第40話 スラム街の開発
王都には、スラム街があって、北側の王城側と南側の外壁沿いにスラムが広がっている。
何故そんな所にあるかというと、陽が当たらない為、誰も住みたがらず、常に薄暗い為、その手の連中が集まり易くなっていたのだ。
そして、城の北側には、盗賊ギルドもあるから、益々集まって来る訳だ。
だが、政府側としては、王城のすぐ近くにそんな、治安の悪い場所を残しておく理由が無い為、この周辺には、工場を建てる事にした。
作る物は、味噌、醤油、みりん、酒、酢、漬物だ。
漬物だけ少し毛色が違う気がするが、要は、発酵調味料を色々作れる体制を作りたかったからだ。
発酵調味料とは、例えば、豆板醬だったり、塩こうじだったり、ナンプラーの様な物やピクルスなど、色々ある。
ピクルスはまんま漬物だが、酢漬けのセボラや瓜を、肉と一緒にピタパンに挟むと、もの凄く評判が良く、量が足りない事態に陥ったのだ。
そして、王都の主食が米なのに、米の酒が無いのも理由だ。
ワインを他の街から取り寄せるのだが、密閉性の悪い樽に入れて運ぶと、ワインの殆どが酢になってしまい、エールは炭酸が飛びまくり、気の抜けた苦くて酸っぱい酒になるのだ。
そして、そもそもの話、酒精度数が異様に低いのだ。
その原因は、仕入れの時に水増しするか、販売する時に水増しする、又はその両方が横行し、殆ど水と変わらない物が、酒として売られている。
酒精濃度としては、3%程が普通で、当然それでは酔えないので、飲む量も半端ない。
その上、そこら中に立ちションしまくるので、酒場の周辺は臭くなる。
当然そんな所に住みたくないから、低所得者が集まり、治安も悪くなる。
それが原因で、スラム化していくという悪循環が生まれるのだ。
スラム自体は、低所得者の住処になっているが、全ての人々が住みたくて住んでいる訳では無い。
しかも、盗賊ギルドの連中が、食べ物に魔薬を仕込んで、無理やり中毒者を作ろうとするので、放置するのは問題でもある。
なので、一旦引き取って、宿舎を建てる事にした。
計画としては、高い塀と門番付きの門、一見、刑務所の様な感じだが、入居者には屋根付きの部屋と、ふかふかのベッド、安くて美味い食堂、銭湯もあって、医者もいる。
夜には、燃料代のかからない照明も付いて、家賃はお金では無く、トークン制という宿舎だ。
工場で働けば、トークンと給金が支払われ、トークンを使えば、食事も食べられるし、銭湯にも入れる。
トークンは奪われる心配も無いし、何より給金が貯められるのだ。
部屋の中には、専用の金庫が備え付けられていて、その中に給金を入れておけば、盗まれる心配も無い。
仕事も覚えられるし、勉強もできる様に、学校も作る。
ついでに、警備隊の育成施設も隣に作れば、警備員の育成にも使えるというものだ。
主な警備員は、エルフの弓兵とコボルト達、それと暗部用の宿舎も作ってしまえば、完璧と言えよう。
中で犯罪を犯した者は、犯罪奴隷として、工場内で刑期年数の間、タダ働きさせる。
優しく感じられるが、働く場所は、肥料工場だ。
といっても、ピクルスを漬け込んだ後の、ピクルス液を活用する為の施設なので、臭いはきついが、それ程汚くは無い・・・筈。
大量生産をするとなれば、当然ながら廃液は大量に出るので、その廃液を肥料にする為に再利用するのだ。
酢酸は、化学物質ではないので、植物の育成やカビの殺菌にも使える。
宿舎から出るごみや下水と混ぜて、別の場所で発酵させるのだ。
作った肥料は、王都周辺の畑で使えば、農作物の収穫量も増えるし、悪い話では無いだろう。
計画書を作製して、会議をした上で決行が決まった。
この計画には、財務大臣が大賛成したのだ。
この男は、ライオネル・スピナーソイという名の、悪魔と入代わられて幽閉されていた貴族だ。
計算は得意だが、馬鹿という特殊な男なのだが、うどんを食わせた時に嵌まったらしい。
醤油味が恋しくて、醤油醤油煩いから、もう無いと告げると、この世の終わりみたいな絶望的な顔になっていたから、醤油工場を作るって話をすれば、乗って来ると思っていたのだ。
施設の建設には、多大な人手が必要になるので、食べ物で釣ってスラム街の連中に手伝わせる。
ついでに軍も連れてきて、工兵訓練として作業をやらせよう。
途中で何度か、盗賊ギルドの連中がコボルトを脅そうとしてきたが、コボルト達はすでにゴロツキ如きを何とも思っていないので、サクッと捕縛して、隷属の首輪を付けて作業員として使っていた。
隷属の首輪は、付与魔法の練習用に、習いたい連中に作らせている物で、毎日毎日数百人が捕縛されるので、アルティスだけでは、作成が間に合わないのだ。
犯罪ごとに種類分けして作っていて、一度付けると刑期が終わるまで外す事はできず、無理に外そうとすると、電気ショックが流れるので、大抵は2回程食らうと諦める。
命令違反でも電気ショックが発動するので、命令も聞く様になるのだ。
コボルト達には、ハエ叩きの様な鞭を渡してあって、サボってる奴と真面目に働かない奴には、当たるとペインが発動する鞭で叩かれて、かなり痛い思いをする事になる。
アルティスの前世の、子供の頃の小学校の校庭で、擦り傷を負った時の痛みを再現したのだ。
硬い土の地面に、2ミリか3ミリくらいの粒の砂利が敷かれた校庭だ。
滑るし、コケるとすぐ怪我をするし、小さい砂利が傷口に入って痛いんだよな。
作業開始が夕方だったので、すぐに夕飯の時間だ。
スラム街の人達は、数日何も食べていない人達が殆どなので、豚骨スープのおじやと、焼き鳥だ。
シレっと盗賊ギルドの連中が混ざろうとして来たが、作業員達には半券を渡していたので、持ってない奴には渡さないんだよ。
ゴロツキには、情報源になってもらったら食わせるとしよう。
『おい、ギルド長のバカッスは何処に居るんだ?』
「バカッスじゃねぇよ。バッカスだよ。ぶっ殺されるぞ?」
『んな事は聞いてねぇよ。何処にいるかって聞いてんだよ。』
「言う訳ねぇだろ?そんなちっこい奴が吠えたって、怖くもなんともねぇよ。」
バチン!
