第64話 獣王帝国の対処とエスティミシスの危機
ラインハルト達は、急ぎロック鳥に乗って、15名の精鋭部隊と共に獣王帝国に戻って来た。
帝都の中央にある城は、一見普通の城に見えるのだが、中は迷路の様になっていて、内部の構造を知っている者で無ければ、最深部にたどり着く事が難しい様になっている。
ラインハルト達は、中庭に降り立つと、急ぎ足で皇帝の居る執務室に向かった。
その後ろには、姿は見えないが何かが着いて行った。
「皇帝陛下、ラインハルトです。今戻りました。」
「入れ。・・・早かったな。予定では明後日の予定では無かったか?」
「バネナ王国の女王陛下と宰相殿の暗殺を、我が国の密偵が行いましたので、急ぎ戻って来た次第です。」
「何だと!?誰がそんな指示を出したのだ!?」
「陛下では無いのですか!?密偵に指示を出せるのは、陛下だけですぞ!!」
「知らん!儂はそんな指示を出した覚えなど無い!!あの国に喧嘩を売る等、自殺行為に等しいんだぞ!?」
「では、一体誰が指示を出したのですか?」
「最近、カズンジの行動が怪しいとの報告が上がって来ていたが・・・まさか、あ奴が?だが、どうやって密偵に命令を下したと言うのだ?」
「カズンジを探して連れて来い!」
近くに居た騎士に指示を出した。
カズンジが居たのは、皇帝の部屋から100メトル離れた場所にある、自室の中だった。
騎士が到着した時には、既に自害した後で、自分で剣を喉に突き刺して死んでいた。
遺書などは特に残されておらず、死んだ理由が判らないが、証言が取れない為に迷宮入りかと思われたその時、ラインハルトの目の前にヒノトが降り立った。
「なっ!?何奴!?」
「突然申し訳ございません。バネナ王国の暗部の者です。この者の偽物が帝都の宿におりますので、捕縛をお願い致します。宿の名前は、ルギートゥス、4階の角部屋におります。では。」
スゥっと姿が消えた暗部を探したが、気配どころか匂いすら消えていた。
「すぐに騎士を召集しろ!ルギートゥスに踏み込むぞ!密偵で周囲を固めて逃げ場を無くせ!!」
「はっ!」
ラインハルトは、改めてバネナ王国とは敵対するのは危険だと認識した。
ヒノトが現れた場所は、城内でも深部と呼ばれる場所で、重職に就く大臣や、近衛騎士以外は入れない筈の場所だ。
そんな所に易々と入られている事に、驚愕していた。
『アルティス様、ラインハルト殿下に繋ぎました。』
『よし、引き続きサポートをしてやってくれ。』
『了解』
『ペンタ、首謀者の調査はどんな感じだ?』
「偽者が魔族である事は確認済みです。ただ、その先が判りませんね。角で通信している様ですが、盗聴ができないので、誰と通信しているか迄は、確認が取れていません。」
『アリエン、判るか?』
『はい。獣王帝国に潜伏している魔族ですが、ノーフラップ・グラタンの命令を受けて、獣王帝国の掌握を狙っているものと思われます。通信相手は、帝都の隣接都市、スクワロルテールの中心地の屋敷に居ます。』
『領主か官吏が魔族という事か?』
『いえ、執事の様です。』
『その執事が、魔族という事だな?』
『はい。その通りです。』
『判った。ありがとう。ペンタ、確認を頼む。』
「了解。」
調査の結果、命を狙ったのは、皇帝の座を簒奪するべく動いていた、魔族の手に因る事が判明したが、帝国内には未だ魔族が潜伏している可能性を捨てきれない為、協力して魔族の捕縛を進めていく事になるだろう。
だが、ラインハルトが皇帝の座をどうするかについては、アルティスが手を出す問題では無い為、静観を決め込むつもりだ。
ヒノトに皇帝の年齢について聞いてみたが、よく解らないそうだ。
獣顔という訳では無いのだが、ぱっと見では40代には届いていないくらいに見えるらしい。
ラインハルトが20代だとすれば、皇帝の年齢が35歳前後という事になるのだが、どうなのだろうか。
ラインハルトが騎士を率いて、ルギートゥスに踏み込んだ。
4階の角部屋には、カズンジの姿をした男が居た為、速やかに捕縛した。
城の地下室で、男の尋問を開始したが、全く喋る様子はなく、殺そうと剣を抜いたその時、ヒノトが念話をしてきた。
『お待ちください、殺すのは時期尚早です。バネナ王国の拷問の方法をお試しください。』
「うおっ!?・・・お、おう。」
ラインハルトは、捕まえた男を椅子に縛る様指示を出し、騎士二人が羽を持ち擽りを開始した。
「うぐ・・・ふむん・・・うひっ・・・ウヒャヒャヒャヒャ」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャやめウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャいきが」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャハァハァウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「ゲホゲホウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「止めろ。話す気になったか?」
「ハァハァハァハァ、判った、判ったから、話す訳には「やれ」ウヒャヒャヒャヒャ」
「話す!ウヒャヒャヒャヒャはなウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャっひぃー」
「やめ。話せ!」
「ハァハァハァハァ、カズンジを殺したのは、ハァハァ、俺だ。ハァハァ、指示したのは、ハァハァ、スクワロルテールにいるフーノ・スパイラルだ。」
「そいつはどこに居るんだ?」
「領主の館だよ。」
「なんだと!?グレゴリー!すぐ向かってくれ!」
「恐れながら、かの地に行くには、スケープゴートの群れを排除せねば、辿り着く事は難しいでしょう。」
「ロック鳥を使え!」
「疲弊しております。明後日迄乗る事は無理でしょう。」
「ぐぬぬ・・・。」
