第6話 新たな仲間達との旅路
「旦那様がお呼びですので、執務室までお越しください。」
また、後ろから来やがったよ。
「もう、慣れました。」
「残念でございます。」
「次からは念話で教えてください。」
「畏まりました。」
アーリア達は、執務室へ向かった。
「ただいま戻りました。」
「少しアルティス君に話したい事がある。」
『何でしょうか?』
「実は、偽金貨の件なのだが、この街で作られている訳では無いようでな。他領か王都の可能性が出てきたのだよ。」
『でも、この街で故意にばら撒いている奴もいますよね?』
「その者を捕らえたから判った事だ。」
『そいつは商人ですか?』
「ゴロツキだった。」
『では、裏に商人が居ますね。』
「吐かせたいのだが、喋らなくてな。」
『兵士2名貸して頂ければ、吐かせますよ?』
「よし、わかった!、セバス!」
「畏まりました、すぐ手配致します。」
地下牢に行くと、待っていたのは、コルスと知らない兵士だった。
『コルス久しぶり。』
「アルティスさん、お久しぶりです。」
『そっちは誰?』
「私は、ペンタと申します。よろしくお願いします。」
『コルスと違って、真面目そうだな。』
「え?私は真面目ですよ?」
『そうだっけ?』
「私のどの辺が、不真面目に見えます?」
『いや、不真面目では無いんだよ、何かこう、雰囲気がお茶らけてる感じ?』
「よく見られてますね、コルスはいつもそんな感じですよ。」
「ちょ、ペンタ!?、そんな事無いでしょ?」
「真剣なんですが、雰囲気が少しおかしいですよね?」
『実力を隠してるのを、楽しんでいるんだろう。』
「バレましたか。」
『冗談だよ。』
「ちょっと!アルティスさん!?」
「コルスは、面白いな。」
「揶揄わないでくださいよ。」
『さて、楽しい拷問の時間だ。』
「楽しいんですか?拷問が。」
『笑える拷問をするからな!』
ゴロツキを拷問するにあたって、騎士団からカレンとリズにも協力してもらった。
ゴロツキが、一般人に毛が生えた程度とはいえ、兵士二人も大して変わらないから、力の強い騎士に手伝ってもらうんだよ。
『じゃぁ、二人で擽ってあげて』
「「はい」」
コルスとペンタが、鳥の羽を持ってゴロツキを擽り始めた。
「やめろ!そんな事でしゃ、ギャハハハハハハハハ」
「やめ、ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「ぜぇぜぇ、ギャハハハッハッハッハッハッハッハッハッ」
「や、ギャハハハッハッハ、苦しギャハハハハハハハハハハハハ」
「やめ、ギャハハハハハハハハ、しゃべギャハハハハハハハハ」
『ストップ』
「ゲホッゲホッ、やめて、はぁはぁ、しゃべ、はぁはぁ、らない」
『ゴー』
「ギャハハハッハハハハハハ、わかギャハハハハハハハハハハハハハた」
「ゼェゼェ、しゃ、喋るっ!はぁはぁ、話すから!」
「では、話せ。」
「ハァハァ黒幕は、ハァハァサンダン、バーラ商会だ。ハァハァ」
「商会長からの指示か?」
「そ、そうだ。そう聞いている。ハァハァ俺はあった事はねぇが、ハァハァあっ、駄目だ、ハァハァこれ以上は、話せねぇ!、ハァハァ死んじまう!」
アルティスが、[鑑定]を使った。
『[鑑定]』
名前:ハラクト
攻撃スキル:投擲
感知スキル:危険察知
耐性スキル:
アクティブスキル:恐喝 恫喝 詐欺 窃盗
魔法:なし
状態:呪い〔即死準備〕
職業:盗賊
称号:詐欺師 殺人者 チンピラ
ステータス?3ケタがMAGしかないから、割愛するよ。
毛も生えてない、一般人だったよ。
『こいつ、角ウサギより弱いな。死ぬ原因は呪いの様だ。』
アルティスが呪いを解呪した。
『[アンチカース]』
シュン
『[鑑定]、よし、呪いは消えた。もう喋らせても大丈夫。』
「よし、死なないから話せ。」
「へっ?、消えたっ!?」
「早く話さないと、お前の首が、胴体とサヨナラするぞ!」
「わ、判ったよ、この街のスラムにアジトがある、組織だ。クロルローチというんだ。」
『這いずるGって、気持ち悪い名前の組織だな・・・』
『Gって何?』
『ゴキブリ』
この世界でも、ゴキブリが通用するんだね。
アーリアが絶句してるよ。
『・・・。』
「ホントにそんな名前なのか?」
「そうだよ、頭は頭がキレるが、下は全員俺みたいなゴロツキだけだ。」
「判った。」
執務室に戻ってきた。
『喋ったよ』
「本当か!?、で、何と言っていたんだ?」
『サンダンバーラ商会の会長が親玉で、実行犯は、クロルローチというスラムを根城とする組織だそうだ』
「クロルローチか、最近よく聞く様になった組織だな。」
『騎士団長に行ってもらうのか?』
「ん?ブラスバレルは、隊長だぞ?」
『あぁそうか。』
「ブラスバレルは、隊長の任を解いたよ。今は兵士だ。」
『クロルローチを潰したら、隊長にしてやるとか言って、やらせたらいいじゃん?』
「殺すような真似はできないんだよ。残念ながら。」
『害悪なのに、クビにできず、仕事にも出せないのか。』
「仕事なら出せるよ?、態々殺させるようなことができないだけだよ。」
『じゃぁ、騎士団で行けばいいじゃん?、どうせ突っ走るんだし、勝手に死ぬだろ。』
一方、地下牢ではコルス達とリズ達が安堵していた。
「何か凄かったね。」
「うん、でも、痛くない拷問で良かった。」
「拷問を楽しいと感じたのは初めてです。」
「変な趣味に目覚めてないよね?」
「目覚めてませんよ!?」
翌朝、騎士団では召集があり、クロルローチを掃討する事が告げられた。
「カレン!クロルローチのアジトを潰しに行くぞ!お前は小隊長だ。」
「了解!」
スラム街にある、クロムローチのアジトが近づくと、ブラスバレルが一人突出して、走り出した。
騎士団と一部の兵士に、アルティス達も同行し、クロルローチの一味を捕らえたが、一人アジトに突撃したブラスバレルは、そのまま行方不明となった。
組織のトップの男は、魔族である事が判った為、アーリアが対応し、捕縛した。
一応、ブラスバレルの捜索を命じたが、誰一人として真面目に捜索する気が無く、いや、取り巻きの2名だけは探すフリをしていたか。
遺体も無く、争った形跡も無く、忽然と消えてしまった事から、敵前逃亡したと判断した。
『遺留品も無いって、どういう事だよ。完全に逃げたって事じゃねぇか!』
「そこまで腐ってるとは、思ってもみなかったな。伯爵には、私から報告をしておこう。」
屋敷に戻って、報告したが、伯爵の顔色が優れなかった。
通常の軍隊なら、敵前逃亡は死罪になるのだが、侯爵家の三男という事もあり、死罪にすると、何を言われるのか想像に難くないと思っているのだろう。
ラノベを見ていると、貴族社会の爵位を、会社の役職の様に捉えている節があるのだが、アルティスの考えはそうでは無い。
会社の役職でもそうだが、上長というのは、偉いのではなく、その役割を与えられた人というだけで、身分は対等という考え方だった。
貴族社会でもそうだと思っている。
会社と違い、同じ建物の中で働いている訳でも無く、同じ国の中の組織でも、国のトップはフランチャイズの親会社で、各領は加盟店、爵位は地域の組合長程度の認識で良いと思うのだ。
だから、いちいち遜る必要は無く、嫌なら嫌だと突っぱねればいいのだ。
領毎に環境も状況も違うのだから、いちいち他領から口を出されても困るというものだ。
しかも、今回問題になっているのは、侯爵家を追放された三男の話であり、待遇に問題があると言うのなら、呼び戻して、自分の領内で、それなりの役職を付けて、飼い殺しにでも何でもしてやればいいのだ。
まぁ、人が良い伯爵が、付け込まれているだけに見えるんだけどね。
王都に行くにあたり、前回同様、兵士も同行する事になったので、選抜試験が行われる事になった。
兵士の訓練場に行ってみると、殆どの兵士がだらだらと訓練していたが、アーリアの姿を見ると、急に元気になりだした。
指導官は、今まで全く兵士を見ていなかったにも関わらず、アーリアの前でビシッと敬礼をして、どの兵士でも問題無く同行できますとか言ってた。
『こいつはクビだろ?』
『そうだね。伯爵に言っておくよ。』
訓練場には、ルースとメビウスが真面目に訓練をしていたが、コルスとペンタが見当たらない。
あ、いや、ペンタは奥の方に居た。
『コルスは今日は休みかな?』
「コルス?・・・居ない様子だね。」
右から左に視線を動かして、右に戻った時にはコルスが訓練していた。
『コルス・・・そういうところだぞ・・・。』
「ホントだ、さっきは居なかったのに、今は居るな。」
やはり、執事の部下だな。
『やはりとは、何の事でございますか?』
『心の声を読むなよ。』
執事が心の声を読んで、訊ねてきた。
アーリアが指導官の居た場所に立ち、兵士に選抜試験の事を話す
「今日と明日の2日間に、ペティセインお嬢様の王都滞在に同行する兵士の選抜試験を行う!」
「希望者は前に出よ!」
コルス、ルース、メビウスの他に3人程が前に出てきたので鑑定してみたが、またもや怪しい称号の持ち主がいた。
『[鑑定]クロムローチ、バウンドパイク領密偵、兵士』
『一番右のやつ、盗賊の一味、真ん中の奴は隣の領の間者』
「・・・コルス、ルース、メビウス、この二人を捕らえろ」
「「「はっ!」」」
兵士の名前は、アンモと言う名前で、騎士を目指しているとか。
騎士になったらアンモナイト・・・ウケ狙いか?