「いでええええええぇぇぇ!何しやがんだ!てめぇ!ぶっ殺すぞ!」
バチンバチンバチン
「ギャアアアアアァァァ!やめろ!こらっ!殺すぞ!」
コボルトが剣を構えるが、ショートソードなので、見た目がおもちゃみたいでゴロツキに侮られるのだ。
「そんな鈍らの剣で、鋼鉄の防具が切れる訳ねぇだろ!?」
『そうか、じゃぁ試してみるか?』
コンッ
サクッカランカラン
コボルトが、ゴロツキの被っているヘルメットに剣を中てると、大した抵抗も無く真っ二つに割れて、両側に落ちた。
ゴロツキの顔から、血の気が引き、ガタガタと震え出した。
『言うか?』
「は、はい!言います!言いますから、命だけは!!」
ゴロツキに居場所を聞いて、アーリアとコルスと暗部数名で、盗賊ギルドに向かった。
『やぁやぁ、元気かな?悪いね、夕飯時に。隠れているつもりなんだろうけど、姿が見えなくても、魔力感知できるから、この部屋に何人いるのか、どこにいるのかも、丸分かりなんだよね。』
「随分立派な机じゃないか。悪巧みして稼いだ金で買ったのか?」
アーリアが剣を振りかぶり、軽めに振り下ろした。
部屋の壁際で、隠れている者達には、何をしているのか判らないが、一人だけは驚愕していた。
その男は、机の真横にいたので、剣が机を素通りしたのが見えたのだ。
その机は、天板は巨木の輪切りを加工した物だが、その下には厚さ1cmの鉄板が入っている筈だった。
それが、何の音も立てずに剣が素通りしたのだ。
冷や汗が、背中を流れ落ちるのを感じる。
『ふむ、出てこないか。[キャンセル]』
「・・・」
『他の奴を見てみろよ、丸見えだろ?』
「な、何故・・・」
『変装も解いておこうか。ポチッとな。』
壁際の二人が、魔族の姿に変わった。
「な!?魔族だと!?エドリスはどこにいるんだ!?」
「くっ!バレたか!全員道連れだ!食らえっ[エクスプロージョン]!」
『[ディスペル]』
プスッ
「はぁ!?何故発動しない!!」
『お前は、魔王がどうなったのか知らないのか?奴は俺の魔法に負けたんだぞ?お前如きの魔法を消せない訳が無いだろう?』
「ふざけるな!![エクス『[サイレント]』」
パクパクパクパク・・・ダンッ!
魔族の声を出なくしてやると、地団駄踏んで大人しくなった。
「た、助かった。そ、そちらは入会希望で来たのかね?」
『[バインド]』
バシバシバシッ
馬鹿な事を言った奴を壁に縫い付けてやった。
「馬鹿な事を言う奴も居るもんだな。バカッスはどいつだ?」
「誰だそいつは?そんな名前の奴はおらん。」
『バカザンスだったっけ?いや、バカダケッスだったかも?』
「てめぇら、殺すぞ。俺はバッカスだよ。バッカス。次言ったらぶっ殺す。」
『おおバカッスだったか。貴様がバカッスね。知ってるとは思うが、騎士がアーリア、俺がアルティスだ。よろしくな。』
「殺せ!」
ガタッスタッ
「アルティスさん、笑わせないで下さいよ。堪えるのが大変じゃないですかぁ」
「何だと!?」
『だから、最初に言ったろ?姿を隠しても、魔力感知で判るって。居場所がバレバレなんだよ。お前らみたいに姑息な連中の本拠地に来るのに、二人だけな訳無いだろ?まぁ、この3人では、かなりの過剰戦力だけどさぁ。』
「ふん!最初の素振りでビビる訳無いだろうが!」
『素振り?あぁ、机を切った時の事か。その程度の事も見えて無かったの?あんなにゆっくり振ったのに?・・・まぁ、相手の力量も判らない雑魚じゃぁ、仕方ないか。』
「机を切っただと?この机には鉄板が仕込まれてるんだぞ?切れる訳無いだろうが!」
トンッゴシャッ
アーリアが軽く机を蹴ると、真ん中から真っ二つに割れた机が、崩れた。
『世界最強の騎士だ。音も無く切るなんて事、造作も無いんだよ。』
「さて、色々と、王都で悪さをしてくれたお礼にやって来た訳だが、どの首から落とそうか?」
『あぁ、赤子じゃねぇんだから、お漏らしとか止めてくれよ?出したら切り落としちゃうよ?』
3人が内股になった。
『鉄板ねぇ、鉄って案外柔らかいんだよ?ほら、簡単に切れちゃう。』
ゴトッ
アルティスが、机の鉄板を爪でなぞると、鉄板が切れて床に落ちた。
床下には、隠し部屋がある様で、一人が寝そべって隠れているのが、魔力の形で分かった。
『さて、話をしようか。色々とやらかしてくれちゃったよねぇ。折角、恩赦で解放してやったのに、約束破って魔薬の売買に、恐喝?殺人?オーク肉の干し肉?散々迷惑を掛けられちゃってね、俺の個人資産から白金貨5億枚分の出費しちゃったんだよね。だから、もう恩赦は無しだ。お前ら幹部全員、隷属の首輪を付ける。次に悪さをしたら、その首がちぎれ飛ぶからな。それと・・・この机の真下に居る奴は、黒幕か?鉄板の下に居るのか?厚さが・・・5cmか。直径1mでくり貫いたら、1000kg以上の重さに、押しつぶされるんじゃないか?出てこないならくり貫いてやってもいいんだぞ?』
聞こえる様に脅したら、壁際に寄ったのだが、振動感知も使えば部屋の大きさと空気穴の位置も丸分かりだよ。
だって、隠れている奴は、ガタガタと震えてるんだからね。
「壁際に張り付いたのか?大体の大きさが判ったから、そのサイズに切れば、更に重い鉄の塊に押しつぶされると思うんだがな。」
『うーん、こいつらも頭悪いよなぁ、正四角形の部屋と見せかけて、長方形の部屋を作った様だけど、居場所がバレてたら、狭い場所には、逃げ場なんて無いんだぜ?ましてや、閉じ込められたら、どうやって出るつもりなんだ?それに、空気穴が開いている様だけど、空気の入れ替えをどうやるつもりなんだ?風船じゃあるまいし、この部屋の空気は、殆ど動かないから、こいつはもうすぐ、窒息死するぞ?』
