第8話 快挙2連発
俺たちはタックアーンの街を出発した。本来なら朝一に出発する予定だったが、麦角への対処の為に、昼過ぎに出発となった訳だが、次の街クスノベルティの門は、6時の鐘で閉まるらしい。
急げば間に合うらしいのだけど、すれ違った商人から気になる話を聞いた。
「あんた達、クスノベルティに向かうのかい?、途中の岩場を抜ける道なんだが、魔獣が多くて抜けるの大変らしいですよ。私は迂回してきましたが、あの道を通ってきた商人は、馬車の殆どを失ったと嘆いておりましたぞ。」
聞けば、湧いているのはロックリザードだそうで、外皮が岩の様に硬くて、普通の剣で倒すのは困難なんだそうだ。
『訓練に丁度いいじゃん。』
「ちょ、アルティスさん、全然丁度良くないですよ?聞いてました?今の話。」
『全身カッチカチじゃないんでしょ?、なら軟らかい所を狙えばいいじゃん。』
「いやいや、軟らかい部分は体の下にしか無いんですよ?、どうやって狙うんですか?」
コルスが反論してくるが、いくらでもやり様はあるんじゃないか?
『目とか』
「目の周りは硬いから、目に剣を刺すと、横回転して剣を折られるんだよ」
アーリアも難しいと言ってくるが、それってちゃんと試したの?
『グッサリ刺そうとするから折られるんじゃない?横回転してくれるなら、腹を見せた瞬間を狙えば簡単だよね?』
「グッサリ刺さずにどうするんです?」
『剣先でサクッと突っついてあげれば、剣を折られずに腹を見せるんじゃない?』
俺の案を聞いて、試してみる価値はあると踏んだ様だ。
「じゃぁ私は戦力外ですね。」
『何言ってるんだよ?コルスが戦闘で活躍できる場面じゃないか!』
「なんでですか!?」
『投石で目に一撃を与えられるチャンスだろ?』
「いやいやいや、ロックリザードの目って、すごく小さいんですよ。そして、目の周りには岩の様な外皮があってですね、石では目に届かないんですよ。」
『針手に入れてたろ?』
「ギクッ、な、なんで知ってるんですか!」
『ほら、その腰の丸い筒の中に入ってるんだろ?』
「ちょ、いつの間に見たんですか!?」
『その針、ちょっと長いから、真ん中で切れば短くなって折られずに目に刺さるんじゃないの?』
「!?」
「その使い方は考えて無かったです・・・。判りました!やってやりましょう!」
『ちなみに、ロックリザードの大きさってどれくらい?』
「知らなかったんですか!?」
ロックリザードは、体長4メートル程のトカゲで、長い尻尾と噛みつき、土魔法で攻撃してくるそうだ。
倒せば硬い外皮が高値で売れるそうだが、外皮の外に付いている瘤を取り除かなければ、売れないらしい。
魔法系の冒険者には人気の獲物で、肉も高級食材として、高く売れる様だ。
肉は鶏のもも肉の様に歯ごたえしっかりの美味しい肉らしい。
『ペティも参加できるんじゃない?魔法で倒せるんでしょ?土だから、水魔法で倒せるんじゃないかな?』
「やり方知らないと難しいんじゃない?」
『簡単だよ、頭を水で包んであげれば、死ぬから。』
「高度な事を、いとも簡単に言っちゃってくれるけど、そんな事できないわよ?」
『何で?』
「ロックリザード頭って大きいんだから。」
『んー、形を知らないけど、多分、鼻がここで口がこんなで、鰐っぽくこんなでしょ?先端の鼻から、口の中に水を入れちゃえば、大丈夫だよ。』
「あー、そうね、そんな感じでいいのか。判ったわ、やってみる。」
「倒したらどんな料理になるのか楽しみだ!」
『唐揚げがいいなぁ』
「「「唐揚げ?」」」
『いや、何でも無い。狩れないんじゃ肉取れないもんね。』
「みんな!ロックリザードを必ず倒すぞ!」
「「「「「「オー!!」」」」」」
こいつら・・・ちょろい。
岩山目指して、ハイペースで進んだ。みんな凄いやる気出してるのはいいんだけど、唐揚げにするかどうかは、まだ判らないよ?香味野菜が少ないから、スパイスを使うしかないのだが、スパイスって丁度いい配合を考えないと、苦くなったり辛くなったりで美味しくならないんだよね。
カレー粉は作ったんだけどさ。
料理は今までは、アーリアが作業を手伝っていたが、実はカレンは自炊していたらしい。
遠征なんかで野外料理をする事が何度かあったが、美味しく食べたいって思ったらしく、串焼きなんかも、率先して作ってた。
遠征の時の飯が、相当不味かったんだな。
今度手伝わせてみるか。
「もうすぐ岩山に到着します!」
すげー気合入ってて、ちょっとうるさい。
岩山は、ゴツゴツしたというよりも、円錐型の岩が林立している感じで、カッパドキアだったかな?あんな感じの岩が密集している。
死角が多くて、奇襲されそうだな。
かねてより、感知系を総動員しても、何か物足りない気がしていたので、頭の中でレーダー画面の様なイメージを作り上げた。
距離については、こちらの単位はほぼ変わらず、メトルとキーロという微妙な名前だ。だから、10メートルと言っても間延びした感じに受け取れるらしい。
レーダーに魔獣が映った。
『右前方20メートルに出たぞ!』
「「「「了解!」」」」
コルス、バリア、ルース、リズの4人が前に出た。
ロックリザードが現れ、コルスが目に針を投擲するべく動く。
見た目は、口の短いワニだな。
体の瘤がボコボコしているけど、岩に擬態する為の瘤なので、丸い訳では無く、三角っぽい形をしている。
他3人は、つかず離れずの距離を保ちながら気を引いている。
ルースはマラソンで下半身を鍛え上げたので、機動性があがり、尻尾攻撃を余裕で躱している。
頭の動きを制限しながら、コルスにタゲがいかない様に、うまく動いている。
シュッ
「命中!」
コルスの針が目を貫いた。ロックリザードは右側に転がり始めた。
「せいっ!」
「やぁっ!」
バリアが喉を、リズが腹に剣を突き刺し、見事に打ち取った。
この結果を見て、他のメンバーもやる気を見せている。
とりあえず、倒したロックリザードは、血抜きをしながら、馬車の荷台が汚れない様に仰向けにして積んである。
大きさからすると、あと4匹程度しか乗ら無さそうだが、血抜きが終れば、ディメンションホールに入れるだけだ。
ロックリザードの外皮は、確かに岩の様なごつごつしたものに覆われているが、切ってみると2ミリ程の厚さのある鱗が、何枚も重なっているという事が判った。
一枚毎に剝がしてみると、半透明のアクリル板の様な材質で、剣で叩いても切れず、刺さらず、重さは羽の様に軽い不思議なものだった。
『これでスケイルメイル作ったら、全身覆ってもめちゃくちゃ軽いんじゃないか?』
「こんな素材だったなんて、知らなかった。特注で作ってもらおうかなぁ?」
売れるって話だったと聞いてみると、売れるのはこのコブを取り除いた皮であって、このコブは普通は捨てているそうだ。もったいない。
騎士でも鎧の下に貼り付けたら、防御力がめちゃ上がるぞ?
