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第62話 獣王帝国の使者

 徴税官の事はアメリアに任せておけば、問題無いだろう。

 こっちはこっちで、ケットシーに徴税官の不正を暴くのと、今日の徴税の金額を確認しなきゃだな。

 取られた金を取り戻す為に、民衆と詐欺師が大挙して押し寄せて来るからな。


 『ケットシーに急ぎで確認してもらいたい書類がある。不正徴税官が以前の税率で徴収していた様だから、名前と余剰金の計算を頼みたい。』

 「すぐに確認を致しましょう。フムフム、んん?んー・・・、うむむ・・・なんとも、いやはや、参りましたね。」


 ケットシー達が受け取った書類を細かく調べ始めたが、古い書類も取り出して、ウンウン唸り出した。


 『問題だらけか?』

 「はい。5年前の分から書類がありますが、以前は税率7割だったのですよね?どうみても、8割徴収していたようですね。」

 『まぁ、想定内だ。名前毎に還付金の計算を頼む。全徴税官の書類を確認する必要があるみたいだな。』

 「書類を確認できれば、名前毎に資料をまとめておきましょう。」


 アメリアの所に戻って来たが、まだ商人が残っている様だな。


 『苦戦しているのか?』

 「アルティス様、こいつらが金を払わないと帰れないって、しつこいんですよ。」

 「アルティス殿?この獣が?嘘だろ?」

 「殺していいですか?」

 『いいぞ。』

 「あの獣を殺してしまえ!」


 商人達の用心棒が襲い掛かってこようとしたが、不意にソフティーが姿を現した為に、武器を捨てて両手を上げて脇に避けた。


 「ぎゃー!?何でこんな所にアラクネが!?た、たた、たったった、たす、助けて。」

 「むむ、無理無理、アラクネを相手になんて、無理ですよ!もうアンタの用心棒はやめる!こんなの相手にしたら、命がいくつあっても足りねぇよ!!」

 『というか、何しに来たんだ?何か用があって来てたんじゃないのか?』

 「お、お近づきの印に、御祝儀を渡しに来たのです!どど、どうぞ御納めください!」

 『要らねぇよ。そんな物受け取ったら最後、お前らの不正を見逃さなきゃならなくなるんだろ?今更金貨なんか受け取ったって、俺の資産の1000分の1にもならねぇよ。とっとと帰れ。』

 「ほら、判ったら帰った帰った。」


 アメリアが、シッシッと手を振ると、商人達は渋々と帰って行った。

 一人、揉み手に出っ歯の商人が残った。


 「アルティス様、当方の自慢の奴隷を差し上げますので、どうか我々と友誼を結びませんか?」

 『アメリア、どうだ?』

 「闇奴隷っすね。」

 『じゃあ、こいつの商会を捜索するか。まだ囲ってるんだろうからな。』

 「げぇ!?」


 この男は、奴隷商の番頭らしく、今まではこの方法で役人に取り入って来たらしいのだが、そもそも新政府が闇奴隷を認めないと言っているにも拘らず(かかわらず)、平気な顔で闇奴隷を賄賂の代わりにしようとか、どういう神経をしているのか、理解に苦しむ。

 男が贈り物として差し出したのは、成人前の獣人5名で、明らかに攫って来たと言わんばかりの子供達であった。

 一旦アメリアに確認をしたのは、闇奴隷を禁じたとしても、先日までこの国では、認められてた子供の奴隷売買がある為に、一概に闇奴隷とは言い切れない所があるのだ。

 神との契約により、闇奴隷が禁じられているとはいえ、当然それに従わない奴らもいるし、国もある訳で、システム上で奴隷契約ができてしまう以上は、完全に排する事は難しく、この国の様に、調べる事なく知らぬ存ぜぬで、容認している国は多い。

 しかも、禁じられているのは、闇奴隷だけであって、子供の奴隷売買を禁じていないが為に、形骸化しているとも言える。

 残念勇者が残した遺産が、ここでも大活躍だな。


 『奴隷商の家宅捜索は、第二騎士団員に任せるとして、用心棒のお前らは、まだ何か用があるのか?』

 「あんたらの護衛として雇ってもらえないか?」

 『護衛じゃなくて下働きの間違いじゃなくて?』

 「俺等は一応二級冒険者並みの実力があるんだぞ?そこの騎士なんかよりも全然役に立つんだよ!」

 『アメリア、ちょっとそこで模擬戦してやれよ。相手の実力も測れない癖に、二級並みとか言ってる馬鹿共に、判らせてやれ。』

 「了解。」


 商人の護衛が10人居たんだが、全員3秒持たずに打ち倒されて、何やら土下座し始めたよ。


 「すみませんでした!下働きでもいいので、雇って下さい!!」

 『どうするかは、アメリアに任せるよ。後で結果を教えてくれ。』

 「第四騎士団候補生としてもいいんですかい?」

 『根性から叩き直して、しっかりとバネナ王国軍としての体裁を保てるんなら、いいぞ。』

 「ダンガ、あんたが教育係やっときな。」

 「給金はどうするんで?」

 『候補生なら、月に銀貨5枚で十分だろう。当面は、孤児院の下に住んでおけ。あぁ、逃げられない様にパッチンしておけよ?』

 「りょーかい」


 カレンに渡していたパッチンバンドが大絶賛だったので、パパッとコピーしてアメリア達にも渡しておいたんだよ。

 本国にもオリジナルを渡して、量産を開始してもらっているよ。

 今までの首輪は、手錠みたいに2分割されていて、嵌める時にしっかりとはめ込む必要があって、慣れれば簡単なんだけど、暴れる相手だと、慣れていない者には使いづらい物だった。

 それが、今は首に打ち付けるだけで、首にぴったりと巻き付くので、一瞬で済むのと、普段は板状なので、嵩張らないと言うのが利点だ。


 この錬金術のコピー魔法は、自分が作った物をコピーする場合は、全く劣化しないのだが、他人が作った物の場合は、劣化する。

 アルティスが検証した結果としては、構造や魔法陣を知っているか否かで、精度に違いができるのと、MAGの違いによって、魔法強度に差が生じる事が原因だと思われた。

 特に、魔法陣については、電子回路の様に線で繋がれている為に、登録されている魔法陣を全て把握していなければ、その部分の魔法陣が消えて、その分の効果が消えてしまうのだ。

 たとえば、補助する魔法陣が付いていた場合、補助が消えてしまい、効果が落ちるという訳だ。

 そこで、魔道具部隊には、魔法陣を紙に書き出した物を全員に確認させて、そのままコピーさせている。

 パッチンバンド本体のみをコピーするメンバーと、魔法陣のみをコピーするメンバーに分ける事で、作業の効率化も図っている。


 現在、ここの孤児院には、500人程の孤児と10人の闇奴隷がいるのだが、闇奴隷については、どんどん本国の方に送っている。

 ベーグル出身の闇奴隷は数名居たのだが、全員口減らしで売られたそうなので、税率を引き下げたからと言って家に戻しても、そんなにすぐにお金に余裕が出る訳でも無い為、家に戻す意味は殆ど無い。