「穴が開いてれば空気が入るんじゃないですか?」
『自分が吐いた空気の逃げ場は?』
「外に出せばいいのでは?」
『入れ替えるってのは、入り口と出口があって、初めて成立するんだよ。例を見せてやろう。この瓶に一杯の水を入れるだろ?ここに、この色を付けた水をどうやって入れる?』
「・・・水を捨てれば入りますよね?」
『この水が空気だとすると、空気を全部抜かないと、新しい空気が入って来ないよな?』
「・・・そうですね。その間の空気が無くなりますね。息ができませんね。」
『空気ってのは、入り口と出口が無いと、殆ど動かないんだよ。だから、床下に居る奴は、新鮮な空気を吸う事ができなくて、窒息するって事だよ。しかも、吐いた息は重いから下に溜まるんだ。空気穴は上の方にあるから、天井付近にしか空気が無いって事になる。』
「早く出さないと死んでしまいますね。」
『死んでから出すって方が、都合がいいんだけどな。言い訳しないし。』
「それもそうですね。」
狭い空間に小さな空気穴が一つしかないから、空気の入れ替えが難しそうなのだ。
しかも、空気穴は、配管で外に繋がっている様で、外まで5mくらいの距離があるのだ。
穴が開いていても、人間の呼気では5mも動かせないので、実質的に空気を入れ替えるのは難しい。
『あ、魔道具使いやがった。酸素を出すのかな?酸素濃度が高くなると、静電気程度の火花で爆発するんだよなぁ。』
ボンッ
『ほら、なった。』
酸素を魔道具で供給しようと考えた様だが、濃い酸素は燃えやすく、線香の火が花火の様になるくらいに、激しく燃えるのだ。
一方、静電気は、違う物質同士が擦れると発生する物で、装備や服で言えば、木綿と絹や麻が擦れると発生しやすくなり、防具の金属があれば、スパークしやすくなって、発火率が上がるのだ。
儲けている連中は、絹の服に木綿の肌着かその逆で来ている事が多く、静電気が発生する条件が揃っていると言える。
「あらら、でも吸える空気があるならいいんじゃないですか?」
『火が燃える時にも空気を使うんだよ。だから、爆発すると、一気に空気が無くなる。』
「魔道具で供給され続けているのでは?」
『それだと、ずっと火が消えないって事になるな。』
「あー、意味が無いと。」
『あ、死んだな。』
魔力反応が消えた。
いや、まだ薄っすらと残っている様だ。
「死んじゃいましたね。どうやって出すんですか?」
『[アポート]』
魔道具を取り出して、酸素供給を止めた。
魔道具は、使用中だと魔力をガンガン出しているので、魔力感知にはハッキリと映っているので、取り出すのは容易だ。
「止める意味ありますか?」
『燃えすぎると、顔が判らないだろ?』
「それもそうですね。でもどうやって遺体を出すんですか?」
『うん、まだ取り出せないから、本当に死ぬまでそのままかな。』
「本当に死ぬとは?」
『今はまだ、仮死状態といって、死んでる様にみえるけど、死んでなくて、生き返る可能性がある状態だな。アポートは、生きてる人間には使えないんだよ。つまり、死体になれば、取り出せるんだよ。』
「いつ死ぬんですか?」
『そろそろじゃないかな?そもそも酸欠状態だし、火が点いて一酸化炭素中毒になってるだろうし、そんなに長くは、あ、完全に消えたな。[アポート]』
遺体が出て来た。
顔は、どこかで見た覚えがあるが、思い出せない。
コルスが知っていた様だ。
「!?この人牢屋番の兵士ですよ!?」
『ん?そんな奴はいないぞ?前王の時の兵士は、全員鎧を脱ぎ捨てて逃げたし、そもそも地下牢に番なんて配置していないよ。』
「ずっと居ましたよ?」
『というか、こいつの姿、幻影なんだけど?あるじ、この壁にぶっ刺して。』
「ん?この姿は幻影なのか。良くできているな。」
サクッ
「グフッ!」
アーリアが、壁に剣を刺した瞬間に、幻影が消えて別の男が現れた。
幻影で見えていた男は、壁に居た方だった。
燃えた奴は、誰も知らない奴で、身代わりだった様だ。
『全く、何騙されてんだよ。ズレてるの判らなかったの?』
「す、すみません。」
『やっぱり、ペンタを呼び戻した方がいいんじゃないのか?疲れが溜まってるんだろ?』
「いえ、大丈夫です。頑張れます。」
『駄目な奴に限って、そう言うんだよ。マルグリッド王国だってもう、大丈夫だから、呼び戻せ。交代しろ。凡ミスする程に疲れてるんだよ。』
マルグリッド王国には、既にカノエとヒノエが潜入しているので、ペンタは実際のところ、余剰人員なんだよね。
「真面そう」なだけで、信用なんてする訳無いじゃん。
タカール商会は、マルグリッド王国の直営と踏んでいるので、ちゃんと潜入捜査で、探してもらっているんだよ。
『一旦帰るか。こいつらは、もう機密事項は話せないし、悪事を指示する事もできない。改善しないゴロツキは、バンバン捕獲して・・・というより、このリストのメンバー全員に首輪を付ければいいか。』
「よし、帰るぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺の拘束を解いてくれよ!?」
ヒュヒュッ
「さ、行くぞ。」
『シレっと俺の魔法をぶった切るとか、やめて欲しいんだけど。』
「そんなに強度付けてないんだろ?」
『そうだけど、だからって易々と切れる物じゃないんだけどなぁ。』
バカッスが禁句を言いそうになってると感じた。
『あぁ、バカッス、その言葉を発したら、命は無いと思え。』
