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第88話 魔法師部隊の強化

 一つ問題がある。

 それは、あの大群が押し寄せて来る可能性だ。

 ある程度の距離が離れていれば、それなりに時間稼ぎにはなるだろう。

 だが、戦闘になった時点で気付かれてしまえば、その直後から大群がこちらに向かって押し寄せて来る事になる。

 威力偵察を行う部隊は、中隊規模でやる予定だが、その規模は1400人程度なのだ。

 その数で、数万の軍勢を押しとどめる事ができるかと言えば、かなり厳しいと言わざるを得ない。

 数は力なのだ。

 それは、どこの世界でも共通している。

 だが、それを覆す事ができない訳でも無い。

 それは、圧倒的な力があれば、それを可能にしてくれるのだ。


 『仕方ない、協力するか。』

 「ん?どうするのだ?」

 『魔法師に国宝級のスティックを渡す。』

 「以前、ペティセイン様に作ったあれか?」

 『あれは、試作品として作った奴で、レアトレントを使っているし、支給品としては使えないでしょ。トレント材を使って作ったんだよ。マリアに渡したのと同じレベルの奴を200本ほど。』

 「ほう、もしかして、トレントの盾を使って作ったのか?」

 『そうだよ。普通のドワーフや人間なら、50本が精々だけど、俺ならもっと効率よく沢山作れるからね。』


 ハーフエルフの使っていた盾を分解して、削れてささくれていた表面を削り、スティックの太さの板を切り出し、棒状に切り分けて角を削ればスティックの本体は完成だ。

 そのスティックに魔法陣を刻み、魔力の通る道筋を整え、魔力鉱石と宝石を取り付けて、効果を付与すればできあがる。

 元々がタワーシールドだったので、スティックにできる部分はかなりの量があった。

 もちろん使えない部分もある。

 使えない部分とは節のある所で、節の部分は硬さはあっても、繊維が複雑に枝分かれしており、魔力を通しても節から外に流れ出てしまうのだ。

 その、使えない部分を取り除いた後の残りの部分を使えば、200本どころか、その4倍は作れるのだ。

 ただ、時間が無かったので、魔法スティックとして完成したのが200本しか無いと言うだけだ。


 「200人にそれを使わせるという事か。大分戦力が上がるな。人選はこちらでしておこう。アルティスは、スティックを作り続けてくれ。」

 『とりあえず、全員分は無いけど、トレントを見つけてくれれば、もっと作れるよ。』

 「その捜索もやらせよう。今は、作れるだけでいい、作ってやってくれ。」

 『判った。』


 魔法師達は、元々杖を持って来ては居る。

 その杖は、冒険者だった頃に買った物や、兵士になってから自分で買ってきた物を持って来ており、国から支給された物では無いのだ。

 魔法師が使う杖というのは、普通の木材で作るのでは無く、トレント材を使わなければ効果の付与ができず、トレント以外ではとても微妙な物しか作れないので、材料となるトレント材が手に入った時にしか作れないのだ。

 しかも、剣とは違い、一度魔力を通すと、その個人の魔力の癖が付いてしまい、他の人には使い辛い物になってしまう為、たとえ量産品と言えども、一度持たせたらその人専用になってしまい、兵士達には支給できていないのだ。

 これが、騎士団の魔法師であれば、それなりのMAGと実力があるので、専用の杖を支給する事に問題は無いのだが、実力が備わっていない兵士にそれを支給する事には、やはり抵抗があるのだ。

 その抵抗の原因となるのは、やはりMAGの低さにあり、威力が増幅される装備を渡すと、その威力に満足してしまい、成長が止まる傾向にあるのだ。

 その慢心は、戦場に於いては命取りと言えるので、成長を止めない為にも市販されている杖を自分で探し選んだ物を使って、自分自身で鍛錬をして貰うのだ。

 つまり、ある程度の実力が無い者が、強い武器を持つと成長を止めてしまい、育たなくなるという事だ。

 それは、剣士やタンクにも言える事であり、その為に兵士には普通の剣よりも切れるが、それ程でも無い剣を渡してあるのだ。

 基準は、ワイバーンの皮をどの程度の力で切れるかどうかで決めている。

 幹部の剣は、ウーリャとウルファを除いた全員が、ドラゴンの皮を切れる程度の物を渡してあるよ。

 ウーリャは、未だ実力不足なので、騎士と同じ剣を渡してあり、ウルファは信頼が失墜中なので、木剣だよ。

 あれからウルファは、ストイックに鍛錬に励んでいるので、木剣でプレートメイルを真っ二つにできるらしいのだが、当分は渡すつもりは無い。

 それだけ、失った信用を取り戻すのは難しいって事だよ。


 スティックを作る為に、輜重部隊の荷車に移動しようとしたら、魔法師達が集まって来た。


 「あの、アルティス様。私の杖はトレント材でできているのですが、これを材料に作れませんか?」

 「私の杖もトレント材なので、使っちゃってください!」


 こんな感じで、50人程が集まった様だ。


 『んー、トレント材ねぇ。君等に渡した杖代で、トレント材の杖は買えないと思うけど?』

 「え?ですが、この木目はトレント材の特徴ですし、間違いなくトレント材を使っていると思います。」

 『その杖は、ミスリル銀の糸と樫木を使っていて、表面をトレント材風に加工してあるだけだね。そっちのも同じ様な加工をしているだけだな。本物のトレント材を使っているのは、この中では3人だけだな。その内の1本は、ちょっと加工するのは無理だね。どこで買ってきたんだ?』

