第69話 マッドフォレストへの介入
街の入り口前で、話をしながら門が開くのを待っているが、兵が出て来る事も、誰かが問いかけて来る事も無く、門が開く様子は無い。
『門、開かないな。ぶっ壊すか?』
「止めて下さい。この近くに木は生えていないので、高いんですよ。」
『商人が値を釣り上げているだけだろ?ディメンションホールに木材なら大量に入ってるから、作り直してやるよ。』
「・・・どれ程の大きさがあるんですか?信じられないんですが。」
『ギガントラプトル位なら、余裕で入るぞ?』
「その魔獣がどの位大きいのか知りませんが、ギガントと付くくらいだから大きいんでしょうねぇ。判りました。やって下さい。」
魔力感知では、門の内側に兵士らしき集団が、集まって来ているのが見えるので、門扉を内側に倒す事にした。
門扉は、大きな蝶番4つで壁に付いているので、その蝶番を破壊する。
『[ウインドカッター]』
キンキンキンキンッ!
『[ウインド]』
蝶番を切られた門扉が、外側から風に押されて、音も無く内側に傾き、集まった兵の上にのしかかった。
「ギャー!倒れる!潰される!!」
「支えろ!門を倒すな!」
「無理です!重すぎます!ギャー!」
『さ、入るぞ。』
「・・・初級魔法だけで・・・」
「アルティス様ですから。考えたら負けです。」
『リズ、酷過ぎないか?』
「常識に囚われた者からみれば、有り得ない事ですから。」
『考えたら負けって・・・』
「考えるより、習えって思うのは駄目ですか?」
『そこに考察を加えろよ。ただ真似をするだけじゃ、応用が利かないだろ?』
「そういうのは、本職にお任せします。」
『こいつは本職だと思うが?』
「そういえばそうでした。」
『頭使わないと、溶けて耳から出て来るぞ?』
「ええ!?それは困ります!!」
『冗談だよ。』
「・・・酷く無いですか?」
「アハハハハハ、面白い!」
アルティス達は、兵達が必死に支える門扉の上を歩き、街の中に入った。
門扉に圧し潰されそうな兵達は、門扉の上から降りたアルティスを睨みつけるが、どうする事もできずにつっかえ棒を持って来る様、周囲で動揺してウロウロしている兵に指示を飛ばしていた。
街の中心地側から、様子を見ていた男達は、一瞬で窮地に陥った兵と、余裕で笑いながら街の中に入るアルティス達を見て、慌てて引き返して行った。
街の中央にある王城を目指して歩いて行くと、途中にある広場に全身鎧を着た兵士が勢ぞろいしているのが見えて来た。
最前列の兵士は、タワーシールドを壁の様に並べ、アルティス達が通り抜けられない様に、道を塞いでいる。
『リズ、頼んだよ。』
「お任せください。」
「一人で大丈夫なんですか?」
『余裕だろ。』
盾も持たず、剣も抜かずに前に出て来た女騎士を見て、盾の隙間から長槍が突き出されて来た。
リズは何のリアクションも取らずに、そのまま前に歩き、槍に貫かれた。
と思われたが、槍の穂先は鎧の表面で止まっており、槍を持つ兵士達は、硬い壁を槍で突いた様に思い、手元に戻って来た衝撃が手を痺れさせていた。
リズは徐に剣を抜き、突き出された槍を一払いした。
ヒュッ
カチャカチャンカランカラン
穂先から1メートル程の所で、槍が全て切断された。
リズが剣を顔の前に立て、流れる様な所作で一歩前に踏み出して、横に一閃した。
ガランガランガラン
タワーシールドの下半分が切断されて、地面に転がる様を見ていた兵士達は、尻餅を搗き、ガタガタと震えながら道を開けた。
アルティス達は、開いた道を進もうと思うのだが、石畳の地面には、黄色い水が拡がっていて、汚過ぎて歩きたくない。
『[クリーン]』
ブワッと魔力が通り抜け、地面に広がっていた水が消えた。
漏らした兵士達は、鎧の中に広がったベトベトとした感覚が、一瞬で消え去るのを感じて、ショックを受けて気絶した。
前に進むアルティス達の前に、揉み手をしながら男が近づいて来た。
「何か用か?」
「ええ。あっしは、この街で大店を営んでおりまして、是非我が商会の護衛として雇いたく思いまして、毎月の給金金貨2枚で如何でしょうか。」
「安いな。私は年額白金貨3枚を貰っている。貴様らの提示した金額では、遠く及ばないな。また、装備品は、貴様の商会の全財産を以てしても、買い取れぬ。諦めろ。」
「・・・嘘だろ。殺して奪い取れ!」
商人の背後に居た護衛が、剣を抜いて襲い掛かった。
「死ねぇ!!」
キンッ!
護衛の剣が根元から断ち切られ、空に舞い上がった。
同時に護衛の動きが止まり、落ちて来た剣が商人の首の後ろに刺さり、貫通して剣先が地面に突き刺さり、動きの止まった護衛の首が地面に落ちた。
『おお!凄い凄い。かっこいいぞリズ!』
「う、嘘だろ、おい。アルティス様の騎士さんは、剣の達人なのか?」
「お褒めに預かり、光栄に思います。」
『[アポート]うん、この剣はミスリルだな。戦利品として頂いておこう。剣の柄も特別製だな。お、これはオリハルコンか?いいねぇ。鎧もミスリルが使われているから貰っておくか。[マルチアポート]』
剣が刺さっていた商人は、猫背だったので頸椎を貫かれ、剣が地面に刺さった事で倒れずにいた様だ。
アルティスが剣を手元に引き寄せた為、支えを失った商人は、そのまま地面に崩れ落ちた。
『カノエ、コイツの商会の中を捜索しろ。金は回収、奴隷は保護。それ以外の商品は放置でいい。』
『了解』
少し歩くと、正面にバトルアックスを担いだ大男と、大男の腰辺りに頭のある小さな男が行く手を塞いだ。
「おい女!俺と勝負しろ!」