 なので、ベーグル出身者であっても、バネナ王国の孤児院に収容して教育を施していく事になる。

 人語については、基本的に同じ言語を使用しては居るのだが、方言はあるので、バネナ王国の言葉を標準語とすると、ベーグル出身の子供達の言葉は、少々聞き取り辛い様だ。

 バネナ王国側では、攫われた闇奴隷については、親を探し出して返還しているのだが、獣人の子供については、困難を極めている様だ。


 獣人の場合は、獣王帝国出身者とケモナー共和国出身者が殆どで、獣王帝国は、大陸が違う為に探しに行く事が困難なのだ。

 バネナ王国の南側にあるのが、ケモナー共和国なのだが、獣人の国では無く、獣人と人間が共存する国となっていて、バネナ王国との国交は、現在は途絶えている。

 例に漏れず、その国も魔族によって分断された様で、バネナ王国の南側にある領との関係は、険悪との報告を受け取っているのだ。

 険悪になった原因は、バネナ王国が人間至上主義になった事が原因らしく、現時点では、国交再開に向けて動き出したところで、まだ交渉の目途すら立っていない。


 『ケモナー共和国とか、不穏な国名だな。』

 「何が不穏なんですか?」

 『ケモナーって、獣好きとかモフモフ大好きな連中の事を指しているからな。』

 「そうなんですか?じゃぁ、私もケモナーですね。」

 『なんで?』

 「アルティス様が大好きですから。」

 『あぁ、そういう事か。』


 ケモナー共和国からは、バネナ王国内で各地を回っているケットシー達に、接触があった事が報告されていて、ケモナー共和国に移住しないかと打診されたそうだ。

 だが、ケットシー達も護衛の豹人達も、きっぱりと断ったそうで、向こうは驚いていたそうだ。

 ケットシー達は、マケダマレ・ダマラスとの戦いの時に、輜重部隊にいたケットシーを保護したのと、魔大陸のスラム街に住んでいたケットシー達を保護しているので、現在は3000人近くになっていて、砦側にも200人程移動させたのだが、未だに仕事にあぶれて、雑用をしているケットシーが多いのが現状だ。

 彼等は勤勉で、頭も良いし性格も温厚なので、遊ばせているのは、勿体ないと思っているのだが、派遣先が無いというジレンマを抱えている。


 『アルティスさん、少しよろしいですか?』


 珍しく女王陛下から念話が来た。


 『はい陛下、何かありましたか?』

 『獣王帝国から、来訪の打診がありました。ロック鳥に乗って来たいと言っていますが、受けてしまっても大丈夫ですか?』

 『来訪の日はいつですか?』

 『明後日を希望しています。』


 ロック鳥とは、翼を広げると20m近くもある巨大な猛禽で、飛ぶスピードが速く、グリフォンより少し遅い程度のスピードらしいので、獣王帝国からバネナ王国の首都までは、1日で到達できるらしい。

 だから、テラスメル高原で魔法を反射した時に、着弾から数分で来れたのだろう。

 獣王帝国の首都から、テラスメル高原までは、1000キロ以上離れているのだから、ロケットくらいの速度があるかもしれないので、ゲートを使った可能性も捨てきれないな。

 どのくらいの強さかといえば、それほど強い訳では無く、大きいが為に強いと認識されてはいるが、グリフォンに捕食される側で、ペルグランデスースを捕食する側という程度だ。

 但し、ペルグランデスースは戦う訳では無く、背後から近づいて、ガシッと掴んで高い所から落として殺すというだけで、真正面から戦う訳では無いらしい。

 セリナが戻ってきているが、大丈夫なのだろうか?


 『セリナが居ますが、大丈夫なんですか?』

 『セリナとは?』

 『グリフォンを従魔にしているエルフです。』

 『聞いてみます。駄目だった時は、どこかに移動してもらえるかしら?』

 『問題ありません。』


 5分ほど待っていると、確認した様で、回答が返ってきた。


 『問題無いそうです。ですが、襲い掛からない様にして欲しいとの事です。』

 『それは大丈夫ですよ。もう生肉は要らないそうですから。』

 『判りました。では、明後日戻って来て下さい。』

 『畏まりました。』


 陛下との念話終了と同時に、王城のケットシーから、滞在期間中のスケジュールが送られてきた。


 『翌日の模擬戦って何させるつもりなんだよ。』

 「面白そうですね。」

 『いつからバトルジャンキーになったの?』

 「ジャンキーって程では無いですよ?知らない戦い方をする人と闘ってみたいだけです。」

 

 それをバトルジャンキーというんだけどな。

 まぁ、獣人は強い奴に従うって掟の種族が沢山居るらしいから、丁度いいのかも知れないな。


 そうこうしている内に、ケットシー達から還付金のリストが届いたので、来た人々に返金を済ませてしまおう。


 『アメリア、還付金のリストだ。渡す前にゴーグルで名前を確認するんだよ。本人なら金額を渡してもいいんだが、違う場合は称号を確認しろ。称号に詐欺師とか恐喝とか犯罪行為があった場合は、速やかに捕縛しろ。』

 「了解。」


 外を見ると、門の前に入るのを躊躇っている人達が居たので、ヴァイスとシャナに中に入れる様指示した。


 『さぁ、並んで並んで。騎士の前に来たら本名を名乗ってくれ。嘘をついたら、詐欺師として捕縛するぞー』

 「どうやって確認するんだ?」

 「名前と称号が判るんだよ。」

 

 ざっとリストを確認してみると、500人くらいの名前が書いてあるので、探すのに時間が掛かりそうだから、魔道具を作ってやろうと思う。

 内容は、目録と検索だけなので、オークの魔石を使って、名前を言えば検索して金額が判る様にした。

 あいうえお順なんて概念は、無いからな。


 『アメリア、これを使え。目録を読み込ませてあるから、名前を言えば金額が表示される。』

 「あ!ありがてぇ!!カシムだったな、よし、これだけだ。」

 「ちょ!?金額間違えてねぇか?後から返せって言われても、払えねぇぞ?」

 『それはな、あの徴税官がずっと前から取り過ぎてたんだよ。だから、5年前の余剰金から計算してあるんだよ。今まで苦労掛けて悪かったな。暫らくはその金で生活してくれ。』