「・・・ゴクッ」
城に戻ってくる途中、アーリアが必要悪について、聞いてきた。
「アイツを生かしておいて良かったのか?」
『前にも言ったけど、必要な悪もあるんだよ。正義なんてものは、立場によって変わるから、悪事も同じだし、綺麗事だけで全て完璧に終らせられる訳じゃないんだよ。だから、あいつは必要って事だよ。』
「こちらから見たら悪事だけど、向こうから見たら正義になるって話しか?」
『それもそうだけど、盗賊ギルドを潰しても、第二の盗賊ギルドができるんだよ。手口がより巧妙になってね。』
「そんな事があるのか!?」
『今はゴロツキが実行犯で、好き勝手に悪事を働いていて、盗賊ギルドがその元締めをしているだけだけど、盗賊ギルドってのは、本来、政治の道具として政府が盗賊を使って犯罪を最小限に抑えたり、犯罪組織に潜入させたりして、壊滅させる手がかりを探すのが仕事なんだよ。』
「それの何が悪だと言うんだ?」
『犯罪組織を探るには、犯罪者に成り切らないと判らない事が沢山あるんだよ。』
所謂、おとり捜査官の役をやらせるって事だよ。
「コルスがいるから判るだろ?」
『そのコルスが疲労でフラフラだけど?』
「・・・そうだな。」
『コルスと同等の優秀な奴が、100人居れば問題無いけど、実質二人しかいないでしょ?』
「コルスとペンタか?」
『そういう事。』
「それは判るが、盗賊ギルドとどう繋がるのかが判らないよ。」
『コルスもペンタも一人でホイホイ完結している様に見えるけど、実際は暗部の下を何人も使って調べているんだよ。でも一つの事に何人もかかりっきりでは、全てを把握なんて不可能だよね?それを市井の情報屋とか、潜入者が補完するんだよ。』
いくら、コルスやペンタが優秀でも、誰も見てない事は知る事ができないし、誰も調べてない事は判らない。
ましてや、これから起こる些事なんて、予測するも不可能なんだから、毎回後手に回っているんだよ。
その不足している部分を補うのが、潜入捜査官という訳だ。
「私が不甲斐ないばかりに・・・」
『違うだろ?この国がクソ過ぎて、コルスが休む暇が無いだけだよ。人間である以上、肉体的な疲れは溜まるし、精神的にも疲弊してくる。時には休まないと30まで生きられないぞ?』
「そんな事は!」
『コルスは、人を育てるって事を覚えろ。盗賊ギルドを暗部の下部組織に仕立て上げろ。』
「必要ありません。」
『駄目だ。やれ。やらないとコリュスを「判りました。やりますやります!」』
コリュスをどうしようとしたかは、想像にお任せするよ。
翌日もスラム街の大改造は続いている。
盗賊ギルドは大人しくなったかと言えば、ならなかった。
今日も朝から、賑やかだ。
朝食は、6時から配るので、それまでの時間は、体操をやってもらい、体を解してもらう。
だが、ゴロツキの集団がぞろぞろとやって来て、喚き始めた。
「おい!てめぇら!ここの作業を手伝いやがったらぶっ『捕縛しろ』」
コボルト達が一斉に襲い掛かり、ゴロツキの股間に棒を突き入れて行き、一瞬で制圧。
一々台詞を言い終わるまで待ったりせずに、首輪を付けて、労働力の確保を行った。
暗部達も、離れた所から見ていた連中を、背後から強襲して制圧した。
捕まえたのは、総勢53名、内4名が女、12名が魔族だった。
『ゴロツキ男は全員、街中のドブ攫いに回せ。よし、準備運動開始!』
ドブ攫いとは、王都はモコスタビアと違って、運河が流れている訳では無いので、道の両側にドブが設置されていて、そこをチョロチョロと水が流れているのだが、泥やゴミで詰まっている事が多く、流れが堰き止められると、腐敗臭を発したり、あふれ出て道が汚れたりするので、定期的に清掃が必要なのだ。
準備運動と言っているのは、工場建設に参加する作業員たちに、以前ナットゥの街中で、騎士団にやらせた運動をやらせているのだ。
体中の関節をグリグリ動かす運動なので、怪我の予防にもなるし、参加させられない奴のピックアップにも使えるのだ。
『ちゃんとやった奴には、朝飯が出るぞー』
こう言っておけば、ちゃんとやってくれる。
周辺のスラムからも、続々と人々が集まり出して、シレっと途中参加してくる奴も居るが、そういうのを一か所に集めて、最初から運動を始めさせる。
運動に参加した連中は、全員労働力として使うのと、魔薬中毒患者やアル中、その他障害者や病人なんかのあぶり出しにも使っている。
魔薬中毒の者には、万能薬を一滴飲ませ、運動に参加させてから、朝食を摂らせる。
アル中等は、近づくだけで中毒では無くなるのだが、特に何も対処はしない。
どういう事かと言うと、魔薬中毒は薬の効果による依存だが、アル中は精神的な病気が原因での依存なので、本人が酒を辞めようとしない限り、何度でも繰り返すのだ。
中毒が抜けるのは、毒素を解除する魔道具が酒精を毒素として認識するので、中毒から抜けるのだが、後で酒を飲めば、その時点から再発してしまうのだ。
しかも、酒が体に吸収されると、肝臓への負担が再発する為、病気自体は進行してしまうのだ。
万能薬を使ったとしても、肝臓の再生はしないので、結果は変わらない。
根本的な原因が、どこかにあるのだとは思うが、医者でも無ければ、カウンセラーでも無いし、一人一人相手にしていられる程暇でもないので、放置している。
以前、暇な時にアル中の相談に乗った事があるのだが、アル中になったきっかけを聞いた瞬間に、興味を失ったのだ。
内容は、実にくだらない事過ぎて、相手を張り倒しそうになった程だ。
