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第72話 タカールの大群と魔人の封印

 「おい、王城に案内しろ。」

 「お、王城に何の用だ!行かせる訳にはいかない!」

 「バネナ王国の宰相様が訪れたんだ。王城に挨拶するのは当然だろう?」

 『熱烈な歓迎も受けたしな。答礼してやらなければ、失礼になる。』

 「と、答礼など必要無い!この国から出て行け!」

 『あの暴走しそうな魔力炉を見て、素通りはできないなぁ。爆発でもされたら、我が国にも被害が及ぶかもしれないしな。』

 「あれは、あの状態が平常運転だ!何も問題は無い!」

 『あれが爆発したら、この国は跡形も無く消し飛ぶんだぞ?』

 「そんな事には成らない!勇者が他の5つを爆発させても、街は消し飛ばなかったんだ!」

 『廃墟になってるじゃねぇか。大体、勇者は他の魔力炉を止めただけで、魔力炉の爆発は引き起こしていない筈。爆発で壊れたのは、魔術師が上級魔法を撃った所だけだろ?』

 「上級魔法を撃ち込んでも爆発しないのなら、今のままでも問題は無い筈だ!」

 『安定した魔力炉は爆発しなかっただけだろう?だが、ここの魔力炉は暴走中だ。何かのバランスでギリギリもってる状態だが、それが外れれば地面を割りかねない程の大爆発が起こるだろうな。そもそも、タカール商会は遺跡の中のシェルターに篭ってるんだろ?』


 ふと、ある仮説がアルティスの脳裏を(よぎ)った。

 その仮説とは、シェルターのダンジョン化だ。

 そして、そのダンジョンのマスターがヨーク・タカールで、自分のコピーを大量に生み出しているというもの。

 ダンジョン産のモンスターが商人として活動していて、国を動かすなんて荒唐無稽にも思えるが、元々が商人で知能があるのであれば、自分の能力をコピーして、外の世界で商会をやる事は可能だし、ダンジョン産の魔獣がダンジョンの外で活動できない訳でも無いと思う。

 セイレーンの島でゴブリンスタンピードを経験しているので、ダンジョンマスターの許可があれば、問題無くできると思う。


 『ヨーク・タカールってダンジョンマスターか?』

 「ち、違うぞ!?本当だからな!違うぞ!!」


 滅茶苦茶表情が正解ですって言ってるのだが、口では違うと言い張る。

 だが、鑑定を使ってみれば、一目瞭然だった。


 『デミヒューマンになってるな。』

 「魔獣なんですか!?あ、本当だ。ゴーグルでもデミヒューマンになっていますね。」


 どういうことかと言うと、隠ぺいや認識阻害と、鑑定偽装は殆ど同じ魔法を使っていて、疑いを持っていなければ看破する事は難しいのだ。

 これは、MAGが高ければちょっとした疑問だけで看破できるのだが、意外にちょっとした疑問を持つという事自体が難しいのだ。

 例えば、ゾンビの群れの中に人間が居れば、こいつは本当に人間か?と疑問に思う事はあるが、人間の中に居れば、腐臭がしたり腐りかけていない限り、人間かどうかを疑うなんて事は普通はしない。

 たとえ門番であっても、見た目が普通ならスパイを疑う事はあっても、種族を疑う事は殆ど無いのだ。

 だから、こいつらの様に、種族の部分だけを集中的に偽装されると、それを見抜く事も難しくなるのだ。

 では、このデミヒューマンとはどういう魔獣なのかと言うと、魔石を持った人間で、先のサンディール第二王子に化けた屁ゲロも、デミヒューマンの一種だ。

 だが、あれはアンデッドで、こっちのはアンデッドでは無く、人間の姿をした魔獣なのだ。

 違いは、死んだ人間を元にしているか、魔力が元になっているかの違いで、デミヒューマンはダンジョン産以外では、確認された事は無く、ダンジョンマスターが人族の場合のみ出現が確認されているのだ。


 『それで全部ヨーク・タカールなんだな。という事は、王城かタカール商会が、ダンジョンの入り口になっている可能性が高いって事だな?』

 「そうですね。」


 この街には魔力炉があるので、ダンジョンのエネルギーには事欠かないのだろうとは思うが、商会を営む関係上、人間を減らす様なダンジョンにはならず、作り出す魔獣がデミヒューマンだけになり、どこかのタイミングでエステルを作っているのだろう。

 因みに、獣王帝国に居るであろうアラクネも同じ名前で、エステルという名なのだが、多くは無いが人間の名前としては、割と居る名前なのだそうだ。


 「ううう・・・が・・・がが・・・」


 何やら呻き声が聞こえて来たが、デミヒューマンが巨大化しようとしてた。


 『何だ?変態し始めたな。[ホーリーボックス]』

 「変な趣味に走ったのですか!?」

 『そっちの変態じゃねぇよ。お前と一緒にすんな。』

 「ちょ!?私は変態ではありませんよ!あの時見られたのは想定外でしたが、あれ以来やっていませんからね!?」

 『そうか?この前、王城の風呂の前でー』

 「!?わー!待って待って!あれはちょっと痒くなったから掻いただけで、たまたまそうなっただけですからね!」

 『たまたまかどうかは問題じゃなくて、あの往来の多い場所でやる事が問題なんだよ。』

 「ですから!反省してます!反省していますよ!!」

 『ウルファに怒られてたもんな。』

 「あんなに怒られるとは思いませんでしたが。」

 「あのー、放っておいて良いんですか?あれ。」

 『問題無い。どのくらいの大きさになろうとしたのかは知らないが、一々待ってる訳ねぇだろ。』

 「ですよねー。アルティス様ですもんねー。」

 『何だよ?でかくなるまで待ってた方が良かったのか?』

 「いえいえ、あのブヨブヨのままでは苦戦しそうですし、進んで戦いたいとは思いませんが、冷静に対処するのがアルティス様らしいなと思いまして。」

 「リズさんは、一体何をされたのですか?」

 『それはな、廊下のど真ん中で「わーわー!?聞かないで!アルティス様も言わないで!」なんだよ、面白いのに。』

 「面白くありません!!」

 『ウルファがさぁ、タオルで必死に隠してんのが面白かったけどな。』

 「気になります。」

 「気にしなくていいの!」

 『しかし、こいつ死なないな。どうなってんだ?』

 「解除したらどうなるんですか?」

 『一気に広がって、建物にも被害が出るかも?』

 「それでは解除できませんね。」

 『そうだな。[ドライ]あ、死んだ。』


 肉の塊っぽかったのが、ドライに因って水分を抜かれ、中で張りつめていたエネルギーが弾けて、まるでポップコーンを作ってる鍋の中の様な状況になっている。

 ただ、ポップコーンの様に膨張して勢いよく弾けてる訳では無く、魔力による運動エネルギーが逃げ場を探して動き回ってる状態の為、解放しなければ爆発するだろう。


 「烏合の衆が集まって来てますし、これ使えませんか?」

 『死人出そうだが、まぁ俺達を殺しに来てるんだから、まぁいいか。一部開放っと。』

 ズドドドドドドド


 1メートルちょいの高さの所を少しだけ開くと、逃げ場を見つけた運動エネルギーが勢いよく飛び出し、元肉片や骨の欠片と共に、周りに集まっていた連中を薙ぎ倒した。


 『ワラビ!布教のチャンスだ!』

 「はい![エリアヒール]!」

 「布教って、完全なマッチポンプじゃ・・・?」

 『言うなよ。ワラビにバレるだろ?』

 「向こうじゃなくて、こっちを騙したんですか。」

 『さっきの仕返しか?なら俺は、ウルファに愚痴を』

 「何でウルファに愚痴るんですか!?怒られそうだから止めて下さいよ!」

 『何ニヤけてるんだ?』

 「え!?うそ!?ニヤけてなんて無いですよ!」

 『冗談だよ。』

 「・・・。」

 『さて、王城に向かおうぜ。』

 