 「うおおおおおおおー!!助かる!!ありがとうございます!」


 500人への返金は、その日の内に終わった。

 他の徴税官の不正についても詳しく調査をした結果、酷い奴では、毎回9割を徴収していた奴も居る為、翌日から罰を与える事にした。


 翌日の朝、割増しで徴収していた奴は、磔にして石と木ジラ実という木の実を目の前に置いた。

 木ジラ実というのは、熟れ過ぎた果実の様な実で、簡単に潰れて、その汁に触れると被れて痒くなるという、恐ろしい木の実の事だ。

 この実は、そのまま素手で投げさせると、投げる方も被れて酷い事になるので、小さな投石機を置いて、触れなくても飛ばせる様にした。

 また、徴税官と共謀して、間違った金額を間違ってないと伝えていた商会が複数あったので、商人ギルドに商会名と計算間違いの合計金額を貼り出した。

 信用の無い商人と、真面な商売をする商人など居ない為、売り上げはがた落ちするだろう。


 逃げようとした徴税官達は、一族郎党捕縛して、身に着けている宝飾品などを取り上げ、子供は孤児院に入れ、親は強制労働に就かせた。

 当然財産は没収になるのだが、還付金総額には全く足りず、アルティスの持っている宝石を使って、エアシャー大聖堂跡地にあるワラビの彫像を、机に置けるサイズにして作り、商人ギルドが開催するオークションに出品した。

 アルティスは、次の日から数日間はバネナ王国に戻らなければならない為、アメリアとケットシー達に後の事を頼んでおいた。


 翌日の朝、王都に飛んで、王太子の到着を陛下と共に待っていると、他国の情報が幾つか舞い込んできた。

 一つは、マルグリッド王国がルングベリを平定し、総督府を設置したこと。

 もう一つは、ダークエルフが絶滅したという話なのだが、これは商人がダークエルフの支配地域に行った際に、忽然と消えており、住んでいた集落が廃墟になっていた事から、その様な情報が流れた様だが、ダークエルフは現在、バネナ王国で鍛錬に励んでいるので、絶滅などしていない。


 「アルティス殿!少しお話があるのですが!」

 『どうした?』

 「実は、取引のあった商人に、金を預けていまして、それを取り戻したいのです。」

 『幾らあったんだ?』

 「金貨2000枚ほどです。」

 『商会の名は?』

 「ラクーンドッグ商会です。」

 『たぬき・・・コルス、そんな商会あるのか?』

 『ラクーン商会ならありますが、ラクーンドッグ商会は無いですね。』

 『たぬきは無いが、アライグマは有ると。その金は、諦めた方がいいかもな。』

 「そんな!?」

 『一応、ラクーン商会に聞いてみてくれ。』

 『聞いてみたところ、使用人達で編成された行商をやっていたそうなんですが、戻って来ないので探しに来たそうです。』

 『アリエン、ダークエルフの事を騙していた魔族が、行商人を装って金を巻き上げていたか確認して見てくれ。』

 『・・・確認しましたが、元王子が全額持っていたそうです。』

 『ありがとう。元王子の持ち物で、その手の物は・・・登録式のアイテムバッグか。うん、そうなるよな。エスティア、アイテムバッグはあるんだが、ダークエルフの売却代金も入っているから、かなりの金額が入ってるよ。バッグは預かっておくから、安心していいぞ。訓練を卒業したら渡してやる。』

 「あ、いえ、アルティス様に全額お渡しいたします。我らダークエルフを救って頂いたお礼として。」

 『そうか。では、ダークエルフの装備費用として受け取っておく。』


 結局、ダークエルフの総数は、1万7千人程しか居なかったのだが、エルフが8000程しかいない事を考えれば、倍の人数居るのだから、多い方だと言える。

 エルフ達は、エルフ王国以外にも、魔の森の中やケモナー共和国、エルダードワーフの国に居る者も居るらしいので、総人口は判らないがな。


 「獣王帝国王太子殿下が到着されました。」

 「判りました。出迎えに行きましょう。」


 王城の中庭にロック鳥が3羽降り立っていて、完全武装の兵士が30人程整列している。

 王太子の両隣には、護衛の騎士が立っており、初めて見る種族で、片方は額と頭の両側から角が生えていて、元になっている動物が判らない。

 もう一人は、羊っぽい角なんだけど、角と云うよりグルグル巻きの円盤状になっていて、頭の横を守っているかの様な形をしている。

 デフォルメされた羊の角みたいだ。


 「ようこそ、おいで下さいました。私はバネナ王国女王 エカテリーヌ・ホリゾンダルです。」

 『バネナ王国宰相アルティスです。お久しぶりですね。王太子殿。』

 「女王陛下は初めまして。獣王帝国王太子ラインハルト・ブレイブクローと申します。後ろの二人は、我が配下の騎士でございます。自己紹介を。」


 最初は3本角が一歩前に出て来た。


 「我は、グレゴリー・ライノクリークと申します。正直、人間など我の敵では無いと思っておりましたが、いやはや、我の常識は、かなり間違っていた様ですな。腕には自信がありましたが、そちらの騎士殿を見るに、かなりの強者の様ですな。」


 いきなりバトルジャンキーみたいな発言とは、さすが獣人だな。

 次は羊系の方だな。


 「私は、キュレイ・マグノレシアと申します。グレゴリーが脳筋な発言をしてしまい、申し訳ありません。」

 「はぁ!?脳筋とは何の事だ!獣人であれば、相手の力量が気になるのは、当然であろうが!」

 「まだ、挨拶が終わっていないのですから、大声を出さないで下さい。みっともないですよ?」

 「ぬぅ、後で話を付けるぞ。」


 羊獣人の余計な一言によって、漫才の様な会話があったが、スルーして進めよう。


 『あるじとカレン、自己紹介を』

 「私は、女王陛下の護衛騎士アーリアだ。宰相アルティスと従魔契約をしていて、対等だ。」

 「私は、アルティス様の護衛騎士カレンです。」

 『それと、あと二人紹介したいんだが、ロック鳥は気付いているが、ここで紹介しても大丈夫かな?』

 「あぁ、ロック鳥から、聞いているよ。姿を消しているから、紹介されずに済ませるのかと思っていましたよ。」

 『姿を初めから見せていると、警戒度が跳ねあがるのでね。ずっとここに居た事が、安全である証拠として対応して欲しい。まぁ、そちらが暴れても対応できる自信はあるのだが、それを前提にしてしまうのは、客人を迎え入れる態度では無いですからね。』

