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第6話 新たな仲間達との旅路

 「旦那様がお呼びですので、執務室までお越しください。」


 また、後ろから来やがったよ。


 「もう、慣れました。」

 「残念でございます。」

 「次からは念話で教えてください。」

 「畏まりました。」


 アーリア達は、執務室へ向かった。


 「ただいま戻りました。」

 「少しアルティス君に話したい事がある。」

 『何でしょうか?』

 「実は、偽金貨の件なのだが、この街で作られている訳では無いようでな。他領か王都の可能性が出てきたのだよ。」

 『でも、この街で故意にばら撒いている奴もいますよね?』

 「その者を捕らえたから判った事だ。」

 『そいつは商人ですか?』

 「ゴロツキだった。」

 『では、裏に商人が居ますね。』

 「吐かせたいのだが、喋らなくてな。」

 『兵士2名貸して頂ければ、吐かせますよ?』

 「よし、わかった!、セバス!」

 「畏まりました、すぐ手配致します。」


 地下牢に行くと、待っていたのは、コルスと知らない兵士だった。


 『コルス久しぶり。』

 「アルティスさん、お久しぶりです。」

 『そっちは誰?』

 「私は、ペンタと申します。よろしくお願いします。」

 『コルスと違って、真面目そうだな。』


 「え?私は真面目ですよ?」

 『そうだっけ?』

 「私のどの辺が、不真面目に見えます?」

 『いや、不真面目では無いんだよ、何かこう、雰囲気がお茶らけてる感じ?』

 「よく見られてますね、コルスはいつもそんな感じですよ。」

 「ちょ、ペンタ!?、そんな事無いでしょ?」

 「真剣なんですが、雰囲気が少しおかしいですよね?」

 『実力を隠してるのを、楽しんでいるんだろう。』


 「バレましたか。」

 『冗談だよ。』

 「ちょっと!アルティスさん!?」

 「コルスは、面白いな。」

 「揶揄わない(からかわない)でくださいよ。」

 『さて、楽しい拷問の時間だ。』

 「楽しいんですか?拷問が。」

 『笑える拷問をするからな!』


 ゴロツキを拷問するにあたって、騎士団からカレンとリズにも協力してもらった。

 ゴロツキが、一般人に毛が生えた程度とはいえ、兵士二人も大して変わらないから、力の強い騎士に手伝ってもらうんだよ。


 『じゃぁ、二人で擽って(くすぐって)あげて』

 「「はい」」


 コルスとペンタが、鳥の羽を持ってゴロツキを擽り始めた。


 「やめろ!そんな事でしゃ、ギャハハハハハハハハ」

 「やめ、ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 「ぜぇぜぇ、ギャハハハッハッハッハッハッハッハッハッ」

 「や、ギャハハハッハッハ、苦しギャハハハハハハハハハハハハ」

 「やめ、ギャハハハハハハハハ、しゃべギャハハハハハハハハ」

 『ストップ』

 「ゲホッゲホッ、やめて、はぁはぁ、しゃべ、はぁはぁ、らない」

 『ゴー』

 「ギャハハハッハハハハハハ、わかギャハハハハハハハハハハハハハた」

 「ゼェゼェ、しゃ、喋るっ!はぁはぁ、話すから!」

 「では、話せ。」

 「ハァハァ黒幕は、ハァハァサンダン、バーラ商会だ。ハァハァ」

 「商会長からの指示か?」

 「そ、そうだ。そう聞いている。ハァハァ俺はあった事はねぇが、ハァハァあっ、駄目だ、ハァハァこれ以上は、話せねぇ!、ハァハァ死んじまう!」


 アルティスが、[鑑定]を使った。


 『[鑑定]』


 名前:ハラクト

 攻撃スキル:投擲

 感知スキル:危険察知

 耐性スキル:

 アクティブスキル:恐喝 恫喝 詐欺 窃盗 

 魔法:なし

 状態:呪い〔即死準備〕

 職業:盗賊

 称号:詐欺師 殺人者 チンピラ


 ステータス?3ケタがMAGしかないから、割愛するよ。

 毛も生えてない、一般人だったよ。


 『こいつ、角ウサギより弱いな。死ぬ原因は呪いの様だ。』


 アルティスが呪いを解呪した。


 『[アンチカース]』

 シュン

 『[鑑定]、よし、呪いは消えた。もう喋らせても大丈夫。』

 「よし、死なないから話せ。」


 「へっ?、消えたっ!?」

 「早く話さないと、お前の首が、胴体とサヨナラするぞ!」

 「わ、判ったよ、この街のスラムにアジトがある、組織だ。クロルローチというんだ。」

 『這いずるGって、気持ち悪い名前の組織だな・・・』

 『Gって何?』

 『ゴキブリ』


 この世界でも、ゴキブリが通用するんだね。

 アーリアが絶句してるよ。


 『・・・。』

 「ホントにそんな名前なのか?」

 「そうだよ、頭は頭がキレるが、下は全員俺みたいなゴロツキだけだ。」

 「判った。」


 執務室に戻ってきた。


 『喋ったよ』

 「本当か!?、で、何と言っていたんだ?」

 『サンダンバーラ商会の会長が親玉で、実行犯は、クロルローチというスラムを根城とする組織だそうだ』

 「クロルローチか、最近よく聞く様になった組織だな。」

 『騎士団長に行ってもらうのか?』

 「ん?ブラスバレルは、隊長だぞ?」

 『あぁそうか。』

 「ブラスバレルは、隊長の任を解いたよ。今は兵士だ。」

 『クロルローチを潰したら、隊長にしてやるとか言って、やらせたらいいじゃん?』

 「殺すような真似はできないんだよ。残念ながら。」

 『害悪なのに、クビにできず、仕事にも出せないのか。』

 「仕事なら出せるよ?、態々殺させるようなことができないだけだよ。」

 『じゃぁ、騎士団で行けばいいじゃん?、どうせ突っ走るんだし、勝手に死ぬだろ。』


 一方、地下牢ではコルス達とリズ達が安堵していた。


 「何か凄かったね。」

 「うん、でも、痛くない拷問で良かった。」

 「拷問を楽しいと感じたのは初めてです。」

 「変な趣味に目覚めてないよね?」

 「目覚めてませんよ!?」



 翌朝、騎士団では召集があり、クロルローチを掃討する事が告げられた。


 「カレン!クロルローチのアジトを潰しに行くぞ!お前は小隊長だ。」

 「了解!」


 スラム街にある、クロムローチのアジトが近づくと、ブラスバレルが一人突出して、走り出した。

 騎士団と一部の兵士に、アルティス達も同行し、クロルローチの一味を捕らえたが、一人アジトに突撃したブラスバレルは、そのまま行方不明となった。

 組織のトップの男は、魔族である事が判った為、アーリアが対応し、捕縛した。

 一応、ブラスバレルの捜索を命じたが、誰一人として真面目に捜索する気が無く、いや、取り巻きの2名だけは探すフリをしていたか。

 遺体も無く、争った形跡も無く、忽然と消えてしまった事から、敵前逃亡したと判断した。


 『遺留品も無いって、どういう事だよ。完全に逃げたって事じゃねぇか!』

 「そこまで腐ってるとは、思ってもみなかったな。伯爵には、私から報告をしておこう。」


 屋敷に戻って、報告したが、伯爵の顔色が優れなかった。

 通常の軍隊なら、敵前逃亡は死罪になるのだが、侯爵家の三男という事もあり、死罪にすると、何を言われるのか想像に難くないと思っているのだろう。


 ラノベを見ていると、貴族社会の爵位を、会社の役職の様に捉えている節があるのだが、アルティスの考えはそうでは無い。

 会社の役職でもそうだが、上長というのは、偉いのではなく、その役割を与えられた人というだけで、身分は対等という考え方だった。

 貴族社会でもそうだと思っている。

 会社と違い、同じ建物の中で働いている訳でも無く、同じ国の中の組織でも、国のトップはフランチャイズの親会社で、各領は加盟店、爵位は地域の組合長程度の認識で良いと思うのだ。

 だから、いちいち遜る(へりくだる)必要は無く、嫌なら嫌だと突っぱねればいいのだ。

 領毎に環境も状況も違うのだから、いちいち他領から口を出されても困るというものだ。


 しかも、今回問題になっているのは、侯爵家を追放された三男の話であり、待遇に問題があると言うのなら、呼び戻して、自分の領内で、それなりの役職を付けて、飼い殺しにでも何でもしてやればいいのだ。

