらいの長さがある。

 装飾は宝剣と思える程に煌びやかで、鞘も同様に金とミスリルで装飾が施されており、各所に散りばめられた宝石には、防御魔法がふんだんに付与されていた。

 剣の材質は、アボイタカラという超希少金属で、前の世界ではヒヒイロカネの別名とされていた金属だ。

 こちらの世界では、ヒヒイロカネとは別の金属で、硬くて魔力の通りが良く、加工がとても難しいとされている。

 産出量は、殆ど確認されておらず、魔力鉱石よりも更に採掘難易度の高い金属とされている。

 正直、このショートソードを作れる程の量を集めるのに、何百年かかるのか、想像もつかない程だ。

 おもな産地というか、今までに見つかったのが、全てアバダント帝国の鉱山のみであり、実在するかどうかも怪しいとされて来た金属なのだ。


 『凄いなコレ。全てアボイタカラでできてるぞ?この量を売ったら、というか買える国が無いな。』

 「これがアボイタカラ・・・。実在したんですね。」


 そう言いながら、カレンが剣を手に持つと、オークエンペラーの手に合わせたかの様な柄が、細くなってカレンの手に丁度いいサイズに変化した。


 「・・・何かやっちゃった感が凄いんですが・・・。」

 『問題無いな。柄が細く短くなった分、剣身が長くなったからな。その剣は、後でカレンに渡すとして、暫らくは細かく調べる事にしよう。』

 「私には、アルティス様から頂いた剣がありますので、要りません。」

 『じゃぁ、俺が手を加えたらどうする?』

 「度合いによります。」

 『カレンに使って貰える様、努力しよう。』


 この剣は、別にインテリジェンスソードという訳では無い様だが、持つ者の体格や能力に合わせて変化する様だ。

 剣身は兎も角として、柄の太さやバランス、形状などが持つ者に合わせて最適化される様で、あるじが持つと再び変化が起きたのだ。


 『これ、使えるな。皆の剣のグリップを調べて型を作れば、太さも重さもバランスも、最適化できるって事じゃん。』

 「・・・そんな使い方で良いのか?」

 『この金属の価値を考えれば、実用向きとは言い難いし、国宝として宝物庫に保管されても、誰も文句を言えないよね。』

 「まあ、確かに。」


 武器として使える使えないは、今の所未知数でしか無いので、其の物の価値で考えるとしたら、実用性皆無と言っても過言では無い。

 但し、購入できる国が無い事を考えれば、価値が無いとも言えるので、実用する事を考えても良いと思う。

 ただ、戦場で武器を紛失する事はよくある話なので、万が一紛失してしまった場合は、大変な事になるだろう。

 今は平気でも、時代によっては戦犯として処理される事もあるかも知れない。


 「ふと思ったんだが、これをアルティスが触るとどうなるんだ?」

 『どうなるんだろうね?ちょっとやってみよう。』


 魔剣に触れてみた。

 すると、みるみるうちに小さくなり、首輪の様に変化した。


 『うーむ、縮んだ?残りの部分は何処に行ったんだ?』

 「さぁ?」

 『あるじ触ってみてよ。』


 一度小さく縮んだものが、再び大きくなるのか検証する。


 「触ってみよう。」


 あるじが触ると、元のサイズに戻った。

 変化している時の魔力の流れを見たのだが、どうやら中心部分に何か亜空間か、ディメンションホールの様な物があり、そこから出て来ていた。

 つまり、この魔剣は、個体でありながらも液体の特性を持つ謎物質なのだ。

 そして、オークエンペラーが使った様に、実体を出し入れする事により、すり抜けたり弾いたりできる様になるのかもしれない。

 問題は、自分以外がいないと実験できないという事だ。


 『詳しくは、後で王城に戻ってから色々実験してみよう。』

 「そうだな。では、一旦遠征軍はハンザ領に移動して、そこで休暇を1日作るとしよう。」


 真ん中で幹部が話しているのを、静かに待っていた兵士達の耳に、休暇という台詞がハッキリと聞こえた様で、大歓声が沸き起こった。


 「待て待て、ここでじゃないぞ?ハンザ領に戻ってからの話だ。」


 態々ハンザ領に立ち寄るのは、ハンザ領内の経済を回す為と復路で訓練をする為だ。

 ゴブリン帝国とオーク帝国が無くなった今、森には平和が戻り、避難していた魔獣達が続々と戻ってきているのだ。

 下手すると、ゴブリン帝国を相手にしていた時よりも、きつい状況になっている可能性もあるのだ。

 森の外で襲って来た魔獣が、森の中にはウジャウジャ居るのは確実で、前回は開けた場所だったが、森の中では自由に動けないのだ。

 その動きに制限がある場所では、その制限が不利に働く事だってあるのだから、思っている以上に危険だと思われる。

 今回の遠征では、主にゴブリンとの戦闘がメインだったが、初戦で大型魔獣と戦った経験から、楽勝だと思っている者が多い。

 だから、戦う場所が違うだけで、どれだけ大変になるのかを経験できるのは、ラッキーと言っていいのかもしれない。

 リズとカレンの試合が、あっという間に終わってしまったので、ゴブリン帝国の巣穴と、オーク帝国を調査してから帰る事になった。


 「ゴブリンの方は、この穴か。気を付けて調査してこい。」

 『ソフティー、行こう。』

 「ちょ、待て待て、アルティスも行くのか!?」

 『一応確認しておかないとね。』

 「そ、そうか。」


 何を確認するのかと言えば、魔族や人族の痕跡が無いかを調べるんだよ。

 高度な技術や人語を理解する知識をどうやって知ったのか、謎が多いからね。

 巣穴の中には、遺跡があった。

 所々崩れてはいるが、四角く加工された石材が多数転がっているので、間違い無いだろう。

 通路が四方に伸びているが、全ての通路が崩落していて、先に進めなくなっている。


 『ちょっと構造を調べておくか。[ウルトラサウンド・エクスプロレーション]』


 調べた結果、地下3層まで広がっていて、一番最下層には山積みの何かがある事が判った。


 『ちょっと地下に行ってみよう。死体が山積みになっているのか、何かの財宝が山積みになっているのか、調べないとね。』

 『どうやって行くの?』

 『[リムーブ]』