『おお!テンプレ脳筋だ!いいぞ!やれやれ!』
「アルティス様、何かキャラが変ってませんか?」
『そうか?そこそこ高いSTRと、まぁまぁ鍛えた斧術持ってるから、相手してやれよ。しかし、でかい方は人間か?身長でかすぎじゃないか?』
「ジャイアントの血でも混ざってるんじゃないでしょうか?」
大男の蟀谷に血管が浮き出た。
『ジャイアント?あのトロールの親戚と噂される人族?』
「そうです。頑丈な肉体と強大な力を持つ種族ですね。」
『へぇ。でもドワーフより弱いんだろ?』
「エルダードワーフとの戦争で、絶滅しそうになってましたしね。」
『んー、鑑定ではハーフギガントってなってるから、巨人族の仲間かな?』
「てめぇら!俺を無視すんじゃねぇ!!」
あ、ブチ切れた。
『面白そうだから、軽くあしらってこい。殺さずにな。』
「んだとぅ!チビは女の後で叩き潰してやらぁ!」
『ちょっと頭に血が上り過ぎだな。頭を冷やさせるか。[クラッシュアイス]おっと、やべ。』
「ひゃあっ!?」
大男の頭の真上に出したつもりが、少し背中の方にズレていた様で、急に背中に氷が落ちて来たので、大男がかわいい声をあげた。
「ブフッ!ちょっと!アルティス様笑わせないで下さいよ!?」
「アッハッハッハッハッハッハ」
リズが吹き出し、魔術師は腹を抱えて爆笑している。
『すまんすまん。サイズが違うから遠近感がちょっとよく解らないんだよ。』
「てっめぇ!!ぶっ殺してやる!!」
『あぁ、頭を冷やそうとしたら、逆に怒らせちゃったみたいだな。』
「な、なんで、そんなに冷静なんですか!?」
『お前は、そろそろ笑うのやめておけよ。狙いがお前に移るぞ?』
「スーハー、スーハー・・・ブフッ!」
「エステル!てめぇから叩き潰してやらぁ!」
「あら、私に怖気着いたの?」
「・・・いいだろう。てめぇから相手にしてやるぜ!」
『じゃぁ、こっちはお茶でも飲みながら、観戦してようぜ。[ディフェンス・バリア]テーブル出して、椅子出して、ソフティーもこっちで観戦してよう。魔術師はお茶淹れてくれ。』
「ひゃぁ!?アラクネ居たんですか!?」
『今頃気付いたのか。ずっと俺が空中に浮いてるとでも思ったのか?』
「はい。ずっとそう思ってました。」
『あ、お茶菓子はグラノーラな。』
「アルティス様、始めてもよろしいですか?」
『あぁ、いいぞ。がんばれー。』
「適当な応援ですね。本当に大丈夫なんですか?」
『大丈夫だよ。まぁ見てろって。』
リズが大男に近寄り、勝負が始まった。
「フンッ!」
キンッ!
「とりゃっ!」
キンッ!
「うりゃっ!」
シャッ!
「遅い!」
ゴスッ
大男の上段からの振り下ろしを剣で右側に弾き、右側から左への横なぎを上に撥ね上げ、左上からの袈裟懸けを剣で逸らして、左手で大男の右わき腹にパンチした。
「ぐおおおぉぉぉっ!」
「・・・。」
「止めを刺さないんですか?」
『あの苦しんでるフリをチャンスだと思って前に出ると、右にある斧が横薙ぎに飛んでくるからな。』
「ケッ、バレてんなら仕方ねぇ。面白れぇじゃねぇか、本気を出してやるよ!」
「どうぞ。」
ブオンッ!キンッ!
掛け声が無くなった。
無言で斧を振り回し始めたが、直径が1メートルもある斧が見えなくなる事も無く、間合いも見切り易いので、リズは難なく捌いている。
大男も中々に斧を器用に扱ってはいるが、まだまだ未熟の内を出ない様だ。
ただ、時折持ち手を緩めて、間合いを変えたりしているので、それなりに才能はある様子だ。
だが、バトルアックスという武器の特性上、1対1の対戦には不向きで、本来は集団戦や硬い相手に使う武器なのだ。
決闘戦では、戦場と違い横槍が入らず、範囲では無く単体攻撃が主体となる為に、細かい操作が必要となり、大振りの武器では、反応できない相手以外には、通用しない。
だから、この場に持って来るとすれば、ポールアックスかバルディッシュ辺りが正解だろう。
手斧でもいいが、リーチが無いのと、重い分遅くなるので、やはり不向きだろう。
バルディッシュとポールアックスは同じ物の様に思えるが、斧の部分が違う。
ポールアックスは、手斧の柄を長くした物で、バルディッシュは槍の穂先を斧にした物を指し、刃の大きさには種類がある。
ポールアックスの斧の部分は、厚みがあり、重い分振り回した時の威力が上がるという特徴があるが、取り回しには技術がいる。
バルディッシュの場合は、斧の部分の厚みはそれ程でも無く、斧に似た形ではあるが、長柄の先に曲刀を付けた様な感じだ。
刃を固定する方法は色々あるが、一般的なのは輪っか状に作った根元に柄を挿し込む方法だが、戦闘中に固定用のピンが抜け落ちやすく、抜けてしまった場合は、武器としての使用が、著しく難しくなる様だ。
剣も同じように固定ピンが入っているのだが、剣の場合は手で握っているし、革紐で滑りにくくしているので、抜け落ちる事は無い。
『そろそろ決着をつけて貰おうかな。っとその前に、邪魔者の排除よろしく。』
『了解』
『リズ、そろそろいいだろ。』
「では、終わりにしましょう。」
「ハァハァゼェゼェ、あぁ、覚悟はできてる。一思いに殺ってくれ。」
「何を言ってるんですか?貴方はアルティス様に魅入られましたので、生け捕りですよ。」
「生かされるのか?裏切るかもしれねぇんだぞ!?」
「逃げられませんよ。アルティス様の隣に誰が居るか見えていないんですか?」
「あ、アラクネ・・・。何だよ。初めから勝負がついていたんじゃねぇか。頑張って損したぜ。」
キンッ!