検証している間に2体目が左後方から迫ってきた。
『左後方30メートルから接近』
「「「「了解」」」」
今度は、アーリア、カレン、メビウス、ペンタの4人が向かった。
『あれ?コルスは?』
「ペンタもあれで結構やるんですよ?、まぁ見ててください」
ペンタがロックリザードの横に走っていく、他3人はけん制しながら、目を狙える様に誘導している。
ロックリザードの注意が、メビウスに向いた隙をついて、アーリアが横なぎに、目に一撃を加えた。
「はっ!」
チュィン!
目の周りの鱗に剣が擦れた音が響き、ロックリザードが左方向に転がり始めた。
仰向けになった瞬間、左腕に苦無が刺さり、地面に縫い付けた。
回転できなくなったロックリザードは、仰向けのままウネウネし始めたが、メビウスとカレンの攻撃により倒せた。
しかし、アルティスのレーダーが、今までとは違う反応を示している、敵を映していた。
『右方向20メートル!今までとは違う何かが来る!』
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
現れたのは、銀色に光るリザードで、太陽に反射して眩しい。ロックリザードと違い、どちらかというと鰐だ。
『[鑑定]!』
『ミスリルリザード!?』
「げぇ!?、やばいですよ!これ、今まで討伐記録無いんですよ!」
『何でだ?』
「硬いうえに魔法が効かないんですよ!」
『口を開けさせて中に魔法か苦無を投げ込もうぜ!』
「ええ!?、やるんですか!?」
『当然!』
「どうやって口を開けさせるんですか!?」
『ん?今開いてないか?』
ミスリルリザードは、常に口を半開きにしている様だ。
「あ、開いてますね・・・。」
『顔を上に向けさせれば、あの上あごに針いけるんじゃないか?』
「え?刺してどうするんですか?」
『6本くらい刺されば、閉じれなくなるじゃん』
「針が折れるだけじゃないですか?」
『早くやれよ!』
喋ってる間にアーリアが、顎を下から打ち上げた。
顔が上を向き、上あごにコルスの針が、ブスブスとたくさん刺さった。
針は重みで刺さってない方が下に下がり、同時にミスリルリザードが顔を地面に降ろしたが、針が舌を貫き、口をふさげなくなった様だ。
『攻撃!』
みんなが一斉に口の中に攻撃した結果、打倒したのだ。
アーリア達は、史上初ミスリルリザードの討伐を成し遂げた。
『倒したぞ!』
「「「「「「「「うぉーー!!!」」」」」」」」
コルスも両手を天に上げて、メビウスとリズが抱き合って喜んでいる。
みんな大喜びの中、俺はミスリルリザードに近づき、つついてみた。
これ、解体できるんだろうか?。
ここにミスリルリザードがいるって事は、この岩山にミスリルが埋まってるって事か?この岩山は、まだ伯爵領内だったよな。
伯爵ぼろ儲けじゃん。
『これ解体できるの?』
「「え?」」
アーリアとコルスが同時に返事した。
ミスリルって硬いんだよねぇ?
『ミスリルって硬いんでしょ?ナイフの刃通るの?』
「・・・・・無理です。」
『ナイフ作るか。全員の分作れるしな。』
「何製のを作るんですか?」
『ミスリルか、ミスリル合金』
「ミスリル・・・いやいやいやいや、普通、そんな簡単に手に入らないんですよ?」
『もう、実力も上がって来たし、既にミスリルの剣を持っててもおかしくない程の腕前になってるぞ?』
「ホントですか!?」
『メビウス以外な。』
「ガクッ・・・、俺、剣苦手なんですよ。他の武器がいいです。」
『そうだな、メビウスの動きを見ていると、苦手なのは剣術ではなくて、足の運びなんだよな。そこを覚えてしまえば、飛躍的に上がると思うんだけどな。』
「足の運び?」
『メビウスの軸足ってどっちだ?』
「じくあしって何ですか?」
『構えた時に、体重を乗せる方の足だよ。』
「えっと、左足です。」
『構えてみろ』
「はい」
『左足が前に出ているが?』
「そうですね」
『前に出した足に、体重をかけてるのか?』
「・・・いえ、右にかかってます。」
『ちょっと走ってみろ』
タタタ
『今度は右足から、前に出したぞ?』
「・・・そうですね。」
『構える時、右足を前に出して構えてみろ』
「はい・・・!?」
『気付いたか?』
「はい!」
『構える時に、変な癖がついてるから、剣を振る時に力が上手く入らないんだよ。』
「足を意識して、直せば上手くなりますかね?」
『練習しろ。戦闘の時に足なんか意識してたら、死ぬぞ?』
「がんばります!」
軸足が前に出る体制って、なんだっけ?どこかで見た覚えがあるような、無い様な。
会話を聞いていたバリアが、苦い顔をしている。
『バリア、気付いて無かったんだな。』
「はい、言われるまで気が付いていませんでした。すみません。」
『俺以外誰も気づいて無かったからな、仕方ない。だが、聞いてた者は、自分の体重移動や、足の運びを徹底的に考えろ、練習しろ。模擬戦もどんどんやれ。対人と対魔獣では、全然違う事を意識しろ。それが、お前たちが、上に上がる唯一の方法だ。ただ歩くだけでも、練習はできる。剣も槍も斧もナイフも、近接戦闘では、足の運びが重要になる。だから、がんばれ。』
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「アルティス、私の足の運びはどう思う?」
『あるじはね、体を捻る時に、膝で回ろうとする癖がついてるね。膝は捻られないから、足首と股で回る癖をつけた方がいいね。でないと、膝を壊すよ。』
ミスリルリザードは、一旦馬車に乗せて運ぶことにしたが、馬車に積んだ瞬間、ギシッと軋む音がした。金属の塊だから重いのは仕方ないが・・・大丈夫か?
