第63話 獣王帝国皇帝の錯乱
獣王帝国が魔王軍に協力する為に、兵士を魔大陸に送った時の事だ。
中央大陸を挟んだ反対側に行くには、長い距離を移動しなくてはならない。
獣王帝国では、王族が獅子族、将軍が虎人族、角犀人、羊蹄人で、他の獣人は騎士や兵士だ。
魔王軍に派遣されるのは、狼人族とコボルト族が殆どで、将軍が虎人族で組織されていた。
虎人族は、横柄で我が強く、獣人のドワーフと揶揄される程に性格が悪く、頭の悪い連中として、皆から嫌われていた。
狼系の獣人も、ガラの悪い連中が多く、構成している人員を見ても、殆ど厄介払いとして派遣される様だ。
ケモナー共和国までは、ロック鳥に乗って飛んだのだが、中央大陸は陸路で進む様だ。
ここにいる獣人達は、全員馬車よりも早く進む事ができるから、馬車は使わず、食料も途中で確保する様だ。
だが、すぐに問題が発生した。
虎人族が我儘を言い始めたのだ。
「角ウサギじゃ、全然足りないからあそこの猪を狩って持って来い。」
「あれは家畜だから、狩ればトラブルになりますよ。」
「はぁ?上官の命令に背くつもりか?」
「ただ従うだけでは、トラブルにしかなりませんからね、忠告はしますよ。この国でトラブルになれば、獣王様のお耳に入るのもすぐですよ?」
「チッ・・・判ったよ。じゃぁお前が野生の猪を狩ってこい。」
「こんな街の近くには居ませんよ。」
居る訳無いだろ!?街から2キーロしか離れてないんだぞ!?
全く、帝国から離れた直後からこれでは、真面にたどり着くなんて無理だぞ?
と、その時はそう思っていたのだが、翌朝になったら状況が変わっていた。
「まさか、自分達だけで先に進んだのか!?」
「虎人居ない?やったー!あいつ等嫌い!清々した!!」
「仕方ない、我々だけで進もう。虎人達のスピードには、追いつくのは無理だしな。」
この軍には、虎人が4人居たんだが、全員消え去っていたのだ。
まぁ、こちらとしても、アイツらは居ない方が有難いから、このまま進ませてもらうとしよう。
馬車よりも速いスピードで、進んで行ってるのだが、不思議と虎人族に迷惑をかけられたという話を一切聞かずに、バネナ王国の国境にたどり着いた。
この国は、人間至上主義を掲げているので、街には一切寄らず、街道も避けて進む事になる。
街の外の魔獣は、狩られていないのか、それ程苦労せずに狩る事ができるから、食事に困る事は無かったし、この国は水も豊富にあるので、水に困る事も無いのだが、途中で街の近くを通った時に、街の中が少し見えたんだが、獣王帝国の田舎町よりも酷い状況だった。
一体、この国はどうなってんだ?
エルフ王国との国境に来た時、虎人共が居やがった。
どうやら森が深くて、単独での踏破を断念した様だ。
この森には、アーミーラプトルやギガントラプトルの様な、狂暴な魔獣が多く生息していて、エルフも世界樹の下から、魔大陸に移り住んでしまった為に、ほぼ放置されていて、エルフ達が居た時よりも更に危険度が増しているらしい。
「おせーぞ!いつまで待たせんだよ!!」
「アンタらに追いつける訳が無いでしょう?そちらは4人、こちらは3000人なのですからね、食事にしても、野営にしても、時間がかかるんですよ。将軍なんですから、いい加減理解してくださいよ。」
「ふんっ!言い訳など聞く気になれんわ!とっとと進め!」
「2列縦隊で進め!」
虎人達を見て、違和感を感じたのは、気のせいだろうか?
匂いは確かに虎人族の匂いなんだが、少し血の匂いがするのと、何だか性格が変わった様に感じた。
更に言えば、動きが緩慢になった感じがする。
将軍の妹のココアだけは以前のままで、それ以外は何というか、トロいのだ。
まぁ、普段から殆ど動かない連中だから、劣化している可能性はあるにしても、足の動きからして違和感を感じる。
何が違うのかと言えば、獣人族の足は、人間や魔族と違い、肉球があって、足の平もそれ程大きくはないので、足音を殆ど立てずに歩けるのだが、奴らは凄く煩いのだ。
「もう少し音を立てずに歩けないんですか?煩いとアーミーラプトルが寄ってきますよ?」
「来たら倒せばいいだろうが!魔王軍に参加する前に丁度いい訓練になるな!」
幸いにして、アーミーラプトルに遭遇する事なく、北の海岸沿いに辿りついた。
魔族からの情報通り、港町ができていて、大型の船が停泊していた。
一隻に300人程しか乗れないらしいので、11隻に分かれて乗る事になる様だ。
船で海を渡るには、4日かかるらしく、虎人族だけは、少し小さな船に乗って、先に渡るそうだ。
同じ船に乗る羽目にならなくて、ホッとした。
森の中を強行軍で進んできたので、船に乗った我々は、疲れからすぐに寝る事になったのだが、起きてからは地獄だった。
船酔いするのは、一部の者だけの様だが、かくいう自分も船酔いになったのだ。
ずっと頭が重く、吐き気を催し、食事も真面に摂れず、夜も殆ど眠れないなど、初めての経験だった。
船酔いになった者の殆どは、2日もすれば平気になった様だが、俺は4日間ずっとだった。
やっと魔大陸に着いた時には、もうフラフラだったが、地面に立っているのに、地面が揺れている感じがして、回復したのは夕方になってからだ。
魔王城に着くと、ゴブリンやオークの大群に圧倒されたが、虎人がオークを食べるとか言い出しそうで、戦々恐々としていた。
だが、虎人達は何故か大人しかった。
魔王軍に参加する奴には、魔王から魔道具を貰えるらしいんだが、何故か俺だけは貰っていなかった。
それは、将軍が俺の分も着けていた様で、俺には回って来ないみたいだ。
だが、その魔道具を着けた者達が、豹変したのを見て、俺は着けたくないと思ったね。
変だと思ったのは、兵士だけでは無く、虎人達も同様で、ダッドアイの話を虎人達が大人しく聞いているのが、不思議でならなかった。
みんな普段は、普通に話すんだけど、号令がかかると、表情が抜け落ちて、話しかけても反応しなくなるんだよ。
一体、皆どうしちまったんだ?