「余計な事をすると、その首落としますよ?」
すぐ横で、事の成り行きを見ていた小男が、魔道具で大男に針を撃ち込もうとしたが、リズが阻止した。
「こいつは、俺を雇った商人だ。今撃ったのは毒針だな。護身用って言ってたが、俺を殺す用だったとはな。」
「煩い!役立たず!こいつらを殺せと命令した筈だ!早く殺せ!」
「うるせぇ。見てただろうが。俺はこの騎士にすら勝てねぇんだよ。久しぶりに、俺より強い奴に出会えたと思ったが、足元にも及ばねぇとはね。完敗だ。」
リズは、ブンブン振り回される斧をその場から一歩も動かずに全て捌き切った。
持っているのは、細身のロングソード1本だけで、最初に左手でパンチを当てたものの、それ以降は右手一本しか動かさなかったのだ。
それもその筈、重さで言えばアーリアの一振りの方が遥に重く、毎日アーリアと打合いをしているのだから、ただ重量が重いだけの攻撃など、大した事は無いのだ。
『中々に面白かったぞ。リズもやっとカレンに追いついたな。』
「ありがとうございます。」
「はぁ!?ちょっと待て!この騎士よりも強い奴がまだいるのか!?」
『そうだな。最近カレンの順位も落ちて来たから、リズは6位くらいか。』
「それ、ソフティーとキュプラも入ってるんですか?」
『抜かしてるよ。ソフティーもキュプラも次元が違うからな。』
「3位は誰ですか?」
『ウルファだよ。アイツ、あるじに当てたからな。4位はフィーネだ。』
「ワーウルフですか。もっと頑張らなきゃ駄目ですね。」
『そうだな。獣人連中の伸びが凄いから、ウーリャにも追いつかれそうだぞ。クールも最近伸びて来たからな。』
目の前にいる小っこい獣から、超有名な一級冒険者の名前と、ちょっと有名なお騒がせワーウルフの名前が出て来た。
ウルファ・スティングレイといえば、新進気鋭の一級冒険者で、ちょっと前までS級候補と噂されていた、実力者だ。
最近は、とんと話を聞かなくなったが、死んだとは聞いてないので、気にはなっていた。
それが、ここでその名前を聞く事になるとは、思ってもみなかった。
しかも、リズよりも強いと評価されているのだ。
この波に乗るべきだと思った。
「なぁ、あんたらに着いて行けば、俺はもっと強くなれると思うか?」
『あぁ、なれるぞ。鍛錬に耐えられればな。』
「連れて行ってもらう事は・・・?」
『初めからそのつもりだ。』
「何を勝手に言ってるんだ!?まだ契約期間中だぞ!!」
『殺そうとした時点で、お前が契約を破棄したんだよ。神にジャッジしてもらうか?結果は明らかだと思うが。』
「ぐぬぬぬ」
『あぁ、合図しても無駄だ。お前の密偵は全て捕縛した。最初から、このでかいのを殺すつもりだった様だな。外道め。』
雇い主の商人の態度が、最近すこぶる悪かった。
今回の件で、勝っても負けても商人が自分を殺すつもりだったと聞いて、それを難なく暴いた小さな獣に興味が湧いた。
「なぁ、このちっこいのがあんたの親分か?」
「ちっこいのでは無い。アルティス様だ。バネナ王国の宰相様だ。」
『さっきは、氷を背中に当ててわら・・・悪かったな。』
「おめぇか!?笑ってんじゃねぇぞ!?」
「やめておけ。この方は2位だ。」
「はぁ!?こんなチビなのに強ぇのか!?」
『大きさと強さは関係ない。関係あるのは、冷静さと判断力だ。』
「俺は常に冷静だぜ?」
『どこが?対戦でバトルアックスなんて持ち出して来て、冷静?力押しでどうにかなると思ってる時点で、何も考えて無いと言ってる様な物だな。』
「こんの野郎!!」
思ってはいたが、目をそらしていた事実をズバリ指摘されて、カッとなって、つい手が出た。
拳がアルティスに叩きつけられようとした。
ビシッ
ドゴッ!
ガシャン!バキッ!ゴスッ!ガラガラガラ
アルティスは、拳が届く前に飛び上がり、大男の拳を右側に向けて回し蹴りをした。
拳の進行方向は直角に曲がり、隣に居た商人に当たった。
吹き飛ばされた商人は、建物の窓を突き破り、反対側の壁を突き破って、隣の部屋の奥の壁にめり込み、最後に穴の開いた壁が崩れ落ちた。
大男は、壊れる音がした方を向き、奥の方に商人の体が、宙に浮いているかの様にぶら下がっているのを見て、唖然とした。
右の拳を確かに下に振り下ろした筈が、何故か隣に居た嘗ての雇い主を捉えたのだ。
拳の下で潰れている筈のアルティスは、何事も無かったように元の場所に居た。
『さぁ、早く王城に行こうぜ。』
「ちょ、ちょっと待て!待って下さい!!」
何事も無かったかの様に前進しようとしたアルティスを引き留めた。
言い方が不味かったのか、リズが剣を抜きかけたのが見えたので、敬語で言い直した。
「今、何が起こったんですかい!?」
『お前の拳を蹴っただけだよ。たまたまその先に商人が居て、たまたま拳が当たって、たまたま死んでしまっただけだ。気にするな。』
気にするなと言われても、気になるだろう。
だが、リズが2位だと言った意味が判った気がした。
何故なら、振り下ろした拳の軌道を変えたのだ。
逸らしたのではなく、完全に縦から横に変えたのだ。
「アルティスさんよう、俺はあんたについて行くぜ。名前はガウスってんだ。よろしく頼・・・みます。」
『ガウスね。判った。カノエ、ヒノエ、顔見せしとけ。突然現れて、殴られない様に気を付けろよ。』
「カノエです。よろしくお願いします。」
「ちょっと!ヒノエ!?あんたはヒノエよ!私がカノエ!」
『ヒノエは、エネバー三日間カットな。』
「ええーっ!?」
『お前、狼人族に変なポーズと台詞言わせたろ?その騙す癖をやめろよ。反省しないと永久「ななな、治します!もうやりません!」』
サンディールに派遣した狼人族の3人に、変なポーズを仕込んだのは、ヒノエの仕業だったのだ。
「賑やかな連中だな。」
『ガウスもその内、この中に入るんだろうなぁ。』
「はあ!?入る訳ねぇだろが!」
「既に片足入ってる気がしますね。」
エステルがツッコミを入れた。
『そういえば、ガウスはエステルの事を知ってるんだな。』
「聞いてねぇんですかい?こいつはこんなんでも、一応この国の王なんですぜ?」
『その割に扱いが雑じゃね?王が帰って来たのに、門も開けなければ、兵で待ち伏せしてたから、自称王なのかと思ってたよ。』
「タカール商会のおかげで、その通りになってますよ。」
『継承魔法でも作ればいいじゃん。玉座に座る度にオナラの音がするとか。凄い嫌がらせになるぞ?』
「それって、継承者居なくなりませんか?」
『正当に継承されればいいだけの事だろ。簒奪しなけりゃいいんだよ。』
