第39話 ソフティーの子供と寄生虫
『アルティス様、さっき通った筈の傭兵たちが、また来ました。どうなっているんですか?』
『そいつらは、ちょっと粗野な話し方か?』
『はい。アルティス様の事を呼び捨てにしていますね。』
『本物だから通してやれ。』
『アメリア、遅いぞ。』
『おお・・・すいやせん。ちょっと途中で飲みすぎまして・・・』
『お前らの偽物を捕まえた処だ。』
『あぁ、やっぱりそうか。うち等にそっくりな連中が居るって、あちこちで言われたんで、急いで来たんですがね?、追いつけないんですよ。何か迷惑かけられたりして無いですか?』
『そうだなぁ、気持ち悪いアメリアを見せられて、ちょっと気分が悪くなったかな。』
『はぁ!?気持ち悪いって・・・お前達笑うんじゃないよ!?』
『早く来い。見えてるだろ?』
『うっす、すぐ行きます!』
「はぁ、こいつらですかい?あたし、こんなに黒く無いですよ?」
『これは変装が解けた状態だからだよ。他の連中はそっくりだろ?』
「まぁ、似てるっちゃぁ似てますが、ヴァイスくらいじゃないですか?」
『知らない奴が見たら、判らないからな。』
「アルティス様ー、会いたかったです!」
『シャナは元気そうだな。むさい奴らばっかりで、ヘタレてるかと思ったのに。』
「それ、あたしも含まれてるんです?」
『寧ろ、含まれてない可能性があるか?』
ブフッ
「あたしほど可憐な傭兵は居ないですよ?」
『可憐の意味間違ってないか?』
ゲラゲラ
「あんた達!笑うんじゃないよ!」
「この人達が、神聖王国で捕まえた傭兵団ですか?」
『そうだよ。へっぽこ傭兵団だ。』
「違うよ!?ヘッポコ扱いはちょっと酷い。」
『城の連中みたら、へっぽこだったと実感できるぞ。全員いるか?おい、チロルはどこだ?』
「ちょっとお腹減ったので串焼き買ってました。ってか、チコルですよ!?」
『食っててもいいが、落とすなよ?』
「大丈夫ですよ。」
『[テレポート]』
「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」
傭兵たち全員が驚いた様で、口を開けて驚いている。
『ほら、落ちるぞ?串焼きが』
「うわっとと、て、テレポートって、伝説の魔法じゃないですか!?」
『教会で使えるぞ?使ってただろ?』
「あれは、ポートがあるからですよ!?今は無かったじゃないですか!?」
『だから、落ちるっての。汚すなよ?メイドに張り倒されるぞ?』
「で、さっきの連中はどこに?」
『牢屋の中だ。』
「はあー、もうアルティスさんは規格外過ぎて、顎が疲れちまいますよ。」
『大変だなぁ。でも、まだ序の口だぞ?カレン、風呂場と兵舎を案内してやってくれ。』
「はい、了解です。」
「カレンさんっていうのか、めちゃくちゃ強いんだな。そっちの人も強いんだな。俺等やっぱりへっぽこかも知れねぇ。」
ヴァイスは、相手の力量を見れるまでに成長した様だな。
『こっちのは、リズだ。二人とも、最初に俺の家臣になった騎士だ。サイクロプス程度ならソロできるか?』
「やった事は無いですが、自信はあります。」
「私は、ちょっときつそうだけど、まぁ、行けそうだとは思いましたよ?」
カレンは自信満々、リズは少し不安ってところか。
『それじゃぁ、頼むよ。』
「畏まりました。」
夕食時、大食堂の席で、アメリア達がどんよりした雰囲気を出していた。
『どうしたんだ?』
「あたしら、圧倒的にへっぽこだったああああああぁぁぁぁ」
「というか、ここにいる兵士は、みんなおかしいですよ。強さが異常過ぎます。どうやったらあんな風になるんですか?」
ヴァイスが疑問に思うのも無理は無いが、意外と簡単な事なんだよな。
『簡単な話だ。自動回復を使わずに鍛錬すればいいだけだ。』
「へ?それだけ?」
『筋力ってのはな、負荷をかけないと育たないんだよ。ここにいる連中は皆、回復を使う暇も無く走らされて、ヘロヘロになった所でやっと使えるというのを、繰り返しているんだよ。』
アルティスの説明を聞いた全員が、目を見開いている。
兵士も含めた全員がだ。
『回復を常時使いながらだと、疲労という負荷を感じる事が無いから、体が疲労を覚える事が無い。疲れを知らなければ、それ以上を目指す事をしなくなるのは道理。疲れを知れば、疲れない体を作る為に、筋肉が付くのも道理。ダラダラやるのと、必死にやるのでは、内容が違ってくるのは、当たり前の話だろ?』
「楽を選んでは駄目ということですか?」
『当然だろ。修行するのに楽々こなしてたら、修行できていると思うか?』
「はぁ・・・」
『限界を知らなさ過ぎるんだよ。だからどこまでやれるかが、予想できない。筋肉付けるのにMPは関係無い。関係あるのはスタミナだ。訓練中によそ見をするなよ?ステータスなんて、見てる暇は無いからな?』
カレンとリズがニヤニヤしながら、1か月前の事を思い出す。
「アルティス様との模擬戦を思い出しますね。ステータスを視ようとすると、攻撃を受けるので、見てる暇が無いんですよ。一番最初の訓練が終った時に、ステータスを見てびっくりしましたしね。」
「そうそう、それまで半年間、全然ステータスが上がらなかったのに、アルティス様の扱きを経験した直後から、ぐんぐん伸びて行ったもの。」
カレンとリズが言ってるのは、モコスタビアを出発した直後の話しだな。
自動回復を解除させてからは、ステータスを見る暇を与えない様にしていたのだ。
戦闘中にステータス確認など、集中力が足りてない証拠だからな。
この世界の連中は、疲労を感じると、全員自動回復を覚えるんだよ。
最初に覚えていたから、怪我したら回復するんだろうなぁって思っていたら、ちょっと走っただけで、すぐに発動する。
この魔法には、常時と任意という選択肢があって、最初は常時にしていたんだけど、今は任意にしてある。
つまり、常時だと育たず、任意だと育つ、そういう事だ。
訓練前に切り替えさせればいい、なんて思うかも知れないが、こっそり戻す奴もいるんだよ?だから、扱く。
余計な事をさせない為には、暇を無くすのが一番早いのだ。
しかも、この自動回復ってのは、魔法なのにMAGが増えないんだよ。
人々の成長を阻害するだけの魔法なんて、作った奴誰だ?
