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第9話 バレイショとスケープゴートの秘密

 ふと、視界の隅に、ある物を見つけた。


 『おい、あそこに見える玉が沢山生ってる木って、バレイショじゃないのか?』

 「この辺では、バレイショが何故か、大繁殖しないんだよ。」

 『それは、単にスケープゴートやゴートキャトルが食いまくるからでは?』

 「え?そうなの?」

 『ほら、今にもはち切れんばかりの、バレイショがあるし、アレ破裂するんじゃないか?』


 と思って見てると、バレイショの実がまるで、CIWSの様に種を飛ばし始めた。


 『ああやって、種を飛ばすのか。やっぱり武器に使えそうだな。』

 「後処理が大変そうですけどね。」


 地面に落ちた種は、即座に芽を出した。


 『軍隊の食料にするには、ぴったりじゃね?』

 「飽きるんですよね、あればっかりだと。」

 『干し肉と一緒に食えばいいじゃん。』


 遠くの方から、砂埃が近づいてくる。


 『何か来たぞ?』

 「ゴートキャトルですね。」

 『でかいな。バレイショの芽を食いに来たのか。』

 「そうなんですかね?」

 『ケツからボロボロ落としてるのは、フンか。あれもでかいな。』


 直径30cm程のフンが、ピコピコ動く尻尾に打たれて、ポンポン飛んで行く。

 今いる所から、ゴートキャトルまで、50m程離れているが、直ぐ近くにまで飛んでくる。

 落ちたフンの近くにあった芽が、急成長し始めた。

 魔力感知で見てると、フンからバレイショに、魔力がガンガン流れていくのが見える。

 魔力供給が終る頃には、バレイショの実が生っていた。


 『成長早すぎるだろ。芽が出て、実が生るまで10分もかかってないぞ?』

 「でも、ゴートキャトルが食べ始めましたねぇ」

 『今、ゴートキャトルを狩るとどうなるんだ?』

 「少なくとも、バレイショにこの辺りが、飲み込まれるんじゃないですか?」


 しかし、数本のバレイショに、生ってる実の形がおかしい。


 『あっちのバレイショの実の形が、山羊に見えるんだが、気のせいか?』

 「私にも、そう見えます。」

 「あ!、産まれた!?」

 『スケープゴートが産まれたのはいいが、今の流れのどこに、スケープゴートが居た?』

 「さぁ?、スケープゴートが、ゴートキャトルの子供なんじゃないですか?」

 『とりあえず、放置して先に進もうぜ。』

 「狩らなくていいんですか?」

 『行く末が見たい。この世界は、不思議が一杯だな。』


 ゴートキャトルが、一瞬こっちを見た気がしたが、気のせいだろう。


 バレイショの種飛ばしを見た事で、ホリゾンダル伯爵家の厨房で、アーリアに聞いた話を思い出していた。


 この世界には、たくさんの救荒野菜が存在するが、最も育てやすく、最も収穫量が多いのが、バレイショである。

 しかし、その生命力は、あまりにも強すぎて、勝手に植える事を禁止される程である。


 救荒野菜としては優秀なんだが、ミント以上の生命力にブドウの房くらいの数の実が生り、放置すると実の中に種がぎっしり出てきて、熟しきると破裂して、辺り一面バレイショだらけになるそうだ。ひとつの実から種が4万個、それが20個生って、一気に80万株になる。