『アルティス様にご連絡されてはいかがですか?』
「はっ!?そうか!その手があった!!」
「何か手があるのですか?」
「アルティス殿に狩ってもらう!!」
「どうやって来るというのですか?300人もの兵を引き連れて来ると言っておられましたが?」
『明日の朝、来れる様に連絡をしておきます。』
ラインハルトが周りを見るが、どこにいるのか判らない。
だが、会話を聞いている事は確実だ。
「よろしくお願いいたします。」
「??誰かいるのですか?」
「バネナ王国の暗部の者が居るのだよ。」
「どこに?」
「姿を現す事は可能ですか?」
「これでよろしいですか?」
ラインハルトに頼まれた為、ヒノトがラインハルトとグレゴリーの間に姿を現した。
「うわぁっ!?本当に居た!?一体どうやってここまで来たのだ!?」
「ずっと後ろを追いかけていました。ここの城には、結界は張っておられないのですね。警備がスカスカですよ。もっと警戒した方がよろしいかと存じます。」
言うだけ言ってスゥっと消えてしまった。
グレゴリーがヒノトの立っていた場所に手を出すが、そこには既にいない様だ。
「とんでもない国だな。我々の嗅覚を以てしても、判らないとは。」
「あの国とは敵対してはいけないな。」
「それより、アミュレットを着けたまま戻ってきてしまいましたが、いいのでしょうか?」
「あ・・・」
「アルティス様から、そのまま着けていて欲しいと言伝を頂いております。明日の朝、グレゴリー様のアミュレットを目印に、ゲートを開くと申されておりますので、朝7時までに、現地へ赴いて頂けると幸いです。それと、魔族には隷属の首輪を着けましたので、牢に入れても逃げられる事はありません。」
「承った。」
拷問にかけた魔族の首には、いつの間にか首輪が付いていた。
翌朝、グレゴリーは、スケープゴートの群れが見える、丘の上に来ていた。
「本当に来れるのだろうか?」
『誰かと待ち合わせですか?』
「うむ。バネナ王国のアルティス宰相殿と待ち合わせ・・・はあ!?」
『おはようございます。朝食は食べましたか?まだなら、ピタパンありますが、食べますか?』
「いつの間に?バネナ王国からここまで、転移されたのですか!?」
『はい。今ゲートを開いてもよろしいですか?』
「あ、ああ、ゲートとはワープゲートの事でしょうか?」
『そうです。[ワープゲート]出てきたら、グレゴリー様に挨拶を。』
「おはようございます。」
ワープゲートから、アーリアを筆頭にぞろぞろと300人が出て来た。
「スケープゴートの群れを見るに、10万以上居そうですね。では、狩らせて頂きます。皆の者!スケープゴートを狩り、渡したマジックバッグに入れて行け!かかれ!」
ザザザザザ
『では、私は反対側に向かい、逃げられない様に対処してきますね。』
「お、お気を付けて・・・。」
バネナ王国の兵士達が一斉に散開し、サクサクとスケープゴートの群れを狩り始めると、みるみるうちに数が減って来た。
一部の狼人族が戻って来て、マジックバッグの中から、野外炊飯セットを取り出すと、テーブルとイスを次々と取り出し、食事を作り始めた。
グレゴリー一行は、美味しそうな匂いに釣られて、涎を垂らしながら眺めていると、狼人族がグレゴリー達に料理を振舞ってくれた。
「何だこれ!?城の飯よりも美味いぞ!?」
「こ、この肉はアーミーラプトルの肉じゃないか!?」
「こっちのドロッとした物は癖になる味だぞ!!」
「このパンは初めて見るな。ん?柔らかい?ふわふわしているが、重さがあるな。あむっ」
ビシャッ!
「ギャーッ!!アチチチ!!」
アーミーラプトルの肉入りの肉まんの汁が、正面に座っていた兵士の顔にヒットした様だ。
グレゴリーは小籠包を口に放り込み、悶絶している。
平原では、手前の方で狼人族がスケープゴートの解体を始めていた。
それぞれが持っていたマジックバッグの中から、スケープゴートを取り出し、解体をしているのを、グレゴリー達は眺めていたが、解体を手伝う事にした様だ。
「ここで解体するのですか?」
「解体しなければ、マジックバッグがすぐに一杯になってしまうのですよ。アルティス様のディメンションホールであれば、かなり入るのですが、我々の持っているバッグでは、それ程の容量が無いので。」
「我々も食事のお礼に、解体を手伝いましょう。」
「助かります。」
狩りを開始してから、2時間程経つと、ポツリポツリと休憩しにやって来る者達が出始めた。
食事を作っていた狼人族が、休憩の為に戻って来た狼人族と交代し、狩りに向かって行ったのを見ていたグレゴリーが、狼人族に聞いた。
「そなたらは、全員料理ができるのか?」
「狼人族は殆どが料理を作れますね。あ、ステーキ食べますか?ワイバーンの肉ですけど。」
「ワイバーン!?た、食べられるのか!?」
「えぇ、美味しいですよ?味見をどうぞ。」
「う、うむ・・・、あむっ・・・美味い・・・これが本当にワイバーンの肉なのか?ワイバーンとは、こんなに美味いのか?」
「ワイバーンの肉をセボラを摺り下ろした汁の中に、漬け込むんですよ。そうすると、柔らかくなって味も良くなります。アルティス様が開発されたんですよ。凄いですよね。」
「なんと!?その様な調理方法を我々に話してしまっても良いのですか?」
「アルティス様は、レシピを聞かれたら、どんどん話せって仰ってますから。黙っていたとしても、食べれば何を使っているのか判るし、変な物を使って真似されるよりも、レシピを教えてバリエーションを増やしてもらった方がいいと、いつも仰られております。」
「太っ腹なのだな。」
「みんなの憧れの存在です。」
『照れるじゃないか。やめてくれよ。』
「あ、アルティス様も休憩ですか?」
『喉が渇いたから、ジュースくれ。』
「どうぞ。」
「そのジュースはもしかして・・・」
「世界樹の実の搾り汁ですよ。」
アルティスが前線に戻って、魔法を使った。
『[ショックウェーブ]』
