第42話 エルフ王国奪還作戦Ⅰ
『先に兵站の確保をしたかったんだけど、魔族の動きが活発になって来たから、旧エルフ王国の奪取をやっちゃうか。』
「そうですね。結構うっとおしいですし、世界樹も何とかしてあげたいですよね。」
『じゃぁ、先にハイエルフを鍛えておいて。戦闘力0じゃ、馬鹿馬鹿しいからさ。』
ジョセフィーヌの顔が青褪めていく。
「鍛えないとダメなのですか?」
『誰が取り返すんだよ。お前は、エルフの王なんだろ?』
「王ではないです。王族です。」
『王はどこにいるんだ?』
「ですから、世界樹が王で、王族は世界樹のお世話をしている側付きなのです。」
『じゃぁ、世界樹を見捨てて魔大陸に移ったお前らは、裏切者じゃないか。エルフに命令したんだろ?意思の決定権を持ってるのに、エルフの王じゃないって、単に責任を世界樹に押し付けている様にしか見えないんだが?』
「・・・我々ハイエルフは、世界樹の分身なのです。ゆくゆくは、世界中に散らばって、世界樹の苗として成長するのが役目なのです。その為に、エルフ達を従えて移住する事は、不思議な事では無いのです。」
『へー、じゃぁ、お前は世界樹に戻らずに、他の所に行って、木になればいいじゃん。』
「今はまだその時ではないので、一旦戻りたいのです。」
『だが、お前が先頭に立って取り戻しに行かないと、誰もお前について行ってなんてくれないぞ?ポンコツ過ぎて。』
「世界樹の所に行けば、能力は高いのですよ。」
『行く為には、ポンコツでは取り戻せないぞ?』
「アルティス様が取り戻して下さい。」
『俺が取り戻せば、エルフ達は俺に着いてくるぞ?お前の下には物好きしか行かないだろうな。』
「そこを何とか、我々に付く様に仕向けて頂けると、ありがたいのですが。」
『自分でどうにかしろよ。お前の話を聞いてると、世界樹にメテオレインを撃ち込みたくなってくるんだよ。人任せにするんじゃねぇよ。てめぇらエルフの問題だろうが。』
そこに地の精霊が出て来た。
「アルティスの言いたい事も判るんだけど、ハイエルフは鍛えても強くはならないのよ。」
『木だからか?』
「んー、厳密には違うんだけど、似た様な物かもね。」
『秘密があるのなら、教えろよ。何も教えられませんじゃ、協力できねぇな。したいとも思えない。こっちの国は、火の車なんだよ。貴重な労働力を割いて、犠牲を払いながら取り戻そうとしてやってるのに、大事な事は何も話さず、交換条件も無く、ただで全部やってくれって言われても、やる気になれないのは判るよな?』
「それはそうよね。当然だわ。でも、地脈を辿って、世界樹をみたんだから、判るでしょ?」
『それとこれとは、話しが別だ。世界樹を奪取するだけなら、エルフに渡すという前提を排して、バネナ王国の物にして管理する方が、利があるな。』
「世界樹の管理は、人間には無理よ?」
『ハイエルフを隷属すりゃぁいいじゃんか。』
「エルフが怒るわよ?」
『怒って人間を殺す元気があるんなら、最初からエルフが世界樹を奪取すりゃぁいいじゃねぇか。人にやらせんなよ。』
何ふざけた事を言ってんだ、こいつ等?対価も無しに世界樹を取り戻して欲しいなどと、いい加減にしろって話だよ。
ジョセフィーヌが沈鬱な表情で話した。
「私がエルフ達に何度もお願いをしました。ですが、誰も話を聞いてくれないのです。」
『その理由が判らないと?馬鹿馬鹿しい。当たり前の話だろうが。普段何もしていない、ぐうたらな上司に、誰がついて行くんだよ。毎日毎日城内をぶらぶらしているだけの、何もしない奴の為に、誰が命を預けられるんだよ。お前はこの城に来て、何かやったのか?』
「特には何も・・・」
『何もしない、何も知らない、何もできない、何もやらない、何も考えない、何も変えない、何も変わらない。お前が居る限り、世界樹を取り戻しても、以前の状態に戻るだけで、魔族がどけと言ったら、どくんだろ?取り戻す意味が無いじゃないか。』
「ハイエルフが得た知識は、全て世界樹に記憶されるのよ。だから、幾ら勉強しても、この子達には残らないのよ。」
『知識を引き出す事もできないのか?』
「それはできる筈よ?生きていく上では、必要な事だもの。」
『それすらもやって無いこいつは、クズ以下だな。』
「やった方がいいのでしょうか?」
『その他人事の様な態度が、気に入らないんだよ。お前自身の事なのに、人に聞くんじゃねぇよ。』
「すみません。」
『この話は終わりだ。ハイエルフが何もしないのなら、俺も何もしない。』
「待ってよアルティス!何とかならないの!?」
『ならない。』
「ジョセフィーヌも世界樹と交信して!何とかしなさい!貴方が動かなければ、世界樹が枯れてしまうかも知れないのよ!?」
「判りました。交信してみます。」
ジョセフィーヌが突然倒れ、すくっと立ち上がって、アルティスの前に立った。
『ハイエルフの体を借りたよ。少し話がしたいんだけど、いいかな?』
『あぁ、いいぞ。ユグドラシル。』
『話しが早くて、助かるよ。今、魔族達が枝を切り落とそうとしていてね、困っているんだよ。助けてくれないかい?』
『排除するだけでいいのか?』
『そうだね。とりあえずは、排除だけしてくれればいいよ。』
『判った。ソフティー、子供達はそろそろ活動できる?』
『明日になれば、問題無いよー?』
『世界樹から魔族を排除したいんだけど、フ隊を世界樹に向かわせられれば、いいんだけど。』
『キュプラの子じゃ駄目?』
『厳しいか。じゃぁ、キュプラにお願いするね。』
ユグドラシルは???状態だ。
『アラクネだよ。魔族では敵わないから、最適だろ?』
『1匹では広すぎるんじゃないかい?』
『匹って言うな。25人向かわせる。』
『あぁ、済まない。この国にはそんなにたくさんいるのかい?』
『クィーンがいるからな。』
『く、クィーンには、昔、大変な目に遭わされた覚えがあってね、他の方法は無いのかい?』
『じゃぁ無理だ。諦めろ。』
『わ、判ったよ。アラクネでいい。』
『あ?アラクネでいい?だと?』
『アラクネがいい!』
『キュプラ、手の空いている子達はいるか?』
『プ隊が暇してるよー?』
『すぐに世界樹に移動させるから、こっちに来させてくれ。』
『はいはーい。』
『ハニービーが巣を作る事は可能か?』
『ハニービーまで居るの!?大歓迎だよ!巣を作れる場所は、すぐに用意できるよ!』
『こっちおいで』
ブブブブブ
『名前は?』
『付けてない。』
『付けた方がいいよ?』
『じゃぁ、カリンで。』
ハニービーが光り、金色と黒の縞模様だったのが、金色とオレンジ色の縞模様になった。
『ありがとうございます。アルティス様。』
『名付けると話せる様になるのか。向こうの二人にも付けた方がいいかな?』
『是非お願いします。ハチミツの質も向上致しますわ。』
名付けを行った事で、アルティスの従魔になった様で、見ただけでステータスが視える様になった。
種族も変わり、ファイニスト・ハニービーになっている。
『何か世界樹に渡すのが嫌になったな。』
『ハチミツは、アルティス様の為だけに御作りします。』
『ならいいや。アミュレットを着けて、向こうでフフから服を編んでもらいなよ。』
『ありがとうございます。頑張って巣を大きくしたいと思います。』
『よろしくね。』
フ隊とカリンを世界樹に送り出した。
世界樹の上では、魔族達がせっせと世界樹の枝を切ろうと、ノコギリを動かしていたが、突然アラクネの大群が現れた事により、樹上ではパニックになっていた。
