第57話 ベーグル共和国への侵攻と軍事同盟
「実は、タカール商会の事で隣国から、賠償請求を求められているのです。第三騎士団の団長が、我が国の使者として、勝手にタカール商会を保障してまして、賠償金として白金貨2000枚を請求すると、使者が書状を持って来たのです。」
『ほう、何の賠償金としてですか?』
「貴族の支払った宝飾品や美術品等が、全て贋作だったとかで、それに支払った金額の合計が、白金貨2000枚なのだそうです。」
また、タカール商会かよ。
都市国家群にまで手を広げていたとか、手広く儲けていたんだな。
その儲けた金は、一体どこに消えたんだか。
『突っぱねればいいのでは?騙された方が悪いのですし、武力に訴えるのであれば、受けて立つと言えばいい。』
「戦争になってしまうでは無いですか!?」
『なりませんよ?できる訳が無いですよね?贋作を掴まされた貴族しか居ません!と内外に宣伝する様な物ですよ?下手したら、内乱の危機ですよ。一商人に大枚を騙し取られたなんて、そんな事を理由に、戦争を始められる馬鹿は居ませんよ。』
「既に国境に軍が配備されているのですよ。戦争を回避するには、賠償金を払えと言われておりまして。」
既に国境に軍を配備させているらしい。
初めから、脅すつもりで使者を送り込んできた様だ。
だが、賠償金を貰った処で、恥の上塗りの様な気もするんだよな。
駄目貴族のケツを国が拭くなど、普通は国内で処理する案件だし、対外的に賠償請求などしたら、国内の弱点を暴露している様な物だよ?だが、そういうのを無視する元首がいる国もあるにはある。
バネナ王国としては、折角国交を開始したマルグリッド王国が、無くなってしまうのは不都合ではあるのだ、軍事で解決できるのなら、話は早い。
さっさとやるべき事を進めて、解決してしまおうと思う。
『ふむ、では、我が国と軍事同盟を組みましょう。であれば、我が軍を配備できます。相手はどこですか?』
「ベーグル共和国です。かの国は、都市国家をいくつも併呑して大きくなりつつあります。軍事力もかつてない程に強大になりつつあり、我が国の国境を脅かしているのです。」
『ベーグル?だから、密偵が居たのか。コルス、調査よろしく。あと、ソ隊から数人を国境に派遣しておいて。』
『了解』
「軍事同盟を結ぶというのは、我が国にとって願っても無い事ですが、貴国にはメリットが無いのではないですか?」
『メリットならありますよ。先日国交を再開しましたし、友好条約も締結しました。貿易も進行しつつありますし、今マルグリッド王国の国力が低下するのは、我が国にとって、損失でしかない。また、貴国の防具が駄目なら、我が国の防具を融通する事で、一定の解決は望めますし、貴国の産業が発展すれば、貿易摩擦も軽減するでしょう。それに、都市国家群と軍事的に揉めたとしても、我が国の軍が負ける事等無いと自負していますから、いい宣伝になるでしょう。』
「宣伝とは?」
『簡単には、攻め込めない国という事ですよ。一時期は滅亡寸前とまで言われていた様ですし、我が国を狙っている国もある可能性が高いですから。新進気鋭のベーグルの軍を退けたとなれば、早々狙おうなどと思う国も無くなるでしょう?』
「確かに。だが、リルパーク海を経由してくる可能性もある。貴国には海軍が無いのではないか?」
あのデカい海は、リルパーク海というのか。
あそこは、黒海と同等の広さがあるから、バネナ王国の内海とは、規模が全然違うんだよな。
沿岸部にしか島が無いから、深さも相当なものがあるのだろう。
どこかの島にはセイレーンの村がある筈だから、協力を得られるかもしれない。
『セイレーンがいますよ。我が国は、セイレーンとも良好な関係を築いていますから、助力を願えば、すぐさま駆けつけてくれるでしょう。』
「海岸からセイレーン達が消えたと報告がありましたが、もしかして・・・」
『あぁ、うちかも知れませんね。聞いてみましょう。シーア、リルパーク海にいたセイレーンは、今どこにいるか判る?』
『あ、アルティス様、リルパーク海のセイレーンとは、連絡が付かないんです。探しに行きたいのですが、いいでしょうか?』
『何かあったと考えるべきか。探しに行くのなら、慎重にな。』
『畏まりました。』
連絡が取れないという事は、何かのトラブルに見舞われている可能性が高いという事だ。
シーアとスーアは、アミュレットのMPを使って、テレポートで移動できるから、機動力が高い上に、最近では筋力の鍛錬もやっているそうなので、戦闘力もアップしている。
何らかのトラブルがあっても、彼女らなら大丈夫だろう。
『アルティス様!セイレーンの村が深刻な食糧難に陥っています!助けてください!!』
『判った。すぐに対応しよう。輜重部隊出動準備、ユノ、ユラ、ユリ、ユワ、ユメは輜重部隊の護衛でついて来い。ゲートを開くまでに準備しろ。』
『マルグリッド王、リルパーク海のセイレーンの村が非常事態に陥っているので、少し対応してきます。会談中に申し訳ありません。すぐ戻ります。カレンはここにいろ。』
シュン
シーアの下にテレポートで飛んでみると、そこにはガリガリにやせ細ったセイレーン達がいた。
シーアが干物を焼いて分け与えている様だ。
『今ゲートを開く。ユ隊も5人来るから、必要なら網や釣り糸を作ってもらえ。[ワープゲート]』
「ありがとうございます!原因が判りましたら、ご連絡します!」
『頼む。ゲートは閉じ方判るな?』
「問題ありません。お任せください!」
『頼んだぞ。』
シュン
『お待たせして申し訳ございません。今戻りました。』
マルグリッド王は、セイレーンの村に何があったのか知りたい様だ。
「おお、何かあったのですか?」
『食料の調達に何か問題があったようですね。詳しくは判りませんが、ベーグルからほど近い島でしたから、何か妨害を受けているのかもしれませんね。』
カレンが疑問をぶつけてきた。
「人族でセイレーンにちょっかいを出すなんて、無謀としか思えませんが?」
『全くない事も無いだろうな。対抗策が無い事も無いしな。』
「会話が成り立たないと思いますが?」
『それも対応は可能だ。ハンドサインという手があるし、ボードサインという手もあるな。初めからメッセージを決めておけば、簡単な合図や命令くらいは問題無い。対策をしていても、念話は聞こえるしな。』
「では、狙われたという事でしょうか?」
『判らないな。クラーケンが出たのかもしれないし、他の魔獣かもしれない。もしくは、若手が居なくなったとか、現時点では、何とも言えないよ。情報が少なすぎる。ただ、海の色が茶色だったのが気になるところだな。』
海の色を聞いて、マルグリッド王が心当たりがある様な仕草を見せた。
「その辺りの海水は、近年、変色が度々見られる様になりました。水深も浅い所があるのと、水温が高い場所が数カ所あるのですよ。」
