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第73話 タカールダンジョン1

 「とほほ・・・」

 「す、すまん。お詫びに俺達の分を渡そう。」

 『ウルファとクールの分も無しだ。もっと魔法を勉強しろ。心技体、心、体、技を全て鍛え上げろ。得手不得手は認めてやるが、魔力は持ってるんだから、使いこなす技術を学べ。訳が判らないからと、放置するな。考える事を止めたら、そこからお前らの弱体化が始まると思え。特に、お前ら獣人は、何でもかんでも力押しで解決しようとするが、それは何も考えていない証拠だ。考えろ。』

 「申し訳ありませんでした。」

 「うっす。」

 「手厳しい・・・」

 「言い方は厳しいですが、考える事を止めるなと仰っているのですよ。直感に頼るだけではなく、あらゆるスキルを使いこなして、常に最善の策を考える。それを実践しろという事です。」

 『大体合ってはいるが、ワラビが言えた義理では無いがな。』

 「・・・申し訳ございません。」


 ワラビはエスティミシスで、散々失態をかましてくれたからな、判ってる風な説明を聞いて、少しイラっと来たよ。


 『とりあえず、結界で包み込んだから、もう闇属性の魔力も消えたな。』

 「はい。無くなった様です。」

 『じゃぁ、亜空間に設置するけど、どこがいいと思う?』

 「ここでは無いのですか?」

 『こんな所に置いてあったら、誰かが解除しちゃうかもしれないだろ?』

 「誰もできないと思いますが?」

 『それは今の話だろ?未来の話をしてるんだよ。何百年か何千年か何万年か知らないが、ずっと残り続けるんだから、誰にも見つからず、誰も近づけない所に置かないと、意味が無いだろ?』

 「では、海底は如何でしょうか?」

 『海底・・・いいな、それ。海底に設置するには、セイレーンに頼むのが良いな。シーア、ちょっと頼みたい事があるんだが。』

 『何でしょうか?』

 『海底に亜空間を作って、そこに魔人の封印を入れて欲しいんだよ。』

 『どの様な封印でしょうか?過去に海底に封印をした物を沈めた事があるのですが、腐食して100年も持たずに、封印が解けた事があるのですが。』

 『亜空間に入れるから大丈夫じゃないか?』

 『亜空間を維持する為の魔力は・・・?』

 『魔人の魔力だよ。』

 『畏まりました。取りに伺います。』


 設置方法と設置場所を伝えて、シーアに持って行ってもらったよ。

 設置した後の様子を教えてくれたんだが、魚たちが集まって来るので、良い漁場になったみたいだ。

 魚が寄って来る理由は、魚には餌の匂いを嗅ぎ取る鼻と、魔力を感じ取る第二の鼻があるそうで、マナの乏しい海中では、他の魚を食べたり、海底火山や湧き水、海藻の生える場所で魔力を補充して生きているらしい。

 水は空気程速く移動する事はできないので、大型魔獣等が居る海底では、マナも魔力も薄いそうだ。

 大型の魔獣は、魔力を多く含んでいる為、クラーケンやシーサーペントは常に餌を求めて動き回っており、クラーケンは大きくて動きの遅いフィンバックホエールの子供を狙っているそうで、丁度、動きも大きさも似ている船が狙われやすいそうだ。

 うん、納得。


 『さて、魔人が片付いたから、水晶の方を対処してみよう。』

 「壊す・・・訳じゃないんだよな?」

 『何とも言えないな。制御装置が壊れている以上、制御できていないという事に他ならないんだから、暴走の可能性があるなら壊すし、制御できる様なら制御したい。だが、中心のあのドラゴンをそのままにして、こちらの都合だけで決めるのもねぇ。』

 「だな。色合いからして、白か黄色だと思うが、白だったら解放してやるのがいいと思うな。」


 ん?口調が変った?しかも、こんなにテカテカなのに白か黄色って、メタルが見えてない?

 だが、ウルファには、憑依から保護する魔道具を渡してある筈だ。


 『白いドラゴン?オリハルコンドラゴンって白いのか?』

 「金色の筈ですが。」

 『ソフティー、この中のドラゴンはオリハルコンドラゴン?』

 『うーん、多分そうなんだけど、こんな小さくない筈。』

 『子供って訳じゃ無さそうなの?』

 『うん。神竜の筈だから、子供の状態は無いんじゃないかな?』


 神獣系は子供の状態が無いのか。

 ってことは、あの卵を孵すといきなり大人が産まれるのか?


 『性格はドラゴンのそれと同じ?』

 『うん。自分勝手で我儘で、傲慢で無作法。』


 一気に助け出す気が失せた。


 『・・・出すの止めるか。』

 「と、とりあえず、作業を進めるって感じでいいんじゃねぇか?」


 あぁ、やっぱり乗っ取られてるな。


 『まぁ、進めるが、意識を奪ったり、脅したりする様な奴なら、細切れでいいな。』

 「何でバレたのだ・・・?」


 何でこいつは、そんなに憑依されやすいんだよ。

 前回のゴブリンダンジョンでも、ダンジョンマスターに操られていたから、魔道具を渡していた筈なんだが。


 『ウルファ!!こんな奴に負けてんじゃねぇよ!タコ殴りにして追い出せ!』

 「ちょ!?待て待て!待ってくれ!判った!判ったから!!出るよ!出る出る!」

 『いい加減にしろよお前!何回憑依されたら気が済むんだよ!防げるんだから抵抗くらいしろよ!』

 「す、すまん。抵抗したら殺すって言われて、動けなくなったんだ。」

 『ああ?俺が渡した保護魔法を通り抜けたとでも?』

 「・・・あれ、忘れて来た。」

 『はぁ、お前帰れ。一々憑依される馬鹿は要らん。このドラゴンも殺す。この手の馬鹿は、大嫌いなんだよ。もうウルファは、装備全部返せ。反省するまで装備無しで居ろ。馬鹿馬鹿しい。お前は役立たずだ。失せろ。』


 アルティスが怒気を放つと、リズが剣に手を伸ばした。


 「お待ちください!わ、我々は入浴中に呼ばれましたので、付け忘れたのだと思います!」

 『ほう、アミュレットに嵌める様に作った筈だが、風呂に入る度に分解してると?意味が判らないな。納得できる説明をしてくれ。普段はどうしているのかを。』

 「ええ!?それは・・・説明できませんね。」

 「すまねぇ。アレを付けていると、アルティスに頼り切ってる気がして、どうにも身が入らねぇんだ。もちろん感謝してねぇ訳じゃねぇんだが、何もかも頼り切ってるだけじゃ、何か落ち着かねぇというか、何と言うか。」

