第90話 ゴブリンエンペラーとオークエンペラー
亜空間の外では、中々に面白い状況になっている。
ゴブリン達が戦っていた筈の人間が居なくなり、代りにオークの大群が押し寄せて来たのだ。
しかも、オーク達は脇目も振らず、ゴブリンを押しのけてやって来て、何かを探しているのだ。
腹を空かせたゴブリン達にとって、それは餌が自ら目の前にやって来たと思える程に、無防備な姿に見えた。
そして、ボスからは、「オークは食料になる為にやって来た。有難く食ってやれ!」と言われ、他のゴブリン達と共に襲い掛かったのだ。
オーク達は、ゴブリン共の方から美味そうな焼いた肉の匂いが漂ってきて、その匂いに興奮した王からの命令により、ゴブリンから肉を奪う為にやって来た。
だが、来てみれば匂いはすれど肉は無く、周囲を探そうにも、ゴブリンが次から次へと襲ってくる為、探す事ができない。
王からの勅命を果すには、先に邪魔なゴブリンを排除しなければならず、ゴブリンが肉を隠し持っていると思い込み、連れて来た部下達にゴブリンの殲滅を命令した。
オーク達は、硬くて臭くて身の少ないゴブリンの肉に辟易していた。
ここの周囲には、美味そうな肉の匂いが充満し、オークの戦意に火を点けたのだ。
「ブモブモー!ブブブブモー!!(ゴブリンが肉を隠し持っている!ゴブリンから肉を奪い取れー!!)」
「ギャギャッギャ!ギャギャー!!(オークの肉が食えるぞ!このオークは美味そうだ!!)」
ここに、存在しない肉の争奪戦が開始された。
今までのオークとゴブリンの関係は、隣接する集落同士の小競り合い程度だった。
だが、増え続けるゴブリンとオークの集落が拡大するごとに、その規模は増していった。
ここ最近は、ゴブリンの増殖スピードが上がり、オークも増えてはいたが、ゴブリンの増殖スピードには追い付けず、劣勢が続いていた。
戦力で勝るオークが劣勢に追い込まれたのは、ゴブリンの肉しか獲れなくなった事が原因で、士気が格段に落ちていたのだ。
だが、その流れが急激に変わった。
人間がゴブリンに襲い掛かったのだ。
オーク集落の周囲を埋め尽くす、数十万匹のゴブリンが一斉に人間達の方に流れ始めたのだ。
人間の攻撃力は、大した事が無いと侮っていたが、ゴブリンを攻める勢いは凄まじく、大爆発が所々で起こり、巨大な竜巻がゴブリンを薙ぎ倒して行く。
オークキングは、度重なるゴブリンとの戦闘により、オークエンペラーへと進化していたが、そのオークエンペラーから見ても、人間達の攻撃は人間の物とは思えない程に強力で、凄まじいものだった。
遠くに見える人間の兵達が、剣を一振りすれば、数体のゴブリンが真っ二つになり、人間のメイジが魔法を撃てば、巨大な炎がゴブリンを焼き尽くし、別のメイジが巨大な竜巻でゴブリンを吹き飛ばして行く。
数時間で10万近いゴブリンが死に絶えた頃、突然今までとは違う爆発が起きた。
その直後から、ゴブリンの動きが可笑しくなり、人間の攻撃が止まった。
少し時間が空いたが、人間の攻撃が再び始まった時、これに乗じてゴブリンを攻め、勢力の拡大を図る事にした。
混乱したゴブリンは、普段より倒し易く、いとも簡単に前線を押し上げる事ができたのだが、ジェネラルから人間が撤退したとの報告が届いた。
人間達はゴブリンを圧倒していた筈だが、やはりひ弱な人間では、ゴブリンの大群を倒しきれないと諦めたのだろう。
人間がゴブリンを混乱に陥れてくれたおかげで、領土の拡大がやり易くなった。
このまま突き進んで、ゴブリン共を懲らしめてやろう。
そう思って居た時、どこからともなく香ばしく焼ける肉の良い匂いが漂って来たのだ。
確かに人間の攻撃によって、ゴブリンがたくさん焼かれてはいたが、その匂いはゴブリンが焼けた臭いでは無く、違う魔獣の肉の焼ける匂いだ。
「まさか、ゴブリンが別の魔獣を食べている?ぐぬぬ、我らオークがゴブリンの様な臭い肉を食べているというのに、ゴブリンが上手い肉を食っているだと?許せん!今すぐ匂いの出所を探れ!肉を探し出せ!見つけたら持って来るのだ!!」
待て、ゴブリンが肉を焼く?滅多にやる事は無いが、偶にやる事もあるのは知っている。
だが、肉以外の香ばしい匂いもする。
これは、人間の作った食料では無いのか?あの凄まじい攻撃をしていた人間とやり合うのは不味い。
だが肉は欲しい。
まぁいい、匂いの出所を突き止めれば、いずれ判る事だ。
だが、その期待は裏切られた。
匂いの出所を突き止めたものの、そこに肉は無いという・・・。
「ゴブリンが隠し持ってるのかもしれん!ゴブリンを殲滅し、肉を奪い取れ!!」
『ふぃー、食った食った。』
輜重部隊の方はまだ肉を焼いていて、兵士達が何度もお代わりを要求している様だ。
昼食から、まだ3時間しか経っておらず、時間的にはおやつの時間だが、初の大規模戦闘を行い、多少の怪我はあるものの、大きな怪我も無く撤退したとはいえ、斬っても斬っても全く減る様子の無いゴブリンを相手にして、精神的に疲弊していた様だ。
上から見ても、ゴブリンの数は全く減った様子も無く、次から次へと押し寄せて来ていたのだ。
その様子から見ても、ゴブリンの数は数十万では収まらないと感じていた。
既に3時間の戦闘で、数万から10万程のゴブリンを倒したにも拘らず、幅数キロにも渉る平原には、その数倍にもなるゴブリンが犇めいていたのだ。
『あるじ、オークの奮戦にもよるけど、兵士だけでは荷が勝ちすぎるかもしれないね。』
