第52話 ダークエルフとテラスメル高原
それはさておき、砦にやってきた。
「アルティス様いらっしゃい!」
「アルティス様お久しぶりです!」
エルフやケットシー達に歓迎されて中に入ると、日の当たる壁際には、干し肉を干す為の棚がずらりと並び、一度に2万枚を干す事ができると説明を受けた。
中層階にあるアスレチック場には、大きな樽が並び、味噌と醤油の発酵が行われていて、王都とは違い、順調に育っている様だ。
『いいね。王都の方は怠ける者が多くて、金貨2枚分の損失が出たのと、エルフが5人死んだんだよ。』
「え!?どこに死ぬ要素があるのですか!?」
『麹の培養施設で5人死んだんだよ。雑菌が混ざって、カビの毒素が充満した中を、マスクもせずに入った様でな。』
「雑菌が入る要素があったのですか?」
『勝手に扉を追加して、消毒せずに出入りできるようにされてしまったんだよ。』
「・・・そのエルフは、きっとエルフ王国では無い所の出身者なのでしょう。」
『ジョセフィーヌが触ると腐るとか言っていた奴らだぞ?』
「それを言うのが、他所からの者達の特徴なのです。」
『ということは、エルフ王国出身者は、かなり少ないんじゃないのか?』
「そうですね。でも、世界樹には何もできないと思いますので、特に問題は無いかと思いますね。」
『あったとしても、アラクネ25人とファイニスト・ハニービーが守ってるんだ。問題なんて起こせないだろうよ。』
「あぁ、それはできないでしょうね。ハニービーの上位種が居るのでしたら、問題ありません。世界樹の実はどうなさっているのですか?」
『実は何に使えるのか判らないんだよな。種がある訳では無いから、芽が出る事は無いのだろうが、何に使えるんだ?』
「我々は、果汁でお酒を作ってましたね。人間達の間では、寿命が延びるなんて言われていましたが、そんな効果はありませんよ。精々一時的に元気になるだけで、寿命には勝てません。」
『そうなのか。では、酒を作る事にしよう。乾燥させて砕いて畑に撒いて肥料にしようとか考えていたんだが、肥料にするのは、カスだけで問題無いだろうな。』
「肥料ですか。バレイショとか甘芋に使うと、大繁茂するので、お勧めできませんが、痩せた土地に撒くのなら、効果はありますね。一度撒くだけで肥沃になりますよ。」
『そうなのか。やはり、ここのエルフで、世界樹の事を知っている者を派遣した方がいいんじゃないか?』
「派遣しますか?」
『魔大陸にも世界樹を復活させたんだよ。だから二人必要だな。』
「魔大陸の世界樹!?そちらはダークエルフの領域ですね。」
『え?あの中央大陸の右下に居る奴らか?』
「そうですね。中々会うのは難しいかもしれませんが。」
『知ってるぞ?連絡してみよう。』
ダークエルフなら、確かクズ王子と騎士だったと思ったが。
「え!?何処で会ったのですか?」
『ダークエルフの騎士を見つけたんだよ。ちょっと連絡してみるか。』
「何という強運。さすがです。」
『エスティア今大丈夫か?』
『誰だ?』
『アルティスだよ。忘れたのか?』
『!?アルティス様でしたか!大変失礼いたしました。何か御用でございますか?』
『魔大陸の世界樹』
『!?何故それを知っているのですか!?』
『俺が復活させたんだよ。』
『何ですって!?あの世界樹は、世界を滅ぼす可能性のある木なのですよ!?』
『何言ってんだ?誰がそんな、たわ言を言っているんだ?馬鹿馬鹿しい。お前らが誰の言葉を信じているのか知らんが、神が関連している木が世界を滅ぼす?いい加減にしろよ。お前らに聞いたのが馬鹿だった様だな。』
『お待ちください!どういう事ですか?我々の王が、創造神様から直接お言葉を賜ったのですよ!?』
『へぇ、創造神の名前は?』
『オームラル様です。』
『創造神の名前は、オーベラルだよ。オームラルと名乗ったのなら、そいつは偽物だ。神の名を勝手に名乗れば、神罰が下るからな。似てる名前を名乗ったんだろうな。お前らは騙されたんだよ。』
ダークエルフは、誰かに騙されていたらしい。
神じゃない者が、自分を神と偽ること自体は、特に何も無いのだが、存在する神の名を騙る事は、神罰が下ると言われているのだ。
そして、世界樹の事を創造神が告げるなどという、頓珍漢な話をしているのだから、始末に負えない。
創造神が神託などする訳が無いのだよ。
奴は、この世界を作ってから、今まで何もして来なかったのだからな。
神族と魔神が戦争をしていた時ですら、何もしなかったのだから、たかが世界樹の異変如きで神託をする?そんな事する訳が無いだろ。
世界樹の事を神託するなら、誰だ?イシスか?
『ワラビ、ちょっといいか?』
『はい。』
『世界樹の事で神託をするとしたら、どの神がやる?』
『世界樹の事ですか?神託は無いと思います。世界樹には、精霊が宿っていますから、人族ではなく、精霊に直接告げると思います。』
『そうか。では、過去に創造神を騙って、オームラルと名乗った神が居たらしいのだが、誰だか判らないか?』
『その名を騙ったのは、暗黒神タルダゾイですね。創造神オーベラル様に神罰を下されて、滅ぼされました。』
似た名前で神託を下したのも神罰の対象だったのか。
そして滅ぼしたのはいいが、その後のフォローが無いから、神託先には伝わってないと。
やはり、ロクデナシだな。
やる事なす事、いつもいつも中途半端なんだよ。
反省しろ!大馬鹿者め!
『そうか。滅ぼされたと。で、その話は神託された連中には伝わったのか?』
『判りません。』
『はぁ。ワラビ、神に伝えられるのなら、俺からの諫言として伝えておいて欲しいのだ。中途半端に対応するなと。』
『・・・アルティス様の諫言でよろしいのですか?』
『あぁ。苦言でもいいぞ。あまりにも中途半端に対応するから、未だに伝わってないんだよ。神託が誤りだったという事実がな。未だに信じているんだよ。言われた者達がな。』
『畏まりました。私からも苦言としてお伝えいたします。』
『ワラビ、お前は言わなくていい。聖女の力を奪われるのは困るからな。神からの不興を買うのは得策では無いんだよ。お前が助ける相手は、まだ世界に沢山いるんだからな。』
アルティス自身が、神に何を言われようが気にしないし、消される何かがある訳でも無いのだが、ワラビは違うのだ。
ワラビには、聖女という唯一無二の授かり物があり、それを今の時点で外されるのは、得策では無いのだ。
アルティスは、あまり深く考えていないと思われる神共ならば、いきなり梯子を外すなどという、中途半端な事をやりかねないと思っている。
『アルティス様だけが、誹りを受けるのは、納得がいきません。』
『気にするな。俺なら直接話せるのなら、ぼろ糞に悪態をついてやるつもりだからな。神罰なんて撃ちやがったら、反射してやるよ。魔神の様に土下座して謝って来るまで、徹底的にぶちのめしてやる。』
『本当にやりそうで怖いのですが、判りました。私からの苦言は、無しでお伝え致します。』
『それでいい。ありがとう。参考になったよ。』
ワラビに確認した内容をダークエルフに伝えるとしよう。
『エスティア、真相が判ったぞ。聖女に聞いたのだが、オームラルと名乗ったのは、暗黒神の樽だソレ・・・違うな、樽だぞ?樽・・・たる・・・』
『タルダゾイ様ですか?』
『ああ!それだそれ!既に神託した事で神罰を受けて滅んだそうだよ。そして、その後のフォローをクソ神はしてないんだよ。だから、お前らに伝わっていないんだよ。』
『神に対して、辛辣ですね。ですが、そうですか。アルティス様のお気持ちが、凄く有難く感じられます。300年の間、世界樹から追い出された我々は、何も知らずにこの地まで逃げ延びて来ました。ですが、それ自体が誤りだったという事を今頃聞かされたと。そして、その事を怒って下さっているのですね。』
『そうだよ。不干渉とか言いながら、干渉しまくる神がいて、そいつを罰したらてめぇらの仕事は終わったとばかりに、フォローも何もせずに放置する無責任野郎が、大嫌いなんだよ。神罰下した時点で干渉してんだから、必要最低限のフォローくらいしろっての!』
居場所が判れば、メテオレインでも落としてやりたいくらい、ムカついてるんだよ!