今いる所は岩山だけど、勾配はそれ程でもないので、馬車は人が押して、騎士の馬も使ってやっと登り切った。
下りを見たが、緩やかで長い坂だ。
これ、無理かも・・・。
頂上から下りの方を見ている時に、背後から忍び寄って来る点が、2方向からある事に気が付いた。
『ペティ、右側4時方向から来てる奴に対処お願い。左後方7時方向30メートルにも来てるよ!』
ペティにお願いしたのは、岩がゴツゴツしている場所で、近接では対応しにくい地形だからだ。
対して、左側は、多少ゴツゴツしている物の、殆ど砂利の様な岩場なので、近接でも問題にならないのだ。
「右側の方、見えたわ![ウォーター]!」
ペティがロックリザードの頭を包み込む様に撃ち、水を避けようと横向きになった瞬間、鼻を塞ぐように水が包み込み、呼吸をしようと口が開いた瞬間に、余分の水が口の中に入って行った。
『上手く制御できてるね。もうすぐ倒せるから、維持して。』
魔法は、発動と維持にMPがそれぞれかかり、発動時にMP10消費なら、維持にはMP5が毎秒で消費される。
ペティが使ったウォーターは、初級の魔法なので、消費MPは最小の10だけど、元々は撃ち出して攻撃する魔法の為、維持するのは意外に難しかったりする。
特に、形を維持するのは、集中力を必要とする為、イメージ力と集中力、ゴリゴリ減るMPに焦らない精神力が必要とされる。
すぐ後ろでは、アーリアが固唾を飲んで見守っていた。
魔力感知の点が消えた。
『ペティ、倒したよ!』
「やりましたね!お嬢様!ロックリザードの単独撃破は、世界初ですよ!!」
『はぇ?』
何と、ペティはロックリザードの単独撃破という偉業を成し遂げてしまった様だ。
これは、近くの岩場から、ロックリザードを狩りに来ていた冒険者達も目撃しており、冒険者に同行していた魔法師も、顎が外れるくらいに口を開けて驚いていた。
この記録で凄いのは、倒したのが冒険者ではなく、伯爵令嬢であり、成人前の少女だった事だ。
「ペティセイン・ホリゾンダル様が、ロックリザードの単独撃破に成功したぞー!!」
近くに冒険者が見ているのを確認したアーリアが、ペティの偉業を宣伝した。
馬車の左後ろでは、コルス達が未だにロックリザードと戯れているのだが、倒せない敵では無いので、アルティスは放置している。
アーリアの声を聞いて、気が気ではないのだが、早く倒さんとばかりに気がはやり、バリアがミスをした。
「うわっ!」
ズザザァ
少し傾斜のある場所で、岩に躓いて転んだ。
そこに突っ込んでいくロックリザードの目を、コルスの針が狙うが、微妙にズレて外してしまった。
アルティスは、ロックリザードの動きが、バリアの方に素早く寄ったのを見て、振り向き様にバリアとロックリザードの間に水の壁を作った。
『[ウォーターウォール]』
ザアッ
「はっ!」
ザシュッ
水の壁に怯んで止まったロックリザードの目に、リズが剣を滑らせて、仰向けにさせた。
すかさずコルスの針とペンタの苦無が喉を貫き、倒せた様だ。
『何やってんの?ちょっと動揺したくらいで、無様な姿を晒していたら、命なんか幾つあっても足りないよ?何があっても冷静に、焦りは禁物だよ。焦って何かをやるよりも、落ち着いて冷静に対処する方が、早いんだからさ。』
「すみませんでした。アーリアの言葉に気を取られて、躓いてしまいました。」
「私も、焦って針を外してしまいました。」
バリアの反省に続き、コルスも反省の言葉を言った。
『油断もあったとは思うけど、今後に生かしてね。とりあえず今は、ペティの事賞賛しようよ。反省会は食事の時にでもやってくれ。』
一頻りペティの事を祝った後は、下り坂の対応だね。
『ミスリルリザードとロックリザードは、ディメンションホールに入れて行こう。軽くなったとはいえ、ブレーキ操作が重要になるから、上手く調整して進んでくれ。』
「そ、そうですね・・・」
『荷馬車の重い荷物は、全部ディメンションホールに入れてしまおう。』
「いっそのこと、暴走させた方がいいんじゃ・・・?」
『馬車が耐えられないぞ?、横転どころかバラバラに砕け散る可能性がある』
今、ブレーキパッドとして使っているのは、ペルグランデスースの革を重ねただけの物で、すぐに摩耗してしまうから、何かゴムの様な感触の物を探してみたところ、モルトファンガスの肉がいい感じに硬くて摩擦力が高そうだった。
『モルトファンガスの肉をブレーキパッドにして使ってみて』
「ふぁっ!、これいいですね!」
「これは、適度に滑って、でも摩擦力もある。これならいける!」
慎重な進み具合だった為、当然時間がかかり、辺りが薄暗くなってきたので、野営をすることにした。
『解体して、肉を食べよう』
「「「「はーい」」」」
ミスリルリザードの腹は意外に軟らかかったが、鉄のナイフの刃が通らない。
フニャフニャなのに刃が通らず、刃が削れる。
意味わからん。
アルティスの爪で、なぞってみると切れた
『普通に切れるな・・・』
「アルティスさん、どんな爪してるんですか!?」
『角ウサギの角がスパッと切れるくらいの切れ味。』
「かなりヤバい爪ですね・・・」
『背中も試してみるか』
「背中じゃなくても、腕のここでいいのでは?」
背中ではなく、腕の先端の肘と手首の間の外側を切ってみる。
『それもそうだな、肉を切ってる感触だ。』
「・・・・最強ですね」
「ミスリルリザードの唐揚げ、楽しみー」
『肉を漬け込む時間が必要だから、明日かなー?』
アーリアがガックリと肩を落とした。
ミスリルリザードの解体は、スムーズに済んだ。レバーを少し食ってみたが、大トロの様な味わいで、凄く美味い。
今回の料理担当は、カレンとアーリア。
『カレン、ちょっとこの肝で炒め物を作ろう。』
「肝を炒めるの?」
『肝って凄く美味い炒め物ができるんだよ。』
「やってみる!」
日本にいた時に、たまに鶏のレバーを使って、もつ煮を作っていた。
レバーって、食べるとボソボソして苦手って人も多いけど、小さめに切って、濃いめの味付で煮てしまえば、酒のつまみに丁度よくなるよね。
山梨のB級グルメを思い出すね。
醤油も味噌も無いから、同じのは作れないけど、スパイスがあるから炒めてもいいよね。
『アンジョと塩と胡椒をもみ込んで、少し置いておいて、出て来た水分は良く切ってから、アドゥで香りを付けた油で炒めるだけ。』
「あ、これは、エールに合いますね。ワインでも良さげですが、ワインの風味が負けそうです。」
『酒とスパイスに浸けておいたのを使ってもいいよ。』
「う・・・ちょっと待ってね・・・これで・・・」
『蒸留酒かぁ、これじゃなくて、ワインとか無い?』
「あ、ワインならたくさんある!」
ワインの樽の中に、カレンが肝を入れようとしたのを制止して、水を入れている樽を空けて、ワインと一緒にスパイスと肝を入れた。
「それで、唐揚げとはどこに?」
