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第46話 凱旋パレードとバネナ王国の決意

 話していると日が暮れて来たので、港町の中心部の屋敷にやってきた。


 「スケープゴートの確保完了致しました!」


 ボロボロの姿で、あちらこちらに白い綿毛を付けて、パツパツ・パッツンが報告してきた。


 『そんなに大変だったのか?』

 「大変でしたよ!?武器が壊れた者が30名出ましたし、防具が頑丈だったので、死人は出ていませんが、死ぬかと思いました。」

 『武器が壊れた?見せてみろ。』


 魔族には、ワイバーンの骨を混ぜた武器を渡していた筈なのだが、差し出してきたのは普通の剣だ。


 『支給した武器とは違う気がするが?』

 「我々が受け取ったのは、この武器です。違うのですか!?」


 アリエンに支給された時の状況を聞いてみた。


 「ドワーフから渡されたのは、この鉄の剣だけですね。これ以外は受け取っていません。」


 アルティスの中で、何かが切れた。


 『あるじ、王都に着いた?ドワーフに超過酷な訓練をさせたいんだけど。』

 『どうした?随分怒っている様だな。』

 『魔族に支給したはずの武器を、ドワーフが着服して、魔族に鉄剣を渡していたんだよ。』

 『・・・判った。こちらで対処しておこう。』


 後半のアーリアの雰囲気が、ガラッと変わったのを感じた為、任せる事にした。

 魔族達には、ワイバーンの骨を混ぜ込んだ剣を渡しておいた。


 『アルティス、ドワーフが剣を持っていたぞ。この剣はどうする?』

 『城に予備として保管しておいてほしい。』

 『判った。』


 このワイバーンの骨を使った剣は、牙や爪よりも強度が一段落ちるが、普通の冒険者が使う剣よりも遥に硬く、スケープゴート如きでは、1本で1万匹狩ったとしても折れる事は無い。

 だが、手入れは必要になるので、毎日寝る前に武器と防具の手入れをする様に、兵士達には指導をしている。

 命を預ける道具を手入れしないなんて、ありえないからな。

 獲ってきたスケープゴートの内、100匹残して受け取り、100匹は暫らくの間、彼等の食料にしてもらう事にする。


 「ドワーフは何故武器を渡さなかったのでしょうか?」

 『恨みか、ケチ臭い性格が出たかだな。』

 「恨みの方が強そうですね。」

 『いつまでもウジウジと煩いやつらめ。』

 「まだ半年も経ってないのですから、仕方ないですよ。」

 『だが、魔族に与すると決めたのは自分達じゃねぇか。言葉巧みに騙されたのかも知れないが、そんなものは騙される方が悪い。そもそも、テラスメル高原に居たんだろ?何だって態々(わざわざ)魔大陸なんぞに行ったんだよ。意味が判らん。』

 「何ででしょうかね?」


 狼人族がスケープゴートをパパッと調理して、500人分の料理を作り上げた。

 屋敷の周辺には、腹を空かせた生き残りの魔族達が集まってきた。


 『アリエン、彼等に分けるかどうかは任せる。明日は第2中隊を避難所に行かせて、別の中隊に狩りに行かせるんだ。マジックバッグは幾つか渡しておくから、街の為に使ってやれ。』

 「明日戻られるのですか?」

 『そうだな。一旦世界樹に寄ってから戻る事にするよ。世界樹にクールも居るからな。置いて行ったら怒られそうだ。』


 魔大陸での活動は、もういいだろう。

 魔王はアリエンが引き継いだし、世界樹も復活した。

 カニバル商会の件も、概ね片付いたし、今後の計画も立てた。

 他の細々(こまごま)とした事は、アリエンに任せても問題は無いだろうし、兵士達もいる。


 「他のスラムの獣人達はどうしますか?」

 『希望者が居るのなら、連れて行っても問題無いが、希望者を集めておいてくれ。すぐじゃなくていいぞ。定期便とか整備しようかとも思っているからな。』

 「航路で結ぶのですか?危険ですよ?」

 『セイレーン達にやってもらえば、できないかなぁ?』

 「もの凄く揺れそうです。」

 『揺れなくする方法もあるんだよ。』


 外海は内海と違って波もあるし、巨大な魔獣も多いが、船を使えない訳でも無い。

 であれば、スピードの速い船や、グライダーなんかも使えるかもしれない。


 「そうなんですか?定期便という事は、何か目的があるのですか?」

 『スケープゴートを欲しいんだよ。輸入して、輸出するのは何がいいか。アーミーラプトルとか甘芋とかかな。魚も獲れるのなら、魚料理を輸入してもいいし、産業を作ってやれば、生活も良くなるはずだ。魔大陸の中だけで完結する必要なんか無いからな。』

 「上手くいくでしょうか?」


 今までの魔族は、魔王の指示によって動く、絶対王政の全体主義だった。

 だが、巨大な大陸に僅かな人数しか居ないのだから、それでは衰退するだけだろう。

 だからこれからは、個々の能力と才能を生かす、君主制を目指す。


 『上手く行かせるんだよ。お前らが土台を作ってやれば、やりたい奴も出て来るだろうし、兵達の中にも何かの産業を創出する者も出てくるかもしれない。無理に留まらせる必要は無いし、治安維持に回す事も必要だからな。上手くやろうとしなくてもいい。一人で決めずに、中隊長の意見をよく聞いて決めるんだ。ゆくゆくは、下部組織のトップを民主制で決めるとかな。』

 「畏まりました。私だけでは、荷が重いと思っていましたが、中隊長が補佐に回ってくれるのなら、心強いです。」


 魔族全体の人数は減っているといっても、まだ10万は居ると思われる訳で、それを全て一人で統べるというのは、現実的な話では無い。

 通信はできても、管理するのは厳しいのだから、一人でやるのではなく、6人でやれば良いのだよ。

 魔王というシステムは、絶対王政に近い形態を強いられている様にも見えるが、それは使い方を間違えているだけで、適正に使えば絶対王政以外の使い方もあるはずだ。

 今はまだ、アリエンが戸惑っている様にも見えるが、アイツならきっといい国を作ってくれると信じている。


 翌朝は、魔族軍全500名が見送ってくれた。


 『争いでは無く、魔族全体の繁栄と生活基盤の向上を目指して、頑張って欲しい。たまに様子を見に来るし、何かあれば相談してくれ。』

 「畏まりました。アルティス様の事は、いつでもお待ちしております。」

 「敬礼!」

 ザッ


 見送られながら、世界樹に向かって移動した。

 世界樹の周りには、エルフと魔族が混在しているが、世界樹の結界が張られている為に、魔族は近づけない様だ。


 「アルティス様!」


 結界の中からエルフが手を振っているが、後ろには魔族が一緒に紛れて入り込もうと着いて来ており、面倒くさいので、テレポートで中に入った。


 『あいつらは、何しにここに入りたいんだ?』

 「世界樹は魔大陸にあると邪魔なのだそうです。」

 『何で?』

 「地脈は魔族が管理するそうで、今までもそうやって来たとか。」

 『あの人数全員がそう思ってるのか?』

 「他の人達は観光で来たそうです。記念に名前を掘りたいのだとかで。」

 『マーキングか。獣みたいだな。縄張りの主張をしたいとか、猿並みの知能しかないんだな。』


 観光地で名前を彫る奴は、10年後とかに自分が彫った名前を見て、黒歴史だと感じる事だろう。

 自分が犯した、あまりの馬鹿さ加減に、悶絶するんだよ。


 「ボロクソに言いますね。」

 『当たり前だろ。名前を書いたところで、誰が見るんだよ。そもそも、世界樹の幹に普通の魔族が名前なんか彫れるのか?』

 「無理ですね。昔あった世界樹は、名前が彫れなくて怒った魔族が、放火したりしていたそうです。」

 『やっぱ猿並み、いや、猿以下だな。あの地脈を管理しているつもりの、馬鹿が着けているアミュレットが原因で、伝播している様だな。作成者は・・・ダッドアイか。いつまでも迷惑をかける奴だな。[アポート][ディスアセンブル][ディスペル]』