 発芽率90%以上という、驚異的な生命力の為、かつて古代王国では、このバレイショによって、滅んでしまったという逸話までがある程だ。


 『この芽がでたやつは、植えればいいんじゃないの?』

 「この木は、勝手に植えるのを禁止されてるんだよ。」

 『そんなに凄いの?』

 「古代の国では、このバレイショで滅んだという伝説もあるくらいだよ。」

 『それは凄いね。でも、その滅んだ国には、未だに大量のバレイショが生えてるんじゃないの?』

 「砂漠にバレイショが生えて、森になった場所が魔の森なんだよ。」

 『マジで?』

 「マジで。」


 『こんなの生えて無かったけどなぁ』

 「ある程度拡がると、育たなくなって、枯れていくそうだよ。」

 『あぁ、それが土になって森ができるのか。』

 「そうらしいね。」

 『でも、魔の森の下は、巨大な岩盤だったよ?』

 「元々は山だったらしいよ?」

 『山・・・、俺が住んでた場所はもしかしたら、頂上だったのかもしれない。』

 「そんな所に住んでたの?」

 『森の中にあった、岩山に住んでたんだよ。』

 「高さは?」

 『50メートルくらいかな?』

 「そこは頂上じゃないよ。」


 『違うの?、じゃぁ、どこに山があるの?』

 「魔の森はこの国の5分の1の広さがあるんだよ。だから、アルティスが住んでいたのは、端っこの方だね。」

 『あそこってそんなに広いんだ!?』

 「モコスタビアがあるのは、麓だね。元々は山脈で、山と山の間の谷を、バレイショが埋め尽くして、一つの山になったって伝説があるんだよ。」

 『・・・凄すぎて、イメージわかないな。』

 「その山脈に、古代王国があって、バレイショが街を飲み込んだそうだよ。」

 『じゃぁ、この大陸には、砂漠は無いの?』

 「あるよ、スタビア川の向こう側と、東の内海の向こう側にあるよ。」

 『種が川を渡れなかったって事?』

 「そうみたいだね、川幅がありすぎて、届かなかったみたいだね。」


 『鳥が食べて運んだりは?』

 「その場合は育たないから」

 『何で?』

 「肥沃な大地では育たないんだよ。」

 『という事は、この国の土地は、全てバレイショが育んだ土地って事か。』

 「さぁ?、どうなんだろね」

 『ポテチが流行ったら、また、バレイショに侵略されるかもね?』

 「な、なんて事だ!?、食べ放題じゃないか!」

 『え?、いや、そうじゃなくてさ・・・』

 「すぐやろう!」

 『ちょ、あるじ!?、駄目だからね!』


 「何でだ?、毎日ポテチ食べ放題だろ?」

 『ブクブクに太ったら、俺、あるじを嫌いになるよ?』

 「え?、それは・・・困るな、アルティスが居なくなったら、美味しいご飯が食べられなくなるじゃないか!」

 『え?そこ?、俺の価値って、そこなの?』

 「他にもあるぞ?」

 『どんな事?』

 「アルティスがいれば、喜劇の様な一団になる!」

 『あぁ、主も含めてね。』


 「その話面白いですね。」

 『広めたら命は無いかもな・・・』

 「・・・秘匿します。」



 なんか燻製の話の後、バレイショに話題を掻っ攫われたが、スケープゴートの肉をどうするかで、話してたんだよな。


 『結局どうする?、干し肉作る?それとも全部食う?』

 「え?これ全部食べるのは無理でしょ?」

 『塩ってどれくらいあるの?』

 「塩は大量にありますよ。みんなそれぞれで買ってきてしまいましたから」

 『ハーブと野菜と香辛料を買ってきてって言ったのに?』

 「ハーブや野菜も沢山ありますよ。それと同じくらいの量の塩があります。」

 『塩多すぎ、行商でも始める気かよ』

 「ここから先は、塩の価値がさがりますから、行商は無理ですね。」

 『じゃぁ、価値持たせる為に干し肉だな!』

 「お昼休憩の時に作りますか?」

 『もうすぐお昼か、ってこの辺でいいんじゃない?広いし』

 「そうだね、ここでお昼にしよう」


 馬車を止め、ワイン漬けのレバーを出して少しだけスープにしてみた。


 「美味しいですね、少し酸味がありますが、ワインの風味がいい感じです。」

 『じゃぁ、これでスープ作ろう。あとは、肉なんだけど、塩とハーブで味付して、切らずに焼いちゃおう。』

 「どうやって食べるんですか?」

 『生野菜と一緒にピタパンに入れて食べればいいでしょ?』

 「肉は削ぎ取るんですか?」

 『そうそう』

 「では、手伝ってもらいましょう。」

 『そうだね。あるじにも手伝ってもらうよ。』

 「ん?何かある?」

 『そこの鍋に卵の黄身だけ入れて、10個分くらい。』

 「き、黄身だけを入れるってどうやって?」

 『カレンできる?』

 「えーと、判りません。」

 『白身がこぼれるから下に器を置いて、殻を半分に割るんだけど、上下に割る感じで上の殻を取って、下の殻から上の殻に移すと、黄身だけになる。』

 「えっと、殻を上下に割って・・・、上の殻を?取る。おお、上の殻に移す・・・お!できました!」

 『その黄身をそっちの深い器に入れてって。』

 「できました。」

 『そこに一匙の塩とビネガーを入れて、ドロドロになるまでかき混ぜて。』

 「はい」

 『大変だから疲れたら誰かと代わってね。』

 『こっちの焼く肉の方も準備お願い。』

 『リズはピタパンの生地捏ねてー。』

 「あ、はい。」

 

 もう、放って置くとすぐイチャイチャ始める。

 仕事中だよ!君たち!そういうのは夜にしなさい。

 あ、夜は野営の時以外ね。


 クスノベルティで、雑貨屋に寄ったら、寸胴とボウルが売ってたから、買っておいたんだよ。

 寸胴は4つも買った。

 樽も何気に増えてるんだけど、一つは小さめので、中にワインビネガーが入ってるの。

 所謂酸化した白ワインだ。

 普通は薄めて安酒として売るらしいんだけど、暖めてアルコールを飛ばしたやつを入れてある。

 酢が手に入ったのは僥倖ってもんだよ。

 これで料理の幅が広がるってものさ。

 当然アレも作るよ。

 簡単だからね。


 「卵ドロドロになりました。」

 『そしたら、そこに少しずつ油を入れながら混ぜて。入れすぎない様にね。』

 「入れすぎとは?」

 『角が立つ状態を維持して、白っぽくなったら完成』

 「はい」

 

 そう、マヨネーズ!これはもう、定番中の定番だよね。

 これがあれば、生野菜サラダが一気に美味しく感じる様になる!食べ過ぎには注意だけども。

 ペティ以外には大丈夫だろう。万が一太ったらその時は・・・


 『パン生地どお?』

 「今、発酵中です。」

 『肉はどお?』

 「いい感じに焼けてます。」

 『レポーロとセボラを細切りに切ってー』

 「ピタパン焼きますね。」

 『よろしくー』

 『セヌラも棒状に切って、置いておくか。』

 『あるじー、暇ならスケープゴートをペティの手の平サイズに切り分けてよ。』


 「アーリアがやるの?」

 『剣でできるでしょ?』

 「できない事は無さそうだが、そういう事に使うのはちょっと、気が引けるというか。」

 『じゃぁ、飛ばすね。』

 「いや、だから、気が引けるって!」

 『猫キック!』

 バシッ

 「ちょ、でかいよっ!?ええぃ!」

 スパスパスパスパスパッ

 『[ウインド]』


 買ってきた盥に切った肉を積み上げた。


 「アーリア相手に、有無を言わせずとか凄いわ。」

 「でも、案外綺麗に切れてる。」

 『さすがあるじだ。』

 「これは、喜ぶべきか、悲しむべきか・・・」

 「このお肉で、干し肉作るんですか?」

 『スパイスとハーブを混ぜて、色々作ってみようと思ってさ。カレンとリズも作ってよ。一番美味しいのを作ったら、欲しい装備作ってあげるよ?』

 「私も参加していいのか?」

 『もちろんだよ。是非参加して欲しいね!』

 『でも、その前にお昼だね!』


 ピタパンやっぱり美味しいよね。

 半分に切って野菜と肉入れて、マヨネーズかけたら、尚美味い。


 「このマヨネーズってやつ、さっぱりしてて美味しい。」

 「あ、ちょ、かけ過ぎ!」

 「そこ!舐めない!」

 「このセヌラは、どうやって食べるの?」

 「マヨネーズ付けて食べるんじゃない?」

 「あー、美味しい!」

 『あんまりつけ過ぎると太るぞー』

 「え?これも?」

 『ほぼ油だからな。』

 「マジですか・・・」


 『太ったらマラソンな』

 「「「!?」」」

 『ペティもだよ?』

 「え?なんで私まで?」

 『デブいペティを夫人に見せたら、俺が怒られちゃうもん。』

 「大丈夫、太らないから!」

 『・・・ペティ、腹見せて』

 「ギクッ」


 『最近なんか丸みを帯びてきてるよね?、ずっと馬車に乗ってるだけだし、運動全然してないよね?』

 「わ、判ったわよ、動けばいいんでしょ!動けば!」

 「次の戦闘に私も参加するわ!」

 『あんまり動き回る様な戦闘には、参加でき無さそう。』


 「魔法撃つくらいできるわ!」

 「お嬢様はこれでも、学年トップなんですよね、魔法だけは。」

 『これでも?魔法だけは?』

 「リア、後でちょーっと、お話があります。」

 「え?、あっ、いや、今のは、えっと、言葉の綾ってやつで。」

 

 魔法だけはトップかぁ、学力ってどれくらいなんだろう?算数なのか数学なのか判らないが、理系が苦手っぽいしな、あとで教科書見せてもらおうかな。

 魔法を使うと、結構体力使うんだけど、ロックリザードの単独撃破程度じゃ、お腹の肉は引っ込まないみたいだ。


 お昼ご飯と肉の仕込みが終わったので、次の街を目指して出発だ!と思ったら、ゴートキャトル発見!?