 「凄い自信ですね。今の発言が少し挑発気味に聞こえましたが?」

 『マウントを取るのは、外交戦略の基本ですからね。まぁ二人が居れば、確実に取れるんですがね。では、まずはキュプラから。』


 すぅーっと現れたアラクネクイーンの姿に、3人がたじろいだ。


 「アラクネクイーンで、女王陛下の護衛兼アーリア様の従者をしております、キュプラと申します。」


 再びすぅーっとアラクネクイーンが現れた事に、大量の汗をかき始めた3人と、少し離れた所にいた30人の兵士がヘナヘナと地面にへたり込んだ。


 「アラクネクイーンのソフティーと申します。宰相アルティスの護衛をしております。」

 「あ、ああ、アラクネクイーンが、ふ、二人も!?」

 「アラクネクイーンが、同時代に二人とは、初めての事では無いか!?」

 「どうりで、エステルが心配する筈ですね。」

 『エステル?貴国にもアラクネが?』

 「ええ、我が国の王城にもアラクネがいるのですよ。」

 『そうですか。アラクネに理解のある方々で、安心しました。では、立ち話もなんですから、中へどうぞ。応接間へ』


 応接間には、王太子殿下の息子が待っている。

 午前中は、積もる話もあるだろうという事で、再会したらそのまま昼まで、滞在してもらう部屋で休憩してもらう予定だ。

 応接間の扉の前に立つと、王太子殿下の表情が変わった。


 『では、こちらへ』

 ガチャッ

 「父上!?」

 「ウィリー!!会いたかった!無事でよかった!」

 『ちょっと失礼。』


 ソフティーがウイリアムの襟から伸びる細い何かを摘まみ上げた。


 『[鑑定]キラースライム?』

 「何だと!?飼い主の名前は!?」

 『べトレイル・ブレイブクローって名前ですね。王族ですか?』

 「叔父きですね。ウイリアムの背中に、何か魔道具は着いていませんでしたか?」

 『あったんだけど、何かの効果があるのかと思って、変な部分だけ外して、放置していたんですよ。まさかスライムが出て来るとは思いませんでしたね。』

 「実は、前回のあの後、王都に戻ったら少し回復していたのですよ。すぐさま首を斬り落としましたので、もう復活する事はありません。」

 『そうですか。あの変な部分というのは、吸収する能力でしたので、もしかしたら、ウイリアム殿下の生命力を吸い取っていたのかも知れませんね。』

 「その取り除いた物は、残っていないのですか?」

 『残ってますが、ちょっと危険なので、結界で包みますね。』


 ウイリアム殿下の背中の魔道具から外したのは、生命力とMPを吸い取る為の魔道具で、外側によく解らない膜があった為に、吸収力は微々たるものだった。

 気になるので外したところ、周囲からギュンギュンとマナを吸収し始めた為、結界で包んで、ディメンションホールに放り込んでおいたのだ。

 ディメンションホールから、それを取り出して見せると、驚愕の表情を浮かべた。


 「それは、吸魔石ではないか!?結界で包んだと?」

 「吸魔石を結界で包める御仁が居るとは、前代未聞ですな・・・。」

 『あぁ、それは多分、結界の張り方に問題があるんですよ。通常の結界ってのは、形に合わせて張る為に、柔らかくして表面の凸凹に合わせるんだと思うけど、これを包んだ結界は、初めから形を固定して入れたんですよ。』

 「形を固定?ですが、この結界には隙間が無いのではないですか?」

 『結界を特別な物として見れば、それが当然の考え方なのかも知れないが、ただの工芸品と同じ物として考えて、隙間に液化した結界を流し込んでくっ付けるイメージで使ったのですよ。』

 「・・・ちょっと、何を言っているのか、判り兼ねます。」


 キュレイ・マグノレシアには理解できない様だ。

 仕方ないので、実際に見せてみる事にした。

 半球型の結界を二つ作り、それを吸魔石の外側に被せ、縦に入った筋にドロドロの結界を流し込んで、切れ目を無くした。


 「ラインハルト様、滞在期間中、アルティス殿に弟子入りしてもよろしいですか?」

 「引き受けてもらえるのか?」

 『私では無く、ラミアに教わるのがいいと思いますよ。我が軍の魔法訓練の教官としていますので。』

 「ケリーを呼びますか?」

 『後でいいだろ。それよりも、先にやらなくてはならない事があるからな。』


 ウイリアム殿下の体には、あちらこちらに魔道具が埋め込まれていて、痛くないのかと思ってしまう程なのだ。


 『ラインハルト王太子殿下、ウイリアム殿下の体に魔道具を埋め込んだのは、貴方ですか?』

 「魔道具?そんな酷い事はしないぞ!?」

 『では、全て取り除きますが、よろしいですか?』

 「取り除けるのか!?」

 『問題ありません。[アポート][アナライズ][治療術]』


 アルティスのMPがゴリゴリと減って行き、半減したところで止まった。


 『・・・カレン、後は頼む・・・』

 「アルティス様!?ソフティー!お願いします!」

 『りょーかい!』


 アルティスは、MPを半分も持って行かれて、フラフラになってしまった。

 過去に、シーベルト平原で同様の事があったが、あの時とは比べ物にならない程のMPを消費したのだ。

 それ程までにMPを消費した原因は、魔道具を外した時にアナライズで調べてみると、ウイリアム殿下の体には、病原体がある事が判ったのだ。

 ウイリアム殿下の体にあったのは、延命治療の為の魔道具と、痛みを和らげるための魔道具、それとラインハルト王太子を殺す為の魔道具が仕込まれていた。

 それらは、治療では無くウイリアム殿下をただの兵器として考えた様な物で、埋め込んだのがラインハルトだった場合は、獣王帝国を攻め落とそうと思ってしまう程に酷い物であった。

 だが、ラインハルトは取り除く事に異議を唱えず、魔道具が埋め込まれている事すら、知らなかった様子だ。

 まだ、確定では無いが、ウイリアム殿下は一度、死にそうになったのではないかと推測する。

 彼の体にあったのはガン細胞で、1年間の奴隷生活の間に、拡がってしまった様で、あちらこちらに転移していた。

 その治療を行った為の、20万ものMP消費だったのだ。


 「・・・カレン殿、アルティス殿は一体・・・?」

 『アルティス様は、ウイリアム殿下のお体を蝕む、病原体を消して、治療をされましたが為に、MPを大量消費されました。』

 「ウィリー、体の調子はどうだ?」

 「どこも痛く無くなった!?凄いですよ、父上!!ずっと痛かったのに!どこも痛く無くなりました!!」


 ラインハルトは、キュレイとグレゴリーを交互に見た。

 二人の騎士は、気不味そうな顔でラインハルトの前に跪き、土下座の姿勢で謝り出した。


 「ラインハルト様!申し訳ございません!!ウイリアム坊ちゃんのお体は、御病気の為に、医師から魔道具を埋め込んだことを告げられていたのですが、ラインハルト様へのご報告をする勇気がありませんでした!!」

