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第41話 グリフォンと装備の更新

 スラム街の工事を始める少し前に遡る(さかのぼる)が、ドラムカーン領にカレンと共に飛んだ。


 『隊長いるか?』

 「なんだ?このちっこいのが、隊長に会いたがってるぞ?駄目だ駄目だ。隊長はお忙しいんだから、お前にあ「馬鹿もーん!!」」

 ドゴッ!


 アルティスの前に居た兵士が横に30m程吹っ飛び、ドワーフが現れた。


 『大丈夫なのか?』

 「はっ!多分大丈夫です。」

 『多分って。カレン、見てこい。』

 「はっ!」


 カレンが吹っ飛んだ兵士の所に行くと、何かを話し、ガシッと襟を掴んで、引き摺って連れてきた。


 「大丈夫な様です。アルティス様を逆恨みする様な事を口にしたので、引き摺って来ました。」


 慌てて走り寄ってきたドワーフに指示を出した。


 『各街の状況報告と、兵士の育成状態の報告をしろ。』

 「はっ!、街の状態は安定しております。北からの避難民の殆どは、戻って行きました。食料の供給についても、バレイショと甘芋のおかげで、安定しております。現在は、弓兵の育成と、農地開拓、害獣の討伐を主な任務として、行っております。」

 『害獣?どんな奴だ?』

 「シールドモウルという、地下に穴を掘って、根っこを食べる奴です。硬い外皮を持っていて、倒すのに時間がかかります。」

 『外皮持ってるか?』

 「これです。」

 カンカン

 『硬いな。』


 センザンコウの様なモグラで、硬い外皮は、スケイルメイルの様になっている所と、亀の甲羅の様になっている所の2種類がある様だ。

 鱗は3ミリ程の厚みがあるが、非情に軽く、剣で貫く事ができないそうだ。

 倒し方は、頭が柔らかいので、落とすか潰すか、腹側が柔らかいので、ひっくり返して、剣を刺すそうだ。


 『この辺にいるのか?』

 「居ますね。外の畑に大挙して押し寄せて来ています。」

 『もしかして、甘芋が狙われているとかか?』

 「そうです。どうやら、甘芋が大好物らしくて、収穫量が10分の1に落ちました。」

 『ゴートラディは食べないのか?』

 「避けるようですね。近づこうともしませんね。」

 『マンドラゴラは?』

 「そっちも苦手な様です。ただ、マンドラゴラは地下に空洞があると、根を目一杯伸ばして、あちらこちらから生えて来ますんで、対応が難しくなるんでさぁ。」


 マンドラゴラとは、人面人参の事で、抜く時に叫び、人を混乱させる薬草だ。

 葉は、胃腸薬としても、野菜としても重宝され、人参部分は、効果の低い万能薬と言った感じだ。

 収穫する時には、葉と人参部分を切り離せば、叫ばずに収穫できるのだ。

 割とどこにでも生えているのだが、基本的に生物は近寄ろうとしないのだ。

 特にモグラ等の地下に穴を掘る奴らは、穴の中を根が侵食してしまうので、近づこうとしない。

 マンドラゴラは、生育に光を必要としないので、地下の穴の中にも生えて来るからだ。


 もう一つのゴートラディは、ホースラディッシュみたいな野菜で、辛みが強いので、薬味として重宝する。

 葉も辛いが、茹でると甘みが出て、葉野菜としての人気が高い。


 『畑の外周にマンドラゴラを植えて、甘芋の周囲をゴートラディで囲めばいいんじゃないか?』

 「マンドラゴラをそんなに植えても、食べきれないですぜ?」

 『人参の方は、乾燥させて売ればいいだろ?薬なんだから。ゴートラディの植える範囲は、四角くするから量が多くなるんだよ。細長い畑にすれば、量の調節はできると思うが?』

 「葉の方は、人気があるからいいんですが、根っこの方が大量に余ります。」

 『ピクルスにした時に、ボリボリ食ってたじゃねぇか。お前らで作れよ。』


 ゴートラディの根を活用する為に、ピクルスにしてピタパンに挟んだら、あっという間に食われてしまった事があるのだ。

 感覚としては、紅ショウガ?いや、〇下の新ショウガ的な物で、刻んだ物を肉の上に隙間なく乗せて、ムシャムシャ食われたのだ。

 お酢に漬けこむと、ワサビ風味ではなく、ショウガの様な痺れる辛さに変化して、単体で食っても美味いが、肉料理に合わせると、アクセントになって更に美味くなるし、脂っこさが薄れるのだ。


 「・・・早速やりましょう!」

 『あと、シールドモウルの鱗は、兵士の防具に活用してみろ。』

 「あー、その鱗なんですが、1枚外してみて下さい。」


 言いたい事は判るが、ドワーフって、何気に頭が固いんだよな。

 鱗の裏側には、筋の様な物が張り巡らされていて、そのバランスが崩れると、強化ガラスの様に粉々になるのだろう。

 内側の筋を断ち切ってから、鱗を一枚外すと、大きく目を見開き、驚愕した顔になった。


 「な、な、な、何で砕けないのだ!?」

 『もっとよく見て、考えろよ。お前らには、観察して考える力が、無くなっているんだよ。多角的に考えろよ。色んな方向から観察して、調べろよ。』

 「てんめ」

 ゴスッバキッ


 後ろから、叩きのめす音が聞こえたが、無視する。


 畑の方から喧噪が聞こえてきた。


 「シールドモウルが出たぞ!兵士を呼んでくれ!」


 『カレン、行こう。駆除方法の研究だ。』

 「了解!」


 カレンの方に振り向くと、顔がボコボコに腫れあがった兵士がいた。

 カレンがアルティスを掴もうとする前に、兵士の拳が飛んで来たが、サッと避けて兵士の顔面に近寄り、引っ叩いた。


 スパーン!!