 ズザザザザ


 崩落した土砂を取り除くのでは無く、脇に除けた。

 土砂を排除するという意味で唱えたのだが、消すとか無くすのでは無く、単純に正面から排除されただけの効果だった。


 『さぁ行こう!』

 『あいさー』


 奥に進むと、ゴブリンジェネラルやホブゴブリンアーチャー、ホブゴブリンメイジ等の上位種の死体がたくさん転がっていた。

 滅多に見られない上位種である為、各種1体ずつを冷凍してから、ディメンションホールに放り込んでおいた。

 王都で詳しく調べて、剝製にでもしてもらおう。

 階段を降りて、地下2階層に来ると、ゴブリンの死体は無くなり、蝙蝠とネズミの死骸が散らばっていた。

 蝙蝠は、3種類程が居て、一番小さいのがクギバットという変な名前で、主に体当たりで攻撃してくる奴だ。

 足が釘の様な形をしており、病原菌を纏っている為に、稀に毒状態になる事がある。

 綺麗に洗えば、一応食用にはなるそうだが、小骨が多くて身が少ないらしい。

 次に、中くらいの蝙蝠が、ハンマーバットという名で、頭がハンマーヘッドになっている。

 主に頭突きで攻撃して来るが、当たり所によってはスタンする事があり、結構痛いらしい。

 肉食で、スタンさせられると齧られるらしく、齧られるとパラライズにかかるそうだ。

 初心者が偶にそれで死ぬらしい。

 最後に、一番大きい奴が、ドレインバットという名で、直接攻撃はして来ないが、近づかれるとHPやMPを吸い取られるらしい。

 羽を拡げると1mちょいあり、かなりでかく、美味しいらしい。

 臭みも無く、肉質も柔らかくて、大きいので可食部も多いそうだ。

 こいつは少し持って行く事にしよう。

 通路の途中で扉を見つけた。

 超音波では見つけられなかった部屋で、目の前に来るまで全く判らなかった。

 扉は金属製で、オリハルコンを鋼で挟み込んでいた。


 『オリハルコンの板が挟まってるのか。[アポート]』


 取り出したオリハルコンは、厚さが3センチもあり、ウハウハだ。

 扉を開けると、そこには祭壇の様な物があり、8面体のアボイタカラ製のオブジェがあったので、それも回収しておいた。


 『何の部屋だったんだろう?』

 『さあ?』


 祭壇が何の為の物かは判らないが、巨大なアボイタカラの塊が手に入ったので、ウハウハだ。

 それが何の為にそこに設置されていたのかは判らないが、特に魔法陣も無いし、歴史書でも読んだ覚えが無いのだ。

 ただ、大きさに対して、重さが少し足りない気がするが、まぁ、空洞があるのかもしれないね。

 何かを閉じ込めるカプセルなのかも知れないけど、特に警告の様な物は無いし、説明書きも無いのだから、気にしないでおこうと思う。


 『さぁ、先に進もう。』

 『あいさー』


 この階層には、祭壇のあった部屋以外は、何も無かった。

 この遺跡が、何の為に作られたのか、疑問に思う事はあっても、まだすべてを見た訳では無いのだから、結論なんて出る筈が無い。

 偶に、そういう意味深な物を見て、察しろとか言う奴が居るけど、それは結果を知っている者の理論なんだよ。

 何も知らない者が祭壇を見ても、神棚程度にしか思わない物なんだよ。

 考古学者がピラミッドを見て、あれは墳墓だとか言ってたのに、棺も何も見つからず、他の所で墓地を見つけたりして、後から祭壇だ!とか言い直すなんて事はザラだからね。

 危険物を封印していたとしても、扉だけ頑丈で、壁とか床とか天井が普通の状態であれば、特に危険なものでは無いと思うのが普通なのだ。


 『3階層目に到達ーっと。なんか感じる?』

 『んー、微かに感じる。誰か居るみたい。』

 『ん?んん?んー・・・?感じないな。何だろ?』

 『わかんない。』


 ソフティーは何かを感じた様だが、魔力感知も振動感知も反応しないので、髭センサーや眉毛センサーを使ってみたけど、何も判らなかった。

 まぁ、アラクネに対抗しようとするのが、土台無理な話だ。

 彼女らは、全身の毛と吐き出す糸から感じる振動で感知しているのだから、勝てる訳が無いのだ。

 アラクネが使う、センサー用の糸には、微細な繊毛(せんもう)がビッシリと生えていて、小さな昆虫の動きや、空気の流れ、僅かな振動も感じ取れるので、魔力の有無は関係無く、自然な動きか、自立した動きかも全て感じ取る事ができるのだ。

 生まれてこの方、そのセンサーを頼りに生きて来た経験は、練度となって驚異的な感知能力を発揮する、(いしずえ)となっているのだ。

 3階層は、単純な構造になっていて、階段から真っ直ぐ伸びる通路の先に、サッカー場くらいの広いスペースがあるだけだ。

 広い部屋の奥には、それほど高くないひな壇と、その上に玉座が一つあり、玉座の後ろには首の無い羽の生えた石像が立っていた。


 『何だこの部屋?羽の生えた石像・・・、神を奉ってる訳では無いみたいだな。堕天使かルシフェル辺りかな?』

 『首が無いよ?』

 『カルト教団の集会所みたいな物なんじゃない?』

 『悪魔信奉者では無さそう。』


 部屋の雰囲気や、像に滲む魔力の質からして、悪魔関連では無さそうだ。

 だが、神の居るこの世界で、天使を奉る意味が判らないな。

 天使は、神の(しもべ)ではあるけれど、使徒では無いし、大して力も持っていないのだ。

 できるのは、神の身の回りの世話くらいで、生活魔法しか使えないし、戦闘能力も無いのだ。

 何故知っているか?思い浮かべたら、その知識が流れ込んできたんだよ。

 神の使徒の特権って奴なのかね。


 『あ、そっちの天使じゃなくて、神獣の天使の方かもしれないね。』

 『あの卵の奴?今どこにあるの?』

 『王城にあるよ。煮ても焼いても食え無さそうだし、ピカピカ光って煩いから、地下の保管庫に放り込んである。』

 『扱いが雑!』

 『だって、興味無いし。』

 『神獣の卵なんでしょ?』

 『殻に閉じこもって何もしない神獣なんて、どうでもいいじゃん。孵すのに魔力が必要なのかと思って、浴びせてやったら、静かになったけどね。』

 『それは、気絶したんじゃ・・・?』


 その程度で気絶するんじゃ、出て来るだけ無駄なんじゃないかな?