100人程の魔族が作業をしていたが、アラクネに驚いて足を踏み外し、地面に叩きつけられる者や、上の方の枝から落ちて、下の枝に体を打ち付け、気を失い、そのまま落ちていく者、自分から飛び降りる者など、様々だった。
世界樹の枝は、高さ100mくらいの所にあるから、風魔法を使えないと助かる見込みはほぼ無いと言える。
水魔法でも助かる見込みは有るには有るが、水深5mは無いと駄目だから、無理だと思うよ。
飛び込みの選手みたいに、足先からとか、手から入らないと、骨折する程の衝撃だし、そもそも魔法を撃つには、見ないと駄目だから、水面に並行に顔を打ち付けたら、水圧で目が潰れるかもね。
まぁ、飛び降りた奴を見てても、ベースジャンプの様に手足を拡げてる奴が殆どで、一部はマントを拡げて、忍者の様に降りて行ってる。
でも、あれって制御が難しいから、周りの木にぶつかって落ちたり、滑空中に何かに捕食されたりしてる。
巨大なカメレオンでもいるのかね。
地面の方でも、大混乱になってる様で、落ちてくる奴の下敷きになったり、闇雲に逃げ回って、仲間にぶつかったりしてる。
『他に隠れている奴が居ないか、確認するのと、根元から100m以内の魔族は全員追い出しておいて。』
『はーい』
『暫らくの間、この辺で遊んでいてね。』
城に戻てくると、ジョセフィーヌは居なくなっていて、地の精霊の話では、ユグドラシルに怒られて、勉強をしに行ったらしい。
明日には、ソフティーの子供達が動ける様になるから、森の全域から魔族を追い出そうと思う。
『明日から、旧エルフ王国の奪還作戦を行う。世界樹の下への移住を希望する者は、アミュレットに魔力を流せ。』
「・・・居ませんね。」
現在、エルフ達の殆どは、北側の蹂躙された街に派遣されており、王城にいるのは極僅かだけなので、アミュレットを使って採決を取ったのだが、世界樹の奪還は希望していても、移住までは考えていない者が殆どの様だ。
『エルフ王国産の味噌と醤油の工場も作るか?』
「作りたいです!」
『とはいえ、まずは国を安定させなければ、作れないがな。』
『旧エルフ王国の奪還には、アラクネに協力してもらうのと、世界樹にはファイニスト・ハニービーの巣があるので、少しなら分けてやるぞ?』
「400人だけ希望者出ましたね。」
「ほっ、良かった。」
砦のエルフも参加はしているのだが、彼等は砦で手一杯の為、移住したいとは思わない様だ。
『魔大陸にもエルフは居るんだろ?』
「えぇ、いますが、女子供だけですね。」
『オークの出産に使われたんじゃないのか?』
「いえ、あのオークは、全て魔王の能力で作られた物でした。魔王の能力で作られたオークは、目が赤く光るんですよ。」
そういえば、普通のオークの目は光って無かったな。
という事は、オークって動物・・・?
『餌は何を食わせてたんだ?』
「ネズミと角ウサギですね。他にはワームとかトラクターを餌にしていた様です。」
『それで虫だらけだったのかよ。あんまり美味しくないのもそのせいだな。』
「魔大陸では、スケープゴートが大量に湧いてましたので、まだ生きているのなら、早くエルフ達を迎えに行ってやりたいですね。」
『それじゃぁ、さっさとやりますか。ソフティー準備大丈夫?』
『大丈夫だよー。みんなやる気満々。』
『よし、それじゃぁ、明日の朝、エルフは王城訓練場に集合!魔大陸に残してきたエルフも、迎えに行く為にエルフの森から、魔族を追い払うぞ!』
一人のエルフから質問が来た。
『あの、よろしいでしょうか?』
『何だ?』
『エルフは全員王国に戻らされるのでしょうか?』
『希望者を募ったじゃないか。それ以外は無理やり移住なんて、考えて無いぞ?』
『良かったです。向かいます。』
『他に参加希望者はいるか?』
『ドワーフも参加したいのだが・・・』
『お前らは駄目だ。どうせ遺跡目当てだろ?バレバレなんだよ。』
『どうしてもですか?』
『ダンジョン見つけたら突入させてやる。』
『了解!』
現金な奴らだ。
『豹人族も参加希望します。我々も元々住んでいましたので。』
『よし、明日の朝に集まれ。』
兎人族と馬人族は、エルフの森ではなくて、大河の向こう側にある森出身なので、興味が無いそうだ。
戻りたいか聞いてみたが、戻りたく無いとの事だ。
戻っても、自分達以外はもう居ないらしい。
帝国との間にある森が、何故バネナ王国の領土なのかは知らないが、行く事ができない場所なので、調べる事もできないし、軍を送る事もできないので、緩衝地として持っているらしい。
帝国は、近いが遠い国なのだ。
まぁ、暗部の情報では、帝国は既に滅びているらしいので、放置しているって訳だ。
翌日、各地に散らばっていたエルフと獣人達が、訓練場に集まった。
『では、改めて、進軍を開始する!』
ゲートを開く場所は、我が国との国境付近だ。
オークの大群が歩いたせいで、森がボロボロになっているので、見通しも悪く無いし、魔族は全部海に追いやるつもりなので、南側から進軍するのがちょうどいいのだ。
食料は、炭水化物以外は現地調達で賄う。
炭水化物は、バレイショを茹でた物で、皮ごと茹でれば、食べる時に半割にする事で、皿も器も必要無く食べられるので、便利なのだ。
先遣隊は、アラクネ150人で、全員オプティカル・カモフラージュ、所謂光学迷彩を使用している。
この魔法は、背景を映し出している訳では無く、魔法で光を捻じ曲げて届けている?感じだ。
弱点は、影を見れば薄っすらと見えるし、動けば背景が歪んで見えるので、バレるのだ。
だが、森や草原など、影が見えない環境では、じっとしていればバレる事は殆ど無い。
今回の標的は、魔族と危険性の高い魔獣で、見つけた場合は、魔族なら姿を出して追い払い、魔獣なら連絡してもらう事になっている。
アラクネには容易い敵でも、エルフや獣人にはそうでは無いからだ。
どこかで、同様の敵に遭遇した場合でも、経験していれば、多少は余裕を持って対処できるようになるので、少しでも多く経験者を増やしたいのである。
アラクネ達が進んで行ったのを見届けてから、豹人一人にエルフ4人でチームを組んでもらい、第2陣として進んでもらう。
第3陣は、エルフだけの10人組だ。一部、リズ、バリア、アーリア、ミュール、ウーリャ、フィーネ、それぞれと組んでもらったエルフもいる。
今回、ルベウスは、元の大きさに戻って、単独行動だ。
アルティスとソフティーはコンビ復活で、木々の上を通って進んで行く。
カレンとリズは、渡したバイクに乗っており、バリアは馬ゴーレムに乗っている。
アーリアは、馬ゴーレムを渡したら、乗りながら剣を振って、馬ゴーレムの首を斬り落としたので、今回は無しだ。
魔族の追い込みは、順調に進んでいる。
アラクネ達には、魔力感知用のアクセサリーで、魔族のみを感知する仕様にして、渡してあるので、魔族以外の人族には、見向きもしないのだ。
魔獣については、アラクネ達自身の魔力感知で、見つけられるので、ほぼ漏れがない。
見つけた魔獣の情報は、すぐにアルティスに届き、近くに居るチームに振り分けていく。
今までに見つけたのは、ビッグホーンライノス、ハングリーベア、ミラージュレックス、マンティコア、バジリスク、コカトリス、メデューサで、最後の3種類は、石化を使ってくるので、かなり厄介だった。
特に、メデューサとバジリスクは、見られたらアウトなので、見かけたら即目を撃ち抜かないといけないのだ。
メデューサは、一見ラミアの様にも見えるのだが、頭から蛇が生えていて、言葉も通じないので、人族には入らない様だ。
倒す時に、数名が足や腕を石化されて、万能薬を使用したと連絡が来たが、今の所死んだ者はいない様だ。