 手元に引き寄せたアミュレットを分解したら、バチバチと音がしたので、魔法効果を解除した。


 『[アナライズ]フムフム、壊すと爆発する仕様なのか。[イレーズ]』


 爆発する魔法陣を消したところで、面倒くさくなったのでそのままディメンションホールに放り込んだ。

 隣で見ていたエルフは、あまりにも雑な感じでディメンションホールに放り込んだのを見て、目を丸くしている。


 「だ、大丈夫なのですか!?」

 『ん?大丈夫だろ。中は時間が止まるし。ヘーキヘーキ。』


 さっきまで外で騒いでいた魔族は、動きが止まり、首を傾げてから、こちらに一礼してから回れ右をして去って行った。

 周辺の観光に来ていた魔族も、逃げる様に立ち去って行った。


 『とりあえず、もう大丈夫だとは思うけど、暫らくは警戒を崩さずに維持しておいてくれ。さっきの奴の親族が居ないとも限らないからな。』

 「はっ!」


 そうそう、エルフの世界樹警備の助けになると思って、ブーツ型魔道具を作ってみたのだ。

 このブーツは、ウイングブーツ?的な物に近いけど、もっと自由度の高い仕様になっていて、飛ぶ、跳ねる、留まる、滑る、蹴るの動作に対応している。

 空を飛べる、ジャンプ力を高められる、空中に留まれる、ホバーで地面を滑れる、蹴りを放てるという優れモノで、エルフに渡して試してもらった。


 「うわ、凄いですね。慣れるまでが大変そうですが。」

 『慣れれば、枝から落ちる心配も無くなるし、敵が来た時に即座に対応できるようになるぞ?』

 「激突しそうですが。」

 『エアバッグ着けたから、怪我も軽減できるぞ。ジャンプして落ちて来る時に、滑空を使えば、飛びながら降りられるし、バランス崩しても、手足を拡げれば体制を立て直せる。空中で止まる事も可能だ。最初はホバーから練習すれば、お手軽だぞ。』


 ホバーは体重移動と思考で操作が可能で、ジャイロセンサーを付けたので、平衡感覚を失わずに、体重移動で進む方向を、思考でルートを指定できる。

 以前は、斥力だけで浮かせようとしていた為に、消費魔力が凄い事になっていたのだが、軽量化を付与する事で、斥力を極小化する事ができ、魔大陸であればマナが濃い為、魔力吸収も早く、タンクが空になる心配も無くなった。

 枝の上で使えば、カタパルトの様にも使えるし、滑空を併用して遠距離に即座に向かう事もできる。

 もちろん飛行モードにすれば、MPを温存しながら超遠距離まで行く事も可能だ。

 アミュレットのMPを使う事もできるので、枯渇の心配も殆ど無い。

 基本的には、斥力と風魔法を利用していて、軽量化は一度発動してしまえば、MP消費も無く継続できて、消さない限りずっと有効になっている。

 飛行モードは、前面にシールドを張って、空気抵抗を軽減及び、衝突回避しながら、腕にウインドボードを付ける。

 ジャンプは、斥力とウインドの併用で、着地時にダメージを受けそうな場合は、エアクッションを発動する。

 留まる場合は、ウインドボードを出して、その上に乗る。

 滑るモードは、軽く斥力を使いつつ、ウインドを重心に連動させて複数の点から吹き出させている。

 蹴りは、踵の後ろから斥力を出すだけだ。


 「ポーションと併用すれば、ほぼノーダメージで戦えるという事ですか?」

 『空中の敵に対する攻撃は、弓では辛いから、魔道砲を付けてある。ゴーグルで標的をロックオンできるから、狙うのも簡単で、フレンドリーファイアも無い。』

 「バケモノ集団と見られそうな程に強すぎませんか?」

 『強いんだからいいだろ?お前らは、素でもそのくらい強いんだから、良い装備を持つのは当たり前なんだよ。世界樹の守護神と呼ばれるくらいに、強くなれ。』


 エルフの顔が上気し、表情に自信とやる気が満ちてきているのが判る。

 今や、エルフの戦闘力は、弓だけに留まらずに、格闘においても、一級冒険者に劣らない程の実力を持っているのだ。

 最高の防具、最高の武器、最高の魔道具を持って、地上も樹上も空中も、全てをカバーできる程の実力を以てして、世界樹を守り抜くのだ。


 「必ず世界樹を守り抜く力を得て見せます!」

 『その意気だ。頑張れ。』

 「はいっ!」


 クールと子女王バチ二人を連れて戻ろうと思うのだが、クールが海を渡れないので、テオに乗せてもらって、海を渡る事にした。

 子女王バチの二人が、未だに無名なのは、ファイニスト・ハニービーになると、巣作りの衝動が強くなってしまうからだ。

 その内、シーベルト平原に浄化の木を植えたいと思っているので、名前を付けるのはその時でいいだろう。

 途中でシーアに報告と、船の運航の話をしてみた。


 「うーん、私達の泳ぐスピードに耐えられる船が無いと思います。」

 『耐えられる船があれば、可能と?』

 「可能だと思いますよ。この海で暮らしたい人も居ますから。」

 『じゃぁ、とりあえず港に行こうか。船を作ってみるよ。』

 「はーい」


 クールがテオの背中で、青い顔をしているが、獣人の癖に三半規管が弱いとか、情けないな。


 『酔ったのか?』

 「早すぎて気持ち悪い・・・。」


 なんだそりゃ?

 とりあえず港町に向かおう。


 港町に戻ってくると、エルフのフォレス・マングローブが出迎えに出てきた。


 「お帰りなさいませ。アルティス様。」

 『こっちは大丈夫だったか?』

 「人鳥族が居なくなったので、扇動する者もおらず、平和でした。」

 『そうか。魔大陸の方は何とかなったから、王都に戻るんだ。』

 「このインゴットは何に使うのですか?」

 『船を作る。魔大陸とこの港を結ぶ航路を作って、貿易をするんだよ。』

 「鉄の船が浮かぶのですか?」

 『まぁ、見てろ。[アルケミーシンセシス][アルケミーモールディング]』


 できあがったのは、足が3本生えた船で、バラストタンクを備えていて、中央が船倉、喫水線より上に船室を設けて、後ろ側に跳ね上げ式の扉を付けた、カーフェリー型の水中翼船だ。

 輸送船も兼ねているので、それなりの大きさがあるが、キャラック程度に収めてある。

 水中翼船とは、高速航行時に水中の翼が浮力を持って、船を浮かせて水の抵抗を抑えるという物だが、船が重ければ当然浮かないという事になるので、大型船には存在していなかった。

 だが、今回作った船には、動力エンジンを積んでおらず、船体もステンレスとチタン合金、ワイバーンの骨を使っており、バラストタンクはあっても、重さを軽減できている為に、水中翼の浮力を十分に生かせるだろう。

 寧ろ、波の影響を殆ど受けないと考えれば、揺れの軽減にも繋がるし、名物にもなるんじゃないか?