暫らくは魔道具を着けているフリをしていたんだが、スケープゴートの大群が魔王城に押し寄せてきた時に、ダッドアイにバレた。
俺は、虎人達のグループに入れられて、暴行を受けた。
奴らの目は錯乱したかの様に、爛々としていて、俺が耐えているのを見て、将軍の妹が意味不明の言葉を叫びながら、剣を抜き、耳を斬り落とした。
他の虎人達も、尻尾を斬り飛ばし、そして右足も・・・。
奴らが、ワープゲートを開いて少し経った頃に、突然虎人達が爆ぜたんだ。
3人が同時に爆ぜて、開いていたゲートが閉じたんだ。
そして、俺の意識もそこで途切れた。
気が付いたのは、汚いあばら家の中だった。
部屋の中には、将軍の妹が居た。
「てめぇ!まだ俺を甚振るつもりか!!」
怒鳴ったら部屋から出て行って、それっきり帰って来なかった。
傷口は塞がっていて、誰かがヒールを掛けてくれたのだと思ったが、片足が無いから、生活は大変だったな。
近所に住む奴が、今いる場所の事と、魔王軍の状況を教えてくれたんだが、最初の10年は魔王軍の事よりも、自分の事で精いっぱいだった。
歩く為に足の代わりになる物を作って、耳が無いから、音を聞くのも慣れが必要だったし、尻尾が無いから、バランスを取るのが難しかった。
だが、飯は誰かが毎日届けてくれてたし、あばら家の中であれば、特に不自由は感じなかった。
今の魔王は、マケダマレ・ダマラスとか言う奴で、コイツが死ぬ直前の話は、聞いていて面白かったね。
話してくれたのは、パームという魔族の男で、面白おかしく話をしてくれた。
「何でも、ダッドアイが重症を負ったらしいぞ。バネナ王国に居たらしいんだが、瀕死の状態になって帰って来たらしい。アレを瀕死にできる奴が、バネナ王国に居る訳が無いが、一体何があったんだろうな。」
「バネナ王国の円形山脈に布陣していた軍が、壊滅したらしいぞ!しかも魔王様は、錯乱状態になったらしい。いや、軍が錯乱状態になったんだったかな?とにかく、10万居た軍が、帰ってきたら1万になってたらしいぜ。魔王様は精神が不安定になったから、世界樹で治療するんだってよ。」
何がどうなったら、10万が1万になるんだ?どうやったのか不思議に思ったが、最後の魔王が情緒不安定になったって話は、笑わせてもらったぜ。
「魔王軍がバネナ王国の王都を占領していたらしいんだが、すぐに取り返されちまったらしいぞ。占領軍は、エルフと魔族だったらしいが、どっちも投降したって話だ。円形山脈の外に居た輜重部隊が壊滅しちまったから、食料が無かったらしいな。」
バネナ王国に投降したエルフ達は平気なんだろうか?魔族はどうでもいいが、エルフ達の方は気になる。
「魔王軍に参加していた人族も、殆どが死んだらしいから、もう魔王軍もお終いだな。」
「人族は、どんな人種が参加していたんだ?」
「エルフ、ドワーフ、リザードマン、狼人族、豹人族、ケットシー、コボルト族、後は翼人とか、戦闘向きじゃない獣人だな。」
この日の晩は、泣いたよ。
一緒に魔王軍に参加したアイツらが全滅したって聞いて、涙が止まらなかった。
だが、そこからひと月も経たない内に、マケダマレ・ダマラスが死んで、新しい魔王のカーチャス・ロックゲルになったと思ったら、10日でまた魔王が代わった。
そして、アルティス様に出会ったんだ。
この頃の俺は、荒れていた。
スラムの知り合いが、次々と居なくなる事が頻発して、もう俺の近くに寄って来ると、みんな逃げちまうって思ってたんだ。
だが、真実は違った、違ってた。
俺の周りから人が居なくなったのは、パームが原因だったんだ!
そして、あの方は、俺の失った物を取り返してくれた・・・俺が失くしたと思っていた物を、全部持って来てくれたんだ!耳も、尻尾も、右足も、狼人族も、コボルト族も!それと、スラム街の知り合いもみんな、取り戻してくれた!俺が諦めかけた希望も全部!!
俺は!!
クールに話を聞いたら、何だか虎人のココアは、助けないと駄目だと思った。
『それ、ココアが食料届けてくれていたんだよな?ヒールかけたのも、多分ココアだし、あばら家に連れて来たのもココアだろ。助けるぞ。本人にちゃんと聞け。』
「・・・ですが、会うのはちょっと嫌です。」
『まぁ、トラウマになっているのもあるとは思う。ただ、俺はスラムにいる獣人達を助けるつもりだから、気持ちが落ち着いてから会えばいいさ。』
獣人にとっての耳や尻尾は、体の器官としては重要な器官だから、それを斬るという行為は、最大級の侮辱というか、迫害と言っても良い程の行為だ。
そんな事をしてきた相手を憎むのは仕方の無い話だし、トラウマになるのも理解はできる。
無理に許す必要は無いし、一生会わずに済ませても良いとは思うが、できれば克服して欲しいとも思っている。
精神的な事だから、難しいのは理解しているが、耳を斬られても、尾を斬られても、鬱にもならずに、正気を保っている事ができる程の、精神力を持っているのだから、いつか必ず克服すると信じている。
クールの事は、一先ず置いておいて、王太子達に、闇奴隷になった獣人達の親探しについて聞いてみた。
『そうだ、獣人の元闇奴隷が、かなりの数居るんですが、親を探す事は可能ですか?』
「うーん・・・難しい問題ですね。数の少ない種族や、上位種族であれば可能ですが、多産の種族の場合、子供を把握していない親も多いので、厳しいと言わざるを得ません。」
『虎人族や長鼻族、羊蹄族や犀角族、羚羊族、馴鹿族、走豹族、黒豹族、あと何だったかな?』
何十もの種族がいるので、全てを覚えるのは難しいが、上位種と思える種族を伝えると、唖然とした顔で3人が固まった。
「な、長鼻族!?羚羊族までも!?行方不明になったとは聞いていないぞ!?」
「我らにも報告は来ておりません。急ぎ調べさせましょう。」
報告が来ていないと聞いて思ったのが、魔族が侵入していて、精神操作をしているパターンと、口減らしされたパターンだ。
獣王帝国の上位種が、どんな立場に居るのかは知らないが、貴族だったりすると、家督争いに巻き込まれたりはありそうだ。
だが、基本的に実力が無いと、周りが認めてくれないので、子供が弱いからと言って、捨てるような真似はできないだろう。