 「術後の経過は、私がチェックしておりました。坊ちゃんは魔道具無しでは、生きながらえないお体でした。」

 「何だと!?聞いていないぞ!!何故隠していたんだ!!」

 「言おうとしていた頃に、行方不明になってしまわれたからでございます。」


 涙に濡れるごついオッサン3人を眺めていたウイリアムが、両手を腰に当て言い放った。


 「父上も、レイおじさんも、ゴリゴリおじさんも、何をそんなに泣いているのですか!?せっかくアルティス様が治して下さったのに、喜ばないんですか!?」

 「ウイリアム殿下の仰る通りですよ。今は嘆くよりも、再会を喜ぶべきです。私はお邪魔虫ですから、退室しますね。用があれば、メイドを呼んでください。では。」


 カレンは急ぎ足でアルティスの下に走った。


 『それで、急いでここに来たと。お前ねぇ、客人を放り出す程の事じゃねぇだろ?応接間には、陛下も居るんじゃねぇのか?今すぐ戻って、警備して来い!!』

 「ひゃいっ!」


 応接間には、キュプラとペンタが居るにしても、騎士が居ないのは、それはそれで問題があるのだ。

 あ、コルスじゃないのは、コルスは獣人相手には厳しいからね、臭いが。


 一気に大量のMPを消費すると、フラフラにはなるんだが、それは一種の酔いの様な物なので、少し休めば回復する。

 MP量が多いので、命に関わる様な事にはならず、MPの自然回復量も5%ずつ回復していくので、アルティスの場合は、一度に2万ずつ増えていくのだ。

 では、そのMPがどうやって増えるのかといえば、栄養と呼吸からだと思う。

 何故そう思うのかというと、MPを消費した日は、食べる量が増えるからだ。

 呼吸については、鼻から吸う呼吸と、皮膚呼吸で補っているのだと思われる。

 ゴリゴリ回復するのではなく、30分ずつの回復なので、100%に到達するまでに10時間程かかる計算になる。

 ただ、それはMPが0になった場合の時間なので、50%の回復であれば、5時間程となるのだ。


 『朝食食べたばっかりだけど、腹減ったな。』

 『食堂に行く?』

 『うん、そうしよう。あんなにMP使うとは思わなかったからなぁ。』

 『そんなに凄い怪我だったの?』

 『そうだねぇ、魔道具が抜けた部分の怪我と、病気の範囲が凄かったからね。自然回復しない臓器の修復には、大量のMPが必要になるんだよ。』

 『自然回復しない臓器?』

 『うん、人族の臓器の内、腎臓や膵臓は自然回復しない臓器の代表格だねぇ。』


 ウイリアム殿下の臓器の内、腎臓はまだしも、膵臓がかなり酷かった為、治療術でかなりの部分を修復したのだが、膵臓癌なんて、元の世界で言えば、致死率の高い癌だった筈だ。

 腎臓がんについても、致死率が高く、転移しやすいという特徴があった筈なので、暫らくは定期的に状態を診なければならないだろう。

 今回の治療に際し、困難を極めたのは、ガン細胞の判別で、一言にガン細胞と言っても、何種類あるか判らないくらいに多いのと、発生している部位によって種類が変って来る為に、一つ一つ調べて潰して調べて潰してを繰り返すしか無いのだ。

 そして、それを続けるには、治療術を発動したまま、アナライズを使わなければならず、頭がパンクしそうだった。

 転職に失敗して、無職だった頃に、暇だからと家庭の医学の本を読みこんでいたのが、かなり役に立った。

 癌についても、腫瘍マーカーを使われた事もあるので、ネットで色々調べていたのが、功を奏した。


 食堂に着くと、ウイリアム殿下とラインハルト王太子殿下御一行が居た。


 「あ!アルティス様!!」

 『うおおおおぉぉぉ・・・頭に響く。』

 「ウイリアム殿下、アルティス様はまだ回復中ですので、今はまだそっとしておいて下さい。MPを大量に消費すると、頭が痛くなりますから。」


 カレンがウイリアム殿下を引き留めてくれたから良かったものの、子供のキンキン声は、かなり来るものがある。

 別に二日酔いという訳では無いにしても、酔っている状態には変わりなく、二日酔いの時に船酔いになった様な、頭がずーんと重く感じている状態なのだ。


 「だ、大丈夫ですか?」

 『あぁ、何か甘い物をくれ。あ、ゼリーがいいな。』

 「畏まりました。すぐにお持ちします。」


 ゼリーとは、世界樹の実を絞って作ったジュースをゼリーにして、ファイニスト・ハニービーのハチミツで甘みを付けた世界樹の実の角切りを入れた物だ。

 これは、疲労回復効果が高く、味も美味しいので、兵士達には大人気のデザートだ。

 世界樹の実は、毎日イ隊が配達に来ていて、世界樹の下では磨り潰した実を使って、お酒も造っているが、実ができる量の方が圧倒的に多く、消費に苦慮しているのだ。

 元々は、エルフの長寿は、世界樹の実を食べているから、長生きすると言われていたのだが、そんなバカげた効果は無く、カフェインの入っていないエナドリ程度の効果でしかないのだ。

 ただ、栄養価は高く、健康にも美容にもいいので、ロイヤルゼリーと共にリンスの材料としても使っていて、水で薄めた物を化粧水としても売っている。

 ビーキーパー領では、ハニービーのハチミツの生産が本格化した為に、トモスから使い方について相談が来ていたりもした。

 ビーキーパー領の毒沼は、今や浄化の木の群生地に変わっていて、30本近く生えているそうで、毎日せっせとハニービー達が蜜を集めているそうだ。

 ハチミツの量もかなりの量になるらしく、浄化の木のおかげで、毒の染み出しも無くなり、毒沼の周りには、清浄な水辺ができあがり、水路を作って畑に水を撒く事ができるようになったらしい。

 当初の計画通り、ハチミツを使って栄養バーを生産していて、王城がそれを定期的に購入しているので、資産状況としては、かなり回復した様だ。

 栄養バーは、兵士達や暗部にも人気で、果実(世界樹の実)入りのは、1つ銀貨10枚の値がついている。


 『トモス、世界樹の実を摺り下ろした物を使って、麦粥作ってみたら、領民の栄養状況の改善にならないか?』

 『既にやってますよ。もう領民の中でガリガリの奴は居ないですね。領都にも大分住民が増えて来ましたし、孤児達も栄養バーの生産をせっせとやってくれています。農作業の方も、奴隷達だけでなく、領民の中からもやる人がでてきたので、順調に発展して来ていますよ。』

 『そうか。じゃあ、次は衛生面の改善と、医療の方だな。』

 『そっち方面も、大分改善していますよ。バレイショのおかげで、薪の心配も無くなりましたし、銭湯を運営しています。それとマンドラゴラも栽培していますので、低級の万能薬も作れていますから、今の所病人の心配は無さそうです。』

 『さすがだな。陶芸家の方はどうだ?』

 『グレンの方は、あまり芳しくない様ですね。上手い事艶が出ないみたいで、悩んでいる様です。』

 『釉薬(ゆうやく)を作れていないのか。灰と長石と土とか鉱物だったかな?確か何度か上澄みを捨てて、灰汁抜きをしないと駄目だった様な気がする。』

 『長石って何です?』

 『要は石だよ。粘土を作る石以外の石を粉にして、色々試させればいいよ。それか砂を使ってもいいと思うぞ。』

 『伝えてみます!』


 他のヨークナルもセンエーツも、ビーキーパー領との取引で、利益を上げているそうで、他の領から移住してくる人もいる様だ。

 どこで情報を仕入れているのかと言えば、行商人が景気がいい領の話として、その3領の事を話しているそうだ。

 兵士達も精悍になって来たようで、ゴロツキモドキだった兵士が、街の治安を守っているとか。


 獣王帝国の事が済んだら、当分は国内の事に注力したいな。

 都市国家群も気になると言えば気になるんだが、あのエリアに140カ国もあるのだから、とてもじゃないが対応しきれない。

 ベーグルは都市国家群の内、4つの都市を持つ国なのだが、隣接する都市国家が、軍備の増強をしているとの情報もあるので、攻めてきたら対応すればいいだろう。

 それ以外には、テラスメル高原の南側にある、農業国家のエスティミシスなのだが、偵察と言うか視察に出した馬人族からの連絡が一切無いので、どうなっているのか、さっぱり情報が無いのだ。