 まぁ、人が良い伯爵が、付け込まれているだけに見えるんだけどね。


 王都に行くにあたり、前回同様、兵士も同行する事になったので、選抜試験が行われる事になった。

 兵士の訓練場に行ってみると、殆どの兵士がだらだらと訓練していたが、アーリアの姿を見ると、急に元気になりだした。

 指導官は、今まで全く兵士を見ていなかったにも関わらず、アーリアの前でビシッと敬礼をして、どの兵士でも問題無く同行できますとか言ってた。


 『こいつはクビだろ?』

 『そうだね。伯爵に言っておくよ。』


 訓練場には、ルースとメビウスが真面目に訓練をしていたが、コルスとペンタが見当たらない。

 あ、いや、ペンタは奥の方に居た。


 『コルスは今日は休みかな?』

 「コルス?・・・居ない様子だね。」


 右から左に視線を動かして、右に戻った時にはコルスが訓練していた。


 『コルス・・・そういうところだぞ・・・。』

 「ホントだ、さっきは居なかったのに、今は居るな。」


 やはり、執事の部下だな。


 『やはりとは、何の事でございますか?』

 『心の声を読むなよ。』


 執事が心の声を読んで、訊ねてきた。


 アーリアが指導官の居た場所に立ち、兵士に選抜試験の事を話す


 「今日と明日の2日間に、ペティセインお嬢様の王都滞在に同行する兵士の選抜試験を行う!」

 「希望者は前に出よ!」


 コルス、ルース、メビウスの他に3人程が前に出てきたので鑑定してみたが、またもや怪しい称号の持ち主がいた。


 『[鑑定]クロムローチ、バウンドパイク領密偵、兵士』

 『一番右のやつ、盗賊の一味、真ん中の奴は隣の領の間者』

 「・・・コルス、ルース、メビウス、この二人を捕らえろ」

 「「「はっ!」」」


 兵士の名前は、アンモと言う名前で、騎士を目指しているとか。

 騎士になったらアンモナイト・・・ウケ狙いか?


 訳も判らず突然捕まった二人の内、盗賊の方は少し脅したらすぐに吐いた。しかし、間者の方は黙秘したままだ。


 有能執事を呼ぼうとしたら、また後ろにいやがった。


 『居るんだろ?って意味深に言ってみて。』

 「居るんだろ?」

 「はい、バレてましたか。」


 どこにでもいるな、この執事・・・

 間者に聞こえる様に拷問する事を、アーリアが小声で執事に話した。


 「ほう、それはとても恐ろしい方法ですな・・・判りました、得意な者を連れてまいりましょう。」


 執事がワザと知らない振りをして、間者に聞こえる様に言うと、間者の顔が一気に青褪めた。

 というか、知らない振りをしたのに、得意な者を連れて来るってどういう意味だろ?


 牢屋に来たのはメイド3人、手には鳥の羽や細い枝など。

 間者を長椅子に縛り付け、メイドが無表情でくすぐり始めた。


 「ぎゃははははははは、や、やめ、ひゃひゃひゃひー」


 5分持たなかった。尋問中、嘘をついたと判断したら再開するって言ったら、泣きながら全部話してくれた。

 地下室から出る時に、執事が目に涙を浮かべながら言って来た。


 「この方法は笑え・・・使えますな。」


 うん、笑う前に、存分に活用してくれ。


 訓練場に戻って試験を始めた。試験は単純に剣技と体力と御者ができるかどうかのみ。

 元の3人は、試すまでも無く合格、残りの一人の試験に付き合う形で、元の3人にも参加してもらった。

 毎朝伯爵邸の周りを走っているそうだが、装備を着けたまま走るのは初めてらしく、途中で全員バテていた。

 剣技については、4人ともそれ程でも無い程度で、まぁゴブリン程度なら対処できるんじゃないか?って言われてた。

 ってかゴブリンっているのか、森では一度も見た事無かったのに・・・。


 「今回から騎士を護衛に増やすことに決めた。」

 「ペティの護衛だから、女性騎士3人増やすわね。」


 夕食の時に伯爵から、今回は女騎士3人追加するって言われた。

 予定通りだね、扱きまくって精鋭にしてやろう。


 『何か企んでる?』

 『王都に行くまでに精鋭に育て上げようかと思ってる。』

 『ほどほどにね』

 「護衛が8人って事は馬車は2台ですか?」

 「そうなるわね、荷物も増えるし。あと、馬も騎士用に3頭付けるわよ?」


 2台目の馬車は幌馬車になるそうだ。そんな大量に荷物があるのかと思ったら、兵士も乗せられるようにするとか。

 多分乗る暇ないよ?、訓練しながら行くからね。

 まぁ、大所帯になった分、みんなの荷物もあるから、それなりに荷物はあるみたいだね。


 出発を3日後に控えて、今日は2日目の試験、兵士達は基本的に2日に一度の訓練になっているそうで、昨日居た者は、今日は居ない。

 って温いなおいっ。

 今日の参加者は二人、鑑定しても特に問題は無いが・・・一人は、先日いた()()()だな。

 これ、試験やる意味あるのか?


 試験やったけど、ペンタが圧勝。

 ペンギンみたいな名前で可愛いけど、武器は投げナイフで、主に苦無を使っている。

 苦無と言うか、投げられる25センチくらいの、シンプルな両刃のナイフだな。

 柄頭に穴が開いていて、紐が結べるようになっている。


 決定したメンバーは、騎士:アーリア(隊長)、バリア(副隊長)、リズ、カレン

 兵士:コルス(執事の部下)、ルース、メビウス、ペンタ(執事の部下)

 コルスとペンタは中衛、他は全員剣で、騎士は魔法も使う。

 結構な大所帯になったもんだ。

 バリアが副隊長になった理由は、全員嫌がったので、ジャンケンで決めた。


 出発に備えて、保存食の他に、食器と鍋と串を積んだ。

 岩塩も積んだし、腐りやすい小麦粉やフルーツ、野菜と生肉は、アルティスのディメンションホールに入れた。

 まだ、日程的には、時間があるので、馬車の操作の訓練と野営訓練を1泊2日で実施した。


 魔法を使わない、焚火の仕方を知らなかったり、保存食で済ませようとするのを止めたりと、忙しい。

 特に兵士の場合、野営訓練は年1回しかやらないらしく、テントの設営に戸惑い、焚火の準備に戸惑い、薪として生木を持って来たりと、散々だった。

 先に確認しておいて良かったよ。


 出発当日朝、入り口前で馬車に乗る準備をしていても、ペティが来ない。


 『何してんだよペティ・・・』

 

 独り言のように呟いたつもりだったが、ペティに聞こえたらしい。

 支度を済ませたペティが走ってやってきた。


 「アル君!ごめんね、遅れちゃった!」

 『俺じゃなくてみんなに言えよ・・・』

 「みなさん、遅れてすみませんでした!」

 『食い意地張るから、腹壊すんだぞ?』

 「違うわよ!」


 ペティが遅れたのは、準備万端で待っていたのだが、ウトウトしてしまったらしい。

 決して、待っている間に、目の前の焼き菓子を食べ過ぎて、満腹になったからではない。


 「それでは、お父様、お母様行ってまいります。」

 「気を付けて行ってくるんだぞ。」

 「みなさん、ペティの事をよろしくお願いしますね。」

 「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 「それでは、出発!」


 号令と共に馬車へ乗り込み、王都へ向けて出発した。

 

 ちょっと、訓練するメンバーを決めるか。


 『聞こえる人全員ペティの事褒めて。』

 「え?ちょ、待って待って」


 ア「お嬢様、今日もお綺麗です」

 リ「お嬢様かわいー」

 コ「お嬢様素敵です」

 バ「お嬢様いつも素敵です」

 ペ「お、お、おじょ、おじょうしゃま、か、かわいい・・です」

 カ「お嬢様ぺちゃゲフッ・・・・」

 『はい、カレンとペンタは、外壁出たら馬車から降りてマラソン開始ね。』

 「「えー!?」」

 メ「お嬢様、今日のお召し物も素敵ですね」

 ル「お嬢様毎日見とれてます」

 『はい、後だしのルースとメビウスも追加ー』

 「「げぇ!?」」


 さぁ!盗賊如きには負けない護衛になってもらうぞ!