 「右方向にゴートキャトルがいますが、どうしますか?」

 『食ってみたいけど、でかいんだよね?』

 「やめとく?」

 『次の街ってあとどれくらい?』

 「もう見えてますよ」

 『じゃぁ、宿とってからでいいんじゃない?』


 ペティがやる気を見せている。


 「私の運動は?」

 『宿とってからでいいんじゃない?』


 コルスが茶々を入れてきた。


 「私の休憩は?」

 『その辺でいいんじゃない?』

 「ちょ、私だけなんか酷くない!?」

 『酷いと思う人手を挙げて』


 誰も手を挙げない様だ。


 「・・・みんな酷い」


 すっかりコルスはいじられ役に定着したようだ。


 次の街はギレバアンという名前らしい。

 何かコメントし辛い名前だが、バアンという名の魚が有名らしい。

 ギレの意味が判らないと思ったら、バアンを使った代表的な料理の名前らしい。


 街のすぐ横には内海が存在していて、大きさは横断するのに船で二日かかるって言うから結構広い?大体、幅100キロくらいか。

 嵐になるとか大時化にでもならない限り、遅れる事は無さそうだが。


 『船ってでかいの?』

 「大きいよー、伯爵邸の倍くらいの大きさ」

 『でかっ!』

 「木造なんですが、海が荒れる事が無いので、大きいのが作れるそうですよ。」

 『荒れないから折れないのか。』

 「折れる?どういうこと?」

 『船が大きくなると重くなるでしょ?、海が荒れると波のてっぺんに来た時に、半分くらい空中に一瞬でもいるから、重さでポッキリ折れたりするんだよ。』

 「それは怖いですね。」

 『それはそうと、次の街のギルドで口座の金額確認できるな。』

 「しないですよ?」

 『コルスだけ少ないかもよ?』

 「何でですか!?」

 『執事怒らせたじゃん』

 「!?」

 「いやいや、そこまで酷い事はしないと思います!信じてます!ですよね?」

 『反応無いな』

 「いーや、大丈夫です。」

 『ま、いいや』


 この時点でなんか、ゴートキャトルはどうでもいい気がしてきた。

 肉ばっかりで飽きてきたんだよねぇ。

 ほら、俺って猫だからさ。


 見えてきた街の門には長い行列が見えた。

 アーリア達は、貴族専用の門を通るから問題無いが、すげー見られてる。

 門衛が走ってきて、後ろの馬車について聞いてきたが、大丈夫そうだ。


 この街は、領主が違うので、ちょっと街の雰囲気も違う様だ。

 当主でも無いので、領主に挨拶も必要無い、というより、命を狙ってくる相手に挨拶に行くとか、煽り以外の何ものでもないよね。


 宿は、これまた貴族用の豪華な宿で、ホテルとまではいかないが、高級な旅館って感じかな。

 そして風呂がある!これ重要。

 風呂がある!しかも温泉!!

 みんな部屋に荷物置いて風呂に行ったよ、風呂に慣れたからね。

 鼻歌まで歌ってたよ。

 アイツらは家族風呂?取ろうとしたけど、高くて無理だったみたい。

 ざま・・・やめとこ。


 「アル君洗うよー」

 「うわっ、アルティス凄い汚れてる。泡が茶色になってきた・・・」

 『背中の模様消えてない?』

 「え?大丈夫だよ、消えたら書いてあげるよ。」

 『遠慮しとく。』

 「アルティスさん何か、ちっちゃくなりましたねー」

 「いつもは、ふわふわだったのが、ほっそりしてて、何か可愛いです」

 『早く入ろう、ここ寒い・・・ぶるぶる』

 「ちょっと待ってね、桶にお湯入れるから」

 『ふぃー』

 「ふふ、気持ち良さそうだな。」

 『そういえば、シャンプー作ろうと思ってたんだよねぇ。』

 「シャンプーってなに?」

 『髪の毛専用の石鹸。』

 「それ使うとどうなるの?」

 『髪洗っても、キシキシしない。』

 「「「「!?」」」」

 『コンディショナーも作れるかなぁ・・・』

 「それは、どういう効果があるんだ?」

 『髪に艶が出る。』

 「「「「!?」」」」

 『石鹸あるなら作れる筈なんだよなぁでも・・・』

 「でも?」

 「ちょ、アル君寝てる!」

 「ちょ、ちょ、アルティス寝ちゃダメ!、溺れる!」


 お風呂でつい寝てしまった。

 桶の中とはいえ、深さ20センチもあれば十分溺れる深さになる。

 焦ったアーリア達は、代わる代わるアルティスの頭を支えて、体を洗ったそうだ。

 お風呂から上がって、体を拭くと、寒さでアーリアのタオルの中に潜り込んで、眠ってたらしい。


 アルティスが寝てる間に、アーリアを除く7人でゴートキャトルを狩りに行って来たようだ。

 体長10メートルの巨体を7人で担いで街に入ったら、注目を集めたらしい。

 肉の殆どは冒険者ギルドに買い取ってもらって、少し『50kg』だけもらってきたそうだ。


 『それで、この塊か。部位はシャトーブリアンってところかな?ヒレの一番いい所だよね?』

 「私が一番美味しいと思う部位だけもらってきました!。」

 『多分大正解だと思うよ、ありがとう。』

 「え?そ、そうですか?、何かお礼言われると照れますね。えへへ」

 『ところでさ、コルスお風呂入った?』

 「何ですか?突然。行きましたよ?狩りの前に。」

 『何か、血の匂いがする。』

 「!?」

 「それは、きっとこの部位を切り取る時に、血が付いたんでしょう・・・。」

 『夕食の後でいいから、お風呂入った方がいいよ。』

 「そんなに臭います?」

 「ちょっと臭うね。」

 「みんなは、帰ってきてすぐにお風呂行ったから、一人だけ匂いが違うと、凄く臭い。」

 『俺は、あるじと一緒に、厨房にこれ持って行って、調理してくるよ。』

 「私は?」

 『カレンも一緒に。』

 「やったー。」


 厨房には、元侯爵家の料理長だった人がいて、俺らの調理をじっと見ている。

 肉は厚さ5センチのステーキにして、スープは骨を使い、付け合わせに茹でたバレイショとセヌラのグラッセ、口直し用のディルやフェンネルに似たハーブを添える。

 下味は塩コショウだが、タレとしてルモンバターにアルデンスという粒マスタードを加えて塩で味を調えたものを付けた。

 肉は裏表と側面を丁寧に焼き、火から外して5分程余熱で火を通し、全員分を用意する為に、最後に纏めて再加熱して完成とした。

 肉を焼いている裏で、モルトを入れて焼いたパンを用意した。

 料理人達は、初めて見るパンに驚き、肉の焼き加減に驚き、付け合わせのグラッセにも驚いていた。

 一応、料理人達の為に、試食用として1食分置いてきたよ。



 『さぁ、食べよう!、いただきまーす!』

 「「「「「「「「イシス様に感謝を!」」」」」」」」

 「うまーい!、柔らかーい!」

 「うまうま、このタレめちゃくちゃ美味しい!、ピリッとくる感じいい!」


 調理の関係上、食堂で食べる事にしたが、周りの客の視線が凄い。

 何人かの客が厨房に駆け込み、同じ料理を出せと騒いでいる様だが、まぁ無理だろう。

 貴族の執事がこちらに来て、寄越せと言って来たが、爵位が子爵だったので、ペティが対応して、事無きを得た。

 料理長がアーリアに、調理方法を聞きに来たが、食べ終わるまで待てと一蹴。

 スープは大量に作ってあるので、それを使えと言っておいた。


 肉の焼き方は、見ていたので判るだろう。

 それ以外に何か教える事はあるかなーと思ったが、パンの焼き方だけだったので、食後にカレンに行ってもらった。


 『カレン、料理を伝える時に、ホリゾンダル伯爵家の秘伝って伝えておいて。』

 「判りました。」


 厚さ5センチ、長さ30センチの肉をぺろりと食べちゃったよこいつら。

 よく食うね。

 俺の分は、その半分の半分にしてもらっている。

 残った肉は、ワインと塩とスパイスを混ぜたタレに漬け込んで壺に入れ、明日のお昼ご飯にする予定だ。

 パンも多めに焼いたのに無くなってしまったので、明日の分をカレンに頼んでおいた。

 カレンは、美味しい料理を作れるのが、楽しいみたいで、率先してやってくれて、助かるね。


 夜はみんなぐっすり寝たよ。

 やっぱり、お風呂に入るとよく眠れるね!