 推進力はセイレーン達として作ってあるので、セイレーン専用のデッキも作ってある。


 『シーア、試してみようぜ。』

 「はーい」


 引っ張るセイレーンは、バルバスバウの上に付いてる、アラクネ絹のロープを引っ張り、人数を増やす場合は、途中の輪っかにハーネスを接続して、簡単に着脱できるようにした。

 リズ、バリア、ウーリャ達も面白そうだと言いながら、船に乗り込んできた。


 『では、出航!』


 セイレーンが引っ張ると、ぐんぐんスピードが上がり、船が浮き上がった。

 水中翼が船の抵抗を少なくするので、時速70キロくらいの速度になり、3時間程で魔大陸の港に着いた。

 港にはウルチメイトが居た。


 「アルティス様!酷いですよ!私を置いて行かないで下さいよ!」

 『ウルチメイト居たんだっけ?忘れてたよ。今までどこに居たんだ?』


 ホントに今までどこに居たんだコイツ。


 「避難所の設営に行ってましたよ?」

 『そうなのか?全然知らなかった。アリエンは知ってたのかな?』

 「知ってましたよ。アルティス様が行かれた後で、一緒に帰らないのか?って聞かれましたから。」

 『言ってくれれば良かったのに。何で黙っていたんだ?』

 「呼ばれるものと思ってましたから。」

 『そうか。俺も万能では無いからな。全てを完璧に覚えている訳じゃないから、そういう時は言ってくれないと判らないんだよ。お前、影薄いしな。』

 「ぐはっ!?次からは言う様にします・・・。」

 『そうしてくれ。で、強くなれたのか?』

 「・・・」

 『王都に戻ったら、ドワーフと一緒に超過酷訓練だな。ソフティー、拘束してくれ。』

 シュッ

 「ムーッ!ムーッ!」

 『[テレポート]あるじ、ウルチメイトを送ったから、ドワーフと一緒に訓練させておいて。』

 「了解した。」


 無詠唱で鑑定してみたが、アイツ全然育ってないんだよな。

 楽な作業ばっかり選んでいた様で、ステータスが微増しているだけだったから、王都に戻してドワーフと一緒に訓練をさせる事にした。


 『じゃぁ、戻ろう。シーア、良い船だろ?』

 「はい!とても頑丈ですし、重そうなのに軽々曳く事ができるなんて、素晴らしいです!」

 『荷物を載せたら少しは重くなると思うけど、そんな重量物を乗せる予定も無いから、これからも運航は楽だと思うよ。この船の管理と運営をセイレーンに任せたいんだけど、どうかな?』

 「私達だけで、運営などできるでしょうか?」

 『大丈夫だよ。ちゃんと陸上の事務所に計算できる者を置くから。だから、セイレーンで港町に住みたい人を募って欲しいんだ。』

 「判りました。希望者は居ますので、後で話を通しておきますね。」

 『お願いするよ。じゃ、戻ろう。』


 アリエンから念話が来た。


 『アルティス様、魔王城の跡地から、大量の金が出てきました。』

 『その金を使って、新しい金貨を作れ。魔大陸の標準貨幣となる(かね)を生産するんだ。今、出回っている金貨は、金色貨幣で金貨では無いから、回収しろ。』

 『了解しました。デザインはこちらで決めていいのですよね?』

 『任せる。』

 『了解。』


 この会話がきっかけで、アルティスが驚愕する事になるのだが、それはまた別の話だ。

 港町に戻って来たが、街の警備をしていたアラクネ達が、金庫を荒そうとしていた連中を捕縛した様だ。

 イタチ共が暴いた金庫が全てでは無かった様で、商会のあった建物の地下には、偽金貨を入れた金庫の他に、本物の金貨を入れた別の金庫があった様だ。

 ついでだから、他の商会や官吏の屋敷の地下金庫も確認してみる事にした。


 『不自然だな。』

 「何がですか?」

 『建物の大きさと比べて、この金庫は半分程度しかない。隣にも金庫があるんじゃないのか?』

 「探してみます。」


 5分と経たずして、入り口が見つかった。

 隣の金庫には、本物の金貨が大量に見つかった。

 この商館は、金貨を偽物に換金する作業をしていたのだろう。


 『似た様な金庫が無いか調べろ。位置的にこの街でロンダリングするのは、理に適っているからな。他にも換金場所があると考えるのが妥当だろう。偽金貨は全て回収しなければ、危険だからな。』

 「危険物なんですか?」

 『危険物だよ。燃やすと猛毒の煙が出るんだから、放置するのは危ないな。』

 「仕分けはどうしたらいいですか?殆どの兵士が見分けが付かないのですが。」

 『マジックバッグに入れれば解決するよ。勝手に仕分けされるから、出す時に選べるよ。』

 「全員に持たせてありますが、一人では入りきりませんよね?」

 『見つけたら隊長を呼べば解決だろ?どうせポーチに入れるよりも、バッグに入れた方が楽なんだからさ。』

 「着服した者には、どんな罰を与えますか?」

 『そんな奴が出るのか?まぁ、街の運営資金にするから、エルフの首が絞まるだけだな。一部をセイレーンの船舶運航会社に宛てよう。後は王都に送る分になるんだが、割合をどうするかだな。罰は・・・エルフに任せる。』

 「了解」


 魔大陸のスラムを見て、気になった事があるので、ミュールに聞いてみた。


 『ミュール、ワーキャットって数少ないのか?』

 『む?ワーキャット族は魔大陸には居ないよ?居るのは中央大陸と獣王帝国に多いよ?ワーキャットが欲しいの?』

 『ワーウルフはホイホイ見つかるのに、ワーキャットはミュールしか見ないからな。』

 『ミュールが四天王になったから、大人しくしているのかも知れない。』

 『そうか。ミュール以外はまともなんだな。』

 『そうそう、ミュール以外はまと・・・ミギャー!?』

 『冗談だよ。豹人って魚好きだっけ?』

 『好きみたい。何で?』

 『セイレーンが海運を運営するからさ、事務所の用心棒として入れようかと思ってね。』

 『何人使うの?』

 『4人かな。』

 『船の上は?』

 『豹人って泳ぎは苦手だろ?船の上は、セイレーンがやればいいんだよ。』

 『そっか、希望者は50人いて、港町に住みたいって言ってる。』

 『住ませていいぞ。寧ろ豹人で街の警備をやればいい。』

 『おー!やる気見せてる!隊長決めておく!』


 隊長決めは、言わずもがな、バトルロイヤルだ。

 獣人の中でも、戦闘民族のリーダーは皆、一番強い者がならないと、言う事を聞かないらしい。

 単純明快ではあるが、同レベルの相手が居た場合は、長引くので効率が悪いというのが欠点でもある。

 今はとりあえず、セイレーンへの説明と、ケットシーを連れて来る方が先だ。

 港に行くと、セイレーン達が集まっていた。


 『シーア、これで全員?』

 「はい。全員集まりました。」

 『では、海運業の話を始めよう。まずは、業務についてだ。基本は船を引っ張るのが仕事なんだが、船の上の管理についても業務内とする。仕事道具だからな、壊されたり汚されるのは、本望ではないからな。』