 「程々にしてね。」

 『この近辺じゃ、出ても盗賊だから大丈夫でしょ!』

 「アル君は走らないの?」

 『走ってもいいけど、あるじどうする?』

 「アルティスが走るなら私も走ろうかな?」

 「あー、やっぱアル君走らなくていいや。」


 カレンがアルティスに振ってきたが、アーリアが走ると言うと、断ってきた。理由を知らないペンタが聞く。


 「アーリア隊長が走るのはダメなんですか?」

 「ペース早くなってもいいなら誘うけど、どうする?」

 「すみませんでした・・・。」


 一応、全員のステータスチェックは済ませてあるが、STRとMAG以外の上げ方が、よく解からないので、ステータスよりも、各自の能力を見ていく事にした。

 全員、一般人よりもステータスは高いが、MAGがそれ程でもない。

 MAGは、魔法の威力、魔法への耐性、MP量に影響してるので、一番重要なステータスと言える。

 それ以外のステータスは、10や20変わったところで、大した差はない。

 5kg持てる力が、10kg持てる様になったところで、大して変わらないのだ。


 MAGの場合は、MPが増えれば、魔法の回数が増えるし、相手よりMAGが高ければ、魔法耐性がぐんと上る。

 なので、魔法を使う回数を増やして、新しい魔法を覚えさせる事で、基本MAGの値を上げていく必要がある。

 そこに、魔道具で底上げしてやれば、基本MAGも上がり易くなるだろう。

 ゆくゆくは、全員が魔力感知を覚えてくれれば、視野と戦術が拡がって、英雄にもなれるだろう。

 期待してるよ!。


 『このままのペースだと、魔の森の手前で野営するのかな?』

 「戻ってくる時は、早いんだが、出る時は手前で混むから、どうしてもペースが落ちて遅くなるんだ。」


 モコスタビア周辺は、穀倉地帯になっていて、農民の荷車や冒険者の集団などで、街道は混雑している。

 その為、馬車の断続渋滞も起きやすく、中々進まないのだ。


 「ねぇ、アル君って一体何者?」


 突然ペティが聞いてきた。


 『何だ?突然』

 「凄く頭がよくて、回転も速くて、強いでしょ?、その上、料理までとなると、もしかして、賢者だったりして?」

 『賢者ってどんな人?』


 賢者とか言われたけど、よくラノベやラノベの中の物語、大体勇者のセットで出て来る()()、何なんだろね?


 「え!?えーっと・・・、頭のいい人?」

 『どの分野で、頭がいい人?』

 「・・・判らないです。」


 考えた事は無いだろうか?、賢者とは何なのか。

 研究者ならたくさんいるだろうし、広く浅く知識を持っていれば、賢者になれるのであれば、賢者なんて腐る程いる事だろう。

 それこそ、雑学博士みたいなオッサンも賢者と呼べなくもないだろうし、有名な塾講師や元アナウンサーの人なんかも、範囲に入って来るかも知れないね。

 戦争に関わる頭のいい人なら、軍師になる人は賢者と言えるが、賢者が軍師になる事はあっても、軍師が賢者と呼ばれる話は、聞いた事が無い。

 

 某小説みたいに、賢者というスキルがあるとしたら、学の無い農民がそのスキルを持ったらどうなるのか?、又は、あの司祭がスキルを持ったらどうなるのか、そんなの、火を見るより明らかだろう。

 取得条件さえクリアすれば、誰でもなれるのであれば、偶然に偶然が重なって、奇跡的に取れる可能性だってある。

 いずれにせよ、賢者が何者なのか判らないから、賢者にはなりたくないな。


 『勇者と賢者がセットで出てくるとなれば、賢者が居たら、勇者も近くに居る事になるし、勇者がいれば、確実に魔王軍と戦闘になるよね?』


 リズが青い顔をしながら、不満を言ってきた。


 「そ、そんな怖い事言わないでよ。」

 『でも、君ら騎士や兵士は、戦争や戦いが仕事なんだよ?訓練は、仕事じゃなくて、生き残る為の準備運動だからね?』


 君らは、何の為に騎士になったんだ?

 本当の事を言われて、初めて自覚した様な顔をしているよ。


 『戦争になりそうな噂とか無いの?』

 「無くも無い・・・かな?」

 『じゃぁ、戦争になっても死なないくらい、鍛えないとだね!』

 「戦争は怖くないの?」

 『怖くないよ?、守るものがあるからね、敵が来たら殲滅するだけ。』


 「守るものって何?」

 『あるじに決まってるじゃん?』

 「アルティス、私は騎士だから、みんなと、ペティセインお嬢様を守るのが使命だ。」

 『俺は、そのあるじの使命を全うする為の、剣であり、盾なんだよ。』


 アーリアがアルティスを抱きしめた。

 ずっと一緒にいられれば、それでいい。


 『いたたたた、痛いから離して!、あるじ!、痛いよ!』

 「あ、すまない、少し強く抱きしめ過ぎたか。」

 「ちょっとぉ、何いい雰囲気になってんのぉー?」


 ハーフプレートも、ガントレットも鋼鉄だからね、全然柔らかくないんだよ。

 一応、ガントレットの内側は、革になってはいるんだけど、ゴワゴワしていて、全然柔らかくないんだよね。

 アーリアのガントレットは、指の部分が分裂可動式で、オーダーメイドで作られているタイプだよ。

 グーパーしかできないタイプは、あまり見かけた事が無いね。


 『はいはい、もうすぐ森だから野営の準備して。』

 「もう少し先に広場があるから、そこで野営の準備しましょ」

 『手が空いてる人は、角ウサギかボアを狩ってきて。』

 「えー!もうヘトヘトだよぉー!」

 『じゃ、カレン、ルース、メビウスはテントの準備と焚火の用意ね、狩りは、俺とバリア、リズが行くけど、その前にコルスとペンタは先行して索敵お願い。』

 「「はーい」」


 コルスとペンタが馬車から降りて走り出す。それを見たリズとカレンが


 「あの子ら本当に兵士なの?」

 「兵士の動きじゃないね。」


 野営地に着いてすぐに狩りに向かった。

 魔力感知に反応があったので、向かってみるとそこには、人間の子供が膝を抱えて座っていた。

 何かに怯えている様だが、足の下には篭があり、中にはヒールリーフが詰まっている。

 この近辺には、人が住むような場所は無い筈だが?


 『あるじ、人間の子供がいる。』

 『ええ?、この辺に住んでる人は居ない筈だけど?』

 『膝を抱えて縮こまってるよ、薬草を採りにきたみたい。』

 『判った、すぐ向かう。他に人がいないか探してみて』

 『半径200m以内には、居ないみたい。馬車の近くに居る者は、馬車の警護をお願い。』


 周囲を探ってみたが、他に人間は見当たらず、角ウサギを見つけたので狩ってから戻った。

 野営地に戻ると、子供を取り囲む騎士と、せっせとテントを準備する兵士二人。


 『子供相手に4人とか、怯えてるじゃないか、怖がらせるなよ。』

 「怖がらせてるのはバリアだけだよ?」

 「はぁ?あたしのどこが怖いってのさ!」

 「顔」

 ゴスッ


 リズがバリアを茶化し、カレンが余計な一言を放ち、バリアの拳骨が落ちた。

 そのコントを見た子供がクスッと笑った。


 『角ウサギ狩ってきたから誰か捌いて。』

 「カレンやって」

 「うぃ」

 『少ないから、もうちょっと狩ってくる。』

 「いってらっしゃい」


 コルスが近づいてきた。


 「近くに子供だけの集落がありました。」

 『なんだそれ?、普通は外壁の近くとか、スラムで生活するんじゃないのか?』

 「壊れた馬車が近くにありますので、奴隷商の馬車が壊れて、生き残った子供が生活してるのかと思われます。」

 『ちょっと街まで行って執事呼んで来いよ。』

 「いやいや、ムリですって、どれだけ遠いと思ってるんですか!?」

 『執事さーん』

 『はい、何か御用でしょうか?』

 『魔の森の手前に、子供の集落があるって、コルスが言ってるから、モコスタビアに連れて帰ってよ。』

 『旦那様にご相談してから、ご返答致します。』

 『奥様に相談してくれ。あと、孤児院作るなら金は出す。』

 「アルティスさん?、知らない子供の為に、そこまでするんですか?」

 『お前ね?見捨てろって言うのか?性格が腐ってなけりゃ、全員助けるんだよ!』

 「全員保護しろと?」

 『そうだよ!、当然だろ?、好きでこんな所に住んでる訳じゃないんだからな?。奴隷になった理由はともあれ、ちゃんと育てれば、騎士にも兵士にもなれるんだぞ?』

 「そりゃぁそうですが・・・」

 『奥様から許可が下りましたので、馬車でお迎えにあがります。到着は、明日の朝になりますが、よろしいでしょうか?』

 『よろしく頼む!』

 