そいつの原因は、夫婦喧嘩だったのだ。
本人には、重要な事かも知れないが、アルティスには関係が無いし、解決もできないので、聞くだけ無駄という事になる。
酒に溺れる理由なんて、どの世界でも同じって事だよ。
『ワラビ、カウンセリングのマニュアルを作るから、信者の相談内容と、お前の話した内容を、今日からレポートとして出せ。一人じゃ大変なら、聞き取り要員を出す。』
『今、20人体制で対応していますので、全員の話を取りまとめると、もの凄い数になりますが、よろしいですか?』
『問題無い。内容の傾向と、それに対する回答の大枠を決めるだけだ。それと、礼拝堂でやってるんだろ?別の建物を用意するから、そっちでやれ。礼拝堂が煩くて、お祈りができないって苦情が来てるだろ?』
『はい、来ております。宜しいのでしょうか?』
『精神衛生上、必要な事だ。』
『畏まりました。ありがとうございます。』
『ケットシー、大聖堂の近隣で100人入れる建物を見繕え。そこに信者の相談センターを作れ。』
『元男爵の屋敷があります。そちらでいいですか?』
『男爵はどうなったんだ?』
『没落しております。』
『じゃぁ、そこを整備して、20席分の小さい個室と、待合室、受付用のカウンターを用意しろ。』
『了解。完成したらどちらに連絡しますか?』
『ワラビに頼む。そして、ワラビからレポートを受け取って、相談内容の集計をまとめておいてくれ。対応マニュアルを作れる様なら、作ってくれ。』
『畏まりました。』
『掃討戦参加者の内、被害の少ない地域にいる者は、速やかに王都に戻れ。その中の建築が得意なドワーフは、ドラムカーン領に行け。』
建設に必要な、ドワーフを確保しなければならないので、一部を連れて帰るのだ。
王都では、スラム街にドワーフを置いて、建設に従事させるが、何やら険悪な雰囲気になっていた。
『何があったんだ?』
「コボルトと我ら豹人にだけ作業をやらせて、人間がサボってるんです。」
『作業やらないなら飯は出さないぞ。』
「コボルトにやらせればいいだろ?俺達は飯だけもらえればいい。」
『誰だ?お前は。』
「今日からここを仕切るのは俺様だ。いう事を聞け。」
スパーン
ゴロツキがゴチャゴチャと言っていたので、引っ叩いておいた。
『って事で、馬鹿は居なくなった。働け。働かない奴にはトークンは渡さない。トークン持ってない奴は、飯を食えない。以上。』
「誰だよ、宰相は弱いとか言った奴。全然強いじゃねぇか。」
『コボルト、あんな馬鹿がまた出たら、首を刎ねてもいいからな。ゴミクズは要らん。』
「・・・真面目に働こう。死ぬなんてごめんだ。」
復活した馬鹿が、若い連中を仲間に引き入れようとしたが、袋叩きに遭い、退散したのは、夕方の事だった。
城の会議室には、ケットシーと護衛役の豹人と馬人が集まっていた。
『よし、君らの役目は、各領地の財政状況と、領内の雰囲気、税率、活気、魔族の有無、領主との会合で聞き取り、行政書類の確認とチェック、地下牢の状況、路地裏の確認をしてもらう。それらをレポートにまとめて、提出しろ。護衛は、ケットシーを何が何でも守り抜け。戦闘能力が無いからな。それと、街中を歩きながら、魔道具の設置を頼む。設置場所は、広場の中心、領主邸の屋根の上、各街の入り口、冒険者ギルドの最上階の外壁だ。』
「壁昇りは得意ではないのですが・・・」
『現地には、暗部が居るから、連絡を取れ。それと、ほぼ確実に色仕掛けが来る。誘いに乗ると、魔薬を打たれる可能性が高いぞ。打たれたら、今までの訓練が水の泡だ。STRが30近く落ちるからな、元に戻すには、特訓をする羽目に。』
「絶対にかからねぇぞ。特訓は嫌だ!」
魔薬は、快楽物質なだけではなく、弱体化にも効果が高い。
その効果とは、直接弱体化する訳では無く、気分が良くなると動かなくなり、夢の世界に没入する事になり、食事もその夢の世界で摂る様になる。
食べなければ、やせ細り、新陳代謝でタンパク質が消費される様になり、筋力が低下してしまう事となる。
『領主の中には、書類を見せない所もあると思うが、そういう場合は、無理に見なくてもいい。そのままレポートに書け。何か気が付いた事があれば、全部書いてくれ。何十枚になっても構わない。赤裸々に書いてくれ。』
「あのぅ、もし襲撃を受けて、攫われたりした場合は、どうすればよろしいですか?」
『これから渡すアミュレットを着けて居れば、大丈夫だ。隷属も効かないし、斬られても切れないし、痛くない。テレポートで飛ばされそうになっても、飛ばない。服も着替えてくれ。アラクネ絹製の制服だ。鞄は、ワイバーンの革製だから、取られるとすれば、外した後だな。中身は登録者以外取り出せないし、ビーコンが付いているから、何処に行っても判る。ペンタ、頼むな。』
「触れられないから、気付いてないのかと思ってました。」
『忍んでる奴に挨拶するって、変だろ?』
「確かに。暗部達には連絡しておきます。」
『コルスはちゃんと休んでいるのか?』
「何をすればいいのか判らない様ですね。」
『典型的なワーカホリックだな。』
「僕も判りませんよ?」
『忍ばずに街を歩いてみるとか、買物するとか、何かあるだろ?』
「買う物なんてありませんし、街を堂々と歩くなんて、怖くてできません。」
『料理するとか』
「あ、それいいですね。休みもらえたらやってみます。」
『よし、それじゃぁ、4チームは南側、2チームは北側に行ってくれ。1領につき、最大三日で頼む。教会なんて無くても、アミュレットのMPで4カ所は回れるはずだ。』
了解!