『火山・・・噴火に気を付けた方がいいですね。普段何も無くても、海水温が上がるのと、海が変色するのは、火山活動が活発になっている証拠かもしれません。』
「山は無いのだが?」
『海水が無くなれば山になるのでは無いですか?海底も地面ですから、火山活動が海底で起こる可能性も、無い訳では無いですよ。火山には、空中も海中も関係ありませんからね。』
「噴火したらどうなるのかね?」
『噴火の度合いにもよりますね。最悪の場合は、大爆発と津波、大量の軽石の漂着、火山灰に、有毒ガス、海水の変色と急激な温度変化、そして、長期化。ただ、悪い話ばかりでは無く、大量の小魚が湧く可能性もあるので、餌を求めて大物もよって来る事もありますよ。』
「その、津波とは何だね?」
『津波とは、池に石を投げ入れると波が広がりますよね?それは海底火山の噴火でも発生するんですよ。そうすると、巨大な波が海沿いを襲う事になるので、その現象の事を津波と言います。普通の波とは違うので、舐めてると被害が甚大になったりしますよ。』
「防ぐ事は可能かね?」
『普通の人間では無理ですね。魔法使いでも厳しいです。私なら可能ですが、カレンでは厳しいかもしれませんね。』
カレンは、魔法の種類は豊富に覚えているが、練度が足りない為に、波の威力に押し負ける可能性が高いと思う。
水の圧力なんて、知らない人は知らないからね。
「精進します。」
『魔法の練習と、勉強だな。物理の勉強が必要だ。』
「うっ、お、お手柔らかにお願いします。」
とりあえず、カレンの事は後回しだ。
先に決めるべきは、ベーグルに対する事案だ。
セイレーンについては、結果を待って対応すれば問題無い。
『とりあえず、向こうは結果待ちだな。先にベーグルの件をどうするか決めてしまいませんか?』
「そうですな。その・・・バネナ王国は、今後も強気の外交を続けるという事で、間違いは無いのですかな?」
『外交で弱気は、漬け込まれるだけだと思っています。一旦引いてから、出方を見て対応を決める方法もありますが、国を守る為には、攻め込まれるという可能性を排除したいので、攻め込まれない為の軍備と姿勢を示すのです。弱気な姿勢を見せてしまうと、相手はどんどんつけあがるだけですよ。でも、虚勢だけでは綱渡りになってしまいますし、ベーグルの様に優秀な密偵を使っている国ならば、事前に情報を集めているでしょうし、無い物ねだりの虚勢では、戦争の引き金になりかねないですね。』
「戦力あっての強気、ですか。確かに、対抗できる手段も無く、虚勢を張っても相手を怒らせて、攻め込む口実を与えるだけですな。しかし、大陸全土の戦力が上がってしまっては、今と変わらなくなってしまうのではないか?」
『そこからは、装備の差になります。今も同じですね。我が国は戦力で差別化できていますが、貴国は隣国の兵との差がありません。そこに差を付けるとすれば、装備を向上させるしか無いという訳です。』
「むぅ・・・、だが、装備もすぐに調達できる訳では無いと思うが、そこはどうするのだ?」
『ある所から買えばいいのですよ。我が国には在庫もありますよ?ドワーフに貸していた装備が返却されましたからね。』
「貸してもらう事は・・・」
『1か月間、お試し期間という事でお貸ししましょう。紛失した場合は弁償してもらいますが、その場合の費用は、迷惑料、秘匿技術漏洩に対する賠償金、装備自体の費用、捜索に関わる経費、合わせて白金貨100枚と云った処でしょうか。』
「紛失した者は死罪確定と伝えておきましょう。」
『甘いですね。殺すより、徹底的に鍛えて、死ぬまで最前線で戦わせる方が余計なコストがかからなくていいですよ?当然犯罪奴隷として、自由は認めませんから、罰として成立します。』
「犯罪者は全員兵士にさせるのであるか?」
『労働奴隷にする場合もありますよ。農地を耕すのに使っていますが、労働の為に無駄に耕す事はしていません。とは言っても、カバー範囲が広いので、毎日重労働がある様ですがね。』
バネナ王国では、捕まえた重犯罪者の内、一部は農村部に送り、毎日糞尿の回収と堆肥作りをやらせている。
農業で土づくりは重要だからな。
畑に混ぜて耕す作業を毎日、収穫が終わった畑を次々と進めていくので、大忙しなのだ。
「我が国の奴隷紋や首輪の効力が低すぎて、すぐに脱走される事が頻発しまして、我が国では諦めたのですよ。」
マルグリッド王の話では、隷属がすぐに解除されてしまうというが、そんな事はほぼあり得ない話だ。
『それは、単純に協力者がいて、隷属解除をしただけですよ。奴隷紋の上書きには、設定者の10倍のMAGが必要ですし、強制解除でも5倍は必要です。人族の平均値からすると、エルフか妖狐か竜人族でも居ない限り、強制解除は無理ですね。だから、術者本人が解除したのでしょうね。』
「それは、ありえん。術者とは私の事だからな。」
術者は自分だというが、この人、契約魔法を使えないじゃん。
装備に隷属に関する物も付与されていないし、王冠の効果を隷属と間違えている、若しくはそう教えられた可能性が高いな。
『あぁ、その王冠の効果ですか。何か勘違いをしてらっしゃる様なので、お伝え致しますが、その王冠の効果は、契約魔法ではなくて、軽い精神魔法効果を発揮するだけですよ。隷属させるのは契約魔法なので、その王冠の効果では不可能です。王杖にも契約魔法を補助するような付与はありませんし、マルグリッド王が契約魔法を会得している事も無いですね。以前、その様な儀式を行っていたとすれば、近くに魔法を使える者が居ませんでしたか?』
「魔法騎士団長・・・。」
『その者が裏でフォローしていたのでしょう。』
「騎士団長は代替わりして、今も近くにいるのだが?」
つまり、代替わりする前までの騎士団長は、真面目に隷属魔法を使ってやっているフリをしていた。
今の騎士団長は、そもそも隷属魔法を使っていないか、使った後ですぐに解除しているのだろう。
マルグリッドは貧乏国なので、金を掴まされると、簡単に落とされてしまう様だな。
『仕事をしていないか、なりすましか、買収されたかのどれかでしょうね。』
「おい、魔法騎士団長を呼べ。」
マルグリッド王が側近の者に、騎士団長を呼ぶよう指示を出した。
今回は、侯爵閣下は同席していない。
防具の話の嘘を王に進言した者を、捕らえに行っている。
魔法騎士団長が応接間にやってきた。
「魔法騎士団団長のペッテン・ブライブリーと申します。バネナ王国宰相アルティス様の名は、最近よく耳にしております。噂では身長2mの大男だったり、オレンジ髪の女性と聞いておりましたが、オレンジ髪の方が正解だったようですな。」
「私では無い。私はアルティス様の護衛だ。アルティス様はこちらだ。ふざけた事を言う様なら、首が落ちる覚悟が必要だな。」
『カレン、殺気を抑えろ。騎士団長殿が醜態を晒しておられる。戦場でこんなでは、役に立ちそうに無いな。相手の力量も量れず、MAGも見抜けないとは情けない。MAG400で騎士団長とは、随分とレベルの低い騎士団ですな。』