 『コルス、集落の場所をバリアに教えて、全員、野営地に連れてきてくれ!』

 「了解」


 バリアとコルスが、子供の集落に行き、痩せこけた12人を野営地まで連れてきた。


 『猪でも狩ってこないと間に合わないな・・・』


 魔の森に入り、スキルを駆使して猪を見つけた。

 野営地の近くまでおびき寄せてから、引っ掻きで左前脚を切り、アーリアを呼んだが、ルースとメビウスが来たので、狩ってもらった。

 今回見つけた猪は、フォレストボアという、草食のイノシシで、大きさは軽自動車くらいだが、角ウサギの次に弱い動物で、美味いらしい。

 街では高級食材として高値で売れるそうだ。


 『誰か捌いてー、内臓は俺「駄目だよ」に・・・・ええー?、俺が狩ったんだからいいじゃん、駄目って言うなら、狩ってきてよ。俺は自分で狩った時しか内臓食わないから。』

 「何でそんなに内臓食べたいの?」

 『肉より美味いし、栄養があるからだよ!』

 「焼いたらいいよ。」

 『不味くなるからヤダ』

 「生はダメ」

 『じゃぁ、もうみんなの分の狩りしない!、王都まで保存食食ってりゃいいさ。フン!』

 「・・・じゃぁレバーだけ」

 『マメも!』

 「・・・判った。許可する。」

 『やったー!』

 

 解体はメビウスがやった。どうやら休日にルースと共に狩りをしながら解体を覚えたらしい。

 内臓を処分するついでに、レバーとマメを子供たちから見えない場所に置いてもらい、食べた。

 マメってのは、腎臓の事だよ。

 形が似てるから、そう呼ばれるらしいよ。

 食べ終わってみんなの所に戻ったら、アーリアが口の周りに付いた血の跡をふき取ってくれた。

 

 ボアが串焼きにされて、みんなに配られた。

 子供たちは木の実等を採って、生活していた様だが、明らかに栄養が足りてない。

 体調の悪い子供も何人か居たので、アルティスが、[治療術]で治しておいた。

 原因は衰弱と毒のある実を食べたからだろう。


 コルスが見つけるまでに、3人が死んで、4人が行方不明らしい。

 行方不明になった子達は、肉を求めて、森に入って行ったらしいが、3日経っても戻って来ない様だ。


 『念の為、森の中も捜索してくるね。』

 「判った、気を付けて行ってきて」

 『了解』


 〈魔力感知〉と〈嗅覚〉を使って探してみると、一人はバラバラの状態で死んでいるのを見つけ、一人は池に浮いているのを見つけた。

 俯せなのと、魔力感知にかからないから、死んでいるのだろう。

 残りの二人は木の上でじっとしている所を見つけた。


 『あるじ、4人とも見つけたよ、二人生きてる。』

 『どの辺?二人死んでるの?』

 『一人は何かに襲われてバラバラだった。一人は池に浮いていた。生きてる二人は、木の上にいる。』

 『暗くなってきたから、3人で迎えに行く』


 3人が松明を持って近づいてきた。火の明かりを見て、少年達が木から降りてきた。

 少年達は警戒しながら、姿が見える所まで行き、騎士だと判ると、怖かったのか泣きながら騎士たちに縋り(すがり)ついた。

 アルティスは、周りを警戒しながら、少し離れた所をついていった。


 野営地に着くと、肉は半分程が無くなり、満腹になった子達はそのまま眠った様だ。

 弱っている子達は、干し肉と野菜のスープを飲んで、幌馬車の中で休んでいる。

 森から戻ってきた少年達は、串焼きとスープを涙を流しながら食べていた。


 『助けられて良かった。』

 『優しいな。』

 『かわいそうじゃん、奴隷にされて襲われて、ここまで耐えてきたんだよ?、まだ子供なのに夢も希望も無いなんて、辛すぎる。』

 『助けた子供達はどうする?』

 『執事に連絡済みだよ、明日の朝、迎えの馬車が来るって。』

 『街に行っても、住む所とかは?』

 『俺の宝石と金渡して、孤児院でも建ててもらうよ。』


 ここまでペティは、空気だった訳では無く、弱っている子供達の事を、献身的に世話をしていた。

 伯爵令嬢なのに、優しくて、いい子だよね。


 早朝、朝日が出てきた頃に迎えの馬車が2台来た。

 メイドが御者をやっていて、荷台にはメイドが二人乗っていた。

 子供達の所に行くと、状態を確認し、持ってきた大きな鍋で麦粥を作り、食べさせてから荷台に乗せていた。

 『メイドさん?』

 「はい、私は、ルーシーと申します。この隊のリーダーです。」

 『孤児院の費用は、ルーシーさんに渡せばいい?』

 「はい、承ります。」


 [ディメンションホール]から、拳大の宝石3つと、10kgのゴールドナゲットを出して、渡した。


 『これを持って行って・・・って聞いてる?』

 「は、はい!、す、少し、動揺してしまいましたが、大丈夫です。」

 『じゃぁ、君たちには、この髪飾りをあげるから、ちゃんと執事に引き継いでね!』


 マジックシールドの自動展開機能とVIT値500を付けた、髪飾りを4人分渡した。

 髪飾りといっても、ヘアピン程の大きさで、小さなサファイアを付けただけの物だ。

 マジックシールドは、主に魔法を防いでくれるのだが、多少の物理攻撃も防げるので、VIT値を増やす事で物理攻撃にも耐性を持たせたのだ。

 それを見たメイドは、目を見開いて、驚いている。


 「い、頂いてもよろしいのですか?」

 『執事の部下でしょ?、これはその任務に就く時にでも着けてよ。守ってくれるから。』

 「あ、ありがとうございます!。大事に使わせて頂きます!」


 弱っている子達のサポートもメイドに任せていいだろう。

 みんな元気になるといいな。


 『アルティス様、馬車は無事に到着しましたでしょうか?』

 『あぁ、ルーシーに孤児院の資金渡して、ヘアピンをプレゼントしておいたぞ。』

 『左様で御座いますか。お気遣い痛み入ります。不躾ではありますが、資金は、いかほど渡したか、教えて頂けますか?』

 『拳大のルビーと、サファイアと、エメラルドを1つずつと、10kgのゴールドナゲット1個だ。』

 『そ、それは、少々貰いすぎかと存じますが?』


 多めに渡したんだよ。


 『子供達が、成人するまでの資金と、孤児院運営の資金だよ。それと、スラムも含めて、孤児を無償で引き取って、世話してくれ。』

 『畏まりました。奥様から、アルティス様の頼みは、全て引き受ける様、指示されております。伯爵邸の敷地内に、孤児院を作ると言っておりましたので、当面は伯爵邸で面倒を見るとお考えと思われます。』

 『そうか、あの人ならやってくれると思ったよ。それと、銭湯やるんだろ?』


 銭湯の資金も無さそうだから、使って貰うよ。


 『はい、旦那様は、資金が貯まり次第やると、言っておりました。』

 『なら、その中から資金捻出していいから、進めて欲しい。働きたい子がいれば、積極的に雇って、勉強もできる環境を作ってやってくれ。』

 『手厚いですね。素晴らしいお考えかと存じます。』


 無垢な内に教育すれば、いい人材になるからな。

 私腹を肥やす、豚狸(ぶたたぬき)なんかに渡すより、ずっと利のある使い道だよ。


 『教育するなら、早い方が飲み込みがいいし、どうせ育てるなら、いい人材にした方が、伯爵にとっても利があるだろ?』

 『確かに、真面目で賢い人材であれば、喉から手が出るほど、欲しいと思います。』

 『手が足りなければ、人を雇ってもいいし、任せるよ。資金が足りなくなる事は、ありそう?』

 『いえ、資金面については、銭湯に当てても、数年はもつと思われます。』


 銭湯が上手くいけば、雇用口も増えるし、銭湯を増やす事も可能だろう。

 付随する産業なんて、いくらでもあるからな、どんどんやって欲しいものだ。

 タオルや足ふきマット、石鹸や掃除用の洗剤、湯沸かし用の薪もそうだけど、灰も畑に撒けば肥料になるし、石鹸の材料としても使えるしね。


 『そうか、足りなければ、次回モコスタビアに行った時にでも、教えて欲しい。』

 『承りました。他にも何かあれば、遠慮なくご連絡頂ければと存じます。』

 『了解』


 メイド隊が子供達を乗せて、街へ戻って行くのを見届けてから、朝食を食べた。

 朝食は、昨晩のフォレストボアの骨を、全部残してあるので、骨の出汁を使って麦粥を作らせた。


 「私、麦粥って苦手だったんだけど、この麦粥は凄く美味しい!」

 「これ、昨日のボアの肉も入ってるし、美味しいです。」

 