石化の場合、頭を石化されたら、即死だ。
脳まで石化してしまうので、万能薬をかけても治らないし、治ったとしても、神経や血管を全て断ち切られるので、斬首と同等の状態になり、結局生きられない。
頭以外の場合は、胸を石化された場合、即座に措置をしなければ死ぬ。
それ以外の場所でも、部分的に石化された場合は、すぐに解除しなければ、周りが壊死してしまうのだ。
理由は、石化すると、血流も止まる為、内出血が始まり、酷くなると血管を詰まらせてしまうからだ。
コカトリスの場合は、足の爪に石化の毒があるので、爪に気を付けていれば問題無いのだが、引っ掻かれた場合は、10秒以内に万能薬を使用しなければ、全身が石化してしまうので、楽勝という訳では無い。
とりあえず、全員に万能薬をたくさん渡してあるので、飲まなくてもいいから、1滴でも肌に付けろと言ってある。
たったの1滴でも、進行を抑えられるので、使った方がいいのだ。
満タンに入っているので、二人で分ける事も可能だし、複数個所に使用する事も可能だ。
遺跡の近くに、リッチ発見との報告が届いた。
アンデッドだが、強敵だろうと思い、急いで向かったが、意外にも互角だった様だ。
リッチのMAGは1200、対して、相対するエルフのMAGは1203。
殆ど差が無いので、対抗できるが倒せない様だ。
エルフは光魔法で対抗していたのだが、アンデッドに有効な光魔法でも、高位のアンデッドには、効き目が薄く、殆どダメージが入らないらしい。
『ペンダントを出せ!』
エルフが懐からペンダントを出すと、たちまちに弱体化した。
ペンダントは、アルテウスという名の勝利の女神の神像を模っている魔力鉱石で、何もしなくても神聖魔法効果がある光を発しているのだ。
先程までは、シュパシュパと空中で高速機動を見せていたのが、今はヘロヘロとよろめくだけになり、魔法を当てやすくなった、が、まだ足りない。
『魔法を圧縮しろ。紙を丸めて小さく小さく固めるイメージだ。それを奴に撃ち込み、体の中で破裂するイメージで撃て。』
MAGが上がった連中は、基本的に魔力操作の訓練を真面目に行ってきた者達だ。
撃ち出す系の魔法は、練習するのは簡単だが、燃費が悪いので、魔力操作を練習するように教えている。
撃ち出さない分、持続して練習ができる上に、魔力操作を覚えてしまえば、魔法の効率が格段に上がり、威力も上がる。
消費MPが減れば、たくさん練習ができる様になるし、熟練度も上がり易くなり、同時にMAGがゴリゴリ上がる様になる。
命中率も上がるし、話しかけられても維持できるようになる。
いい事尽くめなのだから、やらない手はない。
エルフが小さく圧縮した光魔法を撃ち込み、リッチの魔石の近くで破裂させた。
リッチの体が崩壊し、魔石が落ちた。
この魔石というのは、魔獣の魔力の塊で、心臓と同じ様な機能を果たしている。
魔石は心臓とは違い、血液ではなく、魔力を体中に行き渡らせる役目を果たしているのだが、心臓が無いリッチやレイス、ゴーレムなどは、魔石を狙わなければ倒せない。
だが、魔石を割った筈が、倒せば破片ではなく、丸のまま落ちる意味が判らなかった。
よく調べてみると、魔石には透明な外殻が存在していて、外殻が割れると魔物が死に、中身の魔石が残るという仕組だった。
他の物に例えると、モバイルバッテリーの様な物で、魔石がバッテリー本体で、透明な外殻が端子とカバーの役目を果たしている感じだ。
ゴーレムの場合は、人造ゴーレムには外殻が無い為、魔石自体が割れてしまうが、天然?ゴーレムの場合は、外殻があるので、魔石が割れずに残る事が多い様だ。
王都周辺のゴーレムは、人造である為、完全な形で残す事が難しい上に、純度の高い魔石が使われている為に、割るのではなく、切削して使えば、高品質な魔道具が作れるので、高値で取引されているという訳だ。
割れると、蓄積されていた魔力が放出されて、魔力残量が減り、魔石自体の品質もがた落ちするそうだ。
リッチを倒したエルフが、魔石を持って来た。
『それは、お前の戦利品だ。誇っていいぞ。一人でリッチを倒したんだからな。』
「ありがたき幸せにございます。」
一応、鑑定はしてみたが、呪われている事も無く、自由に使えるみたいだ。
よく見ると、中に人型の何かが丸まっているのが見えた。
外に出すには、魔石を割らなければならないが、その権利を持つのは、エルフだから、[アナライズ]で詳しく調べてみた。
『中に閉じ込められているのは、シルフの様だな。風の大精霊だっけ?』
エルフが驚いた顔になったが、すぐさまナイフを取り出して、魔石を切り始めた。
だが、気が付く気配がない。
封印が解けていないからだと判断できたので、エルフに封印を解く魔法を教える。
『ブレイクシールだ。封印を解け』
敢て魔力を乗せずに伝えた。
いつもは、多少の魔力を乗せて話すのだが、折角エルフがリッチを倒して獲得したのだから、アルティスが封印を解いてしまっては、横取りになってしまう。
「[ブレイク・シール]」
パリン
エルフの手の中で、シルフの封印が砕け散り、シルフが目を覚ました。
だが、表情が悪だくみを考えた様な顔になり、エルフに飛びかかろうとした瞬間、アルティスが、土魔法で首から下をがっちり固めた。
土の精霊がアルティスの中から出てきた。
「アルティスナイス!このシルフは、邪悪に満ちて居るわ。邪悪を取り払うには、強い浄化の力が必要になるわ。」
『お前はできないのか?』
「私の力では足りないわね。このエルフでも難しいわ。ルベウスならできるけど、どこにいるの?」
『お前に名を付けたらいけるか?』
「名前にも依るわね。」
『アース。お前の名前は、アースだ。』
土の精霊が、眩い光を放ち、巨大化した。
と言っても、元の大きさから、100倍になっただけだ。
「ありがとう、アルティス。凄く良い名前をくれたから、大精霊にまで昇格したわ。これからもよろしくね。」
元の世界で、大地と言えば、アースになるのだが、アースとはすなわち、地球の事だ。
世界が違うから、地球が関係してくる訳ではないだろうが、大地として考えれば、この世界の大地である星を指す言葉に、変わるのだろう。
『できる様になったか?』
「初仕事ね。任せて。[スピリッツ・ピュリフィケーション]!」
土塊の上の顔が苦しみに喘ぎ、前後左右にグラグラ揺れたと思ったら、俯いたまま動かなくなった。
魔法の魔力が残っているので、浄化が終了していない事が判るのだが、シルフが爽やかな笑顔で、いかにも浄化が完了しましたみたいな雰囲気を醸し出している。
エルフが触ろうとした。
『まだだ。魔力が残ってるだろうが。こいつの演技だ。ペンダントを土塊に触れさせてみろ。』
言われるがまま、エルフがペンダントを土塊に触れさせると、シルフが笑顔を消して藻掻き苦しみだした。
暫らくその状態が続き、土塊の魔力が霧散すると、土塊が崩壊し、シルフが15cm程の大きさになって、エルフの体の中に吸い込まれていった。
「ふぅ、終ったわ。暫らくは、シルフも動けないと思うけど、貴方のMPで回復するから、なるべく風魔法を多く使ってあげて。風魔法を使わないと、魔力に属性が付かないから、回復に使えないのよ。」
『名前は?』
「はい、エアー・プランツといいます。」
『よし、頑張ってシルフを復活させてくれ。』
「そうね、シルフが復活したら、契約してくれるかもしれないわ。頑張ってね。」
「はい!ありがとうございます!」
エルフが立ち上がったが、ネックレスが地面に落ちてるぞ?