 セイレーン達はうんうん頷いている。


 『当分は、大して仕事は無いと思うが、その間も経費は発生する。だから、漁師の育成と漁業の確立をして欲しい。』

 「漁師の育成とは、どんな事ですか?」

 『魚を獲る時の知識は、セイレーンに勝るものは居ないと思う。だから、漁師を目指す者がいたら、魚種毎に違う獲り方とポイントとかかな。』

 「お前がやれとか言われそうです。」

 『言われたら、そいつには二度と教えなくていいよ。なんなら、海の上に放置してもいい。やるのは、頼まれたらやってやる程度でいい。暇つぶし程度に魚を獲ってもいいが、必ず売却する事。無料であげたり、安請け合いしない事。やったら最後、良い様に使われるだけだ。』

 「交流しなくていいという事?」

 『タダで魚をくれないと、交流してくれない奴なんざ、無視していいと言っているんだよ。商売相手でも交流はできるし、海に出れば危機に陥る事もあるだろう。そういう場合は手助けしてもいいが、漁を手伝うのは駄目だ。セイレーンが手伝ってたら、成長しないからな。』


 人間にしろ、魔族にしろ、楽に儲けたいと思う奴は、腐るほどいる。

 だから、そういう奴に良い様に使われたら、嘗てのアラクネの暴動の様な事が、起こってしまうのだ。

 漁師仲間として、報酬を貰って仕事をするのであれば、問題は無いのだが、漁師の代わりに漁をして、魚を獲ってあげる様な事は、図に乗るのでやってはいけない事だ。


 「海運の仕事はどうやってやればいいのですか?」

 『陸上の事務所にケットシーと用心棒の豹人を置く。受付と金銭の受け渡しはそこでやる。荷物の積み込みは、ポーターを雇えば解決するだろう。たったの3時間くらいだが、船は揺れるのが普通だ。だから、船内の積み荷や馬車などの固定作業が必要になって来る。決して一人ではやらずに、二人以上で、固定する班と確認する班に分けて作業をするんだ。』

 「固定もポーターにやらせればいいんじゃないですか?」

 『駄目だ。社員なら兎も角、日雇いの奴にやらせる仕事ではない。万が一、固定して無かったらどうするんだ?揺れて周りに被害が出た時に、責任取るのは君達だぞ?』


 ポーターとは、日雇いの場合が多く、日雇いの場合は、経験不足でもできてしまう為、信用するのは危険が危ない。

 荷室への固定は、船であっても必須な事で、知識のない奴は、固定しないどころか、軽い物の上に重い物を乗せる様な愚を犯す。

 そういう連中は、荷を下ろす時に潰れてるだの割れてるだのと、言いがかりをつけて運賃を取り戻そうとしたり、船を乗っ取ろうとするだろう。


 「海賊が出たらどうしますか?」

 『対抗できないのか?』

 「いえ、そうではなくて、沈めていいのか、悪いのかです。」

 『沈めていい。』

 「奴隷が居た場合は?」

 『助けてもいいが、責任を持って管理しろよ。』


 海賊船が追い付ける事は、無いと思うけどね。


 「船が魔獣に襲われた場合ですが、全てに対抗できる訳では無いのですが、その場合はいかが致しますか?」

 『それ、そもそも追いつけるのか?』

 「シーサーペントなら追いつけますね。それ以外にも、待ち伏せされたりする可能性もありますが。」

 『船の水中翼は、刃になっているから、普通に切れるよ。海の魔獣の知識が、俺には無いから、懸念される奴が居るのなら教えてくれ。』

 「そうですね、クラーケンが最近では見かける事が多くなってきました。他にはフィンバックホエールですね。」

 『クラーケンか。美味そうだな。』

 「・・・そこですか?」

 『倒し方が知りたいと?多分簡単だぞ。』


 という訳で、クラーケンを獲りに海上へやってきた。

 クラーケンは、体長30m程のイカタコで、頭がイカで、足がタコの魔獣で、触腕は無く、足は太いのが8本生えているらしい。

 群れで生活しており、一匹いたら10匹は居ると言われているそうだ。


 『多分性質はイカと同じだろうから、[ホーリーライト]』


 海中に沈めてやると、離れた所にいた群れが一斉に寄ってきた。


 『[ショックインパクト]浮いてきた奴は、目と目の間から少し頭の方に寄った所に銛を差し込めば、殺せるぞ。』


 やった事は簡単だ、光で集めて、衝撃波を出しただけ。

 気絶したクラーケンが、12匹浮き上がってきたので、眉間に銛を刺して〆てからディメンションホールの中に放り込んだ。

 周りで観ていたセイレーン達は、口をポカンと開いたまま、唖然としていた。

 クラーケンはセイレーンの天敵ともいえる魔獣で、今までにクラーケンに食われた仲間は数知れず、巨大な体と、強力で自在に動く吸盤のついた足に、翻弄されまくってきたのだ。

 それをアルティスは、たった2つの低級魔法だけで、群れ一つを壊滅させたのだから、驚かない方が難しいだろう。


 『港に帰るぞ。』


 戻ってくると、狼人族を集めて、解体を始める。

 まずは、胴体を縦に切り、内臓を出していく。

 肝は早々に切り分けてマジックバッグに放り込み、頭と足を切り離し、開いた胴を柵に切っていく。

 元の世界では、ダイオウイカというのが最大のイカだったが、水揚げされるのはせいぜい10m程度で、触腕を入れて10mだから、胴体は小さかった。

 だが、クラーケンのサイズは、その比ではなく、胴体が20mで足が10mもあるのだ。

 胴体の肉の厚みは、50cm程もあり、表面には薄皮が存在していて、薄皮の表面には寄生虫がウジャウジャ蠢いているのだが、それを取り除けばもっちりとした半透明の肉が出て来た。


 『薄くして乾かしてみよう。一部は焼いてみよう。』


 色々試した結果、肉質はイカそのもので、デカい分薄皮を剥がし易いので、加熱してもサクサクと歯切れよく、生でも美味しい事が判った。

 足の方も軽く茹でれば、シコシコとした食感と風味で美味しかった。


 「それは何を作っているんですか?」

 『たこ焼き用の鉄板だよ。』


 錬金術でタコ焼き用の鉄板を作った。

 ソースが無いので、甘辛い醤油ダレを作った。

 醤油と味噌の後は、ソースとケチャップの開発だな。

 結局たこ焼きは、丸く作れず駄目だったので、もんじゃ焼きみたいになったよ。

 狼人族がやる気になっているので、近いうちに丸いたこ焼きが食べられるかも。


 そうそう、豹人のメンバーは、リーダーがまだ決まってないそうだよ。

 イラッと来たので、ドスの利いた声で急かしておいた。

 ケットシーの方は四人と伝えたら、速攻で決まったよ。

 翌朝、ミュールから豹人の代表も決まったと連絡が来た。


 『アルティス、豹人のリーダーが決まったよ。』

 『遅い。毎回時間かかるのは困るから、大隊長、中隊長、小隊長、分隊長を決めておけよ。次も時間が掛かる様なら、豹人はもう使わない。俺は短気なんだよ。判ったか?』

 『判った。決めておく。』


 アルティスの我儘に聞こえるが、そうではない。

 軍隊として組織されている以上、指示があれば即座に動く必要があるのが普通だ。

 指示を出す度にリーダー決めで時間をかけられては、作戦行動に支障を来すのは明白、効果的な文言でバッサリと切り捨てられる危機だと伝えた方が簡単だから、アルティスの我儘の様な伝え方になったのだ。