「すみません。簒奪しました。」
『んー、エステルの場合、簒奪と言うよりも革命?って感じだけどな。』
「民衆の支持を得ていませんから、簒奪であってると思います。」
正面には、同じ様な建物が3棟並んで建っていて、少し揺らいでいる様に見える。
『そうか。王城ってどれの事だ?』
「中央の建物です。無暗に壊されない様に、幻影で判らなくしてるんですよ。」
『へぇー。あの上に飛び上がったアレも幻影の演出か?』
「あれは、タカールが王家の脱出装置を使ったんですよ。逃げられてしまいましたね。」
飛び上がった瞬間、ソフティーが糸を飛ばしたのが見えていた。
だから、全然遠ざかって行かないんだよな。
「何か、全然遠ざかっていきませんね。」
『ソフティーが糸を飛ばしたからな。』
『アルティスにはバレてた。』
「ええーっ!?アラクネって話せたんですか!?」
『うちの国に居るアラクネ達は、全員話せるぞ?』
「え?アラクネ達?・・・え?」
『ソフティーは、アラクネクィーンだからな。子供が沢山いるんだよ。ってガウス、何してんだよ。早く来いよ。』
後ろを振り返ると、ガウスが立ち止まっていた。
「アラクネクィーンには、気を付けろって、うちの爺さんに言われているんだよ。」
『ソフティー解る?』
『うん。ギガント族は、アラクネクィーンを裏切った事がある。』
なんと、ギガント族と共存していたアラクネクィーンが居たとな。
『何で裏切られたの?』
『ガウスを庇ったから、殺されかけた。』
「え?ええーっ!?い、いつの話だ!?」
『ガウスがまだ乳飲み子だった頃の話。前のクィーンが保護して、離れた所にあった別の村に届けたみたい。そこの村長に預けて療養しに行ったら、人間に見つかって魔の森に逃げ込んだんだって。』
「・・・それで爺さんが俺を育ててたのか。何で俺は殺されかけたんだ?」
『ハーフだからだよ。ギガント族とジャイアント族のハーフだから、ギガント族では忌み子扱いになるんだよ。』
『ギガント族とジャイアント族って別の種族なのか。』
『ううん、同じ種族だけど、ジャイアント族の正式種族名は、ハーフギガント族だよ。』
『んん?それって、ハーフギガントの始祖はどうやって生まれたの?そもそも、ハーフギガントってどうやって生まれるの?』
『時々産まれるんだって。』
『???ちょっとよく解らないな。ギガント族同士の子供が偶にハーフギガント族として生まれて来て、ジャイアント族とギガント族のハーフになる?どういう事?』
『ギガント族は、400年くらい生きるんだけど、200歳を超えた時に20年くらいの間は、弱体化するの。その弱体化している時に子供を作ると、稀にハーフギガントが産まれるんだって。』
『あぁ、種族を存続する為に、弱体化している時に産んだ子供の内、ハーフで生まれて来た子を捨てるか殺すかしてるって事か。』
『そうみたい。』
『ハーフギガントは弱体化してる状態のままって事なの?』
『殆ど違わないよ?弱体化期間が無くて、少し体が小さいだけで、何も変わらない。』
「そんな事があったなんて・・・知らなかった。」
『それってさ、ハーフギガントは、ギガント族の完成系って事なんじゃないの?』
「だが、忌み子なのでは?」
忌み子の事を勘違いしている様だな。
『忌み子ってのは、感情論なんだよ。変わった子が生まれたから気持ち悪いとか、偶然生まれた時に、不吉な何かが起ったとか、何の因果も無いのに勝手に結び付けて、忌み嫌うってだけの話で、ガウスを見ても特に変な所は無いだろ?』
「そうですね。時々かわいい声を出すくらいでしょうか?」
「ブホッ!それはアルティスが変な事をしたからだろ!?」
「ブフッ!思い出させないで下さいよ。ククク」
「てめぇ、殴られてぇみたいだな。」
「待って待って!?私が悪い訳では無いですよ!?リズさんが思い出させる様な事を言ったからですよ!?」
「うるせぇ!てめぇが笑わなけりゃいいだけだろうが!」
『仲がいいな。』
「「どこが!?」」
ワチャワチャしながら城の中に入り、槍を構えた兵達が取り囲む中、それを横目にソフティーの糸を手繰り寄せてタカールを捕縛した。
『じゃぁ、拷問始めるか。椅子・・・は無さそうだから、背中側で手と足を結んで転がすか。』
「吊り下げないんですか?」
『必要無い。おい!そこの兵士、ちょっとこっち来い。こいつの服を脱がせて、パンツ一枚にしろ。』
誰とは指名せずに槍を構えている兵士達に向かって言うと、構えを解除して一人が前に出た。
『お前の名前は?』
「と、トールだ。」
『じゃぁ、こいつの身包みを剥いでくれ。剥ぎ取った服は、欲しければやるぞ。ガウス、腰の袋を確保しておけ。装飾品もこっちに。』
手ぶらで逃げてる筈は無いので、袋かアクセサリーがマジックバッグの可能性が高いと思って、集めてもらった。
『[鑑定]指輪が当たりだな。ネックレスは・・・何だこれ?[アナライズ]あぁ、自害用の魔道具か。[モディファイド・マジックサークル]これは、パステルにやる。』
「い、今ので書き換えたって事ですか?」
『あぁ。リラックス効果に変えたんだよ。着けて見てくれ。』
「じゃぁ・・・何か、眠たくなってきました。」
『疲れてんのか?』
「・・・。」
ホントに寝やがった。
リズに目配せした。
バチン!
「痛ったー!?何するんですか!?」
『本当に寝るなよ。お前には、まだやる事があるんだからな?』
「そ、そうでした。このネックレスは、外しておきます。」
『トールには、この指輪をやる。MAGが2%上がるらしいぞ。』
「そんな高価なものを!?」
『これ、そんなに高いのか?そうか。受け取れ。で、この羽を持て。もう一人羽を持つ奴いないか?』
周りを見回すと、20人程が槍を捨てて手を挙げた。
「ハイハイハイハイ!やります!やります!」
「俺がやります!」
「隊長の俺がやる!お前らは黙れ!」
『はい、そこの隊長、こっちに来い。ガウス、こいつの防具を全部外して、お尻ペンペンしてやれ。降格だ。[鑑定]ん、お前こっちに来い。』
鑑定で、槍術をスキルに持ってる男を見つけたので、指名した。
「何で俺・・・?」
『名前は?』
「ケニー」
『お前を小隊長に任命する。羽を持て。』
「はあ!?何で俺が小隊長!?」
『槍術のスキルを持ってるだろ?他の奴らは持ってない。だからだよ。明日から、部下を鍛えてやれ。』
「本当にいいのか?」
『武器の扱い方も知らない連中に隊長をやらせても、部下が育たないからな。歯向かう奴は叩きのめせ。来月までに部下全員に槍術を覚えさせろ。』