チッ、こいつも覚えてやがったか。
仕方ない、作るか。
『肉は、ロックリザードとミスリルリザードを使う。まずは、ロックリザードの肉を革で包んで、カレン、剣で叩いて。』
「え!?叩くの?」
『平べったくなるまで叩いて。』
『ミスリルリザードの肉はそのままでいいだろう、一口大に切って、塩とスパイスを擦り込む。スパイスは、胡椒とシナモン、ナツメグ辺りでいいか。』
「ふむふむ、それで?」
『しばし休憩』
「??」
『味を染み込ませるんだよ。衣に味をつけてもいいんだけど、焦げやすくなるからな。』
「ほうほう」
味が染み込むまで時間があるので、あいつらの事をバラそう。
『リズとメビウスって付き合ってるの?』
「「ブホァッ・・・ゲホゲホ」」
カレンではなく、後ろから吹き出した音が聞こえた。
「なんでそう思った?」
『さっき抱き合って喜んでたからさ。』
「んー、どうなんだろ?、付き合ってるんじゃないの?」
「ちょ、ちょ、ちょっと、カレン!?、なに言ってるのよ!?」
「そうですよ、カレンさん!」
『仲いいな、お前ら。息ぴったりだ。』
「「・・・」」
『別に付き合おうが、〈いちゃこら〉しようが、どっちでもいいけど、仕事に影響させるなよ?』
「「いちゃこらなんて、してません!!」」
こうやって揶揄うと、堂々とイチャイチャし始める。
ダメになる時もあるけど、そういう場合は大抵、意見が合わなかった場合だな。まぁ、何にせよ、頑張れリズ。
『そろそろかな、小麦粉を水で溶いて、油を温めて、適温になったら、漬け込んだ肉を水で溶いた小麦粉に絡めて、揚げる』
「温度低くない?」
『最初はじっくり火を通すんだよ。』
「へえ」
『浮かんできて、薄っすら黄色くなったら、ザルに上げる。どんどん揚げる』
「判った」
『揚げ終わったら、油に浮いてるカスを取り除いて、温度を上げる。』
『温度が上がったら、ザルをひっくり返して、最初に揚げたやつから投入。10数えたらザルに上げる。』
「おお、カリカリに揚がってる!」
『どんどんやって』
「はーい」
「『完成』」
『さぁ!たべ・・・』
みんなの方に振り返ると、そこには涎を垂らした犬が7匹、尻尾をブンブン振りながら待っていた。
ペティ、お前は貴族なんだから、もっとピシッとしろピシッと。
『ママに言いつけちゃうぞ?』
「ちょ、ちょっと待って、ママってお母様の事?。言っちゃ駄目よ!。命令するわ!」
『ペティの事、よろしくね。みっともない真似してたら、教えてね。って言われてるんだよねぇ。』
「すみませんでした!。直しますから許してー。」
『さぁ、食べよう!、いただきまーす!、その食事の前の祈りって大変だな。モグモグ』
「アルティスさんはイシス様に感謝しないんですか?」
『感謝してるよ?いただきますって言ったじゃん、イシスかどうか知らんけど。』
「私もそっちに切り替えようかな・・・?」
『執事に怒られなきゃいいけどな。』
「ぐはぁ!」
「そうだよねぇ、あの人あたしら騎士や兵士の食事マナーにも厳しいんだよねぇ。」
『そうなんだ、いい事じゃん?』
「なんでよ!?」
『目の前で汚い食べ方されると、作る気無くなるし、戦いではカッコ良かった騎士が、汚い食べ方してたら、騎士じゃなくて、野蛮人だったと思われるだろ?』
「「「「「「「気を付けます。」」」」」」」
『ペティみたいに優雅に・・・』
ペティの方に振り向くと、両手に唐揚げを掴んで、大量に頬張りながら食ってるお嬢様がいた。
「ん?」
『ペティ、夫人から粗相してたら教えてくれって言われてるって、さっき説明したんだが?』
「ナイフとフォーク使って食べろっての?」
『そこまでは言わないが、手に唐揚げ持つなよ、せめて、フォークを使え。それと、肉ばっかり食うな。野菜に包むとか一緒に食べるとか、間に野菜を食べるとかあるだろ?』
「あー・・・、気を付ける」
『念話の会話は執事さん聞いてるから、リアルタイムでバレてるぞきっと。』
「!?」
『いえいえ、そんな事ありませんよ。お嬢様が叱られるのは、私にとっても心苦しいことですので。』
『ほら、聞いてた。』
ポロッ
『こらこら、唐揚げ落とすな。服が汚れるぞ?』
「アルティスもっと無いの?」
『最近、あるじのキャラが食いしん坊になってきた・・・。』
「それ言ったら、全員じゃないですか?」
『身も蓋も無いこと言うなよ。まぁ、ペティみたく太らなければ、別にいいんだけどな。』
「ブフォァ!」
ペティの隣にいたコルスが、ペティの噴き出した水をもろにかぶった。
「何で知ってるのよ!?」
『そりゃぁ、毎日腹の上に乗ってるからな。ふわふわ具合が良くなれば、順調に脂肪が付いて来てるなーって思うだろ?』
「私だって、好きで太ってきた訳じゃ無いの!、アル君の作る料理が美味しいのがいけないのよ!」
『じゃぁ、明日からペティの分だけ、くっそ不味いのを作るか。』
「嘘です嘘です、ごめんなさい。言い過ぎました、ごめんなさい。頑張って痩せます、ごめんなさいぃ。」
ペティがひれ伏して謝ってきた。
『歩くだけでもいいから、やりなさい。それと、ちゃんと所作を考えて、よく噛んでたべなさい。』
「はいぃ、がんばりますぅ。」
『他の人も、噛む回数が減ってるから、気を付ける様に。特にあるじ。』
「ギクッ・・・、気を付ける。」
『よく噛まないと、味が判らないでしょ?急がなくても、ちゃんとあるから、よく噛んで食べてね。』
「「「「「「はーい」」」」」」
『それと、野菜もちゃんと食べないと、便秘になるよ?』
「うっ・・・」
『肉の量を減らすか。』
「食べます!野菜ちゃんと食べますから、減らさないで!」
何か、野菜をたくさん食べたくなる様な、料理を考えないとダメだな。
『野菜食べないと、おならが臭くなるぞ。』
急に野菜の減りが早くなった。
みんな、自分のおならが臭いって思ってたんだな。
「思ってませんよ?」
『心を読むなよ。』
「アルティスさんが、失礼な事を考えてるからですよ?」
『失礼とはなんだ、みんなの健康を考えて、心配してるんじゃないか。』
「おならが臭いとか、思ってましたよね?」
『コルスだと、街中で異臭騒ぎになるかもしれないから、大変だよな。』
「なりませんよ!、私は、いつもちゃんと野菜を食べてますから!」
『セヌラ避けてるよね?』
「・・・セヌラだけが、野菜じゃありませんから。」
『栄養あるんだけどなぁ、お肌がピチピチになるんだよ?』
「私には、関係ありませんね。」
『何故、膝の上に乗せる』
「出触りがいいので。」
『明日は、セヌラ尽くしで作ろう』
「いじめですか?」
『美味しいセヌラを食べさせるのが、いじめになるのか?』
「私にとっては。」
『絶対に美味しいと、言わせてやる!』
「絶対にいいません!」
『セヌラ食って美味しいって言ったら、今まで以上にこき使ってやるからな!』
「いいですよ!、受けて立ちましょう!」
よし、言質は取った!