 「どの杖の事ですか?」

 『その赤毛の子』

 「アンネリーゼの杖?」

 『その杖は大事にした方が良いな。癖は強そうだけど、実力が伴えば使いこなす事ができるだろうね。』

 「アンネリーゼ・セレビシエと申します。この杖は、祖母の使っていた杖を頂いたんです。もし必要であれば、売っても良いし、別の杖の材料にしてもいいと言われてます。」

 『セレビシエ・・・。酒蔵か?』

 「祖母の代までエールを作っていたそうです。何故判ったのですか?」

 『大事な原料だからな。まぁそれはいいとして、お婆さんから直接貰ったのか?それとも、遺品?』

 「直接頂きました。祖母は、若い頃に冒険者をやっていたそうで、その時に宝箱に入っていた杖なのだそうです。癖が強すぎて、全然制御できなかったそうで、私が使えばそこそこ使えるので、使って欲しいと。」

 『そうか。ブックメーカーって知ってるか?』

 「知ってます!300年前に居た、賢者様ですよね!」

 『その杖の銘は、アロンゾ・ブックメーカー。その賢者と呼ばれた魔術師が使っていた杖だな。優れた魔術師が長く使っていると、杖が意志を持つと言われているが、正にその杖が意志を持っている杖だな。まだ君の実力に不満を抱いているから、本来の実力の1%しか引き出せていないんだよ。しかも、その杖の材質は、エンシェントトレントだ。とてもじゃないが、スティックの材料として使える物では無いな。』


 アンネリーゼの目が点になっているが、それは仕方ないだろう。

 アロンゾ・ブックメーカーという人物は、バネナ王国の図書館の司書をしていた魔法師で、図書館に所蔵されていた魔法書を全て読みつくした事で、その時代の世界最高峰の魔術師として祭り上げられた人物だ。

 知識だけは凄かったらしく、賢者とも言われており、本人は魔法の研究者だと言っていたが、周りがどんどん持て(はや)して、賢者とか魔術師という名声だけが独り歩きしてしまい、最後はダンジョンに行かされて、そのまま行方不明になってしまった、ある意味不幸な人だ。

 まぁ、本で読んだ魔法を色々試している内に、MAGが500近くまで上がっていたのも原因ではあるのだが、いくらMAGが高くても、研究者がダンジョン攻略などできる訳も無く、中に入ったまま出て来る事は無かったのだろう。

 ダンジョンに入った時の年齢も60代だった様だし、その時代ではもう、老人の域に入っていたくらいの年齢なのに、無理やり行かせるなんて酷い奴ばかりだったんだろうね。

 杖は、若い頃に(のみ)の市で購入したらしく、銀貨1枚で買ったと言っていたそうだ。

 その杖をずっと使い続けていた事で、杖に八百万(やおよろず)の神の一柱が宿ったのだろう。

 アンネリーゼの祖母がその杖を手に入れた様だが、反りが合わなかったのか、全く使えなかったそうだ。

 だが、祖母の家にあったその杖を、遊びに行く度に触ったり話しかけたりしている内に、杖に宿る神に気に入られたのか、少しだけ使える様になった様だ。

 杖の材質は、最高峰とまでは行かないにしても、超レアな素材ではあるので、ポテンシャルは高いのだが、扱う人を選ぶのだろう。

 アンネリーゼが成長するまで、杖に宿る神が保護しているのかもしれないな。


 「わ、私が強くなれば、使いこなせる様になるのですか?」

 『そうだな、MAGが少なくとも500を越えれば、そこそこ。1000を越えれば大分。2000を越えれば完璧って感じじゃないか?まあ頑張って使いこなせる様になれ。ちなみに、その杖はアンネリーゼ以外には使えない。他の奴は、この杖が誰かに奪われない様に、気をかけてやれ。』

 「頑張ります!」

 『で、他の2本の方だが、一応トレント材ではあるんだが、安かったんだろ?それはな、節があるから安かったんだよ。その節から込めた魔力が抜けて行くから、杖としてはほぼ使えない杖だな。スティックにしてやろう。』


 二人の魔法師が持っているトレント材の杖は、丁度持ち手のすぐ上に節があり、魔力を込めても半分以上がそこから抜けてしまう為に、威力を上げる事が難しい杖になっていた様だ。

 持っている二人は、かなり頑張って練習していた様で、MAGが既に600に達しており、トレント材の杖を使っているのに威力が出ない事に悩んでいた様だ。


 「節?この丸い部分の事ですか?これのせいで、威力が落ちていたという事ですか!?」

 『そうだよ。この節と言う部分は、枝が伸びていた根元の部分だよ。つまり、このすぐ下で節の方に流れる筋と先端に流れる筋に分かれる分岐点があって、魔力を込めても半分以上が漏れ出ていたって事だ。まあ、その分頑張ってMAGを上げていたんだろうから、君らの実力を上げるいい材料になったという事だな。』

 「そんなぁ・・・」


 二人は、悩みの種が杖にあったと知って、へたり込んでしまった。

 この二人は、杖を見た時に、この節の部分の模様が、趣があってカッコイイと思っていたのだそうだ。

 そのカッコイイと思っていた模様は、テーブルや別の物に付いている分には問題が無いのだが、魔法との相性で言えば最悪になるという事は、割と知られている筈なのだが、こいつ等は知らなかった様だ。


 『お前等は、ちゃんと調べるって事を覚えろよ。悩みがあるのなら、周りの奴に相談しろ。周りの奴は、節が原因だと知っているのなら、正直に教えてやれ。同じ組織に属している好敵手(ライバル)は、敵じゃない。貶めるのではなく、共に切磋琢磨して競い合え。その程度の事ができ無ければ、どう足掻(あが)いても好敵手には勝てない。同じ土俵で競い合ってこその好敵手だ。』