 治療した連中に、布教用のチラシを配るワラビをリズが引っ張って歩き出した。


 「皆様に、ビオス様のご加護があらんことを。」


 ワラビに向かって跪いて、手を合わせている連中が多数いるので、布教は上手くいった様だ。

 聖女の称号や職業に、洗脳や思考誘導が備わっている訳では無く、純粋にワラビの人柄や包容力による布教だから、アルティスは利用できる時に利用するのだ。

 特に、神聖魔法の強化には、信仰の力が必要だと思われるので、ワラビの活動に協力しているのだ。


 『もうすぐ王城だ。気を引き締めろ。何が来るか判らんぞ。』

 「もう集まって来ている様ですが。」

 「嫌な気配がします。」


 魔力感知には、王城の中から集まって来る点が多数写っていて、幾つかを確認してみたが、全てタカールの顔が付いていた。


 『気持ち悪いな。スクショ撮って、タカールに見せてやりたいぜ。』

 「うわぁ、全部あの顔じゃないですか。気持ち悪い。」

 「[セイクリッドフィールド]!!」


 あまりの気持ち悪さに、ワラビが神聖領域を発動した。


 「ヒギャー!」

 「ギョエー!」


 何故か苦しみだした様だ。


 『何で効果があるんだ?デミヒューマンってアンデッドでは無いんだよな?』

 「アンデッドではないですが、アンデッドに憑依された個体も居るようですし、それぞれの様です。」

 『そういうパターンもあるのか。』


 魔獣のデミヒューマンではあるが、霊魂系のアンデッドには、憑依しやすい依り代として使いやすいのだろう。

 また、悪魔が依り代として利用する事もある様で、どちらにしても神聖魔法には弱いので、効果がでているのだろう。

 いずれにせよ、アンデッドと悪魔の選別ができているのであれば、後は残りカスを殲滅するのみで、対処が楽という事だ。

 因みに、憑依された状態で憑依している霊魂を倒すのと、引き離してから霊魂を倒すのでは、結果に大きな違いが出る。

 憑依されたまま霊魂を倒すと、その依り代は霊魂の肉体としての認識?解釈?まぁ、どちらでもいいが、制御しているのが霊魂なので、肉体ごと霊魂も死ぬ。

 憑依状態を解除すれば、霊魂が抜けた体は元の持ち主に返されるか、魂の抜けた体として倒れる。

 これは、デミヒューマンとして作られたか、生身の人間かによって違う結果になるという事だ。

 元の魂が生きているのであれば、その肉体は元の魂に引き継がれ、息を吹き返すのだ。

 だが、デミヒューマンとして作られた存在の場合は、霊魂の持つ魔力が抜けると、精神を入れられる前の状態になるので、生きてもいないし、死んでも居ない人形になる。

 それがどういう状況かといえば、真っ新な魔石とホムンクルスの様な体を持つ人形で、細胞単位で言えば生きているが、人間としては死んでいる状態で、シャーレの中で培養されている肉という状態かな?

 もちろん内臓何てものは無く、あるのは胃と短い腸くらいで、食事は摂れるが排泄機能は無い者が多い。

 ホムンクルスの場合は、人間のパーツを組み合わせているので、魔力で臓器を動かしたり、臓器に似せた別の物が入っていたりする。

 そう考えると、ホムンクルスは非常に燃費が悪く、デミヒューマンは燃費がいいと思える。

 何の燃費かと言うと、魔力消費量の事だよ。


 今襲ってきているのは、デミヒューマンと羽虫で、羽虫はタカールの顔と赤子の体に虫の羽がついている奴だ。

 神聖領域に入ると、殆どが落ちるのだが、通り抜ける奴も少なくないので、それをリズが切り落としている。

 切る時に抵抗が無いとはいえ、素振りとほぼ変わらないとしても、人間である以上は疲労が蓄積するので、代わりの戦力が必要になってくる。


 『ソフティー、網をお願いできる?』

 『判ったー。』

 『リズも少しセーブしろ。最後までもたないぞ?』

 「判りました。」


 ソフティーが3方向にネットを張り、通り抜けようとする羽虫が触れると、サクサクと切れて行く様になったのだが、それを見たリズがムキになって剣速を上げたのだ。

 別にリズが役に立ってないという訳では無く、大変そうだから少し楽になればと思ってやって貰ったのだが、プライドを傷つけてしまった様だ。


 『リズ、少し休憩した方がいいんじゃないか?』

 「どうやって休憩するんですか?」

 『ソフティーの糸を張っていれば、勝手に切れてくれるよ。こっちで昼飯食おうぜ。』


 結界で8畳間程の空間を作り、テーブルとイスを出して、予め用意しておいたカレーとご飯、とんかつを出した。


 『カツカレー!!』

 「サラダは無いのですか?」

 『相変わらず、サラダが好きだな。』

 「カレーは少し重いので。」


 ワラビ用にサラダを出した。

 ワラビは小食なので、半ライスでカレーライスを作り、とんかつは2切れのみ乗せて、ボウルに盛ったサラダをモクモクと食べ始めた。

 対して、リズとソフティーは、フードファイトばりの超大盛カレーライスにとんかつを5枚乗せて食べている。

 今日のカレーはビーフカレーで、少し濃い目でドロッとしているタイプだ。

 結界で囲っているとはいえ、匂いは外に漏れるので、周辺の路地には匂いに釣られた孤児達が集まって来た。


 『この街にも孤児が沢山いるみたいだな。ワラビ、少し配ってやれよ。どうなるか判らないけど、彼等にご飯を分けてあげるのは問題無いだろう。』

 「畏まりました。」

 『狼人族とコボルトで炊き出し要員出すぞー。あ、危険だから亜空間で食べさせるか。対象は孤児のみ。大人は貧困層のみで、他は除外。全員マジックバリア装備の上、来い。人数は、狼人族5人とコボルト10人。ポーションと聖水を多めに持ってこい。』