『みんなも聞いたな?今の』
「聞きました。言わせてみましょう!」
いつの間にか、シレっと居なくなってるリズとメビウスに気が付いた。
『バリア、メビウスの鍛錬やったのか?』
「いえ、これから・・・居ませんね・・・。探してきます!」
翌朝、クスノベルティに入った俺たちは、官吏の屋敷に到着した。
ここの官吏は、アーリアの話によれば、実直な人だという。
実際、馬車に積んだミスリルリザードの革を見て驚き、
「素晴らしい成果です!、是非大々的に公表しましょう!」
と息まいて、冒険者ギルドに使いの者を向かわせていた。
リズとメビウス、他二人で冒険者ギルドにリザードの革を持って行ってもらった。ミスリルリザードの革は、価値が判らないので、王都のオークションに、かけられるかもしれないんだって。
正直、どうでもいい。
どうせ手柄は伯爵家の物になるし、売却した金だって伯爵家の物だ。
多少の褒章は出るかもしれないが、金額は大した額にはならないだろう。
官吏の名前は、セーシュ・カノトノイ、かのとのい?辛の亥かな?。
何だったか、確か干支の話だったかな。
よくカレンダーにひらがなで書いてあって、なんだろう?って思ってググったんだよね。
干支が60個あって、60年で一周するから還暦を祝うって書いてあった気がする。
貴族の家名考えるのめんどいから、干支を使ったとかありそう。
誰の話だって?誰だろうね。
とりあえず、この街での用事はほぼ済んだのだが
「何をおっしゃいますか!今晩は宴を開きますぞ!」
快挙快挙うるせぇなぁ、あんま日程に余裕無いんだから、一泊なんて無理だっつうの。
『食材積んだら先に進もうよ』
「そうね、悪いけどそんなに余裕は無いのよ。だから宴は無しよ。」
ペティが、バッサリぶった切ったから、カノトノイさん涙目だな。
だが、仕方ない。
ここにコルスがいたら、ブツブツ言いそうだけど。
『アルティスさん、何か酷い事考えてません?』
だから、何で判るんだよ!。
勘が鋭いにも程があるってもんだろ!。
くっそ、執事2号め。
『違いますよ?』
『何が?』
『何か酷い事考えてましたよね?』
『酷い事ってどんな?』
『そ、それは言えませんよ』
『コルス、酷い事とはどういう事ですか?』
執事も勘づいてやがった!。お前らホントそっくりだな・・・。まるで親子のよう。
『親子ではありませんよ』
『親子じゃないです』
『はいはい』
『アルティス様、ミスリルリザードの件、旦那様より言伝を預かっております。』
『お、なになに?』
『全員に褒章として金一封を与える、とのことでございます。』
『受け取り方法は?』
『ギルド口座を作れ、とのことでございます。』
ギルド口座に振り込むという。
アルティスは口座を作れないから、アーリアのを使って貰う事になる。
『了解した。』
クスノベルティを出る前に、口座を持ってないみんなで、口座を作りに行く。
『口座ってどこで作るの?』
「口座は、冒険者ギルドと商人ギルドのどちらかで作るんだよ。」
『どっちで作るの?』
「冒険者ギルド一択だな。」
『何で?』
「商人ギルドは、大きい街にしか無いけど、冒険者ギルドは小さい街にもあるからな。利便性がいいんだよ。」
『そうなんだ。』
冒険者ギルドは、村でもない限り、必ずあるらしい。
村でもダンジョンの傍にある所には、両方の出張所がある様だが。
『ダンジョン!?』
「行ってみたいのか?」
『行ってみたい!』
「王都に着いて、暇になったら行こうか。」
冒険者ギルドに来た。
入る時にお約束のチンピラ冒険者に絡まれる事は無かったが、ミスリルリザードを倒した事が判ると、倒し方を教えろと絡んできた。
冒険者ギルドでは、ロックリザードの単独撃破をしたペティの話題で持ち切りだったのが、ミスリルリザードの撃破も加わり、大騒ぎになっていた。
リズとカレンは冒険者達に囲まれて、どうやって倒したのか聞かれまくっていたが、二人共完全に無視してたな。
『倒し方教えてもいいんだよ?』
「それは、ギルドマスターにやってもらえばいいですよね。私達がやる事では無いですよ。」
『それもそうだな。』
ギルドマスターとの面会では、リズとカレンが冒険者にならないかと勧誘されていたが、それも完全に無視してやり過ごしていた。
寧ろ、あんまり煩いと、倒し方教えないくらいの感じで話していたな。
ペティは、単独撃破した時の方法をギルドマスターに教えていた。
マスターの顔は、終始?マークで埋まっていたが、隣にいたサブマスターは、凄さが判るのか、驚愕の表情で聞いていた。
話し終わってから、マスターを押しのけて、サブマスターがペティに魔力操作について聞いていた。
ペティは、ロックリザードの単独撃破した時に、魔力操作を覚えたそうだ。
アルティスは、アーリアの腕の中で、大人しく話を聞いていただけだ。
「あんたらがミスリルリザードを倒したって?、ホントかよ?騎士如きが倒せるわけねーだろが!」
「どうやって倒したのか教えてみろよ」
『来たー!お約束!いいねいいねぇ、ここでコルスが』
『やられませんよ?』
「私がやる」
ドゴッ・・・ガシャーン
アーリアが、一番ガタイのいい奴を拳一発で吹っ飛ばしたら大人しくなった。
ただの裏拳で大惨事だよ。
この一撃でチンピラ系は視線を外し、まともな連中は憧れの表情、一部がアルティスを見て、ほんわかしてる。
そこ!手をワキワキさせるな!