 その時、王城から念話が来た。


 『アルティス様、天使の卵の殻に罅ができました!』

 『壁に投げて、協力してやれよ。』

 『そんな!恐れ多いです!』


 念話して来たのは、魔道具部隊の中隊長で、マリアベル・マグノリアだ。

 彼女は、地下保管庫に放り込まれた神獣の卵を、1日3回確認している役目を負っている。

 というか、自分からやると言い出した。

 見に行く間の魔道具作成に支障を来すので、文句が出ない様に役割として任命したのだ。

 周りから見ると、ちょくちょくタバコを吸いに行く同僚みたいで、サボってる様にしか見えないからね。


 『仕方ない。ゲート開くから、投げ入れてくれ。』


 どこまでも粗雑な扱いしかしない様だ。


 『いえいえ、そちらにお持ちします!』

 『危険だから投げろって。』

 『神獣様の卵ですから、丁重にお持ち致します!』

 『じゃぁ、投げなくていいから、転がせ。』

 『それもどうかと思いますよ?』

 『危険だっつってんだろ!』

 『構いません。神獣様の為なら、私の命など安い物です!』

 『じゃぁ、お前はクビな。今すぐ城から出て行け。自分の命を投げ出す奴なんざ、バネナ王国軍には必要無え。今すぐ消えろ。』

 『そ、そんな!?神獣様ですよ!?神様のお使いなんですよ!?丁重に扱うのが当然の事では無いのですか!?』

 『神獣は、神の使いでは無く、ペットだ。ただの愛玩道具なんだよ!殻に閉じこもって何もしない神の使いなんかが、居る訳無えだろ。そんな奴が居たら、そいつはクズだ。ゴミ扱いされて当然の生ゴミだ。今すぐそっちに行って、叩き潰してやるよ!』


 反論して来なくなったと思ったら、マリアベルとは違う奴から念話が来た。


 『ご、ごご、ごめんなさい!この人を操っていただけなんです!もうしませんから許してください!』

 シュン

 『てめぇいい加減にしろよ?他の神獣共もよく聞いておけ。今後一切、人族を操りやがったら、卵ごと叩き潰してぶっ殺す!天使は今すぐ殺す!』


 殺気を出すと、ワラビが現れた。


 「あ、アルティス様!お待ちください!私めが、この神獣の浄化と躾を致しますので、どうかお許しを!」

 『ああ?マリアベルはどうするんだよ!治せるのか?治すのか?やれるならとっととやれ!早くしねえと、廃人になっちまうだろうが!』

 「今すぐ対処致します。」


 ワラビが祈りを捧げ、杖に魔力を込めると、眩い光が迸り、マリアベルの体を包み込んだ。

 ワラビは、神獣の犯した罪を神々に訴えかけ、神の力に当てられて崩れかけたマリアベルの魂を修復する。

 人の中でも、特に人間というのは、酷く希薄で、(はかな)い。

 さざ波程度であれば、余裕で耐えられるのが、一度大波が来てしまえば、簡単に押し流されて行く。

 神獣は、神の力を持って生まれ、神に近い所で生活をしていた者達で、その神獣が人間の心に足を踏み入れて、少しの時間だけでも意のままにコントロールしたともなれば、人の心など容易く砕け散ってしまうのだ。

 オリハルコンドラゴン等とは比べ物にならない程のエネルギーを持ち、そのエネルギーで人格を塗り替えてしまったのだから、それをした物を許す事などできる筈も無い。

 神獣の卵の所にテレポートしてきたのは、マリアベルが死んでもいいと言ったからだ。

 マリアベルの家は、下級貴族の家柄で、当主は病床にあり、貴族年給だけで生活している状況にある。

 兄弟が多く、一番の年嵩(としかさ)であるマリアベルが、魔道具部隊の中隊長という地位にいるからこそ没落せずにいられるのに、そのマリアベルが命を投げ出す様な事を言った事に違和感を感じたのだ。

 あの子は、そんな事を言う子では無い。

 今でも給金の殆どを実家に渡しているのに、それを途切れさせるような事を言う筈が無いのだ。

 そして、その事を何とも思っていない神獣が、乗っ取って壊したのだ。

 正直、今すぐにあの神獣の卵をかち割って、中身をグチャグチャのミンチにしてやりたいと思っている。

 睨む視線の先にある卵は、割れた殻の隙間からこちらを覗き見ながら、小刻みに震えている。

 怖がっているのだろうが、心配の先にあるのが自分の命だけで、マリアベルの事など見向きもしないのがムカつく。

 本当に心の底から怖がっているのなら、恐れの対象を見る事などできる筈も無い。

 こいつらは、自分の事以外には無関心で、自分が死ぬなんて事は、微塵も考えていないのだ。

 だから、こちらの動きを伺いながら、怒りが収まるのをじっと待つ事しかしないのだ。


 『その目をこっちに向けるな。殺すぞ。』

 ビシャッ!

 『ギャー!目が!目が!』


 ソフティーが、卵の隙間から見える目に向けて、糸を撃ち込んだ。

 もろに目に当たった様だ。

 ざまぁ


 「ソフティーさん、攻撃はお控え願います。」

 『反省して無いのが悪いんだよ。再教育の期限は1カ月以内だ。それまでに直っていなければ、こいつはインフェルノで焼き尽くす。』


 ああ!頭の中が怒りでグチャグチャだ。

 

 「そんな短期間では無理です!せめて1年は頂きたいです。」


 そんな事は判ってる。

 だが、そんなに待っていられる自信が無い!


 『待っていられねぇな。お前が祈りを捧げている間も、じっとこちらを睨んで、マリアベルの心配など微塵もしてねぇんだからな。』


 あの目が頭から離れない!


 「・・・オーベラル神が甘やかした結果の様です。」


 そんな事は知っている!


 『だから?』


 怒りが抑えきれない!


 「私が、腐った性根を叩き直します。」


 オーベラルができなかったのに、ワラビにできる筈が無い!