 リズとカレンが麦粥を大絶賛して、ガツガツ食ってる。

 他の人らもおかわりしながら、夢中で食べてるから、全部無くなりそうだ。

 味付には、干し肉を入れたから、塩味もいい感じに付いてる。


 「あ!、もう無い・・・」

 『食いすぎだよ、今日も訓練するから、食べ過ぎると辛いぞ?』

 「でも、お昼も美味しい食事が待ってると思えば、頑張れる気がする!」


 気合十分な騎士に対して、兵士は浮かない顔をしている。


 『ルースとメビウスは浮かない顔をしてるな。』

 「昨日、あんなに走ったのが初めてだったので、足が痛いんですよ。」

 『ブーツの中か?』

 「いえ、腿と脹脛(ふくらはぎ)です。痛くて、歩くのも辛いです。」

 『ストレッチをしろ。あるじのやってるのを真似して、筋肉を解すんだよ。』


 30分程使って、食後のストレッチとお花摘みを済ませてから、出発した。

 ついでに、土魔法の訓練も、といっても、トイレを作らせただけだがな。

 手本を見せて、真似させたら、好評だったよ。


 『コルス、訓練しながらでいいから、ルースとメビウスに手信号を教えてやってくれ。』

 「実戦で使わないと、なかなか覚えませんよ?」

 『大丈夫だよ、前回の近くにまた、きっといるから。』

 「なぜ判るんです?」

 『前回16人も投入して、失敗してるんだぞ?、やられたまま放置する訳無いだろう?』

 「そんなものですか?」

 『そんなものだよ、メンツを潰されたんだ。取り戻そうとするのは、当然だろ?、特に間者ならな。』

 「あぁ、〈アレ〉ですか。」

 『アレだ。』


 〈アレ〉とは、兵士の選抜試験に紛れ込もうとした、間者の話だ。

 ホリゾンダル家に、ちょっかいを出すのが誰かというと、すぐ北にあるバウンドパイク侯爵だ。

 特に何もしていないのに、毛嫌いされている為、長年に亘り嫌がらせを受けているらしい。

 そして、最近はエスカレートしたのか、ペティの命を狙ってくるんだとか。

 ホリゾンダル領の位置は、東に魔の森、西に大河がある為、迂回する事ができず、やむなくバウンドパイク領を通らざるを得ないのだ。

 だが、通過する車列に軍が攻撃すれば、商人が来なくなる可能性もある為、表立った敵対行為ではなく、間者を潜入させて、暗殺を狙っているのだとか。


 『なんか良い嫌がらせ方法って無いかな?』

 「ギレバアンは、ゴロツキが多くて、石ころ蹴っただけでも、煩いんですよ。」

 『古い手を使ってくるんだな。コルスが侯爵家に潜入して、チャック全開にして来いよ。』

 「嫌ですよ、汚いじゃないですか。」

 『潜入できないとは、言わないんだな。』

 「私はただの兵士なので、できませーん」

 『期待してたのに、残念だ。じゃぁ、精鋭になれる様、ビシバシ鍛えてやろう。』

 「え?、それは、全員ですよね?」

 「おい!、コルス!、周りを巻き込むんじゃねぇよ!」

 

 話を聞いていた、メビウスがコルスに文句を言う。


 『コルスが言わなくても、最初からその予定だぞ?』

 「マジかぁー・・・」

 『素直に鍛えた方が、後々楽だぞ?』

 「剣を振り回すのならいいんですよ。走るのがきついんです!」

 『剣に振り回されてるだけなのに、振り回してるつもりでいるのか?』

 「・・・それでいいって、隊長が言ってたし。」

 『あいつはもうクビになったぞ?』

 「え?マジですか!?」

 『あんなやる気のない馬鹿は要らないだろ。兵士が役立たずじゃぁ、軍として成り立たないからな。訓練中によそ見とか、何を見てたのか教えて欲しいくらいだよ。』

 「今の隊長は誰がやってるんですか?」

 『騎士団から、交代で来てる筈だぞ。』

 「残っても楽できなかったのか・・・。」


 森沿いの道で、魔力感知に反応が出た。


 『右の藪の中に4人隠れてる』

 「迎撃準備!」

 

 アルティスは念の為に、幌馬車の幌の上で待機、騎士は、いつでも剣を抜ける様な体制をとる。

 兵士は幌馬車の中で、剣に手をかけ、飛び出せる体制で待つ。

 馬車が隠れている人間の目の前まで来た所で、男たちが飛び出してきた。


 「馬を殺れ!」


 バリアが、盗賊と馬の間に入り、剣を振る。


 「させないよ!」

 ガキンッ!

 「くそっ!」


 別の盗賊が、仲間に側面へ行けと指示をする。


 「回り込め!」

 「ギャー」

 キンッキンッ

 「グフッ」

 

 リズとカレンが、馬を操って、回り込もうとした敵を切り捨てた。


 「た、たすけてくれ!・・・俺は脅されてやっただけなんだっ!」

 『ありきたりな嘘をつく奴だ。[鑑定]』


 名前:スネーク・ストーキン

 職業:諜報員 暗殺者

 HP:199

 MP:129

 STR:161

 VIT:165

 AGI:98

 ING:78

 MAG:173

 攻撃スキル:柔術 剣術 投擲

 感知スキル:魔力感知 空間感知 聴覚強化

 耐性スキル:状態異常耐性

 パッシブスキル:潜伏

 魔法:自己回復 風魔法 水魔法 土魔法

    身体強化 念話 盗聴

 所属:神聖王国


 『何だコイツは、劣化版執事だけど、結構優秀じゃないか、使い捨てる程いるのか?』

 「殺す?」

 『昏倒させて』

 「了解」

 ガッ!


 バリアが剣の腹で顔を殴って昏倒させた。

 他の奴は倒した様だ。


 『こいつ、神聖王国の間者だよ。』

 「盗賊じゃないの?、マジかよ、めんどくせぇ」

 『内戦を引き起こす為の破壊工作ってところだろうね。』

 「偵察じゃなくて?」

 『偵察なら騒ぎを起こすのは、只のリスクでしかないよ、何も起きてないし、国境まで遠い場所で騒いでも、威力偵察にもならないよ。』

 「なるほどね。」

 『吐かせよう!』

 「吐かせるって、ここで拷問でもするの?」

 『甚振らない拷問やる。』

 「甚振らない拷問・・・?」

 『ペティにも手伝ってもらおう』

 「え?いやだよ!拷問なんてムリムリ!!」

 『大丈夫!ちょっとくすぐるだけだから!』

 「「「くすぐる?」」」


 幌馬車の荷台から笑い声と歎願する声が響き渡った。

 バリア、ルース、メビウスが、それぞれ感想を言った。


 「・・・やばい拷問ね・・・」

 「これはひどい」

 「確かに痛くないけど、苦しそう・・・」

 『楽だし早いでしょ?』

 「「「確かに」」」

 『ペティはどうする?』

 「面白いから続ける!」

 「や、やめてくれ!、何でも話す!話すからっもう・・・」


 これホントに便利な拷問だよね。

 我慢するの難しいし、肺から空気抜けるから苦しいんだよね、ドーパミンがドバドバ出てるのに苦しいとか、混乱の極みだよね。

 痛みを伴わないし、窒息する苦しみに耐えるなんて、そんな強靭な精神力の持ち主なんか、そうそう居ないんだよ。

 笑わない人には効かないけど、そういう人はあんまり居ないし、感覚強化したら耐えられないんだよ。

 

 尋問してみたら、貴族の子供を殺して、他の貴族の紋章の付いた剣とかを残しておいて、内戦を起こさせるか、混乱させようって作戦で、国内に何人か紛れ込んでいるとのこと。

 全部で何人かは知らないってさ。何度もくすぐったけどムリだった。

 持ってる物全部取り上げたので、川に落としちゃおう。

 落とす前にペティは箱馬車に戻ってもらったよ。

 貴族を襲うって事は死罪確定だ。

 さっき倒した奴らは、拷問中に川に落としたよ。

 そのままにしておくと、森から魔獣を誘き寄せちゃうからね。


 ここの川は、実は結構深いらしい。

 川幅も1kmくらいあって、デカい魚の宝庫だ。

 気になったのは、タイラントライスフィッシュってやつ、体長5メートルくらいあるんだって。名前聞いて思ったのは、暴君なメダカ・・・想像できないな。でも美味いらしい。


 少し進むと、また隠れてる奴らがいた。

 今度は弓もいる。


 『前方右側の林に3名、正面大木に弓1名!』

 「迎撃準備!」

 『弓の奴は・・・クロスボウ?、遠回りして排除してくる。他の奴は殺していいよ。』

 

 今回は、兵士も参加する。

 大木の幹を駆け登り、引っ掻きで枝ごと切り落とした。

 

 驚いた様だが、掴まれる場所は無く、落ちて行った。


 ドスッ!