 『お前な、憑依されるってのがどういう事か判ってない様だな。別の種族がお前の中に入ると、お前の体に影響が出るんだよ。人間が入り込んだって同じだ。耳の位置が違うし、身体能力だって違う。ドラゴンが入っても同じだ。体型も違うし羽も生えてねぇ、ブレスも吐けねぇし考え方も違う。全く違う奴が入れば、自分の体に関係の無い情報がお前の脳に刻まれるんだよ。そうすると、できもしねぇ事ができると思えたり、音を聞いた時に違和感を感じたり、歩き方や動き方に変化が起きたりするんだよ。するとどうなるか、お前自身が弱体化するって事なんだよ!毎日の鍛錬は、お前の身体能力を最適化する為にやってるのに、別の種族に乗っ取られた瞬間、お前の鍛錬は全部無駄になるんだよ!お前が頑張って元の体に戻ったのに、全部無駄になるんだよ!その原因が、お前のちっぽけなくだらないプライドのせいで、全部棒に振ったんだぞ!これを怒らずにいられるか!!』

 「も、申し訳ございません!!」


 ウルファが真っ青になって土下座した。


 『今更土下座なんかしても意味は無い。さっさと装備を全部返せ。王都に帰って、一から徹底的に自分の体を鍛え直せ!完全無欠のウルファ・スティングレイに戻るまで、木剣で鍛え直せ!』


 ウルファは意気消沈して、防具と剣を置いて戻って行った。

 因みに、エスティミシスで散々操られまくったワラビは、元々の身体能力がゴミ過ぎて、たまに何も無い所でコケる以外の齟齬(そご)は出ていない。

 体型や身体的特徴の情報が上書きされると、運動機能に影響が出るので、運動能力がマイナスのワラビの場合は、寧ろいい影響だったのかもしれない。

 しかも、ワラビの場合は、精神の肝心な部分については、神の力でがっちり守られているので、触る事すらできないから、コケる以外の影響が出る事も無いのだ。

 体が資本のウルファと、魔力が資本のワラビでは、受ける影響が全く違うという事だ。


 「戦力が一人減ってしまいましたが、どうしますか?」

 『ミュール・・・はシュールの世話してるんだっけ?』

 「いえ、もうシュールは豹人達との鍛錬に入っています。」

 『そうか、じゃぁ次は座学だな。ミュール、ダンジョン攻略来るか?』

 『行くー!!わーい!』


 ミュールが呼ばれた事に驚いたフィーネが、抗議してきた。


 『フィーネじゃ無いんですか!?』

 『ワーウルフは当分見たくない。ウルファをみっちり叩き直せ。』

 『ウル兄は何をしたんですか!?』

 『ドラゴンの意識に憑依されたんだよ。ドラゴンの姿勢が出てるから、ワーウルフの誇りと闘い方を叩き込め。帰るまでに直っていなかったら、ワーウルフ全員ブートキャンプ行きな。連帯責任だ。』

 『ギャー!?ウル兄!!なんて事を!』


 フィーネがブートキャンプと聞いて、ウルファに文句を言いに行った様だ。

 ワーウルフを見たくないというのは、スティングレイ兄妹がやるやる詐欺ばかりなので、嫌なのだ。

 ウルファはさっきの通りで、ウーリャはフィーネとの鍛錬をやるやると言いながら、未だにやっていないのだ。

 ウーリャ曰く、フィーネばかりに構っていて、ウーリャを無視してる様に見えるらしいのだが、実際に無視してるよ。

 約束を守らないのだから、相手にする筈が無い。

 相手にして欲しいのなら、約束した事を実行すればいいのだ。

 約束を守れない者など、信用に値しないのだからな。


 『じゃぁ、ゲートを開くから来てくれ。[ワープゲート]』

 「やほーい!」

 『よし、じゃぁダンジョンに行くか。』

 「魔力炉は手を付けないのですか?」

 『俺の仲間に手を出したんだ。やるとしても封印だな。中のドラゴンは細切れにしてやりたいくらいだよ。今の精神状態では、とてもじゃないが真面にできそうに無いからな。タカールを殲滅してからでいいだろう。オリハルコン如き、俺の爪には勝てないからな、次にまたやりやがったら、本当に細切れにしてやるよ。』


 そう言いながら、マッドフォレストで商人の護衛が持っていた剣の柄を出して、爪で4分割して見せた。

 鑑定など持っていなくても、自分の体を構成する金属を見分けられない訳が無いからな。


 ダンジョンの入り口を入ると、聞いていた通り真っ暗だったので、前衛はスポットタイプ、後衛はワイドタイプのヘッドライトを着けて進む事にした。

 後ろ側については、ソフティーの着けているヘッドライトが全方位を照らしているので、特に問題は無い。

 魔力感知があれば、全方位の魔力の動きは見えるものの、やはり人間には視覚情報が必要で、目隠しをしたままで歩くのは難しいのだ。

 また、夜目や暗視のスキルや魔法についても、光源の全くない暗闇では、あまりよく見えないのだ。

 だが、そんな場所でも見る事の出来るスキルが魔力視だ。

 この世界では、魔力は全ての物に含まれていて、空でも地下でも魔力の無い所は無いので、魔力視を使えば見える様にはなるのだ。

 ただ、今のメンバーの中で、魔力視を使えるのはミュールとアルティスとソフティーだけで、リズとクールとワラビは使えない。

 なので、結局のところ、ヘッドライトを使うのが、一番効率がいいという事になる。

 まぁ、魔力視を使い続けるには、MPを常時消費し続けるので、ダンジョンの探索で使うのは推奨できないという事も一因だな。


 「そういえば、卵はどうしたのですか?」

 『今更?』

 「すっかり忘れていました。」

 『あんな物は亜空間に仕舞っておいたよ。』

 「どこに設置したんですか?」

 『ソフティーの背中。』

 「あぁ、それなら絶対安全ですね。」

 『ん?安全だからとかじゃなくて、外に出したまんまだと、ピカピカ光って煩いんだよ。普通の卵はディメンションホールに入るのに、何であの卵は入らないんだろうな。休眠状態なら仮死状態なんだから、入ってもいいんだけどな。』