「やはりか・・・。こ奴の親は、ベーグルにほど近い所に領がある、ブライブリー伯爵なのだが、魔法が得意とは聞いた事が無かったのでな、何故前団長がこんな奴を選んだのか、意味が判らなかったのだよ。」
何か口調に違和感があるな。
偉そうな口調を真似てる感が凄いのだ。
『ふむ、でも、承認したのは王だ。人の意見ばかりで、自分の意見を通さない王は、統治能力を疑われても、文句は言えないですね。そもそも、初めから認められないと思っていたのなら、認めなければいいだけの話。騎士団長不在で、何か問題でもありましたか?』
「手厳しいご意見ですな。だが言い返せぬのも事実。アルティス殿ならば、こ奴の処遇はどの様にしますかな?」
『国家反逆罪で、奴隷にしますね。金で地位を、しかも騎士団長という国の防衛に寄与するべき立場を金で買うなど、万死に値する行為ですよ。ブライブリー伯爵共々、極刑に処すべきですな。そして、国としての姿勢を家臣に示すべきです。反逆は許さないと。』
ペッテンの処遇について、アルティスに意見を求めた王に対し、徹底的に処罰すると意見を述べたアルティス。
二人の顔を交互に見比べながら、自分が何か粗相を侵したのではないかという事場違いな事を考えているペッテン。
ふと思い出したのは、アルティスに詫びの言葉を言っていないという事だ。
「あ、アルティス様、御挨拶が遅れ、大変失礼を致しました。先程は、護衛の方に気を取られ、宰相殿ご本人に気付かず、ご気分を害してしまいました事をお詫び申し上げます。」
ペッテンが詫びを入れたにも関わらず、アルティスからの返答も反応も無く、イラついた。
チラリと王を見て、アルティスの方に視線を向けると、自分の顔の下に銀色に光る物が見えた。
「アルティス様に反応してもらえない程度で、イラつくとはいい度胸をしているな。身の程を知らぬとは、正に貴様の事だ。」
カレンの殺気を受けて、ペッテンは泡を吹いて倒れた。
『どうしますか?捕縛か解放か、それに依ってこちらの対応も変わりますので。』
「この者を生かす方向では、対応できぬか?」
『できなくは無いですが、時間が掛かりますね。この者のセンスにも左右されますし、この者のステータスを見ても、とてもセンスがある様には見えませんね。センスがいい者としては、パーカーがいい感じだったな。』
「では、この者を捕らえろ。ブライブリー伯爵もすぐさま兵を出して、捕らえろ!」
『いい判断だ。では、話を進めようか。マルグリッド王よ、私が前回渡したアミュレットはどうされたのかな?ゴーグルも無い様だが、よもや、無くされたという訳では無いよな?』
ずっと違和感が拭えなかったのだが、ペッテンを鑑定したついでに王を見て、理由が判った。
こいつは偽物だった訳だ。
『コルス、本物の王を探せ。王城内に魔力反応は無いから、違う所に幽閉されているとみて、間違いは無いだろう。ビーコンが発動しない所を見ると、本人に自覚が無いのかもしれないな。』
『畏まりました。』
「こいつはどうしますか?」
『何者なのかを吐かせるか。』
「アルティス宰相殿はご乱心なされた。捕縛せよ!」
「・・・無理言わないで下さい。無理に決まってるでしょ?気付いてないんですか?アラクネいるんですよ?我々に勝ち目は無いです。」
こいつらの胸についているブローチは、どこかと通信している様だから、結界で遮断しておくか。
何々?この魔道具は、映像を送れるのか!MP消費は多いが、画期的な魔道具だな。
ちょっと似てる物と交換しておこう。
「何でアラクネがこんな所に!?」
『俺の護衛だからな。さて、ベーグルの者かな?マルグリッド王はどこにいるのかな?答えの内容に因っては、手が出るかもしれないが、遅くても手が出るから諦めてくれ。』
「理不尽!?」
『ん?当たり前だろ?敵対してんだから。敵に優しくしてどうする、何をしたってここで口を封じてしまえば、誰にもわからないんだからな。』
「私のこの胸の魔道具は、我が国にここでの会話の内容を全て、送っているのですよ。ですから、密室には成りえませんよ。残念でしたね。」
『知ってるが?これだろ?護衛の方は隙が無くて難しいが、お前は隙だらけだから、すり替えるのも簡単だったよ。どうせ結界を張られているのにも気が付いて無いんだろ?自信満々だったんだろうが、甘いよ。ついでに言えば、ベーグルの民衆がうるさいのであれば、国ごと潰してやってもいいんだがな?』
脅しながら抑えていた魔力を少し解放してやると、二人共土下座した。
カレンが強い事には気付いていたが、アルティスは弱いと侮っていた様だ。
相手の力量を推し量れる程の実力者では無い彼等でも、アルティスの魔力はプレッシャーに感じられ、自分達では到底敵わない事を悟った様だ。
「やばいやばいやばいやばい!?ヤバ過ぎるでしょ!こんなの勝てないよ!!どうすんのさ!」
「オードル様、声に出てますよ。」
『おお、そうだった。君らの本名を聞いて無かったな。5秒以内に言え。』
「オードル・アルバトロスです!」
「カーム・コンシューマブルと申します。」
『マルグリッド王はどこだ?』
「・・・」
『カレン、首を斬れ。』
「はっ!」
「ちょ、ちょちょちょ、待って待って、本当に知らないんです!本当ですよ!?」
「・・・演技が下手過ぎますよ。よくそれで受かりましたね?」
「ひいいいぃぃ、裏切るなよ!」
「裏切るも何も、あなたの演技が下手過ぎて、嘘をついているのがバレバレなんですよ。」
『というか、その茶番はいつまで続くんだ?コンシューマの口を封じろ。アホウドリにアレを舐めさせて拷問しろ。それで喋るだろ。』
消耗品の癖に優秀な護衛の口を封じ、怯えるフリを続ける口軽を拷問にかける事にした。
舐めさせるアレとは、オークのキャンタマである。
食べると興奮するのだが、舐めた程度では感覚が鋭敏になるだけで、脇腹や腋の下、足の裏等を触るだけで大爆笑になるのだ。
本来は、別の用途で使われそうではあるが、液化できないのと、玉入りの袋の表面を舐めさせなければならず、見た目がアレなので、実用性は無い様だ。
アルティスの出したソレを見たアルバトロスは、恐怖を覚えた。
と同時に、体を束縛され、カレンに口を無理やり開かされて、口の中に突っ込まれた。
強烈な嫌悪感と生臭い臭い、そして猛烈なムズムズ感が全身を走り、これで叩かれたら別の扉が開いてしまう危機感を覚えた。
だが、普通の拷問では無かった。
そこからはもう、数分で意識が朦朧としてきて、何を聞かれて何を話したかも、全く判らなくなってしまった。
『使用感はどうだ?』
「いいですね。ただ、最初の舐めさせるところが一番のネックですね。」
『隠しても見た目ですぐバレるから、意味が無いしなぁ。かといって、成分を抜き取ると、犯罪に使われる可能性が高いから、駄目か。今更なんだけどなぁ。』
「今更とは?」