『ところで、ペンタ。天井の奴は、誰だ?』
「・・・コリュスかと。」
『何をしてるんだ?』
「聞いてみます。」
「キャッ!びっくりするじゃないですか!脅かさないで下さいよ。」
「ここで何をしてるの?」
「アルティス様を脅かそうと思って、来てみたんですよ。」
「バレてるよ?」
「そんなぁ」
シュタッ
「お久しぶりです。アルティス様もお元気そうで何よりです。」
コリュスじゃなくて、コルスかよ。
『ペンタ捕縛』
「ええ!?何で何で?」
『ドジっ子属性が抜けてるぞ?』
「そんな事!?」
『アミュレットどうした?』
「・・・してましたっけ?」
『してましたっけってお前[ライトニン「あああ!負けです!負けました!コルスですよ!」』
『何してんだよ。休みだろ?』
「する事無いんですよ。」
『じゃぁ寝ろよ!お前、クマ出てるんだぞ?』
「酷い顔してますね。疲れ切ってるじゃないですか。」
『[スリーブ]隣の部屋にベッドあるから、寝かせておけ。』
「はい。ありがとうございます。」
昼食後、女王に状況の報告を行い、再びスラム街にやってきた。
整地が終わり、宿舎予定地の壁の建設が始まっている。
暫らく見ていたが、石材の積み方が気になったので、口を出してみる。
『その石の積み方でいいのか?繋ぎ目には、何か塗るのか?』
「なんでぇ、文句あんのか?」
『ある。』
「何が不満なんだ?」
『何で互い違いにしないんだよ。その積み方じゃ、倒れやすいだろ?』
「互い違い?何だそれは。どうやるんだ?」
『お前、本当にドワーフか?建築やった事あんのかよ。こっちのレンガで説明してやるがな?これを積んでみろ。』
「ほら積んだぞ?ここの隙間に漆喰塗れば、倒れないだろうが。」
『あのな、一番下に一列並べるだろ?上に積むときに、繋ぎ目の上に重なる様に積むんだよ。そうすると、一列だけ倒れるなんて事にはならねぇだろ?』
「全部まとめて倒れるじゃねぇか。」
『あのなぁ、崩しやすい壁なんて作る意味あんのか?壁ってのは、侵入者を防ぐ為に作るんだよ。崩しやすくて修理しやすい壁じゃなくて、崩れにくい壁を作れって言ってんの。漆喰でくっ付けたって、押せば倒れるじゃねぇか。』
「石が重たいから倒れねぇよ。」
『それは、お前が非力なだけだろうが。』
「じゃぁ、どうすんだよ。」
『カレン、石材の寸法を測ってくれ。この石材って何処から持って来たんだ?』
「この石材は、石工問屋から仕入れた物ですね。」
『割ってみろ。中が空洞だぞ?』
ガシャン
「本当に空洞ですね。この石材の仕入れ担当は誰だ?」
「俺だよ。文句あんのか?」
『大ありだよ。この石材の価格は?』
「銀貨1枚だ。」
『この素焼きの石材が銀貨1枚だと?石材問屋を呼べ。ぼったくるとはいい度胸だな。』
石材として積み上がっていたのは、安い建材として売られている、素焼きの簡易ブロックだ。
中が空洞になっていて、通常は花壇や屋根などの、加重をかけない場所に使用される建材だ。
こんな物で壁なんて作ったら、簡単に壊されてしまう。
石工問屋がやって来た。
『お前が石工問屋か。俺は宰相のアルティスだ。貴様はこの簡易ブロックを銀貨1枚で売ったのか?』
「100個で銀貨1枚で売りましたよ?それが何か?」
『おい、ドワーフ。お前に金貨渡したよな?お釣りの銀貨99枚はどうしたんだ?』
「けっ、アラクネの居ない宰相なんてぶっ飛ばして」
ゴスッドゴッドガッ
「もう一度言ってみろ。次は首を飛ばすぞ。」
『カレンやめろ。アラクネが居ないと俺がお前よりも弱いと言いたいんだろ?』
ボッ
アルティスが少し力を入れて、ドワーフの横っ腹を殴ると、作業をしている人々の間を抜けて、100m程離れた場所にある、3階建ての廃屋の壁を突き破って、中に入り、奥の壁に当たって、めり込んで止まった。
仲間のドワーフ達が、焦って助けに行くと、頭と口から血を流して気絶していた。
この作業場にいたドワーフ達は、一同に震えあがり、舐め切っていた自分達を戒めた。
この時の話しは、ドワーフネットワークを通じて、他の地域で活動しているドワーフ達にも伝わり、ダンベヤー領に駐留している、ドワーフ軍のリーダーのゴードンは、頭を抱えた。
目の前で、宰相がドワーフを吹っ飛ばしたのを見ていた石工問屋は、膝をガクガク震えさせながら、どんな事で脅されるのかと戦々恐々としていた。
『石工問屋、悪かったな。この簡易ブロックは引き取ってくれ。違う石材を買いたいのだが、どんなのがあるのか、見に行っていいか?』
「は、はひ、ご、ごごごごご案内致します。」
「怖がらなくても大丈夫ですよ。騙したり、脅したりしなければ、お優しい方ですから。」
カレンのフォローで、少し安心した様だ。
石工問屋の店に行くと、様々な石材が売られていて、店の奥では、石工達が鑿を振るって、石を削っていた。
『石材の大きさを一定にする事はできるか?』
「どの程度の大きさでしょうか?」
『厚さ15cm、幅30cm、高さ25cmで、上下に凹凸を付けるんだが。』
「凹凸といいますと、どの様な形でしょうか?」
『こんな形だ。』
アルティスが、土魔法で形を作り出す。
「ほうほう、この凸部分が溝に嵌る様になっているのですね。そうか、これならば、ズレないという事ですか。ふむ、少し複雑な形となりますと、少々お値段が張ってしまいます。レンガで作るのであれば、お安くすることは可能ではございますが。」
『レンガは、焼成煉瓦か?』
「焼成・・・乾燥レンガでございます。焼成となると、燃料代がかかってしまいますので、100個で金貨1枚ほどになってしまいます。」
『ん?そこの青みがかった白い石、これは石灰岩か?この石はどれくらいあるんだ?』
「あぁ、こちらの石は、綺麗ではあるのですが、少し柔らかいので、表面の化粧用にしか使えませんよ?」
『知ってる。だが、これを使って作る事ができる様になるんだよ。この石材を粉にして使うんだよ。』
「粉?この石材の粉というか、細かい物ならたくさんありますが、お売りしましょうか?」
『買う。大量に必要だ。どれくらいある?』
大量に石灰石を手に入れる事ができた。
ついでに、石膏も大量にゲットできたので、セメントを作って、壁の材料にしてしまおう。
セメントを作るには、石灰石と基材となるスラグや灰、火山灰などが必要になる。
残念ながら、近くに火山は無いので、凝灰岩を粉砕して使う。
円形山脈にたくさんあるんだよ。
火山じゃない事は判るんだけど、何なんだろうね。
砂も割と簡単に手に入る場所が、すぐ近くにあるし、粘土も採れるので、便利だね、湿地帯って。
水たまりの底を浚ってくれば、砂も粘土も簡単に手に入るんだよ。
砂は石が砕かれて細かくなった粒で、粘土は、砂がさらに細かい粒子になった物だから、同じ場所にあるんだよ。
スラグは、鉄鉱石を扱っている、鍛冶工房にたくさんある。
鉄鉱石とは、鉄分を多分に含んだ石の事を言うから、鉄を作る時にたくさん出るんだよね。
鉄鉱石以外にも、銅や銀などの金属を鉱石から作る時に出るから、廃棄の手間が省けたと大喜びでくれたよ。
セメントは、現代の物ではなくて、どちらかといえば、ローマンセメントに近いんじゃないかな?