「で、あたしらの訓練教官は誰が?」
リズを指名しようとしたら、近づいてきたあるじを見て、ゲハルトがとんでもない事を口走った。
「おいおいおいおい!ここには魔王でもいるのか!?」
「誰が魔王だって?」
『あるじがやる?こいつらの扱き。』
リズが警告するが、今更だな。
「ちょっと!あんた達謝りなさい!地獄になるわよ!?」
「明日みっちり叩き込んでやろうじゃないか!!」
アメリアが泣きそうな顔になってこちらを見た。
「アルティス様ぁ」
『俺、明日はソフティーの側にいるから無理。余計な事を口走る部下を持った事を後悔してくれ。がんばれー』
他の新兵も含め、全員が絶望の表情をしているが、いい経験だろう。
翌朝、日の出と共に訓練が開始された。
訓練場は、湿原地帯だから、火照った体もすぐ冷める、訓練には最適だね。
ソフティーの様子を見に来た。
『おはよう、ソフティー。調子はどお?』
『おはよう、アルティス!もうすぐ産まれるよ!』
パリ・・・パリパリパリパリ
殻が割れる音と共に小さいアラクネが、ワラワラと出て来た。
アラクネの子供達の最初の食事は、母乳ではなくて、巣だ。
元々、蜘蛛は獲物の中に溶解液を注入して、ドロドロに溶けた中身を吸うから、子供達も、糸を食べられる様に唾液で溶かして食べている。
アラクネの糸は、殆ど魔力と言っていいくらいの、多量の魔力を含んでいて、その魔力を食べる事で、成長をしているのだ。
キュプラの子達の時にもあった事なんだが、アルティスは膨大な魔力を持っているからか、大量に集まって来る。
そして、ソフティーが怒る。
『アルティスに傷つけたら、食うぞ!』
サササーっと散る子供達、一人だけその場に残る者がいた。
毛色が少し違うアラクネで、突然変異かな?
『この子はソフティーの子?』
『違う。別の種類のアラクネで、それで大人。』
『へー。そんなのもいるんだ。どこから入ってきたんだろう?』
『私の背中に卵付いて無い?』
『あ、あるね。取る?』
『うん、取って。私の魔力を吸い取られるから。』
と、その時、別種のアラクネが攻撃してきたが、回避してから制圧。
光魔法で虫篭を作って入れた。
ソフティーの背中についた卵を見てみると、少しずつ粘菌の様に根を伸ばして、根をソフティーの体に刺そうとしているのが見えた。
『[エクスフォリエーション]』
ポロポロとソフティーの背中から卵が落ちて行き、床に落ちる前に塵となって消えて行った。
『[エアクリーン]』
『[アナライズ]』
塵を消してから、捕まえた小さなアラクネを解析してみると、なんとコイツは、茸だった。
姿は小さなアラクネなんだが、顔が気持ち悪いのと、動きが少し変で、足が4本しか動いてないのだ。
模様は、黒い体に黄色の模様が付いていて、人型と腹のつなぎ目辺りに、茸の模様がついている。
何でそこに、その模様を付けたんだ?
コイツの種族は、アラクネ茸。
茸だから言葉は話せず、糸も出さない。
卵に見えたのは胞子の塊で、剥がすと塵になったのは、胞子の塊だったからだ。
知能も低く、食える訳でも無く、アラクネが増えすぎない様にする為の存在なんだろう。
『[ターゲット・ユースレスモルト・イラディケイション]』
念の為に、無益なカビを除去してみると、ソフティーの顔に笑顔が戻ってきた。
『調子が悪かったのが治ったわ!ありがとう!アルティス!!』
虫篭に入れていたアラクネ茸は、萎れて死んでいた。
『あれは、アラクネじゃなくて、茸だったよ。アラクネが増えすぎない様にする為のカビの一種だね。』
『そうなの!?初めて知った。』
ソフティーの子供達も万歳しながら、アルティスの周りに集まって、ウェーブし始めた。
『じゃぁ、リーダー格の子は手を挙げて?』
4人にそれぞれ、名前を付けた。
『ソフト、フワワ、テマリ、イート、君達の名前だよ。リーダーの後ろに整列してー』
全員に名前を付けて、アミュレットをソフティーに渡した。
『後で子供達に渡しておいてね。』
『判った。』
ソフティーには、[治療術]を施して、寝かせてあげるとしよう。
『何か食べる?』
『干し肉食べたい!』
100枚程渡した時に気が付いた。
在庫が殆ど無い事に。
『そろそろ、干し肉の在庫も減ってきたなぁ、量産体制を作るか。』
『カレンー』
『はい!何でしょうか?』
『砦に行くんだけどどうする?』
『行きます!』
カレンと狼人族の二人を連れて、砦に来た。
暗部とエルフ、一部のケットシーが整列して、片膝をついている。
「アルティス様、御来訪お待ちしておりました。」
『何かあったの?』
「味噌と醤油のご確認をお願い致します。」
そうだな。
前回確認してから、もう1月以上経ってるからな。
状態を見てみると、いい感じの薄茶色に染まっていた。
だし汁に溶いてもらって、皆で試飲すると、ほんのり甘く、塩気もいい感じで、美味しい味噌ができあがっていた。
『美味い!いいじゃないか!』
「美味しいです。豆がこんな風になるなんて、知らなかったです。」
「こ、これが味噌・・・我がエルフが追い求めてきた味噌がここに!」
厨房にいたエルフ達も、感動に打ちひしがれている。
醤油の方も確認してみた。
色合いはいい感じだが、少し薄い感じがする。
だが、味は良かった。
『醤油もいい感じの仕上がりだ。勇者の墓にかけてやろうかな?』
「これが醤油なんですか。味噌と同じ材料で作ったとは思えないくらいの違いがありますね。」