『ありがとうございます。王達と話し合って、答えを出したいと思います。後日ご連絡致します。』
『判った。』
エスティアの台詞に違和感を感じたが、今は、まぁいいとしよう。
エスティアとの念話が終わり、エルフとの会話に戻ろうと思ったのだが、泡を吹いて倒れていた。
怒気が漏れていたらしい。
アルティスの怒気を感じ取ったソフティーも、殺気を放った為に、今、砦の中は大パニック状態だ。
あちらこちらで大惨事になっていて、比較的耐性のある者でさえ、床に蹲って丸まっている状態だ。
かろうじて、カレンが大量の冷や汗を掻く程度で治まっているが、足はガクガクと震えていた。
『あぁ、すまない。申し訳ない。怒気が漏れてしまった様だ。君らに対してでは無いから、安心してくれ。本当に申し訳ない。』
ウーリャ、フィーネ、ミュールの三人は、部屋の隅にかたまって蹲り、ソフティーもアルティスのあまりにも強い怒気によって、身動きが取れなくなっていた。
アルティスが詫びた事で、一旦弛緩したのだが、混乱は深夜まで続いたのだった。
翌朝、朝食の時に、昨日の説明と謝罪を全員に対しておこなった。
何に対しての怒気だったのか、何故そんなに怒ったのか、改めて説明をすると、話を聞いた全員が、あまりにも理不尽な神の仕打ちに、ダークエルフ達に同情した。
何も知らされなかったダークエルフ達が、苦渋の決断を下し、世界樹の下を去り、苦難の道を歩んでしまったのか。
そして、今もなお苦しんでいるし、滅亡の危機に陥っているのだ。
まぁ、多少は、そのプライドの高さから、要らぬ敵を増やしているのも要因の一つではあるが、長い間、種族の誇りを胸に生きて来たのだから、多少傲慢になってしまうのも無理は無いのかもしれない。
エスティアは、アルティスから今更聞かされた真実に因って、短い間ではあったが、大陸の右下の人族が住むには、過酷過ぎる土地を犠牲を払いながら守り抜いてきた事、それが無駄だったと知ったのだ。
知ってしまったのだ。
だが、その土地で家族を看取った者達は、この地に残る事を選ぶかも知れない。
再び、長く苦しい旅をしなければならないと思うと、心が疲弊してしまいそうになる。
アルティスに相談をすれば、もしかしたらいい方法を知っているかもしれないと思い、未だ結論が出ていないが、聞いてみる事にした。
『アルティス様、まだ結論は出ていないのですが、お聞きしたい事がありまして、少しお時間を頂く事は可能でしょうか?』
『移動に関してなら、問題無いぞ。一瞬で連れて行ってやる。10万でも20万でも大丈夫だ。人数に制限は無い。』
『何故判ったのですか!?』
『君らの境遇を見れば、大体の想像はつくだろ?そして、一番の問題は、長く苦しい旅路だ。少しでも楽になる方法があるのなら、聞きたいと思うのは、普通の話だからな。大丈夫だ。俺が、ワープゲートを開いてやるよ。見返りなんて求めないし、必要無い。そう話をしてくれ。長老と王子に。』
『ちょ、長老とは何の事でしょうか?』
『王なんて既に居ないんだろ?だから、王子がこっちに残りたいと言ったんだろ?ちゃんと教育してくれる奴が居ないから、帰りたくないと言ったんだろ?』
ダークエルフにとっての王族とは、エルフと同じで世界樹とその分身の事を指しているのだが、長い旅路の中で、主導する者が必要になった。
だから、王を決めたのだが、当然認められる訳も無く、王は居なくなった。
アルティスには、王が居なくなった経緯は判らないが、居ない事は理解できるし、想像に難くない。
元々、エルフと共生していたのだから、当然の事だ。
エルフ族にとっての王は、世界樹で、王族は、ハイエルフなのだから、同じエルフを王と認める事ができないのは、当たり前の事。
種族を纏め上げるだけならば、王でなくても問題は無いのだが、何故か王に拘ってしまったばかりに、身を引くしか無くなってしまったのだ。
そして、王子と呼ばれるあのガキ・・・子供は、世界樹の因子を持って生まれたのかも知れない。
世界樹を復活させるのに適した場所は、テラスメル高原だったのだが、ドワーフが受け入れてくれなかった為に、世界樹の因子を手放す事ができずに、未だに王子のままなのだと・・・本当にそうか?何か嫌な予感がする。
世界樹も無しに、因子を持った奴が産まれる事があるか?そして、それが子供として存在しているとすれば、王が最近まで生きていた事になるし、王族が産まれたからと言って、王子となるかどうか・・・。
『貴方は一体、どこまで我々の事を知っているのですか?』
『何も知らないよ。エルフから世界樹とエルフ族の関係を聞いているから、元々共生していたダークエルフも同じだろうと推理しただけだ。そして、逃避行の中で、主導者が居ない事の問題点に気が付いた者が、世界樹の因子を持って生まれた王子の親を王に仕立て上げようとした。だが、受け入れられずに身を引いた。違うか?』
暫しの沈黙の後、エスティアが溜息と共に、呟いた。
『はぁ・・・。我々は何を間違えたのでしょうか?』
『隣人の意見を無視したのが、最初の間違いだろうな。2つ目の間違いは、ちゃんと確認をしなかった事だ。そして、最後に間違えたのは、王に拘った事だよ。エルフにとっての王とは何か、それをちゃんと理解していなければ成らなかった。』
『しかし、纏め上げなければならなかったのです。バラバラでは駄目だったのですよ?』
『纏め上げるのは、王でなくても、リーダーでも将軍でも良かったんだよ。』
『・・・判りました。我々ダークエルフは、貴方様の指示に従います。既に我が種族は、残り100人を切りましたので、もう間違える訳にはいきません。最後の希望である貴方様に、我々の命を預けます。』
何の覚悟を決めたのか知らんが、何か勘違いをされたのだと思う。
ダークエルフの命など預かりたいとは、微塵も思わない。
世界樹の下に連れて行くのは、そこが、今いるその場所よりも安全だからだ。
大して繋がりも無く、ほんの数時間話しただけの相手の命を預かるなど、余計なリスクを負っていい立場では無い。
アルティスは、お人好しの勇者では無く、バネナ王国の宰相であり、その立場を考えれば、ダークエルフの境遇は可哀想だとは思っても、他人事なだけだ。
そして、膨れ上がる悪い予感を無視できない以上、原因を確認しなければ、安易に手を差し伸べるのは、悪手と言える。
『お前らは、もう少し考えるって事を覚えた方が良いな。そういう猪突猛進な所が衰退に進む原因になっているんだぞ?簡単に命を預けるなんて事を言うんじゃない。お前らの命は、お前らが守るべき物だ。俺はお前らの命に責任など、負いたくも無いな。人任せになんかするんじゃねぇよ。てめぇのケツくらい、てめぇで拭けよ。』
『しかし、もう、万策尽きました。』
『嘘つけ。何も考えていないだけだ。考えろ。老害の考えなど参考にしかならないと、理解しろよ。方法等幾らでも、目の前に転がっている筈だ。今まで目を背けてきた事があるだろう?何故試さない?信じているからか?貴様の信念など、精神魔法のあるこの世界で、本当に信じ切ってもいいのか?目の前のそれは、本当に真実なのか?調べろ!確認しろ!できる術を全て試せ!それが終ったら連絡しろ!!』
アルティスは、念話をシャットアウトした。
今の今まで深く考えずに、自分達の境遇を嘆く事しかしてこなかったのだから、一旦突き放した。
滅亡寸前になるまで、何もして来なかった自分達の事を、見つめ直すきっかけを作った。
『カレン、出発する準備をしろ。ウーリャ、フィーネ、ミュール、お前らも行くぞ。』
エスティアに渡してあったアミュレットのビーコンを頼りに、ワープゲートを開き、全員にオプティカル・カモフラージュをかけて、事の推移を見守る体制に入った。
念話をシャットアウトされたエスティアは、アルティスに言われた事を反芻した。
目の前にある物が真実とは限らない?今まで、何をやってもうまくいかず、仲間が次々と居なくなり、不自然に数がどんどん減って行った事を思い出した。
もしかしたら、今見えているこの景色が全て、虚構なのかも知れないと思い、長老達から使う事を禁じられていた魔法を使った。
「できる術を全て試せ・・・か。[ディスペル]」
ガシャーン!