 朝、カレンから、モルトファンガスをあげていいか、聞かれた。


 『いいよ、あげちゃって。多めに渡しておいて、これを使ったパンは、ホリゾンダルパンだと言っておいて。』


 モルトファンガスは、狩ってから数日たっているので、発酵し始めたが、パン作りには特に問題ないので、そのままにしている。

 一部は馬車のブレーキパッドに使い、一部はドライフルーツと一緒に壺に入れ、風味を付ける実験をしているが、まだまだ、大量にあるのだ。

 モルトファンガスの大きさが、人間一人分くらいの大きさだからね、樽の中で発酵させておけば、幾らでも使えるんだよね。


 今日は船に乗る。

 船はやはりでかい。

 大体、長距離フェリーくらいの大きさで、全長100メートルはありそうだ。

 木造船でこの大きさは珍しいと思うが、地球の近代史に出てくる、鉄製の大型帆船並みの大きさだ。

 波が穏やかなので、できる事なんだろう、今も海は、べた凪だし。


 キャラックとは違い、高さが無い。

 平底で普通なら河川用として使われるタイプだな。

 竜骨無いのに、どうやってマストを支えてるんだろう?、マストの高さは30mくらいある。

 船の下に、キールっぽい物が見えてるから、底に貫通しているのかもしれないな。

 一応、先頭の海面下に衝角というか、バルバスバウの様な物もある。


 『でっかいなぁ』

 「アルティスは船に乗るのは初めてだよね、多少揺れるけど酔いは大丈夫かな?」

 『今のところ大丈夫みたい。』

 

 船の中では釣り竿の貸出があったので、みんなで釣り大会を開催した。


 『一番でかいの釣ったら銀貨10枚、小さくても一番多く釣ったら銀貨1枚、みんなから貰える事にしよう。』

 「ちょっと待って、それってでかいの釣ったらほぼ金貨1枚分になるんじゃない?」

 『やる気出るでしょ?』

 「うぉー!やったるぜー!」


 ペティのツッコミがあったが、サラッと躱し、ルースがやる気満々になってる。他のメンバーも文句は無い様子なので、頑張って一番を狙って欲しいね。


 最初にかかったのは、バリア。


 「くっ、重い!」


 リールが付いているが、ドラグは無いので、魚が疲れてくるまで巻くのは無理だ。

 だが、さすが騎士というべきか、うまく調節して魚の力を逃がしている。


 後ろには銛を持った船員が待機していて、近くまで寄せたら突いてくれるらしい。

 竿は木製ではなく、魔獣の(ひげ)を使っているので、滅多に折れる事はない様だ。


 この海の魚は、最大で40メートルで、クジラではなく、シーサーペントらしい。

 てか、シーサーペントって魚なんだ。

 沢山いるのは、サトウという魚で体長1から2メートル程らしい。スズキに対抗してんのか?。

 かかると暴れまくるので、釣れると楽しいみたい。


 たまに高級魚のクイタイという魚が釣れるそうで、体長5メートル程だそうだ。

 食いたいね。

 他にも猛毒を持つ、フグの様なパファーアウトという高級魚や、ここの領の名前にもなっている、バウンドパイクという塩焼きが美味い魚もいるようだ。

 ちなみにバウンドパイクは50センチくらいで、水面を跳ねて船の上にいる人を刺すんだそうだ。

 偶然ではなく、狙っているらしい。

 怖ぇなサンマ。


 30分にも及ぶ戦いを制し、バリアが釣り上げたのは、体長4メートルのクイタイだった。今のところのトップだな。

 他のメンバーを見ると、パファーアウトばかりを釣ってるコルス、サトウを釣りまくってるカレン、何か大物と格闘しているメビウスとリズ、ペンタとルースは、何故かバウンドパイクに狙われまくって、手づかみで捕まえていた。

 アーリアは、何も釣れてない様子だったが、動かないアーリアの竿にアルティスがぶら下がると、魚がかかった。

 ルアーだから動かさないと釣れないんだよね。


 「くぁっ!、これは、きつい・・・くっ」

 「ふぁっ・・・・負けるかっ!・・・・ふんっ!」

 『どんな大物と格闘してるんだ?遠すぎて魔力感知の範囲外だな。振動感知なら・・・!?』

 『シーサーペントかもしれない!』


 と思ったが船員曰く、この引き方は、シールという体長20メートルのヌルヌルした魚で、細長く、食べると元気が出るらしい。

 アーリアが巻き始めた。

 この魚は銛では突けないので、虎バサミみたいな物を二人で操作して掴むらしい。

 船員が準備していると、掛け声と共にシールが船の上に落ちてきた!