『これは、まだ薄口しょうゆだな。もっと熟成すれば、濃い口しょうゆになるから、両方作るといいぞ。』
「この醤油と味噌を使って、どんな料理ができますか?」
『ちょっと作るか。ステーキを焼いてくれ。こっちでは、ソースを作る。アンジョのスライスを軽く焦げ目が付くくらいに焼いたら、酒と醤油、砂糖二摘まみで酒精を飛ばしたらソース完成。』
「その香ばしい、いい香りは、醤油の焦げた匂い・・・凄く美味しそうです。」
『鶏もあるのか。それを皮目から焼いて、両面に焦げ目が付いたら、出汁、醤油、砂糖、酒、みりんを合わせてタレを作って、焼いた鶏を蒸し焼きにして、照り焼きの完成だ。』
「味噌の方は?」
『出汁に味噌を溶かして、賽の目に切った豆腐を入れて、豆腐の味噌汁だ。豆腐を薄切りにして水気を抜き、低温の油でゆっくり揚げて、膨らませて、一旦油を切って、次に高温の油で揚げると油揚げができるから、それを味噌汁に入れてもいい。味噌汁は、具財を変えると味も変わるから、色々試してみると良い。』
「へぇー、万能ですね。」
『味噌を溶く時に、小さいザルに味噌を入れて、擂粉木で溶き入れると、溶けやすくなるぞ。』
『味噌汁の出汁は、干物と昆布を使った方がいい。漁師に小魚を頼めば、小魚を売ってもらえるだろう?』
「すぐに買ってきます!」
暗部の子、行動が早いな。
『ついでに煮干しの作り方も教えておこう。小魚を一旦塩茹でして、それを干してカラカラにするんだよ。使う時は、5リットルにひと掴み分入れて煮る。灰汁が出るから、丁寧に取ってから更に5分くらい煮て、煮干しを取り除く。これで出汁が完成するんだが、昆布出汁と合わせると滅茶苦茶美味くなるんだよ。』
「それは、小魚じゃないと駄目なんですか?」
『バウンドパイクでもいい出汁になると思うよ。取り除いた煮干しも、醤油と砂糖で、甘辛く煮れば、良いおかずになるよ。』
『そういえば、ギレバアンって領主居ないままだけど、今どうなってるんだ?』
「落ち着いていますね。この砦が領主の館みたいになっていますから、暗部の子が領主みたいになっています。」
『候補者は居ないのか?』
「さぁ?」
『ここのエルフって訓練以外に何をやってるんだ?』
「訓練しかやってないですね。」
『じゃぁ頼むか。ここで干し肉を大量生産してくれ。転移用のポートを作るから、作った干し肉を各地で売るんだ。』
『2階のアスレチックも使われてる形跡が、無いしな。そこは味噌と醤油の熟成に使ってしまおう。』
「あの、ちょっと困っている事がありまして、この豆腐と云うのを作ると、カスがでるじゃないですか、これの処理が追い付かなくなっていてですね、どうしようかと。」
『おからか。当面は、粉状にして出荷するしかないかなぁ。畑に撒けばいい肥料になるし。処理できない分はもらって行こう。卯の花を作ってもいいんだけどな。』
「卯の花とは?」
『おからを使った料理だよ。刻んだ野菜を油で炒めて、おからを足したら、だし汁、砂糖、みりん、醤油を入れて、しっとりするまで煮詰めるだけだ。口の中の水分を取られる感じだけど、美味しいし、便秘にも効くんだよ。』
「美味しそう」
「誰か残りますか?」
『二人残れるか?』
「望む所です。」
『名前は?』
「シフェンです。」
「レングです。」
『よし、じゃぁシフェンは、ここで干し肉の開発と、大量生産の指導だな。コツは、狩猟するのは、スケープゴート。解体する人員は必要だな。各パート毎に作業員を決めて、作業を流れでできる様にする事だ。最初は、二人ずつ。足りないと思われる所に少しずつ人員を入れて行って、丁度いい人数にするんだ。干し肉は、ギレバアンでも売ってみて、売れ行きがいい味の物を多目に作るんだ。レングは、煮干し作りとおからの方頼むな。工夫次第で色々できるから、新しい料理もどんどん作ってくれ。期待してるぞ。』
「承りました。」
『味噌と醤油の大量生産も頼むな。』
「了解しました!」
『カレン戻るぞ?』
「あ、はい。」
城に戻って来ると、訓練場でぶっ倒れてる兵士達が見えた。
『アルティス、模擬戦やらないか?』
アーリアから念話が来た。
『んー、味噌と醬油の料理は夜になるけど、それでいいならやる。』
『完成したのか!?』
『味噌はいい感じだけど、醤油がちょっと薄口かなぁ。でも新作は作れるよ。』
『新作楽しみにしてる!』
『任せて。』
『さ、厨房行こうか。』
醤油も味噌も、まだ量が少ないので、醤油は麺つゆ、味噌は夜に味噌汁を作る事にした。
王城でも味噌と醤油の試作はしているが、まだ時間がそれ程経っていないので、完成には至っていない。
ジョセフィーヌがやってきた。
「今日のお昼ご飯は、発酵したものを使うのですか?」
『ハイエルフも味噌と醤油の研究をしているのか?』
「してますよ?エルフの存在意義ですから。」
『完成したらどうするんだ?』
「改良を重ねて美味しい物を目指します。」
『そうか、砦でできたんだよ、味噌と醤油が。見たいか?』
「ほ、本当ですか!?見たいです!!見せて下さい!!」
小皿に出してやると、じっと見つめてからこっちを見た。
「これがお味噌なんですか?色が薄く無いですか?勇者様は赤黒いって言ってましたよ?」
『赤味噌は、これがもっと発酵が進むとそうなるんだよ。でも、俺は、このくらいが好みだな。勇者は名古屋出身なのか。八丁味噌とか言ってなかったか?』