 まぁ、豹人達の忠誠は、ミュールの尊敬するアルティスに向いているので、我儘かどうかなど、些末事だ。


 豹人、ケットシー、セイレーンの顔合わせと業務内容を伝えて、事務所のケットシーは一人、豹人は二人として、もう一人のケットシーは、官吏に任命したエルフの下につけた。

 残り二人のケットシーと豹人は、魔大陸側の受付と用心棒、そしてアリエンの補佐として着任してもらった。


 『では、我々は王都に戻る。君達エルフは、エルフ王国復興の為に頑張ってくれ。バネナ王国はエルフ王国の友だ。君らの戦力なら、そうそう負ける事は無いと思うが、万が一、ヤバそうだと思ったのなら、念話してくれ。その時は手を貸そう。』

 「魔王軍も居ませんし、我々にはユグドラシルがありますので、負ける事は無いと思います。ですが、特に用事が無くても、遊びに来てください。いつでも歓迎いたしますよ。」


 エルフの代表として話すのは、この街の官吏となった、フォレス・マングローブ。

 海沿いの街にぴったりの名前だな。


 『そうだな。海運もあるし、貿易と流通が成功すれば、其々の強みを生かして、今よりももっと生活が良くなる筈だ。これからも協力し合って、より良い国を作って行こうじゃないか。それと、街の名前だが、ノースコーストでどうだ?』

 「ノースコースト!?我々の方でも、考えていた名前と同じです!これで行きましょう!アルティス様の理想に近づく為、協力を惜しまない所存です!これからもよろしくお願いします!!」

 『うむ、では、元気でな。』

 「はっ!」

 「全体!敬礼!」

 ザッ


 仰々しく街から出た。

 だが、街中にはフ隊の一部が駐屯している状態だ。

 街に居る不法滞在者達は、アルティス達が居なくなれば、蜂起する可能性もあると考えている。

 そして、その可能性については、セイレーンと豹人達にも話はしてあるのだ。

 船を乗っ取ろうとする者が居る可能性をだな。

 だが、乗っても絶望しか無いだろう。

 なんせ、動力が無いのだから。

 繫留ロープも地上からでは外せない様になっているので、港を出る事すらできないのだ。

 仮にセイレーンを捕まえて引っ張らせれば、沖に出る事は可能だが、行先が決まっていなければ、行きつく先は魔大陸なだけだ。

 藻掻けば藻掻く程、立場が悪くなっていく。

 立場の悪くなった難民共をどうするかは、統治者に任せるだけだ。


 街の外に出た軍は、ゲートを使って世界樹の元に出た。

 世界樹の周辺では、アーミーラプトルの襲撃が続いているのだ。


 『大丈夫か?』

 「あ、アルティス様、今の所怪我人も居ませんし、大丈夫ですね。」

 『撃退数はどれくらいだ?』

 「3万ちょっとです。」

 『巣に到達できていないのか?』

 「巣を2つ潰したのですが、まだこんな状況ですね。」


 一晩で3万のアーミーラプトルが襲来したという。

 何故こんな事になっているのかと云うと、アーミーラプトルに食わせた、エンシェントオークが原因だった様だ。

 栄養豊富過ぎて、ゴリゴリ卵を産み続けているのだろう。

 押し寄せるアーミーラプトルの数が、減る兆しはない。


 『新しい魔法を考えたんだ。ちょっとやってみるから、観ていてくれ。[ショックインパクト]』

 パァン!


 破裂音がした場所を中心に、半径200m以内のアーミーラプトルが、動かなくなった。

 エルフ達が次々と撃ち始め、空白地帯を作り上げていた。

 一人のエルフが、箱型の魔道具のスイッチを入れると、死んだアーミーラプトルが一気に集まり、一瞬で回収された。


 『お!?魔道具作ったのか?便利そうだな!!』

 「お恥ずかしながら、アーミーラプトルが多すぎて、回収が間に合わないので、作ってみた次第です。」

 『いやいや、便利な道具なら、どんどん作っていいんだぞ?恥ずかしいなんて事無いから、色々作ってみろ。』

 「ありがとうございます!役に立つ魔道具を作ります!」


 獲ったアーミーラプトルの一部を貰って、カリンとアップルを呼んだ。


 「アルティス様、お待ちしておりました。初物のハチミツとロイヤルゼリーでございます。」

 『おお、ありがとう。ロイヤルゼリーの量は大丈夫なのか?あまり無理する必要無いからな?』

 「はい。無理しない様、心得てございます。世界樹の蜜は生命力の源ですので、ロイヤルゼリーも沢山作る事ができますので、一部だけをお持ちしました。」

 『そうか。魔大陸にも世界樹植えたからな。向こうとの味比べも楽しみだ。』


 ここの世界樹の周辺には、生き延びた獣人達の集落が密集しており、集落の方もエルフ達が守っている。

 当然ながら、世界樹の守護者たるアラクネ達も協力しており、集落に魔獣が入り込まない様に、周囲に網を仕掛けていたりする。

 森には様々な木の実や、薬草がある為、殆どの物が手に入るのだが、唯一手に入りにくい物があり、それが無ければ生きていく事が難しくなる。

 主に海で産出されるそれは、塩だ。

 世界樹の周辺の集落では、現在進行形で塩が不足しているという話を聞いた。


 『塩か。塩田になりそうな地形は無かったから、塩工場を作らせるか。ついでに塩こうじと魚醤も作ってもらって、特産品にしてもらうのがいいな。』

 「塩こうじ?ぎょしょう?」

 『リズに「興味はありますが、行きませんよ?」』

 『まぁ、そう言うな。料理ができる奴が必要なんだよ。教えたら戻ってきていいから、ちょっと行って来てくれよ。』

 「どれくらい掛かるんですか?」

 『早ければ数日だろ。麹の作り方知ってるだろ?その麹に塩と水を混ぜて、毎日かき混ぜながら保管するだけだよ。魚醤も小魚を塩漬けにするだけだし、塩工場は海水を汲んで、布にかけるだけだ。簡単だろ?』

 「行ってきます!」


 ゲートを開いたら、急いで行ってしまった。

 聡いリズなら、塩工場でにがりが採れる事を理解した事だろう。

 世界樹の根元では、実を集めて頭を悩ませていた。


 『何してるんだ?』

 「ハニービーが頑張ってくれるのはありがたいのですが、実ができてしまうのが難点なのですよ。」

 『食べればいいじゃないか。』

 「食べきれませんよ。この実は直径2mありますから。」

 『種は取れるのか?』

 「種は入っていません。皮以外全て果肉です。」

 『酒にするとかは?』

 「それは、背徳の酒と呼ばれておりまして、禁断の酒なのです。」

 『なんだそれ?』

 「寿命が延びるという噂が広まりまして、かつては、そのお酒を巡って戦争になった程の物なのです。」

 『薄めればいいじゃん。健康ドリンクとして売り出せば、魔薬中毒も居なくなるし、流行り病も治るだろ?』

 「駄目です。効果が強すぎます。」

 『じゃぁ、薬として売ればいい。ほら、苦い実と混ぜて苦く作れば、欲しいとも思わないし、いいんじゃないか?』

 「それはもう作っています。」

 『あとは、干して砕いて粉にして、肥料として使う。それがいいな。食料自給率が上がって、食料の値段が安くなる。』

 「そうですね。やってみる価値はありそうですね。」

 『作ったら教えてくれ。こっちでもあれこれ試してみたいから。余分な実も貰って行こう。』

 「了解しました。」

 『それと、街道の整備をしてくれ。バネナ王国とエルフの森と魔大陸で貿易を始めたいからな。各地で特産品を作って、商人に運ばせるんだ。産業が安定してくれば、盗賊も減るだろうからな。』