『ネックレス拾っておけよ?』
再び警戒に戻るが、森の中なのが原因なのか、進みが遅い。
注意深く見てみると、動物までも殲滅しながら進んでいるので、念話を飛ばす。
『雑魚には構うな。危険な魔獣だけを倒せ。襲ってくる雑魚は、昏倒させて放置しろ。進みが遅いぞ。このペースでは、魔族を追い出す迄、1年かかるぞ?』
進軍ペースが上がった。
が、同時に魔族も見逃されるパターンが、散見される様になった。
エルフが見逃しても、ソフティーが見逃さないから、同じなんだけどな。
『魔族を見逃してるぞ。やる気あんのか?』
若干スピードが落ちたが、問題無いレベルだ。
元々エルフは、森の民と呼ばれる種族なので、森の中でも普通に進める筈なのだ。
だが、魔大陸に移住したり、平原での戦闘や訓練が続いた為、少し森での移動方法を忘れていたのかも知れない。
カレンから、救援要請が来た。
話しによると、デカ過ぎて急所への攻撃が通らないのだそうだ。
向かってみると、ブラキオサウルスの様な魔獣で、名はギガントラプトルという、肉食の魔獣だ。
デカ過ぎて心臓を狙えないのと、頭がグイングイン動き回るので、狙い難い様だ。
『何で弓に拘ってるんだ?殺す方法なんて、他にもいくらでもあるだろ?』
エルフ達の動きが一瞬止まった。
仲間とのアイコンタクトで、身軽な3人がナイフに持ち替えて戦う事にした様だ。
基本的に弓を使って戦うエルフだが、近接戦闘ができない訳では無い。
今までの訓練でも、近接戦闘を教えてきた。
近くに寄られると戦えなくなるのでは、駄目なのだ。
同様に、魔法師についても、近接戦闘は仕込んであるし、定期的に訓練を行って、いつでも対応できるように鍛えている。
今回の様に、巨大な敵相手にナイフを選択するのは、悪手と思われがちだが、刃が通らない場合は兎も角として、ナイフを刺して、ナイフを通して、内部に直接魔法を撃ちこむ事も、戦法としては有効だ。
また、体がデカい場合、気を逸らしている間に、背中に登り、痛みを与えてやれば、動きが単調になり、狙いをつけやすくなる場合もあるので、使える手は何でも使うつもりで戦わなければ、勝つことは難しいと言えよう。
ナイフを持ったエルフが、首の付け根に斬りつけ、頭が大口を開けたまま首元のエルフに向かうが、口の中に矢が3発撃ち込まれ、雄たけびを上げながら、頭を振り始めた。
再び、首元にナイフを突き刺して、ウォーターカッターを撃ち出し、首を落とした。
戦いに参加したエルフ達が、勝鬨を上げた。
止めにウォーターカッターを選択したのは、良い選択だ。
水魔法は、近くに水やそれに近い物があると、威力が跳ねあがるので、今回の場合では、ギガントラプトルの血液を利用して、威力を上げたという事だ。
巨大なトカゲを倒したエルフ達は、すぐに解体を始めた。
巨体だけに、血の量が多く、首の下には噴き出した血により、池ができていた為、土魔法で穴を開け、血を流し込んで処理し始めた。
森の地下には、フォレストワームという、サンドワームの小さい種類がいて、直径30cmの穴を開けまくっている様で、2mも掘ればワームの掘った穴が数個見つかり、流れ出た血が、その穴にどんどん吸い込まれていく。
フォレストワームは、地下に穴を開けまくり、地下に空気を送り込んでいるのだと思う。
主に動物の死骸や、腐敗した木の実、枯れた木の根などを食べていると思われる。
正に、ミミズのデカい版だろう。
長さは10m程で、食べられない事は無いが、あまり美味しくは無いそうだ。
取れる素材は、ゴムの様に伸び縮みする筋肉と、水を通さない革が採れる様だが、土の中では動きが素早く、捕獲難易度は高めらしい。
ギガントラプトルは、巨大な骨が特徴的で、足の骨は、エルフ二人分の大きさがあり、骨髄の部分が少なく、骨の部分が分厚い。
切り出して磨けば、象牙の様な光沢を出す事も可能なようだ。
『骨は捨てずに、全部残そう。工芸品に加工できると思う。』
革はそれ程硬く無く、ワイバーンよりも柔らか目で、かなり分厚く、肉は巨体だから多く、脂肪は少な目。
内臓も巨大で、心臓は、人が中に入れる程の大きさがあった。
魔石もあって、品質はそれ程では無いが、心臓と同じくらいの大きさがあるので、何かに使えるかもしれない。
解体中にアーミーラプトルという、体長20cm程の小さなラプトル数千匹に襲われるという、ハプニングがあったが、範囲魔法で切り抜けて、事なきを得た。
「アーミーラプトルが来ました!囲まれています!」
『衝撃に注意![ショックウェーブ]!』
パァン!