「言ってました!!何故それを?名古屋という地名も何故知ってるんですか?」
『同じ世界出身だからな。俺は東京出身だから、勇者とは別の地域だな。』
ハイエルフの驚愕の表情を見た奴って、この世に何人いるんだろうか。
今度、エルフ達に聞いてみよう。
「お、同じ世界出身!?アルティス様は、同じ世界出身なのですか!?で、では、名古屋駅の隣の駅はご存じですか?」
『俺は、名古屋に電車で行った事は無いから、判らないな。名古屋は俺の住んでいた東京から400キロも離れているんだよ。だから、名古屋の地理は、殆ど判らん。知ってるのは、熱田神宮くらいだな。』
「では、スカイツリーという物はご存じですか?」
『あぁ、知ってるぞ?高さ634mの巨大な塔だな。俺が住んでた所からは、高いビルに登らないと見えなかったが、展望台に一度は、行っておくべきだったかもしれん。』
「勇者様は、そのスカイツリーに向かう途中で、召喚されたと言っておりました。」
『そうか、アキハバラのついでに寄ったんだな?』
「勇者様の御神像は見ましたか?」
『そういえば、ペティに、連れて行ってもらうとか何とか、約束してた気がするが、まだ見て無いな。』
「翼の一部が折れてしまったとかで、3代前の王が焦って連絡をして来ましたが、素材が判らないので、直せなかったのですが、アルティス様は直せますか?」
『無理。』
「この世界には無い素材ですか?」
『無いだろうな。作る必要性が無いからな。そもそも1000年前の代物なんだ。原型を留めている方が凄いと思うぞ?』
「どうにか直す方法は無いでしょうか?」
『アラクネの糸を使って、くっ付ければいいじゃないか。形ある物、いつかは壊れる。至極当然の話だろうが。元に戻す必要なんて無いと思うけどな。っと昼飯作るんだった。カレン、うどん作ってくれ。他の連中は、天ぷらを作れ。グリフォラファンガスとオーバジ、ロータスでいいだろ。』
「今日は小エビもあるみたいですよ?」
『じゃぁ、かき揚げも追加しよう。』
「バードックもあるけど、あんまり好きじゃないので入れなくてもいいですか?」
『美味しいのに。笹がきにするんだよ。包丁を寝かせて削ぎ取る様な感じで。切った物は、水に晒して灰汁を抜くんだよ。えぐみが取れて美味しくなるんだよ。水が黄色くなったら一旦水を入れ替えて。』
『つゆはもう少し濃いめに。じゃないと、うどんの味が薄くなるよ。酒とみりんも入れないと駄目だよ。甘みはみりんで調整して。』
「あの、アルティス様、味噌の作り方を教えてもらう事は可能でしょうか?」
『この味噌作ったのはエルフだぞ?』
「ええ!?」
『お前らが、戦争反対を唱えるエルフを追い出したんだろ?そいつらが作ったんだよ。』
「彼等は生きているのですか!?」
『多少数は減ったみたいだが、生きてるぞ。ケットシー達と一緒にいる。』
「あああああ、良かった!良かった・・・」
『邪魔だから部屋の外でやれ。ここで泣くな。』
出て行った彼らを心配していた様だな。
『エリスリール、ハイエルフのジョセフィーヌ・ユグドラシアって知ってるか?』
『お会いしたのですか!?』
『城に居るぞ?』
『ジョセフィーヌ様は、我々の事を最後まで擁護して下さっていました。生き延びていらしたのですね。良かったです。』
『あぁ、俺が助けなかったら死んでたからな。ギリギリ間に合ってよかったよ。』
『我らの恩人を助けて頂いたアルティス様へ、最大の感謝を。』
『その内、そっちに連れて行くよ。今は、君らの無事を聞いて、廊下で泣いてるけどな。暇そうだし、そっちで預かってもらうって手もあるな。』
『う・・・』
何か嫌そうだな。
『もう大丈夫だと思うぞ?ここに来る前に、叱ってやったからな。そっちで、味噌と醤油の改良でもしてもらえば、いいんじゃないか?』
『ジョセフィーヌ様がやると、全て腐ってしまうんですよ。』
あぁ、そういう事か。
ジョセフィーヌは、手を洗うって事を知らなかったからな。
『それの原因判るぞ?要は汚いんだよ。色んな所にペタペタ触った手のままで、味噌を作ろうとするから、雑菌が増えて腐るんだよ。小まめなクリーンとディシンフェクションで、清潔に保たないと駄目なんだよ。』
『そうなんですね。気を付ければいいだけ、という事ですか。』
『後で魔道具を作って送ってやるから、入り口前に小部屋を作って、そこに入ると消毒される様にすれば、大丈夫だよ。』
『あぁ、後は作業着だな。その部屋に入る時は、必ず作業着に着替えてから、入る様にすれば、いい。』
『判りました。設営の時に作っておきます。』
『うん、また連絡する。』
『ありがとうございました。』
『さぁ!お昼だ!配膳開始!』
配られた器を見て、困惑する者多数だが、麺を食べた事のあるアーリアが、さっさと食べ始めたのを見て、恐る恐る食べ始めた。
「お?以前食べたラーメンよりも太いな。スープが薄い感じに見えるが、魚の出汁か。美味そうだな。お前らも早く食べないと伸びるぞ?頂きまーす!」
ズルズルズルズル
「うん!美味い!濃いめのスープに太い麵がよく合う!天ぷらも美味いな!さすがアルティスだ!」
ズルズルズルズル
最近のアーリアは、感謝の祈りをすっかり忘れてしまった様だ。
ズルズルズルズル
サクサク
ズルズルズルズル
みんな啜れている様だ。
今後、麺料理を出しても問題無さそうだ。
午後は、孤児院に行ってみた。
孤児院では、お昼ご飯の真っ最中の筈だが、スープしか飲んでいない。