 好敵手というのは、自分の力量と拮抗している相手を、力量で上回る為の指標とする事であり、(おとし)める相手は好敵手では無く、敵である。

 アルティスの考えでは、好敵手との戦いで、戦術で勝ったならば勝ちとして認めるが、罠に嵌めて勝ったのならば、それは負けと同義なのだ。

 例えば、商人の好敵手であれば、機を見る勘や観察眼、行動力や根回しで上回れば勝ちだが、盗賊やゴロツキに襲わせたり、嘘の悪評で貶めたりした場合は負け。

 バネナ王国魔法師団内であれば、同じ土俵に立って、戦果で競い合うのは好敵手だが、間違いを正さず、陰でコソコソとあざ笑うのは、ただの敵だ。

 もちろん、武器の良し悪しを見極めるのも力量の一つではあるが、折角同じ土俵の上に立てるのに、それを最大限に利用しないのは勿体(もったい)ないと思っている。

 更に、間違いを間違いだと指摘してやる事は、どんなに小さな事だとしても、精神的優位につくチャンスでもあるのだ。

 例え、もの凄く鈍感で、不利を不利と思わない相手だとしても、自分が有利になる為に言葉を選んで伝えるのも、一つの力量と言えるのだ。

 ただ、騙すという訳では無く、あくまでも自分が成長する為に利用するだけで、当然仲間にも強くなってもらわなければならない。

 その貴重な競い合いを自己満足で終わらせる行為は、自分自身の成長を妨げるし、いざ戦場に立った時に自分の命を危機に曝す、最悪の行為だと思う。

 訓練とは、自分自身と仲間との連携を強化し、協力して自分の命を守る為の練習の場だ。

 練習していない事は、実戦ではできないし、咄嗟の時に力を発揮する事もできないのだ。

 鍛錬と言う戦場でも、実際の戦場でも、最大の敵は自分自身なのだ。


 アルティスの指摘によって、(うつむ)いた魔法師が約半数いた。


 『俯いた奴らは、自覚ありって事だな。自分の持っている杖を見てみろ。トレント風の装飾を付けた杖に騙されながら、節のあるトレントの杖をあざ笑う自分をどう思う?ここにいるのは、仲間だ。敵じゃない、仲間だ。これから、ゴブリンの大群に立ち向かい、攻め込まれた時にお前等は、仲間を助ける事ができるのか?目の前でゴブリンに襲われる仲間を見て、傍観するか助けるかは自分で考えるとして、その一歩先をどう見るか、それができないお前等には、スティックは渡せないな。心が未熟過ぎる。ここは戦場だ、目の前の敵を倒さなければ、自分も死ぬ。どうすれば助かるのか、よく考えて行動しろ。』


 話ながら杖を切り分け、1本の杖から10本のスティックを作り上げた。

 魔法師の中には、魔道具に興味のある者が少なからず居る。

 だから、判り易く目の前で作り上げたのだ。

 いきなりアルティスの様に作るのは無理だが、方法を知るという事は、それが目標になるという事だ。

 説明した訳では無いが、やり方を真似するのであれば、一つ一つ習得する為に努力するだろう。

 その中で、どうしても判らない部分があれば、その時に聞きに来ればいいだけなのだ。

 魔道具作りを目指すのであれば、本を読み、勉強して覚えるだろうし、技術を覚えるには、やれない事を練習するのではなく、やれる事からコツコツと練習するしかないのだ。

 王都で魔道具を作り続けている魔道具部隊は、元々錬金術を使って、自分用のアクセサリーやポーションを作っていた者を採用して設立した。

 基本的な錬金術を知っていて、金属の加工ができる者を採用したのだ。

 彼等は、防具を装着するのを補助するような金具や、ちょっとしたアクセサリーを作って、身に着けていた。

 王都に来るまでは、洒落っ気のある奴だと思うだけで、特に何とも思っていなかったのだが、魔道具を大量に作る必要性が出て来た為に、錬金術の使える者を募っていた。

 とっかかりは何でもいいし、少しでも興味を持ってくれれば、後は実行するだけだ。

 錬金術は魔法の一種だから、MAGを育てるには最適だし、軍を退役したとしても、市井(しせい)でお金を稼ぐ手段にもなるのだから、覚えても損は無い筈だ。

 その技術が他国に流れたとしても、バネナ王国で作製した武器が他国に流れるのは時間の問題で、秘匿する技術の流出だけを押さえておけば、特に問題は無いと考えている。

 その秘匿する技術は、今の所は特に無い。

 というより、技術があっても、材料が無ければ実現するのが難しいのだ。

 例えば、ドラゴンの素材を使った剣の場合は、当然ドラゴンの素材が無ければ作れない。

 ロックリザードの鱗を加工して作るスケイルメイルにしても、オリハルコンを使っても穴を開ける事ができない為、更に高価なアダマンタイトやヒヒイロカネ、アボイタカラ等の道具が必要になり、その道具を作れる者がエルダードワーフ以外に居ないので、作れない。

 ワイバーンの素材を使った装備にしても、そもそもの話、ワイバーンを狩れる者が殆ど居ないのだ。

 将来的に他国に狩れる者が出て来たとしても、その素材を活用する事ができるのは、貴族の子女や護衛、又は高ランクの冒険者にしか行き渡らず、戦場で使える様になるには、数十年はかかるだろう。

 その頃には、バネナ王国軍の装備は、それを遥かに超える性能になっているだろう。

 つまり、現時点で秘匿する必要が、殆ど無いと言えるのだ。


 「その加工技術は、秘匿しなくてもいいのですか?」

 『この程度の事も思いつかないのであれば、それ以上の技術に発展させる事なんて無理だろ。たかが細い棒を作るだけなのに、薪の様な太い木をドローイングナイフで削ってる様な奴は、効率性なんて微塵も考えて無いだろうし、実物を見てもどうやったのかなんて理解できないだろうよ。』

 「はぁ。」


 通常、木材と言うのは、木目が一直線になっている物は殆ど無い。

 木目という物は、北側は狭く、南側は広くなっていて、風向きや生えている場所の傾斜、日当たりの具合によっても変わってくる。

 木目を強調した家具を見ても、集成材か職人による物でも無い限り、一直線に走る木目なんて物は無いだろう。

 それは、トレントについても同じで、トレントは通常動き回る事は稀で、殆どは待ち伏せで魔獣や小動物を狩る為、日当たりの具合や傾斜などが原因で、木目が傾斜している事が殆どだ。