いきなり小隊長に任命されたケニーは、言われた事を理解できていない様子で、立ち尽くした。
「容赦ないですね。来月までに槍術を覚えさせるなんて、無理じゃ無いですか?」
『何言ってんだ?総大将のお前が監督するんだぞ?武器持たせて鎧着せただけの一般人なんぞ、100万人居たって何の役にも立たないんだ。王のお前が監督して鍛え上げろ。狼人族二人、マッドフォレストに派遣する。任務は厨房と兵士の訓練だ。』
3人にすると、先日の奴みたいなのが来るかもしれないので、数を減らしてやった。
『オロシ、マッドフォレストの連中と狼人族を纏めてゲートに入れろ。』
『あ、準備できてます。』
『開けるぞ。[ワープゲート]』
取り囲む兵士達の目の前にゲートを開き、中から捕えた密偵達と狼人族二人が出て来た。
狼人族二人がニコニコしているのが気になっていると、ヒノエが魔法を解除して現れ、狼人族二人にゴニョゴニョと小声で話すと、狼人族二人の表情が消沈した。
「あはは・・・、失礼しました!」
スゥっとヒノエが消えると、取り囲む兵士達が後退りした。
兵士達は、何もない所から獣人と人間が複数出て来た事に加え、突然少女が現れたかと思えば、すぐに消えた事に恐怖を覚えた。
ほんの数十秒前までは、ガウスが敵に寝返ったとはいえ、数で押せば何とかなると思っていたのに、一気に数が増えたと同時に、見えない兵がいる事を知ったのだ。
そして思い返せば、タカール商会の会頭が空から引き摺り降ろされたのは、どうやったんだ?何かを手繰り寄せて・・・あの手足を縛った糸は・・・。
急に冷や汗が止まらなくなった。
ソフティーは王城の前庭に兵士が集まっているのを知って、オプティカル・カモフラージュを使って消えていた。
アルティスとしては、別にソフティーが姿を現したままでも構わなかったのだが、ソフティーはアルティスの邪魔をしたく無く、姿を見られれば兵士達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う事は、火を見るよりも明らかなのだ。
幸いガウスの背後に居た為に、兵士達の殆どには姿を見られておらず、騒ぎにもならなかった事にホッとしていたのだが、ヒノエの登場により状況が変わった。
兵士達が違和感を感じる所を注視し始めた為、少しでも動けばバレてしまいそうだ。
『ソフティー、バレても問題無いよ。リラックスして。大丈夫。すぐに意識が逸れるから。』
「では、拷問を始める。羽を持った二名は、こいつを擽れ。」
「ひぃっ!?あ!やめっ!ひゃっ!うひゃひゃ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
『独特な笑い声だな。』
「なんか汚いです。」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「何か楽しい!」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「ヒィーッアヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「苦しヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
タカールの顔が涙と涎でグチャグチャになってきた。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャゲホゲホッ」
咽た様子を見て、兵士がこちらをチラチラ見るが、まだまだだ。
「ウヒャヒャヒャゲホゲホヒャヒャヒャヒャゲホゲホヒャヒャヒャヒャ」
「助けヒャヒャヒャゲホゲホヒャヒャヒャヒャゲホゲホ」
『止めろ。』
「ゼェゼェ、た、助かったゼェゼェ、もう、やめて下さいゼェゼェ、何でもゼェゼェ、話しますゼェゼェ。」
『本部はどこにある?』
「ふ、フンダリーです。」
フンダリーとは、嘗ての国の首都の隣にあった街で、首都は勇者に壊滅させられたから、残っているのは一部だけで、一応都市国家にはなっているが、人口は少なく不安定で危険な魔力炉がある為に、扱いに困るという理由で無視されているのだとか。
魔力炉があっても、魔力を利用できなければ、ただの危険地帯でしかない訳だ。
フンダリーという街は、元首都の遺跡の反対側に、ケッタリーという街があり、そこと姉妹都市だったそうだ。
激怒した勇者が首都を壊滅させた後で、その二つの街の名前を変更したそうだ。
理由は、首都から逃げて来た難民と、その難民が怒らせたハニービーの襲撃や、魔獣によって人口が半減したからだそうな。
伝記には、その街の住民も勇者に魔獣を押し付けて、倒してもらおうとしたらしく、魔獣に蹂躙される街を教会の鐘楼で眺めていたそうだ。
どこの魔王だと言いたくなるが、過労で精神的に不安定になっているのであれば、気持ちが解らないでもない。
『フンダリーには、各地から集めた金が集約されてんのか?』
「は、はい!そ、その通りでございます!は、話したのですから、たた、助けて頂けるのですよね!?」
『誰かが、そんな約束をしたのか?』
「へえっ!?タカール商会の秘密を話したのですから!解放して頂きたい!でなければ私は殺されてしまいます!」
『・・・解放したら殺されなくなるのか?何で?どうやって逃げ延びるつもりなんだ?』
「それは・・・」
こいつの証言は、噓八百の様だ。
元から本当の事を話すとは思っていなかったのだが、短いセリフだけでは、嘘を見抜けなかったのだ。
だが、解放云々の話の時に、殺されるというセリフが嘘だと判った。
つまり、フンダリーに本部があるという話はブラフで、解放後本部に戻って、手筈通りにフンダリーが本部だと言っておいたよと報告して、逃げ果せると思ったのだろう。
『開始しろ。気絶するまで止めなくていい。』
「よっしゃ!楽しくなって来たところだったから、有難いぜ!」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
流石生粋の詐欺師といったところか、3回目の気絶まで嘘を繰り返して、やっと話す気になった様だ。
周りの兵士達は、笑い声に釣られて楽しそうだったのが、3回目の気絶を見た時には、ドン引きしていたよ。
気絶する度に氷水をぶっかけられて起されるから、タカールの目の下には隈が出て来て、唇が紫色になっていた。
『本当の事を話す気になったか?』
「はな・・・します。も、元首都の・・・遺跡の下に・・・あ、あります。」
カインッ!