訳も判らず突然捕まった二人の内、盗賊の方は少し脅したらすぐに吐いた。しかし、間者の方は黙秘したままだ。
有能執事を呼ぼうとしたら、また後ろにいやがった。
『居るんだろ?って意味深に言ってみて。』
「居るんだろ?」
「はい、バレてましたか。」
どこにでもいるな、この執事・・・
間者に聞こえる様に拷問する事を、アーリアが小声で執事に話した。
「ほう、それはとても恐ろしい方法ですな・・・判りました、得意な者を連れてまいりましょう。」
執事がワザと知らない振りをして、間者に聞こえる様に言うと、間者の顔が一気に青褪めた。
というか、知らない振りをしたのに、得意な者を連れて来るってどういう意味だろ?
牢屋に来たのはメイド3人、手には鳥の羽や細い枝など。
間者を長椅子に縛り付け、メイドが無表情でくすぐり始めた。
「ぎゃははははははは、や、やめ、ひゃひゃひゃひー」
5分持たなかった。尋問中、嘘をついたと判断したら再開するって言ったら、泣きながら全部話してくれた。
地下室から出る時に、執事が目に涙を浮かべながら言って来た。
「この方法は笑え・・・使えますな。」
うん、笑う前に、存分に活用してくれ。
訓練場に戻って試験を始めた。試験は単純に剣技と体力と御者ができるかどうかのみ。
元の3人は、試すまでも無く合格、残りの一人の試験に付き合う形で、元の3人にも参加してもらった。
毎朝伯爵邸の周りを走っているそうだが、装備を着けたまま走るのは初めてらしく、途中で全員バテていた。
剣技については、4人ともそれ程でも無い程度で、まぁゴブリン程度なら対処できるんじゃないか?って言われてた。
ってかゴブリンっているのか、森では一度も見た事無かったのに・・・。
「今回から騎士を護衛に増やすことに決めた。」
「ペティの護衛だから、女性騎士3人増やすわね。」
夕食の時に伯爵から、今回は女騎士3人追加するって言われた。
予定通りだね、扱きまくって精鋭にしてやろう。
『何か企んでる?』
『王都に行くまでに精鋭に育て上げようかと思ってる。』
『ほどほどにね』
「護衛が8人って事は馬車は2台ですか?」
「そうなるわね、荷物も増えるし。あと、馬も騎士用に3頭付けるわよ?」
2台目の馬車は幌馬車になるそうだ。そんな大量に荷物があるのかと思ったら、兵士も乗せられるようにするとか。
多分乗る暇ないよ?、訓練しながら行くからね。
まぁ、大所帯になった分、みんなの荷物もあるから、それなりに荷物はあるみたいだね。
出発を3日後に控えて、今日は2日目の試験、兵士達は基本的に2日に一度の訓練になっているそうで、昨日居た者は、今日は居ない。
って温いなおいっ。
今日の参加者は二人、鑑定しても特に問題は無いが・・・一人は、先日いたペンタだな。
これ、試験やる意味あるのか?
試験やったけど、ペンタが圧勝。
ペンギンみたいな名前で可愛いけど、武器は投げナイフで、主に苦無を使っている。
苦無と言うか、投げられる25センチくらいの、シンプルな両刃のナイフだな。
柄頭に穴が開いていて、紐が結べるようになっている。
決定したメンバーは、騎士:アーリア(隊長)、バリア(副隊長)、リズ、カレン
兵士:コルス(執事の部下)、ルース、メビウス、ペンタ(執事の部下)
コルスとペンタは中衛、他は全員剣で、騎士は魔法も使う。
結構な大所帯になったもんだ。
バリアが副隊長になった理由は、全員嫌がったので、ジャンケンで決めた。
出発に備えて、保存食の他に、食器と鍋と串を積んだ。
岩塩も積んだし、腐りやすい小麦粉やフルーツ、野菜と生肉は、アルティスのディメンションホールに入れた。
まだ、日程的には、時間があるので、馬車の操作の訓練と野営訓練を1泊2日で実施した。
魔法を使わない、焚火の仕方を知らなかったり、保存食で済ませようとするのを止めたりと、忙しい。
特に兵士の場合、野営訓練は年1回しかやらないらしく、テントの設営に戸惑い、焚火の準備に戸惑い、薪として生木を持って来たりと、散々だった。
先に確認しておいて良かったよ。
出発当日朝、入り口前で馬車に乗る準備をしていても、ペティが来ない。
『何してんだよペティ・・・』
独り言のように呟いたつもりだったが、ペティに聞こえたらしい。
支度を済ませたペティが走ってやってきた。
「アル君!ごめんね、遅れちゃった!」
『俺じゃなくてみんなに言えよ・・・』
「みなさん、遅れてすみませんでした!」
『食い意地張るから、腹壊すんだぞ?』
「違うわよ!」
ペティが遅れたのは、準備万端で待っていたのだが、ウトウトしてしまったらしい。
決して、待っている間に、目の前の焼き菓子を食べ過ぎて、満腹になったからではない。
「それでは、お父様、お母様行ってまいります。」
「気を付けて行ってくるんだぞ。」
「みなさん、ペティの事をよろしくお願いしますね。」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
「それでは、出発!」
号令と共に馬車へ乗り込み、王都へ向けて出発した。
ちょっと、訓練するメンバーを決めるか。
『聞こえる人全員ペティの事褒めて。』
「え?ちょ、待って待って」
ア「お嬢様、今日もお綺麗です」
リ「お嬢様かわいー」
コ「お嬢様素敵です」
バ「お嬢様いつも素敵です」
ペ「お、お、おじょ、おじょうしゃま、か、かわいい・・です」
カ「お嬢様ぺちゃゲフッ・・・・」
『はい、カレンとペンタは、外壁出たら馬車から降りてマラソン開始ね。』
「「えー!?」」
メ「お嬢様、今日のお召し物も素敵ですね」
ル「お嬢様毎日見とれてます」
『はい、後だしのルースとメビウスも追加ー』
「「げぇ!?」」
さぁ!盗賊如きには負けない護衛になってもらうぞ!