何でだ?厨房に行ってみると、リシテアが立て篭もっていた。
『ウルチメイト、これはどういう事だ?』
「あ!?あ、アルティス様!?いや、その、えっと、リシテアさ、リシテアがお腹空いたと我儘を言い出して、この部屋に篭ってしまわれたんです。」
『カレン、壁を四角く切り取れ。』
「いいのですか?」
『早くやれ。』
「はい。」
シャッシャッシャッ
ガラガラガラ
『リシテア、[アナライズ][アンチバイオティクス][バーミフォージ]ウルチメイト、何でリシテアが寄生虫に感染してんだ?』
『カレン、ポーションを飲ませてやれ。』
可能性としては、手伝いに来た子供が、生焼けの肉を出したとかか。
料理初心者には、ありがちな話だな。
『狼人族を一人孤児院に派遣してくれ。料理長就任だ。』
「どうされたんですか?」
『子供が作る料理だと気付いたんだよ。』
そう、可能性としては、かなり高いと思う。
孤児院では、トークン制を導入しているが、料理に興味を持つ子供が、オーク肉を使った料理をして、生焼けのまま出した可能性だ。
子供は、経験が少ないから、生焼けと気付かずに出してしまう事があるはずだ。
だから、悲しそうな顔でスープを飲む、子供達にも使ってみた。
『[アナライズ]』
子供達の場合、感染している子としていない子に判れていた。
これは、耐性がある場合もあれば、たまたま卵が無い部分を食べた場合、又は、最初の肉は火が通っていたが、お代わりをした肉は、生焼けだったとかだ。
『[アンチバイオティクス][バーミフォージ]』
『メイド、子供達に料理を手伝ってもらうのはいいが、肉を調理する時は、しっかり見張れ。野菜も買ってきたそのまま使うのではなく、一旦水に1時間晒してから使え。』
「何か理由がございますの?」
『肉には、寄生虫がいるんだよ。特にオーク肉のは危険だ。リシテアの様な異常行動に出る可能性が高い。野菜にも、虫が付いている場合があるから、流水じゃなくてもいいから、水に浸けておけ。』
「畏まりました。」
他の階で食べていた子供達にも、害虫駆除の魔法を使って駆除していった。
ちなみに、同じ効果の魔法を二つ使う理由は、たまに効かない奴がいるからだ。
考えられる理由としては、寄生虫が寄生虫に感染していた場合だな。
外側の寄生虫が死に、内側の寄生虫が残ったり、もしくは、虫か虫以外か。
「バネナ王国混成大隊輜重隊第4小隊所属、アンセム到着しました!」
『おい、輜重部隊にアンセムなんて奴いたか?』
王城にいる輜重部隊の隊長に念話で聞いた。
『居ませんよ。狼人族の名前じゃないですね。まだ誰も向かっていませんし。』
『早く決めろ!10秒以内に決めてさっさと連れて来い!偽物が来たじゃねぇかよ!!』
『はっ!すぐに向かわせます!!』
『カレン、偽物だ!』
ズダーン
「がはっ!な、何を!?」
『狼人族に投げ飛ばされて、何をーなんて言う奴はいねぇな。魔王聞いてるな?孤児院に手を出そうとしたのは悪手だったな。俺の逆鱗なんだよ、ここは。細切れにしてやるから待ってろ。[シグナルトレーシング][リバース・ディテクション][アイシクルブレード]』
この時、魔王の居城では、盗聴の魔道具から氷の刃が大量に生成され、玉座の間に降り注いだ。
魔王は、重傷を負いながらも、ギリギリで避けられた為、玉座が粉々に粉砕されただけで済んだ。
咄嗟に張ったアンチマジックバリアは、一瞬で破壊され、左に倒れる様にして避けた為、右腕が細切れになった。
すぐに魔王は医務室に運ばれて治療を受けたが、魔王軍には、体を再生する魔法が無い為、右腕が肩から無くなってしまった。
現場を目撃した魔族は、破壊された玉座を見て呟いた。
「恐ろしく鋭利で頑丈な氷の刃だ。切り口の断面が滑らかだ・・・。喧嘩を売る相手を間違えてしまったかも知れない。」
玉座のあった場所には、深さ50cmの水たまりができていた。
『チッ、殺せなかった。まぁいい、右腕を細切れにしてやったからな。』
「何処を狙ったんですか?」
『魔王の玉座だよ。』
「普通の神経なら、怖くてちょっかい出せなくなりますよね。」
『普通じゃないから魔王なんだろ。次また何かしやがったら、今度こそ磨り潰してやる。』
カレンに押さえつけられていた魔族は、アルティスの殺気を受けて、気絶していた。
ウルチメイトに話しかけようとして、後ろを振り返ると、ウルチメイトまでもが、口から泡を吹いて倒れていた。
『何してんだ?コイツ』
「アルティス様の殺気を受けた様ですね。」
『[ウォーター]』
バシャン
「うーん・・・、ハッ!あ、あ、アルティス様、す、すす、すみませんでした。私が付いていながら、寄生虫に感染させる等、も、申し訳ございません。」
『お前、新しい魔王に何をもらったんだ?お前の体に魔王の魔力の残滓が視えるんだが?』
「こ、このブローチが送られてきまして、捨てようにも、王都では捨てられる場所も無いので、ポケットの中に入れたままになっておりました。」
『何故報告が無い?』
「・・・。」
『返答が無いな。』
「ち、違うんです!自分でも何故報告しなかったのか、判らないのです!」
『スミル、王都内に複数の魔族が、人間のフリをして潜伏している。警備隊で捕縛しろ。』
『了解しました。』
狼人族がやっと来た。
「狼人部隊のルシールです。」
『随分と時間が掛かったな。』
「はぁ、すみません、取り合いになりまして、取っ組み合いをしておりました。」