「騎士を連れて来た方がいいか。たとえゴブリンを殲滅できたとしても、まだオーク帝国がいるしな。」
『それと、アラクネを増員して、積極的に活用した方が良いね。』
『フ隊が余っているから、呼んでいい?』
「何人いるんだ?」
『22人』
『そんなに余ってるの?』
『騎士の訓練と子供達の遊び相手してるだけだから。』
うん、ちゃんと仕事しているね。
ソフティーがワーカホリック気味だから、騎士の相手も子供の相手も、遊んでいる様にしか見えないって事なんだと思う。
一応、子供達の服を作って貰ったり、一緒に勉強してやる気を引き出してもらったりして居るんだけど、ソフティーからすると、そんなのは片手間でできる事にしか感じないって事なんだと思う。
『子供達の遊び相手を取り上げるのは駄目だね。派手に動き回ってる訳じゃないから、明確な成果も無いし、不要に思えるのは判るよ。でも、闇奴隷という虐げられる状況から解放したとはいえ、まだまだ精神的に不安を抱えている子は多いからね、折角アラクネ達に心を開いてくれたのに、それを取り上げてしまうのは、リスクが大きいね。』
『むー、じゃぁ、騎士の訓練相手とキラーホーネット退治の後、暇になったイ隊の13人で。』
『うん、まぁ、それならいいかな。』
イ隊の活躍が目白押しだが、元々イ隊は一時派遣の為の遊撃部隊として考えていたので、世界樹とエルフの森の警備に就いたイート達を除く13人は、待機している事が多いのだ。
イート達は、エルフの森という魔境の管理と、世界樹とファイニスト・ハニービーを守る守護者、それと世界樹の実の運搬という大忙しの任務に就いているので、遊撃部隊の任務からは外している。
キュプラの子は、主にバネナ王国内で任務に就いていて、例外はエルフの森にある港町の警備を担当しているプニとプノの2名だけだ。
ソフティーの子は、ベーグルだったり、世界樹だったり、魔大陸やエスティミシス、マルグリッドにも派遣している。
それ以外にも、常にアルティスの警護として3名のアラクネが常時周辺を警備しているのだ。
正直、ソフティーが居れば十分な気もするのだが、ソフティーがそれでも心配するので、警護という名目で着いて来てもらっている。
ソフティーの子の中では、ソ隊が一番の精鋭なので、あまりそういう使い方はしたく無いのだが、仕方ないね。
因みに、ソ隊がどこで任務に就いているのかと言うと、ベーグル国内の巡回警備とマルグリッド王の警護、エスティミシス王国での闇奴隷の捜索とアンデッドの討伐をしているよ。
エスティミシス王国は、王族が全滅していて、街を統括管理する官吏も殆どが死亡してしまった為に、数少ない貴族の侯爵が統治しているよ。
再建には時間が掛かりそうだが、作付け制限が無くなった為に、バレイショや甘藷の栽培や、麦や豆類の栽培が再開されて、食糧問題は解決しつつあるよ。
バレイショを育てれば、炭水化物不足が解消すると共に薪不足も解消するので、栽培方法と調理法を各地に広めて盛んに栽培される様に仕向けてるよ。
水についても、隣にテラスメル高原があって、標高が高いから朝晩に空気中の水分が結露しやすく、周辺の土地は地下水が豊富だと判り、深層地下水の利用によって池や水路の復活と、綺麗な水の確保ができる様になった。
綺麗とは言っても、テラスメル高原に浸透した水が、どこを通って地下に流れ込んでいるのかは、言うまでもないね。
水質的には問題が無いので、被圧水層を通って来る間に、綺麗に漉されてるんだろうね。
「アラクネの件はそれでいいとして、我々の作戦開始をどうするかだな。」
『そんなの簡単だよ。煙の出所はその内バレるから、外が静かになってから偵察してみて、ゴブリンが主体か、オークが主体かで作戦内容を変えればいい。』
「どっちが勝つと思う?」
『ゴブリンと言いたい処だけど、上位種の殆どが死んじゃって、キング以上の上位種しか残ってないみたいなんだよね。で、キングは大体わかるとして、もう一匹やたらとデカい奴が居たんだけど、そいつの実力が判らないんだよね。』
通常のゴブリンキングの脅威度はAなのだが、ここのゴブリンキングはSに限りなく近いか、Sに到達していると思われる。
進化の条件は知らないけど、長く厳しい戦いを乗り越えると進化すると言うのであれば、オークとの戦いを続けて来たゴブリンが進化したと考えて、その実力はかなり高いと見た方が良いだろう。
更に、それよりもデカい個体が居たのだから、S級のキングを越える強さがあると見て間違いは無さそうだ。
「キングよりデカいって、もしかしてエンペラー級ではないのか?」
『可能性は高い。でも判らないね。オークの方も同クラスのが居ても可笑しくないくらいの規模だし、直接対決してくれないかなぁ?』
ゴブリンエンペラーとオークエンペラーの直接対決とか、怪獣大決戦みたいで面白そうだよね。
「どの程度の実力だと思う?」
『ゴブリンキングがサイクロプスと同等だとすれば、A級と考えていいよね。とはいえ、魔獣のランクも人族基準だから、ザックリとした強さしか判らないんだよね。』
「そうだな。だが、多少の魔法が使える武闘派と見ていいだろう。」
『知能も高い、魔法も使える、武闘派とすると、近いのは・・・カレン?』
「ブホァッ!?ゴホゴホッ!」
「アハハハハハハハ」
「プップププ。」
カレンが咽て、怒った顔を向けて来た。
「そこの二人!笑わない!アルティス様!何でゴブリンエンペラーの強さを私で例えるんですか!?」