 『コルス、エスティミシスに行かせた連中が、今どうなっているか判るか?』

 『念話で聞けないんですか?』

 『聞いてみるか。動いているのは判るんだけど、まさか、エスティミシスまでもが滅亡してるなんて事は無いよな?』

 『さぁ?全く情報を集めていない国なので、判りません。』


 エスティミシスは農業国で、軍隊と呼べるようなものは無いとされており、海に面しているとはいえ、これと言って珍しい作物がある訳でも無いので、貿易も殆ど行われていない様だ。

 バネナ王国も、遠すぎるが故に、特に貿易は行っておらず、全く情報が無いのだ。


 『エスティミシスに行ってる馬人は、返事をしてくれ。』

 ザザ・・・ま!ザー・・・

 『問題がある様だな。念話が妨害されているのか、マナが乱れているのか、ハッキリとしないが、よろしく無い状況にあると見て間違いはないな。』

 『どうしますか?』

 『アラクネと一緒に誰かに行ってもらえ。糸を使って有線で念話できるだろ?』

 『了解しました。誰か空いていますか?』

 『マルグリッドの警備をやっているソ隊の内、3人だけ残して残りはエスティミシスとその周辺に行ってもらおう。暗部で行く人に干し肉と栄養バーを預けるから、ソ隊に分けて欲しいんだよな。』

 『エルフの森の守備で行ってるフ隊も減らしていいよ。3人いれば、カバーできるから。あと、世界樹の守護者として派遣している子も、半分に減らして欲しい。』


 エルフの森と世界樹の方に派遣している子供達も、だいぶ地形に慣れたみたいで、少人数でも余裕でカバーできるようになった様だ。

 まぁ、クイーンが指揮を執っているのだから、優秀になるのは当然の話だ。

 アラクネクイーンの能力として、会った事の無いアラクネとの念話から記憶を読み取る事も可能で、実の子であれば、視界を共有する事も可能なのだとか。

 生まれた時から8つの目で、多角的に情報を処理する事に慣れている為、様々な情報を整理する能力に優れ、並列思考とも思える事を常にやっているらしいのだ。

 きっと、大きなお腹の中には、内臓では無くて、脳みそが詰まっているに違いない。

 だって、人の体を持ってるんだから、内臓はそっちで賄えそうだもんね。


 『じゃあ、どこに行かせるか考えておくよ。とりあえず、戻ってきてもらっていいかな?』

 『世界樹の守護のイ隊から13人、テ隊から13人、エルフの森はフワ、フラ、フレを残して残りを退却、マルグリッドから6人をエスティミシスに派遣するね。』


 ソフティーが的確に人数を減らしてくれたので、余剰人員が出て来た。

 という訳で、国内の方にも行ってもらう事にした。

 かなり人員に余裕が出て来たから、ちょっと方針を決める為に、キュプラの所に来た。


 「ん?アルティス、獣王帝国の客人はいいのか?」

 『ちょっとMPを大量に使ったから、休憩だよ。それと、アラクネの配置を考えようと思ってね。キュプラにもお願いするから。』

 「アルティス様、お久しぶりでございます。」

 『・・・キュプラの子達もちょっと配置を変えるよ。まずは、港町を警護しているプ隊だけど25人は多すぎるから、バネナ王国内はキュプラの子達に全域を任せる事にするよ。港町の警護に必要な人数は、どれくらい?』

 「港町には二人居れば十分でございます。」

 『じゃぁ、二人残して、ププと22人は、王都より円形山脈の外側の領地を守ってもらおうかな。ユ隊もかなり余っていると思うから、ユ隊の半分もそこに加えよう。』

 「ユユと11名はどうしますか?」

 『ユユと11人は基本的に要人警護と大聖堂、孤児院の警護をお願い。』

 「畏まりました。」

 『スラム街の方はどんな感じ?』

 「ゴロツキの襲撃も減ってきましたので、10名程は減らせると思います。」

 『じゃぁ、10人は一旦引いて、暫らくは様子見でお願い。ゴロツキも馬鹿じゃないから、減るのを待ってる可能性があるからね。』

 「畏まりました。」

 「ソフティーの子達は余裕あるのか?」

 『世界樹の警護を半分に減らしたんだよ。多すぎるらしくてね。あと、エスティミシスに派遣した馬人達が、何かのトラブルに巻き込まれているらしくて、念話が通じないんだよね。』

 『それから、元神聖王国の方と、ハンザ神国の方も派遣する必要があるし、特にアバダント帝国との国境付近は、厳重にする必要があるかな。』

 「ラクガンスキルはいいのか?」

 『あそこには、3人既にいるからね。あ、後、緩衝地帯の方も必要だね。』

 「緩衝地帯の森については、陛下と話をしていて、どうもゴブリンとオークの大集落ができあがっている様でな、何とかする必要がありそうなんだよ。」


 緩衝地帯とは、大河の向こう側にある、バネナ王国の領地の事だが、バネナ王国からは渡河ができないので、直接行く事ができず、神聖王国とハンザ神国を経由する為に、片路では馬車で半年程かかる、近くて遠い場所の事だ。

 何故バネナ王国の領土なのかは知らないが、領土である以上は、何もしないという事はできず、最低限の管理をしなくてはいけないのだ。


 『行ってみるかぁ。ポートを作って、兵士の鍛錬に使っちゃえば?』

 「作れるのか?」

 『作れるよ。教会が持ってる様なゴテゴテしい魔法陣じゃなくて、余分な物を取っ払って、消費魔力を半分にした奴を設置できるよ。』

 「勝手に使われて、敵が転移してくる可能性は?」

 『無いよ。要は、条件を付ければいいだけだから、アミュレットの有無で判断する様にしたんだよ。』

 「じゃぁ、それを設置して、ついでに安全地帯を作ってもらえると助かる。」

 『どの辺に作る?』

 「大河の近くで良いぞ。水の確保が必要だからな。」

 『判った。じゃぁ、獣王帝国の方が帰ったら、行く事にするよ。』


 エスティミシスの方が心配ではあるものの、取り急ぎ緩衝地帯のゴブリン帝国と、オーク帝国の戦争をなんとかしなければ、ハンザ神国の方に被害が及んでしまう可能性が捨てきれないのだ。