アルティスから、前方に扇状に広がるスケープゴートの波が治まると、倒れて動かなくなったスケープゴートの頭を、リザードマンが槍を使って刺して行き、後ろの列にいるリザードマンが、スケープゴートを回収していく光景をグレゴリーが眺めていた。
一度の魔法で、1万近いスケープゴートが倒れたのを見て、言葉を失った。
と、その時、スケープゴートの群れが、一斉に走り去っていった。
代わりに来たのは、巨大なゴートキャトルで、その正面にアーリアが立ち、剣を一振りすると、ゴートキャトルの首から先が落ちた。
その光景を見たのは、グレゴリーだけでは無く、グレゴリーと一緒に来た兵士と、様子を見に来たラインハルトとキュレイだ。
「な、何が起こったんだ!?一歩も動いていなかったぞ!?」
「スキルも使った様子がありませんでした。」
「剣の風圧だけで切った様です。」
「ば『そのセリフはいけない。』!?」
『女性に対して言っていい言葉では無いですよ?』
「た、確かにそうでした。」
危ない。
王太子殿下の頭が潰れる所だった。
ゴートキャトルは、速やかに解体されて、アルティスのディメンションホールに入れられた。
集計してみると、狩った数は8万4千頭で、逃げて行ったスケープゴートの群れを見た感じでは、まだまだそれ以上の数が居ると推測された。
『すみません。10万には届きませんでした。しかし、逃げた群れはもっと多いと思いますので、再度狩りに来る事にします。取り急ぎ、今回参加した兵士達は、疲労困憊なので一旦戻しますが、エルフとコボルト達を連れてくれば、数日で殲滅できると思います。連れて来てもよろしいですか?』
「・・・」
『王太子殿下?』
「あ、あぁ、すみません。驚き過ぎて何も考えられませんでした・・・。エルフとコボルトですか?コボ・・・ルト?コボルト族!?こ、コボルト族が戦えるのですか!?」
『彼等は優秀ですよ?鍛えるのがちょっと大変ですが、真面目ですし、正義感も強いので、かなり頼りになりますよ。今呼びますね。コボルト族は、配備中を除いて、スケープゴートの狩りに出す。装備を着けて整列せよ!エルフも待機中の者は、出撃する!』
今現在、特に任務に就いていないコボルト族は、総勢3000名の内、2000名いる。
1000名は、スラム街の工場の警備や王都の警備隊、元奴隷の子供達の世話係の任務に就いている。
特に子供達の世話は、数人で1000人近くを世話しており、その様子はまるで、牧羊犬が羊の群れを制御しているかの様だ。
『よし、では狼人族は20人残して他は戻れ。リザードマンは残留組と入れ替え、豹人・・・は戻ってきて無いな。コボルト隊とエルフはこっちに来い。イーグルとフォークは、スケープゴートの群れをこっちに追い立てろ。いけ!』
「「はっ!」」
ゲートから、完全装備のコボルト達が出て来ると、グレゴリー一行が凝視する。
グレゴリーから見ても、コボルト達がそれ程強い様には見えなかったのだが、整然と整列してゲートから出て来る様は、壮観だった。
獣人達の常識では、コボルトが整列するなんて事はあり得ない事で、士気はあっても静止する事が苦手で、5分も持たないという認識だった。
だが、目の前を行くコボルト達は、整然と状態を保ったままゲートから出て来て、アルティスの前に整列していく。
コボルトの次に出て来たのはエルフ達で、こちらも綺麗に整列したまま出て来た。
エルフの列が途切れた頃、遠くの方からスケープゴートの群れが走って来るのが見えた。
『散開して、スケープゴートを殲滅せよ!肉は食料に、革は子供達の服になる!綺麗に取れる様、倒してこい!かかれ!』
ザザザザザ
近くまで群れが来た時に、コボルトは一気に近づき倒し始め、エルフは斜め45度に弓を構え、全員が矢を3本ずつ番え、一斉に放った。
矢が落ちた辺りのスケープゴートは、全て倒れた様だが、どうやって回収するのかと見ていると、100人程のエルフが、アポートを使って、手元に引き寄せた。
引き寄せられたスケープゴートを見ると、全ての矢が頭に刺さっており、その貫通力もさる事ながら、狙って当てているのが理解できて、言葉が出なかった。
「何という練度だ。流石、魔王を倒した軍だ。」
「コボルトが真面目に作業を続けてますね。初めて見ました。」
コボルト達は、4人一組になり、一人が刺して、倒したスケープゴートを後ろに引き摺り、最後尾の者が先頭に入る。
引き摺って下がったコボルトは、マジックバッグに二人掛かりで入れ、一人が入れ替わりで最後尾に下がる。
そうして、一頭狩る毎に入れ替わり、次々と倒して行く。
コボルト達の後ろには、リザードマンが待機していて、コボルトが頑張り過ぎてフラフラになると、リザードマンがその場所に入れ替わりで入って行く。
後退したコボルトは、リザードマン二人が抱えて、狼人族の下に連れて来られる。
スケープゴートの群れの最後尾が見えて来ると、後ろの方に居るスケープゴートがポンポン跳ね上がるのが見えて来た。
よく見れば、ワーキャットと豹人族がスケープゴートを殴り飛ばしている様だ。
両翼には、ワーウルフとアルティスの騎士、それと、カーバンクルが見える。
「か、カーバンクルぅ!?」
「すげぇ!?初めて見た!!」
カーバンクルは幻獣で、幻獣とは存在が確認されていても、滅多に見る事ができない魔獣なのだ。
それは、獣魔大陸に於いても同様で、滅多に見る事は無い。
カーバンクルの存在に驚いている間に、スケープゴートの数はどんどん減って行き、残りが数百まで減ると、再びゴートキャトルが現れた。
『ゴートキャトルは、誰がやる?』
「ハイハイハイハイハイハイハイハイ!!」
『じゃぁ、クールで。』
「ええー!?手を挙げてたのにー!!」
「ちょっと待ってくれ!?俺は手を挙げて無いぞ!?」
『自信のある奴が倒せるのは当たり前、こういうのは自信が無い奴にやらせて、倒せれば自信が付くし、倒せなければ勉強になる。いい方法だろ?』
「あの方はそういうお方だ。諦めろ。」
「・・・あんなのどうやって倒すんだよ。くそー!!」
クールがヤケクソで振った剣が、ゴートキャトルの左前脚を斬り飛ばした。
ドスーン!