 「私は、炊き出しの方で待機していればよろしいですか?」

 『いや、王城の中には入ってもらう。敵だらけだから、近接のできないワラビでは、リズが居なければ守り切れないだろう。』

 「畏まりました。」

 『準備完了しました!』

 『[ワープゲート]路地に孤児が居るから、対応してくれ。基本は亜空間で頼むよ。魔力炉が爆発する危険性もあるから、気を付けてな。』

 「了解!」


 今回も両手にレードルとターナーやスパチュラを持って出て来たのだが、すかさずヒノエが止めに入って、ポーズを決めるのは諦めた様だ。


 『子供達を楽しませるのなら、やってもいいぞ。亜空間で爆発は厳禁だがな。』

 「おお!!」


 亜空間の様な、狭い密閉空間で爆発なんて起こしたら、一瞬で空気が無くなるし、爆風も逃げる場所が無くなって、被害が出るからな。


 「すぐに準備に取り掛かります!」

 「・・・。」


 意気込む狼人族を横目に、ワラビが呆れた様子を見せていたが、何事も無かったかの様に路地裏に入って行った。

 一方、羽虫とデミヒューマンの方は、ダンジョン産という事もあり、死体は残らず魔石がボトボト落ちて積み上がっている。

 コボルトの一部は、ブルドーザーのバケットの様な物を取り出して、魔石の回収を始めた様だ。

 ダンジョンの中であれば、一定時間死体が残って、魔石を回収しなければ死体と共に消えるのだが、ここはダンジョンの外なので、死体は数秒で消え去り、魔石はその場に残る。

 その場に残った魔石は、冒険者ギルドに売る事ができるのだが、ここにある量を売りに出せば、当然暴落するだろうし、暴落すれば冒険者の食い扶持が無くなり、一斉に他の街への大移動と共に、近隣の街でも暴落する事態が目に見えている。

 殆どの魔石は、ゴブリンの魔石程度の大きさの様だが、度々ホブゴブリン程の大きさの物が混じっているので、それらも含めて暴落すると、この街ではハイパーインフレが起きてしまうかも知れない。

 何事も、需要と供給のバランスが崩れてしまうのは、良い事では無いし、悪い影響しか及ぼさないのだ。

 特に、魔石は魔道具のバッテリーの役目を持っている為、魔道具の値段が暴落する可能性もあり、暴落して利を得るのは、貴族と商会しか居ないだろう。

 すぐに売りに行っても、大量に持ってると思われれば、買い叩かれるだろうし、マジックバッグを持っていない者であれば、大した量を持てる訳は無く、特に貧民や孤児がかき集めたとしても、奪われる危険性を孕むだけで、良い事は無い。

 そして、その辺の砂利と同様に扱われる様になれば、掃き溜めに集められて、扱いが雑であれば魔力暴発の危険性もあり、更に状況が悪化するのだ。

 たとえ、ゴブリン程度の魔石であっても、それなりの量があれば、一区画を消し飛ばす程度の威力になり、甚大な被害を及ぼすだろう。


 「魔石大量。マジックバッグ足りない。どうするですか?」

 『アミュレットのタンクに入れてもダメか?』

 「その手があった!」


 魔石は、魔力の塊なので、アミュレットのMP補充に使ってしまえば、かなりの消費ができるだろう。

 コボルト達の持っているアミュレットのタンクは、3000程しか入らないのだが、ゴブリンの魔石の魔力は100個でも1に満たないので、かなりの量が入る事になる。

 コボルト達の様な、常に活発に動き回る種族の場合、MPタンクの残量は常に半分以下になっており、いつもカツカツなのだ。

 何に使っているのかと言えば、体臭の隠ぺいや蚤の除去、水たまりを作って水浴びをするなどの生活魔法が中心で、コルスが近くに居ると、全力で嗅覚のカットを発動しているそうだ。

 コボルト達の嗅覚は、犬と同等か、強化されたくらいの状態なので、100メートル以内にコルスかコリュスが来ると、見えなくても判るそうだ。


 ワラビが路地裏から子供達を引き連れて出て来た。

 そこにすかさずゴロツキが集まろうとしたが、コボルト達が阻止している。

 舐めてかかったゴロツキが、次々と倒されて逃げて行き、子供達はコボルトの活躍に歓声をあげた。

 身長が子供達と然程(それほど)変わらないのに、でかい大人をサクサクと倒して行く姿は、かっこよく映るのだろう。

 子供達を亜空間に連れて行き、席に座らせてから、確認をしながらそれぞれに食事を与えていく作業は、順調の様だ。

 ここに作った亜空間は、実はここにある訳では無く、バネナ王国の王都の中に繋げている。

 そんな事をした理由は、魔力炉が暴発した場合に高濃度の魔力に当てられても、亜空間を維持できるか判らないからだ。

 なので、王都に作った亜空間にワープゲートを繋げて、ここに設置したという訳だ。

 万が一、ワープゲートが壊れたとしても、イメージとしては、トンネルの入り口が壊れただけで、出口には殆ど影響が無いという感じ。


 亜空間は、基本的に作った場所の空間の狭間という、そこにあるが、そこにある事を認識できない空間にある。

 説明するのは困難なのだが、ワープゲートの入り口を作る時にできる空間の狭間を利用している。

 ワープゲートは、空間の狭間を拡げて、目的地の空間の狭間を繋げているので、その狭間と狭間の間にある薄っぺらい空間を拡張する事で作った部屋だ。

 空間の拡張も要は亜空間を利用しているので、その亜空間自体に出入口を作っただけだ。

 空間拡張は、元の部屋に亜空間を繋げて、部屋自体を亜空間のサイズに合わせて拡大しただけなので、部屋にする為の小さな箱を魔道具の中に仕込んで、魔法陣で広さを確定させてしまえば、後は起動する為の魔力を流すだけで、タンクのMPを消費して部屋を作る事ができるのだ。

 ここで、自由度を高くしてしまうと、消費するMPの量が足りなくなる可能性も出て来るので、基本的にはサイズと出入りの方法を決めて作るようにしている。

 空気穴の作成については、オプション用の魔道具を取り付けてあるので、それを空気穴を設置したい場所で起動させれば、勝手に繋がるようになっている。


 『問題は、魔力の濃い地域で育った子供達が、魔力の薄い地域に行っても、問題無く過ごせるかどうかだな。』

 「問題が出ると思いますか?」

 『大人であれば平気だとは思うんだけど、感受性の高い子供では、異常が出るかも知れないな。』


 懸念しているのは、急激な環境の変化に体が対応できるか、判らないという事だ。

 空気の濃度では無いので、どんな変化が起こるのかが、予想できないのだ。

 特に子供の場合は、適応能力が低い可能性があるので、何らかの変化がある事が予想される。

 魔力濃度の違う場所に移動した時の変調なんて、誰かが調べたなんて、聞いた事も無いからな。

 ただ、何の変化も無い可能性も高い。

 理由としては、円形山脈の温泉に入っても、誰一人として体調に変化を感じた者が居なかったからだ。

 あの温泉は、超高濃度の魔力を含んでいたのにだ。

 とはいえ、不安ではある。

 魔力やマナといった謎エネルギーは、一定の性質ではなく、呪文や魔法陣、将又(はたまた)体質や地形などの影響を受けやすく、簡単に変質してしまう。

 この街に充満しているのは、マナではなく魔力であり、マナと魔力では酸素とメタンガスくらいの差があるのだ。

 マナは、使う前のエネルギーで、魔力は使った後の残滓と言えば判り易いかな。

 そして、微妙に混じる闇属性が不気味でもある。

 つまり、闇魔法に関連する何かの魔法を利用した炉という事なのかもしれない。


 闇属性自体に害はないが、関連する魔法は殆どが害を(もたら)すものばかりなのだ。

 もちろん害をなさない魔法もあるが、数は少ない。

 認識阻害や隠ぺい、鑑定偽装や鑑定妨害などが闇属性魔法と、無属性魔法の混合魔法だ。

 それ以外にも、以前ゴブリンダンジョンで使った、アブソリュートゼロも氷属性魔法と闇属性魔法の混合魔法だな。

 現在は魔力炉と言われてはいるが、元々は街を防衛する為の装置だったのかもしれない。

 1基でここまで大量の魔力を吐き出す程の魔法が、何なのか迄は判らないが。


 『子供達に異変は無いか?』

 『特にありません。お腹いっぱいになった子達は、フカフカのベッドで寝ています。』

 『そうか。異変があったら教えてくれ。』

 『了解』


 狼人族の決めポーズの結果は、誰も口にしないので、多分滑ったんだろうと思う。

 空腹で死にそうな時に、目の前に美味しそうな食事があれば、意識はそっちに集中しているので、よく解らない決めポーズなど見せられても、早く食わせろとイラつくばかりで、反応など無いだろう。