 『ふん、できるものか。クソ神共、今すぐ神獣から人格を消せ。リセットしろ。人間の魂なんぞ入れるんじゃねぇ。さっさとやらねぇとインカンデセンスで焼き尽くすぞ。』


 奴らのやる気が感じられない!だが落ち着け!落ち着かないと、ワラビも纏めて殺しかねない!


 「おやめ下さい!」


 ワラビの必死な声も届かない。


 『マリアベルは治ったのか?』


 マリアベルはまだ死んではいないが、元に戻すのは難しいだろう。


 「まだ修復途中です。」


 できる訳が無い。


 『いつ終わるんだ?』


 できる訳が無い。


 「まだ何とも・・・。」


 魂の修復なんて、できる訳が無い!


 『当たり前だ。禁忌の蘇生をしてるんだからな。クソ共が真面目になんてやる訳ねえだろ?』


 こんなぶっ壊れた神獣なんてものを作ったクズ共に、報復してやる!

 そう思った瞬間、マリアベルの体に金色の光が降り注ぎ、マリアベルが目を覚ました。

 対して、神獣の卵の方には、青白い光が当たり、卵の殻の色が灰色になり、ピカピカと点滅していたのが光らなくなった。


 「オーベラル神が、マリアベルさんの時間を巻き戻しました。それと、神獣は全てリセットされたそうです。」

 『そうか。』


 その一言しか出なかった。

 寸前までは、怒り心頭だったのだが、スーッと怒りが引いて行ったので、何かされたのだろう。

 原因となる記憶を消されたのかもと思ったのだが、神獣の愚行はちゃんと覚えている。

 思い出せないのは、殻の隙間から見えていたあの視線だけだ。


 『そうか、あの視線は状態異常で、混乱させようとしていたって事か。いい度胸だ。記憶を無くしたくらいで騙せると思うなよ?[ライトニング]』

 ピシャーッ!パリパリパリ

 「アルティス様!?」


 ワラビが天使の卵に駆け寄り、罅の隙間から中を覗き込むと、そこには黒焦げになった塊だけがあった。


 「なんて事を・・・」

 『この程度じゃ死なねえよ。だがな、神獣だからと言って、悪い事をしたのに、謝罪も罪滅ぼしもせずに許されるなんて事にはならねえんだよ。何の事か判らないのに酷い事をされた?オーベラルに何で怒られたのかを聞けよ。また同じ事をやったら、次はてめえの魔石をかち割ってやるからな。』

 「話せるのですか?」

 『話せる訳ねえだろ。だが意識はある。それに、クソ共も肝に銘じただろ?遠巻きに見ている雑魚共にも見える様にやってやったんだからな。』

 「お手柔らかにお願いします。」

 『クズ神獣なんぞを育てなけりゃいいんだよ。で、結局、躾をやるのか?』

 「一人で4頭は厳しいのですが・・・。」

 『一匹は、一人じゃん。』

 「もう天使では無いようです。元々ペガサスだったそうで、元に戻したと仰られました。」

 『へぇ、誰か乗りたがっていた様な?』


 というか、何かを忘れている様な気が・・・


 『アルティス、遺跡はいいの?』

 『あ!忘れてた!戻ろう。』

 シュン


 遺跡の広間に戻って来たら、人が居た。


 『あれが微かな気配の正体かな?』

 『うん、そうみたい。』

 「チッ、バレたか。申し訳ないが、死んでもらう?んん?どこにいるんだ?」


 普通の人間では無さそうだから、気配と魔力を隠蔽して様子を探る事にしたよ。


 「確かに話し声が聞こえた筈だが・・・、気のせいか?」


 うん、独り言にしては声が大きいし、目があちらこちらに動いているから、演技だね。

 ほとぼりが冷めるまで、じっとしておこう。

 と思っていたが、長時間じっと待つのって、ソフティーが無理なんだよね。

 5分程待っていたんだけど、ソフティーが編み物始めちゃったよ。


 「な、なんだ!?」


 あー、バレちゃった。


 『はっ!アルティスごめん、無意識に始めちゃった。』

 『いいよいいよ、癖だから仕方ないよね。隠ぺい解除しよう。』

 「んな!?アラクネ!?いつの間に!」

 『よっと、お邪魔してるよ。』

 「何だ?初めて見る獣だな。君が喋ったのか?」

 『そうだよ。で、ここで何をしているんだ?』

 「天使様をお待ちしている。」

 『天使って神獣の?』

 「知ってるのか!?」

 『あぁ、知ってるよ。もう居なくなったがね。元々ペガサスだったらしいよ。で、神の手によりペガサスに戻されて、記憶も消されたと。だからもう、君らの知る天使様は、この世から居なくなったという事だ。』