 特に、正面には顔に見える節があり、その周囲の木目は複雑に入り組んでいる。

 だが、その中心には魔石があり、普通はその魔石を狙う事で倒せるので、顔の周辺は木材として出回る事が無い。

 それ以外の場所を木材として利用するのだが、低木や成長の遅い木がトレントになった場合、節のあるトレント材として低価格で出回る事があるのだ。

 節の周囲は硬いし、加工するのも難しいのでやらないが、節の無いトレント材で杖やスティックを作る場合は、木目を錬金術で揃えて、真っ直ぐに修正しながら削り出して行くのだ。

 木目に沿って作るのは、木材と言うのは細い管の集合体で、その管の中を栄養や水分が流れていた為に、乾燥して縮んだトレント材もその管の流れに沿って魔力が流れやすくなっているからだ。

 そして、スティックというのは、破損防止と魔法陣の隠蔽の為に、表面にコーティングを施すので、普通は木目が見えないのだ。

 だから、魔石を使って魔力の流れを確認するのが、買う時の常識だ。

 万が一、自分の魔力を流してしまうと、どんなに粗悪品だとしても購入しなくてはならなくなるのだ。


 『隊長は、自分の部下にスティックの買い方をちゃんと教えてやれ。貴族家出身の者は、自分で買いに行った事が無いから、買い方を知らない奴が多いんだよ。そういう細かい事もちゃんとケアしてやらないと、お前の評価がどんどん下がって行くだけだぞ?』

 「言ったのですが、必要無いと押し切られてしまいまして・・・。」

 『そんな事で引き下がるなよ。国の金を使って買うんだから、物知らずのゴミみたいなプライドを尊重するんじゃなくて、ちゃんとお前の管理下で買わせろ。若しくは、お前が買って支給しろ。買う金はお前が受け取ったんだろ?』

 「も、申し訳ありません。」


 魔法師達の杖やスティックの購入資金は、個別に配布している訳では無く、隊長に一括で渡している。

 隊長が自分用の高級品を購入した事例もあるが、渡す時に全員分という事を伝えてあるので、多少の増減はあっても、大幅な増額の申請があった場合は、細かく調査している。

 その高級品を購入した隊長は、横領として降格後、捕縛して今は奴隷部隊にいる。

 部下を(ないがし)ろにする隊長など、百害あって一利無しだ。

 この世界では、誰でも鍛えれば魔法を使う事ができるのだが、平民は生活に余裕が無かった為に、魔法を学ぶ機会が無く、冒険者にでもならなければ、魔法師になれる者が殆ど居ないのが実情だ。

 ただMAGを伸ばせばいいという訳でも無く、魔法への理解度も必要なのだ。

 知識が無ければ、新しい魔法を覚えられず、知恵が無ければ、違う魔法を覚えようともしないのだ。

 だから、必然的に冒険者と貴族子女ばかりが魔法師部隊になり、貴族という立場を特別視して図に乗る奴が多いのだ。

 流石に貴族派には成らなかった様だが、少なからずとも、多少の優遇は許されると思っている連中は多い。

 何度もそんな優遇措置は無いと説明しても、一向に治る気配が無いのだ。

 そして、ここにいる50人の内、49人が貴族子女という状況なのだ。

 残る一人は隊長で、元冒険者だ。


 『もう一度言っておくが、貴族子女だからといって、優遇されるなんて事は無い。貴様等は全員兵士であり、我が軍は完全実力主義だ。だから、兵士である以上は、平民出身の者よりも装備が優遇される事は無い。いい装備が欲しいのなら、実力を付けて騎士団に入れ。下らないプライドで、国の金を無駄遣いする者は、今後は全員処罰する。判ったら、隊長の指示に従え。』

 「はい。」


 今回の件で判った事は、トレント風木材の杖を使っている者が、少なからずいるという事が判明したのだ。

 全員の杖を確認した方が良さそうだな。

 魔法師の数は2000人も居るのだが、特製スティックを渡せるのは800人程度しか居ない。

 元冒険者の魔法師は、高級品であるトレント材の杖を持っている者は少ないという事は判っている。

 安物の杖は、トレントでは無く、キラーソーンという茨状の魔物の蔓を加工して作っている物が多く、棘を取り除いて3本を縒り合わせて1本の杖にしてあったり、1本を真っ直ぐに伸ばしてある物も多い。

 総じて折れやすく、普通の木よりは魔力の通りが良いという程度で、あまりお勧めできる物では無い。

 だが、値段が安く、低級冒険者でも買える程の金額な為、持っている者も多いのだ。

 貴族子女の持っていた、普通の木材にミスリルの線を通した杖とどちらが良いかと言えば、ミスリルを使っている分、貴族子女の持っていた杖の方がまだマシと言える。

 ただ、先端についている魔石がオークの魔石程度の為、火力的にはイマイチと言わざるを得ない。


 『あるじ、魔法師部隊のスティックを渡さない人の杖をチェックしたい。』

 『どうしたんだ?』

 『スティックの材料として杖を提供しようとした連中の杖が、殆ど詐欺商品だったから、他の人の杖もチェックしておいた方が良さそうなんだよね。』

 『判った。そっちに行かせよう。もし、偽物を使っていたらどうするんだ?』

 『んー、トレントが見つかるまで戦力外かな。』

 『それは困るな。先の戦闘では、そこそこ戦えていた筈だが、それでも難しいのか?』

 『下手すると、暴発するよ?』

 『それは困る。何とかならないか?』

 『アラクネと候補生達に、トレントを探してもらうしかないね。』

 『直ぐに手配しよう。』


 遠征から戻ったら、スティックは全て回収するつもりだよ。

 彼等にはまだまだ成長してもらいたいからね。

 だが、今回のゴブリンの数は想像以上だったから、能力を底上げする必要があると感じたんだ。

 今のままでは、ゴブリンの相手だけで、半減しかねないからね。

 とはいえ、トレントなんてそうそう見つかる魔獣でも無いんだよね。

 トレントが多い森は確かにあるが、そういう所には、ペルグランデスースの様な大型の魔獣が少ないという特徴があるのだ。

 何故なら、ペルグランデスースの様な大型の魔獣は、多少の大木程度なら簡単に折ってしまう程に力があり、獲物を追いかける時にポキポキと木々を薙ぎ倒しながら進むので、トレントがその進路上に居れば、簡単に跳ね飛ばされてしまうのだ。