 暗部達は、路地裏に居た孤児達を連れて来ていたが、途中からガリガリにやせ細った子供達を運んでくる様になった。

 元気な子供達は、多少の空腹は我慢できるのだが、度を越えると流石に動けなくなり、徐々にやせ細っていく。

 それ以外にも、病気や無口、奇形や髪の色などでも捨てる親が居るのだ。

 病弱な子供は、ただでさえ死にやすいのに、捨てられてしまえば、自分で食べ物を探す事は困難で、孤児院からも拒否られる事があり、やがて動けなくなって死んでしまう。

 奇形の子は、奇形になる部位は様々だが、痣や欠損、変形などがあれば、まるで犬猫の様に捨てられてしまうのだ。

 比較的分かりにくい弱視や難聴の子供達は、幼児期になるまで判らない事が多い為、自我が芽生えてから捨てられてしまうのだ。

 この場合は、半分は殺され、半分は売られる事が殆どで、売られた場合は闇奴隷にされて、売られるかこき使われるかしかない。

 売値も安いので、売られた先で生きていられるかは、運次第。

 生きていられたとしても、そっち系の連中はこの世界にもいるので、待っているのは地獄しかない。

 今回、暗部達に運ばれて来た子達は、その中でも幸運だと言えるだろう。

 瀕死でも重症でも、ワラビが治してくれるのだから。


 「アルティス様!死にそうな孤児が沢山いるそうです!手伝って頂けませんか?」

 『・・・行きたいが、ここを離れる訳にはいかない。誰か他の奴に手伝ってもらえ。』

 「畏まりました。」


 特に何をしている訳でも無いのだが、敵の狙いがアルティスである以上、この場を動く訳にはいかないのだ。

 ましてや、子供達が居る場所に行くなど、以ての外だ。

 では、何か対処をしないのか?と言われても、あっちは無限の魔力、こっちは有限の魔力ともなれば、結果は考えるまでも無い。

 まぁ、本当に無限なのかといえば、そうでは無いだろう。

 現に魔力炉の吹き出す魔力が、目に見えて減ってきているのだから。

 そして、目の前には無数のタカールがいて、ボトボトと魔石を落として行く。

 ダンジョンで生産されているのだろうが、1匹生み出すだけでもコストがかかっているのだから、それが数千にも及べば、もの凄いスピードで魔力を消費している事になる。

 こっちはこっちで、コボルト達がアミュレットにどんどん入れてしまうので、総量はそれ程でも無いのだ。

 アミュレット一つを満タンにするのに、大体50万匹程の魔石が必要になるので、まだ1つ目が満タンになっていない様だ。


 『あ、放出が止まった。』

 「という事は、どういう事?」

 『オーバーフローしていた分を消費したって事じゃないか?』

 「どういう仕組みになってるんですか?」

 『ダンジョンコアがモンスターを生成しているんだが、魔石は魔力を固めた物だから、魔力炉の魔力をダンジョンの魔力に変換して使ってるんだろ。魔石の回収ができれば、拮抗する可能性はあるが、こっちで全部回収して消費してるからな。もうすぐ、向こうはジリ貧になって来るかもしれないな。』

 「ダンジョンコアは、魔力を精製する事ができるのですか?」

 『地中か亜空間かは判らないが、どこからか回収した魔力の残滓を魔力として使う事ができるのかもしれない。』


 仮説ではあるが、世界樹が空気中に漂う残滓をマナに変換して放出する役目を担っているので、ダンジョンはマナを放出するのではなく、魔力として取り込んで、自分の魔力として使っていると考えるのが自然なんじゃないかな?ダンジョン内で死んだ魔獣や生物も、直接吸収して魔力に変換してコアで吸収、新しい魔獣を生み出す。

 そう考えれば、ダンジョンが自然の摂理として存在していても、可笑しくないと思える。

 ダンジョンマスターについては、本来はダンジョンを成長させる役割なのだが、たまたま人間が選ばれてしまった場合は、前回のゴブリンダンジョンや、今回のタカールダンジョンの様に、別の使われ方をしてしまう様だが、ゴブリンダンジョンは兎も角として、タカールダンジョンの場合は、ダンジョンの拡張が、限界に達した可能性もあるんじゃないかな?そうなると、ダンジョンマスターの討伐が難しくなってしまうのだが。


 『ダンジョンが深い様なら、騎士団や兵士の鍛錬の為に使わせてみるか。』

 「結構深いそうですよ。なので、沢山の冒険者が滞在しているそうです。」


 カノエが教えてくれた。


 『最高攻略階層は?』

 「10階層だそうです。出て来る魔獣は、多種多様らしいのですが、10階層にはミスリルリザードが階層主として居るそうです。」

 『頭の悪い商人が考えそうな配置だな。』

 「というと?」

 『低層階でミスリルが取れるのなら、儲かると思ったんじゃないか?ミスリルリザードを倒せる奴が居ない事を知らないんだろ。』

 「あぁ。」

 『というか、その先があるってのは、どうやって知ったんだ?』

 「ミスリルリザードが守る部屋の奥に、下に続く階段があるそうです。過去にすり抜けて下の階に行った者が居たそうで、公式記録では踏破したとは言えないそうなので、10階で止まっているそうです。到達階層であれば、23階層らしいです。」

 『そういう事か。10階以降の徘徊モンスターの情報もあるんだな?』

 「はい。11階がホブゴブリンで、12階がシープキャトルだそうです。」

 『ドロップ品に肉があるとかか?』

 「あるみたいですね。そのおかげで23階まで行けたそうです。」

 『階層は広いのか?』

 「広いそうです。1階層から4階層までのマップです。」


 カノエが見せてくれたマップを見る限りでは、1階層目の広さは10km四方くらいの広さがありそうだ。


 『中々に広いな。中は明るいのか?』

 「いえ、暗いそうです。ランプか照石(しょうせき)という光る石を持って入るそうです。」

 『照石というのは、明るいのか?』

 「ランプとそれ程変わらないそうですが、嵩張らないのと、落としても割れないので、人気が高いそうです。」

 『そうか。使い方によっては、前方だけを照らす方法もあるからな。利便性は高そうだ。』

 「我々には関係ありませんね。」

 『そうとも言えないぞ?ダンジョンの中であれば、何でもアリの可能性もあるからな。照石を使わないと見えない物もある可能性があるぞ?その照石を取り付けるヘッドギアと、脛当てを作った方が良さそうだな。』