 『カレン、あいつ連れて行くぞ。』


 アルティスのビンタを食らって、領主邸の壁まで飛ばされた兵士を見て言った。


 「連れて行くんですか?耐久力はあるようですが、それだけですよ?」

 『アイツ、リザードマンの亜種じゃねぇか?ラミアの血が入ってるっぽいぞ?』

 「はあ!?ラミアって、あの下半身が蛇の奴ですよね?」

 『種族がラミアクォーターってなってるから、あいつの爺さんがラミアとの子供を作ったって事じゃね?』

 「あぁ、人間の居る地域では、あんまり見かけないんだが、ドワーフが多く住む辺りでは、ラミア族は一般的にいるんですよ?同じ人族ですよ。」

 『へぇー、この辺にもいないのか。会ってみたいが。』

 「居ますよ。この街に一人だけですが。」

 『マジで?こいつの曾祖母か?』

 「そうです。寿命は400年程ですね。」

 『後で会いに行こう。』


 畑に到着した。

 畑には、穴があちこちに開いており、落とし穴みたいで危ない状況だ。

 掘った土をどかす為の穴らしいのだが、山になっている訳では無く、穴から四方に飛ばしてばら撒くらしい。

 性格は臆病だが、土の中では無双状態なので、人間を揶揄う様な行動をする時もある様だ。

 とりあえず、トンネルがどこに通じているのか調べない事には、探しようが無いし、捕獲もできないので、探査してみよう。


 『[ウルトラサウンド・エクスプロレーション]』

 ブオン


 シールドモウルが一斉に、地表に飛び出してきた。


 『うおっ!?とと、[マルチバインド]』

 「すげぇ・・・」

 『こんな結果になるとは、予想して無かったな。ちょっと驚いちゃったよ。』


 この魔法は、今考えてやってみたのだが、音波だから横にも広がるので、この街の全域の畑で、シールドモウルが飛び出した様だ。

 拘束したシールドモウルを確認してみると、柔らかいのは関節の部分だけで、お腹には亀の様な甲羅があった。

 首の根元には、太い血管が見えるので、そこを切って血抜きをして殺した。


 血抜きを終えたシールドモウルを捌いてもらったが、血は猛烈に臭かったのだが、肉からは特に変な臭みも感じられず、美味そうな肉だと思った。


 『カレン、ちょっと焼いてみようよ。』

 「そうですね、とても不味そうな肉には見えませんね。」


 周りの農民は、顔が引き攣っている。


 焼いてみても、香ばしく美味しそうな匂いで、特に臭みは感じられない。

 焼き上がりを食べてみた。


 『うん、少し歯ごたえがあるが、不味くは無いな。ちゃんと血抜きすれば、美味いじゃないか。誰だよ、不味いって言ったのは。』

 「そうですよね。全然不味くないですよね。」

 『カレン、レバーちょうだい。』

 「レバーはちょっと臭いますね。」

 『そうだな。酒に漬けてみれば臭みが抜けるかもな。』

 「そこまでして、食べます?」

 『栄養あるんだぞ?、貧血気味だったり、血を流した時なんかは、特に鉄分が必要になるからな?』

 「でも、無理してシールドモウルのレバーを食べなくても、オークとかスケープゴートのレバーでもいいんじゃないですか?」

 『俺らが居なくなっても、新鮮なのが手に入るなら、それでもいいんだけどな。』

 「それは、厳しいな。この辺には、オークなんて居ないし、動物系の獲物は、ワイルドバイパーくらいだな。」

 『ワイルドバイパー?』

 「一時期、ヒュドラの子供とか言われていた、毒蛇ですね。猛毒を持ちますが、肉は美味しいそうです。」アルティスは、上空にいる変な形の鳥を見つけた。


 『へぇー、グリフォンとかいないの?』

 「え?グリフォン?居ませんよ。グリフォンなんているのは、テラスメル高原とか、大山脈地帯くらいですぜ。」

 『上にいるあれは違うのか?』

 「上?何でこんな所に!?」

 『聞いてくるか。ルベウスちょっと頼む』

 『いくよー?うりゃ!!』


 ルベウスの後ろ足に乗り、蹴り出してもらうと同時に、アルティスも蹴り上がり、風魔法も使って、ぐんぐんと近づいて行く。

 近くに寄ってみると、グリフォンとは少し違うようだ。


 『ヒポグリフか?』


 後ろ半分の胴体が獅子ではなくて、馬だ。

 鳥の部分も白ではなく、こげ茶色に白い斑模様がある、鷹の様な姿だ。


 『こんにちわ』

 『うおっ!?話せるのか!?こ、こんにちわ』

 『種族はヒポグリフ?』

 『あぁ、そうだが・・・どうやって浮いてるんだ?』


 挨拶と同時に、ウインドボードを出して、その上に乗った。


 『風魔法だよ。何しにここに?』

 『魔王軍が、協力しろって煩いから、振り切って逃げて来たんだよ。全く、うっとおしいったら、ありゃしない。』

 『そうなんだ。正解だね。魔王軍に入っていたら、俺の敵になっていたよ。』

 『あんた、すげぇ強いんだな。あんたになら協力してもいいぜ?魔王軍の方の使者は、弱い癖に高圧的で、ペチペチ魔法を撃ってきて、煩いんだよ。』

 『何の魔法を撃って来るの?』

 『あれは、精神魔法だな。契約魔法も混じっていたが、あんなゴミと契約なんて、真っ平ごめんだね。』

 『まぁ、魔族なんて、そんな物だよね。グリフォンとか知り合いいる?』

 『グリフォンはいるけど、魔族の使者が来ても殺すだけだな。あれは、完全に怒ってるよ。魔族の使者が、ドラゴンを仲間に入れたとか言ったから、怒っちゃったんだよ。』

 『グリフォンは、ドラゴンが嫌いって事?』

 『当然嫌いだよ。硬いだけのトカゲなんかよりも、下に見られるからな。』

 『そっか、強いんだね。』

 『見た事無いのか?』

 『無いよ。この辺には居ないでしょ?』

 『この辺はアラクネがいるから、グリフォンは来ないな。』

 『アラクネが苦手なの?』

 『苦手だよ。翼を封じられるから、勝負にならないよ。グリフォンは、アラクネを従える者になら、協力してもいいって言ってるくらいだよ。』

 『アラクネクイーンが二人居るよ?』

 『はっ!?アラクネクイーンが二人!?従えてるのか?』

 『親友かな。』

 『ちょっと待っててくれ。グリフォンに聞いてみる。』