 「何だと!?我らアガリタガリアンが崇める神が居なくなってしまったと言うのか!?」

 『んん?上がりたがり?アガルタ王国とかかな?』

 「何だ?聞いた事の無い国だな。我が国は、シャンバラ王国というのだ。」

 『そっちかぁ。で、天使が何で神として崇められてるんだ?』

 「我らアガリタガリアンは、大地の神を怒らせた。だが、天使様は慈悲をくれた。命を捧げれば、我らをお守りくださると誓って下さったのだ。」

 『ん?神が誓う?契約したって事?違うの?どういう事?』


 神が誓うって、何に対して誓うというのか。

 神というのは、頂点に立つ者なのだから、誓いを立てるというよりは、契約をすると言う事になる。

 王や元首とは違い、その上が無いのが神なので、誓いを立てるにしても保証?いや、担保が無いという事になる。

 誓いというのは、約束するという事であり、約束には必ず相手がいるのだ。

 だが、ただ単に約束すると言われても、それは口約束でしかなく、本当にやってくれるか判らないのだ。

 だから、神に誓ったり、誇りに誓ったりして、絶対に反故にしない事を約束するのだ。

 だが、神が創造神に誓いを立てるなんて事は、何が何でも、死に物狂いで達成すると宣言している様な物になるので、そんな事を誓う神など居る訳が無いのだ。

 ましてや、民の幸せみたいな漠然とした事に対して、創造神に誓うなんて事は絶対にしないと断言できる。

 軽々しく誓うなんて言う神程、信用できない物は無いしな。

 そもそも、この世界の神は、滅多に姿を現さないし、現世に殆ど興味を示さないのだから、態々絶対数の少ない地底人の所に来て、安寧(あんねい)を誓う?やる訳が無い。

 そんな事やるなら、先に地上の人々に対してやれって話になるでしょ。

 で、天使がここに来て、地底人を守ると約束をしたと。

 いつの話だよ。


 「天使様は、300年前に来て、誓って下さったのだ。」

 『ワラビ、天使が卵になったのっていつの話だ?』

 『どうされたのですか?』

 『地底人が、300年前に天使に守ってやると約束してもらったらしい。』

 『800年前だそうです。時期が全然違いますね。』

 『暦が違う可能性もあるな。ちょっと詳しく聞いてみる。』


 地上の場合は、月齢や太陽の位置で決まるのだが、地下にずっといるという事は、月も太陽も確認できないという事で、別の何かを暦代わりとして使っている可能性があるのだ。

 ただ、地下で周期的に動く何かがあるとは思えないんだよなぁ。

 地形的にプレートが動くなんて事は無さそうだし、地震も起きる気配が無い。

 ありそうなのは、潮汐かな?地底湖の水位の上がり下がりで見るとか?うーむ、判らん。


 『なぁ、お前等の暦ってどんなの使ってるんだ?』

 「馬鹿にしてるのか?大地歴に決まってるだろう?」


 大地歴とか、知らない名前が出て来た。


 『聞いた事が無いな。何を基準として決めているんだ?』

 「大地の脈動だよ。聞こえるだろ?」


 大地の脈動?何の話だ?


 『いや全く聞こえない。』

 「何だと!?大地竜様の息吹が聞こえない!?なんて事だ・・・」


 大地竜?聞いた事が無いな。

 まさか、この世界が大地竜の背中とか言わないよな?


 『大地竜って何だ?』

 「大地竜様を知らないのか!?この世界は、大地竜様の背中にあるんだぞ!?」


 言われてしまった。

 この手の話は、前の世界にもあった、地球平面説と同じ様な物だ。

 大地を支えているのが、象から竜に変わっただけ。


 『その大地竜様とやらは、丸いのか?』

 「丸い?何の事だ?この部屋は丸くなんてないだろ?」


 あぁ、こいつらの世界は狭いんだった。

 地上に住む俺達は、空を見ているのが当たり前の光景だが、こいつら地底人の空は、岩と土しかないのだ。

 もちろん地平線なんて物も無いから、広大な景色なんて物を見た事が無い。

 あったとしても、それは天井がある広い空間でしかなく、地平線の向こうにある街なんて物を想像する事すらできないのだ。


 『お前等は、地上に出た事は無いという事だな?』

 「地上とは何だ?どこの事を言っているのだ?」

 『上に行った事は無いという事か。ここよりも更に上に行った事はあるのか?』

 「壁も何も無い所に行く事はある。巨大な苔の生える地だろ?恐ろしく狂暴な魔獣が居るので、用が無ければ行く事は無いが。」

 『用とは?』

 「病を治す薬を採りに行く。」


 こいつの言う巨大な苔とは、多分木々の事を言っているのだろう。

 地下には苔しか生えていないから、木という言葉すらないのだと思う。

 で、暦については、考えるのを止めた。

 大地竜の息吹を感じ取れないので、考えても無駄だからだ。

 年数の違いについては、大体2倍半くらいの誤差があると考えればいいだろう。

 その辺の違いについては、地上の事を何も知らない相手と、地下の事を何も知らない俺で話しても、多分進展は無いだろうから、突っ込まない事にしたんだよ。

 そんな事よりも、先に確認しておかなきゃならない事がある。


 『そうか。それはいいとして、ここにある死体の山は何だ?』

 「これは(にえ)だ。天使様がご所望為された命を捧げたのだ。」

 『で、お前は死んだフリをして生き長らえたと?』

 「そうだ。だから、目撃したお前を殺さなくてはならない。」

 『ふむ、その前に、もう一つ聞きたい事がある。』

 「何だ?」

 『何故地上に住むアラクネを知っている?』


 この質問をした事で、劇的に変化があった。


 「やはり貴様は殺さなければならない。」


 姿が変化して、黒い羽を持つ天使の様な姿の男が現れたのだ。


 『[鑑定]やはり悪魔か。羽を持つ奴は初めて見たな。受肉していない?いや、食って取り込むタイプか。地底人とか、明らかに光に弱そうな連中の能力を取り込むとか、お前馬鹿だろ?』

 「命乞いをせずに虚勢を張るか。面白い。一口サイズだが、甚振ってから殺してやろう。」

 『ほいっ』


 強化神聖玉を転がした。


 「ギャアアアアアアアア」

 『死角を無くしてやろう。』


 その言葉に反応して、ソフティーが天井と胴の下に強化神聖玉を設置した。

 悪魔は影移動という物を使えるので、天井から強い光が当たるとできる足元の影を、ソフティーの胴の下に付けた神聖玉で消したのだ。

 これで、ほぼ影が無くなった。

 悪魔が白い煙をあげながらギャーギャー煩いが、よく確認してみた。

 名前はルシード・ベオル、整髪料みたいな名前だが、一応子爵級の悪魔の様だ。

 家名のベオルという名は、確かベルフェゴールの元になった山の名前だった気がする。

 ベルフェゴールは、七つの大罪の怠惰を司る悪魔で、王の資格を持つ大悪魔なのだが、こいつは子爵級という事は、遠い親戚か末席に加えてもらったとかだろう。

 羽を持っている意味がよく解らないが、羽からは煙が出ていないので、コスプレか何かだろうと思う。

 ん?そういえば、天使が卵にされた原因が、羽を取られたとかだった気が。


 『ワラビ、ルシード・ベオルという悪魔をイジメてるんだが来るか?』

 『行きます!その悪魔がペガサスの羽を奪った犯人です!』


 ワラビがテレポートして来た。

 何故か背中にペガサスの卵を背負っているが、まぁ、喧嘩相手に奪われた羽を取り戻して、素直にさせるとかそんな感じかな?


 「[セイクリッドメイデン]」


 うわ、聖なる光のアイアンメイデンで挟み込んだ!?

 羽だけ外に出してるとか、芸が細かい気もするが、お子様には見せられない程に、凶悪な殺し方を覚えたな。

 アイアンメイデンというのは、少女の絵が描かれた人型の箱で、内側に多数の棘があって、蓋を閉めると串刺しになって死ぬという、凶悪な拷問器具だ。

 アイアンは鉄、メイデンは処女という意味で、日本語では鉄の処女という名称になる。

 今回は、神聖な光でできた箱と、神聖な光でできた棘を使っているのだが、これを神聖と言っていいのだろうか?