 ハンザ神国には、執事とその部下が統治をしているのだが、人口が極端に少なく、移民が欲しいと言っているので、大量輸送のできる環境を作る必要もある。

 とはいえ、やはり大河を越えるのは難しく、橋は不可能とすると、船か空輸しか無い訳で、斥力では大型の輸送機を運用するのは難しい為、実現は困難と言わざるを得ない。

 他の飛行方法を模索しようにも、正直言って思いつかないのだ。


 『あ、ロック鳥に聞いてみるか。』

 「何を?」

 『どうやって飛んでいるのかを』

 「羽で飛んでるんだろ?」

 『あんなデカくて重たい鳥が、羽ばたいただけで飛べると思ってるの?』

 「違うのか?」

 「違いますよ?風魔法を使っていますね。」

 『風魔法?下から上に吹かせるのか?』

 「そうです。あと、グラビティも使っていると思います。」

 『本人に聞いてみよう。』


 ソフティーとロック鳥のいる中庭にやって来た。


 『こんにちわ』

 『喋ったぁ!?』

 『ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?』

 『アラクネクイーンが俺等の言葉を理解してるのか?』

 『私じゃないよ。アルティスだよ。』

 『アルティスってそっちのちっこい奴・・・いや、お方ですね。何が聞きたいのでしょうか?』

 『飛び上がる時の魔法って何を使ってるの?』

 『えっ!?いやぁー・・・何を使ってるんだろう?』

 『スキルを使ってるんでしょ?飛び上がらずにスキルだけ使える?』

 『使うだけでいいのか?いいんですか?』

 『話し易い方でいいよ。気にしないから。』

 『・・・ありがたいとは思うけど、怒られないか?』

 『誰が誰に?』

 『オイラがあるじに。』

 『許可を貰ったと言えばいいだけだよ。俺は堅苦しいのは嫌いなんでね。』

 『判った。じゃぁスキルを使うだけだな。ほらよ。』


 鑑定した結果、風魔法と斥力とグラビティを使っている事が判った。

 空を飛んでいる時も風魔法を使って、推進力を得ているそうで、なんと、後ろに吹いているらしい。

 つまり、反動を打ち消す斥力を使用していないという事だ。

 浮力については、ちゃんと羽が浮力を発生させている様で、普通の鳥の羽と同じ様な構造をしていた。

 ついでに、空中で遭遇する敵について聞いてみたが、殆ど遭遇する事は無い様だ。

 ロック鳥についても、それ程移動距離が長い訳では無く、縄張りの外に出る事は殆ど無く、岩山や高い山に近づかなければ、ほぼ遭遇する事は無いらしい。

 というわけで、輸送機を作ろうと決心した。

 王太子達が帰ったらね。


 昼食は、来客用の食堂で食事をしたのだが、3人だけでピタパン120個とステーキにカレーライスまで食べていたよ。

 料理が大層気に入ったらしいので、狼人族を20人派遣する事にした。

 ついでに、獣魔大陸をよく見て来いと言っておいた。


 午後は、話し合いの時間だ。

 何を話すのかと言えば、国交を結ぶのと、ケモナー共和国との国交再開への足掛かりとするべく、間を取り持ってもらう事だ。


 『では、バネナ王国及び獣王帝国の国交正常化に向けて、協議を行います。まずは、我が国から貴国へお願いしたい事ですが、ケモナー共和国への橋渡しをお願いしたい。それ以外は、交易です。それぞれの国で産出する物を輸出し合えば、ケモナー共和国も含めて、発展する事ができるだろう。』

 「ケモナー共和国の件は、了解しました。交易については、一つ難問があるのですが?」

 『何ですか?』

 「海を渡る必要があるという事です。そこをクリアしなければ、継続する事は不可能でしょう。」

 『あぁ、セイレーンがいれば、解決しますよ。』

 「セイレーンだって!?」

 「セイレーンが何をすると言うのですか?」

 『セイレーンに船を引いてもらえば、数時間で横断できますよ。まぁ、先に現地の状況を確認しなければ、なりませんけどね。』

 「セイレーンに船を引かせると、すぐに破壊されてしまいますよ。我々も昔試したのですが、セイレーンのスピードに耐えられる船がありませんでした。」

 『今、エルフ王国と魔大陸を結ぶ航路をセイレーン達が運行していますよ。エルフ王国から魔大陸まで、遅くても4時間もあれば行けますよ。』


 王太子達は、信じられないものを見るような目でアルティス見ていたが、ふとグレゴリーがある事に気が付いた。


 「魔大陸と交易をしているのですか?」

 『あぁ、説明していませんでしたね。現魔王は、私の部下なんですよ。ですから、もう敵対する事はありませんし、魔大陸を発展させる為に、貿易を行っています。』

 「「「魔王が部下!?」」」

 「ま、待ってくれ、という事は、アルティス殿は魔王軍なのか?」

 『違いますよ?魔族もだいぶ数が減りましたからね、もう継戦能力はありませんよ。』

 「魔王軍四天王はどうなったのですか?」

 『ダッドアイですか?これですね。』


 ディメンションホールから小さな玉を取り出すと、キュレイが目を大きく開いて驚いた。


 「ダッドアイの死骸!?」

 「はぁ?いくら何でも、あの大きさの奴が、こんな小さくなる訳ないだろうが。」

 「鑑定したらそう出たんだよ!殺してこの大きさに圧縮した、そういう事ですか?」

 『そうですよ。もう一人のダフネスでしたか?アイツは、田んぼの片隅に突き刺さってたので、そのまま封印して、今では道しるべとして使ってますよ。』

 「もう一人、ミュールというワーキャットが居たと思いますが?」

 『ミュールは部下ですね。ダッドアイの呪いを受けて瀕死の所を助けてやったんですよ。』

 「そのミュールはどちらに?」

 『今はどこに居たっけ?』

 「ベーシスでは?」

 『あぁ、シュールの修業をしてるんだったか。』

 「シュール!?あ奴もいるのか!?」

 『シュールは、ベーシスの将軍になってますよ。でも竜人に捕まってましたから、ミュールが鍛えていると思います。』

 「二人に故郷に戻る様伝えては頂けないか?ワーキャットの村は、今大変な状況にあるんだ。」

 『何が大変なのですか?』

 「ダッドアイが、スケープゴートの大群を放逐して、荒れているのですよ。」

 『どのくらい居るのですか?』

 「だいたい、10万近くはいるかと。」


 アルティスの目が光った。


 『我々が狩りましょう。スケープゴートの肉が大量に必要なんですよ。シーア、獣魔大陸にセイレーンはいないか?』

 『獣魔大陸とケモナー共和国にいるけど、獣王帝国と敵対していますよ?』


 シーアに獣魔大陸のセイレーンについて連絡をしたが、まさかの獣王帝国との敵対を伝えてきた。

 セイレーンを敵に回すとは、愚かな行為だぞ!獣王帝国!!