『まぁ、想定内だ。お前は、ここで調理の指導役をしろ。子供が手伝いに来るから、生焼けにならない様に注意して、料理の指導をしろ。』
「はっ!」
ウルチメイトの方に向き直った。
『リシテアは、他の子と同等の事ができるようになったのか?』
「あ、はい。同じ様にトークンを使って生活をされています。我儘になっていた時の事を、よく反省しておりましたから、以前のリシテアに戻っております。」
『では、お前はもう用済みだな。』
「え?・・・ええええええ!?ちょ、ちょっと待って下さい。!わ、私はどうなるのですか!?」
『お前は、訓練に参加しろ。この国に居る魔王軍以外の魔族で、へなちょこなのは、お前しかいないからな。』
「んなっ!?捕虜だった魔族はどうなったんですか!?」
『アリエンの元で鍛えてるぞ?マッチョになって、一々ポーズするから、暑苦しい連中になってるな。』
「え?その中に入れと?」
『性格が暑苦しいお前が、全身暑苦しくなるのはキツイものがあるんだが、いざ裏切った時に、一発で死なれたら、つまらないからな。』
「絶対に裏切ったりしません!?断言します!絶対です!!」
『明日から行けよ?』
「ちょ、聞いてます!?裏切りませんからね!」
『サボったら、あるじとマンツーマンで指導を受けてもらうからな?』
カレンの顔の血の気が引いた。
リシテアがウルチメイトを探しに来た。
「あ、アルティス様・・・い、以前は、申し訳ありませんでした。皆に優しくしてもらうばかりで、調子に乗り過ぎてしまいました。これからは、ここで勉強しながら頑張って行きます。」
『随分と大人な感じになったな。ん、よくできました。もう、ウルチメイトが居なくても、できるな?』
「え?ウルチメイト居なくなっちゃうの?何で?何で私から皆取り上げるの?やだよ!寂しいよ・・・うわぁぁぁぁん」
『ずっと居なくなる訳じゃないんだよ。ウルチメイトは、孤児院を守る為に、強くならなければならないんだよ。リシテアだけじゃなくて、リシテアの友達も一緒に、守る様になる為の訓練をするんだ。』
「すぐ戻ってくるの?」
『ウルチメイト次第だな。』
「すぐに戻ってきますよ。私はこれでも強いんですから。」
『へなちょこだけどな。』
「大丈夫です。すぐに戻って来れます!やってやりますよ!!」
『リズ、明日からウルチメイトがそっちに行くから、扱いてやれ。』
『了解!』
「し、扱かれるんですか?」
『当たり前だ。短期間で戻る予定なんだろ?扱かれずにどうやって戻るつもりだったんだ?』
「いや、だって、私、オークくらいなら倒せますし。」
『ペルグルランデスースを倒せる様になれ。』
「・・・倒せる人いるんですか?」
「私が倒しましたけど?一撃で。」
信じられない者を見る様な目で、カレンを見るウルチメイト。
「何ですか?その目は。模擬戦してもいいですよ?」
「やりましょう。」
孤児院の広場で、カレンとウルチメイトの模擬戦をやる事になった。
子供達は、窓からの観戦だ。
『始め!』
カッカカカカカカカカカッ
ヒュヒュッ
『カレン勝利!』
最初は、ウルチメイトの速攻と素早い攻撃だったが、カレンが全てを捌き切り、疲れて腕が下に下がった、ウルチメイトの剣を絡め取って、首に当てた。
「すげー!かっけー!」
「キャー!カレン様ステキー!」
カレンへの声援を聞いて、カレンの顔が赤くなった。
オレンジ色の髪だから、多少赤くなっても判らないんだが、今回は真っ赤になっている。
以前は、ツインテだったんだけど、今はポニテにしてる。
料理する時に、ツインテは邪魔なんだそうだ。
まぁ、首を振る度に髪の毛がバシバシ当たっていたからな、リズの顔に。
「全部捌かれるとは思いませんでした。負けました。完敗です。」
『お前はスピードだけだな。力が全然無い。それと、足が弱いな。持続力も無いし、狙いも雑だ。手数を増やすなら、肘、膝、首、手首を正確に狙わないと、反撃を受けるぞ?』
「とんでもないバケモノですね。」
ウルチメイトの言い草に、カレンがイラッとした様だ。
「アーリアが怒る気持ちが理解できました。」
『ウルチメイト、そのバケモノってのは、あるじには絶対に言うなよ?死人が出るからな?』
「死人が出る前に、アルティス様が助けてくれますよね?」
『無理』
「アーリアの剣は、ドラゴンの鱗でもスパスパ切れますからね。」
「どんな切れ味なんですか、それ。」
「アルティス様お手製の武器ですよ。切れない訳が無い。」
『カレンの剣も、ほぼ同じくらいの切れ味だけどな。』
「戻って来れたら、それと同じ剣を頂けたりは・・・」
『馬鹿言え。側近でも無いのに、やる訳無いだろ。お前にやるのは、他の兵士と同じ剣だよ。』
「それでも、ワイバーンの牙入りだから強いですけどね。」
「あ、魔王の魔道具が・・・」
『あぁ、ワザと聞かせてんだよ。次にまた仕掛けて来る様なら、避けられない様に魔法を撃って、確実に殺す予定だからな。兵力でも勝てない、魔法でも勝てない。どうする?魔王よ。』
「確実に殺すとは、どんな感じでやるんですか?」
『そうだな、動けなくする方法は、幾らでもあるんだよ。ただの[バインド]でも動けなくなるだろうしな。魔王如きでは外す事なんて無理だろうよ。』
バインドに魔力を乗せてやった。
「え?今発動したんですか?」