「程々にしてね。」
『この近辺じゃ、出ても盗賊だから大丈夫でしょ!』
「アル君は走らないの?」
『走ってもいいけど、あるじどうする?』
「アルティスが走るなら私も走ろうかな?」
「あー、やっぱアル君走らなくていいや。」
カレンがアルティスに振ってきたが、アーリアが走ると言うと、断ってきた。理由を知らないペンタが聞く。
「アーリア隊長が走るのはダメなんですか?」
「ペース早くなってもいいなら誘うけど、どうする?」
「すみませんでした・・・。」
一応、全員のステータスチェックは済ませてあるが、STRとMAG以外の上げ方が、よく解からないので、ステータスよりも、各自の能力を見ていく事にした。
全員、一般人よりもステータスは高いが、MAGがそれ程でもない。
MAGは、魔法の威力、魔法への耐性、MP量に影響してるので、一番重要なステータスと言える。
それ以外のステータスは、10や20変わったところで、大した差はない。
5kg持てる力が、10kg持てる様になったところで、大して変わらないのだ。
MAGの場合は、MPが増えれば、魔法の回数が増えるし、相手よりMAGが高ければ、魔法耐性がぐんと上る。
なので、魔法を使う回数を増やして、新しい魔法を覚えさせる事で、基本MAGの値を上げていく必要がある。
そこに、魔道具で底上げしてやれば、基本MAGも上がり易くなるだろう。
ゆくゆくは、全員が魔力感知を覚えてくれれば、視野と戦術が拡がって、英雄にもなれるだろう。
期待してるよ!。
『このままのペースだと、魔の森の手前で野営するのかな?』
「戻ってくる時は、早いんだが、出る時は手前で混むから、どうしてもペースが落ちて遅くなるんだ。」
モコスタビア周辺は、穀倉地帯になっていて、農民の荷車や冒険者の集団などで、街道は混雑している。
その為、馬車の断続渋滞も起きやすく、中々進まないのだ。
「ねぇ、アル君って一体何者?」
突然ペティが聞いてきた。
『何だ?突然』
「凄く頭がよくて、回転も速くて、強いでしょ?、その上、料理までとなると、もしかして、賢者だったりして?」
『賢者ってどんな人?』
賢者とか言われたけど、よくラノベやラノベの中の物語、大体勇者のセットで出て来る賢者、何なんだろね?
「え!?えーっと・・・、頭のいい人?」
『どの分野で、頭がいい人?』
「・・・判らないです。」
考えた事は無いだろうか?、賢者とは何なのか。
研究者ならたくさんいるだろうし、広く浅く知識を持っていれば、賢者になれるのであれば、賢者なんて腐る程いる事だろう。
それこそ、雑学博士みたいなオッサンも賢者と呼べなくもないだろうし、有名な塾講師や元アナウンサーの人なんかも、範囲に入って来るかも知れないね。
戦争に関わる頭のいい人なら、軍師になる人は賢者と言えるが、賢者が軍師になる事はあっても、軍師が賢者と呼ばれる話は、聞いた事が無い。
某小説みたいに、賢者というスキルがあるとしたら、学の無い農民がそのスキルを持ったらどうなるのか?、又は、あの司祭がスキルを持ったらどうなるのか、そんなの、火を見るより明らかだろう。
取得条件さえクリアすれば、誰でもなれるのであれば、偶然に偶然が重なって、奇跡的に取れる可能性だってある。
いずれにせよ、賢者が何者なのか判らないから、賢者にはなりたくないな。
『勇者と賢者がセットで出てくるとなれば、賢者が居たら、勇者も近くに居る事になるし、勇者がいれば、確実に魔王軍と戦闘になるよね?』
リズが青い顔をしながら、不満を言ってきた。
「そ、そんな怖い事言わないでよ。」
『でも、君ら騎士や兵士は、戦争や戦いが仕事なんだよ?訓練は、仕事じゃなくて、生き残る為の準備運動だからね?』
君らは、何の為に騎士になったんだ?
本当の事を言われて、初めて自覚した様な顔をしているよ。
『戦争になりそうな噂とか無いの?』
「無くも無い・・・かな?」
『じゃぁ、戦争になっても死なないくらい、鍛えないとだね!』
「戦争は怖くないの?」
『怖くないよ?、守るものがあるからね、敵が来たら殲滅するだけ。』
「守るものって何?」
『あるじに決まってるじゃん?』
「アルティス、私は騎士だから、みんなと、ペティセインお嬢様を守るのが使命だ。」
『俺は、そのあるじの使命を全うする為の、剣であり、盾なんだよ。』
アーリアがアルティスを抱きしめた。
ずっと一緒にいられれば、それでいい。
『いたたたた、痛いから離して!、あるじ!、痛いよ!』
「あ、すまない、少し強く抱きしめ過ぎたか。」
「ちょっとぉ、何いい雰囲気になってんのぉー?」
ハーフプレートも、ガントレットも鋼鉄だからね、全然柔らかくないんだよ。
一応、ガントレットの内側は、革になってはいるんだけど、ゴワゴワしていて、全然柔らかくないんだよね。
アーリアのガントレットは、指の部分が分裂可動式で、オーダーメイドで作られているタイプだよ。
グーパーしかできないタイプは、あまり見かけた事が無いね。
『はいはい、もうすぐ森だから野営の準備して。』
「もう少し先に広場があるから、そこで野営の準備しましょ」
『手が空いてる人は、角ウサギかボアを狩ってきて。』
「えー!もうヘトヘトだよぉー!」
『じゃ、カレン、ルース、メビウスはテントの準備と焚火の用意ね、狩りは、俺とバリア、リズが行くけど、その前にコルスとペンタは先行して索敵お願い。』
「「はーい」」
コルスとペンタが馬車から降りて走り出す。それを見たリズとカレンが
「あの子ら本当に兵士なの?」
「兵士の動きじゃないね。」
野営地に着いてすぐに狩りに向かった。
魔力感知に反応があったので、向かってみるとそこには、人間の子供が膝を抱えて座っていた。
何かに怯えている様だが、足の下には篭があり、中にはヒールリーフが詰まっている。
この近辺には、人が住むような場所は無い筈だが?
『あるじ、人間の子供がいる。』
『ええ?、この辺に住んでる人は居ない筈だけど?』
『膝を抱えて縮こまってるよ、薬草を採りにきたみたい。』
『判った、すぐ向かう。他に人がいないか探してみて』
『半径200m以内には、居ないみたい。馬車の近くに居る者は、馬車の警護をお願い。』
周囲を探ってみたが、他に人間は見当たらず、角ウサギを見つけたので狩ってから戻った。
野営地に戻ると、子供を取り囲む騎士と、せっせとテントを準備する兵士二人。
『子供相手に4人とか、怯えてるじゃないか、怖がらせるなよ。』
「怖がらせてるのはバリアだけだよ?」
「はぁ?あたしのどこが怖いってのさ!」
「顔」
ゴスッ
リズがバリアを茶化し、カレンが余計な一言を放ち、バリアの拳骨が落ちた。
そのコントを見た子供がクスッと笑った。
『角ウサギ狩ってきたから誰か捌いて。』
「カレンやって」
「うぃ」
『少ないから、もうちょっと狩ってくる。』
「いってらっしゃい」
コルスが近づいてきた。
「近くに子供だけの集落がありました。」
『なんだそれ?、普通は外壁の近くとか、スラムで生活するんじゃないのか?』
「壊れた馬車が近くにありますので、奴隷商の馬車が壊れて、生き残った子供が生活してるのかと思われます。」
『ちょっと街まで行って執事呼んで来いよ。』
「いやいや、ムリですって、どれだけ遠いと思ってるんですか!?」
『執事さーん』
『はい、何か御用でしょうか?』
『魔の森の手前に、子供の集落があるって、コルスが言ってるから、モコスタビアに連れて帰ってよ。』
『旦那様にご相談してから、ご返答致します。』
『奥様に相談してくれ。あと、孤児院作るなら金は出す。』
「アルティスさん?、知らない子供の為に、そこまでするんですか?」
『お前ね?見捨てろって言うのか?性格が腐ってなけりゃ、全員助けるんだよ!』
「全員保護しろと?」
『そうだよ!、当然だろ?、好きでこんな所に住んでる訳じゃないんだからな?。奴隷になった理由はともあれ、ちゃんと育てれば、騎士にも兵士にもなれるんだぞ?』