 『空を飛べる魔獣って他に何が居るんだろう?』

 『グリフォン来るってさ。空を飛べるのは、ペガサスとかハルピュイアとか、ワイバーンとか、沢山居るよ。』

 ピュイイイイイィィィィ


 猛禽類の独特な鳴き声が聞こえたと思ったら、結構遠くの方に飛んでる姿があった。

 来るのが早いが、近くに居た訳では無い様で、飛んでくる様子を見ても、超短距離ワープを繰り返す様な飛び方だった。


 『来たよ。グリフォンだ』

 『ヒポグリフが言っていたのは、この方か?確かに凄いな。これなら、アラクネクイーンが二人従っていても、頷けるというものだ。』

 『こんにちわ、アルティスといいます。よろしくね。』

 『おお、これは申し訳ない。我は、グリフォンで名前は特に無い。です。』

 『敬語にしなくてもいいよ?いつもの話し方で問題無いよ。』

 『う、すまない。普段は我がトップなのでな、慣れておらんのだよ。』

 『大丈夫。誰も気にしないから。』

 『ところで・・・どうやって浮いてるのだ?』

 『風魔法で、足の下に板を作ってるんだよ。』

 『風魔法で板を作ってる??』

 『とりあえず、下で話さない?仲間もいるから、紹介したいんだ。』

 『あ、あぁ、そうするか。』

 『じゃぁ降りるね。』

 ストーン


 アルティスは、足の下に展開していた、ウインドボードを消して、落下していった。


 『はぁ!?待て!それは降りてるんじゃなくて、落ちてるというのだぞ!!』

 『大丈夫だよ。[エアクッション][エアクッション][エアクッション]』

 ボフッボフッボフッ


 シュタッと地面に降り立った。

 すぐ近くに、グリフォンとヒポグリフが降り立つと、農夫が逃げて行く。


 「お帰りなさいませ。このグリフォン達は一体・・・」

 『上で友達になって来たんだよ。カレン達を紹介したいしね。』

 『こちらの御仁がお主の従者か。・・・気のせいか、カーバンクルが見えるのだが・・・』

 『この人間が、カレン。俺の家臣だ。そして、カレンと契約してる、カーバンクルのルベウスだ。』

 『カーバンクルと契約だってぇ!?』

 「アルティス様の直臣のカレンです。」

 『カレンの従魔のルベウスだよ!よろしく!』

 『わ、我は、グリフォンだ。名前は特に無い。』

 『オレは、ヒポグリフさ。名無しだよ。』

 「俺は、ドワーフのモッソだ。」

 『このドワーフも、バケモノじみた強さだな・・・アルティスさん、あんたの知り合いは、みんなこんななのかい?』

 『そうだな、モッソは中堅くらいだな。』

 『こ、これで中堅!?・・・ま、まぁ、そうなるか。カレン殿が圧倒的に強いからな。カレン殿は中堅では無いよな?』

 『カレンは3番目かな。』

 『さん、3番目!?一人はアルティス殿だが、もう一人アルティス殿とカレン殿の間に居るというのか!?』

 『間じゃないよ。俺の上だよ。』

 『・・・我は、世界で4番目だったのか・・・』

 『もっと下かも?』

 『え!?』


 エルフが走り寄って来て、挨拶してきた。


 「アルティス様、ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。」

 『気にすんな。セリナ、調子はどうだ?』

 「この街では、特に変な者に絡まれる事も無く、訓練に励むことができております。」

 『そうか、それは良かった。』

 『こ、こんな強いエルフは、見た事無いぞ!?』

 「グリフォン?」

 『このエルフも俺の家臣だよ。セリナ、自己紹介を』

 「ご紹介に預かりました、アルティス様の家臣の、セリナ・ディアマーナと申します。以後、お見知りおきを。」

 『セリナもMAG値が2000越えたんだな。偉いぞ。グリフォンと契約できるんじゃないか?』

 「そんな、勿体なきお言葉、ありがとうございます。グリフォン殿よりも、少しMAGが足りていない様子ですが・・・」

 『数値で言えば、セリナの方が少し強いな。』

 『うむ、契約相手としては、申し分無い。』

 「よろしいので?」

 『高い所から指揮を執るの楽だぞ?広範囲に見渡せるからな。』

 『ちなみにだが、セリナ殿は上位に入るのか?』

 『セリナは16位くらいかな?』

 「もっともっと精進致します。」

 『豹人達が頑張ったら、もっと下になるな。でも、弓を変えたら一気に上がるかも知れないな。』

 「何かあるのですか?」

 『アラクネ絹と白樺トレントとミスリル合金で作った弓だ。[スナイプ]と[ソニックスピード]を付与しているから、音よりも早く矢が届くぞ。』

 「使ってみても?」

 『いいぞ。丁度あっちに、シールドモウルが顔を出しているから、首の付け根を掠る様に撃て。』

 「はい。」

 ヒュピッ

 ドンッ

 『あー・・・威力あり過ぎだな。爆散しちゃったな。』

 「・・・普通の矢なら、今くらいに届きますが、どれだけ早いのですか?」

 『んー、1秒で324m進むから、音と同じ速度だな。ちなみに、普通の矢だと途中で鏃以外砕ける。だから、金属の矢を使ったんだよ。』

 「その金属の矢は残るのですか?」

 『当たった瞬間に潰れるな。』

 「刺さらないという事ですか?」

 『いや、刺さるんだよ。でも、先端が止まると、後ろの部分が前に進もうとするから、どんどん圧し潰していくんだよ。最後は一つの塊になるか、平べったい板になる。』


 弓矢でホローポイント弾を再現したような感じだ。


 「ちょっと見に行ってきます!」


 『そうそう、モッソ、ここの兵はまだかかりそうか?』

 「あと数日で完璧になりますよ。」

 『それまで、全員必要か?』

 「いえ、殆ど要りませんね。5人程残して頂ければ、十分です。王都で必要になったのですか?」

 『スラム街を改造してるんだよ。でも、建築技師が足りないから、ドワーフの手を借りたい。』

 「連れて行ってやってください。それと、最初に捕まえたゴロツキが、半分逃げましてな、どうにか戻せませんか?」

 『(あるじ)は領主が成ってる筈だから、領主が戻れと言えば戻る筈だぞ?』

 「やってもらっているのですが、戻って来ないのです。」