『脅威度を考えると、カレンが近いのかなー?って思っただけだよ。最悪、その位の脅威度があるって考えれば、誰かに例えた方が判り易いだろ?』
「私はそんなに弱くありません!」
別にカレンがゴブリンエンペラーみたいだとか言ってる訳じゃなくて、カレンみたいな戦闘タイプだと言いたいだけなんだけどな。
『んー、その辺の森にいるキングと同じ様に考えていると、痛い目を見ると思うよ。ここのゴブリンは、オークと戦闘を繰り返してきた精鋭と見るべきだね。更に進化したエンペラーが居るとしたら、その実力はSでは無くSSと見た方が良い。キングがSじゃないかと思うよ。』
「ふむ、兵士達にはちと厳しい相手ではあるが、カレンには勝てないという感じだな。」
『更に、オークの方にもエンペラーがいる可能性もあるからね?』
オークエンペラーが本当に居るとして、その強さはゴブリンエンペラーを凌ぐと予想する。
持ってる武器によっては、カレンでも勝てない可能性があると思う。
「オークエンペラー・・・、可能性はあると言われていますが、出現したという記録はありませんね。」
『人型魔獣の中で最弱のゴブリンにエンペラーが居るんだから、オークに居ない訳無いじゃん。』
「存在が確認されていないだけだと?」
『オークキングが確認された事だって滅多に無いのに、その上がいる程の規模のオークのコロニーが見つかった記録は無いよね?可能性として噂が立った事はあるけど、ドラゴンの襲来で有耶無耶になって、後日見に行ったら焼け野原でしたって記録しかないよね。』
「そうだな、通常、オークの大規模集落が見つかった場合は、速やかに討伐隊が召集されて、潰されてしまうからな。」
『大量の肉をゲットするチャンスだもんね。』
「放置すると、ドラゴンやワイバーンが集まり易いという事もあるな。」
大型魔獣にとっても、オークは美味しい餌なんだね。
『ただ、今回は来てないと言うよりも、来たくないのかもしれないね。』
「ドラゴンはゴブリンよりも弱い?という事か?」
『弱い訳では無いと思うけど、あまり多すぎると対処しきれなくなるんじゃないかな?臭いにやられる可能性もあるかも?』
「確かに、ゴブリンの集落をドラゴンやワイバーンが襲ったという話は、聞いた事は無いが。」
外で見張っていた候補生から、緊急の念話が来た。
『アルティス様!巨大なゴブリンが穴から出て来ました!ゴブリンキングとゴブリンクィーンを引き連れています!』
『判った。そっちに行く。』
いよいよゴブリンの親玉のご登場だ。
『ゴブリンエンペラーが出て来たらしいよ。見に行こう。』
「本当か!?直ぐに行こう!」
亜空間から外に出て、あるじとカレン達はバイクで上空へ上がり、俺とソフティーは候補生のいる樹上へと向かった。
軽く挨拶を交わし、問題の平野を見てみると、夕日に照らし出されたオークの群れと、かなり数の減ったゴブリンの群れが見えた。
ゴブリンの数は、残り1万程度だろうか。
オークが頑張ってくれたおかげで、ゴブリン殲滅まであと少しだ。
だが、そのゴブリンの群れが、地面に大きく口を開けた穴を守る様に布陣しており、その中心にある穴からは、ゴブリンキングと成金の太ったおばさん風のゴブリンクィーンが居て、その後ろにゴブリンキングの倍の大きさのゴブリンエンペラーが鎮座していた。
手に持っているのは、大きな金属製のバルディッシュで、柄の部分までもが金属でできている様だ。
刃渡りは1m以上もあり、刃の部分が長いポールアックスと言えなくも無い形状をしている。
全体に薄っすらと魔力を帯びている事から、魔斧、いや、魔戦斧と言った感じか。
材質は離れすぎていて判らないが、ミスリルとタングステンのミスリル合金辺りだと思う。
大きさ的に、かなりの重量がありそうだ。
対して、オークの方は、ゴブリンの群れを完全に包囲する形で布陣していて、数はそれ程多くは無いが、それでも1万近くは居そうだ。
戦場となった平野には、ゴブリンの死体に紛れて、オークの死体も転がっている事から、オークの方も大分数を減らした様だ。
少し離れた所に、オークジェネラル4頭に守られたオークキングと着飾られた二足歩行の白豚と思える姿のオーククィーンが居て、その背後にはオークキングの倍くらいの巨体のオークが居た。
『あの奥の奴、オークエンペラーじゃないか?』
『そうみたい。初めて見た。』
『座ってんのかな?何の武器を持ってるのか、見えないんだけど。』
『手ぶらじゃない?』
『戦闘準備状態じゃないって事か。まぁ、包囲してるもんな。』
というか、全然動かないな。
膠着状態にでも陥ってんのかな?カンフル剤でも落としてやろうか?
『輜重部隊は、スケープゴートの丸焼きを3頭分作ってくれ。』
あるじが輜重部隊に指示を出した。
同じ様な事を考えていたらしい。
ここまで戦って、オークもゴブリンが肉を持っている訳では無いと、やっと気づいてしまったのだろう。
そして、ゴブリンキングとゴブリンエンペラーを見て、どうしようかと考えている、と。
普通に考えれば、攻め落として憂いを無くす方が良いのだが、エンペラーが現れた事で、圧倒的な戦力差が無くなったと判断したのかもしれない。
本当にそうだとしたら、中々に侮れない指揮官と言えるだろう。
だが、所詮は魔獣、腹が減ってる時にゴブリンの巣穴から肉の焼ける良い匂いと、肉の焼ける音が聞こえてきたらどう思うかな?