『粉末にして使っても、興奮がプラスされて、狂暴性が高まる程度で、ほぼ同じじゃん?狂暴性を抑える薬を混ぜてやれば、問題が無くなる。となれば、この程度を抽出したとしても、犯罪云々は今更って事にならないか?』
「手軽に手に入る様になる事が駄目なのですよ。本来は丸々一つが白金貨10枚の価値ですから、加工して売る場合でも、付加価値を付けて金貨1枚以上で売るのが普通ですし、簡単に利用できるようにすると、ゴロツキが飛びつきますよ?」
『盗賊ギルドが作ってたけどな。軽い幻覚作用というか、多幸感の出る薬がそれだな。貧弱な軍でも使ってるらしいが。』
「製法知ってるんですか?」
『知ってるぞ。簡単だからな。』
「作らないですよね?」
『作らないよ。そういうのが必要無い軍を作ったんだからな。その手の薬は、人を駄目にする。駄目になったら戻るには、相応の努力が必要になるんだよ。』
「安心しました。」
『お前なぁ、俺の事何だと思ってるんだ?』
「私の主です。」
オークのキャンタマは、効き目が強すぎるが為に、薄めて使う事が多いのだが、含有率1%程まで下げると、興奮作用が幻覚作用に変わる様だ。
つまり、興奮作用自体が強力な幻覚作用という事だ。
そして、それ以外の作用については、効果が強すぎるが為に、感覚が追い付けずふわふわした感じになるのだろう。
まぁ、あんまり掘り下げるとアーリアが怖いので、アルティスはオークのソレに対する考えを放棄した。
そんな事より、今はマルグリッドの事だ。
『誘拐してベーグルに連れて行ったか。一国の王を誘拐など、大それた事をしたもんだな。まぁ、武力でも勝てると踏んでの事だとは思うが、軍事同盟は王じゃなくても結べるんだよな。コルス、宰相殿は大丈夫か?』
『しっかりと保護しています。ベーグルの密偵は10人を捕縛していまして、住民として紛れ込んでいる者は、相当な人数になると思われます。』
『そっちはいいや、宰相だけ確保してあれば問題は無い。アミュレットはちゃんと着けているか?』
『はい。確認してあります。城まではどうやって連れて行きますか?』
『ゲートを出すが、偽物を徒歩で城まで移動させろ。』
『了解』
ゲートを出す場所は、外からは死角になる場所に出して、当人はゲートをくぐり、偽物がその死角から出て来る。
追手は、偽物を追いかけてまんまとまかれるという訳だ。
『ウイリアム宰相、気付いていた様だな。』
「途中まで追いかけたのですが、馬車には追い付けませんでした。」
入れ替わったのは、訓練場から会議室に移動する際か。
宰相が捕縛に向かったのも、そのタイミングだったからな。
『では、仕事の話にしよう。我が国と軍事同盟を結ぶか否か。』
「今回は一時的な同盟にしようと、王と話をしていたのだが、国の危機とあらば迷っている暇は無いですな。締結を前提に話を進めましょう。」
『流石本物、話が早い。では、こちらをどうぞ。条文です。仮署名という事で、処理します。次に、王の救出についてですが、ベーグルのみに侵攻するとして、期限は二日。王妃には・・・、もうバレている様ですね。』
「王は助かりますか?」
『必ず助けます。お任せください。』
『第二騎士団!マルグリッド国とベーグル共和国の国境に集合!エカテリーヌ女王陛下、今すぐにご相談したい事があります。』
『お急ぎかしら?』
『マルグリッド王が隣国のベーグル共和国に攫われました。』
『アーリア、向かいなさい。同盟条約を結んだのね?』
『仮署名ではありますが、ウイリアム宰相殿と結びました。』
『よろしい。必ず、生きて救出をしなさい。』
『普通の人間が傷を付ける事は不可能ですが、とんでもない手を打つかもしれませんので、速やかに作戦行動に移ります。』
『アルティスに命じます。マルグリッド王を速やかに救出なさい。そして、ベーグル共和国を制圧しなさい。』
『御意』
女王陛下の命令も受け取った。
アーリアと王都の守備部隊の一部もやってくる。
第二騎士団はルングベリで休憩中だったのだが、既に国境に到着して、ベーグル軍と対峙しているそうだ。
移動速度が尋常では無いと思われると思うが、テレポートを何度か経験してしまえば、ワープゲートを覚えるのは簡単で、騎士団の装備しているMPタンクには、MP1万が充填してある為、ゲートを開くこと自体は、難しい事では無い。
難しいのは、出口の選定なのだが、それも一人をアラクネに乗せて現地に行かせ、そこから開いてやれば解決するので、今回もその方法を取ったのだろう。
更に、先手を打ってベーグルとの国境付近に移動できた理由は、暗部からの情報とアルティスの性格をみれば、おのずと答えが解るそうだ。
どういうことかというと、オーガストにルースを使者として向かわせたという事は、オーガストへの侵攻は、まだ無いとみて間違いなく、次にルングベリ、ラクガンスキル、ベーシスの3国に第二騎士団の出番はもう無い。
となれば、次に行く先はマルグリッド王国に関連する地域となり、ベーグル共和国の動きが怪しいとなれば、そこにしか派遣される可能性が無いという事で、さっさと移動を開始したらしい。
移動後は、丁度お昼時だったので、すぐに食事の支度を始めたそうだ。
その判断を下した者は、優秀な指揮官と言えるので、後で教えてもらおう。
だが、アルティスは、脳筋共に考えを読まれた事にショックを受けていた。
ベーグル軍は干し肉と水とパンだが、第二騎士団ではパンを焼き、スープを作り、肉を焼いて、焼きたてのパンに野菜と一緒に挟んで食べている。
マルグリッド王国とベーグル共和国の国境には、リルパーク海に注ぐ川があり、水深2mと浅いのだが、人族が渡るには深い為、石造りの橋が架かっている。
既にこの地域の確認は済んでいて、どこから攻めて来るか、どうやって渡河をするのか、ベーグル軍がどのくらいの規模なのかを把握してある。
本来ならば、この橋を渡らなければ、川を泳ぐしかない為、進軍には向かない筈だったのだが、ベーグル軍は仮設の木造の橋を架け、道幅を拡げて軍隊が通り抜けやすくした様だ。
『その橋は、石造りの橋に連結されているのか?』
「いえ、独立した別の橋です。2つ作られているので、3列になって進むつもりの様です。」
『うちが使わせてもらおう。進軍は明日の朝だ。夜中に仕掛けて来るだろうから、見張りとトラップは、入念にな。』
「はっ!」
アーリア率いる守備部隊の方は、現地に飛んだアルティスによって、ゲートで現着して布陣している。
『あーるじー、進軍前口上で脅して来てよ。』
「今から行ってこよう。」
アーリアが一人で、橋を渡り、ベーグル軍の目の前にたどり着いた。
「私はバネナ王国軍大将アーリアである。我が国は、マルグリッド王国と軍事同盟を結んだ。依って、マルグリッド王を誘拐したベーグル共和国に警告する。明日の朝8時までに、マルグリッド王を開放しない場合は、バネナ王国とマルグリッド王国がベーグル共和国宣戦布告する。」
「ああん?あんたが大将だって?笑わせるなよ。おい!この女を殺せ!」
カンッ!