 『それは、戻れない所にいるか、死んでいるかだな。ジャムの所に行ってみよう。』

 「矢を探してきました。こうなってました。」


 取り出したのは、直径5cmの金属の板だ。


 『シールドモウルは?』

 「粉々でした。」

 『そうか、狩りには使えないな。ここぞと云う時に使えばいいだろう。矢について、何か案があれば言ってくれ。作るぞ。』

 「はい。ありがとうございます。」

 『ちょっとジャムの所に行ってくるから、その間に契約しておけ。』

 「畏まりました。」

 『忘れ去られてるのかと思ったぞ。』

 「アルティス様は、お忙しい方ですから、仕方のない事ですよ。私もお話したのは数週間ぶりですし。」

 『何をしていて、そんなに忙しいのだ?』

 「この国の宰相様ですし、魔族やら、魔王やらの相手で、お忙しい様ですよ。」

 『魔王め。こんな所にも迷惑をかけておるのか。』

 「前魔王を自滅に追い込み、現魔王の右腕を斬り飛ばしたので、相当に恨まれている様ですよ?」

 『どうやって攻撃したのだ?』

 「魔道具の魔力を辿って、魔王を攻撃したそうです。」

 『恐ろしく高度な事をやったのだな。』

 「その後で、罠を張って、魔王に重傷を負わせたそうです。」

 『あぁ、ディメンションホールを使ったのか。我も仕舞ってあったものを奪われた事があるが、そこに罠を張ったのか。どんな罠を張ったのか気になるが・・・』

 「エクスプロージョンを反射した様ですよ。」

 『・・・アレ、反射できるのか。』

 「さて、どうされますか?」

 『アルティス殿が見込んだ相手なら、申し分ないであろう。我の仲間も呼べるのなら呼んでやりたいのだが、まずは、そなたと契約してからだ。』

 【従魔契約を行いますか? YES/NO】

 「『YES』」


 領主邸にやって来た。

 ジャムの執務室に行くと、目の下にクマを付けたジャムが、やつれて頬がコケた顔を上げた。


 「あぁ・・・、アルティス様・・・、いらっしゃい・・・」

 『死にそうじゃねぇか。どうしたんだ?』


 机の上の書類を見ると、一度に色々と手を付けている様で、同時進行で全てをこなそうとして、パンクしている様だ。

 中には、今やらなくてもいい内容が複数含まれており、その原因がドワーフにある様だった。


 『おい、ドワーフ、この酒蔵の開発ってのは、今やらなければいけない事なのか?』

 「当然ですよ。我々ドワーフに酒は欠かせませんからな。」

 『買えばいいじゃねぇか。』

 「甘芋で作った酒を飲んでみたいので、領主にお願いしたのですよ。」

 『お前らが作ればいいじゃねぇか。』

 「我々は飲む側。作るのは領主の役目です。それがドワーフの国の掟です。」

 『ここは、ドワーフの国じゃなくて、人間の国だが?』


 モッソは、アルティスの声が、どんどん低くなってきている事に気が付いた。

 冷や汗が噴き出してきて、口の中がカラカラに乾いてきた。


 『何故お前らが、領主に負担をかけているんだ?お前らは、この領に、救援に来たんじゃないのか?手伝ってやれって言ったよな?これが手伝ってるって事なのか?ドワーフの国では、貧しい街に酒造を強いる事が救援になるのか?人々が飢えているのに、その食糧を酒造りに使えと言うのか?おい、何か言えよ。言い訳があるんだろ?』

 「い、いや、甘芋がここんとこ余り気味だったから、捨てるくらいなら酒を造った方が、有意義に使えると思ってですね・・・」

 『それなら、開発は自分達がやれば、いいんじゃねぇのか?』

 「それだと、大量に芋を買わなくちゃならねぇから、領主に任せようって・・・あわわ」

 『てめぇは、給金貰ってるんだよな?その金で買えばいいだろうが。何処で使うつもりなんだよ。何で嗜好品を領主が作らなきゃなんねぇんだよ。酒蔵なんぞ、てめぇらドワーフが作れ。芋も含めて、材料は全て自費で集めろ。できねぇなら諦めろ。それと、他にもてめぇらが領主に丸投げしてる事があんだろ?全部てめぇらがやれ。てめぇらの仕事は、兵士の訓練だけじゃねぇんだよ。この領の復興だ。仕事を押し付けるんじゃねぇよ。奴隷もてめぇらが探してこい。』


 アルティスが威圧しながら、モッソに命令し、モッソは血の気の引いた顔を、何度も縦に振った。

 厨房から狼人族がやってきて、ドワーフを非難し始めた。


 「だから言ったじゃねぇか。そんな事してるのバレたら、怒られるってさ。優先順位が低いんだから、後回しにしておけって、忠告しただろ?」

 『ああ?てめぇは、知ってて止めなかったのか?口で言うだけか?報告はどうした?相談は?てめぇも同罪だ。狼人族とドワーフの食事の量を半分に減らせ。間食も無しだ。給金も減額、半分だ。反省しろ。』


 ジャムの机にあった、書類の内容を確認し、後回しにできる事は全て保留。

 やる必要の無い事は、却下。

 部下の文官を呼び、領主の書類の箱に書類を入れられるのは、文官だけとして、部分裁量権を文官に与えた。

 その上で、職権乱用が認められた場合は、処罰するとも伝えたので、暫らくは様子見とした。


 『復興支援に従事する兵に告ぐ、復興に関係の無い酒蔵などを領主に依頼してる奴は、即刻中止しろ。てめぇらは、救援の為に従事している事を忘れるな。どうしても必要なら自分でやれ。領主の資金で行う事を禁ずる。』

 『ケットシーで余剰人員は、3人でチームを6組作れ。護衛二人入れて5人で各領を視察させる。王城会議室内で待機せよ。』


 アルティスは怒っていた。

 信頼して任せた筈が、裏切られた気分だった。


 『ルース、今どこにいる?』

 『何で怒ってるんですか?今は、南のイットーカンで外壁の修復を行ってます。何かありましたか?』

 『ジャムが死にそうなんだよ。』

 『ジャム?・・・あぁ、領主様ですか。何故死にそうなんですか?モッソたちとエルフが居た筈ですが?』

 『ドワーフは、内政に向いてないから、お前が領軍を仕切れ。お前の裁量で領軍の隊長も決めていい。ドワーフは5人残して、リザードマンは近隣の領で復興支援だ。エルフ全員とドワーフ45人は王都に引き上げる。』