 「うおぉりゃぁ!!」

 『[エアクッション]』

 ドスン

 『おつかれさまー。』


 驚いてる場合じゃない、反対側では必死に竿を掴んでいるメビウスと手伝っている6人が居た。

 ホントに何を釣ってるんだ?と思っていたら、マストの上から鐘が5回鳴らされた。

 船員達が銛を持って大勢集まる。聞けば、シーサーペントがかかっているらしい。

 あまりの重さに声も出ず、必死にリールを巻いている。

 周りの喧噪が煩かったが、長時間の奮闘の上、とうとう釣り上げた?、いや、討伐した、だな。


 『これは文句なしに一番だね!おめでとう!』

 「「「「「「「「おめでとー!!」」」」」」」」


 ちなみに、シーサーペントは金貨20枚で売れたそうだ。ぼろ儲けじゃん。

 他の釣った魚は調理して食べてしまおうと思う。


 釣り大会で釣った魚が大量にある。

 この船は、漁船じゃないので、当然魚を入れておく水槽も無い。

 足の早い魚は、さっさと調理を始めなければ、腐ってしまうので、まずはサンマから調理を始める。

 このサンマ、未だに生きていて、あわよくば、こちらを刺そうとしてくるほど凶暴だが、サクサク首を切り落としてしまおう。

 ペティにも捌くのをやってもらおう。

 あいつら何匹捕ったのか、100匹以上はあるので、一部は干物にして後日食べようと思う。


 頭を落としたサンマは、背開きにして腸を取り、塩水に浸しておく。

 腸と頭は、すぐに臭くなってくるので、海に捨ててしまう。

 日本でこれをやると、不法投棄になるので捕まる可能性があるが、ここにはそんな法律は無いので、問題無い。


 塩水に漬けた魚は、30分程で引揚げ、風通しのいい場所に干す。

 焼く分は腸を取って、塩を振り、焼き始める。


 次に調理するのは、ウナギだな。こいつは20mもあるが、胴の太さは直径30センチほど。開いてみると厚さ10センチ以上ある。

 蒲焼を食べたいが、残念ながら醤油もご飯も無い。

 なので、白焼きにする。

 皮は焼いただけではゴムの様に硬いらしいので、一旦蒸してから焼く。

 船員は肉だけ食べたいらしいので、残った皮は干して馬車のブレーキパッドにでもするかな。


 クイタイは、刺身にしてみた。

 洋上にはプカプカ浮いてる昆布があったので、採って干しておいた。

 後で昆布締めにしてみよう。


 タナカじゃなくてサトウはどうしようか・・・生ではコリコリとした食感だったので、乾燥しない様に樽の中に入れておいた。

 暫らくすれば軟らかくなるだろう。

 入りきらない物については、ムニエルにしてみた。


 パファーアウトについては、調理できないので、船員にお任せした。

 骨を捨てようとしていたので、取り上げて、焼いてから煮る。

 骨には毒が無い事は、確認済みだ。

 いい出汁が出そうだ。

 潮汁にするのがいいだろう。


 『さぁ、食べよう!、いただきまーす!』

 「「「「「「「「イシス様に感謝を!」」」」」」」」

 カレンは、サンマの小骨に苦労しているみたいだ。


 「パイクは、ちょっと小骨多いから、食べにくいけど、美味しい。」

 『半身を取って、骨を外すんだよ。』


 ペティは、シールが気に入ったみたいだ。


 「シール美味しい!、この皮がいい食感を出してるわ!」


 「このクイタイは、ホントに生で食べるのか?、大丈夫なのか?」

 『大丈夫だよ?、ちゃんと処理してあるから、寄生虫とか居ないよ。』


 さっき、クイタイを捌いている時に、直径2cm、長さ30cmのでかい寄生虫が、切り口からコンニチワした所を見てたからか、食べるのを躊躇しているようだ。

 アルティスは、一切れ食べて、美味かったので、塩無しでガツガツ食べている。


 ヤマダじゃなくて、サトウのムニエルは、大好評で、パンに挟んで食べられている。

 パファーアウトの肉は、唐揚げにしてみたが、こちらも大好評だ。


 「このムニエルと野菜をパンに挟んで、マヨネーズを塗って食べると、凄く美味しいわ!メビウスも食べてみてよ!。」

 「あーんっ、美味いなこれ!、ふわふわの食感で、皮の歯ごたえと香ばしさも、いいアクセントになってて、美味い!」

 「自分で釣った、パファーアウトの唐揚げが美味しいですよ!、このスープもいい出汁が出てます。」


 『あれ?、ペンタは?』

 「ペンタは外にいると、バウンドパイクが飛んでくるので、ゆっくり食べられない様です。なので、下の船室で食べてるらしいですよ?」

 『バリアは?』

 「ペンタ一人じゃ可哀そうって言って、着いて行きましたよ。」

 『ペンタは、何であんなにバウンドパイクに好かれてるんだ?』

 「さぁ?、何ででしょうかねぇ、さっぱり判りません。」


 ペンタは、釣り大会の時に、網の後ろに立ってるだけで、大量のバウンドパイクを捕まえてたからな。

 ルースは、そのバウンドパイクを空中で掴んで、反射神経の鍛錬をしていたらしい。


 『最近のルースの成長は、目覚ましいものがあるな。』

 「もう、一介の兵士の技量を超えてますよ。騎士になってもいいくらいに。」


 コルスからの評価も高い様だ。



 残るシーサーペントだが、こいつはでかすぎて、引き上げられないので、港についてから解体するそうだ。

 食事中、他の乗客たちが羨ましそうに見ていたので、毒見役に男を選び、食べさせてから、子供から順に配った。

 バウンドパイクが、甲板にいる人を狙って飛び回っていたが、甲板に戻ってきたペンタに任せた。

 ペンタは何故か狙われるらしく、柵に近づくと20匹くらい殺到する。

 たまたまかもしれないので、ちょっと移動してみても殺到する。


 『ペンタ、ちょっと船員と協力して、サンマを採ってくれ。』

 「僕はルアーじゃないんですが?」

 『サンマからの熱烈なラヴコールを受けてるじゃないか。』

 「そんなラブコールは要らない!、どうせならポニテの人がいい!」


 ちょっと離れた所でバリアの耳がダンボになってますよ?。

 でもペンタの目当ては、船員の中にいるポニテの人かな?雰囲気ぽやっとしててちょっとかわいいが、その人さっきクイタイを銛で刺してたよ?「うぉりゃー」とか言って。


 『バリアはペンタが好きなの?』

 「ブホッ、ち、違いますよ!?」


 あれ?ペンタがしょんぼりした。


 『ペンタがしょんぼりしちゃったじゃないか!』

 「え?、あ、違うの!ペンタ君かっこいいと思うよ?、さっきのは、突然聞かれたから、その・・・・。」

 『もう、隅っこで話し合ってきなさい。』

 「は、はい、ありがとうございます。」


 何かみんな、リズとメビウスに感化されちゃってるのかねぇ?、でもカレンとアーリアは料理に、コルスは・・・執事にかな?


 『違いますよ、何言ってるんですか!、私はノーマルですから!』

 『もう、興味持ってくれそうな相手いないよ?』

 『いやいや、範囲狭くないですか?、他にもっと周りにいますよ、きっと!』


 『あぁ、一夜の恋ってやつか。』

 『違います!、今はそんな事してる暇ありませんから!、アルティスさんのお世話で手一杯です!』

 『それは、もっと使って欲しいて意思表示?』

 『それも違いますって!』

 『コルスは優秀だし、気が利くし、頭もいいからさぁ。』

 『ちょ、な、何突然褒めだしてるんですか!、何も出ませんよ?』

 『そっか。』

 『え?いや、もっと、もっと褒めていいんですよ?』

 『褒めるだけ損って、自分で言ったじゃん?』

 『えー・・・、何して欲しいんですか?暗殺ですか?爆破ですか?』

 『人の恋路を邪魔するのは、やめろ。』

 『・・・・・・・・・・・はい。』


 『その鬱憤を魔獣で晴らせよ。』

 『アルティスさんと話す方がいいです。』

 『そんなに弄られたいのか。』

 『ちーがーいーまーすー。』


 コルス面白いな。さてさて、粗方魚は食べ尽くされ、カレン・リズ・アーリア・メビウスは料理と配膳でぐったりしている。


 『カレンお疲れ様ー、ちゃんと腹いっぱい食ったか?』

 「まだ食べ足りないのぉ・・・」

 『残ったのと、樽の中にヤマダ・・じゃなくてサトウがあるから、食っていいぞ』

 「食べるぅ・・・」


 船員たちが、俺達の料理のお礼に、魚を焼いている。

 パファーアウトも焼こうとしてるので、唐揚げのやり方を教えて、作ってもらった。

 ちょっと揚げ過ぎな感じもするが、中々に美味しい。

 コルスも手伝わせて、クイタイとス・・・サトウの昆布締めを作ってもらった。

 これは夕飯に頂くとしよう。

 またもや空気と化したペティは、隅っこの方でバウンドパイクを黙々と背開きにして、開きを作っていた。

 案外、こういう作業に向いてるのかも知れないな。


 午後は、みんなでゆっくりと休憩して過ごした。

 乗客達から度々お礼を言われたり、何かを貰ったりしていた。

 船員達からは海ブドウをもらった様だが、この海ブドウ、食べるとマスカットの様な味がする。

 塩水が付いているから、甘じょっぱいんだけど、マスカットに塩味って合わないね・・・。

 

 ペンタが船長からなにやら呼び出しを受けた。

 ペンタは甲板にいるとバウンドパイクを呼び寄せるのだが、船室に居てもその効果は落ちない様で、ペンタの居た船室の外側には、バウンドパイクがみっちりと刺さっていて、船体が傷つくので、マストの上のショウ楼に追いやられたらしい。


 『アルティスさん、ここから何か凄い大きい物が見えるんですが。』

 『どこに見える?』

 『海の中です。』


 海面を見ると、船と一緒にバウンドパイクの群れが移動している様だ。


 『バウンドパイクの群れだな。』

 『・・・・。』

 『お前は港に着くか、呼ぶまでそこにいろよ。』

 『トイレ行くときはどうすれば・・・。』

 『バケツでやれ。』

 『で、でで、ででで、できないですよ!』


 一つ判った事がある。コルスが柵に近づくと、バウンドパイクが逃げてパファーアウトが近づいてくるんだよ。でも、バウンドパイクは食べないらしく、ただ集まるだけで、何の解決策にもならない。


 『あ、アルティスさん、また何か近づいてきました!』


 と、その時、でっかい口がバウンドパイクの群れの半分を飲み込みながら、水面に飛び出してきた。

 船員達が跪き、祈りを捧げている。

 聞けばこれは、セイレーンが狩りをしている所らしい。

 アルティスのイメージでは、セイレーンは歌で人を惑わし、船を遭難させるとか、人を海に落として殺すとかそんな感じだったんだけど、ここでは守り神として崇め奉られているとか。