数人が鋭い視線をこっちに向けていたけど、無視でいいだろう。
襲ってくるなら来るで、返り討ちにするだけだ。
ギルド前に置いた馬車の見張りとして、リズとメビウスが立っているが、手を繋いでいた。
ちゃんと警備してた?。
入れ替わりで口座を作りに行ってもらったが、ギルド内にはまだバリアとカレンが待機して見守ってるよ。
アーリアが外に出た瞬間、チンピラが立ち上がったが、バリアが抜き身の剣を肩に担いで扉の前に立ったら、大人しくなった。
吹っ飛ばされた奴は、血まみれになって立ち上がり、ギルドから請求書を渡されていたよ。
壊したテーブルとか椅子の代金の。
リズにすれ違いざま、壊した物の弁償代として銀貨でも渡しておいてくれって言っておいたが、ギルドから出てくる時に、姉御!って呼ばれてたな。
『よかったな、子分ができて』
「どうでもいいです。あんな小者。」
「余計な事させないでください!、次は私がやります!」
『子分が欲しいの?』
「違いますよ、余計な虫がたかるじゃないですか!」
『お熱いですなぁ』
「・・・か、揶揄わないでください!」
「バカ」
よきかなよきかな。
周りが半眼で見てるが気にするな。
『さぁ、出発だ!』
『執事さーん』
『はい、なんでしょうか?』
『報奨金っていくら貰えるか聞いてる?』
『各自に金貨10枚です。』
「「「「「「「「ぶっ!」」」」」」」」
『大盤振る舞いですな!』
『まだ少ない方ですよ、オークションの金額次第ですが、1割を分配するとおっしゃっていました。』
『ペティも含めて?』
『お嬢様は別でございます。』
『じゃぁ8等分かぁ』
『いえ、9等分でございます。』
『そっか、俺の分は要らないよ。孤児院の運営資金にでも当てて。』
『畏まりました。』
よかったね、みんな!お小遣いたくさん貰えたよ!
『それと、カノトノイさんだっけ?ちょっと調べた方がいいかもね。』
「何かきになったのか?」
『あの人の目の動きがちょっとね。』
「目の動き?」
『普通の人間は、目が細かく動くのが普通なんだよね。でもあの人全然動かないんだよ。視線も、どこを見てるのか判らないし。』
『それは少し気になりますね。こちらで調べておきましょう。』
執事も気になった様だ。
人間の目は、ほぼ一点を見つめている時でも、細かく周囲を見ている物なんだよね。
恐慌状態だったり、極度の緊張状態だったり、驚いている時には、一点しか見ていない事もあるにはあるが、それはほぼ状態異常だからね。
目を見て話す時でも、視線は絶えず動いているのが普通なんだよね。
『王都に着いたら、住む所ってどこになるの?』
「王都には伯爵の別邸があるから、お嬢様以外はそこで過ごすんだよ。」
『確か全寮制なんだっけ?』
「そう、寮の食事って、前は美味しいと思ってたけど、今はもう食べられる気がしないわ。」
そりゃもう、新しい味を知ってしまったからには、この国の普通の味には、満足なんてできないだろうね。
『お昼は?』
「お昼は、元宮廷料理人が作ってるから、美味しい筈なんだけど、今は・・・」
「食堂のメニューを改善できたらいいですよね。」
「アル君、学校と寮の食事を改善してくれない?」
『難しいんじゃない?部外者だし。』
「えー・・、じゃぁ、学長にアル君の料理を食べさせてみるとかは?」
中々無茶な事を言う。
でも、この国の食文化を改善するには、いい手かもしれないな。
学生達は貴族の子女だから、今まで食ってたご飯が、実は不味いって知ったら、自分達の家に戻った時に、料理を広めてくれるかもしれない。
『ポテトフライはダメだぞ?』
「えー!あれ美味しいのに!」
『デブが増えるぞ?元々デブだったら死ぬぞ?』
「毒なの?」
『出汁を使ったスープを食わせよう、ポテトフライは毒ではないが、何でも食べすぎは体に良くないんだよ、特にポテトフライみたいに癖になる系はヤバい。』
「癖になる系・・・他には?」
『・・・作らないよ?何でもそうだけど、味の濃い物や栄養の偏った物を食べ続けるのは、体に良く無いんだよ。』
「チェッ」
危ない危ない、作らせられそうになったが、なんとか耐えた。
他にも色々あるんだけど、まだ作れないからな。
材料が見つからないとどうにもならない。
あ、この回想は、あいつにバレてる可能性もあるから、ちょっと意地悪しておいてやろう。
「なんか、意地悪しようとしてませんか?」
『してないよ?』
ホットケーキ、ドーナツ、ベーグル、ショートケーキ、すき焼き、スイートポテト、それからそれから・・・あ、手羽焼きなら作れるかも?。
「美味しそうな想像してません?」
『してないよ?、作れない物想像しても仕方ないし。』
「くっ・・・」
『何涎垂らしてるんだ?』
「な、何でも無いです・・・」
『あ、納豆もいいな』
「腐ってません?それ?」
『発酵してるんだよ。』
「ホントですか?嘘ついてませんか?」
『作ったら、俺が最初に食ってやるから、安心しろ。』
「作れるんですか?」
『まだ無理。』
「何でですか?」
『豆が無いんだよ。豆さえ見つかれば、味噌も醤油も豆腐も作れるのに。』
「豆ならたくさん種類がありますよ?」
『大豆が欲しい。』
「大きいんですか?」
『小さいよ。』
「それがあると、何が良くなるんですか?」
『料理の幅が広がる。』
「全種類買ってきますね。」
行っちゃったよ。
「買ってきました。」
『早ぇな、おい。』
「すぐそこに豆屋がありましたから、全種類1ケロずつ買ってきました。」
『何種類あるんだ?』
「260種類あります。」
『という事は、今260kgを持ってると。』
「重いので、[ディメンションホール]に入れて下さい。」
『[ディメンションホール]』
リズが気になって聞いてきた。
「何を買って来たの?」
「豆です。」
「あんなにいっぱい?」
「全種類買いました。」
「そんな大量に何に使うの?」
『さぁ?』
「アルティスさんの為に買って来たんですよ?」
『さ、街を出るか』
「酷い」
『お昼に実験してみるよ。』
「実験?」
『目的の豆かどうか判らないと、使えないからな。』
雑貨屋に寄って、寸胴とボウル、ホイッパーとトング、ターナーなんかを買おうと思った。
この世界のホイッパーは、金属製の茶筅?みたいな感じで、先端がJみたいになってるの。
トングは売ってなかったから、後で作ればいいね。
ボウルは、大きい奴と金属製の盥を買ったよ。
うちの食いしん坊の為じゃなくて、大勢に作る事もあったからだよ?