 「神獣だからじゃないですか?」

 『身も蓋も無い事言うなよ。』

 「それ以外に思いつかないので。」

 『もう全部あるじに丸投げして、(しつけ)けて貰おうかな?』

 「キュプラが怒るんじゃないですか?」

 『なんで?』

 「アーリアを独り占めしたがってるからですよ。」

 『関係無いだろ。キュプラの思い通りにさせると、あるじがキレる。』

 「まだ何かやってるんですか?」

 『タオルで済む訳無いだろ?』

 「・・・。」


 まぁ、以前の様にカビが生える事は無いとはいえ、見ていてあまり気分の良い事では無いのだが。


 『全然魔獣が出て来ないな。何か出て来ないと、あっという間にダンジョンマスターの所に到達しそうだな。』

 「でも、迷わずに階段に到達できますか?」

 『ミュール、階段の場所まで先導よろしく。』

 「おっけー」

 「え?ミュールが知ってるの?」

 「匂いを辿れば判るよ?」

 『次の階層は、匂いが違うからな。何の為に獣人を呼んだと思ってるんだ?』

 「そんなに遠くの匂いまで判るんですか?」

 『地図を見る限り、そんなに遠くにある訳じゃないだろ?』


 最初の階層が広大なのに、入り口から階段までが近いって、意味が判らない。

 鍛錬の為のスペースを作っている?いやいや、最上階層で鍛錬するって、普通に考えれば、あっという間に通過する階層の筈なんだがな。

 攻略以外に何かあるのかもしれないが、そんな事やる気になれないな。

 見る場所があるとすれば、地上にある遺跡の方だし、ダンジョンは地下だからな。

 常識として、ダンジョンの空間は、本当にそこにある訳では無く、異次元の空間として存在しているので、ダンジョンを攻略してダンジョンコアを破壊したとしても、そこにぽっかりと穴が開く事は無い。

 崩れるのはダンジョンの中だけの話で、外にまで影響が出る事は殆ど無いそうだ。

 稀に、自然の洞窟や施設がダンジョンになる事があるのだが、その場合でも元々の空間に異空間が繋がって、どこかの地点で元の場所にそっくりな異次元空間に飛ばされるので、ダンジョンマスターを倒しても、ダンジョンとの境目に追い出されるだけらしい。

 つまり、ここのダンジョンを攻略したとしても、地上にある遺跡には全く影響が無く、ダンジョンだけが崩壊する事になるのだ。

 そして、一般常識として、ダンジョン製の壁や床を破壊する事はできず、床に落ちている瓦礫を拾って外に出たとしても、瓦礫は消えてしまうそうだ。

 地上の遺跡にあるギミックと同じ物がダンジョンにあったとしても、答えが全く一緒という保証は何処にも無く、あくまでもダンジョンマスターが作り出したギミックにしかならないだろうし、解き方が同じと言う確証も無いのだから、解く必要があるとすれば、ダンジョンのでは無く、遺跡の方を解かなければ意味は無いのだ。


 別の可能性として、遺跡をダンジョンが飲み込む可能性については、無いとは言えない。

 但し、その場所には、ぽっかりと開いた穴だけが残るだろう。

 異次元空間とは、そこに見えてもそこには無いので、抉り取った様な跡が残るだけだと思う。

 そして、その抉り取る行為には、莫大な魔力が必要になり、維持にも莫大な魔力が必要であると考えられる為、複数の箇所を取り込む事はできないだろうと思う。

 異次元空間と亜空間の違いは、ほぼ同じなのだが、亜空間を利用する場合は、スペースを固定化すると、固定化する時に大量の魔力が必要になるが、固定化された後は、維持に僅かな魔力を必要とする以外に、コストはかからなくなるのだ。

 異次元空間も固定化してしまえば、維持にコストはかからないのだが、別の次元から空間を切り取って持って来ると、別の次元の空間自体を維持しなければならず、持って来た次元空間の維持をしつつ、異次元空間でサイズに合わせて固定化するなど、コンピューターが無ければ不可能だろう。

 アルティスの作った亜空間ハウスの様に、豆腐建築と言える様な形の空間を作るのは簡単なのだが、形を複雑にしたり、凸凹していたりすると、超絶大変になる。

 何故そんな事が必要になるのかと言うと、別次元の物質は、違う次元では不安定な物でしかないので、形を維持するのが大変なのだ。

 だから、亜空間に部屋を作る時には、極力単純な形で作り、別の次元でも安定する様に調整して固定化をするのだ。

 別の次元でも安定させる方法は、ワープゲートの枠を参考にしており、まるで性質の違う液体を合わせているかの様に、ユラユラと波打っている壁があるので、その部分の魔法陣を利用している。

 仕舞う時は、入り口を開けて魔道具を停止させれば、勝手に入り口の方に押し出されて行くのだ。残るのは亜空間に部屋を作る魔道具と、空気穴用の魔道具だけだ。


 一階層目は遺跡の様な石造りで、石の色は青灰色だったのだが、二階層目は黄色みがかった色に変わった。

 だが、相変わらず何も出て来ない。

 度々(たびたび)罠?が見つかる様になったのだが、床に深さ3センチ程の穴が開いていて躓くとか、床にあるボタンを踏むと、壁に仕込まれていたハリセンで殴られるとか、そんなイライラが募る罠が続いた後に、落とし穴が待っていた。


 『中々に意地悪な罠だな。イライラがMAXなった頃に落し穴に落とすとか。』

 「ミュールが見事に落ちましたね。」


 落とし穴の底には、剣山の様な針が林立しているのだが、ミュールのブーツを貫く事ができなかった様で、ミュールが針の上に立っている。

 針の根元には骨が散乱しているので、かかった奴がいるのかもしれない。

 このダンジョンでは、死んだ者は吸収されずに魔獣の餌になるのかもしれないが、その割に服や防具が無い所を見ると、恐怖心を煽る為のオブジェなのかもしれない。


 「危なかった。」

 

 ヒョイと飛び上がって、穴からミュールが脱出した。


 『こんな単純な罠に引っ掛かるなよ。』

 「ううーごめん。」


 その後も似た様な罠が続いたが、二度も同じ様な罠に引っ掛かる奴など、そうそう居ないだろう。

 二階層目は、階段までの距離がそこそこあるのだが、三階層目がかなり臭いので、それ程時間もかからずに階段までたどり着いた。


 『三階層目は、かなり臭うな。』

 「そうですか?」


 狼系のクールには、それ程の臭さには感じない様だ。

 階段を降りると、そこには衝撃の光景があった。

 なんと、階段を降りたところには、ギッチギチにグレートファングという犬が(ひし)めいていたのだ。


 『何だこれ?』

 「ここに壁でもあるんでしょうかね?」

 『剣を刺し込んでみろよ。』

 「やってみます。」

 「ギャウン!」

 

 壁は特に無い様だが、三階層の魔獣達は、二階層には行けない様になっている様だ。


 『クール、お手並み拝見と行こうか。』

 「了解」


 クールの持つ武器は、ブロードソードの両手剣タイプで、剣の部分の長さが1m30㎝程ある。

 リーチが長いという事は、狭い所での取り回しに、技術と力量が必要になるという事だ。

 クールが剣を抜き、無言でZ形に斬り大半の犬を倒して、階段前の部屋に踏み出した。


 ザッ!ザザザ

 カラカラ


 大量の魔石が床に落ちるが、意にも介さず一歩前に出て、振り向き様に取りこぼしのグレートファングを斬り、その勢いそのままに背後に迫るグレートファングを体ごと回転させて斬り捨てた。