昏倒したアーミーラプトルの首に傷を付けて、失血死させて、ディメンションホールにポイポイ入れて行くと、2800匹にもなった。
こいつらは、小さな体に強靭な顎と鋭い牙で襲い掛かり、巨大な魔獣を狩る程の超危険生物らしい。
まるで軍隊アリの様だが、キングアーミーラプトルとクィーンアーミーラプトルを中心としたコロニーを形成しており、巣がどこかにあるという。
いつも、見つけた時には、既に囲まれている事が多く、どの方向から来るのか判らない為、巣を発見した者は未だかつて居ない様だ。
解体に時間がかかるので、昼食はこの場で摂る事にしよう。
食材は、美味しいらしい、アーミーラプトルだ。
皮は焼くとパリパリになり、骨は細く柔らかい。
肉は、頭以外は多目で、ジューシーらしい。
早速1匹を焼いてみると、肉汁が滴り落ちて、香ばしいいい匂いが、漂い始めた。
食べてみると、肉汁があふれ出て来る。
ソフティーとカレンにも分けてあげると、それぞれが合いそうな料理を思い浮かべて、それぞれ作り始めた。
カレンが作ったのは照り焼きで、ソフティーが作ったのはフライドチキンだ。
どちらも肉汁をうまく生かしていて、照り焼きはタレに肉汁をなじませて、フライドチキンは、肉汁を閉じ込めている。
アルティスは、錬金術を利用して小麦粉を練り、皮を剝いてミンチにしたラプトルと、刻んだスメリーファンガスを混ぜた餡を包んで蒸しあげた、小籠包を作り上げた。
試食したカレンは、口の中にあふれ出る、高温の肉汁に悶絶、ソフティーは平気らしく、何度も頷きながら食べていた。
周りでは、小籠包に挑戦したエルフの対面に座り、凝視していたエルフの顔に、噴き出した高温の肉汁が直撃し、ちょっとした騒ぎになっていた。
徐に立ち上がったソフティーが、周囲に蜘蛛の糸を張り巡らせて戻ってきた。
魔力感知の範囲を広げてみると、アーミーラプトルが湧き出して、こちらを取り囲む様に広がって行くのが見えた。
完全に取り囲まれた直後、円が中心に向かって動いたが、アラクネの糸に絡め捕られて、止まった。
昼食が終わってから、再度アーミーラプトルの捕獲作業を始め、今度は3200匹の収穫だった。
『羽アリみたく、羽付きのラプトルとか居そうだけど・・・』
空を見上げると、ムクドリの群れの如く飛び回る、ウイングアーミーラプトルの群れが居た。
近くに居たエルフに、魔法を撃つよう指示を出した。
「[ブリザード]」
空から雨の様にラプトルが降って来るが、別のエルフに風魔法の指示を出す。
「[ホワールウインド]」
つむじ風で集めてもらった。
変温動物じゃない可能性もあったが、冷気で簡単に落ちて来たので、正解だった様だ。
しかも、ブリザードの範囲内は、氷点下になるので、中に入ったアーミーラプトルは凍死したらしく、ディメンションホールにそのまま入って行った。
魔力感知で見た、湧き出した場所に来てみたが、穴の様な物が見当たらない。
だが、穴の入り口で、こっそりこちらを覗いているラプトルが居るので、その穴に被さっていた蓋を剥がし、小さくなったソフティーと共に、中に潜入した。
中は、アリの巣の様になっていて、小部屋には何も無く全て空っぽで、最奥に巨大なクィーンと小柄なキングが居た。
部屋の中は、昔、SF映画で見た光景にそっくりで、床には直立した卵が乱立している。
壁には、捕まって餌にされるのであろう、魔族が数人磔になっていて、魔力感知に引っ掛からないので、死んでいるとは思うのだが、じっと見ていると、少し動いているのが判った。
男の魔族の腹に、無詠唱でストーンニードルを撃ち込むと、呻き声が聞こえ、隣の女魔族の蟀谷に汗が浮いてきた。
次に右手に当てると、魔族女が磔られてる状態を解除して、床に降り、土下座をした。
「もう甚振るのはやめて下さい。お願いします。言う事を何でも聞きますから、お願いします。」
魔族男が驚いた顔をして、魔族女を睨んでいる。
『ここで何をしていたんだ?』
「アーミーラプトルを嗾けておりました。」
『魔族男を裏切った理由は?』
「裏切ったのではありません!傷つけられる彼を見ていられないのです!」
『そいつは、そう思っていない様だが?』
「構いません。私が耐えられないだけですから。」
『それで、どうして欲しいのだ?』
「一思いにやって下さい。」
仲間を助けたい一心で、土下座をしているのかと思いきや、ただ単に、甚振られている姿を見ているのが、嫌いだっただけの様だ。
『仲間を助けたいのかと思ってたが、違うのか。』
「仲間ではありません。私は以前からこの森に住んでおりましたが、魔王軍が来たので、隠れ住んでいましたが、あの男に見つかってしまい、無理やり協力させられておりました。甚振られているのを見ているのは辛いので、早く殺してやってください。」
『その前に、ここからお前はどうやって出るんだ?』
「・・・出口が無いのですか?」
『その姿ではな。』
「では、私も殺してください。アーミーラプトルに生きたまま齧られるのは、お断りしたいので。」
『もう一人の女はどうするんだ?』
「その子は、もう死ぬしかないので、放置でいいと思います。」
『ソフティー、[テレポート]』
ソフティーがこっそり卵に糸をくっ付けていて、ついでに、倒れている女にも糸を付けた瞬間に、飛んだ。
実は、来た時に通った道からは、たくさんの子アーミーラプトルが押し寄せて来ていて、背後でソフティーが通路の出口を、糸で塞いでいた。
魔族が、アーミーラプトルをアルティス達に嗾けていたが、悉く殲滅されてしまい、大人のラプトルが全くいなかった。
アルティス達が、女王のいる部屋に入った事で、大量にいる子アーミーラプトルを使って、排除しようとしていた様だ。
そして、倒れていた女については、HPが満タンなのに死ぬしかないと言っていたのは、卵を傷つけたら、襲われる対象になる事を示唆していたと、アルティスは解釈したので、ソフティーが糸を付け、助ける方向で動いたのだ。
魔族男については、初めから助ける意思は無かった。
何故なら、世界樹の枝を、ノコギリで切ろうとしていた奴だったからだ。
血を流させたのは、その意思の表れだ。
本来のアーミーラプトルは、死肉を漁る、又は獲物を奪う系の魔獣で、自ら戦うのは反撃の為だと思われた。
なので、血の匂いがしていれば、襲われると踏んだのだ。
アーミーラプトルの巣の真上に出て来たのは、アルティス達と魔族女二人、それとソフティーが糸を付けていた卵40個。
卵は、すぐにディメンションホールに入れ、ギガントラプトルの解体現場へと向かった。
「アルティス様、どちらへ行かれていたのですか?その魔族は一体・・・?あ、森に住んでいた魔女ですか。生きていたんですね。」
『知ってるのか?』
「400年ほど前から、この森に住んでいた魔族ですね。薬を作って売りに来ていましたので、見た事はあります。」
魔族女二人は、目の前にある巨大な骨を見上げて、口をポカンと開けていた。
「こ、この骨はもしかして、ギガントラプトルですか?」
『そうだよ。倒したんだよ。』
「信じられない・・・。一体どうやって・・・。」
『もう残ってるのは、骨だけか?』