エスティアの耳には、何かが破壊された音が鳴り響いた。
そして、今まで信じていた者の正体が露になったのだ。
長老だと思っていた相手は、長老では無く、ただの人形だったのだ。
信頼していた筈の者が、実は魔族だったのだ。
そして、目の前には、アルティスとその配下達が現れていた。
『よくやった。真実が見えたのなら、もうやるべき事は判るな?』
「はい。理解できました。我々は、長きに亘って騙されていたという事に気が付きました。」
『よし、魔族を殲滅しろ!』
エスティア達ダークエルフは、魔族の村に住んでいた。
残り少ないダークエルフの半分以上は魔族で、本当のダークエルフは30人程にまで減っていたのだ。
居なくなった理由は明白だろう。
入れ替わったのなら、本物は目の前から消す以外に方法が無いのだからな。
生死については、判らない。
だが、間違いに気づいた今は、その間違いを正す事が最優先事項で、真実を暴くのはその後の事なのだ。
アルティス達は、主な戦闘員を倒し、一部の魔族だけを残して、他を殲滅した。
選別の方法は、勘である。
『さて、魔族よ、貴様らには何の権利も無い。我々の厚意で生かされた、ただそれだけだ。知っている事を全て話せ。』
「・・・。」
『ウーリャとフィーネで、拷問してやれ。制限時間は10分だ。徹底的にな?』
「10分!?落とせるのか!?」
『簡単だよ。男爵級悪魔ですら、5分も持たなかったからな。魔族なんか余裕だよ。』
状態異常薬を攻撃手段にしている翼人達が、新しい薬を開発していた。
それは、たったの一滴だけ口にすると、体中が痒くなる薬で、効果時間中に例の拷問をすると、我慢強さに関係無く効果覿面になるという、自白剤よりも恐ろしい薬だった。
『この絵面は、ボカシが必要だな。ウーリャは楽しそうだが。』
「この状況を楽しめるって、あの子変なんじゃないですか?」
『真性のサディストなんだろうな。俺には無理だ。』
ウーリャも含めた全員が、アルティスをジト目で見た。
ちょっと魔族の笑い声が煩いとフィーネが言い、ウーリャが魔族にサイレントを掛けた。
『何だよ?俺がそんな冷徹な奴に見えるのか!?』
「アルティス様の自己評価が甘くないですか?」
『嘘だろ?』
「嘘じゃないですよ?」
『待て待て、俺ってそんな理不尽な痛めつけ方なんてした覚えは無いぞ!?』
「そうですかぁ?」
『ちゃんと理屈があって、それに基づいた事でしかやってないぞ!?』
「でも、この拷問はアルティス様が考えたんですよね?」
『そうだよ。でも、爪を剥いだり、脛を痛めつけたりするよりも、断然負担が少ないだろ?精神衛生上、ストレスにならない様に配慮した結果だぞ?』
「まぁ、そうかも知れませんが。」
『エスティアはどう思う?俺って冷たいか?』
「詰められた時は冷たいと思いましたが、来てくれた時はもの凄く温かさを感じました。」
「いやいや、結構身勝手ですからね?アルケーに会いに行ったり、ドラゴンと戦えって言ったり。いつも勝手に決めちゃいますもん。」
「ドラゴンと戦う!?」
「えー!それ私やりたかったですぅ!試し切りしたかったですぅ。」
フィーネは、新しく貰った刀を使いたかったようだが、ドラゴンは無理だろうな。
『フィーネが戦う?・・・ちょっと厳しいな。』
「がーん。酷いですぅ」
「フィーネがドラゴンを?・・・ちょっと無理かな。」
カレンもアルティスと同じ意見の様だ。
『そろそろいいんじゃないか?白目剝いてるぞ?』
「ホントだっ!?」
『やっぱ、やり過ぎたじゃねぇか。サイレントをかけるのは駄目だったな。罰としてウーリャとフィーネは、ダークエルフの捜索な。行って来い。』
「ウーリャのせいで私まで怒られたー!」
「あたしのせい!?フィーネの提案だったじゃんか!」
『さっさと行けよ。』
「「そういう所!!」」
『考えこむよりいいだろ?考え込んだらどんどん罰が重くなるぞ?』
「「行ってきまーす!!」」
「この辺には、もう居ないと思いますが・・・」
いきなり考え方を変えるのが難しいのは、理解できなくも無いが、ちょっと戻るのが早すぎるぞ?