 ただ、人の手が入っていない森には、トレントが発生する条件が揃っている事も多いのも事実ではある。

 トレントの発生しやすい森とは、マナの濃度が濃い森の事を言うのだ。

 だから、この森もトレントが発生しやすい森なのだが、天敵とも言える魔獣がウヨウヨいる為に、数が少ないのだと思う。

 昨日見たエンシェントトレントは、幾度となく襲い掛かる魔獣から逃れ続けた、奇跡の一本と言える存在なのだろう。

 因みに、そのエンシェントトレントは、ゴブリンの死体の上に移動して、忙しなく枝を動かしていたので、上と下から大量に吸収しているのだと思う。

 トレントの体内に内臓と呼べる物は存在しないが、口はあるから、中で磨り潰して吸収するとか、内側から溶かして吸うとかしているのだろう。

 想像するとかなりエグイ感じに思えるが、割と植物や昆虫の世界では、普通の食べ方だったりする。

 例えば、前の世界では、ハエトリグサやモウセンゴケなんかは、消化液を使って溶かしてから吸収していたし、昆虫ならハエや蜘蛛が消化液を注入したりして、溶かして食べていた。

 こちらの世界では、魔獣化した植物は、生きた動物や死骸を丸呑みして、体内で消化吸収する物が多い。

 草花が歩き回って、口から丸呑みするのだが、口は花の部分にある物も居るが、別の所にある物も多い。

 例えば、イカやタコの様に足の付け根にあったり、胴体にあったりと様々だ。

 形も水仙の様な場合や、(よもぎ)の様な形だったり、ラフレシアの様な感じだったりと様々だ。

 蓬に似た奴は、葉の先が全て小さな口になっていて、少しずつ削り取られて行くという、一番襲われたくない相手だ。

 そういう意味で、付いた名前がリビングナイトメア、正に悪夢の様な光景なのだろう。


 『そんな感じの奴が、海洋生物に居た気がするな。』

 「何ですか?」


 独り言を呟いたら、いつの間にか傍にいたリズに聞こえてしまった様だ。


 『何でもない。』

 「そうですか。完成したスティックはこれですか?全部持って行きますね。それと、魔法師達が待っていますよ?」

 『あぁ、そうだな。全員、杖を掲げてくれ。』


 魔法師達が杖を上に掲げると、それぞれの杖の情報が見える様になった。

 数人の杖が高性能の様だ。


 『スコット、アイン、ボース、ヒース、シャーリー、ファミル、君等は戻っていい。』

 「了解。」


 6人は、理由が判っている様で、何も言わずに戻って行った。


 『ユート・カサザキ、ちょっとこっちに来てくれ。』


 一人、日本人の様な名前だったので、呼んでみた。


 「何でしょうか?」

 『スカイツリー、福沢諭吉、伊藤博文、聖徳太子、聞き覚えは?』


 一言一言に無表情ながらも、眼球がビクビクと反応した。

 日本語で話しかけた事に気付いていない様だが、それはともかくとして、隠そうとする意図が判らないな。


 「わ、判りません。ある様な無い様な、よく解らない響きに聞こえます。」

 『そうか、知ってるのか。何故隠そうとしているんだ?』


 目を大きく見開いて、驚いた表情になった。

 ポーカーフェイスには、程遠いな。


 「さ、さあ?な、何の事でしょうか?」

 『今もそうだが、日本語で話しかけているんだ。会話できるのだから、バレバレだろ。』

 「げ、言語理解のせいじゃ無いでしょうか?」

 『言語理解という魔法は、理解できる言語には作用しないんだよ。』

 「・・・はぁ、バレちゃったか。仕方ないですね。そうです、日本人です。隠す理由は、強くなって世界中を見て回りたいんです。だから、この世界の人達よりも優秀だからと、登用されたくないんです。」

 『そうか。それは、事務職になりたくないって事で良いんだよな?』

 「はい。」

 『人を殺した経験はあるか?』

 「ありませんよ!」

 『では、お前を登用する。』

 「え!?嫌です!事務職には戻りたくありません!」

 『事務職では無く、将来、世界中を旅する為に、特別に鍛えてやる。』

 「へ?」

 『貴様には、圧倒的に経験が不足している。日本の常識が、この世界では通用しないという事を理解できていない。魔法をメインにしているのも、直接殺したくないと思っての事だろ?一人で旅をするとして、野盗や暗殺者を殺せない様では、この世界を旅するなんて自殺行為にしかならないな。この世界に来てどれくらい経つのか知らないが、もう戻れないんだから、前の世界の常識なんて捨てろ。この世界では、人の命なんて軽いんだよ。だから、自分の身を守れる程度には、鍛えてやる。』