 階段前の部屋とは言っても、通路の一部が広くなっているだけなので、扉も無く通路が一本繋がっている。

 手前のを倒しても、通路の奥に犇めいていたわんこが、次から次へと襲い掛かって来る。

 この階層にいる、全てのわんこが襲い掛かって来ていると言っても過言では無い程の多さなので、もしかしたら、今回の一戦でこの階層の戦闘は終わるのかもしれない。


 『疲れたらミュールと交代な。』

 「まだ大丈夫です。余裕あります。」

 『力を抜け。撫でるだけで斬れるんだから、勢いなんて付ける必要は無いだろ?』

 「うっす。」


 最初に比べて、徐々に剣速が落ちて来たので、振り抜く時の力を抑える様に言った。

 それなりに軽いとはいえ、8キロ程の重さがあるので、上下左右に振り回して居るだけでも、結構な体力が必要となる。

 狼系はスタミナに定評があると言っても、それは走りに関しての話であり、剣を扱う方に関しては、スタミナは人並みにしかないのだ。

 そして、ダンジョン産の魔獣は、敵が強かろうとも恐れを見せずに襲ってくる為、一息つく暇が無いのだ。

 加えてダンジョンと言う閉塞的な空間も相まって、精神的な疲労も加算されるので、外の戦場で戦っている時よりも、スタミナが切れるのが早くなるのだ。

 態々力を入れなくても切れる相手に、力いっぱい剣を振り回すだけで、余計なスタミナを浪費している状態なのだ。


 「[アイスバレット]」

 ズドドドドド


 流石氷狼というべきか、種族特性の氷魔法を撃ち出した。

 氷魔法は、水属性と風属性の複合魔法で、種族特性とは言え、覚えるには難易度が高いのだ。

 クールは、ウルファと鍛錬をする事が多いのだが、剣術だけでは無く、魔法の方も熱心に練習を続けていて、今のMAGは1500を超えている。

 あっさりマケダマレ・ダマラスのMAGを抜いたな。


 「交代お願いします。」

 『じゃぁ、ミュール頼むよ。』

 「よっしゃー!」


 張り切って前に出たミュールが、魔道砲を撃って目の前に居る集団を一掃した。


 バシュ!バシュ!

 「オラオラ!ミュール様のお通りだ!」


 ミュールは拳闘士なので、縦横無尽に飛びながら、回し蹴りや裏拳を使って倒しまくる。

 時には突然軌道を変えて襲い掛かり、相応に集まって来た所で魔道砲で一網打尽にして、息を整える時間を作っている。

 アルティスの隣で休んでいるクールは、ミュールの戦いに見入っている。

 対してリズは、剣の手入れをしながら、いつでも交代できるとアピールしている。

 ミュールはパワーファイター系だが、闇雲に戦っている訳では無く、体の動きを考えて、連続して技を()めているので、無理な動きが無くコンボを決めている。

 ダンジョンの魔獣は、死ぬと魔石とアイテムを落とすだけで、血が飛び散ったりせずに瞬間的に塵に変わるので、血糊で滑ったりする心配が無い。

 だから、ミュールも動きを制限される事無く、自由に飛び回れるのだ。

 因みに、落ちた魔石は、定期的にアポートで回収している。

 大きさはそれ程でも無いが、足元に溜まってくると、硬い地面に砂利が散らばっている様な感じになって、割と滑るのだ。

 硬さもガラス玉程の硬度がある為、放置したままでは邪魔になって来る。

 ドロップ品も牙や毛皮がポロポロ落ちるのだが、品質的にはあまり役に立ちそうに無い物ばかりだ。


 1時間ほどで、殲滅完了となった。


 『ミュールお疲れ様。』

 「ふぃー、手応えが無さ過ぎて、逆に疲れたぁ。」

 「次は私の番ですよね?」

 『そうだな。リズにやってもらうかな。』

 

 通路を進んで行くと、階段の手前に扉があった。

 マップには、そんな扉は載っていないのだが、足止めの為に急遽ボス部屋を作ったのかもしれない。


 『マップには載ってないボス部屋だな。とりあえず中に入るか。』

 「ボスは何が出るのか楽しみですね。」

 『どうせ雑魚だろ。期待するだけ無駄だ。』


 ギイーっと音を立てて扉が開くと、そこにはでかい蛇が居た。


 『[鑑定]ポイズンファングだな。クール、一撃で倒してこい。』

 「りょーかい」


 HP1800で、VIT800程度の蛇など、警備隊の剣でも倒せる雑魚だよ。


 「では、行きます。」

 シュパッ!

 ドスン!