「そりゃぁそうですが・・・」
『奥様から許可が下りましたので、馬車でお迎えにあがります。到着は、明日の朝になりますが、よろしいでしょうか?』
『よろしく頼む!』
『コルス、集落の場所をバリアに教えて、全員、野営地に連れてきてくれ!』
「了解」
バリアとコルスが、子供の集落に行き、痩せこけた12人を野営地まで連れてきた。
『猪でも狩ってこないと間に合わないな・・・』
魔の森に入り、スキルを駆使して猪を見つけた。
野営地の近くまでおびき寄せてから、引っ掻きで左前脚を切り、アーリアを呼んだが、ルースとメビウスが来たので、狩ってもらった。
今回見つけた猪は、フォレストボアという、草食のイノシシで、大きさは軽自動車くらいだが、角ウサギの次に弱い動物で、美味いらしい。
街では高級食材として高値で売れるそうだ。
『誰か捌いてー、内臓は俺「駄目だよ」に・・・・ええー?、俺が狩ったんだからいいじゃん、駄目って言うなら、狩ってきてよ。俺は自分で狩った時しか内臓食わないから。』
「何でそんなに内臓食べたいの?」
『肉より美味いし、栄養があるからだよ!』
「焼いたらいいよ。」
『不味くなるからヤダ』
「生はダメ」
『じゃぁ、もうみんなの分の狩りしない!、王都まで保存食食ってりゃいいさ。フン!』
「・・・じゃぁレバーだけ」
『マメも!』
「・・・判った。許可する。」
『やったー!』
解体はメビウスがやった。どうやら休日にルースと共に狩りをしながら解体を覚えたらしい。
内臓を処分するついでに、レバーとマメを子供たちから見えない場所に置いてもらい、食べた。
マメってのは、腎臓の事だよ。
形が似てるから、そう呼ばれるらしいよ。
食べ終わってみんなの所に戻ったら、アーリアが口の周りに付いた血の跡をふき取ってくれた。
ボアが串焼きにされて、みんなに配られた。
子供たちは木の実等を採って、生活していた様だが、明らかに栄養が足りてない。
体調の悪い子供も何人か居たので、アルティスが、[治療術]で治しておいた。
原因は衰弱と毒のある実を食べたからだろう。
コルスが見つけるまでに、3人が死んで、4人が行方不明らしい。
行方不明になった子達は、肉を求めて、森に入って行ったらしいが、3日経っても戻って来ない様だ。
『念の為、森の中も捜索してくるね。』
「判った、気を付けて行ってきて」
『了解』
〈魔力感知〉と〈嗅覚〉を使って探してみると、一人はバラバラの状態で死んでいるのを見つけ、一人は池に浮いているのを見つけた。
俯せなのと、魔力感知にかからないから、死んでいるのだろう。
残りの二人は木の上でじっとしている所を見つけた。
『あるじ、4人とも見つけたよ、二人生きてる。』
『どの辺?二人死んでるの?』
『一人は何かに襲われてバラバラだった。一人は池に浮いていた。生きてる二人は、木の上にいる。』
『暗くなってきたから、3人で迎えに行く』
3人が松明を持って近づいてきた。火の明かりを見て、少年達が木から降りてきた。
少年達は警戒しながら、姿が見える所まで行き、騎士だと判ると、怖かったのか泣きながら騎士たちに縋りついた。
アルティスは、周りを警戒しながら、少し離れた所をついていった。
野営地に着くと、肉は半分程が無くなり、満腹になった子達はそのまま眠った様だ。
弱っている子達は、干し肉と野菜のスープを飲んで、幌馬車の中で休んでいる。
森から戻ってきた少年達は、串焼きとスープを涙を流しながら食べていた。
『助けられて良かった。』
『優しいな。』
『かわいそうじゃん、奴隷にされて襲われて、ここまで耐えてきたんだよ?、まだ子供なのに夢も希望も無いなんて、辛すぎる。』
『助けた子供達はどうする?』
『執事に連絡済みだよ、明日の朝、迎えの馬車が来るって。』
『街に行っても、住む所とかは?』
『俺の宝石と金渡して、孤児院でも建ててもらうよ。』
ここまでペティは、空気だった訳では無く、弱っている子供達の事を、献身的に世話をしていた。
伯爵令嬢なのに、優しくて、いい子だよね。
早朝、朝日が出てきた頃に迎えの馬車が2台来た。
メイドが御者をやっていて、荷台にはメイドが二人乗っていた。
子供達の所に行くと、状態を確認し、持ってきた大きな鍋で麦粥を作り、食べさせてから荷台に乗せていた。
『メイドさん?』
「はい、私は、ルーシーと申します。この隊のリーダーです。」
『孤児院の費用は、ルーシーさんに渡せばいい?』
「はい、承ります。」
[ディメンションホール]から、拳大の宝石3つと、10kgのゴールドナゲットを出して、渡した。
『これを持って行って・・・って聞いてる?』
「は、はい!、す、少し、動揺してしまいましたが、大丈夫です。」
『じゃぁ、君たちには、この髪飾りをあげるから、ちゃんと執事に引き継いでね!』
マジックシールドの自動展開機能とVIT値500を付けた、髪飾りを4人分渡した。
髪飾りといっても、ヘアピン程の大きさで、小さなサファイアを付けただけの物だ。
マジックシールドは、主に魔法を防いでくれるのだが、多少の物理攻撃も防げるので、VIT値を増やす事で物理攻撃にも耐性を持たせたのだ。
それを見たメイドは、目を見開いて、驚いている。
「い、頂いてもよろしいのですか?」
『執事の部下でしょ?、これはその任務に就く時にでも着けてよ。守ってくれるから。』
「あ、ありがとうございます!。大事に使わせて頂きます!」
弱っている子達のサポートもメイドに任せていいだろう。
みんな元気になるといいな。
『アルティス様、馬車は無事に到着しましたでしょうか?』
『あぁ、ルーシーに孤児院の資金渡して、ヘアピンをプレゼントしておいたぞ。』
『左様で御座いますか。お気遣い痛み入ります。不躾ではありますが、資金は、いかほど渡したか、教えて頂けますか?』
『拳大のルビーと、サファイアと、エメラルドを1つずつと、10kgのゴールドナゲット1個だ。』
『そ、それは、少々貰いすぎかと存じますが?』
多めに渡したんだよ。
『子供達が、成人するまでの資金と、孤児院運営の資金だよ。それと、スラムも含めて、孤児を無償で引き取って、世話してくれ。』
『畏まりました。奥様から、アルティス様の頼みは、全て引き受ける様、指示されております。伯爵邸の敷地内に、孤児院を作ると言っておりましたので、当面は伯爵邸で面倒を見るとお考えと思われます。』
『そうか、あの人ならやってくれると思ったよ。それと、銭湯やるんだろ?』
銭湯の資金も無さそうだから、使って貰うよ。
『はい、旦那様は、資金が貯まり次第やると、言っておりました。』
『なら、その中から資金捻出していいから、進めて欲しい。働きたい子がいれば、積極的に雇って、勉強もできる環境を作ってやってくれ。』
『手厚いですね。素晴らしいお考えかと存じます。』
無垢な内に教育すれば、いい人材になるからな。
私腹を肥やす、豚狸なんかに渡すより、ずっと利のある使い道だよ。
『教育するなら、早い方が飲み込みがいいし、どうせ育てるなら、いい人材にした方が、伯爵にとっても利があるだろ?』
『確かに、真面目で賢い人材であれば、喉から手が出るほど、欲しいと思います。』
『手が足りなければ、人を雇ってもいいし、任せるよ。資金が足りなくなる事は、ありそう?』
『いえ、資金面については、銭湯に当てても、数年はもつと思われます。』
銭湯が上手くいけば、雇用口も増えるし、銭湯を増やす事も可能だろう。
付随する産業なんて、いくらでもあるからな、どんどんやって欲しいものだ。
タオルや足ふきマット、石鹸や掃除用の洗剤、湯沸かし用の薪もそうだけど、灰も畑に撒けば肥料になるし、石鹸の材料としても使えるしね。
『そうか、足りなければ、次回モコスタビアに行った時にでも、教えて欲しい。』
『承りました。他にも何かあれば、遠慮なくご連絡頂ければと存じます。』
『了解』
メイド隊が子供達を乗せて、街へ戻って行くのを見届けてから、朝食を食べた。