 ランプ程度の明るさとはいえ、ランプは全方位に光をばら撒くのに対して、照石自体が光るのであれば、リフレクターを取り付ける事で、光の方向を限定すると共に、照度も高める事が可能だろう。


 「脛当て?ですか。」

 『通路に罠もあるんだろ?スイッチを踏むと作動する場合、盛り上がってるか、凹んでるか、枠だけがあるかだからな。足元に近い所で光を当てれば、凹凸は見分けが付きやすくなるんだよ。』

 「そうなんですか?」

 『影が伸びるからな。』

 「影が伸びる?見える様になるという事ですか?」

 『うん。ちょっとやってみよう。[ライト]この光を足元に下ろすと、石ころに影ができるだろ?これは、地面の上にあるから影ができるんだよ。でも、地面には影ができないだろ?だからダンジョンの中であれば、平らな地面に盛り上がってる物があれば、影ができて判る様になるって事だろ?』

 「確かに。凹んでいる場合はどうなりますか?」

 『[ホール]これも影が出るが、近くに寄らないと判らないな。でも、ここが凹んでいると判っていれば、態々踏み込む奴は居ないだろ?』

 「そうですね。判らないのは、床と同じ高さのスイッチだけという事ですね?」

 『そうでもないぞ。隙間なく嵌ってるなら兎も角、多少の隙間があれば線が見えるから、判ると思うぞ?』


 そんな感じの掃除機もあるよね。

 でも、近くを照らしても意味は無いから、離れた場所を照らす為に脛か足首辺りに付いていると、便利そうだと思った。


 「それをどうやって覚えさせるかが問題という訳ですか。」

 『模型を作ればいい。』

 「もけい?」

 『罠のスイッチに似せた物を作って、並べて、そこに光を当ててやれば、見えるだろ?』

 「それを作るとして、誰に見せるんですか?」

 『冒険者ギルドに売り込むんだよ。ヘッドギアと脛当てを量産して、売る。この街の細工師工房とかあるだろ?そこに作らせて、商会を通さずに冒険者ギルドで販売して貰え。そんで、使い方を模型で説明してもらうんだよ。どうせ照石もギルドで売ってるんだろ?』

 「はい。ギルドか道具屋で売っていますが、道具屋の方は少し高めですね。」

 『模型も一緒に売れば、道具屋も買いに来るだろ。最初は買わないと思うけど、毎回どうやって使うんだ?って聞かれて困ると思うから、結局は買わずにいるのは無理って事だ。』

 「面倒くさがると、冒険者ギルドで教えてもらえるって説明になりますもんね。」

 『そういう事だ。』


 冒険者ギルドで同じ物が買えて、説明を受けられるのであれば、冒険者ギルドで買えばいいって思うのが普通だからな。

 加えて、冒険者ギルドで買った方が、説明が丁寧になる可能性もある。


 「アイデア料とか権利はどうしますか?」

 『その金で、孤児に飯を奢ってやってくれって言ってくれ。』

 「了解」


 実際のところ、その程度の施しで何とかなるとは思えない。

 だが、何もしなければ何も変わらないのは必然、となれば少しでも希望を感じられる環境を作ってやるだけでも、意味はあると思う。

 工房主が実際にやるという保証は無いが、そこまで腐りきった街という訳では無い筈だ。

 無慈悲な連中しかいない街であれば、もっと荒れるだろうし、民衆の心も荒んでいると思う。

 街の雰囲気を見るに、そこまでの無秩序は見られず、寧ろ冒険者が多いだけに、秩序が保たれている雰囲気さえあるのだ。

 冒険者は荒くれ者というか、ゴロツキ予備軍の様に思われがちだが、所謂何でも屋の様な存在なので、金を受け取れて犯罪者に成らなければ、何でもやる連中だった。

 だが、その冒険者達が近年変わったらしい。

 そして、その冒険者達を律したのがウルファで、心に火を点けたのも、ウルファの功績だ。

 ウルファは、真面目に依頼をこなして、達成率100%で月間達成数1位で最年少記録を更新、年間達成率100%で年間達成数1位で、これまた最年少記録を更新。

 更に、どこの街に行っても、ナチュラルに犯罪者を捕まえるのだ。

 同業に疎まれても愚痴られても、お構いなしにどんどん捕まえる。

 当然、そんな事をしていれば、襲われる事も度々あった様だが、たったの1年で4級まで上がったウルファに、同じ4級で足踏みしてる奴らが勝てる訳も無し。

 3級以上になると、悪い噂が立つだけでランクダウンもあり得るとなれば、そんな事をする奴は居なくなるから、襲撃に来るのは4級以下しかいない。

 基本ソロで、たまに臨時パーティーを組んでクエストに挑み、全て達成している程の実力者に勝てる者等居らず、街中で襲えば、コテンパンにやられた後で、住民から追い打ちされるし、街の外なら命の保証は無くなる。

 ともなれば、襲う奴は居なくなり、真似する奴が増えて来る訳で、冒険者達の中から表立って悪さをする奴が居なくなったのだ。

 冒険者ギルドも、ウルファの事を宣伝しまくり、ウルファが1級になる頃には、行った事の無い街でも噂される程の有名人になったのだ。

 で、S級目前って処でタックアーンの官吏に捕まったという訳だ。

 捕まって以降、とんと音沙汰が無くなってしまったが、未だに人気があるし、第二のウルファを目指して頑張る者も多い。

 この街の冒険者達も同様に頑張っていたのだが、国王からの依頼として、アルティスの抹殺命令が出ていた様だ。

 その内容は、極悪非道で無慈悲な、バネナ王国の宰相が来れば、皆殺しにされてしまうので、排除しろというもの。


 『酷い言われ様だな。』

 「国王を殺しに行きましょう!」

 『アルティスに酷い事を言う奴は許さない!!』

 「居場所を徹底的に洗い出しましょう!!」

 『リズもソフティーも落ち着きなさい。カノエはやってくれ。』

 「はっ!」

 『とはいえ、この攻撃はいつまで続くんだ?もう2時間ほど経つが、一向に終わる気配が無いな。』

 「一気に殲滅はしないのですか?」

 『んな事したら、街中に魔石が降り注いで、魔石の価格が大暴落するぞ?低層階で稼ぐ者達の収入源が、無くなるだろうが。』

 「気にする必要、ありますか?」

 『じゃぁ、リズがやってくれよ。』

 「アレやってみてもいいですか?」

 『アレって何だ?』

 「お肉を焼いた時に使った魔法です。」

 『エレクトロマグネティックウェーブ?範囲指定できるのならいいが、人に当たったら確実に死ぬからな?』


 所謂電磁波の事なんだけど、巨大な肉を焼く時に、中心まで火を通すのに使ったんだよね。


 『それと、こんな広範囲で撃ったら、多分MPをごっそり持って行かれると思うぞ?』

 「そんなになんですか?」

 『あれは、一点集中であれば簡単なんだけど、範囲攻撃として使うとなると、発動点をたくさん必要とするから、この範囲全体に当てるとなると、MP1万くらい使うかも知れないな。』

 「はぅっ!そ、それはきつそうです。ショックウェーブでやります。」


 最近はリズもMAGが増えてきているから、MP残量を考えても問題無いとは思うのだが、やはり1万というのは大量のMPにあたるので、初めて使う者では魔力酔いになってしまう可能性が高いのだ。

 後の事を考えれば、倒れるのは得策では無く、実質的に戦力が4人しかいない現状では、避けるべきだろう。


 「範囲をこうやってこう・・・直線上には・・・何も無し。ん![ショックウェーブ]」

 パンッ!!