アーリアに矢が飛んで来たが、微動だにしないアーリアの胸に当たり、地面に落ちた。
「おい!刺さってねぇぞ!さっさと殺せ!」
ヒュヒュヒュ
カンカンカンッ!
今度は弩から放たれたボルトが3発当たったが、全て弾かれて地面に落ちた。
「その程度の攻撃で、私を殺そうなど笑止!まぁ、貴様らから攻撃を受けたのだ。感謝と共に宣戦布告とさせて頂こう。」
バシュッ・・・ドンッ!
『あるじから信号弾!?攻撃を受けたぁ!?あーもう、第二騎士団戦闘準備!防御陣形で夜を過ごせ。あるじは一旦戻って来て。進軍開始は明日の朝、8時開始!ソ隊、ユ隊は国境及び海上の見張り。海上から上陸する可能性もあるから、夜間に航行する船が居たら、必ず確認をする事。ソフティー、アラクネの統率よろしくね。』
『任せて!』
その頃、マルグリッド王国王城では、配備に着いたエルフ隊とイーグルが警戒をしている。
既にウイリアム宰相を狙った密偵が6名捕縛されている。
王都には光学迷彩を使用したソ隊が9人配備されており、王城に侵入しようとした者は、声を発する事もできずに捕縛されまくっているのだ。
一体、何年かけて浸透してきたのか知らないが、マルグリッド王国にいるベーグル人、若しくは協力しているマルグリッド人が、どれくらいいるのか、全く判らないのだ。
国境で衝突したからと言って、王都の警備を疎かにする訳にはいかないし、守備隊の配備を忘れるアルティスでは無い。
また、王太子と元反逆者は、早々にバネナ王国に送りつけてあり、客室に軟禁している。
軟禁している部屋には、トイレもシャワーも完備されていて、バルコニーにも出る事はできるが、手摺りを超える事はできない様に、結界で囲ってあるのだ。
軟禁する理由としては、あっさりと王が誘拐された事が原因で、通常ならば王の通る通路に、他国の者が入り込むなど、有り得ない話であって、内通者でも居ない限り不可能なのだ。
その場合の内通者とは、王の通るルートを把握している高位貴族か、両名どちらかの可能性が高いと見ている為だ。
夜中に野営地にベーグル軍の斥候が侵入してきたが、悉く捕縛されている。
ベーグル軍は、バネナ王国軍の状況が判り次第、進軍するつもりで待機していたのだが、斥候からの連絡も無く、誰一人として帰って来ない為、状況がつかめず進軍する事ができなかった。
翌朝、豪勢な朝食を食べるバネナ王国軍に対し、干し肉と硬いパンで済ませるベーグル軍の士気には、大きな差ができていた。
夜遅くまで進軍の指示を待ち続けて寝不足気味の上、数日間駐留している為に、真面な食事にありつけていないベーグル軍。
バネナ王国軍はぐっすり寝て、リラックスムードを漂わせながら、準備運動をしている。
しかも、執事は居ないが、大きな肉に温かいスープ、焼きたてで柔らかそうなパン、美味しそうに口一杯に頬張るバネナ王国軍に対し、カチカチのしょっぱいだけの干し肉を齧りながら、カッチカチに焼きしめたパンを、水でふやかしながら食べるベーグル軍、夜間に斥候が攻撃を仕掛けた筈が、全くの無傷で、疲れた様子も無く、賑やかに食べ、パパッと装備を整えた様子を見て、ベーグル軍とは格が違うと見せつけられた気分だった。
既に兵士の殆どが、気持ちで負けていた。
「それでは、8時まであと数分となったので、進軍の準備を開始する!整列!」
ザザザ
8時になった。
「前進!」
ザッザッザッザッ
まるで領主会議の前にやったエキシビションの時の様に、一糸乱れぬ動きで、アーリアを先頭に前進するバネナ王国軍。
その様子を見て、息を飲むベーグル軍。
「な、何をボーとして見ておる!攻撃しろ!殺せ!」
「弩隊構え!ぅてぇー!」
シュバシュバシュバッ!
「抜剣!叩き落せ!」
カンカンキンカンキンカンカン!
飛んで来た弩の矢を各々の剣で次々と叩き落し、無傷のまま守りを固める検問所に辿り着いた。
「甘い。」
ヒュヒュヒュヒュッ!
ガラガラガラガラ
アーリアが検問所の固く閉じられた鉄扉の前で剣を振ると、鉄扉が崩れ落ちた。
「制圧しろ!」
「はっ!検問所と敵軍を制圧しろ!」
おおー!!
敵兵との戦闘は発生したが、打合いにはならず、相手の剣を受け止めたつもりが、剣が切れ、後ろから刺されても剣先すら通らず、ウォーハンマーで殴ろうとしても、ウォーハンマーが細切れにされただけで終った。
3分と経たずしてベーグル軍は戦意喪失、全員が武器を捨てて投降した。
指揮官の貴族は、逃げようとしたが、アラクネの前で馬が硬直し、敢無く捕縛された。
『検問所は2名残れ。アラクネは1名、エルフも1名残って警備しろ。何人たりとも通すな。商人も駄目だ。戦争勃発により通行禁止だと言え。無理に通る奴は斬っても構わん。』
「了解!」
『それと、仮設の橋は撤去して何かに使え。川に流すな。』
「はっ!」
仮設の橋は、水中にあった欄干部分は濡れている物の、他は乾いた木材であり、バラせば用途は幾らでもあるのだ。
しかも、軍隊を通過させる為の強度を持たせる為に、大量の木材を使用しており、壊して流してしまうと、セイレーン達の海に流れ出て、迷惑をかけてしまう。
勿体ない気持ちも少しはあったが・・・いや、勿体ない気持ちしかない!何かに使えるかもって思うのは、人間やってた時からの癖だよ!