 頭から地面に突き刺さってる、地面に空洞があったらしく、穴に嵌っているらしい。

 面白いから、このままにして戻ろう。


 戻ってみると、何故か隠れていた奴らが全員捕縛されていた。

 どうやら、弓が逃げ出したと勘違いしたらしく、投降してきたらしい。


 「嵌ってるね、ププ」

 「この人生きてるの?」

 「何か喚いてる、うるさいから、とう!」

 ゴスッ


 股間に剣を落としやがった・・・。

 鞘に入ってるから切れてないが、あれは痛そうだ。

 男性陣がヒュッって息を吸った。


 『むごい!何て酷い事をしやがるんだカレン!白目剝いて泡吹いてるじゃないか!もう、男に戻れないかもしれないぞ!?』


 「た、多分大丈夫・・・?」

 『疑問形にするなよ・・・』


 コルス以外の兵士が、内股になってる。

 こいつらは、隣の領の兵士らしく、領主の息子を殺した奴が、伯爵の紋章の付いた剣を持っていたらしい。

 それって、さっきの間者が言ってた謀略そのまんまだな。

 隣の領というのは、南側のフローイングヒル領の事で、ホリゾンダル領は、魔の森と大河に挟まれていて、北と南にしか隣接領が無いのだ。


 みんなに紋章の付いた剣を持ってるか聞いたが、誰も持ってない。

 そもそも、領主の紋章の付いた武器など、勲章と同義で、何かの大きな功績を挙げなければ、下賜される様な物ではない。

 ましてや、それを武器として使うなど、普通はしないものだ。


 伯爵領の兵士や騎士は、全員タグを持っていて、必要な時に懐から出して見せるんだそうだ。


 「だとしたら、一体誰が・・・、俺たちは何の為にここまで来たんだ・・・」

 「隣国の謀略に、まんまと引っ掛かったって事だな。解放してやるから、そのまま領主に伝えてこい。」

 「忝い(かたじけない)!この恩は必ず!」


 泡吹いてる奴を担いで、帰って行ったよ。

 てか、この世界にも「かたじけない」なんて言葉あるのな。

 侍かよ。



 何だか色々あったけど、日が暮れる前に以前野営した所までこれた。

 ここは、カートをふん縛った場所だな。

 日もだいぶ傾いて来てるからここで野営かと思ったが、次の街まで2時間弱の為、このまま進むらしい。


 『盗賊に襲われた場所もそんなに遠くないし、街を出てすぐに襲われてたんだね。』

 「そうだな、あの時逃げられれば良かったんだが、道が狭くなっている所を狙われたから、引き返せなかったんだ。」

 「強行突破しようとしたら、馬車が横転しちゃったしねぇ」


 『どうして横転したの?』

 「道に設置型の魔法を仕掛けられてたみたいで、左側だけ跳ね上げられたんだよ。」

 『そっか、左と真っ直ぐは横転、右は川に転落じゃぁ横転するしかないね』

 「ん?左と真っ直ぐは横転ってどういう意味?」

 『えっと、スピード早い時に曲がると、外側に引っ張られるでしょ?』

 「そうだな」

 『それは馬車も同じで、左側の車輪が浮き上がってる時に左に曲がると、ほぼ確実に横転するんだよ。右に曲がれば持ち直せる可能性があるが、右は川だから無理。真っ直ぐ行こうとして横転したとすれば、左に曲がったら横転どころか半回転する事も考えられる。』

 「そうなんだ、そんな事よく知ってるな。」

 「アル君って生まれたばっかりなのに、物知りなんだね・・・」


 会話を聞いていたリズとカレンが会話に入ってきた。


 「魔法か何かで親の知識をもらったとか?」

 「賢者の石を持ってるとかじゃない?」

 『賢者の石って何?』


 リズが賢者の石の話を出してきたが、それ自体の事が判らないんだよなぁ。


 「それは知らないんだ・・・、賢者の石っていうのはね、賢者の知識が詰め込まれた赤い宝石でね、持ってると賢者になれるっていう伝説があるのよ。」

 『へー、でも、賢者の知識があっても、理解できないと、利用する事ができないよね?』

 「うっ、そうかも・・・でも、持つだけで理解できるようになるかも?」

 『突然頭の回転が良くなるって事?普通なら、混乱するだろうし、ほぼ洗脳状態じゃないの?それ』

 「それが判る時点で、もう天才。それが判らなかったリズはバカ」

 「はぁ?カレンだって判らなかったじゃない!」

 「な、何のことかなー?」


 変に誤魔化す事無く、話が逸れてよかった。


 『あの事黙っておくのか?』

 『その内、話すよ。』


 次の街に着いた。

 門で衛兵に挨拶して、素通り。


 「この街はナットゥっていうの」

 『納豆かぁ、食べたいなぁ。』

 「違うよ、ナットゥだよ」

 『言いにくいし打ちにくい。』

 「打ちにくい?」

 『何でも無い。』


 「なっとうって美味しいの?」

 『豆を発酵させた食べ物で、ネバネバしてるんだ。』

 「それ腐ってるんじゃ・・・?」


 街で一番高い宿屋に入った。一泊なんと金貨1枚だそうだ。

 日本円に換算すると1泊100万円もする。

 なんて贅沢・・・。

 でも、風呂は無いらしい。


 川が近いせいか、モコスタビア同様に街中に運河が流れている。

 水の色が緑色で濁っているのは、汚水をそのまま運河に流しているからだそうだ。

 原因が判っているなら、対処すりゃいいと思うんだが、この街の地下には超硬ったい岩盤があって、深く掘れないから、汚水処理施設を作れないらしい。

 では、井戸はどうしてるのかと言えば、川から直接水を引いた水道があるみたいだが、川の水と井戸の水は違うからか、食中毒になる人も多い様だ。


 『水は一旦沸かすか、消毒してから飲んだ方がいいんじゃ?』

 「沸かすと大丈夫なの?」

 『川には色んな、目に見えない生物がいて、そのまま飲むとお腹を下したり、寄生虫に感染したりするんだよ。魚のうんことか混じってるだろうしね。』

 『元の世界では、何度もろ過して、塩素で消毒してから飲んでたな』

 『ろ過?塩素?』


 『というか、あのでかい空き地に処理施設を作ったらいいんじゃね?』

 「あれは、確かこの街を取り仕切ってる町長の家を作るとかで、空けたらしいんだけど、住民の反発で反故にされたらしいよ」


 『使い道が無いなら、あそこでスライムを飼えばいいじゃん』

 「スライムは、日の当たらない所じゃないと狙われるから」

 『何に?』

 「なんとか鷲だっけ?」

 「通称スライム鷲ですね」

 『鷲型のスライム?』

 「じゃなくて、スライムを食べる鷲」

 『へぇ、そんなのいるんだ』

 「だから屋外じゃ飼えないの」


 『屋根付けりゃいいじゃん』

 「「!?」」

 「みんなそういうんだけど、スライムがいなくなっちゃうのよ」

 『なんで?』

 「街中に散らばっちゃうのよ。」

 『地面ってどれくらいの深さで岩盤に当たるの?』

 「地下室の床が岩盤って話は聞いた事があるわね。」


 『運河の深さはどれくらい?』

 「そんなに深くないわね、腰までの深さらしいわ」

 『浄化する木とか無いの?』

 「浄化する木・・・無くは無いけど、管理が大変なのよね・・・。」

 『あるのか。管理とは?』

 「凄く強力で、森を枯らしちゃうくらい?」

 『森だと、栄養が少ないんだろうな。ここなら汚水を集めてやればいいんじゃね?』


 「そうかも。お父様に連絡してみるわ。」

 『岩盤ってのも掘ってみたいが・・・』

 「「!?」」

 「駄目だよ?明日には発つんだからね?」

 『ですよねー。別の機会にするか。』


 そんな事よりも、街の飲み水の方が、優先度は高いな。


 「飲み水の方も、何とかしなきゃだよね?」

 『そうだな、飲む前に[クリーン]かけたらいいんじゃないか?』

 「かけてる筈よ。」

 『かけてるのに腹を壊す?、毒でも入ってるんじゃないのか?』

 「川の水が毒だって言うの?」

 『川から街までの途中で使ってる木材に含まれてるとか、可能性が高いとすれば、()かなぁ?』


 水差しの水をコップに入れてみると、毒の反応があった。


 『やっぱり毒が含まれてるな。』

 「どこで毒が入るんだろう?」

 『水道用の管に、鉛とか使ってないか?』

 「鉛?使う可能性があるの?」

 『腐食しにくいし、加工もし易いから、使われている可能性があるんだよ。』

 「鉛が使われてると、毒になるの?」

 『鉛が毒だからな。』

 