「はい、骨は我々のバッグには入りきらないので、戻ってくるのをお待ちしてました。」
『そうか、待たせて済まない。骨は回収しておくから、先に進んでいいぞ。』
「了解しました。おい!先に進むぞ!」
ディメンションホールに次々と骨を沈めて、ヒポグリフを呼びつけた。
『お待たせしました。私は魔族は食べませんよ?』
『餌じゃない。乗せて飛んでくれ。』
『追い出す奴ですか?』
『こいつらは、違うな。熱いのは平気か?』
『熱い?食べた事が無いので判りませんが。』
ヒポグリフの口の中に小籠包を放り込んだ。
『美味い!溢れる肉汁と、味の染み込んだ茸が奏でる、ハーモニーが絶妙!この肉は何の肉なんです?食べた事が無い味ですが。』
『アーミーラプトルの肉だよ。美味いだろ?』
『へぇー!あれを倒せるなんて凄いですね!以前食べようとした時は、手痛い反撃をくらって、食べられなかったんですよ。』
『とりあえず、二人を乗せて、後を付いて来てくれ。』
『了解!』
元のサイズに戻った、ソフティーの背に乗り、前に進む。
『カレン、状況は?』
『問題無いです。世界樹まで残り400kmって所ですね。』
『判った。ありがとう。』
旧エルフ王国は、横に細長い国なので、南北に進む場合には、それ程の距離でも無いのだ。
とはいえ、歩けばそれなりの時間が掛かる上に、街道が整備されていない為、馬車での侵入は難しく、世界樹までの道のりを無傷で進める人間は、皆無と言っていい。
エルフ達は、地面を進むのではなく、大木の枝から枝に飛び移りながら進む為、地形の影響を受けにくく、馬車を使わずに100kmを2時間程で進む事ができるのだ。
今日の行軍は、9時間を予定しており、何も無ければ合計400kmを北上する想定だ。
朝の6時から15時までで、400km進むのは、時速約45km前後になるが、エルフ達にとっては、勝手知ったる森の中、多少の変化はあったとしても、特に問題は無いのである。
エルフ達は、風魔法と瞬間的に足の筋力強化を行う事で、枝を渡り歩いているから、元々のMAGは高めではあるのだが、森を離れて早20年、その間、森の中を木々を渡り移動する事が無かった為、忘れていた者も多く、最初は少しもたついたのだ。
長い時を過ごすエルフであっても、時間の流れは人間と同じ為、20年という月日は、長年の経験を一時的に忘れさせる程の威力を持っていた。
平均寿命800年という長い年月を生きる彼等であっても、20年のブランクは長いという事だ。
だが、アルティスの下で超短期ではあるが、集中的に、体力と技量及びMAGの強化を行ってきた彼等にとって、一度思い出してしまえば、大した事では無かった。
騙されて渡った魔大陸で、多くの優秀な同胞が死に絶えた現在であっても、全体の技量と体力を底上げされた事は、エルフが荒れ果てた故郷の森を支配する為には、十分過ぎる程の力を与えていた。
それどころか、500年を生きてきた年長者であっても、今までに経験した事の無い程の余裕を持って、森の中を移動している事が、彼等に大いなる自信を与えていた。
今までの様に、人間に虐げられる様な思いをしなくても、生きていける自信を得るのに、十分な力を備える事ができたのだ。
前日に、森に帰る事を希望しなかったのは、長く離れていた森で、生活ができるのか不安に思っていた者が殆どで、今こうして森の中を移動しながら、不安を払拭できたと感じるエルフも多く、森に帰る事を選択する者も増えている事だろう。
だが、同時に、アルティスから、もっと多くの事を学びたいと思う気持ちもあり、その狭間で揺れ動いている。
アルティスから学んだのは、戦いの基本と体の鍛え方だけでは無い。
数百年生きていても学べなかった事を、たったの1か月半で学んでしまったのだ。
個々の力を付ける事の重要性も、それを軍として活用する術も学んだ。
そして、悲願であった味噌と醤油の製法も学び、常に新しい事に挑戦していく事と、知識と経験を活かし、常に前進する事を学んだ。
停滞を是としていた彼等、エルフ達にとって、アルティスという存在は、自分達を高みに導いてくれる、かけがえのない師・・・いや、神と言っても良いほどの存在になった。
エルフ達は、アルティスの仲間として、故郷を取り戻すこの作戦に参加している自分を誇りに思い、活き活きとしていた。
もっと活躍して、褒めてもらいたい。
完璧に任務を遂行して、名前を憶えてもらいたい。
そして、更なる高みへと一緒に歩みたい!
エルフ達の進軍速度が上がった。
『何かスピードが上がったな。何があったんだ?』
エルフ達に同行している仲間達から、続々と報告が上がってきた。
『エルフの士気が跳ねあがった様だ。私でも追いつくのがやっとなくらいだ。』
『エルフ達の目がキラキラしてます。これが、森の民と言われる、エルフの真価なんですね。凄い。』
『エイプの群れに、シルバーバックが居たんですが、エルフが瞬殺しました。解体してから進みます。』
『エルフの戦闘力が跳ねあがったようです。我ら豹人が置いて行かれるなど・・・信じられません。』
『エルダートレントと交戦中!エルフが圧倒している!強い!』
アーリアがエルフに置いて行かれそうだと嘆き、リズがエルフの真価を発揮した姿に感嘆し、バリア達はエイプの群れに突っ込んだが、問題無かった様だ。
豹人は、身軽さと素早さに定評があるのだが、エルフに追いつけないので、困惑している様だ。
最後のは、ウーリャだが、エルダートレントと遭遇したにも関わらず、安定して戦えているようだ。
他にも報告があったが、総じてエルフ達の能力が上がったとの報告だった。
東端に近い地域と、西端に近い地域に、獣人の集落が見つかった。
が、いずれも貧困に喘いでいた様だ。
『食料を分けてやれ。事情を聞いて、助力できる様なら、してやってくれ。』
『男手が魔王軍に連れて行かれた様です。老人と女子供しかいません。』
『では、お前らは、今晩そこに泊まって、労ってやれ。集落を移動できるのなら、世界樹に近い場所に移る様提案してもいい。何族だ?』
『種族は色々ですね。兎人豹人狼人ノームや竜人もいます。周辺にあった集落の者が一か所に集められたそうです。この辺は、強力な魔獣も多いのに、何でこんな所にいるのか、さっぱり判りませんね。』
『近くに安全な場所はあるのか?』
『少し離れていますが、竜人の集落に行けば、比較的安全な筈です。』
『竜人の集落に近いチームは、調べに行け。魔族が潜んでいる可能性があるぞ。』
『了解!』
今のは西端の集落との会話だ。
西側には、大山脈地帯があって、エルダードワーフが住んでいると聞くが、現在はどうなのだろうか。
逆に、東側の方は、大河というよりも、内海に繋がる海峡が存在している。
海峡は、海と内海を繋ぐ運河の様になっているが、海の潮汐の影響で、各地で渦潮が発生しており、サハギンやセイレーンの様な人族しか生きる事ができない、過酷な環境となっている。
『東側の集落の状況は?』
『こちらも西側と同じく、男手を魔王軍に取られ、一か所に集められている様です。海で魚を獲れる種族が居ない為に、食料の確保に苦慮している様です。今、我々の持つ食料の一部を提供しております。』