 まぁ、悪魔の場合、蓋を閉じただけでは死なないんだけどね。


 「[セイクリッドウォーター]」


 駄目押しの攻撃だな。

 箱の中を聖水で満たすと共に、棘の先からも噴き出している事だろう。


 バサバサ


 外に出ていた羽が床に落ちて、真っ白になったかと思ったら消えてしまった。


 『あぁ、手羽先が・・・』

 「アルティス様、虐めないで下さい。」


 怒られちゃったよ。

 悪魔が消滅すると同時に、メイデンも消えて行った。


 『随分恐ろしい物を使うんだな。』

 「あのクラスになると、光を当てるだけではあまり効果が無いのです。ですから、内側からと外側からダメージを与える様なやり方でなくてはなりません。」

 『そうなのか。今後も上級悪魔が出るかも知れないから、何か考えておくよ。』

 「はい。お願い致します。では、戻らせて頂きます。」

 『お疲れ様。』

 シュン


 部屋に山積みになっていた遺体も、既に浄化を掛けられていて、悪魔の餌になる様な魂は残っていない様だ。

 だが、遺体をそのままにすると、アンデッド化してしまうので、燃やしておこう。


 『[インフェ・・・]んん?』


 インフェルノで燃やそうとすると、遺体がボロボロと崩れ始めた。

 鑑定してみると、地底人は死ぬと数分で土に変化すると出た。

 但し、大地の神の庇護を受けていない場合や、力が及ばない場合には、消えない場合もある様だ。

 今の場合は、ルシード・ベオルの影響下にあった為に、土に還る事ができずにいたという事なのだろう。


 『さて、何かを探しておくか。』


 今はまだ、天井から吊るされた神聖魔法玉と、足元の神聖魔法玉が光っているので、部屋の隅々までが良く見える。

 財宝は無いとしても、悪魔が移動する為に使ったゲートなんかがあるかも知れないのだ。


 『アルティス、像の後ろに何かある。』

 『行ってみよう。』


 ソフティーが像の後ろに違和感を感じた様だ。

 像の後ろを見てみると、そこには地下に続く階段があった。


 『入ってみよう。地底人の街か悪魔の通り道か、いずれにせよ放置する訳にはいかないよね。』

 『うん。』


 階段を降りてみると、途中で行き止まりになっていた。


 『行き止まり?まだ続く様な感じに見えるけど、何も無いな。』

 『土しか無い。』

 『地底人が塞いだか、何かのギミックで隠されている、又は空間を繋げるとか、転移するとかなのかも知れないね。』

 『スイッチとか無いよ?』

 『地底人が居ないと反応しないのかもね。』

 『そっかー』

 『戻ろう。』

 『あいさー』


 それ以外は特に何も無かったので、地上に戻って来た。


 「アルティス、遅かったな。」

 『ちょっと色々あってね。』

 「色々?財宝でも見つけたのか?」

 『地底人の死体と、子爵級悪魔とオリハルコンの板と、アボイタカラの塊だね。』

 「凄いじゃ無いか!?地底人?子爵級悪魔??」


 情報量が多くて、混乱している様だ。


 「悪魔は倒したのか?」

 『ワラビに来てもらったからね。消滅したよ。』

 「そうか。なら良かった。・・・何か疲れてないか?」


 色々あり過ぎて、もうぐったりだよ。

 オークの方は任せていいよね?


 『疲れたから休憩するね。オークの方は任せたよ。』

 「お、おう。そうか。ゆっくり休め。」


 オーク帝国の方の調査は、カレンとリズが向かう事になった。

 それぞれ兵士を50人ずつ引き連れて、オーク帝国の中心部に向けて出発して行った。


 到着したオーク帝国は、横長の集落の様だったが、塀の並びを見る限りでは、大きくカーブしているのが見える為、ゴブリン帝国の様なドーナツ型の可能性もあると見て、塀の中に踏み込んだ。

 中には、掘っ立て小屋とそこかしこに転がるゴブリンの骨、奥の方には大型魔獣の骨もあり、小高い丘の上には東屋があり、その中心部に大きな椅子が置かれていた。

 椅子の後ろには、宝石類や宝飾品が山積みになっており、回収してから周囲を見渡したカレンが、オーク帝国の奥にある物を発見した。


 『アーリア、ドラゴンが居る。』

 『やはり居るのか。この森には昔からドラゴンが居ると噂されていたからな。アルティスに聞いてみよう。』


 ドラゴンと言えばアルティス、という訳では無いが、特に害を成す訳でも無く、昔から噂されてはいたが、被害報告は特に聞いていない為、討伐対象とするかを確認しようと思った様だ。

 負ける気はしないが、藪を突いて蛇を出し、その挙句に死者を出したともなれば、目も当てられないのだ。

 好戦的ではあっても、戦闘狂では無く、部下を死なせる危険性を考えるならば、無暗に手を出さずに大人しく引き下がるのも、将軍としての資質なのだ。

 ただ、ほんの1時間前に休憩に入ったばかりのアルティスを起こす事に、ほんの少しだけ罪悪感を感じているのだ。


 『ドラゴンかぁ。何色なの?』

 『紫色がかった黒でしょうか?』

 『簡易鑑定では何と出てる?』

 『エンシェントドラゴンと出ています。』

 『黒紫のエンシェントドラゴン?じゃぁ、放置で。』

 『狩らないんですか?』

 『そいつは多分、帝国の悪夢だよ。』

 『あぁ・・・、判りました。触らない様にします。』

 『ちょっと確認だけしておこうかな。』

 『何の為にです?』

 『オークの残党が、ちょっかいをかけて無いか、確認だよ。』

 『待ってます。』


 今回はテレポートでは無く、ソフティーの足で移動した。

 すぐ近くなのと、ソフティーが会いたがったからだ。

 アバダント帝国の悪夢と呼ばれる、黒紫のエンシェントドラゴンは、本来は北の山脈に住んでいたのだが、戦力の強化を目論むアバダント帝国がちょっかいを出したのだ。

 ドラゴンとは言え、巨大な体を動かすには膨大なエネルギーが必要となる為、ドラゴン類は寝ている事が多いのだ。

 黒紫のエンシェントドラゴンは、体長が1Km程もあり、その巨体を動かすとなると、1日でペルグランデスース数十頭は食べなければならず、エネルギッシュに動き回ったりすれば、10日で人類が滅亡するとまで言われる程にエネルギーを消費すると言われている。