 日本の水道管も少し前までは、普通に鉛管を使っていた。

 健康被害や、漏水が多いから、今は塩ビらしいけどね。


 『まぁ、ここの話は追々って感じにしかならないか。』

 「そうだね、一晩じゃ何もできないからね。」

 「手紙でお父様に相談しておくわ!」

 「健康被害に繋がるのなら、早急に対応してもらわないといけないですね。」


 夕飯が部屋に運ばれてきた。メニューは、全部塩味だな。

 相変わらずこの国の食事は、稚拙というか何というか、芸が無い。

 出汁もとってないから、食べてる間に飽きてくる。


 『お、このハーブ入りの塩は美味いな』

 

 スープにブーケガルニは使ってるっぽいが旨味が少ない、というか、これは甘みが入ってないから、塩味がきつく感じるんじゃないだろうか・・・。

 野菜を煮込めば、多少は甘みが出るから、もう少し塩味が和らぎそうな物なんだけど、しょっぱいな。


 『これが、高級宿の食事とは・・・、この宿ちょっとぼったくりなんじゃないの?』

 「そうかも知れない、これはちょっと酷いわ」

 「伯爵家の食事に慣れると、結構きついですね。」


 今回は大人数なので、ペティは隣の大部屋に一人、俺と主は8畳間くらいのシングル、3バカ騎士は従者用の二人部屋にベッドを1台追加した。兵士はもう一つあった大部屋にベッドを追加して4人部屋として使っている。

 ペティが一緒にいるのは、一人じゃさみしいから寝る前まで一緒に居たいらしい。


 ペティは屋敷にいる時も、座ればアルティスに膝の上に乗れと言ってくる。

 撫でてくれるのはうれしいが、段々肉球ぷにぷにしたり、尻尾をもて遊んだり、持ち上げて頬擦りしたりと忙しない。

 ゆっくり出来ないので、1時間ほどで逃げる羽目になり、結局はアーリアの所か、手の届かない所に行くことになる。

 一緒に寝ると、寝相でごろごろ動き回るから、ゆっくり寝てられない。

 下手すると押しつぶされそうになるので、熟睡できないのだ。

 猫は子供が嫌いって、こういう事なんだなとしみじみ思う。


 アーリアは、一緒に寝る事は無くて、専用の寝床を作ってくれる。

 野営の時に、ハーフプレートの中に作られた時は遠慮した。

 一日中着けてるし、洗わないし、だから、ねぇ、判るでしょ?

 あの後は、大変だったんだよ。


 「アルティスは、私の事を臭いと思ってるのか・・・。」

 『汗が染み込んで、濃縮された臭いがするんだよ?、自分で嗅いでみなよ?』

 「そんなに酷い臭いな訳が・・・」

 ガランガラン

 ドサッ

 『あ、あるじが倒れた!?』

 「え!?、何だ!どうしたんだい!?」

 『自分の鎧の臭いを嗅いだら、こうなったんだよ。』

 「あー・・・、それは、仕方ないな。私らだって、気にはなるけど、嗅がないもの」

 「鎧は凄い臭いのに、肌はそんなでもないって、凄いよね。」

 「リズは臭い」

 「ああ?、カレン、何か文句あんの?。」

 「リズは、汗かき。私は、汗かかない。」

 『喧嘩はやめなさい。生活魔法の[デオドラント]かけなよ。』

 「でおどらんと?、何それ?」

 『あれ?知らないの?[デオドラント]』

 「リズの悪臭が消えた!?」

 「誰が悪臭よ!、でもホントに臭いが消えたわ!?」


 知らなかったのかよ、使えよお前ら臭いんだから。


 「[デオドラント]」

 「凄い!臭いが消え・・・あれ?、また臭ってきた。」

 『鎧に臭いが染みついてるんだろ。[フレグランス]』

 「あ!、いい匂いに変わった!」


 『[フレグランスフェロモン]』

 「ぎゃ!?、臭っ!、ちょっとバリア離れて!」

 『あぁ、同性だから臭いのか』

 「ちょ、アルティスさん?、臭いのか、じゃなくて!やめてくださいよ!」

 「ちょっと、バリア?、[デオドラント]かけなさいよ!」

 「アル君の魔法に勝てる訳無い」


 『[デオドラント]』

 「ふぅ、治まった。私は無臭がいいです!」

 『もてなくなるぞ?』

 「え?そうなんですか?、じゃぁ多用するのは駄目ね。」

 「リズ、気になる子でもできたの?」

 「んー、まだ、かな。」


 『あいつはやめておいた方がいいと思うぞ?』

 「え?、判るんですか?」

 『目で追ってたからな。』

 「言わないで下さいね!」

 『付き合いたいなら、応援はしてやるが、責任は持てないぞ?』

 「恋愛禁止じゃないんですね?」


 『こそこそやられるより、堂々とさせた方が扱いやすいからな。』

 「堂々と何をさせるんですか?」

 『恋愛だけど、他に何を考えてるんだ?』

 「ちょ、ちが、違いますよ!?、変な妄想とかしてませんから!」

 『俺は、まだ何も言ってないんだけどなぁ。』


 バリアとカレンが赤くなって、横を向いている。


 『ちゃんと、発散しとけよ?』

 「「「しませんから!?」」」


 あの後、3人ともそそくさと自分たちのテントに戻って行った。

 アーリアの事を忘れて。


 『あるじ、あるじ、起きて。』

 「うーん・・・」

 『そんな所に寝たら、風邪ひくよ?』

 「はっ!、なぜこんな所に寝てたんだ?」

 『鎧の臭いを嗅いで、倒れたんだよ。』

 「そ、そうか。疑って悪かったな。」

 『ほら、ちゃんと寝床に行って寝て。』


 『[ステラライズ]、[デオドラント]、[フレグランスフローラル]』

 「何だ?それは。」

 『鎧の臭いを取ったんだよ。』

 「本当だ!いい香りがする!」

 『これで、倒れる事はないでしょ。』

 「ありがとう!アルティス!」



 一夜明けて、王都に向けて出発した。

 朝食はノーコメント。

 酸っぱくてしょっぱかったとだけ言っておこう。


 次の街への道は、林とだだっ広い平原のみ。

 何でこんな平原を畑にしないのか不思議だったんだけど、この辺の土地は耕しても育たないんだとか。そういえば、生えてる草も余り伸びてないな。

 原因は判っていないが、何をやっても駄目らしい。


 この周辺では、異形の動物や、魔獣が多くいるらしく、村を作って住んでいた人たちは、謎の病気にかかったり、忌み子が産まれたりで、滅んでしまったとか。

 鑑定してみたら、土に毒が含まれているらしい。周辺全てが毒状態になると、常時発動の毒感知がよく判らない状態になるらしい。

 変な色の草だなーって思ってたら、毒感知の輪郭が光る現象で、色が変に見えてただけで、近くで見れば普通の雑草だった。

 でも、広範囲の毒で、病気?どこかで聞いた事があるような、無いような。

 ははは・・・まさかね。無いよね?


 草原を抜けた頃、兵士達の体調が思わしくない状態になった。

 何か、だるいとか吐き気がするとか。

 いやいやいや、まさかまさかのアレですか?アレなの?。

 鑑定では「毒」としか出ない。アレなら「曝」だから違うよね?

 魔法薬の毒消しを飲ませたら治った。

 やっぱり似てるけど毒なんだな。

 紛らわしい。


 平原の名前を聞いてみた。


 「シーベルト平原だよ」


 おい。

 しかも、範囲はほぼ円形らしい。

 おい、やめろ。


 「中心には円形の深い穴があるんだよ。そこから毒が噴き出してると言われているね。」


 深い穴・・・ウランでも露出してるとかか?。ある可能性は高いが、存在しない可能性もあるしな・・・どうしたものか。


 「どうしたの?気分悪いの?」

 『[アルケミー・エクストラクト・ウラン238]』


 出ないな・・・、やっぱり違うのか?


 『[アルケミー・エクストラクト・ポイズン]』

 ブクブク

 『[鑑定]・・・〈ヒュドラの溜息〉』

 『ヒュドラかーい!、もう!、焦ったじゃないか!』


 この世界にもあんな物がある可能性が!、とか思ったら、全然違う毒であった。

 要らないよね、あんな物があったら、徹底的に回収して、ディメンションホールに死蔵してやるが。


 「ここは、建国前からこんな状態だったらしいけどね。」

 「古代遺跡があるらしいんだけど、調査しようにも、みんなすぐに体調を崩すからできないんだって。」

 『ヒュドラの毒って、そんなに強力なの?』

 「調査に参加した人達も全員死んだって話よ。だから、呪われたとかで一時期話題になってたわ。」


 呪いね、確かに呪いといっても過言では無いな。

 呪われてるのは、ヒュドラの方かも知れないけど。

 だって、〈吐息〉ではなくて、〈溜息〉なんだもんね。

 きっと、憂鬱になる呪いでも受けたんじゃないかな?