『セイレーンはいるか?』
『いますが、警戒されている様です。』
『そっちに行く。』
魔族の世話をカレンに任せ、テレポートした。
集落は、海峡にほど近い場所にあり、近くには砂浜もあるのだが、砂浜にはジャイアントクラブという、体長4mの巨大なカニが闊歩しており、船を出す事ができない様だ。
ただ、仮に船を出せたとしても、潮流が見た目にも早く、すぐ近くに渦潮が発生している事から、手漕ぎボートでは真面に漁もできないだろう。
要は、蟹を簡単に狩る事ができれば、当面の食料危機は問題無い訳だ。
ソフティーに網を作ってもらい、砂浜に広げてもらった。
蟹が近づいてくると、足に網が絡まり、暴れれば暴れる程に絡まって行き、身動きが取れなくなったところで、集落に持ち帰った。
集落の人々は、巨大なカニが網に絡まって運ばれてきたのを、興味深げに見ている。
エルフの一人に、ナイフを持たせ、目と目の間の柔らかい部分に突き刺してもらうと、今まで激しく動いていた目が引っ込み、動かなくなった。
網を外し、仰向けに横たえ、足の根元と背中の甲羅の繋ぎ目にある、柔らかい膜を切り、ふんどし部分を開いてから切り落とし、足を根元から切り落とす。
鍋に海水を入れ、関節ごとに切り分けた足を茹でて、茹で上がった足を取り出して、斧で殻を割り、身を取り出せる様にした。
試食してみると、程よい塩気にプリプリの食感、出汁も出ていて凄く美味い。
小さくなったソフティーも試食して、あまりの美味さに黙々と食べ始めた。
住民達にも分けて食べさせると、夢中になって食べ始めた。
胴体は、内臓があるので、早々にディメンションホールに入れておいた。
足は、太さが20cm程あり、長さが1mもあるので、住民達で食べきれるかどうか。
蟹の爪の1つを持って、海岸に戻り、こちらを見ているセイレーンに話しかけた。
『こんにちわ。蟹を食べないかい?』
『そんな気持ちの悪い奴を食べるのか?』
『凄く美味しいよ?』
『嘘をつくな。そんなのが美味しいわけが無い。』
『ひと口だけでも食べてみなよ。美味しさは、見た目じゃ判らないんだよ?』
恐る恐る近づいてきたセイレーンに、蟹肉をひと口分だけ渡して、アルティスが手元の肉に、齧りついた。
セイレーンも真似して食べた途端、もの凄く羨ましそうな顔でこちらを見てきた。
『もっと食べなよ。ほら、これをあげるよ。殻にヒビを入れてあるから、戻って仲間に分けてあげるといいよ。』
『ほ、ホントにもらっていいの?』
『いいよ。あそこにいっぱいいるし。』
砂浜の方を見ると、10匹以上の蟹がウロウロしている。
『あれが、これ?あれの爪がこれ?色が全然違うじゃないか。』
『これはね、茹でたんだよ。海水で。茹でたり、焼いたりすると、殻が赤くなるんだよ。』
アルティスが、火の魔法を蟹に向けて撃った。
『[ファイアボール]』
蟹が咄嗟にハサミで防御したが、当たった所の殻が、赤くなっていた。
『ホントだ!赤くなった!でも、怒ってこっちに来るよ?』
アルティスの攻撃で、怒った蟹が、突進してきたが、目玉をビンタしてから、目と目の間に土魔法を使った。
『[ロックニードル]』
針が突き刺さると、動かなくなった蟹を見て、セイレーンが一言。
『狩るの難しそう。』
デカいし硬いから、一見難しそうに見えるが、セイレーンなら簡単にできるだろう。
『ジャイアントクラブは、真水に弱いんだ。だから顔の所を水で包んでやれば、弱らせる事ができる。』
『顔とは、あの目の周りの事?ちょっとやってみる。[ウォーター]』
ジャイアントクラブの顔を、水の塊が包み込んだ。
巨大なハサミを使って、水をどけようとするが効果が無く、何とか水を振り払おうと藻掻いている。
段々と動きが鈍って行き、力なく浜に蹲って動かなくなった。
『よし、次は目と目の間の辺りに、ナイフか銛を突き刺すんだ!』
『やあっ!』
セイレーンが、持っていた銛を突き刺すと、少しだけ暴れて動かなくなった。
『倒せたね!』
『ほ、本当に倒せた!?よかった!村のみんなが飢えなくて済む!ありがとう!!』
セイレーンが叫んだ内容が気になったので、話しを聞いてみる事にした。
『村のみんなが飢えるって、どういう事?』
『魔王軍に参加しろって言って来たけど、断ったんだよ。そしたら、主食にしていた魚が獲れなくなったんだ。獲れるのは小魚ばかりで、全然足りなくて・・・。』
『セイレーンに喧嘩売るとか、魔王軍は馬鹿なのか?』
『サハギンが裏切った。』
『サハギンはまぁ、仕方ないかな。彼等はあまり利口ではないというし。村に案内してもらえるかな?蟹を持って行くよ。』
獲った蟹をディメンションホールに入れ、ソフティーに普通の大きさに戻ってもらった。
『ひぃ!?アラクネ!?』
『大丈夫だよ。仲間だから、酷い事しないよ?後で網を作ってもらいなよ。』
『も、もしかして、バウンドパイクの海のセイレーンが言っていたのって・・・』
『そうだよ。この子はアラクネのソフティーだよ。ソフティーの糸で作った網をあげたんだよ。』
アルティスが、セイレーン達を敵にまわした魔王軍が馬鹿だという理由がこれだ。
アラクネにしろ、セイレーンにしろ、何故か広範囲に散らばって生活をしているのだ。
セイレーンの様に、生息域が限られる場合でも、バウンドパイクの居た内海には、集落が1つしか存在しないのだ。
例え短期間でも、近くで漁をすれば、魚はあっという間に居なくなってしまうのだが、そもそも近くに寄って来ないのだ。
その理由を考えた時、直接会った事が無い集落でも、連絡をする方法があるのではないかと、そう思った。
それをシーアに聞いてみると、同族ならば、世界中のどこに居ても、知り合いじゃないとしても、念話が通じるという。
つまり、セイレーンを怒らせたり、酷い事をすれば、その情報は瞬く間に世界中のセイレーン達に共有されるという訳だ。
当然、情報を受け取った集落は、嫌がらせをされた時の為に、対策をとる事になり、同じ手は使えなくなるし、やり返される事もあり得る話になる。
セイレーン達に攻撃手段があるのかと言えば、当然ある。
セイレーンの歌による状態異常は、魔法では無く種族特性だから、魔法耐性では防げないし、MAGに直すと1500近い強度を持っているので、魔族であっても耐えるのは難しい。
しかも、聞こえてる聞こえてないに関係無く、範囲攻撃なので、耳を塞いでいても罹ってしまうし、混戦の中でも、セイレーンが指定した相手だけを狙う事も可能なのだ。
バリエーションも豊富で、混乱と一言に言っても、内容は様々だが、その様々を指定する事もできるという、使い方によっては、ぶっちぎりの高性能を発揮できるスキルだ。
もちろん、そのスキルは、水の中でも使えるし、普段の漁でも使っているのだ。
水の中のアラクネとも言える強者が、セイレーンなのだ。
サハギンは、水中に適応した人間的な存在で、狡猾で意地汚いが、人族の中では人間と肩を並べる程の弱者だ。
短命で能力も低く、知能も低い。
何故そんなのが、人族として認識されているのかというと、セイレーンと共存しているからだ。