 「畏まりました。」


 世界樹の周辺の用事が終われば、後は王都に帰るだけなので、ワープゲートを出した。

 出る場所は王都の北側の門近くで、背後にはエルフ1500人とアラクネ達。

 アーリアと近衛騎士団、女王様に連絡すると、翌日の朝8時から凱旋パレードをやる事になったそうだ。

 中央大陸では、各地から魔族が消えたという報告が続々と届いており、周辺国からは問い合わせの連絡がひっきりなしに来ているとの事。

 各国から鷹便で書面が送られて来ているそうで、バネナ王国の隣には、都市国家群があるので、100を超える封書が送られてきた様だ。

 アリエンからは、魔大陸に戻りたい魔族達が、連絡を寄越してきているが、船が無くて海を渡る事ができないと、相談が来ているそうだ。


 『シーア、魔族が魔大陸に帰りたいそうだから、船に乗せて力を見せつけてやってくれ。』

 「無料で乗せるんですか?」

 『もちろん有料だよ。商売だからな。』

 「了解しました。」


 シーアに、魔族を乗せて、バネナ王国の力を見せつけてやれと言っておいた。

 高速艇に乗って魔大陸に到着した魔族達は、総じて目を丸くして驚く事だろう。


 王城から伝令が来て、王都の凱旋パレードの詳細が判った。

 まず、北門の方にはスラムや訓練場、工場などが多く、民衆が殆どいないので、南門から王城を目指す形でパレードを実施するらしい。

 先頭には近衛騎士団、次に第二騎士団、エルフ大隊、アラクネ隊、ドワーフ大隊と続き、最後尾は他の狼人族、豹人族、コボルト、リザードマンが続く。

 そのまま、王城内に入り、王城前広場にて女王とアーリア、アラクネクイーン、カレン、リズ、バリアと騎士団長、アルティスが民衆に向かって、戦争終結を宣言するというプログラムらしい。

 凱旋パレードは、午前中で終り、午後には中央大陸全土に向けて、魔王軍との戦争終結を宣言する様だ。

 アラクネ達は、エルフの森の世界樹にイ隊、魔大陸の世界樹にテ隊、ノースコーストの街にプ隊、エルフの森にフ隊を配置、キ隊は王城内の警備、ラ隊が王都の警備、キュプラは女王陛下の護衛に就いている為、パレードには、ソフティーとソ隊、ユ隊が参加する。