「喉を切れ!叫ぶ前に喉を切れ!」
ズパッ
クールが喉に駆け寄り、切裂いて止めを刺した。
『叫ばれるとどうなるんだ?』
「アイツの飛ばしたフンから、一斉にスケープゴートが産まれるんですよ。」
『そうだったのか。今まで殆ど時間かかって無かったから、知らなかったぜ。』
ゴートキャトルを解体し、ディメンションホールに仕舞うと、スケープゴートを使った料理を始めた。
『スケープゴートは沢山狩れたから、飯にしよう。』
スケープゴートのステーキが、グレゴリー一行にも振る舞われた。
「スケープゴートのステーキは、初めて食べたが、美味いじゃねぇか!?誰だよ!不味いなんて言った奴は!!」
『全員食べたかな?では、狼人族はこの国に料理を広めてこい!他は帰還するぞ!って、あれ?シュールはどうした?』
「シュールは村で怒られてる。多分もう外に出れない。」
『それは駄目だよ。ベーシスの将軍になったんだから、ちゃんと戻らないと、ベーシスが困るし、外に出さずに何をさせてるんだ?』
「バーチャン達の世話?」
『何の為に?』
「バーチャン達が生活する為に?」
『ちょっと村に連れてけ。あるじ、他のみんなを連れて戻ってー。』
「私は行かなくていいか?」
『来たいの?』
「興味はあるな。」
『じゃぁ、これに乗って。』
アーリアに渡したのは、カレン達のバイクと同じ物で、黒いボディに黄色く光るラインの物だ。
「何か、私のは厳ついんじゃないか?」
『威厳を持たせたんだよ。部下のと同じじゃ、示しがつかないでしょ?』
「アーリアのバイクの方が、渋くてカッコイイですね。」
『曲がる時は体重移動で曲がりたい方向に傾けて曲がってね。』
「判った。」
ミュールに案内されて村に着くと、村の入り口には村人達が武器を持って待ち構えていた。
『ミュール、お前なんかやったのか?』
「んー、多分アルティスに怯えてる?アーリアに怯えてるのかも?」
「私の気配が怯えさせてしまったのか?」
「な、ななな、何しに来た!?こ、ここは人間の来る場所じゃないぞ!!」
「・・・ちょっと説得してくる。」
ミュールが村の門をくぐり、待ち構えていた連中を張り倒した。
『あれ、いいのか?』
「さぁ?」
「いいのいいの。さっ、中に入って!」
『お、おう、お邪魔するぞ。』
「ミュールが村を滅ぼしに来たぞ!!」
『何か、酷い言われ様だな。』
「気にする必要無いよー。あいつ、頭おかしいだけ!」
『そうか?仲が悪いのか?』
「村長の息子だからって、威張り散らしてるだけの、弱虫だよ。」
『そうか。とりあえず、シュールの所に連れて行ってくれ。』
「こっちだよ。」
着いた場所はミュールの実家だそうだ。
「かーちゃん!シュールを迎えに来た!」
「シュールは外に出さないって言ってるだろ!こいつは、とーちゃんの許可を取らずに出て行ったんだよ!あんたのへそくりも盗んでったんだよ!そんな事をする馬鹿を外になんて出せないよ!」
「シュールはベーシスの将軍になったから、駄目だって。ちゃんと仕事を辞めてからじゃないと、閉じ込めるのは駄目だよ。」
「はあ?シュールが将軍?馬鹿言ってんじゃないよ!こんなのが将軍なんて、務まる訳無いだろ!」
「ベーシスの王様が言ってたんだから、やってたんだよ。アルティスもそう言ってる。」
「アルティスって誰だい!そんな人知らないよ!」
「アルティスは、バネナ王国の宰相だよ。あたしの上司だよ。」
「バネナ王国の宰相?あんたも嘘つきになったのかい!!」
「嘘じゃないよ。玄関に来てるから、挨拶しに来てよ。」
「ちょ!?連れて来るなら先に教えなさい!!」
ワーキャット族の女性が出て来た。
ミュールの母親は、アーリアの方を向いて、カレンを見て、アルティスを見てから、訝し気な顔になった。
「あたしは、ミュールとシュールの母親のチュールだよ。宰相様ってのはどれだい?」
『バネナ王国の宰相のアルティスと申します。後ろの二人は騎士です。こっちこっち、私ですよ。』
「バネナ王国軍総大将のアーリアと申します。ミュールの上司です。」
「バネナ王国宰相専属騎士カレンと申します。」
「・・・何で、ワーキャットの言葉を話せるんだい?」
『魔道具を使ってるんですよ。それで、シュールの事なのですが、ベーシス王国の将軍職に就いていますので、一旦ベーシスに戻して頂きたいのです。』
「こんなちっこい魔獣が宰相って言われてもねぇ、バネナ王国は人間の国なんだろ?信じられる訳無いじゃないか。」
『ラインハルト殿下を連れて来ればいいですか?グレゴリー将軍かキュレイ将軍でもいいですか?来てくれるかなぁ?』
「おお、おお、連れて来れるんなら、連れて来てみなよ。どうせハッタリだろう?そんな物に騙される程ボケちゃ居ないんだよ!」
どうやら、信じて貰えない様なので、グレゴリーに念話で連絡してみた。
『グレゴリー殿ちょっとよろしいか?』
『どうされましたか?』
『今、ワーキャット族の村に来ているんですが、ミュールの母親に説明をお願いしたいのですが?私が、バネナ王国の宰相だと信じて貰えないのですよ。』
『ゲートを出して頂ければ、向かいます。』
『[ワープゲート]』
突然目の前の空間に、黒い穴が開いたのを見て、ミュールの母親がギョッとした顔になった。
「流石ですな。目の前に出されるとは。チュール殿お久しぶりです。ご壮健の様で何よりです。」
「ほ、本当にライノクリーク様が出て来た!?」
「本物ですよ?こちらのアルティス宰相殿に、スケープゴートを殲滅して頂いたのですよ。ミュール殿は、さっきの戦闘にも参戦されておられましたが、里帰りに同行されたのですか?」
『里帰りは、先にやって貰ったんですが、一緒に連れて来たシュールを返してもらえない様で、困っているのですよ。ベーシスの将軍ですからね、預かっている我々に責任がありますので、辞めさせるにしても、一旦ベーシスに戻さなければなりません。』
「確かに、それはその通りですね。シュール殿は既に成人されているのですよね?」
「確かに成人はしていますが、我が部族では、父親の許可が無ければ、村を出るのは認めておりません。」
『ミュールは認められて外に出たんですか?』
「あたしは、親父の許可なんて貰って無いよ。だって、親父はその時酔っぱらって寝てたし。」
『じゃぁ、何で閉じ込められてないんだ?』
「ぶっ飛ばしたから!」
『シュールは、負けたって事か?』
「シュールは、あたしが親父をぶっ飛ばしたら、親父を介抱してた。」
『ん?怪我をした父親を介抱したのに、閉じ込められたの?酷くない?』
「ワーキャットの雄が、雌に介抱されるなど、恥以外の何ものでも無いわ!」
『雌以前に娘だけどな。親を思う娘の気持ちを無下にするとか、ワーキャットって親子の絆が薄いのか。その割に閉じ込めたりするって、意味が判らんな。』
「人様に迷惑をかける様な娘を、再教育して何が悪いんだ!」
『閉じ込める事で、人様どころか、2国に迷惑をかける事になるんだが?』
この村に、シュールを閉じ込める事によって、バネナ王国とベーシス王国に迷惑をかける事になるが、それには気付いていないのか?