ベーグルの本拠地では、バネナ王国軍からの宣戦布告と、マルグリッド王国と軍事同盟を締結した話で持ち切りだった。
大方の予想では、ベーグル軍の圧勝で終ると言われていたが、密偵からの一方で状況が大きく動いた。
「報告します!マルグリッド王国国境で待機していた侵攻軍が、バネナ王国軍に投降しました!率いていたファーフ・インクルーカン将軍は、敵軍に捕縛されました!」
「何だと!?バネナ王国は先日まで、滅亡寸前と言われていたでは無いか!何故そんな連中に負けるのだ!」
「バネナ王国軍の装備は、我が軍の攻撃を一切受け付けず、まるで歯が立ちません!また、敵の大将が先陣を切って先行しておりますが、ウォーハンマーすらも細切れにする程の腕で、弩も刺さらず、奇襲も効かず、打つ手がありません!」
「そんなもの、いつも通り買収してしまえ!白金貨でも渡せばいいだろ。」
「バネナ王国軍の一般騎士の給金は、年額で白金貨1枚だそうです。大将ともなれば、白金貨1枚では動かないと思われます。」
「はあ!?あの国のどこにそんな金があるというのだ!?そんな物デマに決まっておるだろうが!!」
「ですが、かの国は魔王軍に勝ち、エルフ族を懐柔し、セイレーンとも良好な関係になり、街で高額取引されている、最高級干し肉の生産地でもあります。他にも、スイートポテトやトンコツスープなど、高級料理のレシピも多数持っているなど、経済破綻するとは思えぬほどでございます。」
「ぐぬぬっ!何とかして止めろ!大魔法の使用も許可する!何が何でも止めるんだ!」
「バリスタも投石機も使いましょう。あれならきっと止められるでしょう!」
「よし!使用を許可する!」
アーリアの下に政府の者らしき男がやってきた。
その男は、徐に鞄の中身を見せたが、アーリアはその男の首を刎ねた。
鞄の中身は金貨が600枚ほど入っていたが、アーリアの現在の資産は、白金貨20万枚を下らない程ある為、賄賂で篭絡などできる筈も無い。
アルティスがアーリアの従魔であり、アルティス自身が金を使う事ができない事もあり、アルティスの資産=アーリアの資産となる。
元々金は、生活に困らない程度にあればいいと思っていたアーリアには、今の資産の額は、使うに困る程の額となり、困り果てた結果、仕事に逃げている状況なのだ。
そんな所に大金など持って来られても、興味など示すはずが無い。
ちなみに、死んだ男の鞄は、第二騎士団が拾い、後で国庫に入れる予定だ。
アーリアの隣にアルティスがソフティーではなく、VFに乗ってやってきた。
「ソフティーではないのか?」
『ソフティーはちょっとやる事があるんだよ。この先で、バリスタと投石機が待ち構えているから、それの対応に行ってもらってるよ。』
「攻城戦でもやる予定があるのか?」
『あるじが城みたいなものだからね。』
「私は石造りでは無いのだが?」
『剣も斧も槌も効かないんだから、次に来るのは攻城兵器か大魔法でしょ?』
「魔法はどうやって防ぐんだ?」
『何もしないよ?だって、俺と同等のMAGになったら、その辺の魔法使い程度のMAGでは、かすり傷にもならないからねぇ。』
「装備がダメージを受けるのではないか?」
『自分でマジックシールド掛けなよ。できるでしょ?』
「既にかけたが、アルティスじゃないからちょっと不安なのだよ。」
『マントで耐えられれば、鎧の方は全くノーダメージでいけるよ。どうせ炎魔法だろうし、問題無いね。』
大魔法の予想地点に来ると、真上から火の玉が降ってきた。
『あれは、エクスプロージョンだね。ウォーターミストを当てたら相殺できるよ?』
「[ウォーターミスト]」
アーリアの手から真上に撃ち出された魔法が、火の玉とぶつかった瞬間に、真っ白い水蒸気に変わり消え去った。
ベーグル側の術者達は、城の城壁を崩す威力の上級魔法を撃ったつもりだったのだが、たった一人で初級魔法のウォーターミストで打ち消されてしまったのをみて、心が折れてしまった。
上級魔法は、最大でも使用MPが300程度しかないが、それは最低ランクの威力での消費量であり、威力を上げたり、範囲を規定範囲から拡げたり狭めたり、持続時間等を伸ばしたり縮めたりで消費魔力が大きく変わる。
一番消費が大きいのが威力で、次が範囲、持続時間については、今回は関係が無いが、通常は1秒につき10MP消費する。
爆発系の魔法では、時間を延ばす事はできない。
いや、あるにはあるのだが、あれは禁断の爆発だから、アルティスは使うつもりが無いし、万が一使う奴が居たら速攻で殺すか洗脳するか、忘却させる。
威力については、数値にできないし、1段階上げたところで違いなんて判らないから、普通は10段階ごとに上げる。
1段階あげるのにMPを100使うので、10上げると1000MPになり、普通の人間が一人でやれば、一発でフラフラになってしまう。
攻城戦で使う場合は、通常30段階上げるので3000MP、一人1000MPを消費すれば、3人いれば撃って逃げる程度の体力は残る、そう思った様だ。
だが、現実は非情だった。
当たれば塵すら残さず消える予定だった筈の相手に届かず、上級魔法を初級魔法で打ち消し、無傷でそこに立っているのである。
これで折れない筈が無い。
そして、飛んでくるはずのバリスタや投石が、待てど暮らせど飛んでこないのだ。
ベーグル共和国のバリスタは、直径3cmの鋼鉄の矢を撃ち出す、普通の城壁なら簡単に貫通させる程の威力がある筈だった。
それが、いつまで待っても飛んでこないのだ。
魔法使い達が発射場所を見ると、そこには複数のアラクネに占領された陣地があった。
複数のアラクネ、それは悪夢だ。
そして、魔法使いの一人は、アラクネの中にアラクネクイーンが混じっている事に気が付き、その場で卒倒した。
「あの者達は、既に折れているな。捕縛しておけ。」
「はっ」
画して、ベーグルの攻撃は、何の成果も残せずに破綻したのであった。
「報告します!大魔法攻撃は魔法を打ち消され失敗に終りました!バリスタ及び投石機は、アラクネクイーン及びアラクネにより制圧され、攻撃に至りませんでした!我が国の攻撃は全て失敗に終わりました!!」
「なっ!?アラクネクイーンだと!?バネナ王国軍はアラクネクイーンを従えているというのか!?・・・全軍だ!全軍で攻め立てろ!数で押し切れ!過去のアラクネクイーンとアラクネは、数で押し切って討伐した記録がある筈だ!」
前方の荒野にベーグル軍の大群が見える。
軍勢の内容は、中央にファランクス、槍を持った重装歩兵の密集陣形が陣取り、両側面に騎馬隊、後方に弓兵と弩兵、その後ろに投石機が8基見える。
総勢3万人くらいかな。
こんな大群は、魔王軍のオーク以来だ。
しかも、オークと違い訓練された兵士だ、普通なら100人程度しか居ないこちら側が不利になる兵力差ではあるが、我が軍は普通では無いのだ。
武器は剣や弓しかないのだが、100人中100人が一騎当千の戦力で、全員が賢者と言える程の魔法を使える。
しかも、盾は持っていないが、斬れず、刺せず、剣術に長けており、武器はミスリルをも容易く断ち切る。
いい機会だから、ここで我が軍の威力を知らしめてやろう。
『全員ヘルメット装着!我が軍の力を見せつけてやれ!我らバネナ王国軍は世界最強、最精鋭である!我らの前に立ちはだかる障害など存在しない事を、今この時を以て証明してみせよ!旧時代のファランクスなど、我らの敵では無い事を証明してみせよ!我らバネナ王国軍が、世界に名を馳せる好機ぞ!いざ出陣だ!』
おおおおおおおー!!