『それは調べた結果か?目の前の事に気が付かなかったのに、広範囲なら判るとは言わないよな?』
「うぐっ・・・その通りです。」
『王子を連れて帰る時に渡したアミュレットはどうしたんだ?』
「王子が使っていますが・・・?」
疑問に思っていた事を聞いてみた。
『アイツは誰と誰の子なんだ?』
「?????!?!!!!!」
「まさか、魔族!?」
『だろうな。あのアミュレットには、種族制限をかけていたから、使えてないと思うが、どうなんだ?』
「アルティス様ー!ちっこい魔族捕まえたー!」
逃げようとした様だが、エスティアに渡したアミュレットには、ダークエルフのみに有効とする制限が付いていた為、MPを使えなかった様だ。
自分のMPだけでは、遠くまで飛べなかったらしい。
『偉いぞ。干し肉をやろう。もっと探してこい!』
「わーい!行ってきまーす!」
「くそっ!」
『久しぶりだな、王子。随分と黒さが増した様だが。』
「うるさい!お前のせいで計画が台無しだ!魔王様に申し開きができないでは無いか!!」
『魔王?マケダマレ・ダマラスか?』
「誰だそれは!?」
魔王が代替わりしたのを知らないとなると、魔族の中でも、こいつらの事を覚えている奴は居ないんだろうな。
角通信も、テラスメル高原の影響で届かなかった様だ。
『その前の奴か。何だっけ名前、ノーフラップ・グラタンだっけか?マケダマレ・ダマラスの臭いに負けた魔王だな?』
「何だと!?いつの話だ!?」
『10年くらい前じゃないっけ?』
「正確には13年前ですよ。3年間は大人しかった様ですね。」
『臭くなる呪いを受けて、魔王になると決意したとかだったよな?』
「そうでしたっけ?忘れましたね。」
『その次の魔王の名前は知らんな。実際1カ月も持ったのか疑問だしな。』
「アルティス様がイジメぬきましたもんね。腕を切り飛ばしたり、瀕死にさせたりして。」
『敵対してるんだから当然だろ。』
「今の魔王様は誰だ!」
『アリエンだな。俺の家臣だ。というか、お前らの事なんか、誰も覚えていないんじゃないか?角通信も届いてない様だし、聞いてみるか。アリエン、ダークエルフを騙す部隊っていたのか?』
『え?生きているんですか?もう全滅した事になってますよ?』
『全滅した事になってるそうだ。良かったな。心置きなく殺せる。』
『あ、はい。今更ダークエルフに何かした所で、戦略的にも影響がありませんから、死んでも問題はありませんね。未だにダークエルフに拘っていたとは、無能と言わざるを得ません。』
あまり人の悪口を言わないアリエンが、無能とまで言うとか、相当だな。
『だってさ。まぁ、300年もの間、ずっとダークエルフに拘っていたんだろ?何の為に?意味あったのか?あ、厄介払いされたのか。残念だったな。』
「うるさいうるさいうるさい!!我々は魔王様の極秘任務を任されていたのだ!」
『それって、世界樹を消滅させた時点で終了してたんじゃないのか?未だに続ける意味あるのか?』
「うぐぐ・・・」
『しかも、奴隷商に捕まった挙句、MP封じられて、悪魔の餌になりかけてたなんて、みっともない魔族だな。』
「うがー!!」
ズパッ
エスティアが元王子の首を刎ねた。
『気が済んだか?』
「悔しさだけが残りました・・・。」
『コイツが着けていたアミュレットは回収しておこう。代わりに、新しいアミュレットを渡しておく。カレン、気絶した魔族の尋問を頼む。ダークエルフ達は生きていると思うんだよな。多分、奴隷として売られたか、どこかに軟禁されているかだと思うんだ。』
魔族がやらかしたとして、300年もの長きに亘って生活をしていくとなると、どうしても金が必要になって来る筈で、手軽に金を手にする方法としては、奴隷として売るのが最善だろう。
なんせ、滅ぼそうとしている相手なのだから。
「何故ですか?」
『説明するのは難しいんだが、まあ・・・勘だ。』
「判りました。尋問しておきます。」
エスティアに渡した、最新版のアミュレットは、MP10000、精神魔法耐性と各属性魔法耐性、打撃耐性、悪魔感知、魔力感知、暗視、簡易鑑定、言語理解、寄生虫耐性、カビ耐性を付けてある。
標準付与としては、ビーコンとルートレコードが付与されている。
居場所と通った場所の確認ができるのだ。
激しく動き回るとMP消費量が増えるのだが、あらぬ疑いを掛けられるよりマシだ。
「アルティス様、尋問終わりました。やはり、殺したのではなく、奴隷として売り飛ばしたそうです。」
『そうか。では奪還しに行くか。あぁ、殺すなよ。脅しに使うんだからさ。』
エスティアが魔族を殺そうとしていたので、止めた。
魔族は、奴隷を買った奴の目の前で切り刻んで、脅しに使おうと思う。
『とりあえず、今いるダークエルフ達を砦に一旦預けるぞ。[ワープゲート]さっさと行ってくれ。おい、ダークエルフは俺の客人だ。丁重に扱ってやれ。』
『では、行くぞ。売られた先は、テラスメル高原だ。イーグル、テラスメル高原に来い。セリナも一緒に来い。』
イーグルはセリナの従魔のグリフォンの事だ。
元々テラスメル高原に住んでいたので、案内を頼もうと思う。
売られた先をテラスメル高原と断定したのは、隣接しているのがテラスメル高原と、オーベラル連合のルングベリと、農業国家のエスティミシスで、ルングベリは狐人族の国で、エスティミシスは鎖国しているからだ。
ドワーフの支配地域にエルフを売るのは、不自然にも思えるが、ドワーフは国を持たず、都市国家群の様な形態の為、奴隷商が活動しやすい条件が揃っていると思われるのだ。
イーグルのビーコンがテラスメル高原の上で止まったので、テレポートで向かう。
『上空かよ。[エアボード]イーグル、この辺にダークエルフが居る筈だ。案内しろ。』
「アルティス様怒ってます?」
『ムカついてるな。』
『そ、そうか。ダークエルフは儂の世話をしていた。まだ巣にいると思う。』
『ああ!?放置してたのか!?』
『ひいぃ!?ち、違うぞ!拘束しておらんので、自由に過ごしている筈だ!!』
『じゃぁ案内しろ。』
カレンはバイク、ミュールはブーツがあるので、空に居ても問題無いのだが、エスティアは飛べないので、ソフティーの背に乗せて、ソフティーに滑空してもらった。
ウーリャとフィーネがまだ残っているが、支配地域全体を探索し終わるまで、帰還はお預けである。
イーグルの巣に到着した。
周囲には、13人の魔力反応があるのが確認できた。
『ここには、何人いるんだ?』
『20人いたと思うが、足りない様だの。』
『ここには、誰が連れて来るんだ?』
『近くの村の男が連れて来るのだ。その男に聞けば、何かわかるかもしれない。』
『案内しろ。ミュールは13人を集めておけ。』
アルティスが一言ずつしか発言しないのを見たセリナが、小声でカレンに聞いた。
「アルティス様、もの凄く怒ってませんか?」
「激怒していると思いますよ。でも、まだ殺気が漏れていないから、大丈夫なんだけど、村の男が怒らせる様な事を言ったら、大惨事になるかも・・・」
「ひいいぃぃ」
村に到着すると、グリフォンを見て男が寄ってきた。
「グリフォン様、村に何か御用でございますか?」
『ダークエルフを出せ。』