「!?ぐぬぬ・・・」
『さぁ、出してもらおうか。』
「駄目だ!我々の為に働いてもらう必要がある!スケープゴートの大群がおるのだぞ!?」
『だから、それはもう殲滅したっての。多少増えたところで、この国の冒険者なり、見つけた奴が倒せば問題無いだろ?4級冒険者でも倒せる程の雑魚だぞ?』
「あんな角以外に、何の役にも立たない物を倒しても、意味が無いじゃないか!」
『つまりは、自分達が動きたくないから、シュールをこき使って、楽をしたいと?馬鹿馬鹿しい。ミュール、連れて来て。』
「判ったー!」
「ミュール待ちな!あんたがここを離れたら、この人間共を殺すよ!!」
「やれるものならやってみてよ。あたしより強いんだよ?その3人は。」
チュールが振り向いたそこには、剣に手を乗せた世界1位と3位の騎士と、世界2位の小さな獣がいるのだ。
家の外から、全周囲に殺気を感じて、アーリアが殺気を出した。
ガシャガシャ
家の周囲からの殺気が消え、装備を落とす音が響き、グレゴリーとチュールが卒倒した。
『カレン、グレゴリーを起こして。ミュール、シュールを連れだしたら、村人に危険が無いか確認をしてくれ。』
「連れて来たー!行ってくるー!」
シュールを連れて来た時、自分の母親を踏んでったよ。
「う・・・ううう、アーリア殿の殺気で気を失ってしまうとは、不覚。情けない姿を晒してしまった様だ。」
『まぁ、仕方ないだろう。あの殺気は、ヤバい。とりあえず、ミュールに村を見回ってもらってるが、終わったらシュールを連れて帰るから、後の事を頼んでも宜しいか?』
「うむ、仕方ありませんな。後は私が対処しておきましょう。」
ミュールが死にそうな村人を救出して戻って来たので、シュールを回収して王都に戻った。
王城に居る兵士と、解体を覚えたい子供達でスケープゴートの大群の解体を行い、ある程度終わったら、砦と王都の干し肉工場にスケープゴートを持って行った。
解体作業は、暫らくかかりそうだったので、エスティミシスの方を確認してみた。
『エスティミシスに派遣した方はどうなってる?』
「ソヒからの報告によると、闇魔法で包まれている様で、神聖魔法玉を幾つか使っても、あまり効果が無いそうです。」
『そりゃそうだろ。闇魔法に対抗するなら、光魔法の方が効果が高いのは、当然の事だ。神聖魔法は、属性とは言っても、精神魔法属性だからな。物理的な属性魔法に対しての効果はほぼ無いと言っていい。神聖魔法が効くのは、アンデッドと悪魔に対してだけだな。だから、使うのは光魔法の方で頼むよ。』
「畏まりました。伝えたら、効果があったようです。」
『じゃあ、そのまま闇魔法の原因を探し出して、対処してもらってくれ。馬人達も探し出してくれ。』
「了解」
エスティミシスで何かが起こっている様だが、興味本位で探索を命じただけなので、そこまで首を突っ込もうとも思えて来ない。
今の時点では、馬人達は密入国者でしかなく、アラクネと暗部達は捜索隊というだけで、エスティミシスに攻め込む為の口実が無い。
闇魔法は、後ろ暗いイメージもあるが、別に悪者が使う魔法という訳では無く、ただの属性魔法でしかない。
ただ、その魔法の効果が、悪事に利用しやすいというだけだ。
相性が悪い属性としては、光が筆頭に来るが、火との相性も悪い。
光は、火が元になっているし、光で火を作る事もできるので、密接な関係にある属性でもある。
ただ、火は闇を纏う事が可能で、火が闇を作る事もできるのが、原因だろうと思う。
とまぁ、理論は兎も角、闇魔法に包まれている事が、介入する理由にはならないという事だ。
介入の理由になるとなると、エスティミシスに要請された場合か、闇奴隷を発見した場合のみかな。
暫らくは、様子見するしかないだろう。
当面は、子供達の養育をする為の施設と、労働環境を整えてやる必要がある。
獣王帝国で攫われた子供達のリストを、作ってもらう事にはなっているのだが、多産では無い種族の分しか貰えないらしいので、9割が残る事になりそうだ。
なので、王都では狭すぎて、養うための施設を作る事が難しい為、円形山脈の北側の廃墟になった街と、テンダー領、ドラムカーン領、スクランプシャス領に孤児院を建てて、そこで育成をしようと思っている。
コックブレイン領も考えたんだが、暫らくは放置でいいかな。
領主になれる人材が居ないのと、領民の殆どが隣接する領に逃げてしまった為に、殆ど人がおらず、円形山脈からもちょっと離れているので、不便なのだ。
距離的には、ドラムカーンの方が遠いのだが、しっかりした領主がいるので、第二騎士団員を数名派遣して、復興のついでに孤児達に農地を管理させるのが、良いと思う。
円形山脈とコックブレインの間には、ドロデス領があるのだが、ドロデス領は農地の一部を踏み固められただけで、ほぼ被害を受けずにスルーされたそうだ。
『エルフとコボルト、それと兎人族で廃墟の街を復興させるのと、ケットシーで統治して欲しいんだけど?』
「街全体を孤児院にするんですか?」
『そうそう、そんな感じ。警備をコボルトとエルフ、執政をケットシー、農地管理を兎人でやれば、結構いい街になりそうじゃない?』
「大変そうではありますが、いいかも知れませんね。」
『作物は、甘芋と豆を中心に育てて、主要産業は酒造りがいいかも知れない。甘芋を育てる時に、シールドモウルが集まって来るから、肉はシールドモウルから調達できるし、同時にマンドラゴラとゴートラディを育てるのもいいな。アドゥを栽培するのも推奨するぞ。』
早速、各領に孤児院を建てるべく動き出した。
建てる方法は、もちろん人海戦術なのだが、エルフ達はMAGを増やす事を目標にしている為、錬金術でセメントを作り、兎人とケットシーが区画を計画して、サクサクと進めていく。
区画整理に兎人が混ざっている理由は、兎人達は距離の計測をかなり正確に、道具無しでできる為、道の幅や区画の計測などで重宝する。
街は、外壁で囲むのだが、高さはそれ程必要では無い為、一定間隔にエルフが魔法で石の柱を建て、レンガや石材を使って壁を作り、隙間にセメントを充填していく。
結界を使えば、型枠を作るのは一瞬で、充填も魔法を使って行うので、気泡も入らず、密度を高められるのと、化学反応も一瞬で完了するので、施工の時短も可能だ。
ただ、木材に関しては、森の木材を切り出すしか方法が無いので、エルフの森で折られたり倒されてしまった木を集めて来て使っている。
バレイショの幹を使う案もあったのだが、バレイショの幹は木では無く草なので、水分を抜くとスカスカになって、燃えやすい上に耐久性が無いので、薪以外に使い道がない様だった。
スクランプシャス領の街は四日で完成したので、手始めに3万人に移住してもらった。