子供が弱いのは当たり前の話で、鍛えるなり、勉強させるなりすれば、可能性は無限大なのだから、普通に考えれば口減らしなんて事は、多産の種族以外には考えられない筈。
『こちらでは、どの種族が多産なのか、全く把握できていないから、教えてもらえると助かりますね。獣人の元闇奴隷の数が9割を占めていますから、できれば親元にもどしてあげたいですね。』
「承りました。急ぎ帝国内全域で調査を進めます。ケモナー共和国の方にも協力を依頼しておきましょう。」
『ケモナー共和国との協議が実現できれば、セイレーンの海運業も開始できますからね。まぁ、険悪になった原因が、我が国の貴族にあるのは承知していますが、具体的にどの領とか、国交再開に向けての障害が判らなければ、対応のしようがありませんからね。先に話し合いをしたいと思っています。』
「貴国の獣人への差別の度合いは、どうなのですか?」
『何とも言えませんね。王都では、警備隊にコボルト族が加わっておりますが、初めの頃は舐められる事が多かったと聞きます。ただ、最近は全くないという事も聞いています。獣人を差別しているのは貴族が殆どですが、我が国の貴族は、完全実力主義になりましたから、今後は差別なんてしている暇は無いでしょうね。まぁ、領主は確認しましたが、その下の貴族は、確認していませんから、少しずつ確認をしている所ではありますね。』
ケットシーと豹人族で各領を回って、レポートを作ってもらっていたが、領主の協力は殆ど得られなかったらしい。
それどころか、殺そうとしてくる者も多く、大変だった様だ。
まぁ、領主の協力が得られない事は想定内である為、数少ない協力的だった領は後回しにして、非協力的だった南部の領の粛清もやろうと思っている。
今現在は、ほぼ全方位に問題を抱えているので、少しでも減らしたいのだ。
元闇奴隷の子達については、現在は鍛錬を開始して、体づくりを進めているが、何もさせないままでは、精神衛生上問題がある為、色々と発散させる為に、午前と午後に分けて運動をさせている。
現時点での人数は、10万人を超えているので、全員を一度に鍛えるのは不可能であり、種族によっては運動能力が飛びぬけている為、ネコ科とイヌ科の獣人には豹人族を教官にして対応させている。
とはいう物の、攫われた子達の殆どが、そのネコ科とイヌ科に属する獣人の為、中々に大変な事になっている。
コボルト達とアラクネ達は、子供達の訓練に付き合う形で参加しているのだが、遊びたい盛りの子供らと、遊びながら鍛錬をさせるという、器用な事をやっている。
やっているのは、鬼ごっことかくれんぼで、訓練場ではスペースが全く足りていない為、王国の北側の領地も使っている。
北側の領地は、魔王軍に蹂躙された地であり、未だに広大な空き地が広がっており、大した魔獣も居ない事から、警戒要員として空軍が空から監視しながら、広大な遊び場として利用している。
攫われた子供以外は、ゆくゆくは兵士にするなり、ハンザ神国や旧神聖王国に送ったりと、バネナ王国の戦力として採用するつもりで、育てている。
基本的には、基礎体力作りと、マナーとモラルの教育を行うのが目的で、それが完了した後に何になりたいかを確認する。
今現在王都には、騎士が近衛騎士団と、第二騎士団の訓練生以外居らず、混成軍のリザードマンを筆頭に、豹人族、兎人族、コボルト族などが居るのみ。
第二騎士団の本隊はベーグルにいて、王都の守備隊として、第二騎士団の訓練生が居たのだが、アーリアと共にベーグルに行き、アーリアと共に殆どが戻ってきている。
総数は80名程で、第二騎士団が20名しかいないので、30名がベーグルに居残り、治安の維持に従事している。
強さで言えば、混成軍でも問題は無いのだが、煽り耐性の無い者が多い為、中々に難しいと感じている。
ただ、ベーグルに関して言えば、議員及び官吏は、全員捕縛されており、民衆で差別をしている者を見た事は無い。
単に目立っていないだけかも知れないし、今は無くても、長期的には浮き彫りになる可能性は高いと云った処だ。
これからも、どんどん獣人の割合が増えていく事を考えれば、ベーグルにも配置する必要が出て来るだろう。
王太子達に、闇奴隷の種族を集計した書類を渡してみると、ネコ科とイヌ科の獣人達の親を探すのは諦めた様だ。
「この書類の子供の親を探すのは、ほぼ不可能です。多産の種族は、子供が居なくなっても、仕方ないとすぐに諦める傾向がありますので、見つかったと伝えても、戻される事を良しとしないでしょう。」
『では、我が国で引き受けろと?それは、かなり厳しいと言わざるを得ない。が、全て獣王帝国の者という訳でも無いだろうし、ケモナー共和国との協議に期待するしかないか。』
正直、10万人もの獣人を育てるのは、かなり厳しいと言えるのが現状で、体は鍛えられても勉強ができなければ、意味は無いとも言える。
だが、その懸念も数日後には解消する事となるとは、アルティスはまだ、この時は思っても居なかった。
夕方には会議を終え、王太子達を部屋に案内すると、かなり驚いていた。
「こ、このベッドの生地はもしかして、アラクネ絹なのですか!?」
『中綿も含め、全てアラクネ絹を使用していますよ。』
「なんて贅沢な・・・だが、私はこんなベッドで寝てみたいと、常々思っていたのも事実。まさか夢が叶うとは、思ってもみませんでした。」
王城の来賓用の部屋のベッドとカーペットは、全てアラクネ絹で作ってあり、窓もアラクネ絹を使って、透明な窓ガラスを作成してあるので、変な筋は入っていない。
以前、モコスタビアの伯爵邸の窓に嵌っていた物を見た事があるが、あれは虫系の魔獣の羽を加工した物で、それなりの強度を持っているが、燃えやすいという欠点があった。
王城のアラクネ絹は、全て火炎耐性が付与されており、火属性魔法を撃っても燃える事は無く、強度もあるので、破損させること自体がほぼ不可能と言える物で構成されている。
窓枠についても、ドラゴンの鱗を加工して作られている為、ちょっとやそっとでは、破壊する事はできない様になっている。