「はぁ?何だ?この獣は。シッシッ、あっちに行け!」
『その方に無礼を働くな!死にたいのか!?』
「ひいいいぃぃぃ!?グリフォンが暴れ出したぞ!」
対応に出て来た男が怯え、暴れてもいないのに暴れ出したと叫び、転がるように逃げた直後、村の外壁の上に弓を持った男たちが大勢並んだ。
「グリフォンを狩れる口実ができたぞ!撃てー!仕留めろ!」
『[ショックウェーブ]』
ボッ!ドガッ!ガラガラガラ
アルティスの魔法で、衝撃波が前方へ扇状に広がり、飛んでくる矢を落とし、村の防壁を崩壊させて、弓兵を吹き飛ばした。
村はドワーフと初めて見る獣人族で構成されており、壁の向こうには幾つもの檻と、檻の中に収監されている奴隷たちの姿があった。
建物は少なく、住んでいる者がいるのかどうかも怪しい程に閑散としていて、馬車だけは大量にあった。
『真面な村では無い様だな。全員捕縛しろ。奴隷は全て書き換える。イーグルも好きに暴れてもいいが、殺すなよ。全員捕縛だ。』
「「「『了解!』」」」
『[マッドフィールド]』
馬車に乗って逃げようとする者が見えたので、アルティスが馬車の下を泥状に変え、馬車が動けない様にした。
檻の傍まで行ってみると、檻の無い場所にも魔力反応がある事から、地下にも部屋があると判った。
『おい、ゴードン。テラスメル高原は誰が支配しているんだ?ドワーフが闇奴隷商人と組んで、何をしているんだ?』
『わー!びっくりしたー!テラスメル高原が何ですって!?』
『闇奴隷商人とドワーフが組んで、グリフォンを殺そうとして来たぞ?』
『そんな馬鹿な!?グリフォンに手を出すなんて!・・・アルティス様、お願いがあります。ドワーフをテラスメル高原に行かせて頂けませんか?』
『あーるじー、ドワーフをテラスメル高原に戻してもいい?』
『何だいきなり。元々テラスメル高原に住んでいた連中を帰すのなら、問題は無いが、何をしているんだ?』
『闇奴隷商人をしばきに来てる。』
『闇奴隷商人だと!?陛下に相談してくる!待っていなさい!!』
『ウーリャ、調査は順調か?』
『テラスメル高原との境目に、奴隷商人を見つけたんですが、どうしますか?』
『奴隷がいるのか?』
『匂いでは6人程居そうで、一人は瀕死かもしれないです。』
『助けてやれ。』
『了解!フィーネ!いくよ!』
村の制圧と商人の捕縛は速やかに完了した。
『カレン、地下の部屋も頼む。』
「了解」
地上の檻に居たのは、34人の奴隷で、内18人がダークエルフで、他はドワーフ女と人間だった。
一方、地下から助け出した奴隷は、全員がダークエルフで、28人居た。
中には、重病の者もおり、手足が欠損していたり、包帯でぐるぐる巻きにされている人も居た。
『セリナ、ミュール、エスティア、治療してやれ。欠損は後で治す。』
「「「はい!」」」
「ふんっ!治したって無駄だよ!そいつらは流行り病に罹っているんだからな!その内死ぬんだよ!」
『流行り病ねぇ、碌に栄養を摂らせていないから、栄養が偏ってるだけじゃねぇか。お前らがクズって事は証明されたな。もうすぐ魔王軍に行ったドワーフが帰って来るんだが、ドワーフ女を奴隷にしてて、大丈夫なのか?』
理由はともあれ、同族意識の高いドワーフの女が奴隷になっているのは、ヤバい気がするな。
しかも、闇奴隷ともなれば、バレれば騒ぎだすのは目に見えている。
ドワーフの相手をするのは、面倒くさいから嫌なんだけどなぁ。
「!?ヤバいぞ!バレたら殺される!おい!俺達を解放しろ!解放してくれたら、売り上げの半分をくれてやる!だから早く!」
『解放せずに売り上げの全額を貰った方が、儲かるな。実行犯はお前らだし、殺されるのもお前らだ。こっちには、何の害も及ばないからな。』
奴隷商と話をしている間、後ろではカレンが奴隷たちに干し肉を分け与えており、歓声が上がっていた。
「アルティス様、もう、時間も遅いですし、今夜はここに泊まりますか?」
『そうだなぁ、ここは煩そうだし、砦に帰ろう。ここにはホイホイ仕掛けておけばいいだろ。巣にいる奴隷たちも一緒に連れて行こう。』
「判りました。ホイホイを仕掛けて来ますね。」
ホイホイとは、ゴロツキを捕まえる為に作った罠で、敵意か害意を持って近づく者を絡め捕り、敵意も害意も持たない者は通過できる魔道具だ。
最大半径10mまで拡げる事ができて、外から見ると中心には、白金貨の入った箱が積み上げられている横に、薄着の女性が寝ている幻影が映し出される。
たまに素通りできる猛者もいるが、幻影に惑わされ、悪意を持った瞬間に、バインドで絡め捕られる為、捕縛率99%を誇っている。
1%の者は、金にも女にも靡かない、変人と変態と大金持ちくらいで、滅多に居ないのだ。
『アルティス、陛下の許可が下りた!私も行くぞ!』
『えー、あるじ来ちゃったら、完全に侵略になっちゃうよ?』
『そういう命令だよ。闇奴隷商人に加担している様なら、占領しろとの事だ。』
『最近、どんどん大胆になってきたな。あんまり領土を広げ過ぎると、統治自体が難しくなるから、占領とかやりたくないんだけどなぁ。』
『だが、闇奴隷商人は放置できんのだ。ドワーフに丸投げしてもいいのだが、アイツらの性格では、奴隷も纏めて殲滅しかねないからな。』
『じゃあ、とりあえず明日から始め『今からだ。』・・・冗談でしょ?もう真っ暗だよ?こっち。』
『全員ゴーグル付けているんだから、視えるじゃないか。取引は主に夜間行われるんだよ。だから、今からだ。』
『じゃあ、キュプラの子達も使って、外側から内側に進む感じで攻略をお願い。』
『了解した。』
『ドワーフは30人ずつのグループで行動して、殺さずに捕縛で。殺すと隠された牢を発見できなくなるからね。首輪を1チーム30個ずつ持って、奴隷を見つけたら一緒に連れて進軍、中央に集める様にして。重病及び重症者は速やかに治療して、絶対に死なせない事。俺は寝るから、後は頼んだよ。』
『寝るのか?』
『昼間からずっと動きっぱなしなんだよ?寝かせてよ。』
『判った。』
『ゲートは錫杖の方で出してよ。俺のMPだけじゃ死んじゃうよ。』
『もうお願いしてある。』
流石に5000人近いドワーフを、広範囲に布陣させる為のワープゲートを一度に出せば、アルティス一人のMPでは9割近くを消費してしまい、一度にそんな大量のMPを消費すれば、アルティスでも昏倒してしまう程のダメージを受けてしまう。
テラスメル高原の最北端に降り立ったアーリアは、国境沿いに整列したドワーフ軍に対し、号令をかけた。
『貴様らの国にのさばる闇奴隷商人を全員捕縛する!ここは貴様らの国だ!貴様らは、貴様らの手によって、闇奴隷商人から国を守るのだ!一匹も逃さず、ウジ虫共を捕えよ!進軍開始!』
『うおおおおおおおおおおおおー!』
この夜、バネナ王国の電撃作戦により、テラスメル高原は一夜にして陥落した。
突如攻め込まれたテラスメル高原は、ドワーフの支配領域であり、中心地にはグリフォンの住処があり、強固な防壁を持つ砦の様な街が特徴の、難攻不落の国の筈だった。
このニュースは、世界中に散らばった暗部達の手によって、瞬く間に全世界に広まり、同時にバネナ王国は闇奴隷を許さない事も広まった。