 蛇が鎌首を持ちあげた所に、クールが飛び込んで一閃。

 首が落ちて終了した。

 蛇が消えると、宝箱があった。


 『宝箱か。[アナライズ]罠は無いな。』

 「何か、全然ワクワク感が無いですね。」

 『低階層だからな。武具だったとしても、使える物は出ないだろ。』

 「中身はナイフでした。」

 『ちょっと見せてみろ[鑑定]うん。解体用のナイフよりも弱い。外に出たら売ってしまえ。』

 「では、進みましょう。」


 ボス部屋の奥にある階段を降りると、雰囲気がガラッと変わって、洞窟の様になった。


 『雑魚が犇めいている訳では無いんだな。次の魔獣は何だろなー?』

 「来ました。アンデッドの様ですね。」

 『じゃぁ、ワラビの出番だな。リズはお預けかな?』

 「畏まりました。[セイクリッドライト]」


 ワラビが光の玉を前方に出すと、光を浴びたゾンビがボロボロと崩れ落ちて行った。

 歩き出すと、光の玉が前方10mくらいの位置をキープして、一緒に動く様だ。


 『今回は集まらない代わりに、後ろからも来る様だな。後ろから来る奴をリズが倒せばいいんじゃね?』

 「ボロボロ崩れ落ちて行ってますが?」

 『あぁ、光が届くのか。まぁ、その内崩れない奴が来ると思うから、来たら頼むよ。』

 「判りました。」


 ダンジョンの中は、空気が澄んでいるので、背後から来たアンデッドにも、前方のセイクリッドライトの光が届き、崩れていく様だ。


 「壁や天井からも出て来てるみたいですが、出た傍から崩れていってますね。」

 『魔獣のアンデッドとは言え、神聖属性が有効みたいだな。』

 「ダンジョンのアンデッドには、魂は入っていませんが、肉体は死霊術で作られていますので、神聖属性が有効なのです。」

 『そうなのか。じゃぁ、この階は楽勝だな。』


 その後、特にボス部屋も無く階段に到着した。

 次の5階層目からは、マップは特に購入していないので、ルートは特に知らないのだが、まぁ、何とかなるだろう。

 因みに、壁や床で振動感知を使ってもルートの確認はできなかった。

 超音波を撃っても、数メートルで霧散してしまい、何も感知できなかったのだ。


 『次の5階層目からは、特にマップを買って無いから、手探りにはなるけど多分問題無いだろう。』

 「臭いで判りそうですか?」

 『俺は判らないかも知れないが、クールが判ると思うぞ。』

 「だといいんですが、スケルトンだったら判らないかもしれませんよ?」

 『大丈夫だろ。次はゴブリンだな。』

 「グレートファングより弱くなってませんか?」

 『錆臭いから、剣持ちのゴブリンかもな。まぁ何かあるんだろ。』

 「アルティスー、ホブゴブリンがいるよー?」

 『だそうだ。ゴーグル着けておけ。罠が見えるからな。』

 「了解」

 『階段見つけたら小休止して、おやつ食べよう。』


 5階は、通常のダンジョンらしく、スタンピードの様な感じでは無く、時々襲ってくるだけで、リズの剣でサクサク倒して進んだ。

 暫らく進むと、剣戟(けんげき)が聞こえて来た。


 『近くで戦ってる音が聞こえるな。ミュール判るか?』

 「この先の角を曲がった辺りだと思う。」


 十字路に差し掛かると、右側で戦士が5匹のホブゴブリンを相手に戦っているのが見えた。


 『戦士の後ろに怪我人がいるな。手伝ってやれ。』

 「そこの戦士!手助けは必要か?」

 「助けてくれ!仲間が死にそうなんだ!」

 ヒュッヒュヒュ!


 バックアタックとはいえ、リズの剣ではホブゴブリン程度は、豆腐の様に切れるので、一瞬で終わった。


 「た、助かった・・・ありがとうございます。」

 『一人が瀕死だな。他はポーションで治せる。俺は瀕死の奴を治すから、他を頼む。』

 「了解」

 『[治療術]』


 倒れていたのは、タンク、魔法師、ヒーラーの3人で、ヒーラーは右腕を切断されて、腹部に刺し傷があり、出血多量で瀕死状態だった。

 ヒーラーを治しながら、各々の装備をチェックしてみると、とてもじゃないがホブゴブリンの攻撃を(さば)けるような装備では無かった。

 まず、タンクの盾は木製で外枠を金属で補強しただけの物で、所々に穴が開いていた。

 防具も質の悪い鉄製のハーフプレートに鎖帷子(くさりかたびら)草摺(くさず)り、篭手は鉄製だが手の甲までしかなく、指部分は何もついていない。

 ブーツは全員革製で、防御力はほぼ無い物だ。

 ヒーラーに至っては、ローブの(たて)糸にほんの少しだけ、キャタピラーの糸が入っているのみだった。

 他は革鎧なのだが、使われている革がグレートファングの革で、防御力は低い物だ。


 『酷い装備だな。ステータスを見ても、とてもこの階層で戦えるとは思えないくらいに低い。よし、ヒーラーの回復は終わった。他はどうだ?』

 「全員ポーションで回復済みです。」

 「ありがとうございます。凄い薬を使って頂いたみたいで、費用を聞くのが怖いですが。」

 『ポーション代は不要だ。魔法師はMPポーション飲ませてやれ。』

 「??」

 「どうした?」

 「えっと・・・、念話の方はどちらにいるんですか?」


 いつもの事だけど、誰が喋ってるのか判らない様だ。


 『俺だよ。』

 「こちらの方は、バネナ王国の宰相様だ。」


 リズがアルティスの両脇を持って、戦士の男に見せた。


 『リズ、この見せ方は酷く無いか?』

 「すいません。暗いのでよく見せようかと思ったんですが。」

 「バネナ王国の宰相?この小さな獣がですか?」

 「このメンバーの中で、一番強いお方ですよ。」

 「マジかよ!?」

 『クール、後ろから3体来るから処理頼む。』

 「了解」

 「獣人?何言ってるのか判らないけど、強そうだ。」


 忘れそうになるが、冒険者にはアミュレットを渡して居ないので、クールの言葉を理解する事ができないのだ。

 この世界では、種族毎に言葉が違うので、人間は人間の言葉しか判らないんだよね。

 昔は共通語があった様だけど、今は使われていないらしい。


 ギャッギャギャ!

 「終わりました。」

 『ご苦労。この辺で小部屋探してくれ。そこでおやつにしよう。』

 「この壁の向こうが部屋になってるみたいです。入り口を探してきます。」

 『頼む。』


 クールが入り口を探し当てたので中に入ってみると、そこはモンスターハウスだった。


 「ヤバい!!モンスターハウスだ!逃げた方が良い!」


 中に居たのは、ゴブリンウォーリアとホブゴブリンが10匹ずつだ。


 『大丈夫だよ。[ショックインパクト]』

 バンッ!

 『残党の処理よろしく。』


 アルティスの魔法で半分が弾け飛び、残りはクールとミュールがサクッと片付けた。


 「つ、強ぇ・・・」

 『君らの装備と、そのステータスでは難しいな。』

 「・・・上の階でやってたんだけど、突然数が増えて、小部屋に逃げ込んだんですよ。そしたらそこに落し穴があって、気が付いたらこの階層に居たんです。戻ろうにも道が判らず、食料も尽きて、休み休み進んでいたんだけど、あのホブゴブリンの集団に出くわして・・・。」

 『そうか。不運だったんだな。とりあえず、食料は提供してやろう。ここは5階層だけど、4階層を通り抜けられるか?』

 「ご、5階層!?無理です。いつもは3階層で狩りをしているので、4階層のアンデッドには対処できない。」

 『ワラビ、ランタン作るから、そこに聖印刻んでくれないか?』

 「ワラビ?ワラビー・ライスケーキ様ですか!?」

 「はい。ワラビー・ライスケーキと申します。名乗るのが遅くなって申し訳ございません。」

 「あ、いや、俺達もまだ名乗ってませんでした。すいません!俺の名はトラギス、女戦士がミュール、魔法師がエルデン、ヒーラーがヒューイです。」

 『ミュール!?おいミュール、同姓同名がいるぞ?』

 「おおー!初めて見た!」

 「ワーキャットのミュール・・・?魔王軍四天王のミュール!?」

 『元な。今は違うぞ。』


 落ち着いて話せる様になって、色々と思い出して来た様だ。

 トラギスの顔色がコロコロと変わり始めた。


 「確か、魔王軍を倒したのは、バネナ王国の軍勢で、それを率いていたのが宰相で、アルティスという獣・・・あわわ。」

 『おう、良く知ってるな。バネナ王国の宰相アルティスだ。よろしくな。』

 「アルティス様の家臣、騎士のリズです。ワーキャットが家臣のミュール、氷狼族のがクールです。」

 『女戦士だったのか。タンクかと思ってたんだが、違うのか。』

 「3階層ではタンク役をやって貰ってました。盾で受けて、僕が斬って、魔法師が魔法で援護して、ヒーラーが補助魔法を掛けるんです。」

 『話しやすい口調で良いぞ。わんこを狩る方法としては、まぁ及第点だな。ステータスが上がって来ないとどうしようもないが、まずは自動回復を任意に切り替えろ。そのスキルは、罠だ。ヒーラーが居るんだから、怪我はヒーラーに治してもらえ。毎朝1時間剣の練習をするんだ。』