『あるじ、丸焼きをどう使うつもり?』
『あの穴の中に置くつもりだが、他にいい手でもあるのか?』
『どうせなら、肉の焼ける音もあった方が良いかと思ってね。ついでにオークの丸焼きを焼いてもいいかも?』
『そうか!その手があったか!』
オークは、同族が焼かれている匂いが嫌いで、気付くと寄って来る習性があるそうだ。
同族の丸焼きを見て、狂暴化したという事例があるそうだ。
本当かどうかは定かでは無いが。
まぁ、でっかい鼻を持ってるから、同族かそうで無いかを嗅ぎ分ける事ができるのかもしれないが、違う気がしてならない。
良い匂いに釣られて来て、焼かれているのを見て奪い取ろうと暴れたんじゃないかと思ってる。
何の為にって?そりゃ食う為だよ。
オークは腹ペコモンスターなんだよ。
『よし、オークの丸焼きも追加だ!』
『生焼けで良いよ?食べる分じゃないから、外側が焼けていれば問題無いよ。』
『煙突も穴の入り口に、接地し直した方がいいんだが、どうにかでき無いか?』
『空から落とせば?時間を調整すれば、地面に到達した瞬間に起動するでしょ?』
『そんな事ができるのか?』
『できるでしょ?普段タイマー使って設置してるんだから。』
亜空間の設置は、魔道具の目の前にいると、空間拡張時の衝撃波に吹き飛ばされるので、スイッチオンから3秒置いてから起動する様にしてある。
空気穴の様な小さな空間を開ける際にはあまり関係が無いが、起動術式をタイプ別に作るのも面倒なので、全ての空間拡張魔道具に同じ物を使用しているのだ。
空間拡張の魔道具は、そこそこ売れるので、タイプ別にして売ってるんだよね。
で、起動術式を間違えると困るので、全部同じにしてるのさ。
だって、広い部屋を作る時、衝撃波は音速にもなるから、普通の人なら爆散してしまう可能性もあるからね。
亜空間なのに衝撃波?と思うかも知れないが、亜空間にだって空気がある以上は、そこにいきなり部屋ができれば、衝撃波だって生まれるのさ。
昔のアニメにあった、何とかカプセルが展開する時に、軽い爆発が生じて煙が出るでしょ?あんな感じだよ。
『見つからない様に高い所から落とせば、途中で展開してしまうのではないか?』
『投げればいいじゃん。』
話している間にも肉を焼いているので、元の換気口のあった辺りにオークエンペラーが誘き寄せられて、近づいて来た。
『何をしているという訳でも無い様だが、威圧感をここからでも感じるな。』
『存在感があるね。』
オークエンペラーの大きさは、サイクロプスと同じくらいのサイズで、約7mくらいあり、ただ歩いて来ただけなのに圧を感じる。
ゴブリンの集団も圧を受けて、ドーナツ型が崩れている様だ。
あれは、相当に強そうだな。
ドラゴンでも、地上で相対するのは避けそうなくらいに、圧を感じるのだ。
『アレの相手は、誰がやる?』
『私が出る程では無いな。リズで互角、カレンなら勝てそうだ。』
同感だ。
だが、言われたリズがムキになった。
『私では勝てない、という事ですか。私が行きます。』
『では、任せる。』
『まぁ、今すぐって訳じゃ無いから。ゴブリンエンペラーを倒してもらってからだし、大丈夫かな。』
カレンはニヤニヤ、リズは困惑した表情だ。
困惑したのは、無理だって言って欲しかったからだと思うけど、圧倒的な差がある訳でも無いのに、そんな事言う訳無いじゃん。
『肉の準備できました!』
輜重部隊から、肉の準備ができたと連絡が来た。
スケープゴートもオークも、表面しか焼いていないので、準備する時間は早いのだ。
『マジックバッグに入れてくれ。カレンに取りに行かせる。』
『はっ!』
焼いた肉をマジックバッグに入れて、上から落とすのだろう。
隠ぺいを使ったとしても、ゴブリンエンペラーに見つかる可能性があるのだが、大した問題では無い。
いずれにせよ、直接戦う訳では無く、オークを誘き寄せる為の餌なので、すぐに逃げてしまえばいいだけだ。
『もらって来ました。上から落とせばいいんですよね?』
『うむ。まずはオークから落としてくれ。その次にスケープゴートを落として、落下地点にファイアーボールを撃ち込んでくれ。』
おお、表面を焼いた状態、つまり、皮下脂肪が熱によってジュージュー言ってる状態の所に、駄目押しのファイアーボールで更に熱を加えようという事だろう。
オークの脂は、鉄が溶ける温度にしなければ、燃え上がる事が無いのだ。
スケープゴートの脂については、火が点く事はあるのだが、水分が多い事と脂のサシの様に見えるゼラチン質のおかげで、すぐに消えるのだ。
つまり、ファイアーボールを撃っても、焼ける肉の良い匂いがするだけで、ほぼ燃える事が無いという事だ。
はてさて、腹ペコゴブリンと、腹ペコオークの肉争奪戦はどうなるのか楽しみだな!
『では、行って来ます。』
カレンが、オプティカル・カモフラージュとデオドラントを発動して、バイクでゴブリンエンペラーの方に向かうと、オークエンペラーとゴブリンエンペラーが反応した。
カレンの乗るバイクは、空中にいる時に半分に割れた車輪から、下向きに緑の光が光っているのだが、今は隠ぺい中なので、その光を消している。
2頭のエンペラーは、空中に何かがあるのを感じ取った様だが、既に闇に包まれている時間帯でもある為、よく見えない様だ。
だが、その何かからオークの丸焼きが現れて地面に落ちると、2頭の視線はオークの丸焼きに釘付けになった。
更に、スケープゴートのアバラ肉が落とされると、オークエンペラーが前のめりになって、フラフラと肉の方に歩き出した。
ゴブリンエンペラーが肉に手を出そうとした瞬間、空からファイアーボールが降って来た。
ボンッ!
ジュー!