 『了解しました。残るドワーフは何をするんですか?』

 『領都の領兵の訓練と、復興支援だ。』

 『モッソ達ですよね?大して訓練していなかった様に思えますが、残すんですか?』

 『罰だよ。給金と飯が半分だ。』

 『あぁ。では、叩き込めばいいですか?』

 『そうしてくれ。』

 『了解です。任せて下さい。』

 『セリナ、ドワーフ45人とエルフ全員を集めてくれ。王都に戻る。』

 『了解しました。』


 集まったドワーフの中に、シレっとモッソが紛れ込んでいたので、赤い顔をした4人と共に弾いておいた。


 『昼間から飲んだくれている馬鹿と、モッソは居残りだ。他は王都に帰る。リザードマンは近隣の領に復興に行け。』

 「応援先は何処でもいいんですか?」

 『任せるが、酷い所に行け。お前らの活躍が、今は、山奥に隠れ住んでいる同胞の、立場を向上させる一助となる。心して働け。』

 「了解しました!」

 『モッソ、お前は隊長解任だ。今後はルースの指示に従え。』

 「ルース!?そんな殺生な・・・」

 『では帰るぞ。グリフォンとヒポグリフは、こっちに来い。王都は結界が張られているから、空からは入れんぞ。』

 『[テレポート]』

 シュン


 居残りと言われた5人は、ほくそ笑んでいた。

 今後は自由になると。


 「何にやけてるんだ?アルティス様に言われただろ?さっさと働け。」

 「なぁ!?ルース!?」

 「何驚いてるんだよ。教会のポートがあるんだから、すぐに帰って来れるんだよ。兵士は何処だ?」

 「・・・」

 「お前ら、本当に判って無いな。アルティス様を怒らせたら、干からびるまで走らされるぞ?第二騎士団なんて、王都から神聖王国まで走らされたのに。」

 「ふん、居なくなればこっちのもんよ。好き勝手にやらせてもらうぜ。」

 『ほお?さっそく命令違反か。大胆だな。首輪決定だな。』


 アルティスは、とんぼ返りでモッソ達の背後に戻って来ていた。


 「アルティス様!?こ、これは違うんです!!」

 『言い訳無用。既に決定したんだ。お前ら用に首輪を設定してやったぞ。違反すると毛虱(けじらみ)痒み(かゆみ)が、全身に起こる。』

 「や、やめてくれ!それだけは!頼む!それだけは止めてくれ!」


 首輪を受け取ったルースが、パパッとドワーフ達の首に、隷属の首輪を装着した。


 『もう付けたぞ。』

 「じゃぁ、早速働け。」

 「いやだ・・・痒い!何だこれは!掻いても擦っても止まらない!」


 ドワーフが領主邸の庭を転がり回る風景が、暫らく続いていた。


 『その間に、ラミアの婆さんの話を聞きに行くか。ルースはあった事あるのか?』

 「はい。あの人婆さんって感じでは無いですよ?見た目は全然若いですし、話し方も老人のそれではないので。」

 『そのひ孫の名前は?』

 「バンブルです。ラミアの方はシトラさんですね。」


 家にたどり着くと、呼んでないのに扉が開いた。


 「おや、ルースさんだったかね。そんな魔力多かったかな?」

 『魔力で相手を見るのか。ルースに抱えられている状態で失礼しますが、宰相のアルティスと申します。』

 「おやおや、こちらに別の魔力の方がいるのかい。ラミアのシトラだよ。こんな濃密な魔力を持っているのは、初めてだね。」

 『目が見えないのか?』

 「先日の魔王軍の侵攻の時に、目を斬られてしまってねぇ。ゴルゴンなんぞと間違えられたのさ。」


 ゴルゴンとは、ラミアとよく間違われる魔獣で、魔眼を見ると石化してしまい、目が合うと確実に死ぬと言われているが、神話みたいな罹患(りかん)方法なので、多分別の原因で石化するんだと思う。

 ラミアとの違いは、髪が蛇か下半身が蛇かで、見た目は似ていないし、ラミアは人族で、ゴルゴンは魔獣だ。

 全然違うと思うのだが、本もネットも普及していないので、口伝だけでは一部が蛇の女としか伝わらず、間違えられることが多いそうだ。


 『治せるが、どうする?』

 「治せるのなら、治して欲しいところだが、支払える物が無いねぇ。」

 『金は取らないよ。情報だけ欲しい。』

 「情報?どんな事だい?」

 『ラミアが多く住んでいる地域。』

 「そんな物を知って、どうするんだい?」

 『んー、単純に興味本位なんだけど、共存できるのなら、王都に迎え入れてもいいな。』

 「・・・フフ、フフフ、アハハハハハハハ、ラミア族を人族の街に迎え入れようなんて事を言う奴は、初めてだよ!気に入ったよ!アンタに私の目を治してもらうよ!対価は故郷の話さね!」


 この時、シトラは片目だけの話として考えていたのだが・・・


 『[治療術]』

 「え!?ちょ!ちょ!待ちなよ!?片目だけじゃないのかい!?」

 『そんな細かい事で、ケチ臭い事はしないよ。左目は古い傷の様だけど、目玉が残ってるから、一緒に治すよ。』


 治療に使ったMPは4万程だったが、最近はMPを大量に使う事が多くなってきている為に、以前の様にフラフラになる事が無くなった。

 これでも、錬金術の一部を配下に任せているのだが、まだまだアルティスの領分は減っていないらしい。


 『最後は、これを飲んでくれ。細かい怪我はこれで治せるだろう。』

 「これは、ハイポーションじゃないかい!?」

 『普通のポーションだぞ?』

 「アンタが何を見て習ったのか知らないが、ヒールリーフを50本使うポーションは、ハイポーションになるんだよ!普通のポーションは、25本だけ使うんだよ!!」


 アルティスがモコスタビアで読んだ本には、50本のヒールリーフを使うやり方しか載っておらず、エルフ族の作り方を聞いた時も、50本を煮詰めるとか言っていたので、そういう物だと思っていたのだが、ここに来て新情報をもらったな。


 『そうなのか。俺が読んだ本には、50本って書いてあったし、エルフに聞いても50本だったから、これが普通のだと思ってたよ。』

 「エルフの里には、ヒールリーフが腐る程生えているからねぇ。アイツらは、下位ポーションは、ただの水とか言っている程だよ。全くとんでもないねぇ。もう目を開けてもいいのかい?」

 『あぁ、もういいぞ。』


 シトラがゆっくりと目を開いた。


 「ああ、視えるね。久しぶりの太陽を拝めるよ。ありがとう。・・・アルティス殿は、そんなに小さな獣だったのかい。驚きだねぇ。しかも、このポーションの入れ物は一体何でできているんだい?質の悪い水晶の様にも見えるんだけど?」

 『水晶と組成は同じだな。石英ガラスって言うんだよ。』

 「ほお、これはいい物を使っているんだねぇ。変質もしないし、染み込む事も無い。この蓋が残っていれば、再利用もできそうだねぇ。」

 『再利用しているよ。新しいのも作ってはいるが、再利用がメインだよ。』


 実際、今もポーションは作り続けているのだが、基本的には大きな(かめ)に入れて、マジックバッグに入れて保管している。

 既に瓶詰した分が1万本を超えているので、これ以上瓶詰しても、意味が無いと思っている。

 必要になったら、その時瓶詰すれば、補充できるからだ。


 「そうか。では、治療の対価の故郷の情報だね?ラミアの村は、ドラグニア山脈の中にあるんだよ。この大陸の北西にある山脈の事だよ。周辺には、ドラゴンの巣やワイバーンが多くて、エルダードワーフは地下に街を作って住んでいるんだよ。」