壁は、基材に、乾燥レンガと鉄筋を使って、表面にセメントを塗って作り上げた。
左官職人なんて居る訳ないから、道具を作ってやらせてみたら、すぐに綺麗に仕上げる様になった。
ドワーフは真面目にやれば、器用だし、使えるんだよなぁ。
消石灰なんかは、農業にも使えるし、消石灰を作る前の状態、つまり生石灰を消石灰にする時の熱は、銭湯のお湯を温める時に利用してるよ。
生石灰は、暖められるお弁当とか、乾燥材なんかに使われている石灰で、水と反応して熱を出すんだよ。
消石灰は、中和剤として、酸性になった土を中性にする時に畑に撒いたりするんだよ。
熱を利用できるのだから、燃料代が浮いて、経費削減に効果的だね。
宿舎予定地を囲む壁ができあがったので、建物の建築に入る。
壁の上部には、金属製のドーム型カバーを付けていて、鉤爪が引っ掛からず、魔法でスムースを付与しているので、上に乗って歩く事もできない。
加えて、結界も張ってあり、外側から飛び越えようとしても、結界に当たり、リジェクトの魔法で跳ね返されるのだ。
所謂、社員寮としての機能を持たせているのだが、過剰とも言える程の防御機能を持たせているのには、理由がある。
ここは、スラムのど真ん中だからだ。
スラムでは、窃盗や暴行など日常茶飯事で、忍び込もうとする者が絶えないのだ。
特に盗賊ギルドのメンバーが、未だに煩く、来るたびに捕獲してはいるが、王都の中に2万人もの構成員がいるのだから、全く減る様子が無い。
しばらくは、ゴロツキホイホイとして、利用するか。
建物は、背中合わせにした3階建てを10棟建てる予定だ。
ここは、王城の陰にある場所なので、朝と夕方以外は日が当たらないので、東西に向いた団地にする予定だ。
内側に通路を作り、各部屋の間取りは、左右対称で2LDK、照明は全て魔道具を使い、魔力の供給は管理人が行う。
特に内側の廊下は、常に真っ暗になるので、常時点灯している事になる。
火災が発生した場合は、天井に付けた魔道具で、スプリンクラーの様に水を撒くのだが、備え付けの家具は全て耐火仕様なので、殆ど燃える物が無いのだ。
竃は各部屋に1つずつで、1本の煙突を6部屋が共有する形だ。
別に食堂を作るので、殆どお湯を沸かすくらいにしか、使わないと思われる。
ロケットストーブの形にしたので、小さいが火力はある。
最新式のアパートになるが、工場で働かないと住めないので、スラム以外の連中が来る事は無いだろう。
設計図は、現場事務所の中に貼ってあるが、中に入れるのは、認証した者だけなので、部外者に見られる事も無い。
図面を隠すのは、中の構造を知られると、輩が忍び込む算段を付けるからだ。
どんなに強固な防衛体制を執っていても、対策を打たれれば、その内抜けられる可能性が出て来るものだ。
ひとまずは、完成まで時間が掛かるので、作業員たちにはテントに入ってもらう事になった。
夕飯の時間になると、先日のガキ大将が来て、また袋叩きに遭っていたが、今回は捕縛して、作業員として働かせる事にした。
一々対応するのが面倒くさいんだよ。
そいつは、盗賊ギルドのバカッスの倅らしいのだが、ギャーギャー煩いので、着ていたワイバーンの革製の鎧を脱がせて、コボルトに脱がした防具を斬らせると、大人しくなった。
コボルト達の装備は、ロックリザードの鱗で作った、スケイルメイルとワイバーンの革製で、プレートメイルは付けていない。ショルダーは付けているが、首の防御と階級章を着けられる様にする為に、装備させている。武器は、鳶口とショートソードで、鳶口の金具を外せば、短槍に早変わりだ。
何故鳶口を使っているかというと、試しに作った時に、コボルト達が気に入ったのだ。
だが、武器としてはイマイチなので、取り外し可能なカバーとして使っている。
気に入った理由は判らないが、背が低い彼等には、日常的に使える便利な道具らしい。
今晩から、夜の警備は、キュプラの子のラ隊がやる事になった。
早速、ゴロツキの集団がやってきて、アラクネに怯んだが、頭を狙って矢を撃ってきたらしい。
だが、アルティスの提案で、ヘルメットを被ってもらっているので、当たっても全て跳ね返される。
その間に、他のアラクネ達が後ろに回り、全員捕獲した。
総勢52名で弓兵が10名。
弓矢を撃っているのをボケっと突っ立って眺めていた、ゴロツキが42名だ。
アラクネ達には、首輪を持たせていなかったので、夜中に騒いだ奴は、ハエ叩きでビシバシ叩かれて、30分も経てば静かになっていた。
翌朝、捕まえたゴロツキに首輪を嵌めて、粘土と砂の採取場所に行かせて、砂の中から粘土を取り出す作業と、砂と粘土を運ぶ作業をやらせる。
結局は混ぜるのだが、そのままでは、粘土の含有率が判らないので、一旦分けなければならないのだ。
おからコンクリートなど作っても意味が無いからな。
宿舎の建設に取り掛かるには、土台となる杭が必要だ。
地震は無いが、馬鹿みたいな突風や歩く災害が居るのだから、そんなのがぶつかったら、ドミノ倒しになる様な物を作る訳にはいかないのだ。
それに、以前、アーリアが言っていた、雨が降ると死者が出るという、意味深な発言も気になるので、対応が取れる様に作ろうと思っている。
王都の主要な建物は、殆どが嵩上げされて建っている処をみると、洪水の可能性を捨てきれないのだ。
加えて、この地は盆地の中心部にある街だから、当然一番低い場所という事になり、排水が追い付かなければ、確実に洪水になる場所だ。
アルティスが、この世界に来て5か月経つが、一度も雨が降っていない。
なのに、地表には豊富な水があり、干ばつになっている様子も無いし、全く意味が判らない。
なので、1階部分には、店舗用スペースと食堂、水タンクを作る。
水タンクは、水道用の水を一旦貯めて、消毒する為だ。
王都には、水道用の謎システムが存在していて、王城の地下に一旦貯められた水を、王都全体に行き渡らせているのだが、スラムにはその為の水道が無いのだ。