 今回も、困っているのを見て、助けに来てくれたと言っていた。海の中を覗き込んでいると、泳いでるセイレーンと目が合ったので、話しかけてみた。


 『こんにちわー』

 『こ、こんにちわ、あなた言葉が判るの?』

 『そうだねー、言語理解というスキルがあるからかな?』

 『そうなんだ。で、何か用?』

 『この船を助けてくれたの?』

 『違うわよ、バウンドパイクが大群で泳いでるって聞いたから、漁に来ただけよ。』

 『そうなんだ、貴方たちは、これをどうやって食べてるの?』

 『焼いて食べるわよ?』

 『水の中で?』

 『違うわ、集落は陸地にあるのよ。』

 『そうなんだ、干物あるけどあげようか?』

 『干物って何?』

 『干したバウンドパイクだよ。』

 『食べた事ないわ。』

 『ちょっと待ってて。』


 干物にしたバウンドパイクを樽に詰め、蓋をして海に投げ込んだ。

 セイレーンは樽の蓋の縁に何かを付けて密封したようだ。


 『これはどうやって食べるの?』

 『焼いて食べるんだよ。』

 『そう、ありがとう、もらっていくわ。』


 そう言って、海の中へ消えていった。


 今日の午後は、模擬戦でもやらせて、暇つぶしでもするか。


 『暇なので、模擬戦やって、楽しもうぜー。』

 「僕はパスで。」

 『審判はペンタな。』

 「ちょっと待ってください、僕いるとバウンドパイクが、襲ってきますよ?」

 『いいじゃん、バウンドパイク飛び交う中で、避けながらの模擬戦!』

 「面白そうです。やりましょう!」

 「丁度、暇を持て余していた所だ、やろうじゃないか。」

 「どんな感じにやるんですか?」

 『暇だったから、模擬戦用アミュレットを作ったんだよ。斬撃耐性と打撃耐性、全魔法耐性と刺突耐性付けて、疑似HPで戦うんだ。頭と心臓を切られた場合と、首と胴を切られた場合は、即死判定な。』

 「耐性ついてても痛いですよね?」

 『当たり前だろ?、痛くなかったら、避けないじゃないか。そんな癖がついてたら、本番で死んじゃうだろ?』

 「それもそうですね。」


 カレンがアミュレットを着けて試してみる様だ。


 「これがそのアミュレット?、ちょっと試しに、アーリア、叩いてみてよ。」

 「ふんっ!」

 ゴスッ

 「ぎゃっ!」

 ズザザザー

 「イタタ、でも耐えられるわ、これ。凄くない?、実戦で着けたら、無敵になれるわよ?」

 『あるじの攻撃に耐えられる様にすると、疑似HPの分しか耐えられないんだよ。』


 「そういう事か。でも、アーリアと同等の敵なんて、そうそう居ないんじゃないの?」

 『そんな物に頼ってて、突然効果が切れたら、どうするんだ?』

 「・・・避けないかもね。」

 『そうだよ、避けるって事を忘れるかもしれないから、そんな物は必要ない。そういうのは、戦えない人が着ける物なんだよ。』

 「確かに。」

 『みんなには、死んで欲しくないけど、過保護にする気は無いよ。寧ろ、最強になるまで、鍛えてやる。』

 「お、お手柔らかに、お願いします。」


 『無理させるつもりは無いよ、いきなり強い敵と戦えば、強くなれる訳じゃないからな。徐々に強くなってもらって、次の武闘会で上位独占できるくらいを目標にしてみようかと思ってるよ。』

 「あはは、それは大変だわ。」

 「今のペースなら、可能だと私は思うぞ?。たったの一週間で、どれだけ強くなったか判ってないのか?」

 「うーん、あんまり実感が無いのよねぇ、強い敵って言っても、ロックリザードと、ミスリルリザードの2種類くらいでしょ?」

 『じゃぁ、カレンは、ルースと対戦な。』

 「よし、がんばるよ!」

 「判りました。」

 『カレン、アミュレットを一旦外して、また着けて。じゃないと、HP9割減ってるから』

 「はーい」


 ペンタが網を持った船員の傍を離れ、中央に行く。


 「それでは、始め!」

 キンッキンッ・・・キンッ!

 ガッキンッ


 いい勝負だが、ルースが押され気味だな。

 足の運びも上手くなってるし、二人とも隙が無くなってる。

 剣の手入れも、ちゃんとやってるし、いい感じに戦えてる。

 

 キンッキンッ

 「ハァハァ・・・っ、ハァハァ」

 「やぁっ!」

 ガッ

 ドサッ

 「やめっ!、カレンの勝利!」


 ルースのスタミナ負けだな。

 だが、騎士と同等の強さになってるのは、頼もしいな。


 『次はリズとメビウスだ。』

 「はい!」

 『手を抜いたら、3食干し肉な。』

 「「!?」」

 「痛いと思うけど、我慢してくれよ。」

 「メビウスは、私に当てられるつもりなんだ。」

 「用意、始め!」

 「はっ!」

 ギンッキンッキンッ

 ギャリギャリギャリ

 ゴッ

 ズザザー


 うん、結果は判ってたが、こうもあっさり終ると、何だかなぁと言う感じだ。

 リズの強打から始まり、打ち合いはあったものの、まだメビウスの足の運びのチグハグさが残ってて、相手にならないね。


 「やめっ!リズ勝利!」

 『あるじー、メビウスの鍛錬やってもらっていい?』

 『バリアがやってるんじゃないのか?』

 『バリア、最近は自分の足の運びに夢中で、全然鍛錬できてないんだよねぇ。』

 『そうか、では、特訓をやるか。』

 『あんまり厳しくしすぎないでね。アイツのメンタル弱いから。』

 『判った。』


 『メビウス、あるじから足の運びを教えてもらえ。』

 「ってて、りょーかい。アーリアさん、よろしくお願いします。」

 「よろしくな。ビシビシいくから、へたれるなよ?」

 「・・・うっす。」


 こうは言ったが、アーリアは結構面倒見がいいので、結局夕飯直前まで、鍛錬が続いた。

 独特な鍛錬方法だけど、いつのまにか、後ろでリズ・カレン・バリアが真似して、鍛錬してたからね。

 効果が出るといいなぁ。



 船上二日目、海も飽きた。

 前方に陸地が見えてきたので、もうすぐ着くんだろうけど、10ノットも出ていなさそうなので、あと6時間くらいはかかりそうだ。


 今日の午前中も暇なので、メビウスはアーリアと鍛錬の続きをやっている。

 3騎士は三つ巴で模擬戦をやりたいと言って来たので、アミュレットを1個追加して渡しておいた。


 この世界では、割と簡単に体が鍛えられる。

 たったの1週間で、騎士も兵士も強くなったのが、その証左だ。

 原因は、数値化されたステータスだと思う。

 そして、ステータスには現れないが、多分レベルが存在していて、全体が一気にあがるのではなく、各ステータスにレベルがあって、それぞれが、鍛錬内容に沿って上がっていくんだと思われる。