 『あの辺は、ドラグニア山脈というのか。山しかないって聞いていたから、あんまり興味無かったんだけど、ラミア族が居るのなら、一度行ってみるのもいいな。』

 「この国から行くには、神聖王国を経由しなけりゃ行けないよ?」

 『神聖王国は滅亡したから、今はバネナ王国になっているんだよ。』

 「なんと!?侵略したのかい!?」

 『馬鹿言うなよ。奴らが侵略してきたから、やり返したんだよ。そしたら、中枢が悪魔に支配されていたから、滅ぼしただけだよ。』

 「神聖王国が悪魔に支配されていた!?どうやって?あの国の教皇は、神の申し子と言われる程の傑物(けつぶつ)だった筈だよ!?」

 『その教皇が悪魔だったんだが?』

 「!!・・・やはり、聖女様の仰っておられた事は、真実だったという事か・・・。」

 『創造神は表裏一体とかか?創造神は中性だから、表裏も何も無いぞ?中立中性、全ての事に平等で、善も悪も無い。だからこの世界を作れた。そういう存在だよ。』

 「では、他の神はどうなのだ?」

 『それぞれだろ。よくは知らん。俺は神なんぞ信用していないから、居るのは知っていても、崇拝も信仰もしない。』

 「教皇に会ったのは、120年程前だから、次の代のだとは思うが、そんな事になっていたとは、驚きだ。」

 『それは、次の代じゃ無いな。俺が倒したのはリッチになりかけた、齢140のアンデッドだったよ。側近の悪魔と一緒に、子供達をムシャムシャ食ってたんだよ。生に囚われて悪魔の甘言に乗り、魑魅魍魎(ちみもうりょう)に成り果てた者の末路だな。』

 カラン


 シトラの手から、ポーションの瓶が滑り落ちて、目からポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。


 その昔、シトラは神聖王国から来たという青年に出会った。

 青年は、神聖魔法を巧みに操り、ドラグニア山脈に蔓延っていたアンデッドを、悉く打ち破って行った。

 ラミアの村の村長をしていたシトラは、その青年と仲良くなり、青年を息子の様に感じていたそうだ。

 青年は1年程村に滞在し、神聖王国へ戻って行き、半年も経たない内に枢機卿の地位になったという。

 数年後、神聖王国からシトラの下へ手紙が届いた。

 そこには、教皇就任を祝う式典へ招待すると書かれており、神聖王国へと向かったのだが、途中で魔獣と間違われて捕らえられてしまい、招待状も取り上げられてしまった。

 だが、新教皇の一声で聖騎士団が馬車で迎えに行き、晴れて式典への参列が認められた。

 式典の後、教皇となったかつての青年に、プロポーズされたのだが、その時は既にエルダードワーフと結婚しており、子供も居た。

 だから、その思いには応えられなかったという。

 そして、月日が流れ、エルダードワーフがバネナ王国に店を持つ事になった為、共にバネナ王国へ移住してきたのだそうだ。

 風の噂では、異種族を異端と見做し、神聖教から追放していると聞いた時は、酷く落胆していたのだが、責任の一端が自分にあると思っていたらしい。

 その後も、教皇崩御の報せが全くない事に可笑しいと思いつつも、バネナ王国とは国交が無いから、仕方が無いのだと思っていたそうだ。

 だから、アルティスの話を聞いた時に、酷く悲しい思いになってしまったそうだ。


 『どの時点で、教皇がそんな風に変わってしまったのかは解らないが、シトラとの事が原因では無いだろう。時間が経ちすぎているし、全く別の理由から、他種族排斥(はいそ)の話になったのだとは思うし、真相は追々資料を調べれば判ると思う。何か判ったら、教えに来るよ。』


 ただ、その資料は、大量の骨の下に埋もれているのだが。


 『そういえば、王都にドワーフの工房が幾つかあるんだが、シトラの関係か?』

 「あぁ、二人は、私の子供だよ。モコスタビアにも工房があってね、エリックとジェリーも私の子供だよ。」

 

 モコスタビアの彫金師と鍛冶師のドワーフと、王都の防具屋と武器屋のドワーフが兄弟だったとは。


 『4人とも面識あるな。今度会ったら伝えておくよ。元気だったって。』

 「うん、お願いするよ。」


 さぁ、王都に戻ったら、獣人達の装備の更新だ。

 

 『獣人は、四つ足の方が走り易かったりしない?』


 馬人族が答えてくれた。


 「種族毎に違いますね。馬人族は、四つ足の方が走り易いですが、兎人族では、違う様ですし、コボルトも四つ足の方が得意だっけ?」

 「コボルトも本当は四つ足の方が早い。」


 種族毎に特徴があるから、装備も合わせた方が良さそうだな。


 『四つ足の方が走り易いという側と、そうでない側に分かれてみて。』


 うん、何となく解ってたけど、獣人はやっぱり、四つ足の方が走り易い様だ。

 違うのは、豹人族と鳥人族だな。

 鳥人族は判るけど、豹人族?


 『豹人族はどっちなんだ?』

 「どっちも得意なので、変わらないです。強いて言えば、平地を走るなら二足、森林なら四足ですかね。」

 『身のこなしが違うのは、そのせいか。じゃぁ、種族毎に装備を少し変えるか。四つ足用の防具とか判らない事が多いから、聞かせてくれ。それと、剣を腰から下げてると、走りにくいだろうから、背中に背負う形にするか。』

 「背中に背負うと、抜きにくいんですよ。」

 『ちょっと待ってろ。鞘の形が駄目って事だから、開く様にして前に引き抜くか振り上げるかだな。・・・』


 ショートソードなら、斜めに引き抜けるが、ロングソードやブロードソードになると、上に引き抜く形では、抜きにくいという事だ。

 刀の様に湾曲しているならともかく、直剣では厳しい訳だな。

 腰に差している場合は、腕を腰から上に上げるので、ブロードソードでも抜けるのだが、背中にあると、腕の振り幅が肩から上だけに限定される為、長くても80cm程しかないという事になる。