オーク肉の脂身の焼ける音と、良い匂いが辺りに漂い始めると、オークとゴブリンによる肉の争奪戦が開始された。
ドーナツ型に展開していたゴブリンが、一斉に肉の方に走り出し、オークもゴブリンに渡してなるものかとばかりに走り出し、捕まえたゴブリンを背後に放り投げた。
落ちて来たゴブリンは、全てが死んだわけでは無いが、落ちた時の衝撃で怪我をしたものが多く、頭から落ちた場合のみ死んでいる様だ。
それら生き残ったゴブリンも、続々と集まって来るオークに踏まれるなどして、次々と死んでいく。
オークは、肉に群がるゴブリンを掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、とうとう肉が見える所まで到達した所で、ゴブリンジェネラルやゴブリンキングの一撃を受けて跳ね飛ばされていく。
ゴブリンキングの後ろでは、ゴブリンエンペラーがオークにかぶり付き、咀嚼しているのがチラチラと見える。
『お、オークキングが動いた。』
とうとう我慢の限界にきたオークキングが動き、前を塞ぐゴブリンを蹴散らし、ゴブリンキングの攻撃を受け止めた次の瞬間、ゴブリンキングの頭が爆ぜた。
ゴブリンキングの首からは、大量の血が吹き出し肉へと降り注いでいるのを見たオークエンペラーが、地団駄を踏んでブヒブヒと激しく鳴いている。
きっと、美味しそうなお肉に、ゴブリンの血が付いたのが許せないのだろう。
怒られたオークキングが、オークエンペラーの方を向いて、両手をプルプルと震わせているので、多分正解だろう。
あ、オークキングが土下座し始めた。
そこへ、ゴブリンエンペラーが近づき、大きなバルディッシュを振り下ろすと、オークキングの首が落ちた。
オークキングが死んだのを見たオーククィーンが、ヘナヘナと地面にへたり込んだが、すぐに立ち上がり、バトルアックスでゴブリンエンペラーに挑んだ。
が、バルディッシュの柄でバトルアックスをかち上げられて、次の瞬間にはオーククィーンの首も落ちた。
ゴブリンエンペラーは、バルディッシュの扱いが上手い様だ。
そんなゴブリンも、既にゴブリンエンペラーのみとなっており、残っていたゴブリン達も、ジェネラルが倒されると同時に、森に逃げ込んでしまった。
ただ一人残されたゴブリンエンペラーも、戦意は全く衰えていない様子で、オーク達を睨んでいる。
まぁ、ゴブリンの中で唯一肉を腹いっぱい食べたので、出っ張った腹と共に引っ込みが付かないのだろう。
ここで逃げてしまえば、ゴブリン帝国の再興は不可能という事になるのかもしれない。
対するオークの方は、ゴブリンキングにこっ酷くやられまくったおかげで、ジェネラル未満のオークは居なくなっている。
オークキングとオーククィーンがやられた時には、既に殆どが倒れた後であり、オークジェネラルに至っては、ゴブリンエンペラーに対して腰が引けてる状態で、既に戦意は無い様子だ。
『となると、とうとうエンペラー同士の対決か。』
『オークエンペラーの方、武器持ってないね。素手で戦うのかな?』
『んー?何か腰にあるナイフみたいなものを抜いたね。アレ、魔剣かな?ビームサーベルかライトセイバーみたいに伸びるのかも?』
『びーむさーべる?らいとせいばー?』
『魔力でできた剣みたいな感じって事。』
そんな感じだったら欲しいなぁと思って口に出したけど、聞かれて初めて思ったのは、説明できねえ、という台詞だった。
いや、光る剣とか言えば良いんだろうけど、更に突っ込まれても、原理も何も判らないんだよね。
ただ、この世界で再現しようと思うと、光属性の魔力で剣身を作れれば、イケそうではあるのだ。
まぁ、今はそんな事より興味のある事が目の前で起こっているので、考えるのは後回しだけど。
オークエンペラーの持つショートソードが光を放つと、そこに現れたのは正しくライトセイバー的な剣だった。
長さは2m程だろうか、軽快にブンブン振り回しているが、プラズマやアーク放電の様な物とは違い、超高温という訳では無い様で、ゴブリンエンペラーの持つバルディッシュに当たっても、普通に止められている。
しかも、おもちゃのライトセイバーみたいに光っているので、暗闇の中で振り回していると、剣筋がハッキリと視認できてしまう為に、斬りかかってもゴブリンエンペラーに容易く受け流されているのだ。
対して、ゴブリンエンペラーの持つバルディッシュは、特に光っている訳でも無い為、暗闇で振り回すと剣筋が全く見えない為に、オークエンペラーの腕に切り傷が増えているのだ。
ただ、自動回復が発動している為に、その傷もどんどん消えて行くのだ。
両者とも、保有MPがかなり多いらしく、自動回復が発動してもMPが殆ど減る事が無く、勝敗の行方は実力では無く、スタミナの量で決まるかもしれない。
殆ど何も食べていないオークエンペラーと、生焼けのオークを腹いっぱい食べたゴブリンエンペラー、それぞれかなりの実力の持ち主ではあるものの、ゴブリンエンペラーは餌を食べたばかりで、元気いっぱいなのだ。
対するオークエンペラーは、空腹とは言え、でっぷりとしたそのお腹には、大量の脂肪が蓄えられており、エネルギーに変換されれば、相当な時間戦えるものと思われる。
双方スタミナの削り合いで長丁場になるのか、それとも実力の差であっさり決まるのか、今の段階では全く判らないのだ。
あるじ達がバイクで樹上の枝の上に降り立った。
今いる木はかなりの大木で、枝の太さが4m程もあり、3人が降り立ってもビクともしない。
樹高はそれ程でも無いのだが、幹の太さが直径で10m程もあり、太い枝が何本も横に張り出して、巨大なキノコみたいな形をしている。
その枝の内、一番ゴブリンの巣穴に近い枝の上で観戦しているのだ。
周りの木には、暗部候補生達とアラクネ達が同様に枝の上に居て、周囲を警戒しながら戦闘の様子を観戦している。
「どっちが勝つと思う?」
『何とも言えないね。オークエンペラーは、ゴブリンエンペラーのパターンを見極めようとしているっぽいけど、ゴブリンエンペラーの方も緩急をつけて、警戒しながら振り回しているし、決着がつくまで時間かかるんじゃないかな?』
「そうだな。昼間の勝負なら、オークエンペラーの方が勝つだろうが、この暗闇の中であの剣では、かなり不利と言えるな。」
「軽いから、素早い一撃が撃てる様ですが、光っている分見切れてしまうのが難点でしょうね。」