 「自動回復が罠?どういう事ですか?」

 『自動回復ってのは、ちょっと疲れるとすぐ発動するだろ?それだと鍛錬にならないんだよ。鍛錬ってのは、苦しい物なんだよ。ヘトヘトになるまで体に負荷をかけないと、STRは上がらない。身体強化は使える様になれ。身体強化を使うと、今の倍くらいのSTRになるから、効果が切れてから鍛錬を始めるんだよ。毎日外壁沿いを走って、腕立て伏せと腹筋、背筋も鍛えろ。全員でやるんだよ。特に、ヒーラーと魔法師は嫌がると思うが、魔獣に近づかれると何もできない様では、上なんて目指せないからな?』

 「バネナ王国の軍では、全員やっているんですか?」

 『やらせているぞ。王都の周りを毎日2周以上回ってる。魔法系の奴らには、短剣術か棒術、棍棒術を覚えさせている。自衛できなきゃ、戦力が分散しちゃうからな。それと、シーフを入れた方が良いな。罠を回避する手段は持っていた方が良い。敵の接近や戦闘補助ができる様になれば、不慣れな盾に頼る必要も無くなるだろう。』

 「シーフは居るんですが、この街でリンチされて、今は療養中なんです。」

 『あぁ、商人に妨害されたのか。流石タカール商会だな。このポーションをやる。これを飲ませれば、怪我は治る。だが、商人と結託している冒険者も多いから、自衛できるように鍛え上げろ。いいか?冒険者ってのは、全てが自己責任でやらなきゃならない。自衛も、自己責任の内だ。カノエ、こいつらに引率を一人付けてやれ。』

 「はっ!」


 カノエが返事をしたので、トラギスが驚いた。


 「ええ!?どこに居るんですか!?」

 『姿が見えないが、そういう立場の者だよ。我が国には、SSS級のシーフが居るんでね。カノエ、こいつらを地上まで連れて行ける者はいるか?』

 「引率役として、一人同行させましょう。」

 『今いるか?』

 「こちらに向かってます。」

 『よし、じゃぁそろそろ起きそうだし、食事にするか。リズ。』

 「はい。スケープゴートのステーキとシチュー、ピタパンでよろしいですか?」

 『それでいい。』

 「スケープゴート?不味いって話ですが・・・?」

 『この干し肉を食ってみろ。』

 「うお!?美味い!!なんだこれ!?あふれ出る旨味とスパイスの風味が凄く美味い!!」

 『その肉がスケープゴートだぞ。』

 「これが!?でも、これは味付がいいだけじゃ無いんですか?」

 『肉の質がいいから美味いんだよ。干しても適度な柔らかさで、脂身が無いのにジューシーだろ?それがスケープゴートの肉の特徴だ。臭みも無く、筋も無い。癖も無いし、旨味が濃い。こんないい肉を誰が不味いなんて言ったんだろうな?』

 「この干し肉は売ってるんですか?」

 『売ってるぞ。1つ銀貨1枚だがな。』

 「ブホッ!ぎ、銀貨1枚!?・・・あぁ、バネナ王国の王都で売ってる干し肉か!こんなに美味いのなら、手に入りにくいのも頷ける。」

 『ほら、ステーキも食ってみろ。美味いぞ?』

 「で、では、頂きます。・・・あむ・・・美味い!噛む度に滲み出る肉汁と、タレの相性がバッチリ!この香ばしいタレも凄く美味い!」


 トラギスが食べてる後ろで、女戦士のミュールが身じろいだ。


 「うーん、何かいい匂いがする。」

 グーギュルギュルギュルギュルギュル

 「はっ!?トラギス!エルデン!ヒューイ!あれ??ここは・・・?怪我が治ってる!?ヒューイの腕もある!?」

 「お!ミュール起きたか。助けて貰ったんだよ。こちらの方々は、バネナ王国の宰相様御一行だ。」

 「バネナ王国の宰相様御一行?何言ってんのよ?そんな人たちがこんな所に居る訳が無いでしょ!?」

 「驚くのも判る。でも本当なんだよ。滅茶苦茶強かったんだぜ?」

 『バネナ王国の宰相アルティスだ。残りの二人も起こして、こっちに来て飯を食え。』

 グーギュルギュルギュルギュルギュル

 「す、凄く良い匂い。ちょっと、エルデン起きなよ、ヒューイも起きて!ご飯食べよ!」

 グーギュルギュルギュルギュルギュル

 「ちょっと!早く起きて!引っ叩くわよ!?」

 バシバシ!


 引っ叩くぞって脅しながら引っ叩いてるよ。

 理不尽な奴だ。

 だが、中々に肝の据わったいい冒険者だ。

 冒険者とは命がけの職業で、常に命の危険に晒されながら、任務を遂行している者達だ。

 だから、今回の様に死ぬ思いをしたとしても、結果的に生きているのであれば、深く考えずに生きている事に感謝して終わる。

 泣いて喜ぶのは、欠損が治った時か、夢が叶った時くらいだろう。

 命に関しては、死ぬ覚悟を決めているので、生きている事に感謝をしても、死んでいない事に泣く事は無いのだろう。

 そうで無ければ、恐ろしい魔獣と戦うなんて事ができる訳が無いのだ。

 恐怖心というのは、防衛本能そのもので、無くてはならない物ではあるものの、強すぎる恐怖心は心を乱し、判断力を低下させて、身体能力に全振りしてしまうのだ。

 その反応は、逃げる為の力になるのだ。

 だが、何でもかんでも、闇雲に逃げれば解決する訳では無く、逃げる行為が逆に命の危機になる事も少なくない。

 また、強すぎる恐怖心は、筋肉を硬直させ、死を受け入れてしまうのだ。

 死を受け入れるのと、死を覚悟する事は全くの別物で、死を受け入れるとは、生きる希望が潰えた事を意味しており、死を覚悟するとは、生き残る希望を切り開く事を意味している。