 平和ボケした連中には、兵士になった意味が判っていない奴が多い。

 兵士というのは、自由意思を奪われるという事で、そう遠くない未来に人を殺せと命令されるという事。

 自分の意思では無く、他人の都合によって人を(あや)めるという事が、どれだけ自分の心を傷つけるのかを理解していない。

 前の世界の常識を捨て去るには、自分の意思で打ち勝つしかないのだ。

 殺める理由が、仕方なくでも無く、快楽でも無く、自分や他人を守る為に必要な事として、覚悟を決める必要があるのだ。

 その強い心を鍛え上げる事ができるかどうかは判らないが、元同じ世界の住人として、手伝ってやろうと思っただけだ。

 傲慢?上等だよ。

 人の上に立つ者として、多少傲慢にならなくては、命令なんてできる訳が無い。

 その傲慢さを履き違えなければいいだけだ。

 人を虐げる傲慢さと、人を育てる傲慢さは、似ているが全くの別物なんだよ。

 以前、同郷の者を見ても何もしないと言っていたが、こいつを見て考えが変わった。

 放置していれば、こいつは近い内に死ぬ。

 そもそも、この世界の常識がこいつには無いのだから、教えてやらないとね。


 「ぼ、僕は何をすれば・・・?」

 『その杖、自作したのか?トレントを使っているが、魔法の杖としては最低ランクだ。宝の持ち腐れと言う奴だな。修正してやるから、俺の前に置け。』


 ユートの使っている杖は、杖と言うよりトレントの棒だな。

 トレント材というのは、普通の木材よりも硬い為、ナイフで削るのは至難の業なのだ。

 武器職人は、ドローイングナイフの様な両手持ちのナイフで、体重をかけて削っている。

 その硬さは、太さ2センチの棒に、フルプレートの兵士が3人はぶら下がれる程で、鉄より硬いのだ。

 だから、片手で扱うナイフ程度では傷つける事すらできず、落ちていたトレント材をそのまま使っていたのだろう。

 だが、いくらトレント材と言えども、普通の木よりは魔力の通りが良い程度でしか無く、魔法の杖として使うには、加工しなくてはならない。


 「は、はい。」

 『[アナリシス][アルケミー・アジャスト][アルケミー・アレンジ]』

 「それは、錬金術ですか?使っているのを初めて見ました!錬金術って、金も作れますか?」

 『鉄を金に変えるという意味でなら、ノー。鉄の中から金を取り出すという意味なら、イエス。』


 錬金術というのは、元々は金では無い物質を金に変えるという妄想から始まった。

 その過程で、様々な化学物質が生成され、鉱物の中から金属を取り出す技術が発展した。

 それは前の世界での話ではあるが、こちらの世界でも動機はほぼ一緒であり、違うのは魔法を使うという事だけだ。

 この錬金術が無ければ、ミスリルも見つからないし、オリハルコンやアダマンタイトも見つかっていなかった。

 錬金術が衰退した原因もほぼ同じと言って良く、偽の金、黄鉄や黄銅を作って詐欺を働く者が出て来て、厄介者や変人扱いされる様になり、衰退した。

 過去にあった国では、禁忌とされていた事もあった様だ。

 それを誇張して広めたのが魔族であり、詐欺とは関係の無い薬師までもが駆逐されてしまったのだ。


 「僕にもできますか?」

 『やらせるつもりだが?使えないとポーションが作れないからな。』

 「僕がこの世界に来た直後にお世話になった村では、搾り汁を使っていましたよ?」

 『それは、錬金術での製法を道具を使ってできる様にしただけだな。だが、清潔では無い道具を使う事で、長持ちしなくなるし、濃縮もされないから効果も薄い。劣化ポーションの作り方だな。』

 「確かに、作ってから1週間くらいで、毒に変わってました。」

 『それは、MPポーションの話だろ?あれは毒草だからな。毒の強さとしては弱いが、清潔では無い容器に入れて、常温で放置していると、激しい下痢と嘔吐に見舞われて、脱水症状で死に至る事もある。原因は、細菌感染だな。それを防ぐ為にポーションは錬金術で作るんだよ。』

 「錬金術を使えば、防げるという事ですか?」

 『支給したポーションは、古い物なら既に3カ月は経っている。』

 「・・・え?」

 『この世界にも細菌は普通に居るし、魔力を持っている分、前の世界よりも強力だ。O157で無くても、簡単に人が死ぬ程に強力なんだよ。だからこの世界の人々は、免疫力が異様に高いし、衛生環境が雑でも生きていられるんだ。その辺に生えている草を食っても、多少の下痢程度で済んでいるのは、その証拠だな。世界を渡った時に、お前自身にもその免疫能力が身に着いてはいるが、大増殖した細菌を口にすれば、普通に死ぬ。だから腐らない様に浄化された水を使って、浄化した容器に入れる必要があるんだよ。だが、村で作るポーションは、汚れた布を使いまわして、殺菌もしていない容器に入れてたんだろ?そりゃ腐るのも当然の話だろ。』

 「だからこの軍では、訓練の後に必ずお風呂に入ってから食事すると。衛生環境を整えているのは、その為なんですね。」

 『そうだ。この世界は、怪我には強いが、病気には弱いからな。』

 「まだまだ知らない事ばかりですね。」

 『その為の登用だ。この世界での生き方を教えてやる。それを知らなければ、旅をするなんて事はできないし、山に入って1日も生きられないだろうな。』

 「ラノベとは違うと。」

 『当たり前だろ?あんなサバイバル術のサの字も考慮されて無い内容が、現実で通用する訳無いだろ。』

 「あはは・・・。」


 それ以外にも、グリ何とかさんがサバイバルの番組でゲテモノを食べたりしていたが、あれは専門家の指導の上、極限状態に陥った時に生き延びる方法として紹介している番組であり、あくまでも人里にたどり着くまでの命を繋ぐ事が前提条件にあった。

 動画サイトでも、無人島で何日間とかナイフ一本で上陸して、なんやかんややっていたが、あれだって数日間を過ごすという保険の上でやっていた事だ。

 前提条件として、魚を獲る為の銛があり、事前にその場所の植生の知識を得た上で、そこに行って数日間のブッシュクラフトをしているだけだ。

 そもそも、それが終われば病院に行くという安心感があり、ずっとそこで生活しなければならないという訳では無い。

 特に、時々ラノベやアニメで、川の水を口を川に入れて飲むという描写があったりするのだが、全然知らない土地の川に顔を突っ込んで飲むなんて、命知らずにも程がある。

 どんな場合でも、水を飲む時は手で掬うか、何かの容器に移し替えてから飲むのが鉄則だ。

 何故なら、その川にピラニアが居たら?カンディルの様な魚が居たら?巨大なナマズが居たら?顔を突っ込んだら、水中のワニと目が合いましたでは、シャレにならないんだよ。

 だが、可能性は多分にあるのだ。

 実際に、血以外に反応する魚も居るし、待ち伏せて人や動物を丸飲みにする魚や爬虫類もいる。

 それらの可能性を全く考えず、知らない土地の川で、首を突っ込んで水を飲むとか、アホじゃないかと思って観ていた。

 酷い奴だと、直前に魔獣に襲われて、命からがら逃げ延びた先にあった水辺の水を、手で掬う事無くそのまま飲むとか、その手の知識の無い主人公の演出だとしても、野生動物の様に直接飲むとか、本当に人間なのか疑ってしまう。