『この部屋に居れば、ドラゴンが襲撃して来ても安全ですよ。ですが、何があるか判りませんので、このアミュレットを身に着けておいて下さい。このアミュレットは、ウイリアム殿下も身に着けている物で、状態異常耐性、精神魔法耐性、毒耐性、全属性魔法耐性、斬撃耐性、刺突耐性、打撃耐性、生命維持機能とMPタンクが付いています。この城に滞在している間は、身に着けておいて下さい。』
「・・・神話級の魔道具では?我々が身に着けてしまってもいいのですか?」
『このアミュレットは、我が軍の兵なら、全員身に着けていますよ。標準装備です。』
「・・・。」
『それと、警備の為に扉の前に近衛騎士とアラクネのユイ、ユウ、ユエを待機させていますので、何かあれば言って下さい。全員言葉を理解できますので。』
そこで、初めて気が付いた様だ。
この城に来て、人間相手に普通に喋っていた事を。
アルティスにしろ、アラクネクイーンにしろ、女王陛下とも普通に会話できている事に、何の疑問も感じる事なく過ごしていたが、普通は会話できる事自体が可笑しい事の筈だ。
「今更ですが、何故言葉が通じるのですか?」
『全員、言語理解の魔法が付与されたアクセサリーを身に着けていますから、誰とでも会話できます。今お渡ししたアミュレットにも、当然付与されていますから、グリフォンでも、ヒポグリフでも、ドラゴンでも、ロック鳥とも会話が可能ですよ。』
「凄いんですよ!私もグリフォンのイーグルさんとお話できましたし、ここのお城には、ラミアのケリーさんも居ますから、お話させて頂いたんですよ!?」
いつの間にか、ウイリアム殿下がケリーやイーグル達と会っていた様で、興奮した様に王太子殿下に説明している。
「バネナ王国は、人間至上主義は辞めたのですか?」
『当然ですよ。あんな物、百害あって一利なし。それぞれの種族毎に能力が違うのは当たり前ですし、考え方も違って当然です。同じ人間同士でも、考え方は千差万別なのに、何故人族同士で差別などする必要があるのか、理解に苦しみますね。ただ、ドワーフだけは、散々迷惑をかけられましたので、差別に近い物はあるかも知れませんね。』
「まぁ、ドワーフに対しては、我々も同様です。エルダードワーフに対してはどうですか?」
『エルダードワーフは、王都に店を構えていますし、他の街にも居ますよ。彼等とは、友好な関係を築きたいと考えています。』
「それは良かった。昔、人間がエルダードワーフを迫害しているのを見た事があるので、もしかしたらと思いましたが、大丈夫そうですね。」
『その迫害されていたエルダードワーフは、テラスメル高原出身だったのかもしれませんし、それを見たのが大陸東側の国であれば、迫害している国があるのかもしれませんね。』
「私が見たのは、都市国家群の一つでした。」
『そうですか。それでベーグルには居なかったのか・・・。』
「ベーグル共和国に行ったのですか!?」
『かの国は、我が国の属国になりました。』
「なんと!?攻め落としたのですか!?」
『マルグリッドの王を誘拐しましたので、攻め落としました。』
「ベーグル共和国は、獣人の奴隷を多く持っていましたので、我々と敵対状態にありましたが、そうですか。貴国の属国になったのですか。」
『現在は、国の在り方を変えるべく、改革中ですよ。当然闇奴隷の所持も禁止しました。』
「それは僥倖です。あの国に長毛族は居ませんでしたか?」
『長毛族?』
長毛族と言われて、思い浮かべるのは毛が長い種族だが、ツルツルのは居ても毛が長いのは居なかった・・・ツルツル?
『闇奴隷をチェックした時に、長毛族を見た奴はいるか?』
『居ませんでしたね。見た覚えはありません。』
『ツルツルのが居ただろ?彼の種族を確認して見てくれ。虐待で毛を剃られた可能性がある。』
『確認してみます!』
『申し訳ない、今確認してもらっている。長毛族とは、全身に長い毛が生えているのですか?』
「そうです。見てないのであれば、居ないのかもしれませんね。」
『いや、虐待された可能性もあるので、確認する必要があります。一人、全身の毛を剃られていた者が居ましたので、多分それが当たりじゃないかと思っています。』
『確認できました!長毛族居ました!!』
『ありがとう。その人を来賓用の客室に連れて来てくれ。』
『了解』
やはり、正解だった様だ。
『確認できました。予想通り、虐待されて毛を剃られていた様です。今、こちらに連れて来る様指示を出しました。』
「おお!良かった!その子は、大臣の息子なのです。ただ、毛が剃られているとなると、少し不味いですね・・・。」
エルフのフィッツが連れてきた子は、全身の毛を剃られ、脱毛薬を塗られた様で、全く毛が生えて来る様子が無い。
「ジェラルド君・・・」
「王太子殿下・・・御見苦しい姿で申し訳ございません。囚われている間に、脱毛薬を使われてしまい、毛が生えなくなってしまいました。もう故郷に帰る事はできません・・・。」
『そんな事無いぞ?これを飲んでくれ。ちょっと苦いが、脱毛薬の効果を打ち消せる筈だ。』
「まさか!?ば、万能薬ですか!?」
『レッドドラゴンの脾臓を使って作った、毛生え薬だよ。万能薬では、多分もう効果は無いと思うよ。あれは、脱毛薬を使ってから、3日以内じゃないと効果が無い筈だ。』
「れ!レッドドラゴン!?倒したのですか!?」
『あぁ、カレンがな。私は、ソフティーと共にスタンピードを止めに行っていただけですよ。』
「カレン殿が!?し、しかし!費用を支払う事ができませんが!?」
『要りませんよ。毛生え薬なんて、円形脱毛症の頭に使うくらいしか用途が無いので、その辺の商人にでも売り払ってやろうかと思ってた位ですから。』
ジェラルドと呼ばれた長毛族の子が、王太子とアルティスを交互に見て、飲むのを躊躇っている。
『さぁ、早く飲んでくれ。口直しには、こっちを飲むと良いよ。世界樹の実のジュースだから、体力が回復するよ。』
「待って待って!!世界樹の実のジュースだって!?寿命が変ってしまうんじゃないのですか!?」
『そんな大それた効果はありませんよ。王太子殿下もお昼に食べたじゃないですか。ゼリーを。』
「はあ!?あのゼリーって、世界樹の実のジュースを使ってたんですか!?」
『大量にあるので、消費するのが大変なんですよ。エールも作ってますから、夕食の時に飲まれてはどうですか?』