 とりあえず、年内にはギリギリ間に合わなかったが、元旦なので良しとしよう。

 正月に凱旋パレードと戦争終結宣言とか、狙ったとか言われそうだけど、全くの偶然というのが凄いよね。

 バネナ王国女王の戦争終結宣言と共に、魔王アリエンも戦争終結宣言を行う事になった様で、今年からの小競り合いについては、魔王軍は関知しないという事にするそうだ。


 野営の準備をしていると、恒例の馬鹿貴族が集まって来たのだが、そこかしこにアラクネが居て近づけない様だ。

 勇気を出して近づこうとしても、スッとアラクネが目の前に割り込んでくるので、言葉を発するところまで行けないでいる。

 パレードに参加する近衛騎士団がやって来ると、馬鹿貴族は一目散に逃げ出した。


 「アルティス様、お帰りなさいませ。エルフの警備の為に来ましたが、必要ありますか?」

 『特に必要無いな。アラクネが25人もいるんだ、早々近寄って来れる奴も居ないだろ。』

 「その様ですね。一応小隊を残して行きますので、何かあれば使ってやってください。」

 『判った。街中の様子はどうだ?』

 「かなり正常化しましたが、先程も居た様に、未だに一部の貴族が馬鹿をやらかしておりまして、治まり切れておりません。」

 『王都に居る法位貴族って、何か仕事をしていたっけ?』

 「以前は議会を開いておりましたが、現在は議会自体が機能を停止しておりますので、特に何もしておりませんね。」

 『何か対策を打たなければ、面倒くさいな。』

 「期待しております。」

 『考えておく。』


 夕飯は、イカとアーミーラプトルの唐揚げにしたが、大好評だった。

 リズも伝えるだけ伝えて、さっさと戻ってきた様だ。

 魚醤と塩の作り方は、シーアが知っていたらしく、塩こうじの作り方だけ教えて来たそうだ。

 麹の元になる、モルトファンガスも森に居る様なので、特産品として大量生産できる様になるかも知れないな。

 野営場所にカレンがやってきた。

 カレンはアーリアと共に王都に先に戻っていて、訓練と孤児院でのメニューのチェック、味噌と醤油の醸造所の視察などをやっていたそうだ。


 『カレンちょっと、いじけてないか?』

 「だって、リズばっかりで・・・」

 『カレンの事は、信頼しているからな。放っておいても、ちゃんとやってくれるから、安心していられるんだよ。リズとバリアは、ちょっと目を離すとすぐにサボるし。』


 カレンの機嫌が治った様だが、もう一人いじけている奴がいるな。

 放っておこう。


 「ちょっと!アルティスさん!何で気付いているのに無視するんですか!?」

 『面白そうだから。』

 「酷いですよ!」

 『コルスはゆっくり休暇を楽しめたか?』

 「のんびりし過ぎて暇でしたよ!」

 『暇つぶしは何をしていたんだ?』

 「部下の教育と情報収集、それ以外は鍛錬に勤しんでいましたよ?」

 『ワーカホリックめ。』

 「アルティスさんに言われる筋合いは、ありませんね。」

 『言い返せない。ペンタ、なんか言い返せ。』

 「どっちもどっち。」

 『・・・ペンタは、三日間バリアと休暇な。明日から。』

 「ええ!?ちょっとそれは厳しいですよ!!」


 ペンタとバリアの関係は、最近ちょっと変な方向に向かっていて、バリアが何から何まで、何でもやりたがるので、ペンタはソファーから動けなくなるのだとか。

 少し前までは、ストーキングだったのだが、さすがにペンタの元気が無くなって来ていたので止めさせたのだが、ペンタを労うつもりで束縛しているそうだ。


 『バリア、ちょっと来い。』

 「はっ!何か御用ですか?」

 『ペンタを束縛し過ぎだ。もう少し普通に過ごせないのか?』

 「普通にしているつもりですが・・・」

 『ほう、部屋に監禁するのが普通だと?』

 「そ、そんな事していませんよ!?」

 『外に出さないじゃないか。』

 「だって部下の女の子と楽しそうに話しているから。」

 『仕事だよ。ペンタがそんなにモテる訳がないだろ?部下の子はペンタの事をちっともいい男として認識していないんだぞ?』

 「あの・・・僕、もしかして、もの凄くディスられてませんか?」

 『・・・そうだな。悪かった。違う言い方に変えよう。ペンタは女の子よりも、バウンドパイクにモテるんだよ!』

 「アルティス様!?」

 『ペンタにぞっこんなバリアが、世間一般では、非常識なんだよ!』

 「「酷く無いですか!?」」

 『冗談だよ。』


 カレンとリズは爆笑、それ以外は苦笑いしていた。

 アーリアにちょっと聞きたい事があったので、聞いてみた。


 『楽隊とまでは行かなくても、太鼓とか鳴らさないの?』

 「ん?楽隊?太鼓?そんな物は無いぞ?」


 足音しかしないパレードだなんて、ちょっと寂しい気がしたので、太鼓を作ってみた。


 『[サイレントウォール]ちょっとこの太鼓をドンドン鳴らして、それに合わせて歩いてみてよ。』

 ドーンドーンドーン

 ザッザッザッザッ

 「ちょっと太鼓が煩い気がするが?」

 『そうだね。ずっと叩くより3回ずつドン、ドン、ドン、一回分開けてドン、ドン、ドンって感じで叩いてみて。』

 ドンッ、ドンッ、ドンッ

 ザッザッザッザッザッザッ

 「いいな!これはいい!明日のパレードで採用しよう!!太鼓をもッと作れるか?」

 『そうだね、先頭のすぐ後ろと種族毎の間に二人ずつ入れて叩いてもらうから、20人かな?』


 と思ったんだが、練習する時間も無いし、練習するのも面倒くさいので、リズム感のいい者を二人選出して、他は魔道具で音を鳴らす事にした。

 太鼓を作るのが面倒くさかったのだ。


 翌朝、朝食を済ませると、凱旋パレードの準備に取り掛かった。

 全員がクリーンをかけて、身綺麗にして、整列して南門前で待機した。

 門の上から、入場の合図があった。


 『よし!凱旋パレードを開始する。行進中は一指乱さず、真っ直ぐ前を向いて歩け!我が軍の威光を世に知らしめよ!』

 「進め!」

 ドンッドンッドンッ。

 ドンッドンッドンッ。

 ザッザッザッザッザッザッ


 門をくぐると、大歓声に迎えられた。

 沿道には大勢の市民で溢れかえり、両側の建物の窓からは花弁が撒かれている。

 アルティスが先頭ではあるが、小さいのでアラクネ4人が担ぐ、神輿の上に鎮座させられた。

 後ろにアーリア、カレン、リズと続き、近衛騎士団の先頭にバリア、騎士団長、そして近衛騎士団、第二騎士団と続く。

 第二騎士団は、神聖王国の統治が一段落した為に、神聖騎士団に殆ど任せている様だ。

 神聖王国内に居た盗賊団は、殆ど駆逐され、悪魔の痕跡も今は無くなっている。

 魔薬中毒患者は全て解毒されて、通常の生活に戻っており、一部の元患者は子供を死なせてしまった事を嘆き、修道院に入った様だ。

 ワラビが尽力したおかげで、信仰も回復しつつあるが、もう神に妄信する様な者はいない様だ。


 エルフ大隊が行進してくると、馬鹿貴族が動き出したが、市民が取り押さえたり、暗部が捕縛して、行進に影響が出る事は無かった。

 ドワーフ大隊の行進では、歓声が鳴りを潜め、大人しくなっていた。

 ドワーフは、各地で意地の汚さを露呈しており、王都内でも嫌われている様子が顕著になった。

 どケチで姑息で意地汚い性格なので、この反応は仕方がないだろう。

 逆に、リザードマン達は大歓声だった。

 リザードマンは、顔が怖いが優しくて、紳士的な者が多く、歩くと尻尾が邪魔にされる事があるが、総じて穏便に事を終息させるし、子供達がじゃれて来ても優しく対応してくれるので、何処に行ってもすぐに溶け込んでいく。


 狼人族やコボルトも同様に大歓声だ。

 コボルトは立って歩く犬なのだが、楽しい事が大好きなので、子供達に大人気だ。

 尻尾で感情が判るから、騙そうとしてくる輩も多いが、嘘を見抜く事ができるので、警備隊にも多くいる。

 パレードの最中も、尻尾がパタパタと忙しなく動いている。

 鍛えるのが大変ではあるが、ある一定の基準を超えると、かなり劇的に化けた。


 大通りの中盤に差し掛かると、そこには噴水広場がある。

 噴水広場に入ると、翼人と鳥人が、上空をデルタ隊形で編隊飛行しながら、色付きの煙を吐いて飛んで行った。

 煙は、カラースモークという魔法で作れるのだが、エルフの森では、目印として使っていた。


 『スゲェな。いつそんな話になったんだ?』

 「ふふふ、驚いたか?」

 『あるじが仕組んだのか。行進に居ないから、どうしたのかと思ったよ。』

 「彼等は飛んでいた方が映えるからな。」

 『確かに。』


 この世界で初めて、太鼓でリズムを取りながらの凱旋パレードをやっているが、観衆は大興奮の様子だ。

 この世界には、吟遊詩人はいるんだけど、メロディーに乗せると言うよりは、詩吟の様に言葉のアクセントに楽器を鳴らす程度で、曲になっている訳では無いのだ。

 楽器が全く無い訳では無いのだが、弓弦を楽器として使っているので、メロディーを奏でる様な事は、あまり一般的では無いそうだ。

 吟遊詩人の唄は、リズムが特に無くて、韻を踏む程度の事しかしていない。

 リズム感は滅茶苦茶だから、強調する為にしか使われていないけどね。


 「「アルティス様ー!!」」

 『お、孤児院の子達か。後でお土産持って行かないとな。』

 「お土産?何があるんだ?」

 『ハチミツとかロイヤルゼリーとかアーミーラプトル。』

 「それで沢山狩っていたのか?」

 『違うよ?今世界樹周辺にウジャウジャ湧いてるんだよ。だから、在庫が4万くらいあるんだよ。』

 「世界樹は大丈夫なのか?」

 『寧ろ過剰戦力?』

 「そうか。なら大丈夫だな。」


 王城の手前には貴族街があり、着飾った貴族がお供の者を従えて街道沿いに並んでいるのだが、パレード中のエルフをどうにかするつもりか?