情報は、暗部達が庶民に成りすまし、商人の口伝、魔族の通信、マルグリッド王国の新聞などにより、ものの一週間で世界中に広まり、各国に衝撃が走った。
テラスメル高原の国境付近に、突如として現れた軍勢。
人数は大したことが無いと思われたが、屈強で、並みの戦力では全く歯が立たず、不意打ちで狙っても剣を砕かれるか、切り刻まれる始末。
点在する街では、アラクネが現れて大混乱に陥り、国境に向けて出発する寸前だった防衛隊が、街の混乱を鎮める為の治安部隊に早変わり。
国境付近で奴隷売買の取引を行っていた商人たちが、軒並み捕縛されて馬車と共に中央へ向けて連行された。
最初は疎らだったドワーフ軍も、段々と進軍するにつれて、数が増えて行き、あっという間に街が制圧されていく。
制圧された町には、捕縛された官吏、治安部隊、奴隷商人らが、屋敷の前庭に集められて、ここぞとばかりに住民から石を投げられていた。
進軍するドワーフ軍は、ただひたすらに真っ直ぐ進んで行く。
当然平坦な土地ばかりでは無いのだが、彼等は意に介さず、崖を登り、谷を飛び越え、山を登り、森を突き進む。
狂暴な魔獣も鎧袖一触、進軍を止める事も無く、次々に倒されていく。
奴隷商人達は、恐れをなして逃げ惑うが、次々と逃げ場を無くして捕まって行く。
とある商人の馬車には、ドワーフの子供が奴隷となって乗っていた。
それを見たドワーフが、商人を殺す寸前までいったのだが、仲間に止められて、商人は殺されずに済んだ。
その商人は、殺され無かったのをいい事に、調子に乗ってドワーフを侮辱した次の瞬間、商人の右腕が消し飛んだ。
商人の右腕は、低級ポーションで治療されただけで、足にロープを結ばれた状態で、地面を引き摺られて運ばれた。
瀕死になるとポーションで治療され、再び引き摺られ怪我をする事数度、その隊の進軍が止まり、馬車と商人は、別の隊に引き継がれて中央に運ばれていった。
謎の軍の間を隠ぺい魔法を使ってすり抜けた商人達は、前を塞ぐアラクネに遭遇し、捕縛された。
アラクネに捕縛された商人たちが見たのは、組織的に動く大勢のアラクネ。
商人は、死を覚悟して、意識を手放した。
制圧された町では、奴隷商人が捕まった事を知り、喜びに沸き立っていたのだが、制圧したドワーフ達が魔王軍に参加した者達だと判ると、静かになった。
住民の一人が代表して、駐留するドワーフに話しかけた。
「あの、魔王軍なのですか?」
「いいや、我らはバネナ王国軍である。魔王軍に参加していた我らは、惨敗した魔王軍を見限り、バネナ王国に保護を求めたのだ。バネナ王国の宰相殿が受け入れて下さり、以降、バネナ王国軍として魔王軍と戦い、打倒したのだ。現在の魔王は、バネナ王国宰相殿の家臣がなっており、戦争終結を宣言した。宰相殿は、今後は魔族とも交易を行い、共に発展していく事を望んでおられる。助けて貰った恩義の為にも、ドワーフ族は変わらねばならぬのだ。」
「人間に従うと?」
「我らドワーフが束になっても絶対に勝つ事ができぬ程に、宰相殿はお強いのだ。その宰相殿よりもお強いのが、軍を率いる総大将殿だ。バネナ王国の上位陣は、ドラゴンを単独で倒せる程の強さを誇っている。我々が勝てる相手では無いのだよ。」
「まさか、ドラゴンを単独でなんて、馬鹿馬鹿しい。夢でも見てたんじゃないのか?」
「総大将殿は、サイクロプスを片手で倒すのだぞ?剣は業物、鎧も業物、加えて魔法も使えて、アラクネクイーンを従えておるのだぞ。」
「あ、アラクネクイーンだって!?従えてるとはどういう事なんだ?」
「アラクネを力でねじ伏せたそうだよ。おっと、不用意な言葉は出すなよ?殺されるぞ?」
ゴクッ
その話を聞いていた全員が、言葉を飲み込んだ。
この殊勝な話をしたのは、ゴードンの仲間のエルダードワーフとドワーフのハーフだ。
アルティス達は、ドワーフの配置が完了した後、ワープゲートで砦に戻り、夕飯を食べて就寝した。
発見したダークエルフ達は、全員奴隷契約を上書きしてから解放し、砦へと送った。
地下から助け出した奴隷たちは、重傷者から優先的に治療術をかけて治し、不足した栄養を補う食事を与えて、休ませた。
翌朝、アーリアから念話が届き、テラスメル高原の制圧を完了したと言われた。
『はあ!?一晩で占領したの?全域を?はー、電撃作戦どころの話じゃ無いな。全世界に宣伝するか。アリエン、魔族通信でテラスメル高原をバネナ王国が一晩で制圧したと報じてくれ。』
『え?何ですって?テラスメル高原を一晩で制圧した!?どうやって?アーリア様が総大将?あぁ、キュプラさんがお手伝いしたんですね?判りました。報じておきます。』
『あるじー、奴隷は全部で何人いるの?』
『3万近い人数だな。街中には、まだ奴隷が沢山いる様だから、闇奴隷をどうやって見分けるか検討しなければならないな。』
『あぁ、それなら簡単だよ。見分ける為の魔道具を作って渡すね。』
『簡単なのか?』
『うん。正規の手続きができないから、強制で奴隷にするでしょ?首輪を使う訳でも無いし、強制契約の場合だと、奴隷紋の形が少し違うんだよね。契約内容も正規の奴隷とは違うから、見分けるのは簡単だよ。それと、扱いが雑な場合が多いから、治療が必要な人が多いかもしれない。万能薬もポーションもバンバン使っていいから、助けてあげてね。』
『了解した。』
『カレン、狼人族連れてテラスメル高原に行ってきて。大勢の奴隷が保護されたらしいから、沢山料理を作らないといけないんだよ。アーミーラプトルの在庫とオーク、ハチミツ、ロイヤルゼリーも渡すから、元気が出るご飯を食べさせてあげて。』
「畏まりました。治療班も必要ではないですか?」
『ドワーフの中にエルフ入れるのは大丈夫なのか?』
「文句言ったらねじ伏せます。」
『・・・じゃぁ連れて行っていいよ。』
ドワーフの中に狼人族を入れるのは問題無いのだが、エルフ族はドワーフ族と対立までは行かずとも、仲が悪く、いつもドワーフの余計な一言が原因となって口論をしているのだ。
「アルティス様はどうなされますか?」
『俺は魔道具を作らないといけないから、作ったら持って行くよ。ウーリャとフィーネも連れて行くと良いよ。匂いで重症度が判るらしいから。』
「あ、はい。判りました。」
『ミュール、ソフティーと一緒にスケープゴートとゴートキャトルかシープキャトル狩ってきて。沢山ね。』
「行ってくるー!ソフティーいこー!」
『はーい、行ってきまーす。』
『シーア、ダークエルフの支配地域の海岸に、セイレーンって住んでないの?』
『いますよ?』
『もしかして、ダークエルフを奴隷として使ってたりしない?』
『たしか、一人だけ押し付けられたって聞いた事があります。確認してみますね。』
『おねがーい。』
昨日捕まえた魔族達は、アリエンに丸投げしておいた。
結局脅しにも使わなかったし、商人達はホイホイの真ん中に置いてきたからね。
イーグルは、セリナのベッドになって寝てるよ。
モフモフで、イーグルは結構人気らしいね。
フォークの方は、モフモフでは無いが、それはそれで需要があるらしい。
シーアから連絡が来た。
『ダークエルフの奴隷が居るらしいです。ですが、食事の種類が違うので、全く馴染めていないそうで、引き取って欲しいそうです。』