「ゴブリンエンペラーの方は、暗闇を利用して不可視の攻撃を狙っている様ですが、オークエンペラーの方は見えている様ですね。」
『暗いとはいえ、あれだけ光っているんだから、反射光で見えるんだろうね。刃の部分が光を反射するから、全く見えないって訳でも無さそうだね。』
あるじとカレンは、オークエンペラーの方が不利だと感じていて、リズはゴブリンエンペラーの方も負けず劣らず厳しいと見ている様だ。
それぞれに不利な部分があり、何が戦局に影響するのかがよく解らないのだ。
オークエンペラーの方は、軽くて長い剣だが、光っている為に不意打ちができず、ゴブリンエンペラーの方は、重くて扱いが難しいバルディッシュだが、扱いに慣れていて、光っていない分不意打ちを狙いやすい筈だが、そもそも素早さに欠け、重さを生かして叩き斬る武器である分、見えてから防御しても間に合う様だ。
つまり、武器の性能に関しては、互角という事だろう。
戦闘力としては、オークエンペラーの方が上の筈なのだが、ゴブリンエンペラーの方も中々に洗練されている上に、オークエンペラーが剣の光でよく見える為に、ほぼ互角と言える状態にある。
戦力の差を技術で補い、不利な条件が僅かに残った差を埋めてしまっているのだと思う。
両者とも、攻めあぐねている様だが、止まって考えるのでは無く、動き続けながら隙を作らせようとしている。
並の人間であれば、既にスタミナが切れて、ヘトヘトになっていても可笑しくない程に続いているが、どちらも疲労を感じさせる事無く戦い続けている。
『面白い戦いだ。』
「そうだな。手に汗握る展開が続いていて、観ていて面白いな。」
「そうですか?飽きて来ました。」
「・・・」
リズは既に寝てしまった様だ。
ソフティーが作ったハンモックで、スヤスヤと寝てしまっている。
まぁ、今の時間は、普段であれば寝ている時間帯なので、戦闘中でも無ければ、危険地帯に居る訳でも無い以上、緊張感が切れて寝てしまうのも仕方の無い事だろう。
カレンはまだ寝るつもりは無い様で、エンペラー達から死角になる枝に行って、魔道具を作り始めた。
カレンの作りたがっている魔道具は、カレンが得意としているクリーンの魔道具で、自身の使うクリーンと同等の効果が出る物を作ろうとしているが、まだ完成しない様だ。
クリーンと一言に言っても、使う人によって効果は様々で、カレンのクリーンは毎日夕飯前に、カレンの前に行列ができる程に綺麗になるのだ。
並んでいる人は、性別で言えば9割が女性で、髪が潤いを保ちながらもサラサラで、艶々になり、肌もモチモチスベスベになるのだ。
そのせいで、城に居る女性たちの間で、カレンが神格化されつつある状態にまでなっていた為、神格化されない様に禁止令が出る程の人気っぷりなのだ。
たかが、神と思う程度で何をそんなに?と思うかも知れないが、この世界には美の神とか、美容に関する神が居ない為、神として崇められてしまうと、亜神として認められてしまうのだ。
亜神とは、神族では無いので、本当の神になる訳では無いのだが、寿命が伸びて数百年生きられる様になるのと、人では無く柱になる。
寿命は、任命する神により変わって来るのだが、その寿命が来るまでは、頭が爆散しても死ぬ事は無いのだ。
だが、今までに何人かが亜神として任命されてきたが、誰一人として寿命まで生きていた者は居ない。
竜人族と同じで、人間の寿命は最大100歳前後でしか無く、そもそも何百年も生きられる様な精神では無いのだ。
友人も、子供も含めて、周りの者全てが自分より先に老いて死んでいき、自分の存在もどんどん希薄になって行くのだ。
そもそも、短命種と長命種では、生活様式も考え方も全く違い、長命種の感覚では、数年という認識であっても、人間の社会では数十年経っている事が良くあり、その感覚のズレは短命種には理解し難く、混乱してしまうのだ。
しかも、亜神となったら、信仰心を集める努力をしなければならなくなる。
何故なら、人間の社会では50年も経てば代替わりをしてしまい、自分の存在を認識する者が居なくなってしまうからだ。
それを維持する為には、信仰心を育て、自分を認識してくれる人を自分で育てなければ、承認欲求に圧し潰されてしまうだろう。
だが、美容というのは、自然現象では無く、魔法で何とか出来てしまう事であり、人は学んで身に着ける事ができてしまうのだ。
つまり、身に着けてしまえば、亜神など必要無くなり、崇める事を止めてしまうのだ。
しかも、美容など流行り廃りが激しいものであり、20年も経てば全くの別物になってしまう物なので、そんな事の亜神になったとしても、意味が無いのである。
カレン自身は、何でもいいから亜神になりたいと思っていた様だが、亜神になってしまえば何でもできるという訳でも無いので、厳重に注意した。
亜神というのは、その道を極めた者がなるものであり、亜神になった瞬間から、それ以外の事が何もできなくなってしまうのだ。
そして、神というのは、それ以外の一切をやらなくなる、いや、やる必要が無くなるので、剣術も料理も食べる事すらしなくなるのだ。
それは制約であり、神になる為の最低条件でもあるのだ。
それを受け入れられない者には、神になる資格は無いという事だ。
そう説明してやった所で、カレンは納得したと同時に、崇められない様にする為に、自分のクリーンを魔道具にしようと考えたのだ。
だが、それは険しい道だった様だ。
何かが間違っているという訳では無いが、クリーンという魔法は一つの魔法ではあるものの、一つだけの魔法では無いのだ。
様々な小さな効果の魔法を一つに纏めた魔法であり、鑑定と同様に複雑怪奇な魔法なのだ。
だから、それを魔道具にすると言うのは、とても難しいと言わざるを得ない。
バブルウォッシュであっても、界面活性剤を合成する、泡立てる、攪拌する、水の膜を生成する、水と界面活性剤を混ぜる、汚れた水を消すという、幾つかの魔法の組み合わせなのに、それを更に複雑にすると言うのは、とても大変な事なのだ。
だから、普通のクリーンに、合わせたい効果を付与する形で考える様アドバイスをしておいた。
ただ、それでも魔道具にすると言うのは難しく、シャワー室くらいのサイズにしないと厳しいんじゃないかと思っている。
ともあれ、頑張っているのだから応援しているよ。
エンペラーの方は、未だに終わる気配が無い、というか、終わらせようとしていない?感じ。