 スキル自体にもレベルがあると思うが、同時にステータスも上がっているから、何が影響しているのか、よく解からない。

 だが、目に見えて強くなっていくから、頑張れば頑張った分だけ強くなる。

 だから、頑張る人には、アルティスも全力で応える。


 見学者の騎士や兵士からも、模擬戦に参加したいと申し出があったけど、対戦しても全く歯が立たないと判ると、すぐに引き下がって行った。

 他の貴族から、配下への誘いがあった様だけど、ホリゾンダル伯爵の配下と判ると、あっさり引き下がって行ったよ。

 君たちには、扱うのは無理だよ。


 ペンタは、相変わらず、歩くルアー役をしている。


 「・・・まだ獲るんですか?、もう十分獲りましたよね?」

 『ペンタ、ボーっとしてないで、ルースみたく掴んだり、避けたりしてみれば?』

 「僕がやると、ルースさんが対応する分が無くなるので。」

 『ルースはもうすぐ、倒れるぞ?』

 「え?、あぁ、ヘトヘトになってるんですか。じゃぁ、交代します。」

 『ルース、休め。』

 「っす。」


 『ルースは、剣よりも拳闘の方が向いてるかもな。』

 「ゼェゼェ、そうですか?、ハァハァ、剣も好きですよ?」

 『ガントレット着けて、剣と拳闘を両方使うってのはどうだ?』

 「あぁ、それはいいかも知れないです。たまに、殴れると思う時があるので、貰えるとありがたいです。」

 『お前は、足の運びが上手いから、スタミナを付けるのと、息を止める癖を直せ。息を止めるんじゃなくて、吐くんだよ。口から。鼻で吸って、口から吐く。力を入れる時も、止めずに吐く。判ったか?』

 「はい!、ありがとうございます!。」

 『あ、それと、朝起きた時と、寝る前に、前にやったストレッチを必ずやっとけよ。やりながら、息の練習をすると、上手くいくと思うぞ。』

 「判りました!」


 ルースに鍛錬方法を教えている間も、ペンタが周りに並べた網に、どんどんバウンドパイクを入れて行ってる。

 凄ぇなこいつ、片足でバランス取りながらやってるよ。


 『お昼までやってね。』

 「そんなに獲って、どうするんですか?」

 『食べるに決まってるじゃん?』

 「こんなにですか?」

 『これを酢に漬けて、軽く焼いてから香味野菜と一緒に、パンに挟んで食べると、美味しいと思うんだ。』

 「・・・がんばります!」


 バリア達の三つ巴を見て、気になる点をいくつか見つけたよ。

 3人それぞれ、何かしら苦手な位置がある様で、三つ巴で対戦する事で、何とか克服しようと思った様だ。

 だが、それでは治らない事もあるから、アルティスは、自分にできる事をするだけだ。


 この国の剣術では、力を入れる時に、声を出す事を推奨している様だが、スポーツならいざ知らず、戦闘でそれをやると、不意打ちや大技を見切られてしまう。

 だから、なるべく声を出さない様に、息だけを吐く練習に変えてもらった。

 攻撃を見切られるのは、隙を見せるのと同等の弱みになるから、静かに息を吐く練習だ。


 「呼吸ってそんなに大事なんですか?」

 『大事だよ?、無意識にやってるから気が付かないだけで、殆どの人は、攻撃の瞬間に息を吐くんだよ。だから、相手の呼吸を見切るのは、とても大事な事なんだよ。』

 「それで、静かに呼吸すると、相手に見切られる事が無くなるという事ですか。」

 『それもそうなんだけど、呼吸を整えると、頭が冴えてくるんだよ?』

 「よく解からないですね。」

 『焦ると呼吸って早くなるだろ?、あれは駄目なんだよ。息が浅くなるから、冷静じゃ無くなるんだ。だから、どんな時も落ち着いて呼吸する事を心がけると、冷静に判断ができる様になるんだ。』

 「そうなんですか?」

 『心を落ち着ける時に、深呼吸するだろ?』

 「あぁ、そういえばそうですね。」

 『それと、騎士道云々は、平時のみの話だ。混戦では、そんな事言ってる奴は死ぬから、常に冷静に、視野を広く持ち、周りの状況を見極める。これを普段から練習するんだ。』

 「判りました。やってみます。」


 この3人は、まだまだ伸びしろがあるから、頑張って欲しいね。


 お昼の時間の前に、カレンを呼んで、準備を始めた。

 お昼のおかずは、スケープゴートだ。

 干し肉用にスライスした肉で、焼肉だ。


 たくさん獲った、バウンドパイクは、ペティが黙々と捌いてる。

 相当に、暇らしいが、勉強は?


 「頭使うと寝ちゃうのよね。」


 後で、勉強を手伝うか。

 バウンドパイクは、干物にする分と、酢漬けにする分に分けて、塩味を染み込ませている。

 干物用は、どんどん干して、酢漬け用は、どんどん樽に詰めていく。


 午後になって、セイレーンから念話がきた。


 『昨日もらった干物の作り方を教えて!』

 『気に入ったの?』

 『そう!もう無くなっちゃったのよ!』

 『そっか、あれはね、塩水に漬けて干すだけだよ。』

 『どれくらい漬けるの?』

 『30分くらい。』

 『判ったわ!、塩水は海水でいいの?』

 『長期間保存する場合は、もう少し濃いめの塩水がいいよ、あと干す時は天日干しね。』

 『判ったわ、ありがとう!、またね!』


 漬ける時間を30分て言ったら通じたよ。

 ホントに判ったのかな?もしかしたら、時間の判る魔道具とか魔法みたいなのを持ってるのかなぁ?


 夕方、対岸の街、カレースパンの港に到着した。

 変な名前付けるなよ・・・カレーパン食いたくなってくるじゃないか!