朝食は、昨晩のフォレストボアの骨を、全部残してあるので、骨の出汁を使って麦粥を作らせた。
「私、麦粥って苦手だったんだけど、この麦粥は凄く美味しい!」
「これ、昨日のボアの肉も入ってるし、美味しいです。」
リズとカレンが麦粥を大絶賛して、ガツガツ食ってる。
他の人らもおかわりしながら、夢中で食べてるから、全部無くなりそうだ。
味付には、干し肉を入れたから、塩味もいい感じに付いてる。
「あ!、もう無い・・・」
『食いすぎだよ、今日も訓練するから、食べ過ぎると辛いぞ?』
「でも、お昼も美味しい食事が待ってると思えば、頑張れる気がする!」
気合十分な騎士に対して、兵士は浮かない顔をしている。
『ルースとメビウスは浮かない顔をしてるな。』
「昨日、あんなに走ったのが初めてだったので、足が痛いんですよ。」
『ブーツの中か?』
「いえ、腿と脹脛です。痛くて、歩くのも辛いです。」
『ストレッチをしろ。あるじのやってるのを真似して、筋肉を解すんだよ。』
30分程使って、食後のストレッチとお花摘みを済ませてから、出発した。
ついでに、土魔法の訓練も、といっても、トイレを作らせただけだがな。
手本を見せて、真似させたら、好評だったよ。
『コルス、訓練しながらでいいから、ルースとメビウスに手信号を教えてやってくれ。』
「実戦で使わないと、なかなか覚えませんよ?」
『大丈夫だよ、前回の近くにまた、きっといるから。』
「なぜ判るんです?」
『前回16人も投入して、失敗してるんだぞ?、やられたまま放置する訳無いだろう?』
「そんなものですか?」
『そんなものだよ、メンツを潰されたんだ。取り戻そうとするのは、当然だろ?、特に間者ならな。』
「あぁ、〈アレ〉ですか。」
『アレだ。』
〈アレ〉とは、兵士の選抜試験に紛れ込もうとした、間者の話だ。
ホリゾンダル家に、ちょっかいを出すのが誰かというと、すぐ北にあるバウンドパイク侯爵だ。
特に何もしていないのに、毛嫌いされている為、長年に亘り嫌がらせを受けているらしい。
そして、最近はエスカレートしたのか、ペティの命を狙ってくるんだとか。
ホリゾンダル領の位置は、東に魔の森、西に大河がある為、迂回する事ができず、やむなくバウンドパイク領を通らざるを得ないのだ。
だが、通過する車列に軍が攻撃すれば、商人が来なくなる可能性もある為、表立った敵対行為ではなく、間者を潜入させて、暗殺を狙っているのだとか。
『なんか良い嫌がらせ方法って無いかな?』
「ギレバアンは、ゴロツキが多くて、石ころ蹴っただけでも、煩いんですよ。」
『古い手を使ってくるんだな。コルスが侯爵家に潜入して、チャック全開にして来いよ。』
「嫌ですよ、汚いじゃないですか。」
『潜入できないとは、言わないんだな。』
「私はただの兵士なので、できませーん」
『期待してたのに、残念だ。じゃぁ、精鋭になれる様、ビシバシ鍛えてやろう。』
「え?、それは、全員ですよね?」
「おい!、コルス!、周りを巻き込むんじゃねぇよ!」
話を聞いていた、メビウスがコルスに文句を言う。
『コルスが言わなくても、最初からその予定だぞ?』
「マジかぁー・・・」
『素直に鍛えた方が、後々楽だぞ?』
「剣を振り回すのならいいんですよ。走るのがきついんです!」
『剣に振り回されてるだけなのに、振り回してるつもりでいるのか?』
「・・・それでいいって、隊長が言ってたし。」
『あいつはもうクビになったぞ?』
「え?マジですか!?」
『あんなやる気のない馬鹿は要らないだろ。兵士が役立たずじゃぁ、軍として成り立たないからな。訓練中によそ見とか、何を見てたのか教えて欲しいくらいだよ。』
「今の隊長は誰がやってるんですか?」
『騎士団から、交代で来てる筈だぞ。』
「残っても楽できなかったのか・・・。」
森沿いの道で、魔力感知に反応が出た。
『右の藪の中に4人隠れてる』
「迎撃準備!」
アルティスは念の為に、幌馬車の幌の上で待機、騎士は、いつでも剣を抜ける様な体制をとる。
兵士は幌馬車の中で、剣に手をかけ、飛び出せる体制で待つ。
馬車が隠れている人間の目の前まで来た所で、男たちが飛び出してきた。
「馬を殺れ!」
バリアが、盗賊と馬の間に入り、剣を振る。
「させないよ!」
ガキンッ!
「くそっ!」
別の盗賊が、仲間に側面へ行けと指示をする。
「回り込め!」
「ギャー」
キンッキンッ
「グフッ」
リズとカレンが、馬を操って、回り込もうとした敵を切り捨てた。
「た、たすけてくれ!・・・俺は脅されてやっただけなんだっ!」
『ありきたりな嘘をつく奴だ。[鑑定]』
名前:スネーク・ストーキン
職業:諜報員 暗殺者
HP:199
MP:129
STR:161
VIT:165
AGI:98
ING:78
MAG:173
攻撃スキル:柔術 剣術 投擲
感知スキル:魔力感知 空間感知 聴覚強化
耐性スキル:状態異常耐性
パッシブスキル:潜伏
魔法:自己回復 風魔法 水魔法 土魔法
身体強化 念話 盗聴
所属:神聖王国
『何だコイツは、劣化版執事だけど、結構優秀じゃないか、使い捨てる程いるのか?』
「殺す?」
『昏倒させて』
「了解」
ガッ!
バリアが剣の腹で顔を殴って昏倒させた。
他の奴は倒した様だ。
『こいつ、神聖王国の間者だよ。』
「盗賊じゃないの?、マジかよ、めんどくせぇ」
『内戦を引き起こす為の破壊工作ってところだろうね。』
「偵察じゃなくて?」
『偵察なら騒ぎを起こすのは、只のリスクでしかないよ、何も起きてないし、国境まで遠い場所で騒いでも、威力偵察にもならないよ。』
「なるほどね。」
『吐かせよう!』
「吐かせるって、ここで拷問でもするの?」
『甚振らない拷問やる。』
「甚振らない拷問・・・?」
『ペティにも手伝ってもらおう』
「え?いやだよ!拷問なんてムリムリ!!」
『大丈夫!ちょっとくすぐるだけだから!』
「「「くすぐる?」」」
幌馬車の荷台から笑い声と歎願する声が響き渡った。
バリア、ルース、メビウスが、それぞれ感想を言った。
「・・・やばい拷問ね・・・」
「これはひどい」
「確かに痛くないけど、苦しそう・・・」
『楽だし早いでしょ?』
「「「確かに」」」
『ペティはどうする?』
「面白いから続ける!」
「や、やめてくれ!、何でも話す!話すからっもう・・・」
これホントに便利な拷問だよね。
我慢するの難しいし、肺から空気抜けるから苦しいんだよね、ドーパミンがドバドバ出てるのに苦しいとか、混乱の極みだよね。
痛みを伴わないし、窒息する苦しみに耐えるなんて、そんな強靭な精神力の持ち主なんか、そうそう居ないんだよ。
笑わない人には効かないけど、そういう人はあんまり居ないし、感覚強化したら耐えられないんだよ。
尋問してみたら、貴族の子供を殺して、他の貴族の紋章の付いた剣とかを残しておいて、内戦を起こさせるか、混乱させようって作戦で、国内に何人か紛れ込んでいるとのこと。
全部で何人かは知らないってさ。何度もくすぐったけどムリだった。
持ってる物全部取り上げたので、川に落としちゃおう。
落とす前にペティは箱馬車に戻ってもらったよ。
貴族を襲うって事は死罪確定だ。
さっき倒した奴らは、拷問中に川に落としたよ。
そのままにしておくと、森から魔獣を誘き寄せちゃうからね。
ここの川は、実は結構深いらしい。
川幅も1kmくらいあって、デカい魚の宝庫だ。
気になったのは、タイラントライスフィッシュってやつ、体長5メートルくらいあるんだって。名前聞いて思ったのは、暴君なメダカ・・・想像できないな。でも美味いらしい。
少し進むと、また隠れてる奴らがいた。
今度は弓もいる。
『前方右側の林に3名、正面大木に弓1名!』
「迎撃準備!」
『弓の奴は・・・クロスボウ?、遠回りして排除してくる。他の奴は殺していいよ。』
今回は、兵士も参加する。
大木の幹を駆け登り、引っ掻きで枝ごと切り落とした。
驚いた様だが、掴まれる場所は無く、落ちて行った。
ドスッ!