どこからか飛んで来たボルトが、タカールの周りに張っていたシールドに弾かれた。
どうやら、本当の事だと証明してくれた様だ。
『捕縛しました!』
『でかした。他にも居るから、そっちも頼む。』
『了解!』
カノエが捕縛してくれた様だ。
ソフティーも既に動いていて、何人か糸で絡め取っている様だ。
『さて、やっと本当の事を吐いてくれたから、刺客も捕まえられた様だな。タカールは地下牢に入れておけ。リズ、アレを着けておいてくれ。』
「はっ!」
「恐ろしいな・・・。生まれて初めて、恐怖を感じたぜ。」
「そ、そうですね。優しい方だと思ってましたが、怒らせると怖い方だったみたいですね。」
「それだけじゃねぇぞ、暗殺者がいる事を想定してたって事だろ?しかも弩の矢が筒じゃなくて棒だぞ?あれを防いでも罅すらつかねぇとか、どんだけ硬いんだよ。」
「流石師匠。」
「はあ!?お前の師匠は、あの耄碌ジジイじゃねぇのか!?」
「あの人よりも、アルティス様の方が全然凄いんですよ。私の固定観念をぶち壊してくれましたから。」
『ガウス、これ着けろ。そんで、タカールを地下牢にぶち込んで来い。』
「ああ?防具なんて要らねぇよ。そんな暑苦しいもん着けてらんねぇよ。」
『あの弩で貫かれるぞ?』
「・・・仕方ねぇ。今だけ着てやるよ。」
『エステルはこっちのローブを着ろ。防御力はこっちの方が遥に上だからな。』
ガウスには、ロックリザードのスケイルメイル、エステルには、ワイバーンのローブを渡した。
二人共着こんだ途端に、にっこにこになった。
この街は、泥水が周辺で湧きまくっているからか、少しヒンヤリした気候で、半裸のガウスやローブの性能重視で、寒さ対策を疎かにしたエステルには、肌寒く感じていた様だ。
アルティス製のスケイルメイルは元より、ワイバーンのローブも改良が重ねられていて、アラクネ絹を使って強度も増して、温度調節もできる事から、すぐに気に入った様だ。
「凄い。このローブは、今までのよりもずっと軽いのに、暖かくて肌触りもいい。革製なのに、嫌な臭いも無いし、何の皮か判らないけど、凄い装備だ。」
『ワイバーンの革で内側にアラクネ絹を使ってるんだよ。だから、刺突、斬撃、打撃に耐性が有るし、ピンバッヂを操作すれば、温度調節もできるぞ。』
「??ワイバーンの革?どれがワイバーンの革なんですか?」
『全部だが?』
「おいおい、ワイバーンの革ってのは、もっと分厚くて重いんだぜ?知らないのか?」
『俺が狩ったワイバーンの革を使ってるんだぞ?知らない訳が無いだろ。』
「ワイバーンを狩られたんですか?さぞかしそれなりの被害があったのですよね?」
『ある訳無いだろ。あんなの水魔法で一撃だよ。』
「「・・・嘘だろ?」」
『仲いいな。お前ら。』
「アルティス様は、水魔法3発で、3頭のワイバーンを狩られたんですよ。」
「ど、どうやってそんな事が!?」
『ほら、これがその時のワイバーンの頭の半割だ。』
ワイバーンを倒したと言うと、毎回同じ事を聞かれるので、頭を半分に割った標本を残しておいたのだ。
ワイバーンの頭は、牙以外に利用価値が無いので、保存魔法をかけて残してあるのだ。
「うわ、気持ち悪い!?んん!?この口の所から後頭部にある穴?こんなカーブした穴をどうやって・・・」
「こうじゃねぇか?ほら、ブレスを吐く時の形にすれば、一直線になったな。これなら納得だぜ。」
「いやいや、いくら口の中とは言っても、水魔法で貫ける訳が・・・圧縮して細くして撃てば・・・いや、でも・・・」
「倒し方は判ったが、革の方が判らねぇ。」
『羊皮紙と同じだよ。』
「羊皮紙?どうやって薄くするのか判らねぇが、アレと同じ様にして薄くしたって事か。その作り方をバラしてもいいのか?」
『ワイバーンを狩れる奴がいるんなら、問題あるかも知れないな。だが居ないだろ?』
ワイバーンは、S級と呼ばれる冒険者でも、進んで狩りに行く者は居ない。
時折、市場にワイバーンの革が流通はするのだが、それらは、どこかの国の騎士団がボロボロになりながら、何人もの死傷者を出して狩ったもので、皮はボロボロ、肉もグチャグチャで、皮は継接ぎして防具に使われる。
「・・・確かに。」
『ほら、さっさと放り込んで来い。終わったら昼飯にするぞ。』
「お、おう。行ってくるぜ。」
城内の食堂で待ってると、ガウスがニコニコしながらやってきた。
「凄ぇなこの防具!あのボルトが当たっても、傷一つ付かねぇし、衝撃も感じなかったぜ!?」
『撃った奴は捕まえたのか?』
「あぁ、捕まえたんだが、毒を飲んじまったな。あんたの部下が速攻で治してたが。」
つまり、地下牢に行く途中で弩で狙われたという事だ。
予想はしていたが、城内にはまだ潜伏している奴が居るって事だ。
『ヒノエ、城内の捜索は進んでいるか?』
『はっ!城は、地下に広く造られておりまして、現在は8割程が完了しております。ですが、最深部の部屋の入り口が判らず、手こずっております。』
『飯を食ったら行ってみよう。』
食事はいつも通り騒がしかった。
この国の食事も他の国同様で、塩味がメインで、硬いパンに具の少ないスープ、塩茹での芋と塩焼きの肉が普通で、狼人族の作った料理を夢中で食べていた。
今日は、作る時間も短かったので、具沢山のポトフとふわふわのパン、ワイバーンのステーキと煮豚と肉野菜炒めだった。
食事が終われば、城内の掃討に移る。
『リズ、ついて来い。ガウスはエステルの護衛だ。ケニーはエステルの私兵と他の兵士達と共に、狼人族と鍛錬を開始しろ。狼人族は兵の鍛錬を開始しろ。』
『はっ!』
「ちょっと待って下さい!鍛錬なんかしていて、大丈夫なんですか?」
『大丈夫だよ。お前らを狙った所で、大した成果にもならないから、狙われる事は無い。エステルの護衛にも使えないんだから、やる事が無いだろ?暇なんだから鍛錬するしかないだろ?』
「いや、休憩とか。」
『今までずっと休憩してたんだから、もう充分休めただろうが。お前ら兵士の本分は、体を鍛えて有事に備える事だ。いつ何があっても、動けるように鍛えろ。』
「・・・うっす。」
アルティスとケニーの会話を聞いていた兵士達が、騒ぎ始めた。
「ふん!獣人なんかに誰が従うってんだ!鍛錬なんかしねぇよ!」
「そうだそうだ!」
「アルティス様に楯突くとは良い度胸だ。その根性を叩き直してやろう。」
城内から前庭に出て来た狼人族の二人が、木剣を手に兵士達の前に立ちはだかった。
「ああん?木剣で俺達をどうにかできると思ってんのか?」
「素手では殺してしまいかねんからな。木剣が丁度いい。」
「舐めやがって!殺っちまえ!」
ワー!ワー!
『元気だな。』
「いやいやいやいや、元気だなって・・・あの二人が心配じゃ無いんですか?」
『できると言ってるんだから、大丈夫だろ。そんな事より、執務室に行って仕事しろ。』
さっさと地下室に向かうアルティス達から、兵士達の方に視線を向けると、騒いでいた兵士の殆どが地面に転がっていた。
狼人族の持つ木剣は、多少ささくれてはいるものの、使用には問題無い様で、向かってくる兵士達を叩くのではなく、足や槍に絡めて放り投げていた。
「あいつの部下って、全員こんな奴らばっかりなのか?」
「さ、さぁ?」
その時、狼人族に向かってボルトが飛んで来た。
カンッ!