「過去には、世界樹の実を使った酒を巡って、戦争が起きたんですよ!?」
『聞いてますよ。でも、寿命を延ばす効果なんてありませんよ。精々、元気が出る程度ですね。まぁ、老人が飲めば、多少は生き延びられるかもしれませんが、ハッスルして逆に早死にするかもしれませんが。』
「し、しかし、我が国の文献には、寿命が延びると書いてありましたが・・・。」
『それは、寿命が延びた気がするだけで、元気が出る程度の効果しかありませんね。ユグドラシルにも確認しましたが、延命する様な効果は無いと言ってましたよ。』
「ゆ、ユグドラシルって、まさか世界樹の精霊の事ですか!?」
『そうですよ?ハイエルフのジョセフィーヌにも聞きましたけど、寿命が延びる程の効果は無いと言ってました。寿命を延ばすというのは、それだけ難しい事なのですよ。ドラゴンの因子に感染して、寿命を延ばす方法もありますが、短命種が寿命を延ばしても、気が狂うだけで意味がありませんし、長命種には必要ありませんからね。』
「ドラゴンの因子とは?」
『竜人族がそれにあたります。ドラゴンと長く接触していると、ドラゴンの因子に感染して、デミ竜人族になるんですよ。ですが、人間がそれになると、確実に気が狂いますから、気を付けた方が良いですよ。』
「気が狂う?何故ですか?」
『そもそも、生活様式も考え方も違いますし、短命種の寿命が延びても、精神が持たないんですよ。体と精神に齟齬が出ますから、100歳を超えた辺りからは、多分苦痛以外の何ものでも無いんじゃ無いですかね?』
「それは、そういう事例を見たという事ですか?」
『はい。ベーシスの王がそうでしたね。苦痛を紛らわせる為に、食べまくってブクブクに太ってましたよ。一人で歩けない程にね。』
「皇帝陛下が延命を希望しておられるが、止めた方がいいのですか?」
『何の為に長生きしたいのか知りませんが、まずは、何の為に長生きしたいのか、確認をしてはどうですか?ただ死ぬのが怖いだけなら、確実に壊れますし、やるだけ無駄ですよ?』
「最低限、何が必要だと思いますか?」
『目標ですね。』
「生き延びるだけでは駄目と?」
『戦争している訳でも無く、命を狙われている訳でも無いのに、生き延びるのが目標になんてなりませんよね?あくまでも、それは目的であって、漠然と長生きする事だけを考えているに過ぎませんね。生き延びる為の方法と、寿命が延びたら何をしたいのかを聞いて下さい。あぁ、民の為とか言ってたら、ぶっ飛ばした方がいいですよ?皇帝という事は、毎日の食事だけでも、金貨が何枚必要なんだって話ですから。』
「皇帝は常々、旅に出たいと言っておりました。」
『なら、今すぐ旅に出ればよろしいのでは?家督を王太子殿下に譲ればいいだけの話ですよ?』
「い、いや、待ってくれ!私にはまだ、帝国を維持していく自信が無いのだ!」
『そんな自信は、私にだって無いですよ。自分一人で何とかできる訳では無いですし、この先、何が起こるか知ってる訳でも無い。失敗なんて腐る程ありますし、後悔した事だって、沢山あります。寧ろ、自信満々の奴にやらせたら、滅亡が早まると思った方がいいですよ。そいつは、独裁者にしかなりませんからね。』
治世に自信があると言う奴は、自分の理想を追い求めて、突き進む事だろう。
だが、そこには、仲間や同じ思想の持ち主が居なければ、ただの独りよがりにしかならず、上手くいかなければ、怒り狂う事になるかも知れない。
独裁者は、自分のやる事が正解だと思っているから、人の意見を聞かないし、人を信じる事もできないだろう。
独裁者に会った事は無いので、イメージ通りかどうかは知らないが、独裁者自身が贅沢をする為に、独裁者の為の国を作るのだと思う。
どうすれば発展するかなんて、やってみなけりゃ判らないし、失敗する事の方が多いだろう。
その失敗を許せるか、許せないかで、独裁かそうじゃないかが決まるのだと思う。
アルティスのやっている事も、それと似た様な事ではあるものの、アルティスは贅沢に興味はないし、贅沢をしたいのなら、国を潤沢にすればいいと思っているので、富を集中させようとは、微塵も思わない。
だから、大まかな方針を示すだけで、細部まで詰める様な事はしないし、経済を伸ばす為に、邪魔になるゴロツキを捕縛して、労働力に回すのだ。
ベーグル議会での事も、バネナ王国内の領主に指示した事も、何もしない連中に仕事をさせる為の方便として、命令しているに過ぎない。
その命令だけで直れば問題無し、直らなければ直す方法を考えて、指示するだけだ。
アルティスは、自分の考えが間違っていない等とは考えておらず、間違っていたら、その時対処を考えて実行に移す。
儲かる為には、多くの労働力が必要になるし、多くの労働力は、裕福には成れない事が多い。
だが、どのレベルが裕福かはその人次第であり、最低限でも屋根があり、寝床があり、食事を食べられる様にするのが、指導者の責務として考える。
その責務を果せない者は、指導者の立場から退くべきだと考えているので、その為の貴族の廃止と毎年の試験なのだ。
アルティスの話を聞いた王太子殿下は、意を決したように頷いた。
「アルティス閣下、ありがとうございます。私は、皇帝の後を継ぐのが不安で、ずっと先延ばしにして来ましたが、閣下のお言葉を聞いて、今までの不安が吹き飛びました。国に帰りましたら皇帝の座を譲ってもらえる様、進言してみたいと思います。」
『そうですか。頑張って下さい。それでは、食事の時間前に呼びに来ますね・・・じゃなかった。ジェラルド君、早く飲んで。』
すっかり忘れそうになっていたが、毛生え薬を飲ませようとしていた事を思い出した。
ジェラルド君は、大量の汗をかきながら、薬と王太子を交互に見て、王太子に助けを求めている様だ。
アルティスは、王太子とアイコンタクトを交わし、無理やり飲ませる事にした。
『ソフティー、ジェラルド君を押さえて。』
「ジェラルド君すまない。」
『溢さない様に飲ませたら口を塞いで。』
王太子は、ジェラルド君の手から毛生え薬を取り、ジェラルド君の口の中に流し込んでから、口を手で押さえた。
!!?!!!!