 つまり、死を覚悟するとは、死ぬかもしれないとは思っていても、ただで死ぬつもりは無いという事だ。

 だから、体を鍛え、技を磨き、装備を整え、死なない努力をして、魔獣に挑み、経験を積んで、更なる高みを目指すのだ。

 何の経験も無く、死ぬ覚悟も無いのに、魔獣の懐に飛び込める奴なんて居ないと思っているよ。

 居るとしたら、そいつはただの馬鹿だ。


 「痛っ!痛い!痛いよミュール!止めて!」

 「ちょ!ミュール!?グーは止めて!!」

 「ほら、良い匂いがするでしょ?早くご飯食べよ!」

 「ええー?食べていいの?あの人達のご飯じゃないの?」

 『ほら、冷めないうちに食べろ。話はその後だ。』


 エルデンとヒューイは、互いに目を交わし、飛び起きて食事を食べ始めた。


 「うんまーい!!何だこれ!?食べた事の無い味!」

 「このステーキ美味い!スープも美味い!パンも美味い!」

 「この肉、何の肉なのかしら?凄くジューシーで美味しい。」

 「スケープゴートらしいぞ?」

 「はあ?スケープゴートの肉って、凄く不味いって聞いてるわよ?」

 「俺もそう聞いてたんだけど、実際は違ったって事だよ。」

 『噂なんて、当てにならないって事だよ。特に食べ物に関しては、食べてみて初めて判るんだよ。』

 「か、可愛い。こ、この獣は一体・・・?」

 「バネナ王国の宰相様だよ。失礼の無いように、気を付けろよ?」

 「バネナ王国の宰相って、アラクネの背後に隠れて威張るだけのクズって聞いてるけど、アラクネは居ないの?」

 『居るぞ。姿を現してもいいのか?』

 「居るなら見せて欲しいね。どうせ偽物だから、ハッタリだろうさ。」

 『ソフティー、姿を見せて。』


 アルティスの背後にスゥーッとソフティーが現れた。


 「うわー!?あ、あ、アラクネが本当に居た!?」

 「い、今までどこに!?」

 『ずっと目の前に居たぞ?一緒に飯を食ってたんだけどな?』

 「ヒイイィィ!殺さないで・・・。」

 『とりあえず、これを着けろ。それで会話ができる様になる。』


 アミュレットではなく、改良版の腕輪を4つ出した。

 この腕輪は、状態異常耐性と精神魔法耐性、言語理解とマジックバッグのみが付いている。

 サイズ調整機能も付いているので、ガントレットの下に装備しても、邪魔にならない様にしてある。

 チタン合金製で、この冒険者にあげるにはピッタリだ。


 「腕輪?これを着けると、アラクネと会話ができる様になるんですか?」

 『獣人とも話せる様になるぞ。』

 『アラクネクィーンのソフティーだよ。よろしく。』

 「本当に言葉が判る!?あ、トラギスです。よろしくお願いします。」

 「み、ミュールです。よろしくお願いします。」

 「あわわわ、え、える、エルデンです。」

 「ヒューイです。」

 『その腕輪はお前らにやる。腕輪に魔力を流せ。』

 「光った!これ、高いんじゃないんですか?」

 『国宝級だな。お前等専用になったから、売っても誰も使えないがな。状態異常耐性と精神魔法耐性、マジックバッグと言語理解が付いている。マジックバッグは、生物は入らず、時間が停止するから、食料の保存が可能だ。サイズは、そのバックパックと同じくらいの容量だが、剣と防具一式を入れても、余裕は残る。但し、気を付けて使えよ?人前で堂々と使うと、腕ごと斬り飛ばされて、持って行かれるかも知れないからな?』

 「凄い!本当に貰ってもいいんですか!?」

 「外で使う時は、気を付けて使わないと。」

 「状態異常耐性と精神魔法耐性って、普通の魔道具は一つしか付けられない筈ですが?」


 そう、ヒューイが疑問に思っているのも判る。

 街で売っている魔道具を見ても、普通は一つしか付与されていないのだ。

 理由としては、魔道具師の熟練度が低いというのと、工夫が足りないので、魔法陣を複数書き込めないのだ。

 アルティスが作る魔道具の場合は、積層型魔法陣と五角形の魔法陣を使用する事で、効率よく魔法を付与する事ができている。

 宝石や魔石に付与する場合は、立体的に書き込めるので、中に正多面体のスロットを作成して、その面に魔法陣を書き込んでいる。

 アルティスの理論上では、最大20個までの付与が可能となっている。

 宝石の場合は、気泡やクラック、不純物が入っていない事が条件で、例外は今の所オパールのみだ。

 オパールはマーブル模様が特徴的な宝石だが、何故か積層型のスロットを作成する事が可能で、最大7つの魔法を付与する事ができるのだ。

 但し、クラックや石が入っている事も多い為、7つの付与ができる事は滅多に無い。


 『そうだな。未熟な魔道具師が作ると、1つ付与するだけで精一杯だな。』

 「未熟・・・。どうやったら、こんな事が可能になるのでしょうか?」

 『簡単な話だよ。常識を捨てて、工夫するだけだ。魔法陣が円形しかないなんて、誰が言ったんだろうな?』

 「え?でも、魔法を転写すると、魔法陣は丸いじゃないですか。」

 『丸いな。だが、多少歪な円になっても発動するじゃないか。円じゃなければ発動しないのであれば、歪な円で発動はしないだろ?』

 「確かに!あれ?この腕輪の表面には、魔法陣が刻まれていませんよ?」

 『何故表に出す必要があるんだ?どこかにぶつけて、傷がついたら使えなくなるじゃないか。』

 「でも、普通は表面に刻んでありますよね?」

 『ランタンの魔法陣は中に刻んであるが?ちゃんと光ってるじゃないか。』

 「でも、ランタンは中で光らせているから、見えない所にあるだけですよ?」

 『耐性も外側じゃなくて、使用者の体に使ってるが、何か違うのか?』

 「じゃぁ何故、外側に刻んであるんでしょうか?」

 『技量が無いだけだな。(のみ)と槌でコツコツやるから、内側に彫るのが大変なだけだろ。錬金術を使えば簡単にできるのに、何で頑張れないんだろうな?』

 「MAGが低くてMPが持たないからでは?」

 『魔道具師を生業としているのに、何故MAGを増やさないんだ?毎日コツコツ練習するだけで、増えるだろ?リズだって毎日コツコツ練習してMAGを3000まで増やしたんだぞ?』

 「リズ?」

 「私の事です。」

 「え?騎士なのにMAGが3000もあるんですか!?魔法師なんですか?」

 「剣士ですよ。魔法は使えた方が便利なので、毎日練習しているんですよ。」


 世間一般では、戦士や騎士は魔法が不得意とされているのだが、前衛職であっても、後衛から離れられると何もできないでは、役に立たないのだ。

 弩を持たせるという手もあるのだが、場所を選ぶのと、装備が重くなるし、矢が無くなれば打つ手が無くなるので、結局は変わらない事になる。

 それに、魔力感知や暗視が使えると、優位に立てるのもあるが、MPが多い程、死に難くなるのであれば、増やさない手はないのだ。


 『常識に囚われてはいけないって事だ。MPも多ければ回復ができるし、死に難くなるんだから、増やした方がいいだろ?使える手は、何でも使え。何もしないで死ぬよりも、努力して生き延びた方がいいだろ?』