 ドサドサドサドサ

 「かかれー!!」


 リズのショックウェーブを食らったタカールが、一斉に降り注いだ街の各所では、冒険者達が一斉に襲い掛かり、止めを刺し始めた。

 集まっていた冒険者達は、上空を覆うタカールが時々落ちて来るので、それを狩っていた連中だ。

 殆どが低級の冒険者達で、デミヒューマンと闘うのは無理でも、飛んでいるタカールを倒す事はできていた。

 だが、一斉に落ちて来た事で、デミヒューマンの上に落ちて来て、デミヒューマンも身動きが取れない状態になり、低級冒険者でも倒せる様になった様だ。


 「凄いですね。」

 『経験値が大量に貯まるから、低級でも多少は強くなる様だな。結果オーライと言えなくも無いが、技量が伴わないと、死人が増えるんだよなぁ。』

 「力と体力が着くので、良い事じゃないですか?」

 『リズ達は、鍛えてる時に毎日剣技の鍛錬もやってたじゃん。だが、アイツらはやってないからな。あの剣の使い方を見れば、一目瞭然だろ?』


 群がる冒険者達の剣の使い方は、上段から振り下ろすだけで、剣をブッチャーナイフと間違えてるんじゃないかと思える程に拙い。

 あれで剣術を覚えたとしても、実戦で使うのは無理があるってもんだ。

 自己鍛錬とは違い、モンスターや魔獣を倒せば、経験値が入る。

 通常は戦って倒すから、鍛錬よりも効率が良くても、実力に見合った成長が見込めるんだが、今は目の前に積み上がったモンスターを滅茶苦茶に振り回した剣で倒しているだけで、実戦には程遠い状態で成長してる。

 この状況の中で、技を覚えられる奴は問題無いのだが、技を覚えられない奴は、早晩死ぬ事になるかもしれないな。

 見た感じでは、剣術すら覚えられない者が殆どかもしれない。

 剣術を覚えるには、斬る、突く、薙ぎ払うの三つを身に着けなければ、覚える事はできない。

 槌術等の打撃系を覚えるにしても、薙ぎ払いを覚えなければ習得できないので、ただ上から下に振り下ろしているだけでは、何の技術も覚える事はできないだろう。


 『ちょっとリズは、彼等の所に行って、薙ぎ払えって言って来いよ。振り下ろすだけじゃ剣術は覚えられないって、教えてこい。』

 「・・・はい。」


 リズが一番手前でショートソードを振り下ろしている少年に、剣の扱いを教えて、突きと薙ぎ払いを数分やらせると、剣術を覚えた様だ。

 周りで観ていた少年達も真似をし始めたので、次々と剣術を覚える子が出て来た様だ。

 覚えている子と覚えていない子の違いは、棒で殴り倒すかの様に振り下ろしていた剣を、唐竹割では無く、袈裟懸けに振る様に変化するのだ。

 実戦でも、一刀両断なんてできる場面は殆ど無いから、より実践的な基本の斬り方を覚えたって感じかな。

 少年では無く、大人の冒険者達も剣術を覚えていない者は多かったらしく、覚えた途端にその場で騒ぎ出す者が続出している。

 ずっと剣を使っているのに、何故か剣術を覚えられない奴は、結構いるんだね。


 1時間程でリズが戻って来た。


 『粗方覚えたか?』

 「はい。先生って呼ばれました。」

 『良かったじゃないか。山盛りだったタカールも殆ど消え去ったし、先に進むか。』

 「そうですね。進みましょう。」


 一心不乱に魔石を集めていた冒険者達が、フラフラになりながら冒険者ギルドに向かい、その冒険者達の取りこぼしを拾う為に、住民達が集まり出した。

 コボルトは数名だけ連れて行こうかと思ったのだが、孤児の方の手伝いを指示して、代わりに別の奴を連れて来る事にした。


 『ウルファとクールでも呼ぶか。』

 「え!?何で呼ぶんですか!?」

 『また大量に出て来ても困るじゃん。アイツらの実力も見ておきたいし、丁度いいだろ?ウルファとクール、実戦だぞ。準備しろ。』

 「ちょ、まだ心の準備が・・・」

 『何の準備だよ。デートのセッティングじゃないぞ?』

 「で、デート!?そ、そそ、そんな事思ってませんよ!?」

 『あー、本気で惚れちゃったか。ウルファだと敵が多いからな。まぁ、がんばれ。』

 「が、頑張りませんよ!?」

 『そんな真っ赤な顔で言われてもねぇ?』

 「・・・」

 『準備できましたぜ!』

 『[ワープゲート]よし、じゃぁ進むぞ。』

 「待ってくれ。説明くらいしてくれてもいいんじゃないか?」

 『リズに聞け。』

 「・・・!!えっと、せ、説明しますね。」


 歩きながら、リズがウルファとクールに説明をしているが、ウルファとクールは、リズが何故顔を赤らめているのか、不思議そうだった。

 説明の時間をとる為に、急がずダラダラ歩いていると、王城の前にまた冒険者達が集まっているのが見えた。

 だが、殺気は感じられず、道の真ん中を堂々と歩くアルティス達を眺めているだけだった。


 『何しに集まったんだ?』

 「そ、そこにいるのは、ウルファ・スティングレイか?」

 『そうだが?』

 「止めだ止め!命がいくつあっても足りねぇよ!俺は帰る!」

 「俺もウルファ相手に勝てる気がしねぇ。」

 『ウルファって有名人なんだな。』

 「まぁな。」

 『こんな僻地にまで顔が知られているとは。』

 「冒険者ギルドに似顔絵が貼り出されてんだよ。1級以上は全員な。」

 『見た事が無いな。リズは知ってるか?』

 「パフェーラのギルドにはありましたよ?」

 『マジか!?全然気が付かなかったな。』

 「魔族の件と誘拐事件の時以来、行って無いからじゃないですか?」

 『それもそうだな。』

 「何か、緊張感のない会話してますね。」

 『こんな何も無い所でも緊張なんてしてたら、疲れて動けなくなるぞ?』

 「いやぁ、敵地に入ったんですから、緊張するのが普通じゃ無いですか?」

 『兵もいないし、モンスターも出て来ないんだから、警戒だけしてりゃいいじゃねぇか。リラックスしろ。カチカチじゃまともに動けないぞ?』

 「いつもの訓練より、実戦の方が楽ですよ。暗部もアラクネも居ませんからね。」

 「それもそうか。」


 王都での訓練では、王都の外周を走る時にアラクネや暗部達に、不意を突いてもらっている。

 監視目的も含まれているのだが、訓練は戦闘能力を高める為にやっているので、ダラダラと緊張感も警戒心も無く走られても、意味が無いのだ。

 たとえ一兵卒であっても、不意打ちで殺される事が無い様に、常に一定の警戒心を持ち続けさせる為に、集中力が欠けている者を見つけたら、転ばせたり脅かしたりして、警戒を怠る事が無い様に鍛えている。