 その危険性たるや、池や泉だとすれば、田んぼの水をそのまま飲むのと何も変わらないのだ。

 他にも、鑑定した訳でも無いのに、見知らぬ茸を食べるとか、加熱しないで茸を食べるとか、意味が判らん。

 茸ってのは、生ではシイタケやシメジでも毒があるんだよ。

 極々弱い毒性ではあっても、薬も無く、医者も居ない森の中で下痢になれば、ただの下痢で死んでしまう可能性だってあるんだよ。

 野生動物が食べていれば平気、そんな物は只の妄想に過ぎない。

 例えば、リスがタマゴテング茸をムシャムシャ食べていたのが目撃された事もあるし、人には毒になる葉を食べる奴もいる。

 コアラの事だが。

 そもそも、人間と動物は違うんだよ。

 まぁ、ラノベの中にも、サバイバル知識のある物もあったよ。

 もの凄く少ないけどね。


 「何か、イライラしてませんか?」

 『あぁ、すまん。ちょっと前の世界での事を思い出してな。』

 「はぁ、サバイバル知識についてですか?」

 『そうだな。』

 「僕も、この世界に来た直後に洗礼を受けましたよ。川の水を飲んで、お腹を壊しましたし、巨大な魚に襲われそうにもなりました。美味しそうな鱒みたいな魚を獲ったら、歯がピラニアみたいな感じで、驚きましたし。」

 

 ここに被害者が居た。


 『取敢えず、杖は作った。それ持って戻れ。』

 「あれ?鍛えてくれるのでは無いんですか?」

 『それは戻ってからの話だ。今はそんな事をしている暇は無い。生き残れよ。』

 「はひ。」


 優遇してもらえるとでも思っていた様だが、特別待遇とはブートキャンプの事だから、本人にとっては優遇とは違う物になるな。

 次はどいつにしようか・・・、もう一人見つけた。


 『マサル・スズキ、こっちに来い。』


 今度はニッコニコだな。

 保護してもらえるとでも思っているのか?


 「俺、日本から来ました。こんな世界に放り込まれて、困ってたんっすよね。いやぁー、宰相様が元日本人だと聞いた時は、驚きましたよ。色々と手を尽くして、どうにか会えないかと思って居たんですが、兵士募集と聞いて、見つけて貰えばワンチャンあると思ってました!」

 『そうか。お前、この世界に来て何年経つ?』

 「えっと、3年くらいっすね。」

 『そうか。じゃぁ、手伝う必要は無いな。杖も良い物持ってる・・・が、その杖はお前の物では無いな。誰から奪ったんだ?』

 「え?いやぁ、すぐ隣に居た女が、自分の杖を俺にくれるって言うもんだから、貰ったんっすよ!」

 『リズ』

 「はっ。」

 ズダーン!

 パチン


 リズが背負い投げで地面に叩きつけ、首にパッチンバンドを打ち付けた。


 「な、何でだよ!?」

 『魔法師が自分の愛用の杖を他人に渡す訳無いだろ。ソフティー、探して。』

 『あいさー!』

 「くそっ!上手く取り入れれば、裕福に暮らせると思ったのに!」

 『努力しない奴と犯罪者に裕福な生活なんぞできる訳無えだろ。詐欺、恐喝、殺人、お前は重犯罪奴隷行きだ。連れて行け。』

 「はっ。」

 『アルティス、見つけて来たよー。重症だったから、ポーション飲ませた。』

 『どこに居たの?』

 『昨日のゴブリンを狩った所にテントが一つ残ってて、その中に居た。』

 『テントの持ち主は、この娘か。[アンチカース]誰かに呪われていた様だ。転生者・・・案外多いな。名前はステファニー・ナジェリアか。貴族子女だが、ナジェリア家というのは、聞いた事が無いな。』