アルティスの檄により始まった、新生バネナ王国軍初の対人類大規模戦闘である。
進軍していくと、両側に陣取っていた騎馬兵が両側から突っ込んできた。
『横陣!馬も人も殺すな!殺気で倒せ!』
横一列に並んだ陣形で、騎馬に狙われた両端の兵が殺気を放つと、近づいてきた騎馬兵が次々と転倒し、少し離れた所に居た馬が、急停止した。
乗っていた騎兵は、勢い余って落馬し、大半が戦力外になった。
殺気を消しても、馬達が近寄ろうとせず、騎兵隊は離れて行った。
ファランクスの最前列に居た者達は、何もせずに騎馬兵を退けたのを見ていたのだが、何が起こったのかさっぱり判らなかった。
だが、オークやオーガ相手でも、勇敢に突っ込んでいく騎馬隊が、近づく事を拒む程の何かがあるという事だけは、理解できた。
そして、相手は、たったの100人程の少人数だが、横一列になって歩いてくるのだ。
姿はどう見ても軽装歩兵で、武器はロングソードのみ。
彼等の背後には、変な乗り物に乗った小さな獣しかおらず、その背後から迫る白い所々が緑色に光を放つ魔道具に乗った女。
遠く離れた場所に居たと思っていたら、数十秒で獣の隣に来た。
自分達から50m程離れた場所に到達した時に、頭上を大量の矢が飛んで行き、バネナ王国軍の頭上に降り注いだ・・・いや、何かに弾かれている!シールドか?だが、一人数十発の矢が当たった筈だが、MP切れになった様子が無い。
シールドの魔法は、一発何かを防ぐ毎にMPを消費するので、MPが少ない者が使うと、あっという間にMPが枯渇するのだ。
だが、目の前の敵にふらつく者など一人もいない。
『剣構え!突撃!』
ファランクス最前列に居た男の意識は、そこで途絶えた。
この戦場での戦果は、衝撃を以て全世界に広まる事となる。
この日、ベーグル共和国は、バネナ王国に無条件降伏をした。
3万対100という、信じがたい戦力差を、1時間も掛けずに勝利したバネナ王国軍の途轍もない大戦果に、世界が驚愕したのだ。
そして、その話にはもう一つ大きな話題があり、ベーグル軍の死者数がたったの3名のみだったのだ。
つまり、バネナ王国軍は、圧倒的な強さを誇りながら、死者を出さない戦いを繰り広げ、短時間で勝利したという事だ。
死亡したベーグル軍の兵士は、全員騎兵で、落馬した時に首の骨を折ったのが原因だった。
「我がベーグル共和国は、バネナ王国に降伏する。負けだ。完敗だよ。あんなバケモノ集団に勝てる訳が無い。何なんだよアイツらは。」
「我々は、自分達の強さを見誤っていたという事ですか。世界は広いという事か。」
「宣戦布告から、たったの数時間で降伏する事になるとは、思いもよりませんでしたな。」
「バネナ王国軍の大将と宰相殿が到着しました!」
「入れ。」
作戦本部にバネナ王国の使者が入ってきた。
女騎士二人と小さな獣?
『お初にお目にかかる、私はバネナ王国宰相アルティスと申す。此度の戦争の総指揮を担当している者だ。』
「私は、アーリアだ。バネナ王国軍の大将をしている。宰相アルティスは、私の従魔だが、立場は対等だ。」
『後ろの騎士は、私の護衛のカレンだ。貴国側の自己紹介をしてくれ。』
ベーグルの指揮官たちは、気圧されていた。
小さな獣の存在感も大きいが、二人の騎士の存在感もかなりのものだ。
我々は、ドラゴンの尾を踏んでしまった様だ。
「私は、ベーグル共和国元首ゼンメル・ロッツゲンシュロートと申します。この度の戦争の引き金になったのは、私の驕りが原因です。大変ご迷惑をお掛け致しましたと反省しております。」
「儂は、ベーグル軍元帥ツォイス・ベルリーナラントと申します。貴国の軍の強さには、感服致しました。この度の戦は、まさに完敗でした。その強さの秘密を是非ご教授願いたいものですな。」
「わ、わた、私は、ベーグル共和国評議会議長のクワルク・ロッツゲンシュロートです。ゼンメルは、私の兄です。」
「私は、情報部本部長をしております、ラウゲン・プレッツェルと申します。多数の私の部下が捕縛されておりますが、責任はすべて私目が負いますので、解放して頂きたく存じ上げます。」
「私は、ベーグル軍参謀ベルリーナ・バウムクーヘンと申します。お見知りおきを。」
『そこの隠れている奴は?』
「うわぁ、バレてるなんて、凄いね君!」
『[サイレント]』
隠ぺいで隠れている奴を暴いたら、馴れ馴れしく話しかけてきやがったので、速攻でサイレントで黙らせた。
隠れて何をしようとしていたのか知らんが、暴かれたのに自己紹介も無く、敵国の宰相に向かって「君」呼ばわりする頭の悪い奴など、真面に相手にする必要は無い。
「・・・!?・・・!!・・・!」
『カレン、手足を縛って廊下に放り出せ。』
「いいのですか?この中で一番の重要人物っぽいですが?」
『まともに挨拶もできない、臆病で頭の悪いクズに用は無い。どうせ軍師とか名乗ってるんだろ?時々突拍子も無い事を言いだして、たまたま上手くいっただけで、軍師に祭り上げられる奴が居るんだよ。アイツがそのタイプだな。どうせ、こいつらの中で真っ先に斬り捨てる為の人身御供だよ。肩書だけで何もしてないのに、誰かの身代わりにされる為だけの存在、それでいて話を引っ掻き回す馬鹿だな。いるだけ無駄だ。』
「畏まりました。」
カレンが首根っこを掴んで、手早くソフティーから貰った糸で手足を縛ってから、廊下にポイした。
『それで、アイツに罪を被せようとしたのはどいつだ?元帥か?元首か?まぁ、俺からしたら、お前ら全員最下層行きだな。何の能力も無い、知識も無い、口先だけの詐欺師。ペテン師だな。あるじに賄賂を贈ろうとしたのは、元首の命令だな?残念ながら、俺も主も資産は白金貨20万枚以上あるのでな、数枚程度貰っても、有難みなんざ塵程にも無いな。俺の仲間が金で買えるとは思うなよ?お前らみたいな、世の中金でどうにかなるとか思ってる奴が一番嫌いなんでな。』
「それで、マルグリッド王国国王はどこにいるんだ?ここに連れて来い。」
アーリアが本題を出すと、ゼンメル・ロッツゲンシュロート元首がとんでもない事を言いだした。
「ち、地下牢にいるが、渡す訳にはいかんな。奴は人質だ。我々を蹴落とすというのなら、アレの身柄と引き換えに我々の自由を保障してもらわねばならん。」
まぁ、お約束ではあるが、無条件降伏をした直後にいうセリフでは無いな。
いきなりマウントを取りに来るとか、「無条件」の意味を全く解ってないと、言ってる様な物だからね。
『笑えるな。居場所を言っておきながら、まだ自分達に力があると思ってるとはな。哀れなものだ。既に俺の部下が地下牢に向かってるよ。この部屋に来る前に、地下牢の捜索は命令済みだよ。どんな魔法で隠ぺいしているのか知らんが、我々に圧倒的にMAGで劣っている貴様らが、隠し通せるとでも?そもそも、貴様らは「無条件降伏」をしたんじゃないのか?無条件の意味知ってるのか?』