 常に警戒をする事で、常時周りを見る様になり、小さな変化に気付く事ができるのだ。

 それは、この世界の街の外で活動する時には必須の技能で、街の外にはあらゆるところに魔獣が居て、気が付かなければ足元から角ウサギが飛びかかって来るなんて事もあり得るのだ。

 小動物は人間を見ると逃げて行くのだが、殆どの動物と魔獣は好戦的で、人族は餌という認識で、一部の大柄な人族にだけ脅威を感じている様なのだ。

 だから、何の警戒もせずにダラダラしていると、不意打ちを食らう事になる事が多いのだ。

 たとえ相手が角ウサギであっても、当たり所が悪ければ兵士でもリズやカレンでも死ぬし、街の外では絶対安全な場所など、作らなければ無いと言える。

 だから、普段の訓練で警戒をするという事を叩き込む必要があるのだ。

 特に、感知能力の低い人間やドワーフでは、重要な技能となっている。


 王城の中に踏み込んだが、本来いる筈の兵士の姿は無く、侍女や執事の様な者も居らず、城なのに埃まみれで廃城の様だ。

 前庭は手入れがされておらず、雑草が生え放題になっていて、城の壁には蔓が這っていて、とてもじゃないが王が居るとは思えない。


 『これ、もしかして、王城がダンジョンの入り口になってるのか?』

 「ここのダンジョンはそうだな。確か謁見の間の入り口がダンジョンの入り口になっていた筈だ。そういえば、10階層のボスがミスリルリザードだった気が・・・」

 『その情報は得ているよ。このメンバーなら、ミスリルリザード如きは敵じゃ無いな。どうせなら、冒険者ギルドで依頼でも受けてきたらいいんじゃね?』

 「良いんですかい?」

 『攻略すれば、どこかに情報が残るんだろ?』

 「ここのダンジョンは、専用の攻略カードがあるんだよ。」

 『じゃぁ、貰って来いよ。公式記録として制覇してやろうぜ!』

 「じゃぁ行ってくる。どこで待ってるんだ?」

 『魔力炉の前だな。本来の目的はそこだからな。』

 「壊すのか?」

 『見てみないと判らないな。暴走しそうなら壊すし、安定するなら残してもいい。だが、闇属性だけは対処するがな。』

 「あぁ、闇属性の魔力か。確か魔人が封印されていて、その魔力が漏れ出てるって聞いた事があるな。」

 『また魔人かよ。どうせ面倒くさい奴なんだろうな。ブヒーみたいに復活できない様に封印してやるか。』

 「ブヒー?魔人の名前か?聞いた事は無いが。」

 『カレースパンの近くのオークの集落にある洞窟の中に居たんだよ。』

 「それは、魔人フィルスの事じゃないのか?」

 『そんな名前があったのか?魔人としか聞いてないから、俺がブヒーって名前を付けてやったんだよ。』

 「名付けをしたって事か?」

 『あだ名を付けただけだぞ。闇属性の魔力がうざいから、ホーリーボックスに詰め込んで、維持する為の魔力を闇属性の魔力を変換して消費する様にしてやったんだよ。』

 「・・・えげつねぇ。」

 『真面に相手するだけ無駄だからな。ソフティーの糸で床に固定して、悪魔が寄って来れない様に神像を目の前に置いたから、身動き取れないだろ。』

 「徹底してますね。」

 『逃がしたら事だからな。』

 「ここでも同様にするんですか?」

 『んー、ここに残す意味が無いな。魔力が漏れてるって時点で、既に封印が解け始めてるだろうし、こんな所に放置するのなら、闇属性を光属性に変えさせるか、亜空間に封印した方がいいだろうな。』


 アルティスが考えを言った瞬間、魔力炉の方から焦る様な感情が感じられた。


 『とりあえず、早く行って来い。盗み聞きできる程に封印が弱まってる様だから、さっさと片付けてしまうよ。』

 「了解した。クール行くぞ。」

 「了解。」

 『さて、こっちはどんな感じかねぇ?』

 「剣の属性は何がいいですか?」

 『光一択だな。』

 「属性って難しいですよね?」

 『簡単だぞ?闇に対しては光、光に対しては闇、火は水、水は土、土は風、風は火、神聖には特に無いな。強いて言えば暗黒?』

 「暗黒属性の対属性は光輝です。」

 『光輝って複合属性だよな?光と何を合わせるんだ?』

 「光と闇です。」

 『あぁ、そういう系ね。ちょっと使ってみるか。魔法陣も知りたいからな。さっさと、行こうぜ。』


 魔力炉に向かおうとすると、ソフティーが姿を現した。

 ウルファとクールが冒険者ギルドに向かった事で、小動物と女だけになった為に倒せるとでも思ったのだろうか、冒険者達が剣を抜いて近づいて来たのだ。


 『リズ、対応してやれ。数人丸裸にしてやれば理解するだろ。』

 「そうですね。行ってきます。」


 冒険者達は、ソフティーの姿を見て尻ごみをしているものの、逃げ惑うまでには至っておらず、少し離れた場所から様子を窺っていた。

 そこへリズがやってきたのだ。


 「分が悪いと見て、投降しに来たのか?」

 「何を馬鹿な事を言っている。貴様らの相手など、私一人で十分だ。怪我をしない内にとっとと消え去れ。」

 「んだとごらぁ!舐めんじゃねぇぞ!」

 ヒュヒュヒュヒュッチン


 リズが剣を抜き、数回振り回して鞘に納めた。

 リズを囲む様に立っていた冒険者達は、何が起こったのか意味が判らず、一歩前に出た。


 ドサドサドサ

 「へ?」


 リズに掴みかかろうとした冒険者の革鎧と服が地面に落ちた。


 「いつの間に!?」

 「ちょ!聞いてな・・・ああー!?俺の防具まで!?」

 「う、ウルファ以上の手練れだ!?逃げろー!」

 「おい、ウルファ以上の手練れって、どういう事だよ!」

 「判り易いでしょ?強さの程度が。」

 「まぁな。」

 「戻って来たのなら、早く来い。」

 「へーい」


 クールが冒険者のフリをして、逃げろと叫んだ様だ。

 実は、冒険者ギルドは目の前にあって、手続き自体も滞りなく終わったので、直ぐに戻って来ていたのだが、集まった冒険者達が邪魔で通れなかったのだ。


 『あれ?随分と早いな。』

 「冒険者ギルドが目の前だったんでな。それにしても、リズさんの剣技が凄かったぞ!」

 「あれは俺には真似できませんよ。追い抜くのはまだ無理そうです。」

 『カレンも同じ様な剣技を使えるから、それに似たのかもな。』

 「手首の返しが上手いのと、腕の筋肉のバランスが良くないとできない技だ。俺もウカウカしてらんねぇよ。全く、アルティスの部下は一体どうなってんだよ。」

 『鍛錬に気合が入っていいだろ?』

 「ああ、負けらんねぇな。」


 魔力炉の中に入ると、青白く光る巨大な水晶が鎮座していて、その中心には小さなドラゴンが居た。

 部屋の中には、制御パネルと操作盤、それと魔人が封印されている祠があった。


 『随分と近未来的な部屋だな。あのドラゴンが触媒の役目になって、地脈からマナを吸い上げているって事か。制御パネルは・・・バグってるな。操作盤は・・・機能していないな。まぁ、1000年以上前の物だから、仕方ないか。水晶の中のドラゴンは、生きてるんだよな。コンタクトできるかやってみるか。』