『了解。ダークエルフを迎えに行かせるよ。』
『伝えておきます。』
『エスティア、セイレーンの村に一人いるらしいから、引き取って来て。』
「あ、はい。」
馬人族に頼みたい事があるので、一旦王城にテレポートした。
『馬人族にちょっと調べて欲しい地域があるんだけど。』
『どちらですか?』
『テラスメル高原の南に、農業国家があるじゃん?あの国って何処とも国交が無いから、まだ存在しているのか判らないんだよね。特に山も無く、平原が広がってるだけみたいだし、ちょっと行って、ダークエルフが奴隷として使われていないか調べてきてくれない?』
『承りました。50人で捜索してきます。』
『ついでに、どんな国か調査してきてよ。』
『もちろんです。あまり細かくは調べられませんが、我々も興味がありますので、できるだけ細かく調べたいと思います。』
『ゲート開くけど、大丈夫?』
『準備は完了しております!』
『[ワープゲート]帰る時に連絡ちょうだいな。』
『はい。では行ってまいります!』
『コルスー』
『何でしょうか?』
『上の方の国はどんな感じ?』
『オーベラル連合国家群ですね。あそこは、現在、厳戒態勢に入ってます。』
『何かあったのか?』
『隣国が一夜にして占領されてしまいましたので。』
『そっかー、大変だなぁ。』
『・・・我が国の事ですよ?』
『判ってるよ。でも侵略するつもりは無いから、闇奴隷を買って無いかだけ調べておいて。まぁ、創造神の名を冠していながら、非人道的な奴隷を買うなんて馬鹿な真似は、しないと思いたいんだが、人間の国だからイマイチ信用できないんだよな。』
『ルングベリは狐人族の国ですよ?』
『神聖国だっけ?信用できるのか?』
『さぁ?。かの国は、潜入するのが、非常に困難でして、情報がありません。』
『ピカ族を育てて、潜入させるか?』
『難しいと思いますが。』
『じゃぁ、そこはいいとして、周りの人間の国を調査してよ。』
『判りました。数名派遣しましょう。』
『ついでに、脅しもかけておいて。闇奴隷を買った奴は、バネナ王国の敵とみなすって。』
『了解しました。』
さて、魔道具もできた事だし、テラスメル高原に向かうとしよう。
闇奴隷だった者達の治療と解放手続きが必要になるから、忙しくなるんだろうな。
『あるじー来たよー。』
「アルティス、待っていたぞ。重症や重病の者が多数いるので、診てやってくれ。」
『じゃぁ、これ、魔道具ね。魔力流すだけでスイッチ入るから、ゴーグルと連動させて、色で判別可能だよ。青が犯罪奴隷、黄色が借金奴隷、赤が闇奴隷ね。目の前に居なくても、半径100m以内の上下左右全域を探知できる様にしたから、地下牢に閉じ込められていても見つけられるよ。』
「助かる。隠された奴隷の居場所が、とんでもない所が多くてな、闇雲に探すとなると、街を破壊し尽くさなければならない所だったんだよ。」
『とりあえず、100個作ったから、手分けして探してね。』
「ありがとう。」
『そういえば、王都の守りは大丈夫なの?』
「エルフとウルファ、クールとコボルト達がいるから、大丈夫だろう。キュプラの子達もいるからな。問題無い。」
『そっか。あ、そうそう、新しい剣、渡しておくね。現状では、世界最強の剣になったよ。怒りに任せて振ると、破壊神になるから、気を付けてね。』
「・・・アルティスは、私をどうしたいんだ?」
『ん?戦神かな?』
「・・・。」
この世界では、奴隷制度を認めている国が殆どで、奴隷制度が無い国は殆ど無いと言っていい。
正規の奴隷とは、犯罪奴隷と借金奴隷のみを指し、それ以外は全て闇奴隷となる。
正規と非正規の違いは、正規は国王又は、法務機関が発行した書類を基に奴隷契約を結んだ場合のみで、非正規の場合は、書類が無い、又は、不正な書類を基に奴隷契約を行った状態で見分けが付く。
不正な書類とは、王や法的機関の正式な許可証ではない事を指している。
犯罪奴隷は犯歴が、借金奴隷は借金の証文が必要となり、その原型は1000年前の勇者が、神との約束を交わした事による、全世界共通の決まり事だ。
だから、一般的に奴隷商人が売買している奴隷は、奴隷紋の中に書類が入っている。
つまり、先日まで王都の奴隷商の所で保護した、攫われていた子供の奴隷たちは、全て闇奴隷という事になるのだ。
借金の形に子供を売る事はできるが、犯罪者でなければ奴隷にはできないし、購入者は擁護か転売しか選択肢は無いので、普通は子供が売られる事は無い。
だが、そのせいで捨てられる子供は多く、酷い場合は、魔獣蔓延る山の中に捨てられたりするのだ。
捨てに行く親も命がけではあるが。
アーリアに渡した魔道具は、闇奴隷以外も判別できるようにしたのだが、その理由は、間違えない様にする為だ。
例えば、犯罪奴隷達は、奴隷から解放される事を望んでいる為、自分が闇奴隷であると主張するかもしれない。
その場合、魔道具に反応が無くては、どっちなのか判らないという事になりかねず、要らぬ手間が増えて、作業効率が下がってしまうのだ。
犯罪奴隷の中には、村八分になった者が、犯罪奴隷にされてしまう場合も無きにしも非ずな為、刑期を満了する前に解放されるパターンも存在するが、今回は対象では無い為、対応を余儀なくされては困るのだ。
占領したとはいえ、我々の仕事では無いのでね。
今現在のバネナ王国は、暫定政府であって、正規の政府では無いという立場だ。
そして、闇奴隷の保護と闇奴隷商人の捕縛が完了したのなら、さっさと撤退するつもりなので、犯罪奴隷には用が無い。
借金奴隷については、基本的に自分の意志で奴隷になった者達で、待遇も悪く無い筈なので、トラブルになる事は無いと思うのだが、念の為判る様にしてある。
基本的に借金奴隷の借金を加算する事は、禁止されてはいるが、高価なものを破損させたり、犯罪に加担させたりして、行政がグルになって奴隷期間を延長させたりする事も、稀にある様だが、我々には関係が無い。
そもそも、自分のせいで奴隷になったのだから、その手のリスクも考慮するべきであり、働き口の確保の為にシステムとして存在しているものの、奴隷になるという事自体は、リスクでしかない事を最初に説明されている筈なので、自業自得だよ。
今回の作戦中に、たまたま闇奴隷と同じ馬車に乗っていて、たまたま連れて来られた犯罪奴隷と借金奴隷は、新しい怪我以外は、治療せずに近隣の街に放逐される。
旧政府に何らかの思惑や意図があって売られる予定だったとしても、我々の知った事では無い。
ちなみに、このテラスメル高原の行政機関は、国としての行政では無く、各街による独立行政の形を執っているので、細かく対応するのは、ほぼ不可能と言っていい。
主に戦えるドワーフ達が、魔王軍に参加する為に抜けた後は、闇奴隷商人とそれ以外の商人達が行政を賄っていた様で、明らかな悪徳法が立法されていたりするが、それらも特に手を付けるつもりは無い。
部外者に乗っ取られた、ドワーフ自身が責任を負うべき事だよ。
但し、ドワーフ達が、テラスメル高原に残りたいと言った場合には、残すつもりではある。
元々の故郷なのだから、故郷の窮状を打開したいのなら、自分達でやるのが妥当だ。
手伝う事も可能ではあるが、ケットシーが行きたがらない可能性が高いのも事実である。