余りの苦さに藻掻いていたが、喉が動いたのを確認して、ジュースを飲ませた。
すると、ジェラルド君の体から、茶色い毛が生えて来た。
毛の長さは、大体30㎝程で止まったが、顔と掌と足の裏を除く全身から生えて来た様だ。
「うあああああぁぁぁん、よがったぁー!」
長毛族は、毛が生えている事が誇りであり、証明である為、毛が生えて来なくなってしまった為に家に帰れない状態だったらしい。
元になっているのは、オラウータンかな?顔は猿顔ではなく、少女漫画に出て来る男みたいなイケメンなのだが、長い毛が顔以外を覆っていて、イケメンが台無しになった気がする。
ジェラルド君の首輪を外し、王太子殿下に預けた。
夕飯まではまだ時間があるので、魔大陸に行って、ココアを連れて来る事にしよう。
『アリエン、ココア・バターフライは、今どこに居る?』
『私の目の前に居ます。そちらに送りますか?』
『城の中央広場に送ってくれ。』
『了解しました。他の獣人達はどうしますか?』
『まだちょっと引き取れないから、保護だけしておいてくれ。』
『了解しました。では、ココア・バターフライを送ります。』
『頼む。』
シュン
「え!?あれ!?こ、ここはどこ!?」
『ココア・バタフライか?』
「何故私の名前を知っているの!?」
『クール・カラーリットとの耳を斬ったのはお前か?』
「!!?・・・そうよ。私が斬ったの。でも、それは間違いだったわ・・・。兄だと思っていた人達は、兄では無かったし、私に命令した人達は、全員死んでしまったわ。私の兄のフリをしていた人達が死んだ時に、全て思い出したの。兄達はエルフの森で、魔族に殺されてしまっていたのよ。私は兄達の死体を発見した後、偽物が死ぬまでの間の記憶が、殆ど無いの。でも、クールの耳を斬り飛ばした時の光景は覚えているわ。耳を斬り飛ばすなんて、酷い事をしてしまったと後悔しています。貴方が彼の代わりに、私を殺すと言うのなら、どうぞお願いいたします。」
『そんな事しねぇよ。お前がやった事は、お前自身でケリをつけろ。ただ、クールはお前には会いたくないそうだ。だから、弁明は、ラインハルト王太子殿下にして、贖罪の相談をしろ。案内をするから、ついて来い。』
クールは中庭の植え込みの裏に隠れている。
正面切って会うのは怖いが、気にはなっているらしい。
トラウマの相手が現れた瞬間、クールの怯えた感情が伝わって来たが、ココアの言葉を聞いて、少しずつ和らいでいくのを感じていた。
後は、王太子殿下からの処分が、どう下されるのかにもよるが、クールとココアの間の事だから、二人に任せるしかない。
『ミュール、今大丈夫か?』
『大丈夫!』
『お前の故郷が、スケープゴートの大群に荒らされているらしいぞ?』
『どれくらいの大群?』
『10万だそうだ。』
『あー、それはヤバいかも。』
『明日狩りに行くから、シュールと共に準備しておけ。』
『りょーかいー!』
『あるじー、明日の模擬戦を明後日にする事は可能?』
『どうしたんだ?』
『獣魔大陸にスケープゴートの大群が居るらしいんだよね。10万程』
『すぐに行かなくていいのか?』
『行った事ないのに、どうやって行くのさ?』
『・・・そうか。メンバーはもう決まっているのか?』
『あるじ、カレン、リズ、ミュール、シュール、ウルファ、クール、ウーリャ、フィーネ、バリア、あと豹人族と狼人族かな。総勢300くらいで考えているよ。』
『リザードマン達は使わないのか?』
『じゃぁ、リザードマン150と豹人と狼人を70ずつで。』
『よし、それでいこう。』
ココアを王太子の居る部屋に案内する途中で、話を纏めた。
今まで、リザードマンをあまり使わなかったのには、理由がある。
彼等は、気が優しくて力持ちなのだが、割と普通にどこにでも居る種族で、バネナ王国以外でも、人里から少し離れた森の中や、山中に隠れる様に住んでいる。
獣人達には何とも思われないが、人間相手では、いかつい顔が仇になり、何もしていなくても恐れられたり、迫害される事が多く、慣れていない人間の子供達は、蜘蛛の子を散らす様に逃げてしまうのだ。
王都で預かっている子供達は、みんなリザードマンを怖がることは無いのだが、他の街の人間ではそうはいかず、特に貴族達には目の敵にされている為、中々に使い処が難しいのだ。
ただ、北部の復興支援に行っていた実績から、北部の人々には、良き隣人として受け取られている様だ。
性格的には、寡黙でストイックな者が多いが、たまにマシンガントークの奴がいる。
割合で言えば200人に1人程度なのだが、訓練中もずっと喋っているらしく、かなりうるさい。
どこか、良い配属先は無いだろうか?
『王太子殿下、ココア・バタフライを連れて来ました。』
部屋に入ると、オセロを4人で囲んで楽しんでいた。
「あ、アルティス様!!この遊びは凄く面白いですね!!」
『あぁ、オセロか。簡単に作れますから、マスの数を覚えて、獣王帝国で作って遊ぶといいですよ。それよりも、ココア・バタフライの事をお願いします。』
「あぁ、そうですね。話を聞いて、内容によっては処分を下す事にします。」
『じゃぁ、お願いします。それと、明日の模擬戦を延期として、スケープゴートの大群を狩りに行きたいので、よろしいでしょうか?』
「そんなにスケープゴートの肉が欲しいのですか?あの獣の肉は不味いと聞いていますが?」
『こちらをどうぞ。我が国で生産している高級干し肉です。昨日のは、アーミーラプトルの肉を使っていましたが、こちらはスケープゴートの肉が使われています。』
「美味い!?この干し肉は一ついくらで売っているのですか!?」
『銀貨50枚です。味はアーミーラプトルのと同じなのですが、かなり違いますよね?でも、肉以外の材料が同じなので値段も同じで売っているのです。市販の材料で作れば、大赤字ですが。』
「一つ銀貨50枚!?売れるのですか?」
『売り出すと5分で売り切れますね。』
「す、凄い。レシピを教えてもらう事は可能ですか?」
『いいですが、多分無理じゃないかと・・・』
「そんなに凄い材料を使っているのですか?」
『ファイニスト・ハニービーが集めた、世界樹の蜜とロイヤルゼリー、世界樹の実のジュース、それと蜜蝋を使っていますし、それ以外にも10種類のスパイスとハーブ、味噌と醤油と砂糖を使用していますから、貴国では材料が揃わないと思います。』
材料を聞いた5人は、干し肉とアルティスを交互に見て唖然としていた。
「ん?味噌と醤油?・・・味噌と醬油ですと!?完成したのですか!?」
『えぇ、完成しましたよ?お昼に醤油使いすぎて、注意されてましたよね?』
「・・・うん。」
『まぁ、味噌と醤油、マヨネーズを含めて、明日、獣王帝国で披露しますし、レシピも差し上げますよ。』
「よろしいのですか!?」