 「没落した家では?」

 『没落すると、家名が消える筈なんだよな。この娘が継承者か、他国の貴族かだな。』

 「とりあえず、気が付くまで休ませましょう。」

 『杖、これを傍に置いておいてくれ。特別な杖だから・・・ん?あぁ、そう言う事か。[アナライズ]難病か。万能薬の5を飲ませて、寝かせておいてくれ。』

 「了解」


 万能薬の5は、主に内臓疾患に効果を持つ万能薬で、ドラゴンの素材を使わなければ作れないと言われている薬だ。

 実際は、そんな物が無くても作れるのだが、特効性という面で見れば、ドラゴンの素材を使った方が治りが早い。

 殆どの患者は、生活習慣病の者ばかりなので、そういう者には絶対に飲ませるなと言ってある。

 どうせ治っても、また元の生活に戻るだけなのだから、治すだけ無駄という事だ。

 治してやるのは、先天性や別の病気が原因の場合だけだな。


 『気が付くまで他の連中の方をやってしまうか。』


 確認してみた結果から言えば、元冒険者の杖は初級用の物が多く、騙されたと主張する馬鹿が数名居た。

 貴族子女の方については、半数が騙された系で、半数が扱いきれていない上級者用の杖を使っていた。

 上級者用の杖というのは、尖がった性能の杖で、風属性には強いが水は駄目とか、火属性は使えるが火炎属性は使えないとか、よく解らない物が多い。

 属性を伸ばすよりも、補助してやる方に力を使えばいいのに、何故か一つの属性だけ強力なのが撃てるという物が多いのだ。

 自分の得意な属性が強ければいいが、そうで無い物に当たると、全然使えない物になってしまうのだ。

 なので、その尖った性能を修正して、能力値の補助を強化する様に変えてやった。

 で、一人だけ杖に呪いが掛かっている者が居たので、色々聞いてみた。


 『お前の杖に呪いが掛かっているんだが、何か心当たりは無いか?』

 「去年、占い師が私の杖が呪われているので、浄化してやると言われて・・・。」

 『そいつが呪った訳では無い様だな。この呪いは、もっと昔にかけられた呪いだ。お前の家に伝承が残っていないか?』

 「は、母のご先祖様が有名な魔法師だったそうで、その・・・死ぬ直前に杖に呪いをかけたと言われてます。」

 『家宝として残すのなら問題無いが、売り渡そうとすると呪われるとかか。ワラビに解いてもらうか。家名、全然違うんだろ?それが原因で、本領を発揮できなくなっているんだよな。物としては凄くいい杖なんだが、その呪いのせいで、家名を引き継げなくなったみたいだな。お前の家って、女しか生まれないだろ?そんで、この杖は女性専用、つまり養子縁組で男の当主に引き継いでも、当主には使えず、正当な血筋の者にしか真面に使えないという制約がかかっている。で、お前には、その血筋が無いという事だ。』


 杖にかかっている呪いとは、カーライン家の血筋以外の者が使うと、その家の子が女しか産まれなくなり、杖の使用者の能力を1割しか引き出せなくなるという物だ。

 しかも、女性専用で男が触るとライトニングが発動して、殺してしまうという恐ろしい物だ。

 カーラインという名前を見た事が無いのだが、過去にそこそこ有名になった魔法師が居たのだろう。

 その者が使っていた杖を巡って、何らかの争いや謀略があり、他者に使わせない様にする為に呪いをかけたのかもしれない。

 だが、女児しか産まれないとなると、貴族社会では血筋を残すのは、かなり難易度が高くなってしまうので、カーライン家は途絶えてしまったのだろう。

 血筋の者はどこかに居るのかもしれないが、今となっては判らずじまいという事だ。


 「多分、私の母が血筋の者だと思います。この杖を使ってトルネードを発動していましたので。母は、子供を産めない体になってしまいましたので、家を追い出されてしまい、孤児だった私を育てて下さいました。この杖は、母の形見なのです。」

 『そうか。ワラビ、杖の呪いを解きたいんだが、いい方法は無いか?』

 『現物を見てみない事には、何とも。』

 ヴン


 ワープゲートを開き、ワラビを呼び寄せた。


 「お初にお目にかかります。ワラビー・ライスケーキと申します。その杖を見させて頂いてもよろしいでしょうか。」

 「せ、聖女様!?」

 「うおおお!初めて見た!本物だ!握手して欲しいです!」

 『うるせぇ!そんなもん王都でやれ!』


 ワラワラと魔法師が集まって来ようとしたが、アルティスが怒鳴った為、離れて行った。

 今は握手会などやっている場合では無いのだ。


 「も、申し訳ありません!つい、大声を出してしまいました。杖を見て下さい。」

 「ふむ、この杖の元の持ち主は、エヴァーレイン・カーライン様ですね。二代目の聖女です。」

 『え?聖女が杖に呪いを掛けたのか?とんでもない奴だな。』

 「呪いというか、祝福です。この杖の持ち主が健やかに育ち、未来永劫聖女として活躍できる様にと願って、祝福されております。この杖は、神聖王国のカーライン家所有の国宝として保管されておりましたが、20代連続で女児しか産まれず、婿を取る事ができずにカーラレイン家に嫁ぎ、近年まで血筋を絶やす事無く続いておりました。ですが、10年程前にカーラレイン家が没落致しまして、その直前にエナメリア様が出家されたと聞いております。」

 『伝わっている話と違うが、まぁ、サリーが継承者という事になるのか。血は繋がっていないから、正当かどうかは判らないが、杖としては認められないってところか。認められない者が杖を使っている事が気に入らないから、妨害しているとか、心の狭い祝福だな。』

 バチッ

 『祝福も、1000年も経てば老害の様になるって事か。』

 「アルティス様、言い過ぎです。」

 『言い過ぎなもんかよ。血筋の最後の生き残りが残した、血は繋がってないが、愛と家名を受け継いだ後継者が頑張ろうとしているのに、邪魔しかしないなんて、耄碌し過ぎだろ?』

 バチッ

 「武器という性質上、攻撃的になるのは仕方の無い事としても、神聖王国の救国の英雄にその無礼な振る舞いは許されません。」

 『何だソレ?』

 「神聖王国としての国は無くなりましたが、人々を救済して下さいました、アルティス様は神聖王国の英雄様です。」

 『占領して障害を排除しただけだぞ?』

 「悪魔に魂を売った教皇を打倒した事には、変わりありません。」

 『ワラビが何か強くなってて悔しい。が、それどころじゃないな。今は杖をどうにかしないと、サリーが生き残れない。』

 「はい。もう大丈夫です。」

 『解呪したのか?』

 「呪いでは無いので、違います。私が祝福を上書き致しました。」

 『それって耄碌祝福の意思が残っているんじゃないのか?』

 「もう大丈夫です。意志は残っていますが、慈愛と慈悲を重んじる様に変えました。」

 『杖を洗脳とか、怖えぇな。』

 「イシス神のお力です。」

 『そ、そうか。じゃぁ、イシスの神像を埋め込んでやろう。』

 「せ、聖女様の杖になってしまったのではないのですか?」

 『それは無い。特質としては、光魔法が強くなった程度じゃないか?制限が取り払われた分、実力を発揮できる様になった筈だ。まぁ、俺からも付与してやろう。だが、過信する事無く、生き残れ。』

 「は、はい。ありがとうございます!」


 付与と言っても、元々の性能が破格だったので、自己防衛用のシールド発動くらいしか付与しなかった。

 元々の性能が魔力増幅50%と、発動効率に神聖属性保護って、どこの聖女だよ。

 あ、元々聖女の杖か。

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