 『獣王帝国とセイレーンは敵対しているんですか?』

 「昔は仲が良かったと聞くが、今は漁師たちと敵対していると聞いています。漁場があまり広くないので、魚を取り合っているとか。」

 『漁場が狭い理由は?』

 「シーサーペントとクラーケン、シードラゴンが縄張り争いをしていて、危なくて漁ができないそうです。」

 『シーサーペントとクラーケンは見た事ありますが、シードラゴンは見た事ないですね。狩りに行くか。食えるのかな?』


 食べられるかどうかを心配するアルティスを見て、3人が驚愕した。


 「クラーケンも居るのですよ?」

 『クラーケンは北の海で12匹狩ったんですよ。今食べているソレ、クラーケンを干した物ですよ?』

 ポロッ


 会議のお茶請けとして、干しクラーケンを出しておいたのだが、余程美味しかったらしく、3人がさっきからずっとモグモグしてたんだよな。

 それがクラーケンだと知って、驚いてしまったらしい。


 「どうやって倒したのですか!?」

 『光を炊いて、水中で衝撃波を出して、浮いてきた所を急所にズブリですね。』


 アルティスの説明にピンと来ない様子だが、アルティスは特に気にしない。

 倒し方など、ちょっと工夫すればいいのだ。

 漁師にやらせると、網と銛を使って倒そうとするが、そんなので倒せるのなら、問題になどなる訳が無い。

 寧ろ、倒せないと騒いでいる連中は、そもそも倒せると思っていないのだ。

 デカいという理由だけで、倒そうとしていないし、倒す方法を考えても居ない。

 考えたとしても、剣で切るとか弓で射抜くとか、何度も失敗した方法を繰り返して、疲弊していく。

 キュレイが漁村にクラーケンの事を聞いた様だが、眉間に皺を寄せて、神妙な顔になった。


 「漁村にクラーケンの事について聞いてみたのですが、セイレーン達があっさりと解決してしまったそうです。セイレーン曰く、アルティス様に教わった方法を試したとかで、シーサーペントも同時に倒して、シードラゴンはクラーケンを1匹持ち去って行ったそうです。漁師達は、セイレーンに謝って、許してもらえたと言ってます。」


 既に解決したらしい。


 『セイレーンを敵に回すと怖いという事は、理解できていない様子ですね。魔王が代わったのは3週間ほど前、クラーケンを倒したのもその頃です。それはエルフの森の北側の海の話ですよ?その情報が既に、大陸の反対側にまで伝わっているんですよ?情報の伝わる速度が速いんですよ。セイレーンをイジメると、世界中のセイレーンに情報が瞬時に伝わります。そのせいで、前魔王軍は海の藻屑となりましたしね。何があっても、セイレーン達とは対立しない事をお勧めします。』


 セイレーンの強さもしかり、セイレーンを敵に回す事の危うさを、改めて認識した様だ。

 そして、海の安全もセイレーンとの対立も解消されたのなら、船の運航にも支障は無くなったという訳だ。


 『では、スケープゴートの討伐の方は、うちの兵士にやらせるって事でいいですかな?』

 「ま、待ってくれ、どの種族がどのくらいの規模でくるのかを知りたい。」

 『そうですね、エルフと狼人族、人間は9人くらいかな?ワーウルフ3人、ワーキャット、グリフォン、ヒポグリフ、アラクネとカーバンクル、氷狼族、多くても300くらいで行こうかな?』

 「たったの300で倒せるのですか?」

 『どれくらい散らばっているかにもよりますが、まぁ数日で終わると思いますよ?ゴートキャトルも居ると思いますので、そっちも纏めて狩っておきますね。』

 「氷狼族は何人居るのですか?」

 『一人だけですね。魔大陸にはまだ、何人か居るみたいですが、我々に着いてきたのは一人だけです。』

 「名は?」

 『クール・カラーリットだったかな?』

 「生きてたのか!?今呼べないですか??」

 『おい、クール、獣王帝国の王太子がお呼びだぞ?』

 『行かなきゃ駄目ですか?』

 『来い。何があるのか知らんが、ちゃんと清算してからじゃないと、正式に認めるのはできないな。』

 『判りました。向かいます。』


 クールが部屋に入って来ると、3人が立ち上がった。


 「クール!生きていたのなら、連絡してくれればいいのに!」

 「・・・あんたの肝いりの部隊は、クソだったぜ。俺の耳を斬り、尻尾を斬り、死ぬ直前には俺の右足まで斬りやがりましたよ。直後にワープゲートと共に潰れて死にましたがね。」

 『それってスケープゴートの放逐で開いたゲートか?』

 「えぇ。ですが5分もしない内に、何かに圧し潰されちまいましたがね。」

 『俺の放ったメテオレインだな。』


 獣人4人の目が点になり、アルティスを見た。


 「メテオレイン・・・とてつもないな。」

 『で、クソな肝いりは、結局魔族の変装だったって事か?』

 「いや、虎人族だよ。」

 『虎人ってそんなにMAG高いのか?』

 「400くらいだと思ったが?」

 『MAG400では、ワープゲートを維持できないな。MPが1分で枯渇する筈だ。魔大陸からギレバアンの平原に出すとしたら、出すだけでMP4000は必要だな。MP半減では、維持する為の集中力も儘ならないだろうな。』

 「だが、どうやって魔族が虎人族の真似なんかをできるんだ?」

 『魔道具を使えば、姿だけなら真似られるな。可笑しなところは無かったか?臭いが判らないとか、トロいとか。』

 「でも匂いは隠せないだろ?」

 『虎人の皮でも被ってたんじゃないか?』

 「待ってくれ!それだと虎人族は死んだという事か!?」


 どの時点で入れ替わったかは判らないが、ほぼ殺されたと見て間違いはないと思う。


 『どの時点で殺されたのかは判らないが、死んでいるか、生きていても寝たきりかも知れないな。アリエン、スラムに虎人族は居るか?』

 『えっと、一人だけ生き残っていますね。名前は、ココア・バターフライだそうです。』

 『美味そうな名前だな・・・。』

 『そうなんですか?』

 『作れないけどな。情報ありがとう。またな。』

 『はい。失礼します。』


 虎人族の情報が得られたから、伝えておこう。


 『魔王に聞いてみたら、一人だけ虎人族の生き残りがいるそうだ。名前はココア・バターフライだ。』

 「あの野郎、生きてやがったか!」

 「誰なんだ?バターフライ?聞いた事の無い家名だが?」

 「バタフライだよ!スラムに居たから偽名のつもりなんだろうよ!」

 『何があったんだ?』

 「俺の耳を斬った奴だよ!!」

 『そうか。じゃぁ助けなくてもいいな。』

 「ちょっと待ってくれ!?さっきの話では斬ったのは、魔族が変装していたのではないのか!?」

 『いずれにせよ、クールが嫌がってるんだ、俺には助ける義理は無いですね。助けたいのなら、自分達で迎えに行けばいい。行く方法があるんだからな。』


 獣王帝国との付き合い方も少し考えた方が、いいかもしれない。

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