 つまり、剣先が鞘に残った状態になるのだ。

 それを打開する方法としては、横に抜くのが一般的ではあるものの、狭い場所では抜けないという事になる。

 幅が狭い通路で抜こうとした時に、右利きの人は、一旦左に寄らないと剣を抜けないのだ。

 つまり、そのタイミングを狙われれば、確実に当てられてしまうという事。

 バスタードソードの様に、そもそも剣の長さが、使用者の身長を超える様な剣であれば、鞘が無かったり、割れる様になっているのだ。

 なので、その割れる鞘を作ってみたが、今度は別の問題が出て来た。


 それは、肩が切れるのだ・・・いや、違うな、肩を擦るので、剣の刃が削れるのだ。

 肩にパッドを着けて防具に当たらない様にしても、今度は首を斬りそうになるので、怖い。


 次に、剣帯に垂直に固定するやり方ではどうかというと、背中よりは抜きやすいが、剣が長く腕が短いと抜きにくい様だ。

 そこで、鞘を45度傾く様にしてやると、剣を抜きやすくなったが、四つ足で走るとガチャガチャ煩い。

 なので、ロック機構を付けて、鯉口にロックを外す機構を付けて、鞘を手で押さえる時に親指で押せば、前に45度傾ける事ができる様にした。

 手を離せば、自然と鞘は垂直になり、ロックがかかる。


 だが、戦ってみると、鞘に足が当たって気になるという意見が出たので、立ってる時は外側に振れる様にして、四つ足の時に固定できる様に、磁石を付けた。

 と、そうなると、ロック機構が不要になった。

 だが、全速力で走ると、剣が鞘から抜け落ちる事例が発生した。

 まぁ、日本刀の様に、(はばき)鯉口(こいくち)に密着している訳では無いので、スポスポ抜けるのだ。


 なので、ここでまた、ロック機構の出番である。

 今度は鞘の鯉口にロックする仕組み、と言っても、簡単にバネで鉤を引っかけるだけだが、付けてみた。

 剣を抜く時に、鞘を掴むので、掴んだ時にロックが外れ、鞘に納めるとロックがかかる様にした。

 ついでに、鞘に装飾も付けて、外側の装飾にロック機構を付けて、鞘本体に装着させた。


 後日、混成部隊の隊員が街に出ると、商人に絡まれるという事件が発生しまくるが、基本的に本人か、本人以外の場合は、MAG値が1000以上無いと触れない様にしたので、問題は起きないだろう。

 本人に限定してもいいのだが、その場合は何らかの方法で奪われた際に、アルティスかアーリアが居なければ、取り戻せなくなるので、バネナ王国軍以外では殆ど存在しないMAG値1000以上に限定した。


 因みに、鞘をディメンションホールで作るのは、不可能ではないが、できない。

 理由は、ディメンションホールの中と外で、時間の経過が違うから、完全に仕舞う形にしないと、接合部分が脆くなるのだ。

 グリップは劣化するのに、剣身は劣化しない状態になると、時間の齟齬(そご)が発生して、次元的に接合部分が剥がれてしまうのだ。

 なので、作るとすれば、時間の止まらない空間拡張となるのだが、それを作るのは魔道具作り隊に任せたよ。

 一人でやるには、数が多すぎるし、いつまでもコピーばっかりじゃ、成長しないからね。


 翌日、昨日実験の為に四足で走ってもらった兵士に、不調者が出た。

 まぁ、当然と言えば当然だ。

 なんせ、二足用の鎧を着て、四足で走ったのだから。


 なので、今日は、四足歩行用の鎧を作る。

 鎧と(あざ)の場所を確認して、痣になる部分の改造を施すのだ。

 通常、馬などの常時四足の場合は、上に被せるだけの防具なのだが、獣人の場合は立って剣を振るので、腹側にも防御機能を持たせなければならず、肌着として着ている、アラクネ絹の服は外せないから、というか誰も脱ぎたがらないので、そのままにするとして、腋の下と股関節の部分を固定では無くて、スカートの様な形に変えてみた。