街の中では、王都の孤児院同様にトークン制を導入して、学校では勉強をしてもらい、それぞれ好きな仕事についてもらって、午前中に勉強、午後は真面目に働いてトークンを貰い、トークンの数に応じて食事を食べる様にした。
街には、商業地区と工房地区を作り、工房地区では日用品の制作や修理、商業地区では製品の売買ができる様にして、商売の事も学べるようにした。
移住した殆どの子は農業をやっているが、商家で丁稚をしていた子供達は商売をやり、攫われる前に家で篭や雑貨を作っていた子達は、工房の方に興味を示していた。
王都でアラクネと鬼ごっこをしていた為か、基礎体力がしっかりと身についているので、よく働いている様だ。
『他の領の建設も頼む。当面は王都から食料を運ぶ様になるが、ある程度商業の基本を学んだら、他の領との商売にも挑戦して見てくれ。』
「畏まりました。進めておきます。」
一つの街を作り上げた事で、エルフやコボルト達にも自信が付いた様なので、任せてしまっても問題は無いだろう。
アルティスには、やらなければならない事が、他にも沢山あるので、そちらも進める為に王都に戻って行った。
王城に戻ると、エスティミシスに行かせた部隊からの報告が届いた。
闇魔法で包まれていたエスティミシスから、闇魔法を排除してみると、王城から闇魔法のダークミストが噴出している事が判明し、王城の中がダークミストで充満されていた為に、放棄されていた様だ。
王族は、市井の屋敷に移り住んでいたが、ダークミストのせいで農作物が育たず、保存食で何とか生きながらえていたそうだ。
闇魔法は、一人の魔法使いが持ち込んだ魔道具から噴出していたそうで、その魔道具を持ちこんだ魔法使いは、王城の玉座に座った状態で、干乾びていたそうだ。
『結局、その魔法使いとやらは、何がしたかったんだ?』
『魔道具は止めたのですが、畑の作物が闇属性の植物に変わっていたらしく、どう対応したらいいのか、判らないのです。』
『闇属性の野菜?アバダント帝国関係かな?死霊草とか呪怨草じゃないか?』
『それです。ご存じなんですか?』
『死霊術の本に書いてあったよ。その野菜をゾンビの餌にするそうだよ。エスティミシスには、ゾンビは居ないんだろ?』
『神聖魔法の魔道具も使っていますが、塵になった者は居ませんね。』
『馬人達は元気なのか?』
『はい。全員元気です。ただ、どう対処したらいいのか判らないそうです。』
『ワラビを派遣しよう。それと、王城の天辺に光魔法の魔道具を設置しておけ。』
『了解』
アラクネと一緒に向かった暗部からの報告だったが、名前はキノエで、ヒノエ関連かと思いきや、カノエの妹だそうだ。
カノエとヒノエは、姉妹ではあるが、血の繋がりは無く、カノエとキノエを産んだ母と、ヒノエとヒノトを連れた父が再婚して姉妹になったのだとか。
因みに、母親がイオで、父親はカリストだそうだ。
木星繋がり一家だな。
『ヨークナルにいるキノエネも家族か?』
「アレはヒノエの生き別れの姉らしいです。」
『ヒノエの母親が連れて行ったって事か?』
「はい。そうです。」
「カノエ、嘘は良くない。キノエネは、カノエの姉です。」
『そうか。カノエは、1週間分のエネバーカットな。』
「ギャー!?待って!待って下さい!!あんなのを姉とは認めたくないんです!!」
『でも、嘘は良くない。だから決定ね。反省しなさい。』
「うわーん」
まぁ、その話は置いといて、エスティミシスの方を対処しなきゃだね。
『ワラビ、エスティミシスに死霊草と呪怨草が生えているそうなんだが、どうしたらいいんだ?』
『死霊草ですか・・・掘り起こして光魔法を当てれば、枯れると思います。持ち込んだ者は、干乾びていると思われますが、死んでいないので、燃やすか封印するのが良いと思います。』
『アンデッドなのか?』
『厳密に言えば、魔獣です。マミィと呼ばれるミイラの様な魔獣です。』
『倒し方は?』
『首を刎ねるか、燃やすかです。天敵はラウンドワームですが、ワームもあまり積極的に襲わないので、燃やすのが確実かと思います。』
『そうか。判ったが、エスティミシスに行ってもらっても大丈夫か?』
『畏まりました。向かいます。』
『キノエ、ワラビが向かったから、教会に迎えに行ってくれ。』
『了解』
エスティミシスはこれでいいだろう。
食糧難に陥っているっぽいから、ワラビに対応してもらう事にする。
エスティミシスは、全人口が30万人程しかおらず、食糧支援をするにしても、15万頭近くのスケープゴートを持っているこちらとしては、痛くも痒くもないレベルの援助だ。
砦にも狼人族達からスケープゴートを提供してあるし、王都でも商人達への売却と干し肉の生産を開始している。
ただ、量が量だけに、ディメンションホール内を圧迫している為、ベーグルで卸してしまおうと思ってもいる。
『あるじー、ベーグル行ってくるね。』
「そうか。ベーグルはまだ落ち着かないのか?」
『暫らくかかりそうだね。大分落ち着いては来ているんだけど、ゴロツキも多いからまだ、時間が掛かると思うよ。』
「判った。気を付けて行ってくるんだぞ?」
『判ってるよ。』
ベーグルに行ってみると、街が賑わっていた。
混乱している風でも無く、何やら雰囲気が凄く明るく感じた。
『アメリア、どうなってるんだ?』
『あ、アルティス様、戻られたんですね。街の様子の事ですかい?ケットシー達が頑張ったおかげで、取り過ぎた税金の還付も順調に進んで、賑やかになってきたんです。』
『そうか。お金に余裕が出たから、今まで我慢してきた物を買い始めたんだな。これが、お金が回るって事なんだよ。お金ってのは、溜め込んでるだけでは価値が無いんだよ。貯めるのが駄目という訳じゃないが、無駄遣い以外の必要な事に使う事で、価値が出るんだよ。』
『我々もお金を使った方が良いんですか?』
『できればな。だが、野菜以外、殆ど使わないだろ?孤児院に必要な物を買うだけでも、それなりに経済に影響があるから、無理に使う必要は無いぞ。』
税率を下げ、過剰に徴収されていた税金を返した事で、国民の所得事情に余裕が出た様で、消費が加速している様だ。
今まで、重税の為に消費を抑えていた為、碌に衣料も購入できず、食糧事情も芳しく無かったが、懐に余裕が生まれた為に、財布の紐も緩んできた様だ。
このまま、国内産業も活発になれば、税収も復活して問題無く運営できる様になると思われる。
ただ、ベーグルでは、数年間の戦争により、若年層の人口が減っており、若干の高齢化社会になっているものと思われる事から、労働力の確保が急がれる所だろう。
また、産業の衰退によって、仕事自体が減っている事に加え、重税の煽りを受けて、給金の削減が進んでいた事により、安い賃金での労働を余儀なくされている側面もある為、正常化までは1年以上の月日が必要になる可能性も捨てきれない。
その低賃金を改善する為に、産業を立ち上げようと思う。