『あぁ、したぞ?聞きながら、届くわけが無いなどと、思ってる様だったから、掛けてやったよ。頭悪いから、魔道具を通して声が届くんだから、魔法も届くって判ってないだろうし、教訓になっただろ?そのままにして置いてやるから、垂れ流した排泄物まみれで過ごせ。』
「うわぁ、臭そう。」
『前魔王と一緒だな。』
「えげつない。」
『さて、戻るかな。あぁ、その魔道具は貰っておくぞ。』
「ディメンションホールって便利ですよね。私も欲しいです。」
ウルチメイトも、元密偵らしくワザとらしく、入れる場所を発言した。
[リフレクション]と無詠唱で発動してから、ディメンションホールに入れた。
理由は、ディメンションホールの異空間というのは、他の人のディメンションホールと同じ空間にあり、空間魔法で捜索する事が可能なのだ。
つまり、時間はかかるが、ちょっかいを出したい相手のディメンションホールを突き止めて、暴発なり、地雷なりを仕掛けておけば、物を取り出した瞬間に、怪我をさせる事が可能になる。
アルティスの様に、様々な物を入れてあると、対象にする物を探すのに苦労するのだが、魔王自身が作製した物を探し出すのであれば、自分の魔力を探せば簡単な話だ。
王都に多数の魔族を送り込んできた事から、時空間魔法が得意なのが判る。
つまり、同じ時空間魔法を使っている、ディメンションホールを探すのも得意という訳だ。
ただ、理論上は可能というのであれば、アルティスが対策を取らない筈が無い。
そこで使ったのが、リフレクション。
つまり、反射である。
魔法の強度は、圧倒的にアルティスの方が強い為、抜かれる事は無いし、付与された時点でリフレクションは、磁石の様な反発力を持つ為、何かを仕掛けても、全て反射されて戻って行くのだ。
ディメンションホールの中では、時間が停止している為、魔法が発動する事は無いが、リフレクションは設置型の魔法の為、付与された魔法は瞬間的に反射され、術者に戻ってしまうのだ。
魔王は、ディメンションホールを確認して、魔法の付与をした。
その瞬間、魔王の城の一角で、大爆発が起こった。
魔族の角の通信で、一報が報じられた。
魔王重症この報を受けた、バネナ王国にいる魔族達の反応は、二手に分かれた。
一方では、納得。
一方では、驚愕。
納得したのは、アルティスに関わった魔族達で、驚愕したのは、関わった事が無い魔族達だ。
アルティスが、何故判ったのかといえば、アルティスは、魔族を完全に信用した訳では無く、70%程の信用と30%の疑心だから、感情を魔道具でトレースしているのだ。
ウルチメイトにせよ、アリエンにせよ、角で通信できる以上は、念話とは違い、盗聴する事ができないし、防ぐこともできない。
前魔王であれば、殆ど無視して構わなかったのだが、魔王が代わったとなれば話しは別だ。
魔王とは、魔族の総大将であり、魔族は種族特性として、魔王に服従するのだから。
ただ、アルティスも手を拱いているだけでは無い。
アリエンの角と、ウルチメイトの角には、通信の有無を確認する為のトレース魔法がかけられているのだが、魔族兵全員をトレースし続けるのは不可能な為、魔道具で管理している。
通信と感情さえ確認できれば、後は警戒するだけである。
今回、ウルチメイトの角に魔王の痕跡を確認した為に、リシテアと孤児院から、引き離したのである。
ウルチメイトは、絶対に裏切らないと言ってはいるが、魔族が嘘つきなのは経験済みで、ウルチメイトは魔族の密偵であるのだから、警戒するのは当然の話だ。
では、アリエンはどうかというと、角折であるアリエンは、魔族の下に戻っても、迫害の対象である為、魔族に協力はしないだろうと予測している。
アリエンは以前から、遠くに居てもアルティスを見つけると、すぐさま目の前に来て跪く程に、忠誠を示すが、ウルチメイトはそんな事はしない。
では、裏切っているのかと言えば、裏切ってはいないのだ。
魔王に服従はするが、忠誠は低く、ウルチメイトの忠誠は、アルティスに振り切っている状態だ。
ただ、魔王の命令には、抗えないので警戒されているのだ。
アリエンの話しでは、角折には普通、命令は届かないそうだ。
まぁ、迫害しているという事は、魔族から信用も信頼もされてない訳で、使い捨ての駒としても使いたくは無いのだろう。
角折を使うは、魔王の恥とまで言われるらしいので、人員が居なくてどうしようもない時以外は、使われないだろう。
前魔王ですら、ノームまで動員しているのに、アリエンには音沙汰も無かったくらいだ。
城に帰って来ると、アリエンが待っていた。
「魔族の通信で、魔王が重傷を負ったと連絡がありました。アルティス様の攻撃ですよね?」
『攻撃というか、反射しただけだな。』
「反射?それだけだと、普通は軽傷で済むはずなんですが・・・」
『俺のMAGが少し乗るからだな。半分の半分乗るから、2000くらいか。』
「ブホッ!8000もあるんですか!?」
『もう越えてるな。まぁ、魔王が馬鹿でエクスプロージョンなんて使ったから、威力があったんだろうな。今頃向こうの城には大穴が開いてるんじゃないか?』
そして、威力の計算もちょっと大げさにしておいた。
本当は1割しか乗らないんだけど、それでも800だ。
前悪臭魔王のMAGがどれ程だったのかは判らないが、アリエンやウルチメイトの話では、MAGは低かったらしいので、今回もそれ程高くは無いのだろうと思われる。
訓練場では、相も変わらずへばった兵士達が、倒れている。
立っているのは、リズだけだな。