一人の狼人が、木剣でボルトの軌道を上に逸らして避けた。
「俺は、アイツにも勝てる気がしねぇ。」
「・・・。」
地下最深部に向かったアルティス達は、通路に不自然な穴がある事に気が付いたので、ソフティーに穴を塞いでもらいながら進んでいた。
『まるで、からくり屋敷だな。あの穴は、罠じゃなくて、手動で弩を操作してるのが残念ではあるが、防御機構としては間違いではないな。この城は殆どの場所が二重構造になっていて、その隙間に入り込んで撃ってるのか。背後を取られたら、確実にやられるのが痛いな。』
「一網打尽にはできないんですか?」
『一か所に通じてるみたいだから、その部屋に玉の粉を撒いてやれば、無力化できそうだ。』
『それをやると、恐ろしい事になるので、やりたくないのですが?』
『痺れ粉でいいだろ。』
アルティスは、使えそうな場面があると、すぐに玉粉を使いたがるので、周りは何とか使わせない様にしようと、必死になっているのだ。
穴の奥から、バタンバタン音が鳴り響き、静かになった。
最深部に到着すると、魔道具が5個設置してあり、その魔道具をディメンションホールに仕舞うと、扉が現れた。
『認識阻害の魔道具と、偽装の魔道具の併用か。それ程までに隠したい何かが、ここにあるって事だな。』
「金庫でしょうか?」
『それか、それに近い物だろうな。罠は無い。開けてみよう。』
扉を開くと、そこには大量の箱と10人の奴隷が居た。
奴隷達は、闇奴隷では無く借金奴隷となっていて、タカールが逃げる直前に閉じ込められたのか、特に外傷も無く、衰弱もしていなかった。
「タカール商会に借金があるのか、借金の形に捕られたのか判りませんね。」
『こいつらを解放するには、金を払えば解放できる筈だが、どうすっかな。とりあえず、箱の中身を確認してくれ。』
「はい。よっ・・・中身は白金貨ですね。凄い量がありますよ?」
『支部でこれか。本部には、どんだけ溜め込んでるんだろうな。ヒノエ、タカール商会の建物は、外にあるのか?』
『はい。確認しましたが、貨幣はありませんでしたので、持ち去った後か、ここにあるのがそれかと思われます。』
箱の中には、20枚で重ねられた白金貨が50個入っており、1箱に1000枚ずつ入っている様だ。
その箱が、ザッと見て100個以上積み上がっているので、国家予算を遥かに超える額が、ここにはある様だ。
『とりあえず、全部もらって行くか。賠償金としても多すぎるが、この国の金もここに溜め込んでいそうだからな。国王が知らない金庫などに入れておく必要は無い。』
「どんどん入れて行きますね。」
白金貨の入った箱を回収していくと、奥の方から何かの卵が入った箱が4つ出て来た。
「何の卵でしょうか?」
『[鑑定]神獣の卵ってなってるぞ?フェンリルとかペガサスとかかな?』
「ペガサス・・・見てみたいですね。憧れます。」
『とりあえず、全部まだ生きてるみたいだな。封印されてはいるが、封印を解けば孵るかもしれないな。』
「でも、鳥じゃないのに卵から生まれて来るんですか?」
『さぁ?文献には書いてないから、判らないな。』
『こっちがフェンリルで、こっちが白虎、こっちがペガサスで、これがエンジェルだね。』
『ソフティー解るの?ってか、エンジェルって神獣なんだ。翼人みたいな感じなの?』
『んー、どちらかと言えば、鳥人?人間の体に鷲の頭で、神界から降りて来た時に捕まった後、行方不明になったんだって。』
『あぁ、ラファウルが降りて来て、アラクネ絹の網で捕まったとかいう話か。死んでも死なないらしいから、卵になって、復活の時を待ってるって事なのかもしれないな。』
「出してしまっても平気なんですか?」
『さぁ?面倒くさい奴だったら、殺せばいいんじゃね?何か精神操作しようとしてるし、うざいから目玉焼きにでもして食っちまうか。』
アルティスの不穏なセリフを聞いてか、卵が、それぞれ点滅し始めた。
孵るのかと思ったが、4つの卵が口論をしている様にも見える。
「なんか、光り方がバラバラなのは、何でですかね?」
『口論でもしてるんだろ。あ、フェンリルって獣王帝国に居るんじゃ無かったっけ?』
「知らないです。」
『そか。後で殿下かグレゴリー氏に聞いてみるか。』
「この卵は、結局どうするんですか?」
『エステルに聞くしかないな。ディメンションホールに・・・は入らないか。大した大きさじゃ無いから、持って行こう。』
隠し部屋から奴隷達を出し、卵はソフティーの背中に固定して運び出した。
『エステル、今どこにいるんだ?』
『え?執務室ですが?』
『その執務室がどこにあるのかが、判らないんだよ。』
『あぁ、2階の真ん中です。扉が開いてるので、判ると思いますよ。書類が山積みで、整理しないと椅子も見つからないんですよ。』
執務室の前に行くと、大量の書類が積み上がっていた。
『タカールは、何もしていなかったのか?何の書類だ?』
「まだ一部しか見ていませんが、今の所、殆どは許可申請ですね。私一人で、これを処理するのかと思うと、気が滅入ります。」
『官僚はいないのか?』
「もぬけの殻でした。埃が積もっていたので、タカールが王になってからずっと、居なかったんじゃないかと思います。」
タカールがやって無かったのか、やる能力が無かったのかは判らないが、内政を何もしていなかった様だ。
兵士の給金とか、どうしていたんだ?
『そうか。どうするんだ?』
「いやぁ・・・どうしましょうか。」
『商人以外の民は居ないのか?』
「居ますけど、お金無いので雇えないんです。金庫の中身は空っぽでしたので。」
『地下に大量にあったぞ?白金貨が。それと神獣の卵と奴隷も見つけた。タカールのマジックバッグの中身は見たのか?』
「登録した本人以外は、取り出せない様です。って、お金あったんですか!?奴隷?神獣の卵?」
『奴隷は全員、借金奴隷だな。全員借金の形にされた様だぞ。そんな事が許されるとは知らなかったが、売られたって事なんだろうな。』
本来の借金奴隷とは、借金をした債務者が、債権者の指定した労働で返済をする事を奴隷契約として契約するのだが、ここにいる借金奴隷達は、債務者とは違う名前で借金奴隷の契約を行っている。
王が契約主として奴隷契約をしているので、正式な奴隷として登録がされている様だが、債務者の名前と奴隷本人の名前が違うという事は、本来は違法奴隷になる筈なのだ。
だが、正式な奴隷契約には王の承認が必要な為、王が契約者となっているこの奴隷達は、王に債務者の借金と同額の借金をして、債務者に金を渡し、王の奴隷になったんじゃないかと思った。
『タカールから借金をして、借金奴隷になったのか?』
「夫の借金を返済する為に、王様から同額の借金をしました。」
『そうか。その夫は、この街に居るのか?』
「はい。アプレイザル商会の会頭です。」
『不動産屋か?』
「いえ、雑貨を取り扱っています。」
『ヒノエ、その商会はまだあるのか?』
『・・・無いようです。調査しますか?』
『無くなった原因だけ調べてくれ。』
『了解』
アプレイザルって確か、不動産評価に関する用語じゃなかったっけ?何で雑貨屋なんかやってんだろ?