 王城に到達したので、背後を振り返ってみると、案の定貴族共がエルフ隊にちょっかいを出していた。


 『叩き切っていいぞ。凱旋パレードを妨害するなど貴族にあるまじき愚行、貴族法違反だ。』


 そこかしこで叫び声が響き始めた。


 「ギャー!!」

 「こ、殺せ!」

 「うわぁー」

 『歴戦の戦士だぞ?王都でダラダラしていたお前らが、敵う訳無いだろうが。死にたく無かったら、屋敷に戻れ。』


 法位貴族、やっぱり要らないな。

 後で女王にも、急務として進言しておこう。


 パレード参加者が全員王城内に入った。


 『コルス、異常は?』

 『特に無し。沿道で斬られたのは法位貴族の子弟ですが、当主から大人しくしていろと言われていたのに、態々出て行ったので、当主も諦めている様です。』

 『何か薬でもやっていたんじゃないのか?』

 『可能性はありますが、遺体をチェックしても特に何も出ませんでした。』

 『マインドコントロールも反応なしか?』

 『どちらかというと、長期間に亘って、洗脳されてきた結果と云えると思います。』

 『教師候補の調査をしてくれ。現状の打破も大事だが、未来の構築も同時にやらないと、国が破綻する。』

 『了解』


 神輿から降りて、いつも通りソフティーの背中に乗って、バルコニーに向かった。


 『狼人族は、屋台の準備をしてくれ。材料はアーミーラプトルだ。』

 『了解』


 バルコニーに女王陛下とアルティス、ペティとホリゾンダル王が並んだ。


 『ん?ペティ!?元気だった?』

 『お久しぶり。元気だったわよ?貴族学院に居たのよ。』

 『そうか。体形は保ててる様で、安心したよ。』

 『お母様が厳しいのよ。ちょっと太ったらダンスレッスンさせられるから、大変なの。』

 『俺なら戦闘訓練させるけど、どっちがいい?』

 『・・・ダンスレッスンで我慢するわ。』


 王都に来たばかりの頃に、ペティが学食が不味いと嘆いていたので、カレンとリズがちょっと行って改善したそうだよ。

 ポテトフライとポテチも伝授したらしいけど、デブが増えるのは困るので、油を飛ばす為の遠心分離機を持って行かせたんだよ。

 魔道具じゃなくて人力で、洗濯機みたいなでかいのを作ってやったよ。


 演説の準備が整い、女王陛下が前に出た。

 声は、風魔法のラウンドスピーカーで拡げているよ。

 ついでに、各種状態異常回復とカビと寄生虫の除去魔法も乗せている。


 「我が国の宰相アルティス及び、バネナ王国国軍の奮闘により、魔王軍との戦争終結をここに宣言します。」


 王城前広場に集まった観衆から、盛大な歓声が上がった。


 「バネナ王国国軍のみなさん、魔大陸までの遠征、お疲れ様でした。貴方方の尽力のおかげで、1000年の長きに亘り続いてきた、魔王軍との戦闘に終止符が打たれました。初代勇者の時代から始まり、勇者様が魔王との盟約により、戦争が終わったかに思われていましたが、魔王は、我々人族の絆を破壊し、能力を奪い、魔法を奪いそして、再び攻めて来ました。約1000年もの間、弱体化させられてきた人類は、再び始まった魔王軍との戦闘で、王都を占領されてしまいましたが、アルティス宰相と新生バネナ王国軍の奮闘により、破竹の勢いで進軍し、見事に魔王を打ち取りました。バネナ王国軍とアルティスは、この世界の英雄です。盛大な拍手を以て、讃えよ!」


 観衆から再び盛大な拍手と歓声が上がった。


 アルティスがバルコニーの先端に着けた台に乗り、演説を始めた。


 『宰相のアルティスだ。大きな拍手をありがとう。今日は年初で、戦勝記念日だ。こちらから、我が軍の輜重部隊である狼人族が屋台をやっている。作っているのはアーミーラプトルを使った料理だ。凄く美味しいので、食べて欲しい。金は要らないが、一人1匹だ。欲張る者は捕縛して、入隊させる。我が軍の訓練は、血反吐を吐いても許されない、過酷な訓練をやる。軍への入隊希望者は、1の月10日から募集を開始するので、それまで街の清掃、荷運び、害獣の退治などを行ってくれ。冒険者ギルドの売れ残り依頼を消化するのは高得点だ。是非頑張ってくれ。』

 『それから、今回の凱旋パレードを妨害した貴族は、城に出頭しろ。倅だろうが使用人だろうが、そいつらの責任を負うのは、当主だからな。逃げたら重犯罪奴隷として、魔大陸に送る。』


 『では、今回の魔王軍及び悪魔との戦闘により、我が軍が得た戦果を報告する。まずは、国内各所、主に西側で頻発していた、子供の誘拐事件は、首謀者討伐により解決。首謀者は、神聖王国教皇が魂を悪魔に売った事により、起こった事だ。つまり、教皇を討伐した為、元神聖王国は我がバネナ王国の新領地となった。また、神聖王国の属国であった、ハンザ神国も同時に我が国の領土となった。』

 『次に、円形山脈外縁部に集結していた魔王軍は10万だったが、人族を除くオーク、オーガ、ペルグランデスース、トロール、シルバーウルフ、サイクロプス、合計8万を殲滅した。王都が一時期占領されていたが、占領軍は、全員捕縛後再教育を施し、今は新生バネナ王国軍の一員及び、現在の魔王軍となっている。現在の魔王は、私の部下で、先日は魔大陸に飛んで来たドラゴンを瞬殺する程の強者である。現在の魔王軍は、この王都を占領していた魔族だが、全員我がバネナ王国軍の一員として、前魔王軍の殲滅戦に従事した者達だ。』

 『魔王軍に蹂躙された地域もあるが、現在は復興中である。前魔王は我が軍が魔大陸で殲滅した。我が国に蔓延っていた悪魔は、全て殲滅した。殲滅には、大聖堂のワラビ・ライスケーキの功績が大きい。』

 『そして、我が軍の損害は、ゼロだ。』


 黙って聞いていた観衆が、関心の声と歓声を上げた。


 『だが、私が宰相に着く前に、愚鈍な王とその側近の為に、多大な損害を受けている。そして、民の中にも多大な損害を受けた地域がある。だから、この戦争が終わった事を、祈りを以って英霊たちに報告して欲しい。』

 『今回の戦争は、人間の愚行により、他人族からの信用を失い、滅亡の危機にあったが、エルフを始め、ドワーフ、リザードマン、狼人族、豹人族、翼人族、鳥人族、コボルト族、セイレーン族、そして、アラクネクイーンまでもが、協力をしてくれたおかげで、戦争を終わらせる事ができたのだ。この勝利は、決して人間だけの力で成しえた事では無い、という事を知っていて欲しい。今までの戦争により、被害を受けた者、家族を殺された者、家を失った者、それぞれ色々思う所があると思う。だが、人間も同様の事を他種族に行ってきた事を、忘れてはならない。』


 『1000年前には、同胞として魔王軍と戦ったにも拘らず、人間の愚行によって信用と信頼を無くしてしまった。更に、憎しみを憎しみで返せば、憎しみが返って来るだけだ。この憎しみの連鎖は、どこかで断ち切らなければならない。いつまでも過去を見ていては、前には進めないのだ。だから、後ろを振り返るのではなく、前を向いて欲しい。今、生きている我々の人生は、過去の憎しみにむけるのでは無く、未来の自分の為に使って欲しい。』

 『我が国は、我々に協力をしてくれたエルフ族へのお礼として、エルフ王国再建の為に協力し、新生エルフ王国との国交を樹立する。また、過去の遺恨はあれど、今は私の配下である、魔王アリエンとも国交を樹立して、貿易を行う予定だ!・・・あぁ、ドワーフはお預けで。』


 どっと笑いが起きた。

 ドワーフは、あちらこちらでトラブルを起こしていて、報告では地下牢に300人近いドワーフが捕らえられているそうだ。

 

 『今までの様に、他種族を見下していては、また再び信用を無くし、敵対してしまうだけだ。我が国の軍は、今や世界最強と言えるほどの戦闘力を保持してる。だが、この戦闘力は、戦争をする為では無く、他種族を虐げる為でも無い!民を助ける為に使う物だと思っている。ドワーフは、その辺を判っていない奴らがいる様だがな。』


 再び笑い声が上がる。


 『だが、我々は違う。振り上げた拳は、自分達へのエールに使い、振り降ろした手は、自分と隣人の為に使おうではないか。いつまでもいがみ合っていては、憎しみしか生まれない。助け合っていけば、きっと未来は開ける。今までの暗い1000年より、明るい1000年を目指して、尽力する事をここに誓う!』


 何か、最後がプロパガンダの様な感じになってしまったが、民衆が喜んでいる様なので、良しとしよう。


 『それから、我が国の貴族達が、魔族の策略によって、チンチクリンになってしまったので、貴族制度を改める事となった。今後の貴族特権は、街への入退場以外を全て廃止する。そして、王城では内政に携わる文官が不足している。だから、1の月中に新しい文官を決める為の試験を執り行い、合格者を新たな貴族として迎え入れる事とする。募集要項は、後日、王城前広場に掲示するので、希望者は確認する様に。』


 アルティスの突然の発表により、騒然となったが、貴族特権の廃止という言葉を聞いて、大きな歓声が上がった。

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