「私も少し寝るとしよう。アルティスも一緒にどうだ?」
『長引きそうだから、そうしようかな。』
尻尾をフリフリしながら、あるじの寝るハンモックに乗り移った。
尻尾の動きを見たアラクネ達は、枝の上から幹の方に移動したり地上に降りたりと、各自移動していった。
暗部候補生達は、そもそも元から監視用のテントの中に潜んでいる為に、その場から移動する事は無い。
そして、エンペラーの戦いが止まった。
2頭のエンペラーは、それぞれ武器を下ろし、アルティス達の寝る木の下に歩いて来た。
そして、上を向き、それぞれが魔法を発動しようとしたその時、アラクネ達の網が四方から2頭を包み込んだ。
『バレバレだよ。こっちをチラチラ見てるんだもん。』
「ブヒー!ブヒブヒ!ブブヒー!!」
『そうかそうか、残念だったな。』
「アルティス、言葉が判るのか?」
『理解しようと思えば、言語理解で判るよ?』
「すまんが、鳴き声にしか聞こえん。」
『まぁ、俺も判らないんだけどさ。』
「おい!」
『何となくニュアンスで、騙したなー、放せ、放さないと殺すぞー的な内容かなぁって思っただけだよ。』
「ふむふむ、大体合ってそうだな。」
流石にオークとゴブリンの鳴き声は、言語理解でも無理そうだ。
魔王軍に居たオークジェネラルの言葉が理解できたのは、魔王軍という特殊な環境で、言葉を覚えたか、ダッドアイが話せる様になる魔法を使ったかしたんだと思う。
それと、言語理解も万能では無いので、オークに言語があったとしても、圧倒的に情報量が少なくて翻訳できないんだと思うよ。
まぁ、態々魔獣の言葉を理解しようとも思わないんだけどね。
魔獣と言えば、ホーネットの言語は翻訳されていたけど、あれは沢山いるホーネットが喋りまくっていて、翻訳する為の情報がサクッと集まったんだと思うよ。
数が凄いからね。
「捕まえたのは良いんですが、どうするんですか?」
『リズが対戦して倒すんでしょ?』
「え!?」
『まずは、ゴブリンエンペラーの方からだね。』
「そうだな。実力的には、問題無さそうだが、肩慣らしには丁度いいだろう。」
「オークエンペラーだけでいいのでは?」
「バルディッシュの扱いに於いては、ゴブリンエンペラーの方がオークエンペラーを上回ってると思うよ。だから、ゴブリンエンペラーの方をリズ、オークエンペラーの方がカレンでいいんじゃないかな?」
「それでいいか。両方リズに殺らせようと思って居たが、カレンの実力も見た方が良いな。」
「今からやるんですか?」
『明日にしようよ。眠いよ。』
「では、オークエンペラーの方には、肉をあげて万全の体制で挑んでもらうか。」
意気消沈していたオークエンペラーは、肉がもらえると聞いて元気が出た様だが、こいつ、人間の言葉を理解しているんだな。
一体、誰が教えたのやら。
2頭のエンペラーは、網の中で過ごしてもらったよ。
オークエンペラーの方は、実験的にオークの肉を焼いて渡したんだけど、躊躇する事無く食べてたよ。
やっぱり、同族云々はデマだったんだな。
あと、オークの肉を食べながら、一瞬光った様に見えたので、鑑定してみたらスキルが一つ増えていたよ。
鼻歌というスキルだったんだけど、ずっとテンポよくブッブブーブッブブーって鳴いていて、ゴブリンエンペラーが迷惑そうにしていた。
他人の鼻歌って、メロディーが判れば良いんだけど、大抵の場合メロディーが判らないから、長い時間聞かされるのは、結構苦痛だったりするんだよね。
ましてや、音楽なんて無縁の魔獣の場合では、リズムを刻むだけだから、馴染みやすいリズムなら同調したりするんだけど、途中で躓いたり、乱されたりされると、結構なストレスに感じる事もあるよね。
しかもコイツ、肉を食べ終わった後、ブッブッパッブッブッパッというリズムを取り出して、ゴブリンエンペラーが乗り出した瞬間に寝始めるから、ゴブリンエンペラーが口をポカンと開けて、オークエンペラーの方を見ていたのが、コントみたいで面白かったよ。
ついでに言えば、アラクネ達も釣られて乗りそうになっていたのに、突然鼾に変わったので、オークエンペラーの方に殺気を向けていたのだ。
その殺気を感じたゴブリンエンペラーは、文句を言う事無く大人しく寝た様だ。
ブッブッパッ、ブッブッパッ、ブッブッパッ、ブッブッパッ、グオーだもんね、思い出すと笑っちゃうよ。
翌朝、2頭のエンペラーは、オークは全快した様子だが、ゴブリンは疲れ切っていた。
夜中に何の脈絡も無くリズムを刻みだすオークエンペラーに、ゴブリンエンペラーもアラクネ達も散々振り回されていたのだ。
オークエンペラーは、夢の中でもリズムを取っていて、それが寝言の様に出ていたのだろう。
それが、毎回いいタイミングで鼾に変わる物だから、聞かされてる方からすると、いい加減にしろ!って言いたくなるのも判るよ。
そして、毎回アラクネ達の殺気を感じて、寝るに寝付けない状況になったゴブリンエンペラーは、寝不足気味という訳だ。
全く、面白い夜だった。
朝は、朝食を食べた後、全員外に出て来てリズとカレンの対戦を見る事になった。
直径50m程の円になって、中央で戦ってもらうのだ。
後ろの方が見えにくいと思うので、魔法師達に観覧席を土魔法で作ってもらい、ちょっとしたコロシアム的な感じになった。
「それでは、リズ対ゴブリンエンペラーの試合を開始する。始め!」
あるじのあっさりとしたアナウンスで、早速殺試合が始まった。
ゴブリンエンペラーの武器は、魔戦斧バルディッシュで、近くで鑑定してみると、柄はオリハルコンとミスリルの合金で、刃はタングステンとミスリルの合金だった。
柄の先端には、魔力鉱石が付いていて、グリップの部分にも魔力鉱石の滑り止めがあり、ガウスの武器にぴったりかもしれない。
ゴブリンエンペラーには、殆ど使える魔法が無く、唯一使えるのがファイアだけなので、バルディッシュに火を纏わせて使うのかもしれない。
対して、リズは細身のロングソードしか持っておらず、ゴブリンエンペラーは完全に舐め切った態度を取っている。
「グゲゲゲゲ、ゲヘゲヘゲヘ」
「おいおい、あんなデカいゴブリン見た事ねえぞ?それにあの武器、何だよあの大きさは。リズさん大丈夫なのか?」
「ヤバいんじゃないか?あんな細身の剣じゃあ、すぐに折られちまうよ。」
兵士達からも、余りの体格差と武器の大きさの違いから、リズの事を心配する声が上がっている。
当人は、剣を抜いて構えを取り、冷静にゴブリンエンペラーの事を観察している。