『よし、この国にも味噌の工場と醤油の工場、塩の工場とレストランを開業しよう。アメリア、軍の招集を頼む。』
『何をさせるんですか?』
『建物の建築だ。鍛錬はやっているのか?』
『第二騎士団員がやってますよ。』
『ちょっと見に行ってくるか。』
軍部の訓練場にやって来た。
ベーグル国軍は、総勢4万人にもなる大所帯で、国の規模からすると多すぎると思える程の規模がある。
騎兵5000、歩兵3万、魔法兵3000、輜重部隊2000という編成で、弓兵と攻城兵器の部隊は、歩兵の中に組み込んでいる様だ。
海に面しているが、海軍は存在せず、海の方は警戒すらしていない様子だ。
『海の水が汚いな。海底火山の影響なのかな?シーア、セイレーン達の状況はどうだ?』
『あ、アルティス様、セイレーンの島は、大分改善しましたよ。ジャイアントクラブとキングシュリンプも安定して狩れる様になりましたし、食糧事情が改善しました!』
『海底火山の状況はどうだ?海水が変色している所の周囲には、魚が群れていないか?』
『かいていかざん?火は噴いてないですよ?あの変色は、シールの産卵で泥が舞っただけです。』
『はあ!?』
『明日には治まると思いますよ。ただ、海底を捏ね繰り回しているので、魚が沢山集まって来ていますね。』
『そうなのかぁ。シールをセイレーン達は食べないのか?』
『シールは皮が噛み切れないので、食べないです。』
『食べ方を知らないから、獲らないのか。シールを獲って欲しいんだけど、できる?』
『判らないけど、やってみます!』
『お願いするよ。』
港には、漁船がたくさん置いてあるが、漁に出た様な形跡がない。
近くには、魚を扱っている筈の商店が幾つかあるが、魚を置いていたであろう棚には、雑貨が積まれている。
『アメリア、港の方で聞き込みをしたいんだが、誰かを寄越してくれないか?』
『ヴァイスを行かせます。』
『待ってるよ。』
2分程でヴァイスがやって来た。
「お待たせしました。漁船は漁をしていない様ですね。どこで聞きますか?」
『商店と漁師から話を聞きたい。』
「漁に出ない理由ですかね?」
『そう。』
「行ってきやす。」
近くの商店に入って行くと、数分で出て来て、アルティスの所に戻って来た。
「聞いて来ましたが、クラーケンが出るようです。それで船が出せないそうなんですが。」
『クラーケン?シーア、ここの海にクラーケンは居るか?』
『あぁ、ここの海には、クラーケンの子供が沢山居るんですよ。大きさは大体1メトル程の小さいのが、群れを成して泳いでいますね。』
『1メトルとか美味そうだな。』
「食べる気満々ですね。」
『何でもそうなんだが、若いと柔らかいんだよな。それと、本当にクラーケンの子供なのかを確認しておきたい。』
体長1mのイカタコなんて、美味そうじゃないか。
それが大量に居ると言うのなら、獲る方法を考えてやれば、特産品になるな!
たこ焼きにイカ焼き、イカフライに干物でもいける!シールも沢山居るみたいだし、蒲焼も作れるな!!
シーアがテレポートしてきて、捕まえたクラーケンの子供を持って来てくれた。
『[鑑定]・・・クラーケンの子供ではないな。近い種ではあるけど、こいつらはこれで大人みたいだな。ティニークラーケンって言う種みたいだ。』
「うげぇ、こんなのを食べるんですかい?」
『さっき渡した、スルメってクラーケンを干した物だぞ?』
「・・・マジですか?」
『マジだよ。』
「でも、漁師達が獲れなければ、意味が無いですぜ?」
『方法はあるにはあるんだが、漁船が耐えられるか判らないな。』
『セイレーンが獲ればいいですか?それなら、船は関係ありませんし。』
『そうだね。セイレーンが獲った物を港で売ればいいね。孤児院の子達と取引できればいいな。屋台と食堂を運営して、商売を学ばせるのもいいな。』
「漁師の方はどうしやすか?」
『話をして、セイレーンと仲良くする様に言っておいてくれ。シーアはエルフの森の港でのルールを徹底する様にしてくれ。』
『安請け合いをしないって奴ですね?』
『そう。親切心を見せると、すぐに調子に乗るから、ちゃんとよく話をする事。アメリアとかマッケイに相談してもいいぞ。』
『伝えておきます。まぁ、ここのセイレーン達は、この港の漁師を嫌ってますから、大丈夫だと思いますよ。』
この近辺のセイレーン達が、魚を獲れなくなった理由というのが、漁師がセイレーンが主食としている魚を獲り過ぎたのが原因らしいので、漁師を嫌っているらしい。
ティニークラーケンを獲り始めたら、どういう反応になるのか判らないが、トラブルにならない方向で、対応してもらいたいね。
ティニークラーケンをぶら下げて話していると、漁師の男がやって来た。
「クラーケンをぶら下げて、何してんだ?」
「ん?あんたは、この港の漁師か?このクラーケンをセイレーンに獲ってもらう話をしているんだよ。」
「はあ?セイレーンがそんな事する訳ねぇだろ?あいつらは魚しか食わねぇんだからよ!」
「それを知っているのに、何で魚を乱獲するような事をして、セイレーン達の不興を買ったんだ?」
「役人がセイレーンを追い出せって煩かったんだよ!ったく、歌われたら死ぬのはこっちなんだぞ!?いい迷惑だよ!」
「ならば、私からセイレーンに話を通しておきますので、明日から漁に出ても大丈夫ですよ?」
「ああん?姉ちゃんはセイレーンに顔が利くのか?クラーケンの子供を獲ると、クラーケンに狙われるんだぞ?知らねぇのか?」
やっぱり、何かある様だ。
シーアもクラーケンの子供だと思ってた様だから、理由を聞いた方が良いかも知れない。
『シーア、クラーケンに襲われるのか?』
「そんな事ありませんよ?来るのはフィンバックホエール位ですね。」
『どんな奴だ?』
「大きな魚で、60メトルくらいあるんです。」
『魚か。ティニークラーケンを獲るところを見せてくれ。そのフィンバックホエールを捕まえよう。倒しても問題無いんだろ?』
「クラーケンと同じ位いるので、問題無いと思いますよ。」
元の世界では、クジラは哺乳類だったが、こっちの世界ではどうなんだろうか?恐竜の生き残りという可能性もあるし、名前からすると本当にクジラなのかもしれないな。
「アルティス様、食べようとか思ってませんか?」
『捕まえたら食うぞ?』
「食いしん坊っすね。」
『態々捕まえるんだから、食って供養してやらないとな。せめてもの礼儀だよ。』
「ものは言い様ですね。」
『言う様になったなぁ。そんな君には特別任務を・・・』
「あ!漁師の話をもっと聞いて来ますね!!行ってきます!」
『ヴァイスめ。シーア、ホエール狩りに行くぞ!』
「ティニークラーケンの漁じゃないんですか?」
『ついでだよ!』
リルパーク海の沖にやって来たが、これは多すぎなんじゃないか?