 「魔法は苦手なんだよなぁ。」


 戦士のミュールも魔法が苦手らしい。


 『練習すればいいだけなんだが、[ウォーター]この水を使って、形を変える練習をするんだよ。最初は、簡単に四角い形から三角錐、円錐、五面体、慣れてきたら目の前にある物を参考にして、色んな形にする。それも慣れたら、形を維持したまま回す。形を細長くして、圧縮する。水に戻して、色を付ける。動きを真似してみる。面白いだろ?』


 4人は、アルティスの出した水の玉が、色々な形に変わり、クルクルと回ったり、細長くなったり、ネズミの形になって、本物そっくりになったのを見て、目を丸くしている。


 「す、凄い!帰ったら練習します!」

 「こんな練習法があったなんて。いつも練習する場所の確保に、困っていたんです。これなら宿でもできる。」

 「戦士でも練習した方が良いって事ですか?」

 『当然だ。我々の様にヘッドライトを装備している訳でも無いんだから、ランタンが壊れたら何もできなくなる様じゃ、困るだろ?こんな消耗品に頼ってないで、暗視くらい日常で使える様になれ。ウォーターでもオークを倒せる様になるし、誰でも鍛えれば使えるんだから、覚えない手はないだろ?』

 「ウォーターでオークを倒す!?どうやって!?」

 『細長くして圧縮して、飛ばす。』

 シュッ!カシャン!

 「アルティス様は、ウォーターでワイバーンを3体同時に倒しましたしね。」

 「ワイバーンを3体同時に!?」

 『それをやるには、MAGが6000以上無いと無理だがな。まぁ、練習しろ。ゴブリンの顔にウォーターを纏わせてやれば、勝手に溺れ死ぬから、それができる様になれば、オークも同じ様にして倒せる様になるぞ。』


 4人が魔法の練習をやる気になった様で、宿に戻ってから、みんなで練習しようって騒いでる。

 と、そこに4人を引率する暗部が到着したのだが、装備が汚れと傷にまみれている。


 「遅くなりまして申し訳ございません。エララと申します。」

 『ん?何かボロボロだな。どうしたんだ?』

 「1層目と2層目がスタンピードの様な状況でして、通り抜けるのに時間が掛かってしまいました。」


 暗部の装備は、基本的にワイバーンの革とサンドワームの革、それとロックリザードの鱗を使っているのだが、幾ら硬いとはいえ、どうしても抗えない物が存在している。

 それは、虫系魔獣の咬みつき攻撃で、虫系魔獣の唾液は強酸の場合が多く、石臼の様な歯と、鮫の様な歯で咬みついてくると、酸で脆くなった所に歯が当たって、破損してしまうのだ。

 魔力で表面の保護をしている場合でも、酸による劣化はあるので、全くの無傷でやり過ごす事は、ほぼ不可能と言っていい。

 何をどうしたって無敵なんてあり得ないし、形ある物いつかは壊れる、そういうもんだ。

 

 『今は1層と2層がそうなってるのか。引率を増やした方がいいな。コボルト隊はダンジョンに向かえ。スタンピード状態らしいから、鍛錬がてら暴れてろ。』

 『了解!』

 「コボルト!?ここにいるんですか!?」

 『外に居るんだよ。1層目と2層目の掃除をしてもらうんだよ。』

 「え?コボルトって弱いって聞いた事がありますが・・・。」

 『我が軍のコボルトは、オーガも倒せるからな。問題無い。』


 バネナ王国軍のコボルト達は、身長が約140㎝前後と小柄ながら、戦闘力としては豹人族に少し劣る程度の機動力と、狼人族に少し劣る程度の剣捌きで、全く弱くない。

 通常は、リーチを稼げないので、4人一組で戦っている。

 武器は鳶口と短槍だったのだが、鳶口を一々着けたり外したりと忙しいので、最新装備は片鎌槍という、トの字型の穂先にしている。

 これの利点は、突きだけでなく薙ぎ払いにも有効で、鎌の部分は両刃になっているので、深く刺せば横に広く傷を負わせる事ができる様になっている。

 グレートファング程度なら、特に気にする必要は無いだろう。

 因みに、1層目と2層目は敵が出て来なかったのだが、本来は1層目がゴブリンで、2層目がロリポリという中型犬サイズのダンゴムシらしい。

 ダンゴムシのスタンピードとか、ちょっと見たくないかも。


 「オーガより強いコボルトって・・・。」

 「そんな事より、ロリポリの大群とか見たくないんだけど!?」

 「あんなのが大量に転がって来るとか、恐怖でしかないよね。」

 『俺等が通った時は、何も居なかったんだけどな。』

 「それは羨ましいですね。」

 『そうだ、携帯食料を渡しておこう。エネバーとジュースだ。10日分ずつ渡すけど、美味しいからって一度に食べると、苦しむ事になるから気を付けろよ?』

 「苦しむ?」

 『腹の中で膨らむんだよ。1回につき1個で十分になる様に作ったんだから、2個も3個も食べれば、当然腹がパンパンに膨らむ事になるからな。』

 「う、気を付けます。」

 『ちなみに、エネバーは非売品だが、1個金貨10枚相当らしい。』

 「は?金貨10枚相当!?売ったら駄目ですよね?」

 『試食と称してバクバク食われて終るだけだぞ?数が限られてるんだし、この街の商人なら、まず間違いなく買い叩くだろうな。散々食われた挙句に、銀貨1枚とか言って来そうだろ?』

 「・・・あり得ますね。」

 『腕輪を奪おうとしてくる可能性も高いからな。俺から貰った物は、売らない方が身の為だ。』

 「そうします。」

 『さっき渡したポーションも入れておけよ?シーフの分の腕輪は、直接会ってから渡してやるよ。もし腕輪を売ろうとしたら、引率のエララが腕ごと回収する。かもしれないな。』

 「ヒイイィィ」


 魔法師の腕輪が光った。

 さっき魔力を流せと言った時に、魔法師は魔力を流さずにシレっとしていたのだ。

 高価そうだから、売ろうと考えていたのだろうが、そんな事は許すはずも無い。

 どうせ、この街では二束三文にしかならないだろうしな。


 『それと、魔石の値段は下がっていると思うぞ。金に余裕があるのなら、買い集めておいて、他の街で売れば一攫千金かもしれないぞ。』

 「外に出たら確認してみます!」

 『よし、じゃぁそろそろ休憩は終わりだ。エララ頼むぞ。』

 「お任せください。」

 『じゃぁ、またな!』

 「ありがとうございました!お気を付けて!」

 「ありがとうございました!」


 さて、探索を再開しますかね。

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