 過去のアバダント帝国は、この竜を討伐しようと何度も兵を派遣しては、惨敗するという事を何度も経験しているのだ。

 そして、気が付けば兵の増強どころか、エンシェントドラゴンを怒らせて、帝国の半分を焦土にされ、国民の数が半減していたという事から、アバダント帝国の悪夢と呼ばれる様になった、と歴史書に書いてあった。

 だが、悪夢と呼ばれる様になったのは、焦土となってから100年後くらいに出た小説の中で、エンシェントドラゴンの事を悪夢と呼んでいた事から広まったと推測している。

 その小説には、人口が半減してからアバダント帝国の衰退が始まったと書いてあるのだ。

 周辺国の歴史書を見ても、同様の事を書いてあるので、そこは本当の事なのだろう。

 焦土と化した地域では、余りの高熱により地面がガラス化して、100年以上作物が育たなかったらしいから、今回も無暗に怒らせて、ブレスを吐かれないようにする事にしたのだ。

 地面がガラス化するって、溶岩くらいの高温に曝されないとならないから、何千度もの高温のブレスなのだろう。

 地面がガラス化したとして有名なのは、モヘンジョダロだね。

 だけど、広範囲にガラスが散乱する場所があるなんて話もあるが、いくら探しても見つからないらしいから、あれは多分デマだね。

 アバダント帝国に行けば、地面がガラス化土地があるって事なら、そのガラスがテクタイトなのか、トリニタイトなのかを確認してみたいね。

 まぁ、それはいいとして、エンシェントドラゴンの見える丘にやって来たよ。


 『でかいな。ソフティー、行こう。』

 『あいさー』

 「私も行っていいですか?」


 カレンが着いて来たい様だ。

 だけど、アレの近くで殺気とか出されると困るんだよなぁ。


 『殺気を出さないと約束できるなら。』

 「耐えて見せます!」

 『今も出てるけど?』

 「!?お、抑えます。」

 ズズン!


 地面が揺れた。

 エンシェントドラゴンの方を見てみると、顔がこちらを向いていた。


 『何か、気になる事でもあったのかな?』

 「アルティス様の存在感かと。」

 『えー、そんなの防ぎようが無いじゃん。』

 『何か儂に用があるのかの?』


 エンシェントドラゴンが話しかけて来た。


 『あー、お初にお目にかかります。私は、バネナ王国宰相アルティスと申します。ここにあったオーク帝国を潰したついでに、貴方に迷惑をかけていないか確認をしたいと思いまして、近づかせて頂きました。それと、アラクネクィーンのソフティーが何やらご挨拶をしたいと申しておりまして、そちらに行かせて頂いてもよろしいでしょうか。』

 『・・・何故その様な口調なのか判らぬが、来たいと言うのであれば構いませぬぞ。』


 ん?口調が気になるのか?何でだ?


 『では、今からお伺い致します。』

 『むぅ。』


 生返事で返された。

 何か気になる事でもある様だな。


 『着きました。』


 ソフティーの後ろに、カレンも着いて来た。


 『のう、お主に畏まられるとやり難いのじゃが。』

 『何故に?』

 『エンシェントドラゴンの儂よりも、神の使徒であるお主の方が格が上なのだから、もっと砕けても良いのじゃぞ?』

 『格・・・、じゃぁ、お互いに普通の口調でどお?』

 『ほえ?儂も普通で良いと?』

 『だって、全然畏まってないし、できない事をやれって言うのもね。』

 『気を遣わせてしまってすまんのう。』

 『構わないよ。俺は使徒なんて辞めたいしね。』

 『なんじゃと!?なぜ辞めたいのじゃ!?』

 『あんな連中の手下なんてむかつくじゃん。』

 『あんな連中・・・。面白いお方じゃ。ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ』

 ブワッ!

 『うわっ!?』

 『あー!?』

 「きゃあああああ!」


 巨大なエンシェントドラゴンが笑うと同時に、鼻から息が吹き出し、ソフティーごと吹き飛ばされた。


 『ぬおっ!?ス、スマン!』

 『凄いな。笑うだけでソフティーごと飛ばされるとは。初めての経験だ。』

 『糸が切れたー!』

 『糸が切れたというより、地面ごと吹き飛ばされたね。』

 『ほんとだ!?』


 ソフティーが地面に糸を張って、飛ばされないように固定されていた筈が、糸を張った地面の土も一緒に飛ばされてしまった様だ。

 風速で言えば、数百メートルってところかな?竜巻の風をもろに食らった感じだ。


 「驚きました。」


 何事も無かったかの様に、カレンも戻って来た。

 普通に立ってた筈が、バイクに乗って戻って来たって事は、空中で取り出して乗ったって事だよな?どうやったんだろ?


 『とりあえず気にしてないから良いんだけど、ちょっと障壁を作らせてもらうよ。毎回風で飛ばされても何だしね。』

 『ふむふむ、斜めにしたのは、風を上に逸らせる為じゃな?頭が良いのう。』

 『それは良いとして、まずはソフティーの要件から済ませてしまおう。』

 『あいさー。お初にお目にかかります。私はアルティスと友誼を交わした、アラクネクィーンのソフティーと申します。昔我がアラクネ族の命を助けて頂いた事があります故、御挨拶に伺わせて頂きました。貴方様のご助力により、多くのアラクネの命が助かりました。誠にありがとうございました。』

 『アラクネクィーン!?いやはや、アラクネクィーンとの友誼を交わすとは、恐れ入りますじゃ。昔のあれは、アバダント帝国という国の人間が攻めて来よったから、いい加減鬱陶しかったしの、まとめて吹き飛ばしてやったのじゃよ。その後、あの国は大変な事になった様じゃがの。』


 んん??エンシェントドラゴンのブレスを使った理由って、アラクネ達を守る為だったの!?まぁ、立場が変われば、見方も変わるって事だね。

 人間側は、エンシェントドラゴンを怒らせた結果だと思っていた。

 でも、実際はアラクネ達を守る為だったと。

 蹴散らすついでに見たいな事を言ってるけど、逆だよね。


 『そうだったんだ。まぁ、大した違いは無いからいいか。それよりも、オークに何もされなかったの?』

 『ん?近づいて来たオークは、全部食ってやった。丁度腹も減っておったのじゃ。中々の数が居ったので、ちと胸やけしたわい。』

 『脂っこいもんね。』

 『そうじゃな。この歳になると、あの脂はちときついのじゃ。』


 オークが攻めて来たが、食ったんだな。

 しかし、ドラゴンでも胸焼けするのか。

 さっぱりした物、何かあったっけ?