『各地に工場を建てて作り始めて居ますし、気候や材料、使う塩の種類や配分によって味が変わりますから、色々な所で作るのは、大賛成ですよ。使える豆も沢山ありますし、色々作って、将来味噌や醤油の味で勝負しましょうよ。コンテストを開いて、どこの味噌が一番美味しいとか、どこの醤油が美味しいとかやりましょう。肉に合う味噌とか野菜に合う醤油とか、バリエーションが増えて、面白そうでは無いですか?』
「それは面白そうですね!?父上!是非やりましょう!!」
「そうですね、我が国でも色々な味を作りたいですね!」
「王子・・・。」
「あぁ、判ってる。アルティス殿、一つ謝らねばならない事がありまして・・・。」
『攻め落とせと言われた事ですか?』
「何故それを!?」
『想定内ですよ。ロック鳥から密偵が降りた事も把握済みですし、護衛として着いてきた30名が、貴国の最精鋭という事も把握済みです。ですが、我が国ではあの程度の実力であれば、王都の警備隊くらいでしょうか?何かした所で、全く問題ありませんよ。ペンタ、獣王帝国の密偵はどうなってる?』
「全て捕縛済みです。ブレインモルトの胞子をばら撒こうとしていましたが、王都の入り口で消滅した模様です。」
『という訳です。』
アルティスの真上から降りてきたペンタに、驚いた様子を見せた。
現れるまで、全く気付いていなかった様だ。
『まだ夕食まで時間がありますし、我が軍の実力を見られますか?』
「お、お願い致します。」
訓練場にやって来た。
元奴隷の子供達は既に、宿舎の方に入って、お風呂に行っている。
10万人もいるので、早い子は、既に夕飯を食べ始めている頃だろう。
『では、豹人族の演武をお楽しみ下さい。』
「始め!」
豹人族の二人が、ヌンチャクとトンファーで打合い、ウインドボードとワープゲートを駆使して、トリッキーな動きで演武を行っているのを、目を見開いて観ている。
演武とは言え、ヌンチャクもトンファーもほぼ本気でぶん回しているので、相応の実力が無ければ、軌道を見る事すら難しく、更に上へ下へと動き回りながら、戦いを演じている。
最後は、ライトボールで目くらましを食らった方が、寸止めで敗れる事で終わった。
「凄い・・・。あの近接武器は、初めて見る形ですが、どれ程の威力があるのですか?」
『彼等であれば、サイクロプスの膝を砕く事が容易にできるくらいですね。先端の速度は、音より早いので、パンパンと音がしていましたね。あの音は、音の壁を越えた為に、ソニックウェーブという現象が起きて、音が鳴っているんですよ。鎖で繋がっている方が、ヌンチャク。棒を回している方がトンファーという武器ですが、どちらもミスリル合金でドラゴンの鱗を練り込んでありますので、オリハルコン製のプレートメイルであれば、砕けます。』
「皇帝陛下には、攻め入るのは得策では無い事を伝えましょう。我々の手に余る程の強さです。ちなみに、彼らの強さはいかほどですか?」
『200位くらいじゃないでしょうか?』
「200・・・、アルティス殿もあの様な精強な兵に守られていれば、安心という訳ですな。」
アルティスは、獣王帝国の兵士がアルティスを狙って、暗殺を目論んでいるのを把握していた為、無駄な足掻きである事を示そうと、模擬戦を見せる事にした。
『彼等は、私より弱いですよ。ちょっと実演してみましょう。どっちがやる?』
「私がやりたいです。よろしくお願いします。」
『では、余計な横やりが入ると、興醒めするから、[シールド]』
パァ
獣王帝国の面々は、アルティスが一歩も動かないつもりなのかと思ったが、直後に場所を移動した為、有り得ない事を見たと、驚愕した。
「始め!」
勝負は2秒で終わった。
豹人のトンファーが薙ぎ払われたと思ったら、アルティスの姿が消え、次の瞬間には豹人が吹っ飛んでいた。
そして、王太子の前には、アルティスを狙っていた兵士が、ペンタに押さえつけられていた。
『王太子殿下が謝罪したばかりというのに、もう暗殺を狙ってくるとか、教育がなっていませんね。兵士の中にも密偵が紛れていたとは、上手い作戦ではありますが、狙っているのが丸分かりでしたよ。ちなみに、実際に暗器を撃っていたら、この人の命はもう消えていたでしょうね。』
ペンタの後ろでは、ソフティーが殺気を漏らして、捕まった密偵を睨んでいる。
徐に王太子が剣を抜き、密偵を殺そうと剣を振り下ろしたが、ペンタが防いだ。
「こいつはここで殺します!私に恥をかかせたのですから!!」
『駄目ですよ。この密偵に命令をしたのは、皇帝ですよね?どうせなら、皇帝の首を所望します。こんな密偵程度の命では、釣り合いませんね。』
事実上の宣戦布告だ。
『どうしますか?貴方方の皇帝陛下は、錯乱している様ですよ?内乱で済ませるか、我々が攻め入るか。選ばせてあげますよ。』
「急ぎ国へ戻り、皇帝の首を取って来る!!グレゴリー!キュレイ!行くぞ!」
「「はっ!」」
王太子達が連れて来た精鋭部隊は、数を半分に減らし、15人がロック鳥の所に集まっている。
残りの15名の内、14名は女王陛下を襲撃しようとして、アラクネ達に捕縛された様だ。
執務室に居た女王陛下の部屋を外から襲撃しようとしたが、窓を破壊する事ができず、上下左右から集まって来たアラクネ達の糸で、絡め捕られたらしい。
通常、護衛は専用の詰め所に入れられ、そこから動かないのが普通だが、15名だけは早々に動き出し、アーリアが密かに指示を出して、警戒していた。
アルティスはその連絡を受けて、平和裏に何事も無く終わらせる為に、色々と協力する姿勢を見せていたのだが、皇帝は篭絡させられるのを良しとしなかった様だ。
王太子達が、自分達でケリをつけると言ったので、アルティスはその事を女王陛下に報告し、ひとまず静観する事に決めた。
「アルティス、本当に静観するのか?攻め込む条件は、揃っていると思うのだが?」
『攻め込んでもいいんだけど、その場合、沢山人が死ぬ事になるんだよ。折角大勢の獣人を助けたのに、同じくらいの人を殺しちゃったら意味が無いじゃん。それに、王太子達がケリをつけるって言ってるんだから、最小限の被害で済ませられるかもしれないでしょ?』
「だが、準備の為に戻ったのかも知れないぞ?」
『もし、本当に戦争をする気で来たのなら、王太子本人が来る事は無かっただろうね。次期皇帝を敵地に送り込むなんて事をやる訳無いじゃん。しかも、王太子が敵地に居る時に、暗殺未遂だなんて、キチガイのする事だよ。皇帝が錯乱しているか、側近が悪魔か魔族の可能性が高いと踏んでるよ。確率は低いけど、皇帝がその座を譲り渡す為の手札を切った可能性も、無きにしも非ずってとこだね。』
「そんな事があるのか?」
『あるでしょ。こっちには人質が居るんだし、孫を犠牲にしてまで、飛び地のバネナ王国を手に入れるなんて事をするとは思えないよ。』
「ケモナー共和国を既に併合している可能性は?」