 「壁も床も金属でできてるんですね。1000年以上前にこんな物が造られていたなんて、信じられませんね。」

 『壁の金属の厚みも凄いな。余程でかい精錬施設があったんだろうな。材質もミスリル合金でアダマンタイトとプラチナが使われているのか。鉄の含有量が少ないな。こんな大量の希少金属をどうやって集めたんだか。っと、先に魔人を処分しておくか。』


 魔人の祠から怯える様な思念が伝わって来るが、アルティスはその思念が本当の気持ちだとは思っていない。

 魔人と言う存在が、何でできていて、どうして生まれたのかは判っていないが、強大な魔力と狡賢い性格、無慈悲な悪意しかない存在である事から、アルティスは悪魔の意識が魔力と混ざり合って、魔力自体に意志が宿った魔法生物だと考えている。

 魔人が破壊の限りを尽くすのは、生まれた時に良識を教えてくれる存在が居らず、赤ん坊がハイハイでもするかの様に能力を使いまくる結果では無いかと思う。

 では、教育ができるかと言えば、それは土台無理な話で、そもそも別の界に住む住人が、こちらの世界の常識を理解できるとは思っていない。

 そもそも、悪魔とは負の感情の塊で、魔力を使って人の形を作っているだけで、負の感情を食べるのは、数多ある負の感情が満足したりして消えていくので、それを補充しているに過ぎず、神聖魔法に弱いのは、神の祝福により正に変換されるからだと思う。

 神とは、別次元に住む人族ではあるものの、この世界を創った神が、力の一部を分け与えた存在であり、この世界の全ての根源だ。

 負の感情という物は、神から貰った根源のエネルギーがマイナスになっている状態で、祝福としてエネルギーを貰う事でプラマイゼロとなって昇華していくのだと思う。

 だが、魔人の場合は、その悪意の濃度がより濃い状態で意志を持ってしまった為に、祝福を受け付けない防衛能力を持ち、その悪意を全て昇華させるには、長い年月と膨大な根源エネルギーが必要になるのだと思う。

 根源エネルギーが神の力そのものだとすれば、その神一柱の根源だけでは、魔人を消滅させるのは厳しいのだろう。

 神自身がエネルギーを補充するには、人々の信仰を集めなければならないのだが、その祈りにも度々、負の感情が混じる事がある為、そうならない様に導かなくてはならない。

 だが、何もする気が無いのか、方法を知らないのかは判らないが、信仰を集める事無く無関心を貫いている状態にある。

 それがアルティスには許せないのだ。

 餌をくれる人々には無関心で、自分の保身しか考えていない馬鹿共に、一泡吹かせたいと思っている。


 『ワラビ、神像全部持ってるか?』

 「はい。ありますが、何をされるおつもりですか?」

 『それを話す前に、手を打っておかないとな。[ホーリーボックス]』


 祠全体を包み込む箱を作った。


 『アレを神聖魔法で包み込んで、中に神像で魔人を囲む様に設置してやろう。全部で何柱いるんだっけ?』

 「魔人に効果のある力を持つ神は7柱です。」

 『オーベラルは駄目だぞ?アイツは清濁併せ持つ神だから、取り込まれる事は無いが、念の為だ。』

 「アイツ・・・」

 『奴の方が良いか?』

 「酷くなってます!せめてあの方とかあの神とお呼びください!」

 『俺、アイツ嫌いなんだよ。表が善で裏が悪とか、オセロかよ。』

 「その理論では、アマーティス神も同様では無いのですか?」

 『何でだよ。光と闇の何が悪いんだよ。闇は悪の象徴として形容される事はあるが、ただの現象であって、悪そのものでは無いだろ?』

 「判りました。では6柱でお願いします。」


 ワラビが闇属性を苦手としているのは知っている。

 エスティミシスで散々振り回されたからな。

 だが、闇は決して悪では無いし、闇属性全てが悪い訳では無いのだ。

 人間からすれば、闇と言うのは何も見えないし、前後左右どころか上下までもが判らなくなる、恐ろしい現象と言える物ではあるが、それは真っ白でも同じ状況に陥るし、真っ赤でも真っ青でも同様の状況になる事で、自分の位置を確認できる物が無ければ、何も判らなくなるのは同じなのだ。

 もし、闇イコール悪となるのであれば、夜は悪となり、箱の中も家の中も自分の体内でさえ、悪という事になってしまうのだ。

 そして、光のある場所よりも、闇の場所の方が圧倒的に多いのだから、そんな物を悪い物としてしまえば、身動きが取れなくなってしまうだろう。

 だから、強めに否定したのだ。

 闇を怖がる気持ちは判るが、それは恐怖の対象では無く自然現象であり、本当に恐れるべきは、その闇を悪用する者達なのだ。

 幸いなことに、この世界では霊を全員見る事ができるし、追い払う事もできるのだから、必要以上に怖がる必要など無いんだよ。


 『では、祠をまずは破壊しよう。[コントラクション][ダークマジック・コンサプション]』


 ホーリーボックスを収縮させて祠を破壊すると、中から出て来たのは小さなネズミだった。

 そのネズミからは、濃密な闇属性の魔力が立ち昇り、あっという間にボックスの中を覆い尽くした。

 だが、それは悪手だ。

 ホーリーボックスの維持には、闇属性の魔力を使う様に設定した為、箱の中身を闇属性の魔力で満たせば満たす程、ホーリーボックスは強化されるのだ。


 『神聖属性の結界で包み込んで、その外側に神像を並べて、潰さない様に外側に神聖属性の結界を張り、神像の入っている隙間に液体をイメージしながら結界で埋め尽くすんだ。』

 「[セイクリッド・ディフェンスバリア]囲む様に神像を配置して、[セイクリッド・ディフェンスバリア]隙間に液体をイメージしながら、結界で埋め尽くす・・・結界で埋め尽くす!??」

 『まずは、結界が硬いというイメージを壊そう。結界を張ると、敵性以外は通り抜けられるだろ?という事は、そこだけ液体化するんだよ。だからその液体化した結界を思い浮かべる。』

 「液体化した結界・・・」

 『[ディフェンスバリア]こんな感じだな。』


 液体化させた結界を作り出した。

 これは、獣王帝国の王太子達に見せた、吸魔石を包み込む結界を作る時に使った手法だ。

 例を見せたからか、ワラビが隙間を埋める結界を流し込み始めた。


 「クール、何やってるのか判るか?」

 「いえ、全く判りません。」

 「考えるだけ無駄ですよ。」

 『リズは夕飯のデザート抜きな。』

 「ガーン!!」

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