 『カレン、さっぱりした料理って何かあったっけ?』

 「え?脂っこくないという意味であれば、冷やし中華かシールの白焼き、クイタイの刺身でしょうか。」

 『冷やし中華はそんなに量が無いから、クイタイとシール?あ、マイグラトリークラブでいいか。』

 『何の話じゃ?』

 『胸焼けしない食べ物の話。これをどうぞ。』


 ディメンションホールから、焼きマイグラトリークラブを出した。


 『んん?こんな色じゃったかのう?』

 『焼くとこんな色になるんだよ。丸ごと食べる?中身を出す?』

 『ほおー、何か香ばしくて美味しそうな匂いだのう。どれ、このまま頂くとしようかのう。』


 マイグラトリークラブも体長4m程あるのだが、エンシェントドラゴンと比べると、沢蟹程度にしか見えないな。


 ボリッボリッボリッボリッ

 『うーん!美味い!焼くとこんな味になるんじゃのう!美味いぞい!この胴の中のも美味い!オークの後の口直しにはピッタリなのじゃ。』


 食べてる所を見ても、やっぱり玉子蟹食ってるみたいにしか見えないな。

 あ、玉子蟹って、小さい蟹を丸ごと甘辛い味を付けて、カリカリに焼いた珍味があるんだよ。

 俺は、独特の臭いを感じちゃって、苦手だったけどね


 『次は何を出そうかなー?』

 『シールの白焼きというのを食べてみたいのじゃが・・・、駄目かのう?』

 『少し時間かかるけどいい?』

 『問題無い!』


 フンス!って感じで力強く言われたので、シールを出した。

 と言っても、焼く前の半身ね。

 今から焼くんだよ。

 まずは、シールを焼く為の台として、結界を下に出して、遠火にする様に結界の中で火を燃やす。

 カレンにも手伝ってもらいながら、火力の調整と塩を振って行く。

 長さが20mもあるから、一人で焼くのは大変なんだよ。


 『あ、お吸い物も出そう。スメリーファンガスのお吸い物があった筈。』


 シールが焼けて来ると、皮と身の間にある分厚い脂肪が溶けだして、ジュワジュワ音を立て始めた。

 それと共に、背後からザーっという滝の様な音が聞こえて来た。


 『ん?何の音だ?』


 振り返ると、エンシェントドラゴンの口の端から涎が流れ落ちていた。


 『ちょ!涎!涎止めて!』

 『お、おお、すまぬ。』

 『そういえば、名前無いの?』

 『無い。付けてもらえると助かるのじゃ。』

 『じゃあ、ドラ造。』

 『・・・もうちょっと何か無いのかのう?』

 『冗談だよ。オニキスってのはどう?』

 『オニキス!とはどんな意味があるのじゃ?』

 『何だっけな?語源は爪で、漆黒の宝石の名前なんだよね。お守りとして使われる事があってね、魔除けや厄除けのお守りとか、集中力を高めたり、精神を安定させたりする効果があると言われてるよ。』

 『ほおおおおおおおおおー、気に入ったのじゃ。儂は今からオニキスと名乗る事にしよう!』


 デカいからか、おが多いな。

 でも、気に入ってもらえたのなら良かった。


 『そろそろ裏返すよ。』

 「いつでも大丈夫です。」


 裏返す作業は一人でやるんだけど、上に滲み出て来た生臭い脂が流れ落ちて、それが火にかかると燃え上がるので、カレンに風魔法で火にかからないように飛ばしてもらうんだよ。

 燃え上がったら、折角の身に煤が付いて苦味が出ちゃうからね。


 『せーの![フリップ]』

 「[ウインド]」

 『あぁー脂が・・・』

 『今のは余分な脂だよ。少し生臭いから吹き飛ばさないと、美味しくならないんだよ。』

 『そ、そうか。』

 『[ファー・インフラレッド・レイズ]』

 「何の魔法ですか?」

 『遠赤外線だよ。』

 「何ですかそれ?」


 困ったな、説明が難しい。

 暖める光?暖かい光?いや、目に見えないよな、どう説明しよう・・・。


 『説明が難しいんだが、物を芯から暖める見えない光?』

 「見えないのに光ってるんですか?」

 『知らん。』

 「知らないんですか。」

 『専門じゃ無いから、知らないんだよ。知っているのは、光には見える光と、見えない光があるって事くらいだな。』

 「はぁ、見えないのなら光じゃないんじゃないですか?」

 『光属性なんだから光だろ。』

 「光属性なんですか。じゃぁ光なんですね。」


 そんなんでいいのか?


 『そろそろだ。』

 「もう少しですね。」


 この辺は、カレンに任せた方が上手くいく。

 職人気質というか、何というか、俺が科学的に考えるのとは違い、カレンは感覚的に考えている?いや、感じているの方が正しいか。


 「今!」

 フッ


 火と遠赤外線を消した。

 後は余熱で火が入るので、数十秒待てば完璧だ。


 『ま、まだですかあー?』

 『口調が変わってる。』

 「もういいですよ。」

 バクッ!

 『美味ーい!!』


 ドラゴンってさ、ワニみたいな口してるから、焼き魚みたいに身がホロホロになる物を食べると、口の端からポロポロ落ちるんだよね。

 で、その落ちたカスを小動物が奪い去って行く。

 ドラゴンは怖いと思っていても、何をされる訳でも無くて、近くに居ると魔獣が寄って来ないから、一番安全なんだよね。

 そうして近くで生活していると、だんだん怖さが薄れて来て、こうやっておこぼれを貰いに来るんだろう。

 あ、おい、そこのリス!その塊は大き過ぎるだろ!?ここで食うんかーい!

 

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