頭から地面に突き刺さってる、地面に空洞があったらしく、穴に嵌っているらしい。
面白いから、このままにして戻ろう。
戻ってみると、何故か隠れていた奴らが全員捕縛されていた。
どうやら、弓が逃げ出したと勘違いしたらしく、投降してきたらしい。
「嵌ってるね、ププ」
「この人生きてるの?」
「何か喚いてる、うるさいから、とう!」
ゴスッ
股間に剣を落としやがった・・・。
鞘に入ってるから切れてないが、あれは痛そうだ。
男性陣がヒュッって息を吸った。
『むごい!何て酷い事をしやがるんだカレン!白目剝いて泡吹いてるじゃないか!もう、男に戻れないかもしれないぞ!?』
「た、多分大丈夫・・・?」
『疑問形にするなよ・・・』
コルス以外の兵士が、内股になってる。
こいつらは、隣の領の兵士らしく、領主の息子を殺した奴が、伯爵の紋章の付いた剣を持っていたらしい。
それって、さっきの間者が言ってた謀略そのまんまだな。
隣の領というのは、南側のフローイングヒル領の事で、ホリゾンダル領は、魔の森と大河に挟まれていて、北と南にしか隣接領が無いのだ。
みんなに紋章の付いた剣を持ってるか聞いたが、誰も持ってない。
そもそも、領主の紋章の付いた武器など、勲章と同義で、何かの大きな功績を挙げなければ、下賜される様な物ではない。
ましてや、それを武器として使うなど、普通はしないものだ。
伯爵領の兵士や騎士は、全員タグを持っていて、必要な時に懐から出して見せるんだそうだ。
「だとしたら、一体誰が・・・、俺たちは何の為にここまで来たんだ・・・」
「隣国の謀略に、まんまと引っ掛かったって事だな。解放してやるから、そのまま領主に伝えてこい。」
「忝い!この恩は必ず!」
泡吹いてる奴を担いで、帰って行ったよ。
てか、この世界にも「かたじけない」なんて言葉あるのな。
侍かよ。
何だか色々あったけど、日が暮れる前に以前野営した所までこれた。
ここは、カートをふん縛った場所だな。
日もだいぶ傾いて来てるからここで野営かと思ったが、次の街まで2時間弱の為、このまま進むらしい。
『盗賊に襲われた場所もそんなに遠くないし、街を出てすぐに襲われてたんだね。』
「そうだな、あの時逃げられれば良かったんだが、道が狭くなっている所を狙われたから、引き返せなかったんだ。」
「強行突破しようとしたら、馬車が横転しちゃったしねぇ」
『どうして横転したの?』
「道に設置型の魔法を仕掛けられてたみたいで、左側だけ跳ね上げられたんだよ。」
『そっか、左と真っ直ぐは横転、右は川に転落じゃぁ横転するしかないね』
「ん?左と真っ直ぐは横転ってどういう意味?」
『えっと、スピード早い時に曲がると、外側に引っ張られるでしょ?』
「そうだな」
『それは馬車も同じで、左側の車輪が浮き上がってる時に左に曲がると、ほぼ確実に横転するんだよ。右に曲がれば持ち直せる可能性があるが、右は川だから無理。真っ直ぐ行こうとして横転したとすれば、左に曲がったら横転どころか半回転する事も考えられる。』
「そうなんだ、そんな事よく知ってるな。」
「アル君って生まれたばっかりなのに、物知りなんだね・・・」
会話を聞いていたリズとカレンが会話に入ってきた。
「魔法か何かで親の知識をもらったとか?」
「賢者の石を持ってるとかじゃない?」
『賢者の石って何?』
リズが賢者の石の話を出してきたが、それ自体の事が判らないんだよなぁ。
「それは知らないんだ・・・、賢者の石っていうのはね、賢者の知識が詰め込まれた赤い宝石でね、持ってると賢者になれるっていう伝説があるのよ。」
『へー、でも、賢者の知識があっても、理解できないと、利用する事ができないよね?』
「うっ、そうかも・・・でも、持つだけで理解できるようになるかも?」
『突然頭の回転が良くなるって事?普通なら、混乱するだろうし、ほぼ洗脳状態じゃないの?それ』
「それが判る時点で、もう天才。それが判らなかったリズはバカ」
「はぁ?カレンだって判らなかったじゃない!」
「な、何のことかなー?」
変に誤魔化す事無く、話が逸れてよかった。
『あの事黙っておくのか?』
『その内、話すよ。』
次の街に着いた。
門で衛兵に挨拶して、素通り。
「この街はナットゥっていうの」
『納豆かぁ、食べたいなぁ。』
「違うよ、ナットゥだよ」
『言いにくいし打ちにくい。』
「打ちにくい?」
『何でも無い。』
「なっとうって美味しいの?」
『豆を発酵させた食べ物で、ネバネバしてるんだ。』
「それ腐ってるんじゃ・・・?」
街で一番高い宿屋に入った。一泊なんと金貨1枚だそうだ。
日本円に換算すると1泊100万円もする。
なんて贅沢・・・。
でも、風呂は無いらしい。
川が近いせいか、モコスタビア同様に街中に運河が流れている。
水の色が緑色で濁っているのは、汚水をそのまま運河に流しているからだそうだ。
原因が判っているなら、対処すりゃいいと思うんだが、この街の地下には超硬ったい岩盤があって、深く掘れないから、汚水処理施設を作れないらしい。
では、井戸はどうしてるのかと言えば、川から直接水を引いた水道があるみたいだが、川の水と井戸の水は違うからか、食中毒になる人も多い様だ。
『水は一旦沸かすか、消毒してから飲んだ方がいいんじゃ?』
「沸かすと大丈夫なの?」
『川には色んな、目に見えない生物がいて、そのまま飲むとお腹を下したり、寄生虫に感染したりするんだよ。魚のうんことか混じってるだろうしね。』
『元の世界では、何度もろ過して、塩素で消毒してから飲んでたな』
『ろ過?塩素?』
『というか、あのでかい空き地に処理施設を作ったらいいんじゃね?』
「あれは、確かこの街を取り仕切ってる町長の家を作るとかで、空けたらしいんだけど、住民の反発で反故にされたらしいよ」
『使い道が無いなら、あそこでスライムを飼えばいいじゃん』
「スライムは、日の当たらない所じゃないと狙われるから」
『何に?』
「なんとか鷲だっけ?」
「通称スライム鷲ですね」
『鷲型のスライム?』
「じゃなくて、スライムを食べる鷲」
『へぇ、そんなのいるんだ』
「だから屋外じゃ飼えないの」
『屋根付けりゃいいじゃん』
「「!?」」
「みんなそういうんだけど、スライムがいなくなっちゃうのよ」
『なんで?』
「街中に散らばっちゃうのよ。」
『地面ってどれくらいの深さで岩盤に当たるの?』
「地下室の床が岩盤って話は聞いた事があるわね。」
『運河の深さはどれくらい?』
「そんなに深くないわね、腰までの深さらしいわ」
『浄化する木とか無いの?』
「浄化する木・・・無くは無いけど、管理が大変なのよね・・・。」
『あるのか。管理とは?』
「凄く強力で、森を枯らしちゃうくらい?」
『森だと、栄養が少ないんだろうな。ここなら汚水を集めてやればいいんじゃね?』
「そうかも。お父様に連絡してみるわ。」
『岩盤ってのも掘ってみたいが・・・』
「「!?」」
「駄目だよ?明日には発つんだからね?」
『ですよねー。別の機会にするか。』
そんな事よりも、街の飲み水の方が、優先度は高いな。
「飲み水の方も、何とかしなきゃだよね?」
『そうだな、飲む前に[クリーン]かけたらいいんじゃないか?』
「かけてる筈よ。」
『かけてるのに腹を壊す?、毒でも入ってるんじゃないのか?』
「川の水が毒だって言うの?」
『川から街までの途中で使ってる木材に含まれてるとか、可能性が高いとすれば、鉛かなぁ?』
水差しの水をコップに入れてみると、毒の反応があった。
『やっぱり毒が含まれてるな。』
「どこで毒が入るんだろう?」
『水道用の管に、鉛とか使ってないか?』
「鉛?使う可能性があるの?」
『腐食しにくいし、加工もし易いから、使われている可能性があるんだよ。』
「鉛が使われてると、毒になるの?」
『鉛が毒だからな。』
日本の水道管も少し前までは、普通に鉛管を使っていた。
健康被害や、漏水が多いから、今は塩ビらしいけどね。
『まぁ、ここの話は追々って感じにしかならないか。』
「そうだね、一晩じゃ何もできないからね。」
「手紙でお父様に相談しておくわ!」
「健康被害に繋がるのなら、早急に対応してもらわないといけないですね。」
夕飯が部屋に運ばれてきた。メニューは、全部塩味だな。
相変わらずこの国の食事は、稚拙というか何というか、芸が無い。
出汁もとってないから、食べてる間に飽きてくる。
『お、このハーブ入りの塩は美味いな』
スープにブーケガルニは使ってるっぽいが旨味が少ない、というか、これは甘みが入ってないから、塩味がきつく感じるんじゃないだろうか・・・。
野菜を煮込めば、多少は甘みが出るから、もう少し塩味が和らぎそうな物なんだけど、しょっぱいな。
『これが、高級宿の食事とは・・・、この宿ちょっとぼったくりなんじゃないの?』
「そうかも知れない、これはちょっと酷いわ」
「伯爵家の食事に慣れると、結構きついですね。」
今回は大人数なので、ペティは隣の大部屋に一人、俺と主は8畳間くらいのシングル、3バカ騎士は従者用の二人部屋にベッドを1台追加した。兵士はもう一つあった大部屋にベッドを追加して4人部屋として使っている。
ペティが一緒にいるのは、一人じゃさみしいから寝る前まで一緒に居たいらしい。
ペティは屋敷にいる時も、座ればアルティスに膝の上に乗れと言ってくる。
撫でてくれるのはうれしいが、段々肉球ぷにぷにしたり、尻尾をもて遊んだり、持ち上げて頬擦りしたりと忙しない。
ゆっくり出来ないので、1時間ほどで逃げる羽目になり、結局はアーリアの所か、手の届かない所に行くことになる。
一緒に寝ると、寝相でごろごろ動き回るから、ゆっくり寝てられない。
下手すると押しつぶされそうになるので、熟睡できないのだ。
猫は子供が嫌いって、こういう事なんだなとしみじみ思う。
アーリアは、一緒に寝る事は無くて、専用の寝床を作ってくれる。
野営の時に、ハーフプレートの中に作られた時は遠慮した。
一日中着けてるし、洗わないし、だから、ねぇ、判るでしょ?