開始から30秒程で、ゴブリンエンペラーがバルディッシュを振り上げた。
リズはすかさず前に突進して、間合いを詰めた。
「はっ!」
スパッ
振り下ろされたバルディッシュを持つ手が、肘と手首の中間で切り落とされ、弧を描く様にゴブリンエンペラーの左脇腹に当たった剣が、右から左へ水平に振り抜かれた。
素早くバックステップでゴブリンエンペラーから離れたリズは、剣に付いた血を振り払い、鞘に納めた。
剣が鞘に納まると同時に、ゴブリンエンペラーの腹が真一文字にバックリと開き、内臓と大量の血がばら撒かれ、崩れ落ちた。
HPもMPも瞬時に消えたので、死んだ様だ。
もう少ししぶとく生き残るのかとも思ったが、リズはきっちりと魔石に剣を当てていた様だ。
一瞬の静けさの後、割れんばかりの大歓声が沸き起こった。
「うおおおおおおお!すげー!」
「おおおおお!早すぎてよく解らなかったぜー!」
「リズさんかっけー!!」
「リズ勝利!」
倒れた死体は、すぐにあお向けにされ、魔石を取り出してから、こぼれ落ちた内臓諸共、冷凍されてディメンションホールに入れられた。
持っていたバルディッシュも回収されたので、少しサイズを落としてからガウスに使えるか聞いてみようと思う。
サイズを落とすのは、今のままでは流石に大きすぎるのと、重さがあり過ぎるのだ。
力自慢のガウスだとしても、あまり重すぎるのは取り回しが困難になり、継戦能力も落ちてしまうからだ。
ゴブリンエンペラーの片づけを手伝った兵士の一人が持ち上げようとしたが、ピクリとも動かなかったので、重量は1トンくらいありそうだ。
材質としては、ミスリルがふんだんに使われてはいるが、タングステンがそもそも重いのと、オリハルコンもそれ程軽いという訳では無いので、刃渡りが2m近くあると、重さも相当な物になる様だ。
兵士一人ではビクともしなかったバルディッシュだが、リズが軽々と持ち上げて、ディメンションホールに放り込むと、兵士達がドン引きしていた。
ゴブリンエンペラーの片付けが終われば、次は、オークエンペラーとカレンの対戦だ。
『カレン、あっさり倒さずに、少し打合いしてみてよ。あの剣の強度とか知りたいからさ。』
「判りました。2分くらいでいいですか?」
『ああ、それでいいよ。』
何も指示を出さずにやらせると、居合一閃で首を斬り落としかねないんだよね。
ゴブリンエンペラーとやらせていれば、多分、開始と同時に間合いを詰めて、斬撃飛ばして終わりにしていたと思う。
カレンの前では、身長差なんて無いに等しいからね。
この子、ステータスに剣聖って称号が生えてるんだよね。
この世界では、剣を極めれば何人でも同時期に剣聖になれる様で、ここに来る前に王城で見たウルファにも、剣聖の称号が付いていたのを見たのだ。
ウルファは、木刀で騎士の剣をポキポキ折ってるらしく、騎士達にはいい刺激になっているみたいだ。
折られない為には、どうしたらいいかよく考える機会になっている様だ。
ぶっちゃけ、折られたのをカレンに知られると、ブチ切れられるから真剣になっているんだろうけど、それはそれで剣の扱い方が上手くなるきっかけになって、良い事だと思うよ。
「では、オークエンペラー対カレンの殺試合を始める。始め!」
オークエンペラーが昨晩の剣を発動したのだが、昨晩は光魔法だったのに対し、今回は火魔法で剣身を作っている。
やはり、昨晩の戦いは、初めから本気では無かったという事なのだろう。
わざと目立つ光魔法で剣身を作り上げて、本気で戦っているフリをしていたという事だ。
試合は、カレンが間合いを詰め、オークエンペラーの剣と打ち合える位置に付き、オークエンペラーの打ち下ろしを受けようとしたが、なんと、すり抜けたではないか。
カレンは半身になって避けたが、予想外の展開だ。
昨晩の戦いの様子では、バルディッシュの攻撃を剣で受けていた筈が、今日の剣身はすり抜けてきたのだ。
そして、カレンの薙ぎ払いを今度は剣で受け止めたのだ。
中々に面白い機能の剣だ。
自在に硬さを変えられるなんて、想像すらしていなかった。
凄いのは、剣だけでなく、オークエンペラーの方もだ。
どうやっているのかは判らないが、防御する剣をすり抜けた瞬間に、硬さを持たせるという事で、普通に考えればコンマ01秒の間に、2つの動作を行った可能性があるのだ。
つまり、オークエンペラーの反応速度?いや、思考速度が尋常では無いという事だ。
例えば、剣身を消すスイッチがあるとしても、コンマ01秒の間に、押すと離すという動作を行えるという事だ。
そして、その攻撃を避けるカレンもまた凄い。
間近で見ると、何か変化が見えるのかもしれないが、瞬時の判断か、第六感に素直に従った結果かもしれないが、瞬時に体を動かせるのは、凄いと思う。
アニメでは、ギリギリで避ける描写が良くあるが、それを実行しようとしても、視えていても体が反応できないのが普通なのだ。
脳の回転速度が上がると、瞬間的な事がスローモーションで見える事があるが、普通の人はスローモーションで見ていても、それに対応するのは至難の業なのだ。
そんな高度な戦いの最中に、カレンが一瞬こちらに視線を向けた。
まぁ、2分なんて余裕無いわな。
『十分だ。好きにやってくれ。』
言った直後から、カレンのギアが上がった。
俺の目でもカレンの剣を捉えるのが難しいと思える程に、剣速が上がったのだ。
そして、それをすぐ目の前で見ているオークエンペラーも反応が難しくなった様だ。
間合いがエンペラーの剣の間合いの為、カレンの繰出す剣では、剣の先しか当たらないが、まぁカレンであればそれは問題にはならない。
オークエンペラーが、何とか剣を躱そうと腕を振った瞬間、体が開き、首までの間に障害となるものが無くなった。
そして、オークエンペラーの首が胴と離れ、数メートル上に上がってから、地面に落ちた。
だが、まだHPを削り切れていない。
次の瞬間には、カレンの剣から出た斬撃が、オークエンペラーの心臓を貫き、その横にある魔石の外殻を切り裂いた。
『これが剣聖というものか。凄いとしか言い様が無いな。』
『カレンすごーい!』
「ふぅ。疲れました。」
『お疲れ様。ゆっくり休め。』
兵士達は、あまりの速さについて行けてない様で、立ったまま動かないオークエンペラーが、ゆっくりと前に倒れてからカレンが勝った事に気付き、大歓声を上げた。