 すると、走り易いが揺れてカチャカチャ煩いとの事だった。

 なので、スケイルを外して、ワイバーンの革にしてみると、煩く無いし走り易い、防御力もあるし、いいのではないかとなったが、蒸れて暑いのだそうだ。


 湿気が抜ける穴を開けにくいのと、二足と四足では、穴を開ける位置が違うので、ブツブツ感が酷くなるのだ。

 なので、そういう所には、アラクネ絹を厚めに張った。

 だが、濡れると水を吸い込んでしまうので、気持ち悪い様だ。

 なので、肩パット式にして、上腕の内側と腋の下だけをアラクネ絹とワイバーンの革を編み込んだ形にしてみた。

 だが、やはり水に濡れるとダメらしい。


 こういう時は、専門家に聞くのが一番って事で、ソフティーに聞きに行った。


 『水を弾いて、早く乾く編み方でやるといいよ?』


 そういう編み方があるらしい。

 繊維メーカーが欲しがる人材だな。

 ソフティーは回復中なので、キュプラの子供を貸してもらった。

 産まれて間もないのに、既に編むスピードが異常に早い。

 だが、キュプラに言わせると、荒いのだそうだ。

 試しにキュプラに頼んで、編んでもらうと、よく解った。

 厚みが違うのと、表面が全然違うのだ。

 子供達が編むと、表面がデコボコに感じるが、キュプラが編むと滑らかになるのだ。

 でも、練習にはなるので、子供達にやってもらう事になった。


 失敗作を燃やそうとすると、メイド達に奪われた。

 何故か怒られるアルティス、勿体ないと抱え込むメイド達。

 何に使うのか聞くと、解してクッションを作るそうだ。

 市場に出さないという約束をして、渡したよ。

 30cm四方のクッションでも、アラクネ絹となれば、白金貨数百枚の価値になるからね、売られるのは困るのよ。

 アラクネを攫おうとする馬鹿も出て来るし。


 防具も粗方終わったと思ったら、今度はグローブの方に問題が出てきた様だ。

 硬い地面を走ると、手が痛くなって剣を握れなくなると。

 だが、これは割と簡単だった。

 専用のグローブを腰に付けたのだ。

 四つ足で走る時に、腰のグローブを嵌めて、腰から外し、二足になる時に腰に付けて外す、それだけ。

 材質は、サンドワームの革だ。

 衝撃の吸収率は、驚異的レベルだから、全体重が掛かっても何ともないし、耐久力も高いので、薄くなった時に気付くかどうかは、本人次第という事にした。

 消耗品ではあるが、車のブレーキパッドの様に、早々交換する様な減り方はしないので、本人に任せるしか無いのだ。


 ブーツもまた、更新の対象だ。

 獣人達の足は、人間の足と比べると、全然違う形をしていた。

 正直、獣人の足については、気にもしていなかったのだが、よくよく見せてもらうと、人間の足ではなくて、動物の足なのだ。

 動物の足を、人間の足の形にした様な感じで、甲が低く湾曲した爪が生えてて、(かかと)が無く、肉球がある。

 今までどうやって靴を履いていたのかと聞くと、中に詰め物をしていたそうだ。

 パッと見では、纏足(てんそく)の様にも見えるが、猫や犬の足をそのまま縦に伸ばした感じだ。

 彼等は、常につま先立ちで、膝の下にもう一つの後ろ向きの膝関節がある様なもの。

 その後ろ向きの膝というのが、人間でいう足首にあたる部分になる。

 鳥人の場合は、親指が後ろに付いていて、翼人の足は、普通の人間と同じ足で、羽と腕が一体になっている訳では無く、羽とは別に腕がある。

 因みに、羽と腕が一体化している奴は、総じてハーピーに属する魔獣なのだそうだ。


 こうやってみると、元の世界で、肌の色がどうとか言って差別しているのが、ホントに些細な事にしか思えないね。

 こちらの世界の差別と言えば、魔族になるのだけど、人間が魔族を嫌う理由は、正直よく解らない。

 人間との違いは、頭に生えている角と肌の色くらいで、体の形や機能は殆ど一緒なのだ。

 目の色も、口の中も色は同じで、魔法が得意というのは、種族特性ではなくて、環境特性だ。

 魔大陸では、マナが濃いので、生活の中に魔法が関わっている事が多いから、MAGが上がり易いだけだ。

 角の活用も、後から覚えるそうなので、先天的に使える訳では無いとのこと。

 魔族の肌は、青いらしいのだが、血が赤いので紫っぽく見えるのだ。

 そういえば、死んだ魔族の体は青かった気がする。

 青い肌の原因は判らないが、チアノーゼとは違うのだろう。

 普通の人間も、血中酸素量が減ると、青くなるので、魔族の青を人間が見ると、本能的に死を連想させるのかも知れない。


 魔族が、人間を嫌っている理由は、基本的にMAGが低い人間を見下しているだけだ。

 魔族も人間もMAGの初期値は、生まれた時は同じレベルで、生活環境の差で魔法を多用する魔族の成長率が高いだけだ。

 だが、地道に魔法を練習している、コルスとカレンのMAGは、すでに800台に達していて、普通の魔族よりも多いのだ。


 話しが大幅にズレたが、装備の更新は済んだ。

 訓練方法についても、体力と技量はかなり上がっているので、当分は二足と四足の切り替えを身に着ける練習をしてもらう。

 豹人達はすんなり慣れた様なので、火力アップの為の武器を作って、渡してみた。


 作ったのは、トンファーとヌンチャクだ。

 殆ど冗談のつもりだったのだが、結構好評で、必死に練習をしている。

 慣れるまでは危ないので、柔らかいサンドワームの革で包んであるよ。

 ヌンチャク振って、自分の後頭部に当てる奴と、トンファーで顔面を強打する奴が、続出だったからね。

 調子に乗った奴は、大抵が脛を強打するし、距離感が掴めていないから、仲間にビシバシ当てるんだわ。

 だが、ストイックな彼等なら、慣れるのは時間の問題で、すぐに使いこなせるようになるだろう。


 ヌンチャクもトンファーも本気で振ると、パンパン音が鳴るから、先端は音速を超えてるんだろうな。


 獣人達の装備の更新も粗方終わったので、指揮役の移動能力の向上を目指して、乗り物を作ろうと思う。


 普段から色々と検証をしているのだが、グラビティーの検証で、向きを反転させたらどうなるかと思い、検証してみたが、発動しなかった。

 そこで、重力の対義語である、斥力(せきりょく)を魔法で使用したら物が浮いたので、反重力の乗り物を作れるかも?と思い、バイクの形にして作ってみたのだ。


 この斥力という力は、魔法とは矛盾する力になるので、どうなるのか興味があったのだが、普通に使えるらしい。

 何が矛盾かというと、魔法には反動が無いのだ。

 何かを撃ち出す時には、基本的に反動が発生するのだが、魔法にはそれが無く、炎魔法を使ってロケットエンジンを作っても、推進力を得られないのだ。

 だから、反発する力を発生させた時に、反動がどう作用するのか、興味があったのだ。

 

 斥力、リパルション・フォースを魔法陣にしてみると、納得できた。

 他の魔法の撃ち出す系には、この斥力が組み込まれていたのだ。


 要は、何かを撃ち出す時の動作が、この斥力だったという訳だ。

 物質を発現させる魔法と、斥力を使って撃ち出す魔法、これを同時に使う事で、反動も無く撃ち出していた。

 つまり、斥力を前に向けて撃ち出す場合、斥力の魔法を2回使うのだ。

 そして、1回だけ使えば撃ったつもりが、自分が後ろに下がるのだ。

 なので、それを利用したバイクを作った。

 ちょっと調子に乗って、普通のバイクの様に、路面を走行できるようにもしたので、空を飛ぶ場合は、タイヤが半分に割れて、ドローンのプロペラの様に、下を向き、淡い水色の光を発する様にしてみた。

 光は単なる装飾で、実際は何の効果も無い為、任意でホーリーライトに切り替えられる様にした。

 常時発動では、MPの消費量が増えるので、不要な場合には使わない様にした。

 装備としては、MP残量メーターとスピードメーターを付けていて、スピードの計測方法は、対気速度を使っていて、他にキャノピーと横に飛び出すブレードを付けた。

 中身は、機械では無いので、魔力鉱石を積んでいる以外は、軽量化の為に空っぽだ。

 最高速度はマッハを超えるのだが、地上付近では障害物を避けられないので、上空でしかスピードを出させない様にした。

 カレンに試乗してもらったが、中世に近未来的な乗り物があると、場違い感が半端なかったよ。

 因みに、リズは平気だったが、バリアは空中に居るのが怖いらしく、乗りこなせなかったので、バリアには馬型のゴーレムを渡しておいた。


 「あれ?アルティス、私には無いのか?」

 『欲しいの?』

 「欲しいな。」

 『じゃぁ、ラスボス感を出して・・・』

 「ラスボスって?」

 『最強って事だよ。』

 「凄く嫌な予感がするんだが?」

 『そ、そんな事無いよ!?』


 3輪タイプに、チョッパーハンドルと竹槍マフラー付けようかと思ったが、感づかれてしまった様だ。

 残念。

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