あの後は、大変だったんだよ。
「アルティスは、私の事を臭いと思ってるのか・・・。」
『汗が染み込んで、濃縮された臭いがするんだよ?、自分で嗅いでみなよ?』
「そんなに酷い臭いな訳が・・・」
ガランガラン
ドサッ
『あ、あるじが倒れた!?』
「え!?、何だ!どうしたんだい!?」
『自分の鎧の臭いを嗅いだら、こうなったんだよ。』
「あー・・・、それは、仕方ないな。私らだって、気にはなるけど、嗅がないもの」
「鎧は凄い臭いのに、肌はそんなでもないって、凄いよね。」
「リズは臭い」
「ああ?、カレン、何か文句あんの?。」
「リズは、汗かき。私は、汗かかない。」
『喧嘩はやめなさい。生活魔法の[デオドラント]かけなよ。』
「でおどらんと?、何それ?」
『あれ?知らないの?[デオドラント]』
「リズの悪臭が消えた!?」
「誰が悪臭よ!、でもホントに臭いが消えたわ!?」
知らなかったのかよ、使えよお前ら臭いんだから。
「[デオドラント]」
「凄い!臭いが消え・・・あれ?、また臭ってきた。」
『鎧に臭いが染みついてるんだろ。[フレグランス]』
「あ!、いい匂いに変わった!」
『[フレグランスフェロモン]』
「ぎゃ!?、臭っ!、ちょっとバリア離れて!」
『あぁ、同性だから臭いのか』
「ちょ、アルティスさん?、臭いのか、じゃなくて!やめてくださいよ!」
「ちょっと、バリア?、[デオドラント]かけなさいよ!」
「アル君の魔法に勝てる訳無い」
『[デオドラント]』
「ふぅ、治まった。私は無臭がいいです!」
『もてなくなるぞ?』
「え?そうなんですか?、じゃぁ多用するのは駄目ね。」
「リズ、気になる子でもできたの?」
「んー、まだ、かな。」
『あいつはやめておいた方がいいと思うぞ?』
「え?、判るんですか?」
『目で追ってたからな。』
「言わないで下さいね!」
『付き合いたいなら、応援はしてやるが、責任は持てないぞ?』
「恋愛禁止じゃないんですね?」
『こそこそやられるより、堂々とさせた方が扱いやすいからな。』
「堂々と何をさせるんですか?」
『恋愛だけど、他に何を考えてるんだ?』
「ちょ、ちが、違いますよ!?、変な妄想とかしてませんから!」
『俺は、まだ何も言ってないんだけどなぁ。』
バリアとカレンが赤くなって、横を向いている。
『ちゃんと、発散しとけよ?』
「「「しませんから!?」」」
あの後、3人ともそそくさと自分たちのテントに戻って行った。
アーリアの事を忘れて。
『あるじ、あるじ、起きて。』
「うーん・・・」
『そんな所に寝たら、風邪ひくよ?』
「はっ!、なぜこんな所に寝てたんだ?」
『鎧の臭いを嗅いで、倒れたんだよ。』
「そ、そうか。疑って悪かったな。」
『ほら、ちゃんと寝床に行って寝て。』
『[ステラライズ]、[デオドラント]、[フレグランスフローラル]』
「何だ?それは。」
『鎧の臭いを取ったんだよ。』
「本当だ!いい香りがする!」
『これで、倒れる事はないでしょ。』
「ありがとう!アルティス!」
一夜明けて、王都に向けて出発した。
朝食はノーコメント。
酸っぱくてしょっぱかったとだけ言っておこう。
次の街への道は、林とだだっ広い平原のみ。
何でこんな平原を畑にしないのか不思議だったんだけど、この辺の土地は耕しても育たないんだとか。そういえば、生えてる草も余り伸びてないな。
原因は判っていないが、何をやっても駄目らしい。
この周辺では、異形の動物や、魔獣が多くいるらしく、村を作って住んでいた人たちは、謎の病気にかかったり、忌み子が産まれたりで、滅んでしまったとか。
鑑定してみたら、土に毒が含まれているらしい。周辺全てが毒状態になると、常時発動の毒感知がよく判らない状態になるらしい。
変な色の草だなーって思ってたら、毒感知の輪郭が光る現象で、色が変に見えてただけで、近くで見れば普通の雑草だった。
でも、広範囲の毒で、病気?どこかで聞いた事があるような、無いような。
ははは・・・まさかね。無いよね?
草原を抜けた頃、兵士達の体調が思わしくない状態になった。
何か、だるいとか吐き気がするとか。
いやいやいや、まさかまさかのアレですか?アレなの?。
鑑定では「毒」としか出ない。アレなら「曝」だから違うよね?
魔法薬の毒消しを飲ませたら治った。
やっぱり似てるけど毒なんだな。
紛らわしい。
平原の名前を聞いてみた。
「シーベルト平原だよ」
おい。
しかも、範囲はほぼ円形らしい。
おい、やめろ。
「中心には円形の深い穴があるんだよ。そこから毒が噴き出してると言われているね。」
深い穴・・・ウランでも露出してるとかか?。ある可能性は高いが、存在しない可能性もあるしな・・・どうしたものか。
「どうしたの?気分悪いの?」
『[アルケミー・エクストラクト・ウラン238]』
出ないな・・・、やっぱり違うのか?
『[アルケミー・エクストラクト・ポイズン]』
ブクブク
『[鑑定]・・・〈ヒュドラの溜息〉』
『ヒュドラかーい!、もう!、焦ったじゃないか!』
この世界にもあんな物がある可能性が!、とか思ったら、全然違う毒であった。
要らないよね、あんな物があったら、徹底的に回収して、ディメンションホールに死蔵してやるが。
「ここは、建国前からこんな状態だったらしいけどね。」
「古代遺跡があるらしいんだけど、調査しようにも、みんなすぐに体調を崩すからできないんだって。」
『ヒュドラの毒って、そんなに強力なの?』
「調査に参加した人達も全員死んだって話よ。だから、呪われたとかで一時期話題になってたわ。」
呪いね、確かに呪いといっても過言では無いな。
呪われてるのは、ヒュドラの方かも知れないけど。
だって、〈吐息〉ではなくて、〈溜息〉なんだもんね。
きっと、憂鬱になる呪いでも受けたんじゃないかな?