『あ、ペンタ、教会の鐘見てきて。』
「はーい、行ってきます。」
「教会の鐘?、何があるの?」
『下らない魔道具がある可能性があるんだよ。モコスタビアや、ナットゥにもあるのかも知れないな。』
「それがあると、どうなるの?」
『鐘が鳴るたびに、精神攻撃を受ける。』
「大変じゃない!?」
『だから、ペンタに撤去してもらいに行ってもらったんだよ。』
「教会の鐘全部に設置されてたら、何百個あるか判らないわね。」
『壊せば治るのか、壊しても治らないのかが、判らないんだよなぁ。』
「[鑑定]で見えないの?」
『多分、暗示みたいなのを、植え付けたんじゃないかな?』
「暗示?」
『魔王軍に有利になるような、困る暗示だな。』
「魔王って、そんなにセコいやつなの?」
『セコくないぞ?、戦争をすると考えたら、先に手を打っておくのは、上手いやり方だぞ?』
「もっと堂々と来ればいいのに。」
『魔族を殺したがる人間を、生かしておくメリットは無いからな。魔王軍が進軍してきたら、互いに殺し合いを始める様な、暗示でもかけておけば、手がかからなくて楽だからな。』
「嫌らしい作戦じゃないの。」
『気が付かない方が、悪い。自軍の消耗をさけるには、いい方法だな。』
「でも、戦争に関係の無い民衆を狙うなんて、酷過ぎるんじゃない?」
『人間なんて、勇者と一緒に魔族の住む大陸に行って、魔族の村を滅ぼしまくったじゃないか。因果応報、当たり前の話だろ?やり返されるのが普通だよ。』
「・・・」
伯爵家の図書室で、勇者の物語とか歴史書を読んだからね。
文字は、そんなに難しく無かったのと、言語理解で翻訳されるから、それ程苦労せずに読めたよ。
『人間側なんて、自軍の徴募した兵を無駄に突撃させて、何万人も殺してるしな。何で反乱が起きないのか、不思議で堪らない。』
「それは、戦争だから。」
『戦争だから、死ぬのが当然だと?』
「そうじゃないですが、仕方が無いと思います。」
『じゃぁ、魔王軍に〈今〉攻撃されてるのも、仕方ないんじゃないのか?』
「今は、戦争中じゃないですよ?」
『休戦中だろ?、終戦してないから、戦争中だろ?、戦闘してないだけだろ?』
「そういう意味なんですか?休戦中って。」
『そういう意味だよ。一旦、戦争を止めて、話し合いましょうってだけで、終ってない。』
「戦争を終わらせるには?」
『勝敗が付かなければ、終らないな。』
「人間が勝てば問題無いんじゃないですか?」
『そして、魔族を皆殺しにするのか?』
「やりそうですね・・・」
『やるだろうな。そういうのをジェノサイドって言うんだよな。』
「アルティスは反対か?」
『絶対に阻止するよ。あるじが敵に回ったら判らないけど、俺は徹底的に抵抗するよ。』
「私達も考えなければならないな。」
『是非考えて欲しいね。何も考えずに加担するのが、一番の罪だからね。』
「そう、か。」
クスノベルティの街を出ると、隣の領まではすぐだ。
クスノベルティは、ホリゾンダル領の最北端にある街で、隣のバウンドパイク領まで20kmの所に位置している。
領の境界は、平原のど真ん中にあるらしくて、魔獣がたくさん獲れる平原を分割統治したって事なんだと思う。
広さはかなりあって、100km四方はあるんじゃないかと思う。
平野を眺めていると、右の方から黒い塊が近づいて来ている様だった。
『あの黒いのが、もしかしてシープキャトル?』
「ん?どこだ?」
みんなが一斉に右の方を見ると、黒い塊が方向転換をした様で、離れて行った。
アーリアの腹ペコモンスターが、勘付かれたのかも知れない。
隣の領に入ったらしい。この領地を治めるのは、バウンドパイク侯爵というらしい。
バウンドパイク?跳ねるサンマか?、いやトビウオ的な魚の名前かもしれないな。
跳ねる魚といえば、ハクレンとか想像するんだけど、この世界だとでかそうだな。
そんな栓無き事を考えていると、アーリアが気になる事を言った。
「この辺には、シープキャトルの近縁種がいるそうだよ」
『あぁ、結局狩りに行けなかった牛か。』
「確かゴートキャトルだったかな?」
『山羊牛?乳が美味そうな名前』
山羊と牛といえば、乳が昔から飲まれていたよな。山羊の乳はチーズの原料として有名だったし、シェーブルチーズって言うんだったかな?パンとかクラッカーに塗って食べると美味かったなぁ。
「家畜じゃないから乳は採れないと思うけど、美味しいのかな?」
『家畜にできないの?』
「性格は温厚らしいけど、大きさがちょっと家畜向きじゃないんじゃないかな?」
『でかいの?』
「大きいよ、10メトルくらいあるよ。」
『そりゃ飼うのは無理だな。魚といい、牛といいなんでこっちはいちいちでかいんだ。』
「あはは、大きすぎるよね。」
「他にもスケープゴートっていう山羊もいるんだよ。」
『迫害されてる?』
「害獣だから、見つけたら殺さないとダメなんだよ。」
『見つかったら死ぬとか、不憫な獣だな。』
「1頭見つかったら100頭はいるって言われるくらいだからね。」
『ゴキブリか!』
「ゴキブリの同類では無いと思うけど、放置すると国が亡ぶって言われているよ。」
『イナゴか!』
『中々やばそうな奴がいるんだな・・・、スケープゴートっていうのは、大きさはどれくらい?』
「確か、2メトルくらいだったと思うけど、肉はあんまり美味しくないって話」
『臭いとか?』
「硬い?筋ばってるみたい。」
『全身すじ肉か、煮込めば食えそうな気がするが。』
てか、体長2メートルでどうやってそんなに増えるんだ?卵生で一度に20個産むとかかな?いや、子供を育てる環境が特殊過ぎて、生き残る確率が高いのかも。
「スケープゴートが居ます!丘上に5頭!」
『おいおい、5頭いたら500頭になっちまうじゃないか!』
「戦闘準備!」
「逃がすなよ!」
『囲め、じゃないと逃げられる。』
「分かれて囲め!」
『コルスとペンタは足を狙って。』
「判ってますって。」
戦闘はすぐに終わった、低級冒険者でも狩れるような奴らしく、挑発すると向かってくるらしい。
でも、突進しかして来ないので、避けて足を切れば簡単に倒せるらしい。
殆どの場合、討伐証明の角を取って、後は捨てるんだとか。
捨てるのがダメなんじゃないの?