『調べましたところ、元々は建物の管理をしていたそうなんですが、商人の街という事もあって、仕事が無くなった為に雑貨を扱う様になったそうです。ですが、貸金に借りた筈が、何故か王が債権を握っていたらしく、借金と引き換えに妻を取られたそうです。その数日後には、殺されてしまった様です。』
タカール商会なら、やりそうだな。
『お前の夫は、既に死んでいるそうだぞ?』
「っ!?・・・うっうっうぅぅぅ」
他の奴隷も似たり寄ったりで、ハメられた様だ。
下心で奴隷にしたのかとも思ったが、毎日罵倒はされても触れられる事は無く、執務室で書類の整理やら、計算などをさせられていた様だ。
『計算ができるのか?商会の関係者なら、文字も計算も覚えさせられるか。とりあえず、証文に金をつぎ込んで解放してやろう。』
借金奴隷の解放条件は借金の返済で、その返済方法は、借金奴隷の奴隷紋に収納されている奴隷契約書に、金を直接つぎ込むのだ。
これは、契約者に金を返済しても、知らんぷりする輩が居る為と、少しずつでも手軽に返済ができる様にする為だ。
誰の計らいかは知らないよ。
そして、この借金は本人以外が返済をしても、問題は無いのだ。
つぎ込んだ金がどこに行くのかと言うと、それは当然債権者の所に行くのだが、契約書に記載のある所に支払われるのだ。
今回の場合は、執務室にある金庫の中だな。
チャリンチャリン
奴隷達の奴隷紋に白金貨を放り込むと、空っぽだった金庫の中に、お金がでてきた音が鳴り響いた。
彼女等の借金は、白金貨30枚前後だったので、ディメンションホールに入っている白金貨をどんどん放り込んだ。
労働が対価になっているので、働いた分が借金から差し引かれている為、証文に白金貨30枚と記載されていても、実際に取られる金額は少なくなる。
本来は、金庫の中に入ってるお釣りが支払われる筈が、金庫の中にはタカールのマジックバッグだけだったので、お釣りはそのマジックバッグの中身が使われた様だ。
契約解除には、本来は契約主の立ち合いが必要なのだが、借金奴隷の場合は契約主に犯歴が付いた時点で、立ち合いの必要が無くなる。
そうしなければ、返済完了したのに、契約主が鉱山に居て解除できないなんて事もあり得るからだ。
だから、今回もそれに該当したからか、すんなり解除されたよ。
『では、エステル、この者達を使用人として、ここで雇って書類を処理しろ。給金は月銀貨20枚、月宴祭の時に褒賞として、金貨1枚だ。』
「多すぎるのでは?」
『何でだよ。この建物の掃除、洗濯、食事の用意、それに執務の補助だぞ?本来なら、この倍の人数が居てもいいくらいの仕事量なんだから、安いものだろうが。』
「で、でも、そんな給金を支払う為の資金が無いですよ?」
『白金貨があるって言ったじゃないか。それに、税金を商人から回収しろよ。今の税率は、50%・・・50%!?高っか!20%にして、全商人から徴収しろ。毎月収入の20%だ。』
「にじゅっぱー?」
『2割って事だよ。100稼いだら20取れって事だよ。』
「計算できる者は居るんですか?」
元奴隷を見ても、首を傾げている。
計算ができるとは言っても、簡単な足し算と掛け算程度までしかできないのだろう。
『ケットシーでも貸すか。算盤の使い方の先生を貸してやる。それで計算を覚えろ。ケットシー3名をマッドフォレストに派遣する。護衛は豹人族4名とコボルト10名だ。準備しろ!』
『いつでも行けます!』
即答で返って来た。
アルティスが視察に行くと決まった時から、準備していた様だ。
『[ワープゲート]』
唖然とするみんなの前に、ケットシーを先頭に豹人とコボルトが完全装備で現れた。
『ケットシーは、この子達に算盤の教育、ここの書類の整理と行政の手伝い。豹人はケットシーの護衛と兵の教練、コボルトは城の警備と兵の教練。この国は暗殺者が弩を撃って来るから、油断するなよ?外には狼人族もいるから、飯の心配は不要だ。心してかかれ!』
「「「はっ!」」」
ケットシー達は、部屋に入って来た時から、積まれた書類を見てソワソワしていた。
猫の癖に書類が大好きで、全然気まぐれじゃないんだよな。
『仕事を始める前に、自己紹介をしろ。名前が判らなければ、仕事なんて任せられないからな。』
「そうでした。ケットシーのワンタと申します。こっちがポチ、そっちがクロマルでございます。よろしくお願いいたします。」
猫なのに犬みたいな名前で揃えて来やがったな。
『じゃぁ頼むぞ。っと、資金は金庫の中に入れておく。この国は商人中心の街だから、街中で何を言われても、判りませんと答えておけ。間違っても聞いておく等と安請け合いをするな。責任を押し付けられて、苦しむのは自分だからな?』
「そうですね。言いたい事があるなら、王に直接言えと言って下さい。」
『そうだ、ベーグルに設置しようかと思ってたんだが、否決した歎願や申請を貼り出す掲示板を作ったんだよ。王城前の広場に立てておこう。この部屋に否決箱を置いておくから、そこに入れると外に張り出される仕組みだ。ペンはこれを使え。王のサイン用とその他サイン用を渡しておく。王の決済は、全てこのペンを使ってサインしろ。偽のサインと区別できるから、便利だぞ。ケットシーには、デスクセットを渡しておくから、部屋が片付いたら設置して使ってくれ。』
ベーグルの内務省で使っているデスクセットと、ケットシー用の亜空間お休みセットを渡しておいた。
亜空間お休みセットは、どこに行っても戦闘力の無いケットシーは狙われるので、安心して寝られる空間を亜空間に作る魔道具を作ったのだ。
亜空間は、今いる空間とは違う為、攻撃されても届く事は無く、魔道具を中心にして広がる為、攻撃で魔道具が破壊される事も無い。
中に入っているのは、ベッドと着替え用のクローゼットのみで、広さは畳1畳ほどしかない。
ケットシーの身長が、平均140センチ程しかないので、小さなベッドと数着入るクローゼットで、丁度ぴったり入る広さなのだ。
他の獣人達は、基本的に寝込みを襲われても、熟睡している事が無い為に、避ける事ができるので不要だ。
そもそも、獣人達は野生動物とほぼ同じで、寝てる様で寝てない状態で寝るので、攻撃されてもすぐに感知して反応する。
逆に、ケットシーは野生を忘れた家猫の様な感じで、寝る時は必ずヘソ天になる。
そんなのでどうやって今まで種族を維持できたのかというと、常に人間や権力者の傍に居たからだ。
種族名が○○族ではない理由も、そんな所にあるのかもしれない。