毒消しを使っても一時的にしか改善しないんだそうだけど、そりゃそうだろ。
根本的な毒が排除できてないんだから。安全な所に行って使えって話だ。
『[アルケミー・エクストラクト・テトロドトキシン]』
ブクブク
毒の抽出はできたが、まだ原液には毒の反応がある。
即効性のある毒ではないが、複数の毒成分が混ざり合って、できているのだろう。
「ヒュドラの毒なのか?、中心の穴の中にヒュドラがいるとしても、近づけないんじゃ対処の使用が無いな。」
アルティスは、馬車から降りて魔法を使った。
『[エリア・アンチドート・ピラー]!』
街道沿いに、アンチドート効果のある柱が100本並んだが、MPが半分以上減ってしまった。
フラフラになりながら馬車に戻ると、そのまま寝てしまった。
一気に半減すると、流石に疲れが凄くて、二人が慌ててる気がしないでもないが、もうムリ・・・。
ステータスには、[エリア・アンチドート・ピラー]が追加されていた。
平原を抜けると、白樺の様な白い樹皮の木の森になっていた。
ここは茸の森と呼ばれていて、茸系モンスターが沢山いるんだとか。
スメリーファンガスとか、ホーンマッシュルームとかグリフォラファンガスとか。
最初が、松茸で次がエリンギ、三つ目が舞茸だったかな。美味そうな奴らだな。
アルティスは、休憩したら、だいぶ楽になったので、食材を狩りに行こうと思った。
『ファンガス狩ろうぜ!』
「「「「「「「!?」」」」」」」
「駄目ですよ!、粉にかかると混乱して脱いだり、走ってどっか行っちゃったりするんですよ!?」
『え?、脱ぐの?それは見たくないな』
「何か凄くバカにされてる様な・・・・」
誰もリズの裸を見たくないとは、言って無いだろ?
「木製の物に粉が付くと、茸が生えてくるんですよ?」
『それはいいじゃないか、食料が増える。』
「壊れやすくなるんですが!?」
コルスが、諦めさせようと説得してきた。
『遭遇した馬車とかどうなるんだ?』
「遭遇したら不運としか言いようが無いですね。」
不運に会う前に、殲滅してしまえば、問題無いじゃないか。
『じゃぁ、やっぱり遭遇する前に排除しなきゃ!』
などと言ってるそばから、出てきたよ。
「モルトファンガス出ました!」
「近づけるなよ!」
「速攻で倒せ!」
『モルトファンガス!?酵母じゃないか!絶対に持ち帰るぞ!』
「持ち帰るの!?、食料腐るよ!?」
『空いてる樽にでも入れとけばいいじゃん!、これでパンがフカフカで美味くなる!』
「よし!持って行こう!!」
アーリアに気合がはいった!。
胞子を出す前に、リズの一撃で倒した。
麦を入れていた樽が一つ空になっていたので、そこに倒したモルトファンガスと水を入れておいた。この水をパン生地に混ぜたら、ふわふわの白パンになるかもしれない。
「グリフォラファンガス来ます!!」
『今度は舞茸か、天ぷら食いたいな・・・』
「行くぞ!!続け!!」
「な、なんか、アーリア気合入ってない?」
「そ、そうだね、いつにも増して積極的というか・・・」
「ちょっと怖い。」
「こらっ!ぼさっとするな!次来るぞ!」
「オイスターファンガス来ます!」
『オイスターマッシュルームの事か?確か、ひらたけだったかな?。鍋に入れると美味いんだよなぁ。』
「左からフライアガリス来ます!火魔法準備!」
『フライアガリックならベニテング茸か・・・あれは死なないけど、幻覚と錯乱だったかな?』
「燃やせ!」
『でも、美味いって聞いたことあるんだよなぁ・・・』
「燃やすな!」
「「どっち!?」」
結局燃やさずに倒したらしい。
ベニテング茸は、確か茹でると毒が分解されるんだったかな?耐性が付くと生でもいける人もいるらしいが、幻覚と錯乱を何度か経験すれば、耐性がつくんだろう。
みんなは試しちゃ駄目だよ?、食べたい人は、長野県に食べる地域があるから、そこで専門家に教わってからにしてね。
症状に激しい嘔吐ってのもあったから、試したいとは思わないが。
激しい嘔吐は、時に人を死に追いやる事があるからね。
いつの間にか、食いしん坊キャラになってた、アーリアは置いといて、フライアガリックじゃなくて、フライアガリスは、叩き切ったら粉々に砕け散ったらしい。
破片を拾うか聞かれたけど、放置でいいでしょ。
アーリアが半べそである。
グリフォラファンガスは、かなりでかい。クジャクの羽を拡げた様な大きさがあるな。
舞茸って、肉を柔らかくする作用もあるから、肉があったら漬けておくのもいいかもしれない。
森を抜ける前に、白い樹皮を少し取っておく。これは、ペラペラに剝けるんだけど、火口としても優秀なんだよね。
樹皮を剝きに行ったら一本だけトレントがいた。トレントの木材は、丈夫で燃えにくく、魔力の通りもいいので、魔法用の杖として売れるらしいので、倒したら馬車に積んでいく。
枝も切り払って束ねて持っていくと、高値で売れるらしい。
これは、殆ど加工の必要が無い魔法用のスティックになるんだとか。
白樺?のトレントは、希少性が高くて、普通のトレントと比べると、倍近い値段で売れるらしく、ペティがウハウハしてる。
『ペティのスティックに使ってみる?』
「いいの!?」
『凄い豪華バージョン、ちょっと豪華バージョン、微妙に贅沢バージョン、ピンポイントアクセントで華麗に見せるバージョン、シンプル・イズ・ザ・ベストバージョンのどれがいい?』
「どのくらいの違いがあるのよ?」
『神話級、国宝級、レア級、伯爵級、一般級かな?』
「じゃぁ、ピンポイントで華麗に見せるバージョンにするわ。」
『ほい、柄頭にキラリと光るエメラルド、その下には小さな魔力鉱石が入ってて、魔力補助50%にMP増加30%、風魔法にボーナスが付く、いい感じのスティックに仕上がったよ!』
「こらーっ!!それは国宝級よ!国・宝・級!しかも魔力鉱石って、そんなの入れたら白金貨何枚分になると思ってるの!?」
『えー、ペティの為に作ったのに、怒られちゃったよー。』
「もう!シンプルな奴にして!それなら普段使いできるかも知れないわ!」
『じゃぁ、ほい、余計な宝石は全部廃したけれど、柄の中には魔力鉱石が隠れていて、攻撃力UP50%と魔力効率30%UP、魔力操作補助もついて、このスティックで練習すれば、誰でも魔力操作が覚えられちゃう優れモノ!』
「こらーっ!これも国宝級じゃないの!!国・宝・級!!見た目には目立たなくても、性能がヤバ過ぎるわよ!」
『じゃぁ、どんなのならいいの?』
「10%前後くらいなら許せるわ。」
『元がへなちょこなのに、そんなに効果の低い補助があったって、殆ど変化しないじゃん。』
「ガーン、へなちょこって・・・ショックだわ。」
ペティのMAGは418、これを10%上げた所で450を超える程度にしかならず、蚊が虻に変わった程度の違いしかないのだ。
元の数値が1000とかあれば、1割増で100増えるから、差がはっきりと出るだろう。
つまり、微妙な効果なんか、あっても無くても変わらないって事だよね。
『そんな事より、もうちょっと頑張れば、450近くになるし、多分MPも倍になると思うよ?』
「!?」
「何故、そんな事が判るんだ?」
『んー、何となく?、多分初期値は180なんじゃないかと思ってね。』
「何で知ってるの!?」
『じゃぁ、間違いないね。どれくらいで上がるかは判らないけど、毎日頑張れば、ひと月くらいで上がるんじゃないかな?』
「頑張るわ!!でも、そのスティックは使えないわ!的が壊れちゃうもの!」
『撃たなきゃいいじゃん。ウォーターで練習しなよ。』
ペティがやる気を出して、練習し始めたよ。