肉を見てみたいから、解体してもらった。
肉質は筋?白い線がたくさん見える肉で、切ってみると、ぷつぷつ刃に当たるらしい。
少し切って焼いてみた。
『これホントに筋ばってるのか?美味いぞ?』
「お、美味しいですね・・・」
「どういうこと?、不味いって話だったはずだけど、美味しいなら何で捨てるのかなぁ?」
何となく、筋書が見えてこなくもないが、美味い→みんな狩る→数が減る→増やそうとする→国が亡ぶ。
みたいな感じじゃないだろうか・・・。
だが、見つけたら殺されるのに、沢山いるのなら、全然減らないって事だしなぁ。
『よく判りますね、大体そんな筋書で不味いって広めたらしいですよ。』
『そっか、美味いからって輸出とか頑張っちゃったんだろうか。』
『生きたまま捕獲して、他国に売り飛ばしたらしいですよ。』
『その売った先の国って、まだあるの?』
『滅びました。』
『うわぁ、生物兵器に使えそうだな。』
『極悪ですね。』
『いやいや、使われた国は、ちゃんと管理したらいいだけだろ?』
『・・・まぁ、そうですが、滅んだ国の周辺では未だに、大量にいるらしいですよ。』
『餌は何喰ってるんだ?、そんな大群賄えるほどの食料あるのか?』
『一説には、死んだ仲間を食べてるとか。』
『殺した奴を放置するのダメじゃん!』
『まだ証明されてないので。』
『そっか。』
コルスもよくそんな事知ってたな。案外、滅んだ国の出身だったりしてな。
『なんで判るんですか?』
『正解かよ。』
結局、スケープゴートは全部解体して、頭と足の先、尻尾等を深く掘った穴の中に埋めて肉は持って行く事にした。
『それにしても、肉多いな・・・』
「ロックリザードは売ったけど、ミスリルリザードの肉はまだあるからね!」
『そこにスケープゴートの肉が5頭分とか・・・塩漬けにして干し肉作ったら売れそうだな。』
「いいかもしれませんが、手が足りないかと。」
『ミスリルリザードの骨があるじゃん?、アレのスープに大量に塩を混ぜてさ、そこに肉を浸すんだよ。そしてそれを干す。高級干し肉の完成だな。』
「じゅるり」
『足とか皮は剥いだけど、皮下脂肪はそのままじゃん?、切らずにそのまま漬けて、そのまま干せばいいんだよ。それか、あるじに切ってもらうか。』
「腐りませんか?」
『表面を軽く炙れば、殺菌できるけど、クリーンかければいいんじゃね?』
クリーンって魔法、便利だな。普通に雑菌とか落とせそうだしな。
「他の部位はどうします?」
『本当は燻製できればいいんだけどな。』
「それはどういう方法です?」
『煙で燻すんだよ、ベーコンとか腸詰食ってなかったっけ?』
「あれって燻製だったの?」
『知らなかったの?」
「腸詰の意味もいまいちしらないけど。」
『動物の腸に詰めてるんだよ』
「噓でしょ?」
『大真面目。』
「し、知らなかった・・・。」
『ついでに言うと、真っ黒い腸詰あったでしょ?ちょっと生臭かったけど、あれは血と臓物を詰めた物だよ。』
「「!?」」
『ちょっと処理が甘いから、あんまり美味しくなかったけどね。』
「美味しく作れるんですか?」
『作った事無いから、多分無理。』
「じゃぁ処理が甘いとは?」
『ちゃんと内臓を洗って、スパイスとかハーブを入れないと、臭みが取れないんだよ。血の方はそのままなのか、何かを混ぜるのかは知らないけど。』
「スパイスは難しいかもですね」
『なんかコルスがぐいぐい来るな』
「好きなんですよ、ブラッドブルスト」
ドイツ語と英語が混じってるな、しかもヴルストじゃなくてブルストか、この辺は方言とか、年を経て変化したとかかな。
「どうですか?作りたいと思いませんか?」
『腸詰って詰める時が難しいんだよ、確か専用の道具も必要じゃなかったっけ?』
「ぐぬぬ」
『そういうのは専門の肉屋が作ってくれるだろ、そっちに頼め』
「アルティスさんのレシピを使ってもいいと?」
『ご自由に。』
「王都の肉屋に頼んでみます!」
バリアがレシピに頓着が無いのを気にしている。
「レシピバラしちゃってもいいの?売れるよ?」
『今更じゃない?、色んな人が色んなアレンジ加えて洗練されると、もっと美味しい物ができると思うよ?』
「・・・」
日本ではレシピの価値なんて、有って無い様な物だった。
それで、多少は儲かるのかもしれないが、舌の敏感な人ならすぐ判るだろうし、コピーなんてほいほいされるんだから、隠しても意味は無いと思う。
本当に隠すのは、独自の味わいを深める、決め手の材料と技法だけでいい。
どこの食堂に入っても美味しい料理を食べられる様になれば、自分の技量とアイデアの幅も広がるというものだ。
「伯爵に何か言われませんかね?」
『言われるの?』
『大丈夫かと思われます。むしろ、ホリゾンダル家の手柄にして頂ければ、喜ばれると思われますが。』
執事さん、実は伯爵家を裏で牛耳ってるんじゃなかろうか・・・。
『いえいえ、そんなことはありませんよ。』
「「「???」」」
みんな、突然何を言い出したのか判らずに、戸惑ってるよ。
『あぁ、これは失礼致しました、こちらの話が混ざってしまいましたね、申し訳ございません。』
うまいなー誤魔化し方が。
コルスも見習った方がいいんじゃないか?
「またなんか、失礼な事考えてませんか?」
『失礼だなんて、そんな事思ってないよ、コルスの成長を願っての事だよ。』
「・・・」