『一面ティニークラーケンだな。シーア、頼む。』
「はい。[ショックインパクト]」
ザバァ!
シーアがショックインパクトを海中に撃った。
すると、魚雷が爆発したかの様な水柱が上がり、海面スレスレを泳いでいたティニークラーケンが浮いてきた。
それと同時に巨大な白い物も浮いてきた。
『これがフィンバックホエール?[鑑定]ホワイトフィンバックホエールだな。シロナガスクジラってとこか。だが、形が不穏だな。まるで、潜水艦の様な形だな。気絶してるだけだから、止めを刺さないと駄目だな。[アナライズ]魔石デカいなぁ。[アブソリュートゼロ][ディメンションホール]あ!?ヤバい!!スケープゴートが多すぎて入りきらない!』
「ええ!?どうするんですか?」
『アイテムバッグにスケープゴートを入れて、スペースを空けよう。』
アイテムバッグは、有り余る魔獣の革を使って作っている為に、在庫として常に100個程持っている。1袋に1000匹程入るので、スケープゴートをアイテムバッグに移し替えて、ホワイトフィンバックホエールを収める事ができた。
ティニークラーケンは、シーアのディメンションホールに入れて、セイレーンの島に向かった。
島には、ジャイアントクラブの殻を屋根に使った家が多数あり、蟹足の殻をせっせと砕いていた。
蟹の殻は、カルシウムとタンパク質でできているが、焼くと酸化カルシウムだけが残り、生石灰として使える。
生石灰は乾燥材としての効果があるのと、水を混ぜれば加熱してお湯を沸かす事もできるし、消石灰ができあがるので、畑に撒いて中和剤としての用途がある。
畑の土を中和するのは、農業には欠かせない作業なので、袋詰めにして売ってもらう事にしよう。
そして、今回この島に来た理由は、ティニークラーケンの解体とフィンバックホエールを解体する為だ。
クジラと同じ様であれば、捨てる所が無いと言えるほどの、利用価値の高い物になるが、さて如何程か。
『先にティニークラーケンの解体をやってしまおう。』
という訳で、岩の上で進めていく。
胴を縦に切り開いて、肝と内臓を取り除いていく。
肝は、かなりの大きさがあり、胴の太さが直径30㎝程もあるので、肝だけでも直径10㎝もある。
他の内臓は要らないので、どんどん捨てていくが、肝を食べてみると、濃厚な旨味ととろりとした舌触りで、滅茶苦茶美味い。
『この肝と身を混ぜて、刺身にしたら美味そうだ。』
「これは・・・お酒に合いそうですね!」
シーアが呑兵衛みたいな発言をしているが、解体をドンドン進めて行こう。
頭と足を外して、足は切り落とし、頭は目玉と軟骨を取り除いて、開いていく。
口はカラストンビでは無く、サンドワームの様な口で、すり鉢状の内側に細かい歯がびっしりと並んでいて、一番奥に来る頃にはミンチになっているのだろう。
足の吸盤には、イカの触腕の様に棘が付いていて、掴まれたら棘が食い込んで、逃げられないな。
中々に殺意が高い。
足の肉質は、タコの様な感じだが、10本ある。
寄生虫は胴の方に居たが、食べられる所には居ない様で、胃袋や鰓に沢山居た。
セイレーン達は、おっかなびっくりで触っていたが、シーアが胴の皮を剥いで、白く半透明の身を薄くスライスして、更に麺の様に細長く切ってから、塩水に晒して食べているのを見て、味見を始めた。
身は、ヤリイカの刺身の様な食感で、生でもいいが、干した方が美味そうだ。
厚みがタルイカの様な分厚い身なので、薄くスライスして干してもらう事にする。
『カレン、ちょっとこっち来て。』
『セイレーンの島ですか。すぐ行きます。』
ベーグルには、カレンも来たのだが、カレンは孤児院に直行して、孤児院の子供達にご飯を作ってもらっていた。
一応狼人族は居るんだが、衰弱していた子達も居た為か、心配していたらしい。
カレンがバイクに乗ってやって来た。
『あれ?ルベウスは?』
「残って子供達と遊ぶみたいです。」
『そうか。前回の追いかけっこが、楽しかったのかな?』
「そうみたいです。」
『来てもらったのは、ティニークラーケンの身を使って、料理を考えて欲しいんだよ。俺も考えたんだけどさ、細切りにして乾かして、茹でたら麺にならないかと思ってね。』
「美味しそうですけど、硬そうじゃ無いですか?」
『じゃぁ生で、イカそうめんにするか。』
「イカそうめん?何を生かすんですか?生かす麺?生か・・・イカ・・・そうめん?」
『イカを麺の様にして食べるんだよ。うどんのつゆの濃いのを作って、麺の様に食べるの。』
「やってみます!」
やってみたけど、駄目だった。
何と言うか、イカがボソボソ?いや、表面がツルツルしていないからか、啜れない様だ。
次にやったのは、イカフライ。
イカフライは上手くできた様で、ソフティーも大満足だ。
このティニークラーケンの身は、長く煮ても固くならない様で、揚げても煮ても、炒めてもサクッと歯切れよく食べられる。
干せばさきイカの様な柔らかさで、簡単に噛み切れる。
足の方も試食してみたが、タコ飯は美味かった。
これは、新しい名物になるな!