セイレーンがいなければ、サハギンは魔獣扱いになっていたであろう。
サハギンは、光る物に惹かれる習性があるので、キラキラした金や白金に釣られたのだろうと思われるが、黄鉄でも喜ぶらしいので、偽金貨で釣った可能性も捨てきれない。
セイレーンの集落に向かいながら、自己紹介をした。
『俺はアルティス、今は、バネナ王国の宰相をしているんだが、エルフの森から魔族がチョロチョロと煩いから、追い出しに来てるんだよ。』
『私は、オルカって言うんだ。よろしく。どうやって村までいく?陸からも行けない事は無いけど、崖のしただよ?』
『私なら、大丈夫よ。水面でも崖でも、どこでも行けるから。』
泳ぐセイレーンを追って、水面を走るソフティー。
知らない人が見たら、恐怖を感じるのだろうか・・・。
セイレーンの村に着くと、お約束のアラクネに恐怖するシーンの後、カニ鍋の宴会が始まった。
セイレーンの村は、海峡の切り立った崖の、一部崖下が、広くなっている場所にあった。
それ程広くは無いが、海まで近く、垂直に近い崖を降りられる敵も殆ど居ないので、比較的安全で、便利な場所だ。
そして、少しだけ遠浅の様な地形があるので、普段はこの遠浅の部分に定置網を設置して漁をしていたそうだ。
だが、魔王軍が網を切り裂き、杭を倒して帰って行ったそうで、漁ができなくなってしまい、結果として魚が獲れなくなってしまったそうだ。
潮流の激しい海峡では、網を使っての漁は難しく、他の手も思いつかない事から、漁をする術を無くしてしまった様だ。
『ソフティー細長い網を作って欲しいんだけど。』
アルティスが考えたのは、刺し網を使う漁だ。
海面の上に網があれば、当然魔王軍の嫌がらせが来る事になるが、海面の下にあれば、殆ど判らない。
漁自体は、網にかかった魚を網から外すだけで、網は設置したままで問題無いのだ。
アラクネ絹の網は、強度が半端なく、シーサーペントが暴れても、切れないし、劣化も殆ど無いので、海中にあっても数百年は持つ。
それと、ワイバーンの羽の中骨を使って、竿を作った。
中骨は、軟骨の様にしなり、強靭ながら弾力性もあるので、釣り竿にするには、ぴったりの素材だ。
そして、その竿にガイドを付けてリールを取り付ける。
もちろん、糸はアラクネ絹だ。
針は、幾つか用意して、捕まえた小魚を付けて、泳がせ釣りをやらせてみる。
釣り手はソフティーがやる。
潮流が速いから、軽く投げるだけで、弱った魚はどんどん流されていき、魚が食らいついた。
糸は細いが強靭で、竿もしなるが折れる事が無く、多少強引に巻いても問題は無い。
グイグイ巻いていくと、釣り上がったのは、セイレーン達の大好物の魚、シケイダツナが釣れた。
何か物騒な名前に聞こえるが、訳すと蝉マグロだ。
何が蝉なのか判らないなぁ、と思っていると、理由が判った。
このマグロの鱗が、蝉の様な形をしていたのだ。
セイレーン達が釣れたマグロを、羨ましそうに見ているので、捌いてもらった。
刺身を食べる習慣は無いので、焼いたり煮たりして食べる様だった。
頭と骨を捨てようとしていたので、貰った。
焼いてから煮込み始めると、興味を示していた。
汁の色が変わり、油が浮いてきたところで、一旦、骨と頭を取り出して、可食部位を取り、残った骨は捨てる。
身と目玉は汁の中に戻し、塩で味を調えたら完成だ。
ソフティーが、リッキーという西洋ネギの様な、香味野菜を小口切りにして振りかけてくれた。
味は、中々に出汁が出ていて美味い。
『オルカ食べてみて。』
『う、うん、スープを作ったの?骨で?・・・ズズ・・・!?美味い!!』
『骨とかも使えるから、ちゃんと使ってから捨てた方がいいよ?蟹の殻も出汁出るからね?』
カニ鍋の汁を飲んでご満悦の様だ。
彼女等には、また魔王軍にちょっかい出されて、飢えに苦しまれても困るので、マジックバッグとクロスボウを渡しておいた。
クロスボウは、護身用だな。
空から襲って来ても、撃ち落とせるだろう。
『もう帰るの?泊まって行けば?』
『まだ、作戦行動中だからね。また遊びに来るよ。魔王軍に嫌がらせをされたら教えてね。』
『アルティス、色々ありがとう。この恩は、いつか必ず返す!』
『気にしなくていいよ。またね。魔王軍なんかに負けるな!』
セイレーンの村を後にした。
獣人の集落に戻ると、お腹いっぱいになった人々が、テントの中で寝ていた。
『お前達は、このまま泊まれ。魔王軍が来る可能性もあるから、警戒を怠るなよ。』
「はっ!」
アーリアのテントまでやってきた。
『あーるじー、ご飯食べたー?』
「ん?まだ、これからだが?」
『じゃぁ、これお土産と、アーミーラプトル、ギガントラプトルのステーキ。』
「美味しそうだな。いい匂いだ。これは変わったパンだな。」
『それ、熱いから気を付けて。』
ソフティーの視線が、小籠包を追っている。
「確かに温かいが、それ程熱くは無いぞ?あむっ!?!!!!」
ひと口に放り込んだから、口の中に熱々のスープがあふれ出てきて、悶絶している。
「アルティス!食べ物で遊ぶんじゃない!」
『遊んでないよ。そうなっちゃうんだから、仕方ないじゃん。』
「アルティス様、さっきの小籠包をアーリアに食べさせたんですか?勇気ありますねぇ。」
『おいおい、変な言い回しするなよカレン。誤解を生むじゃ無いか。』
『あれは、ジューシーお肉だから、仕方ないよね。凄く美味しいから、お気に入り。』
『ソフティーもどうぞ。いっぱい作ってあるから、食べていいよ。』
「ソフティーも認めてる?何を使ったらああなるんだ?」
『アーミーラプトルを食べてみてよ。』
「これか?随分小さいラプトルだが。んー!?これは凄いな!串焼きなのに、スープみたいな感じだ。この肉が中に入っていたのか。では仕方がないな。」
『肉汁をこぼさずに食べるには、いい方法でしょ?』
「ちょっと熱いがな。口の中がヒリヒリするぞ。」
『それは、ひと口で食べるからだよ。』
「む、ひと口サイズだったのだから、仕方ないだろう?」
『じゃぁ、こっちの大きい方食べてみる?こっちは、周りに被害が及ぶからさ。』
「被害が及ばない食べ方は?」
『器の中で割る。』
「それでは、美味さ半減ではないか。他には?」
『ちょっと齧って、スープを飲んでから食べる。』
「それでいこう。」
『こっちの蟹も食べてみて。美味しいよ?』
「かにとは?」
『ジャイアントクラブだよ。東の海峡に行って来たから。』
「ジャイアントクラブ?美味いのか?アルティスが美味しいと言ってるからには、美味いって事か。」
「うわっ!これ美味しいですね!ジャイアントクラブ?味付はどうやったんですか?」
『ただの塩茹でだよ?何もしてないんだよ。』
「何だこれは!?本当にただの塩茹でなのか!?美味いぞ!!これは足だよな?この美味さで量が多いとはな。」
『まだ胴が残ってるんだけど、お酒飲みたくなると思うし、作戦が終わってから出すね。』
「それは楽しみだな!」
「ジャイアントクラブって食べられるんですね。北の海岸沿いにたくさんいるんですよ。北の海には、もっと大きな物もいますから、楽しみが増えますね!」
エルフの証言を聞いて、俄然やる気が出て来たアーリアだった。