それだけの事を、バネナ王国内でやって来た実績があるのだから、手伝ってくれる者が居なくても、自業自得と言えるだろう。
自分達の都合のいい時だけ下手に出ても、誰も相手にしてくれる訳が無いのだよ。
中央に集められた奴隷達をチェックしてみると、やはり闇奴隷以外が混ざっていた。
犯罪奴隷を調べてみると、なにがしかの欠損が有る者が複数おり、奴隷歴と欠損箇所の時期が合っていない者も居た。
つまり、犯罪奴隷になってから、欠損したという事だ。
だが、死刑に該当する犯罪奴隷であれば、当然危険地帯に送られる事もある為、そういう怪我をしていても、全くおかしくはないのだが、明らかな軽犯罪者に欠損がある場合が多い為、虐待が疑われる事例だと思った。
一番酷いと思ったのは、犯罪歴が窃盗1回なのに、奴隷期間が5年にも及び、耳や目、腕や足の指までもが欠損している子供が居たので、さすがに無視できずに引き取る事にした。
その子はドワーフでは無く、獣人で、何の獣人なのか全く判らない程にボロボロだった。
『カレン、この子に食事をあげてくれ。この子は、孤児院に入れる事にした。』
「・・・酷いですね。獣人だけど種族が全く判りませんね。」
『窃盗一回でここまでの仕打ちは、あまりにも酷いよな。何を盗んだのかまでは判らないが、王も帝も居ないこの国で、ここまでの仕打ちを受ける窃盗があるのかは疑問だな。』
「窃盗一回!?嘘でしょ!?酷過ぎますよ!」
『やった奴を特定したいが、できるかどうか判らないな。』
「懲らしめてやりたいですね。」
『その前に、食事だよ。頼むぞ。』
「はい。お任せ下さい。」
奴隷の判別の時に、もう一つ重要な作業がある。
それは、犯罪履歴の確認だ。
幾ら闇奴隷だとしても、殺人鬼を解放する訳にはいかないからな。
軽犯罪であれば、犯罪奴隷としての刑期を終えれば、犯罪履歴と奴隷契約を消されるのだが、犯罪歴は経歴として残る。
だから、犯罪奴隷として刑期を満了したのかどうかも、ちゃんとわかるようになっているのだ。
殺人などの重犯罪者が、解放される事は滅多に無い事もあり、殺人履歴がある者については、闇奴隷から解放してから、改めて犯罪奴隷として契約をさせた。
過剰防衛によって殺人履歴がついた可能性も、あり得ない話なので、考慮する必要は無いのだが、主人に命令されて、暗殺者になってしまった者には、暗殺者としての犯罪歴が残ってしまうのだ。
殺人はこの世界でも犯罪になるのだが、正当な理由があって殺人を犯した場合は、犯罪歴としては残らない。
そんな物が残ったら、アルティスもカレンもアーリアも、全員殺人者になってしまうからな。
これは、全世界共通の法則で、人類の代表者が、神と契約をしたとされている。
勇者では無いよ?もっとずっと昔からある理だよ。
だから、目撃者がいない場所で、盗みを働く為に人を殺したとしても、犯罪履歴として残るので、必ずバレるのだ。
だが、当然の事ながら、穴はある。
穴があるから、司法があって、法律があるのであって、何もなければその穴を使って、殺し放題になってしまうのだ。
どの世界でも同じで、犯罪はどんどん巧妙になっていくし、グレーゾーンも当然存在しているので、裁判を行う事も当然あるし、繰り返させない為の法律を作ったりもするのだ。
何も対応せずに傍観を決め込んでいれば、いつかどこかで、自分にふりかかって来る事になるので、みんな真剣に法律を作っている。
「アルティス様!大変です!南の街でドワーフ部隊が重傷者多数でました!」
『ん?何をしたんだ?』
「トラップに引っ掛かったそうで、魔石が爆発したそうです!」
『周囲の被害状況は?』
「現在調査中です!」
『ウーリャ!現地に行って来い!アラクネも連れて行け!』
『了解!』
ウーリャを行かせたのは、重傷者の捜索の為だ。
アラクネは力持ちだから、瓦礫の下に生存者がいる場合、もの凄く役に立つのだ。
今回トラップによる爆発という事だが、アルティスの作ったアミュレットの欠点を突かれてしまった形になる。
爆発による衝撃波というのは、打撃と同等ではあるものの、広範囲に及ぶ打撃になど、対応するのはほぼ不可能に近い。
耐性を付けようにも、対衝撃耐性など、見た事も聞いた事も無いのだ。
耐性はスキルなので、見た事が無い耐性を作る事はできないし、誰かに覚えさせることもできない。
だって、存在を知らないのに、覚えるかどうかも判らない実験を繰り返すなんて事できないでしょ?アルティスは、マッドサイエンティストではないので、犯罪奴隷を使ったとしても、そんな酷い事はやりたいとは思わないし、思いたくも無い。
トラップを作った奴は、どうやったのか?魔石を暴発させた様だが、魔石に入っている魔力は、比較的安定しているので、暴発させるとなると、特殊な方法を行う必要がある。
魔石は、マンガン乾電池の様な物で、サイズに比例して強力になっていくが、アルカリ乾電池か鉛のバッテリー程度の安定性がある。
決してリチウムイオン電池の様にはならない。
無理やり暴発させるには、大量の魔力を無理やり入れるくらいしか方法が無く、効率が悪すぎるし、その状態を維持する事も難しいのだ。
今回の爆発が、どの程度の威力があったのかは、見てみないと判らないが、通常、ゴブリンの魔石であっても、暴走すれば家一軒が崩壊する程度の爆発が起こるのだが、その時に必要な魔力量は、ゴブリンの魔石100個分で、非常に効率が悪いと言える。
しかも、充電と同じ様にする必要がある為、数分で暴発まで持っていく事は、ほぼ不可能だ。
その事から、本当に魔石の暴発だとすれば、時限爆弾の様な感じにしたのだと思うのだが、丁度ドワーフ達が突入したタイミングで爆発させるなど、時限爆弾では不可能だ。
現場に向かおうとして、ふと気が付いた。
『ソフティーが居ない。』
ソフティーは今、ミュールと狩りに出かけているので、この場には居ないのだ。
『ミュール、狩りの方はどお?』
『いま、砦で解体中。ソフティー暇そうだから呼んであげてよ。』
『判った。ありがとう。』
『ソフティー、テラスメル高原に来てー!』
砦内のアルティスの部屋の中に、テラスメル高原に繋がるゲートが、開いたままになっている。
ミュールや暗部などが、食事を持って来ることを見越して、開けたままにしてあるのだ。
MPはゴリゴリ減っていくが、MPタンクをたくさん準備してあるので、それを使えば問題無い。
ソフティーが高速移動で走って来てもいいのだが、砦からテラスメル高原までの距離は、2万kmくらい離れているので、ソフティーの早さであっても、16時間以上かかる。
ちなみに、グリフォンがあっという間に来れるのは、グリフォンの様な高位魔獣は、スキルでショートワープの様なものがあって、繰り返し使う事によって、飛ぶ距離を縮めているからで、クールタイムがあるので連続使用はできない物の、30秒ごとに使える上に、飛ぶスピードも音速に近い為、素早い移動ができるのだ。
彼等は、普通の事だと思っているので聞かないと教えてくれず、一般常識なのに知らないの?という感じになるので、ムカつく事がたまにある。
アルティスが聞いた時は、殺気が漏れてイーグルがお漏らしした。