 宿に着くと、料理長がやってきて、ふっくらパンの作り方を教えてくれと言ってきた。

 なんで知ってるのか聞いてみると、俺達よりも先に船を降りた貴族から聞いたのだとか。


 『あのパンの名前、ホリゾンダルパンで統一しよう。』

 『いいね、そうすれば伯爵の名前が売れるね!』


 ホリゾンダルパンの作り方を教えて、骨を使うスープのつくり方も教えた。

 料理を教える時に、ホリゾンダル流の作り方として教えておいた。


 勝手にふっくらパンとか名前を付けやがった貴族には、どうこうできないが、仕方ない。

 ここの料理長には、魚の骨を使って作る出汁と、昆布を使う出汁を両方とも、ホリゾンダル流として教えておいた。

 夕飯の時に出された料理を食べて、大騒ぎになっていたが、後は自分たちで何とかしてくれ。


 やっとバウンドパイクから解放されたペンタは、早めにベッドに入って眠っていたよ。

 ショウ楼じゃ、よく眠れなかった様だ。

 ちなみに、降りられないペンタは、トイレをバケツで済ませて、紐を付けて遠くに飛ばして処理した様だ。

 たまに遠くで水の音がして、バウンドパイクが大移動していたので、臭いに釣られたのかもしれない。

 用を足す時は、バリアは下に降りていたよ?、さすがに目の前で、見てる訳にはいかないもんね。


 港に着くまでに、まだ時間があるから、海水を使って石鹸を作るよ。

 ギレバアンでシャンプーとコンディショナーの話をしたから、船に乗る前に材料になりそうな物を買っておいたんだよ。


 「何を作るんだい?」

 『重曹を作る。』

 「じゅうそう?」

 『色んな事に使える、超便利なアイテムだよ。』

 「へぇー、例えばどんな事に使うんだい?」

 『食べ物や、洗剤、シャンプー、掃除、洗濯、入浴剤。まぁ色々だね。』

 「そんなに使えるの?、洗剤にも使えるのに、食べ物にも使えるの?」

 『小麦粉に混ぜて焼くと、ふかふかになるんだよ。』

 「モルトファンガスとは、何が違うの?」

 『発酵させる訳じゃなくて、すぐに膨らむんだよ。』

 「??」

 『まぁ、作ったら、明日のお昼にでも見せてあげるよ。』


 そういえば、海水を分離すれば、にがりも作れるな。

 という訳で作った重曹、大量の海水を使った割に、凄く少ない。

 まぁ、海水の塩分濃度は約3%だから、少ないわな。


 『次からは、塩から作ろう・・・』


 この世界の石鹸は、サポニンを含む植物の実やら皮やらを主に使っている。

 高級な物だと、油を原料とした石鹸が作られているんだけど、1個で金貨20枚近くするらしい。

 日本円に治すと2000万円とか、高すぎるよね。

 しかも全然泡立たないとか、詐欺に等しいよ。


 石鹸の作り方は、色々な方法があるんだけど、一番簡単な方法は、油と苛性ソーダを使う方法だと思う。

 だけど、苛性ソーダが手元に無いから、使うのは重曹と油がいいだろう。

 重曹は塩を分解して、二酸化炭素を混ぜると結晶化する。

 塩の分解も二酸化炭素の生成も魔法でできるのがいいよね。


 油は、魔獣の脂が手に入り易いけど、臭いので植物油を使って作るんだよ。

 植物油にも色々種類があって、オイルリーフという分類の植物の種子から採る油が一般的だね。

 要は脂肪分を多く含む植物がオイルリーフとして分類されているって訳さ。

 オリーブの様な木の実や、椿の様な木の実もあって、中にはアボカドの様な油分を多く含む実もあるそうだ。

 選んだのは椿油の様な奴で、サラッとしていて香りもいい油だった。

 その名もネックブレイクオイルとか、物騒な名前だけど、椿みたいに丸ごと落ちる花みたいだね。


 椿油と言えば、昔は伊豆大島が有名だったんだけど、今はどうなんだろ?

 とりあえず、作った重曹とネックブレイクオイルを合わせて、少し蜜蝋を入れたら型に入れて固めれば完成って感じかな。

 普通はアルカリ性に傾いていたりするんだけど、そこは魔法で中性にしてしまえばいいだけで、売り出す訳では無いから、これで問題無い。


 『宿に泊まるのはいいが、船の上と大して変わらないから、感動が無いな』

 「揺れないから、こっちのがいいよ。」

 『え?揺れてた?』

 「気が付かなかったの?」

 『全く』

 「うそー・・・」

 『明日は雑貨屋で食器と鍋を買ってから出ようね!』

 「うん、でも、その前に・・・お風呂よ!」


 石鹸は作ったからいいとして、オイルとはちみつを合わせた物をリンスとして使うなら簡単か。


 『はちみつとオイルでいけるか?・・・どうだろ?』

 「なになに?シャンプーとリンスの話?」

 『シャンプーはちょっと厳しいかもだけど、リンスなら何とかなるかもって思って』

 「リンスは何が必要?」

 『植物油とはちみつ』

 「もらってくる!」

 「もらってきた!」

 『早いな。』

 「厨房すぐそこだからね。」


 『お、おう、はちみつは、これ全部使ってもいいの?』

 「あ、ちょっとまってね!」

 「小皿にもらってきた!」

 『じゃぁ、これにちょっとだけオイルを足して、混ぜてー』

 『これを髪を洗った後に髪に塗って、暫らくおいてから流すの。』

 「りょーかーい」

 『体洗う前にやってね。』

 「はーい」


 リンスを使う前に頭を洗ったみたいだけど、みんな泡が茶色いんだよ。


 『俺の毛が汚いとか言ってたけど、皆も汚いじゃん。』

 「・・・ホントだね、人の事言ってる場合じゃなかった。」

 「こんなに汚れが落ちる石鹸は、大事に使いたいです。」

 『手ぬぐいで泡立てて髪に泡を塗るんだよ。泡が重要だからね?泡が消えるって事は、汚れが落ちてるって事だから。』

 「リズの頭の泡を貰うね。」

 「え!?ちょ、何かみんな取ってない?」

 『リズはもう一回やれば、泡立つんじゃない?』

 「ちょ、泡を持ってかないでよ!!」

 「ほら、コルスも洗いなさい。あんた最近臭いんだからね?」


 今回は、コルスも引き擦り込んでるよ。

 最近のコルスはちょっと臭いからさ。


 「え!?そんな事は無いですよね?」

 『ん?臭いよ?臭いから、無詠唱でデオドラントを掛けてるんだよ。じゃないと死んじゃうよ。』

 「酷く無いですか!?」

 「コルス、気付いて無かったのか?」

 「アーリアさんまで!?」

 「コルスは、ちゃんと腋の下のケアをしてる?剃らなくていいから、刈込むくらいはしなさいね?」

 「お嬢様まで・・・」

 『コルスの防具を作る時は、腋の下に殺菌効果を付けないと駄目だな。』

 「さっきん?」

 『臭くなるのは、バイ菌が繁殖してるからだよ。物が腐ると臭いがきつくなるのと同じだね。だから、その菌を殺すんだよ。』

 「アル君、それ、学院で売り出さない?」

 『防具売るのか?』

 「どうにか別の物にならない?」

 『自分達でデオドラントかけろよ。これは、デオドラントじゃ効果が無いコルスだからやるんだよ。』

 「リアの鎧がいい匂いなのはどうやるの?」

 『フレグランスの後に好きな香りの名前を言えば香るぞ。あるじのは、[フレグランス・フローラル]だな。』


 お風呂場にフローラルの香りが広がった。


 『ペティは、靴を脱いだら、メイドにデオドラントを掛けてもらって、天日干しにしてもらうと良いよ。殺菌力でいえば、お日様が最強だから。』

 「それは、もしかして我々も臭いって事か?」

 『うん。』

 「誰が一番臭いとかありますか?」

 『バリアがダントツで臭い。』

 「ブホッ!?だ、ダントツぅ!?」

 『バリアってサバトン洗ってる?多分、中の革がもうボロボロなんじゃないの?』

 「何故それを!?」

 『作ってあげようか?ツイストホーンディアのお腹の革が、柔らかくて良さげだよ?』

 「作れるのですか?」

 『作った事無いけどね。』

 「お試しで作ってもらうとかは・・・」

 『じゃぁ試そうか。』

 「お願いします!」


 風呂場でキャーキャー言いながら、リンスを使ってみた面々は、風呂から上がって髪を拭く時に気が付いた。


 「すっごく、髪が艶々になってる!」

 「キシキシしないね!?」


 普段は石鹸で洗うだけなので、風呂上がりにオイルを塗っていたそうだ。

 でも、オイルを塗ると、触ると結構ベタベタしていて、油っぽさが抜けなかったそうだ。

 今回は、リンスで油を塗ったとはいえ、湯で流している為にサラサラになったのが好評だった。


 リンスは常備品となった。


 風呂場から部屋に戻る途中、すれ違う人から注目を浴びていた。


 お風呂上りに、バリアのブーツを確認させてもらったが、ボロッボロでほぼサンダルと化していた。


 『これ、既にブーツでは無くなってるな。これだったら、自動調整にして靴底をツイストホーンディアの蹄で作って、中敷にドライ付けて、温度調整だな。これを履いてみて。』

 「こんなに足大きくないですよ?」

 『自動で足のサイズに合わせるから、大丈夫だよ。』

 「では・・・、はっ!?・・・凄い、え?全然滑らないですね!」

 『サバトン付けて、ちょっと痛くないか見てくれ。』

 「大丈夫そう。」

 『じゃぁ、そのまま使っていてくれ。脱ぐときは、解除って言えば脱げるから。』


 「アルティス、私には無いのか?」

 『無いよ?皮が無い。とりあえず、ボロッちいのを優先するから、我慢して。』

 「乾燥機能と温度調整は欲しいです。」

 『うーん・・・中敷入れられるなら使えるだろうけど、多分無理でしょ?オーダーメイドでピッタリのを作ってあるから。』


 魔道具にするには、宝石か魔石が必須なので、どうしても厚みが出ちゃうんだよね。

 

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