 毒消しを使っても一時的にしか改善しないんだそうだけど、そりゃそうだろ。

 根本的な毒が排除できてないんだから。安全な所に行って使えって話だ。


 『[アルケミー・エクストラクト・テトロドトキシン]』

 ブクブク

 

 毒の抽出はできたが、まだ原液には毒の反応がある。

 即効性のある毒ではないが、複数の毒成分が混ざり合って、できているのだろう。


 「ヒュドラの毒なのか?、中心の穴の中にヒュドラがいるとしても、近づけないんじゃ対処の使用が無いな。」


 アルティスは、馬車から降りて魔法を使った。


 『[エリア・アンチドート・ピラー]!』


 街道沿いに、アンチドート効果のある柱が100本並んだが、MPが半分以上減ってしまった。

 フラフラになりながら馬車に戻ると、そのまま寝てしまった。

 一気に半減すると、流石に疲れが凄くて、二人が慌ててる気がしないでもないが、もうムリ・・・。

 ステータスには、[エリア・アンチドート・ピラー]が追加されていた。


 平原を抜けると、白樺の様な白い樹皮の木の森になっていた。

 ここは茸の森と呼ばれていて、茸系モンスターが沢山いるんだとか。

 スメリーファンガスとか、ホーンマッシュルームとかグリフォラファンガスとか。

 最初が、松茸で次がエリンギ、三つ目が舞茸だったかな。美味そうな奴らだな。


 アルティスは、休憩したら、だいぶ楽になったので、食材を狩りに行こうと思った。


 『ファンガス狩ろうぜ!』

 「「「「「「「!?」」」」」」」

 「駄目ですよ!、粉にかかると混乱して脱いだり、走ってどっか行っちゃったりするんですよ!?」

 『え?、脱ぐの?それは見たくないな』

 「何か凄くバカにされてる様な・・・・」


 誰もリズの裸を見たくないとは、言って無いだろ?


 「木製の物に粉が付くと、茸が生えてくるんですよ?」

 『それはいいじゃないか、食料が増える。』

 「壊れやすくなるんですが!?」


 コルスが、諦めさせようと説得してきた。


 『遭遇した馬車とかどうなるんだ?』

 「遭遇したら不運としか言いようが無いですね。」


 不運に会う前に、殲滅してしまえば、問題無いじゃないか。


 『じゃぁ、やっぱり遭遇する前に排除しなきゃ!』


 などと言ってるそばから、出てきたよ。


 「モルトファンガス出ました!」

 「近づけるなよ!」

 「速攻で倒せ!」

 『モルトファンガス!?酵母じゃないか!絶対に持ち帰るぞ!』

 「持ち帰るの!?、食料腐るよ!?」

 『空いてる樽にでも入れとけばいいじゃん!、これでパンがフカフカで美味くなる!』

 「よし!持って行こう!!」


 アーリアに気合がはいった!。


 胞子を出す前に、リズの一撃で倒した。

 麦を入れていた樽が一つ空になっていたので、そこに倒したモルトファンガスと水を入れておいた。この水をパン生地に混ぜたら、ふわふわの白パンになるかもしれない。


 「グリフォラファンガス来ます!!」

 『今度は舞茸か、天ぷら食いたいな・・・』

 「行くぞ!!続け!!」

 「な、なんか、アーリア気合入ってない?」

 「そ、そうだね、いつにも増して積極的というか・・・」

 「ちょっと怖い。」

 「こらっ!ぼさっとするな!次来るぞ!」

 「オイスターファンガス来ます!」

 『オイスターマッシュルームの事か?確か、ひらたけだったかな?。鍋に入れると美味いんだよなぁ。』

 「左からフライアガリス来ます!火魔法準備!」

 『フライアガリックならベニテング茸か・・・あれは死なないけど、幻覚と錯乱だったかな?』

 「燃やせ!」

 『でも、美味いって聞いたことあるんだよなぁ・・・』

 「燃やすな!」

 「「どっち!?」」


 結局燃やさずに倒したらしい。

 ベニテング茸は、確か茹でると毒が分解されるんだったかな?耐性が付くと生でもいける人もいるらしいが、幻覚と錯乱を何度か経験すれば、耐性がつくんだろう。

 みんなは試しちゃ駄目だよ?、食べたい人は、長野県に食べる地域があるから、そこで専門家に教わってからにしてね。

 症状に激しい嘔吐ってのもあったから、試したいとは思わないが。

 激しい嘔吐は、時に人を死に追いやる事があるからね。


 いつの間にか、食いしん坊キャラになってた、アーリアは置いといて、フライアガリックじゃなくて、フライアガリスは、叩き切ったら粉々に砕け散ったらしい。

 破片を拾うか聞かれたけど、放置でいいでしょ。

 アーリアが半べそである。


 グリフォラファンガスは、かなりでかい。クジャクの羽を拡げた様な大きさがあるな。

 舞茸って、肉を柔らかくする作用もあるから、肉があったら漬けておくのもいいかもしれない。


 森を抜ける前に、白い樹皮を少し取っておく。これは、ペラペラに剝けるんだけど、火口としても優秀なんだよね。

 樹皮を剝きに行ったら一本だけトレントがいた。トレントの木材は、丈夫で燃えにくく、魔力の通りもいいので、魔法用の杖として売れるらしいので、倒したら馬車に積んでいく。

 枝も切り払って束ねて持っていくと、高値で売れるらしい。

 これは、殆ど加工の必要が無い魔法用のスティックになるんだとか。

 白樺?のトレントは、希少性が高くて、普通のトレントと比べると、倍近い値段で売れるらしく、ペティがウハウハしてる。


 『ペティのスティックに使ってみる?』

 「いいの!?」

 『凄い豪華バージョン、ちょっと豪華バージョン、微妙に贅沢バージョン、ピンポイントアクセントで華麗に見せるバージョン、シンプル・イズ・ザ・ベストバージョンのどれがいい?』

 「どのくらいの違いがあるのよ?」

 『神話級、国宝級、レア級、伯爵級、一般級かな?』


 「じゃぁ、ピンポイントで華麗に見せるバージョンにするわ。」

 『ほい、柄頭にキラリと光るエメラルド、その下には小さな魔力鉱石が入ってて、魔力補助50%にMP増加30%、風魔法にボーナスが付く、いい感じのスティックに仕上がったよ!』

 「こらーっ!!それは国宝級よ!国・宝・級!しかも魔力鉱石って、そんなの入れたら白金貨何枚分になると思ってるの!?」

 『えー、ペティの為に作ったのに、怒られちゃったよー。』


 「もう!シンプルな奴にして!それなら普段使いできるかも知れないわ!」

 『じゃぁ、ほい、余計な宝石は全部廃したけれど、柄の中には魔力鉱石が隠れていて、攻撃力UP50%と魔力効率30%UP、魔力操作補助もついて、このスティックで練習すれば、誰でも魔力操作が覚えられちゃう優れモノ!』

 「こらーっ!これも国宝級じゃないの!!国・宝・級!!見た目には目立たなくても、性能がヤバ過ぎるわよ!」

 『じゃぁ、どんなのならいいの?』

 「10%前後くらいなら許せるわ。」

 『元がへなちょこなのに、そんなに効果の低い補助があったって、殆ど変化しないじゃん。』

 「ガーン、へなちょこって・・・ショックだわ。」


 ペティのMAGは418、これを10%上げた所で450を超える程度にしかならず、蚊が虻に変わった程度の違いしかないのだ。

 元の数値が1000とかあれば、1割増で100増えるから、差がはっきりと出るだろう。

 つまり、微妙な効果なんか、あっても無くても変わらないって事だよね。


 『そんな事より、もうちょっと頑張れば、450近くになるし、多分MPも倍になると思うよ?』

 「!?」

 「何故、そんな事が判るんだ?」

 『んー、何となく?、多分初期値は180なんじゃないかと思ってね。』

 「何で知ってるの!?」

 『じゃぁ、間違いないね。どれくらいで上がるかは判らないけど、毎日頑張れば、ひと月くらいで上がるんじゃないかな?』

 「頑張るわ!!でも、そのスティックは使えないわ!的が壊れちゃうもの!」

 『撃たなきゃいいじゃん。ウォーターで練習しなよ。』

 

 ペティがやる気を出して、練習し始めたよ。

 

 

 

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