「ふんっ!未だにどこに居るのか見つけられないのだろう?アクセサリーに付与する技術は認めてやるが、魔道具師の殆どはMAGが少なくて魔法も弱いんだよ。だがうちの魔道具師はMAG値が700あるんだぞ?お前らの魔道具師に勝てるのか?」
『余裕で勝ってるな。700とか普通の魔族程度じゃん。カレンのMAG値は2000超えているし、我が国の国軍兵士は、平均1500だよ。ちなみに俺とあるじは10000以上な。そして、魔道具を作っているのは俺だよ。』
「い、1万だと!?そんな馬鹿な数値がある訳無いだろう!!大ウソツキが!」
『典型的な雑魚台詞をありがとう。君らの様な、何の努力もして来なかった連中には、理解できないのは判っているよ。ゴミの理解なんて求めていないから、どうでもいいな。』
部屋に3人組の男が入ってきた。
「アルティス様、マルグリッド国王陛下を発見致しました。暴行を加えていた奴が居たので、捕縛して連れて来ました。如何致しますか?」
『その男が?元首の弟か。兄弟が多いんだな。だが、戦争に負けた癖に、優位に立つために人質を痛めつけるとか、やってる事がゴロツキだな。そういう奴は、死ぬまで強制労働だよ。まぁ、やってる事が重犯罪だから、罪が軽くなる事は一切ないから安心しろ。』
「死罪では無いのだな。甘いな。」
『殺して楽にさせてやるほど、優しくは無いのでな。農村で汚物にまみれた生活をさせてやるよ。死ぬまでな。全員捕縛しろ。評議会とやらは、どこにあるか判る奴は案内しろ。』
「あ、あの、私がご案内致しますが・・・?」
手を挙げたのは、参謀のバームクーヘン女史だ。
ステータスを見ても、参謀に成れるような要素が、全く見えないし、何の為にいるのかさっぱり判らないな。
『お前は誰のコネで参謀になったんだ?』
「私は、元帥のツォイスおじいさまの孫で、突然連れて来られて、無理やり参謀にさせられたのです。」
『それは、頭がいいと思わせる何かがあったからじゃないのか?』
「前任が斬り殺されたと聞きまして、殺せない相手として任命されたんだと思いますが・・・。」
『ふむ、まぁ一番若いし、いいだろう。案内しろ。』
「この首輪は外せませんか?」
『司令部に居て、優雅に座って堂々と紅茶を飲んでいた参謀殿が、無罪放免になると思えるか?実際に従事していたかどうかは関係無い。その役職で、ここにいる事が重要なんだよ。そして、その首輪は、お前の命を繋ぐ唯一の盾だ。それを外した途端、貴様の命は終わる。そんなおもちゃで、俺の命を狙えるか試してもいいが、命の保証は無いぞ?試しに右足を上げてみれば判ると思うが、この部屋には、アラクネが3人いるからな。俺の護衛はカレンだけじゃないって事だよ。』
「ひっ・・・」
バームクーヘン女史は、右足に小型のボウガンを備えていて、ミスリル製の針を撃ち出そうと、変な体制で構えていたのだ。
寄って来る時の挙動があまりにも滑稽で、笑ってしまいそうになったが、笑っていい場面では無いので、何とか堪えた。
『コルスも挨拶してやったらどうだ?』
「では、お言葉に甘えまして、バネナ王国軍暗部司令官のコルスと申します。よろしくお願いしますね、ベーグル共和国の裏の支配者殿。」
『え?コイツがそうなの?』
「知っていたのではないんですか?判ってて名乗れって言われたのかと思ってました。」
『プレッツェルの方だと思ってたよ。偉い立場の割に喋らねぇなぁとは思ってたが、こっちかぁ。』
ベーグル共和国には、表の政府と裏の政府があって、表の政府は捕縛した連中なのだが、裏の政府の所在が殆ど判っていなかった。
唯一、最高司令官が表の政府に紛れ込んでいる事が判っていたので、さっさと全員に首輪を着けたのだが、セオリーでいけば、情報部の最高幹部が裏を仕切っているのが普通なので、そう思っていたのだ。
『さっき放り出したゴミ軍師は、何役だ?』
「あれは、この人の補佐ですよ。一応この国で一番頭が良いとされる人ですね。」
『マジで?INTが150しかなかったぞ?』
「アルティス様はいくつでしたっけ?」
『俺は250ちょいだな。』
「INTって一番上がり難いステータスなのに、どうやって上げたんですか?」
『勉強するだけだな。禁書も含めて700冊くらい読み込んだからな。』
「いつの間に、そんなに読んだんですか?」
『空き時間にちょいちょいとな。』
「ワーカホリックですね。」
『趣味と実益を兼ねてんだよ。』
「そうですか。それよりも評議会に向かわないんですか?」
『こいつが案内してくれないと、判らないだろ?コルスが前を塞いでいるから進めないんだよ。』
「あ、失礼しました。一応おもちゃの方は玉切れになった様ですね。」
『弾切れな、弾切れ。玉は切るなよ?』
「アルティス、何の話をしているんだ?」
『男にとっては重要な話しなんだよ。ほら、後ろで、歩き方が変になってる奴がいるでしょ?玉を切るというのは、男にとっては恐怖でしかないんだよ?』
「男とは難儀なものなのだな。」
コルスの背中に何本もの針が刺さっているが、鎧に刺さったのではなく、外側のオークの革製のクッションに刺さっているだけの様だ。
『ふむ、ミスリルの針だな。コルスのよりも柔らかいな。在庫の本数は足りているか?』
「まだ大丈夫ですよ。当分必要ありません。」
『そうか、じゃぁ、この針は別の事に使う事にしよう。』
針が刺さっているのに、平然と話をしているコルスに、驚愕の顔をしているバームクーヘン女史が吠えてきた。
「何故刺さらないんだよ!」
『ワイバーンの革とドラゴンの鱗で作った特製防具だからな。ミスリル如きでは抜けないな。』
「何で、こんな下っ端にドラゴンの鱗を使った防具なんて着せてるんだよ!」
『前線に出ない将軍よりも、前線に出る下っ端の方が、有効に使うだろうが。すぐ死ぬ兵士よりも、なかなか死なない兵士の方が、活躍するしな。有限な兵士の装備をケチってるから、いつまで経ってもお前らの軍はゴミなんだよ。しかも、ファランクスなんて、あんな密集してるど真ん中に、エクスプロージョンを撃ち込まれたら、即全滅じゃねぇか。戦術も何も考えて無い、クズめ。』
実際、ファランクスは、一瞬で崩壊したし、鎧が重すぎて、将棋倒しになると全く動けなくなるんだよ。
突き出された槍をスパスパ切って接近し、足を掛けて後ろに押せば、ドミノの様にバタバタと倒れて終わりだったよ。
重い装備は足元が弱点になるって知らなかったのかねぇ?ファランクスを使うなら、ラージシールドじゃなくて、タワーシールド使えっての。
それに、鉄より硬い金属が腐る程あるこの世界で、ファランクス運用とか意味が判らん。