スラムになった時に、潰した可能性も考えたのだが、遺構が残っていないし、作られた形跡も無いので、元々は別の用途で利用されていた区画なのだと思う。
現在は、井戸が掘られているのだが、水の色を見るに、かなり怪しい水を使っている可能性が高かった。
だから、[アナライズ]を使ってみたのだが、結果は地下水ではあるものの、所謂、鉱泉と言われる水で、暖かければ温泉と呼ばれるほどに、不純物が多かった。
だから、水道用の水は王城の井戸の水を、常時水道用の貯水タンクに貯まる様にして、井戸の水は銭湯のお湯に使う事にした。
泉質は、含鉄泉の炭酸水素塩型なのだが、薄っすらと赤みを帯びている程度なので、濃度は低い。
銭湯のお湯として使っていると、鉄分が湯舟にこびりつき、滑りやすく成る為、午前中は元ゴロツキ達により、お掃除タイムとなっている。
ちなみに、銭湯は壁の外に作ってあって、宿舎側から入れる風呂と、スラム側から入れる風呂で分かれている。
スラム側は、ゴロツキホイホイでもあり、定期的にゴロツキが占拠しようとするので、捕まえて重労働と王都内清掃に回すのだ。
今や、捕まえたゴロツキの数は、1万人を越えており、労働に回せる場所が無くなってきた事もあり、他領の労働力として派遣するまである。
北部の領地などは、魔王軍に蹂躙された事もあり、人手を募集しても集まらないので、ゴロツキを派遣しているのだ。
北部にゴロツキを派遣する意味は、労働力以外にも、別の利用価値もある。
それは、魔族ホイホイとしての役割だ。
魔族がゴロツキを利用する為に攫って行くので、ある程度溜まった所で一網打尽にして仕留めていく。
現魔王の為に働く魔族は、マケダマレ・ダマラスの頃の様に、洗脳されていたり、隷属されていたりでは無いので、魔王の役に立とうと自ら立案した作戦を実行している、いわば、ゲリラなのだ。
ゴロツキが攫われているのは、ゴロツキを使って工作をさせたいからの様だが、隷属の首輪を付けている以上、洗脳も誘導も意味が無い。
昨日は、エルフの森で殺されている者が多く見つかったので、近々エルフの森の魔族を殲滅する作戦を立案してある。
すぐに対応しないのは、攫われたと言っても、肩に担いで連れ去られたのではなく、甘言に乗ってついて行ったら、途中で眠らされて連れ去られるパターンが多く、魔族に加担しようなどと馬鹿な考えを持ったが為の殺害なので、急ぐ必要は無いんだよ。
人間を裏切ったって事だからね。
スラム街の方は、宿舎の土台と躯体を作った。
重さに耐えなきゃいけない、柱と梁はしっかり作るが、床と壁は、割と適当だ。
使うセメントには、砂と砂利と、アラクネの糸を5cmくらいの長さに切った物を混ぜて、結界を組み合わせて隙間にセメントを流し込む。
アラクネの糸は、ゴロツキを縛っていた物を裁断して、再利用している。
普通に考えれば、水平の隙間にセメントを充填するのは難しいが、魔法があれば空気を抜く事は容易いし、結界は透明なので、空気が溜まっている場所も判るのだ。
骨剤をバイブレーションで振動させてやれば、セメントの密度は高くなるので、頑丈になるし、綺麗に仕上がる。
セメントは通常、固まるまで数日かかるが、化学反応も乾燥も魔法でコントロールできるので、一瞬でできあがるのだ。
最終的には、それぞれの材料を別々に入れて全体に行き渡ってから、アルケミーミクストで混合してアルケミーケミカルリークションで合成、化学反応させてから、余分な水分をドライで乾燥させて完成させた。
ベッドを置いて、扉を付けたら、子供が居る家庭を優先的に入居させて完了だ。
独り身は、5畳の狭い部屋だ。
みんな、服なんて殆ど持ってないし、持ち物も少ない。
寝巻に着替えて寝るのは、貴族だけだし、元々スラムの住民なので、荷物がある奴が居ないのだ。
普通の平民にしても、服を2着持ってる奴自体が稀なくらいだから、スラムの住人が予備の服を持っている訳も無く、部屋の中に収納が一つあれば事足りる。
金庫については、各部屋にディメンションホールを設置して、本人を登録するだけだ。
魔王みたいな例もあるので、干渉されたら、ライトニングとペイン、ついでにパニックも付けて反撃だ。
入居者が竃を使ってみたらしく、火力の強さに驚いたと騒いでいた。
燃料は、バレイショの幹を乾燥させたものを使っていて、北方の領地で兵士の訓練がてらに量産している。
成長速度が半端ないのと、荒れ地でしか育たないので、バレイショの収穫と共に産出されている。
完成した宿舎に、ドワーフが入居したいと希望していたが、駄目に決まってんだろうが。
何でも、ドワーフは木や土よりも、石に囲まれた家の方が落ち着くとか言っているのだが、実際は力がありすぎて、木製ではすぐに壊れるからだと思う。
次は工場の建設だが、工場とは言っても、デカい桶に磨り潰した豆と塩と麹を入れるだけなので、倉庫の様な広い空間の建物を作って、上から確認できるようにする通路と小分けする時に使うレーンを作るだけだ。
磨り潰すのは石臼を使うのだが、デカくて重たいので、ゴロツキの出番となる。
品質管理と味見は、エルフの役目だ。
作り方が判れば、色々試したくなる様なので、新製品の開発もやらせておく。
醤油の工場の方も同様の作りだが、こちらは毎日攪拌する必要があるので、通路は広めにとってある。
工場の作業員の募集をした所、エルフの8割が希望したので、くじ引きで決めた。
4000人のくじ引きとか、凄く大変かと思ったんだが、あっさりと決まった。
最初に10人単位のあみだクジで、10分の1の400人にして、2回目もあみだクジで40人に。
必要なのは30人なので、ハズレの10人を棒くじで選んだのだが、悲壮感が凄かったので、作り方を教えて、モルトファンガスから作った麹を渡して、帰ってもらった。
各地では、あみだクジが面白かった様で、ブームになった様だが、何でもかんでもあみだクジで決めようとするので、食事の良し悪しをあみだクジで決めさせる以外は、禁止にした。
トイレに行く順番までも、あみだクジで決めようとするから、作業が全然進まないんだよね。