『無いとは言えないけど、併合していたとしても、統治に手いっぱいで、こっちに手を出す余裕なんて無いと思うんだよね。ペンタ、尋問の方はどお?』
シュタッとペンタが降りて来て、報告をした。
「コルスが尋問をしたところ、15人中7人が気絶、残りの8人が証言をしましたが、全員洗脳に掛かっていまして、皇帝ではなく、側近の男から暗殺を指示されたと証言をしています。ただ、その男の名前が判らないと言ってまして、判るのはべトレイル・ブレイクブローに連なる者だという事だけの様です。」
「7人が気絶?何かしたのか?」
『コルスの臭いにやられたんだよ。未だにコリュスと呪い合戦してるみたいで、今は、コリュスがコルスに魔獣を誘き寄せる誘引香の臭いを付けられたのかな?コルスは腋の下と足の裏が臭くなっているみたい。』
「コリュスは、ブートキャンプでエルフの森に行っているんだが、大丈夫なのか?」
『精鋭になって戻って来るんじゃない?』
「哀れコリュス」
『自業自得だよ。さて、獣王帝国の方はどうなっている事やら。何か報告来てる?』
「潜入には成功した様です。帝都周辺にはスケープゴートの群れは居ない様ですが、街中ではスケープゴートの話題で、もちきりの様ですね。」
『まだ、肝心な内容は判らないか。城には侵入できそうなのか?』
「警備はそれ程では無いらしく、潜入は難しくない様ですが、城がかなり大きいみたいで、皇帝の居る部屋を探している所です。王太子殿下達は、まだ到着していないので、時間がかかりそうです。」
『王太子達にくっついて行ったんじゃないのか?』
「アラクネに乗って行った様です。」
『それでフワワが居ないのか。向かった暗部は誰?』
「ヒノトです。ヒノエの妹ですね。かなり優秀なので、向かわせました。」
ヒノエ姉妹は優秀な様だな。
そういえば、カノエとヒノエのマルグリッド調査の報告を受けていないな。
『そうか。ヒノエの方の報告は?』
「マルグリッドの関与は無さそうとの事です。商会の地下にも特に何も無かった様ですし、別の組織が関与している様ですが、どうも都市国家群の中の一つの可能性が高いとの事です。」
都市国家群とは、また面倒くさそうな情報を拾って来た様だ。
都市国家群は、バネナ王国とマルグリッド王国の隣にある、マルグリッドの半分くらいの広さの地域にある都市が、それぞれ独立国家として存在している国家群で、140か国以上あるので、奴隷の調査もしていない。
噂では、しょっちゅう小競り合いをしていて、幾つかは隣国に併呑されたとか、新しく独立したとか、目まぐるしく変わるので、後回しにしている地域だ。
アリエンの招集によって、魔族は殆ど居なくなったので、最近は沈静化している様だが、頭の可笑しい連中がわんさか居そうで、手を付けるのがちょっと面倒だと感じている。
『面倒くさい所が浮上して来やがったな。都市国家群の方って探ってるんだっけ?』
「殆ど見ていませんね。全部で160国もあるので、対応しきれません。」
『だよなぁ。タカール商会に関連してそうな国は、判っているのか?』
「シュセンズかサボールのどちらかが怪しい様ですが、探りますか?」
『そうだな。探ってみよう。それと、ベーグルの商会ギルドの金の流れを探ってくれ。ベーグルにも出入りしていた様だから、商会ギルドの金の送金先を調べれば、判るかも知れん。』
「ケットシーに頼んでもいいですか?」
『バンバン使ってやれ。どうせ暇してるだろうからな。』
「了解です。」
『今までは、魔族が上手くコントロールしていたんだろうけど、居なくなったから尻尾を出すかもしれないな。』
「ビーキーパー領に商人が来て、脅そうとしてきたらしいですが、3人程捕縛したそうですよ?」
『報告は受けてるよ。でも、使者ではなくて、商人だから放置してるよ。まぁ、あそこを攻めようとすれば、数万匹のハニービーに襲われるから、無理だろうけどな。』
「そうですね。最近は、もっと増えているそうですよ。巣も拡張空間で巨大化しているらしく、トモスさんがテイムして、ファイニスト・ハニービーに進化したとも聞いています。」
『あの領も、一時は1万人以下にまで落ち込んだのが、今や6万人に増えたそうだからな。ケットシーも送るか。』
「それがいいと思います。だいぶお疲れの様ですよ。」
『ケットシー4名と護衛のリザードマンを、ビーキーパー領に送る。編成してくれ。』
「リザードマンですか?」
『綺麗な泉ができてるんだろ?水の管理には、リザードマンが最適なんだよ。』
リザードマンは、手足に水かきがついていて、集落も水辺に多くある事から、水辺の管理には最適の種族だ。
一言に水辺と言っても、倒木や枯葉などが沈むと、濁りが酷くなったり、蛭系の魔獣が住み着いたりする事があり、それをリザードマン達が、水辺を整備する事で防いでいるそうだ。
だから、リザードマンを派遣する事は、理に適っていると言える。
『ケットシー4名とリザードマン10名で編成してもよろしいですか?』
『ビーキーパー領には、泉があるから、いいぞ。リザードマンが足りない様なら増やすから、行って来い。』
『了解!いつでも出れます!』
『トモス、ケットシー4名とリザードマンが向かう。使ってやれ。』
『助かります!狼人族も出せませんか?』
『何かあるのか?』
『人数が増えて、食事を作る人員が足りなくなってきました。』
『そうか。じゃぁ、兎人族と狼人族も追加しよう。兎人族は農業指導、狼人族は料理指導役で。』
『お願いします。』
兎人族も今回は組み込む事にした。
兎人族は、元々農耕民族で、戦闘はあまり得意では無く、体が小さい為に舐められる事も多く、中々使い処に苦慮していたのだが、コボルトと同等の戦力になったのと、シールドモウルを捕まえる事が得意らしいので、農家の指導役として抜擢した。
実際、北部に兎人族を派遣すると、シールドモウルの防ぎ方や狩り方で、農家達から絶大な支持を得たのだ。
そして、兎人族は女性もいるので、兎人族の中にはカップルになっている者もいる。
恋愛は特に禁止していないのと、そもそも人数が少ないので、派遣先で増やして欲しいとも思っている。
ビーキーパー領に、ケットシー4名、リザードマン12名、狼人族2名、兎人族10名を送り出した。
兎人族達は、暗い雰囲気を醸し出していたので、何かと思って聞いてみると、恋人と離れ離れになるのが辛いと言ってきた。
『何で分けたんだ?一緒に行けばいいだろ?』
「良いのですか!?」
『良いに決まってるだろ。離れるとモチベーションが下がるんなら、一緒に行け。』
「ありがとうございます!!」
という事があって、10名になった。
順調に増えると良いね。
前話から期間が空いてしまい、申し訳ありません。
中々忙しく、執筆する時間がとれていない状況ですので、少し空いてしまうかも知れませんね。