見に行ってみるか。
『リズ、頑張ってるな。』
「はぁはぁはぁはぁ、アルティス様、はぁはぁはぁはぁ、珍しいですね。」
『バリアはどこだ?』
「バリアはあっちです。」
『あぁ、猛特訓受けてるのか。バリアってあんなに、剣捌き下手くそだったっけ?』
「そういえば、そうですね。何かおかしいですね。」
『[アナライズ]・・・あいつ、どこで生肉食ったんだ?』
「え?生肉?」
『全員調べてみるか。どこかで生肉食ったか、生肉触った手で料理を作ったかだな。』
『[パラサイト・サーチ]』
『うーん、結構いるな。カレン、厨房でのチェックしておいてくれ。生のオークを触った手で、サラダとか作って無いか確認だ。他にも、生肉を切ったまな板で、サラダの野菜を切って無いかとかだな。生肉が触れた何かを、洗わずに使いまわしていたら、厳罰もんだ。衛生管理をしっかりしないと、戦力が低下する。』
「了解しました。確認してきます!」
『あるじ、ちょっと全員集めて。寄生虫持ってる奴が結構居るんだわ。』
「全員!整列!」
ザザザザザッ
『[アンチバイオティクス][バーミフォージ]』
『[パラサイト・サーチ]』
『んん??消えないな。ちょっとお前こっち来い。[アポート]』
ボトッ
でけぇよ。
出て来たのは、カブトムシの幼虫くらいの寄生虫だ。
『ポーションを飲ませて。こんなでかい寄生虫がいるのかよ。[アナライズ]こいつは、神経に張り付いて、動きを悪くするタイプみたいだ。元はオークだな。焼いてないオーク肉を食べた奴前に出ろ。』
ぞろぞろと20人が出て来た。
全員寄生虫が消えてない奴だ。
『お前ら、オークの生肉を食ったのか?』
「えっと、オーク肉の干し肉を食べました。」
『そんな物どこに売ってたんだ?』
「自分達で作りました。駄目なのでしょうか?」
『草食系獣人って寄生虫に耐性無いんじゃないのか?オークはな、肉の中に寄生虫の卵が沢山あるんだよ。だからオーク肉で干し肉は作られてないし、売ってもいないんだよ。何でそんなもの作って食ったんだ?』
「オークの肉で干し肉を作ったら、美味しそうだと思ったので、試しに作って食べてたんですが、皆に見つかって・・・それで。」
『やってみたい料理があれば、厨房かカレンか狼人族に相談しろ。新しい料理のアイデアは募集中だ。だがな、料理には、できるものと、できないものがある。肉を生で食べるのは以ての外だ。特に、オークと鶏は駄目だ。更に、草食系の獣人は寄生虫に耐性が無いから、更に駄目だ。料理の手法を知っている奴に相談して作ってもらえ。お前ら獣人でも、寄生虫に憑りつかれるという事は、今判明したな。寄生虫の卵は、加熱しないと死なないんだよ。だから、獣人だからと適当な調理で、勝手に食うな。判ったか?』
「はい。申し訳ございません。」
この世界では、生ハムなんて作ったら、自殺行為にしかならないな。
『[マルチアポート]』
ボトボトボトッ
『気持ち悪い。燃やすか。[ファイア]』
ボッ
火を点けると、それぞれが触手の様な物を伸ばして膨らみ始めた。
『[ホーリーボックス]』
イヤな予感がしたので、箱で包み込んだ直後、中で破裂した。
破裂した寄生虫は、液体をまき散らすのではなく、小さく分裂したようになって、中で蠢いている。
やはり、こいつも魔法生物、つまり人工的に作られた物らしい。
『気持ち悪いな。[インフェルノ]』
白い光を発して、熱気が放出されたが、発動自体が一瞬だったので、すぐに治まった。
アリエンとその後ろの魔族達は、跪いてというよりも土下座の体制をしている。
「アルティス様、インフェルノは火魔法の最上位魔法ですが、通常は数名の魔法師が合同で発動します。そして、色もオレンジ色の炎が普通で御座います。お一人で発動し白い炎を発するなど、伝説にもありませんし、聞いた事もありません。我々魔族は、アルティス様の至高なる魔法の技量に、感銘を受けました。魔族の王とは、魔法に高い適正を持ち、崇高なる高みを征した者のみがなれると、文献にはあります。今、正に『魔族の王にはならないぞ。』」
「はい、それは存じております。ですが、我々の王は、アルティス様であると信じます。」
『勝手に魔王なんぞにすんな。こんな魔法、長命なお前らなら、ちょっと練習すれば、誰でもできるだろうが。アホみたいな基準で王を決めるなよ。』
「いえ、誰にでもできるものではありません。」
『MAG値が3000あれば、誰でもできるんだよ。何でか知らないが、お前らは1000あれば十分だとか、変な言い訳付けて、上げようとしないから、できないだけだろ。』
「魔族は本当に上がらないのです。」
『上がらないんじゃなくて、上がる前に諦めてるだけだ。上がりにくいのは当然の話だぞ?必要な経験値が膨大な数字になるんだからな。俺だってそうだぞ?毎日毎日何かしらで魔法をバンバン使ってるから、サクサク上がるだけで、何もしてなきゃ全然上がらねぇよ。今の経験値なんて、途方もない数字になってるんだぞ?』
「経験値とは・・・?」
『お前らは、ステータスが、何を基準に上がって行くと思ってるんだ?きまぐれか?ランダムか?経験か?』
「経験だと思います。」
『その経験が数値になっているんだよ。その数値が、一定の基準値に達すると、ステータスが上がるんだよ。数値を稼ぐには、たくさんの経験を積まなければ稼げないんだ。最初は小さい数字だが、倍々で増えて行くから、上に行くほど上がりにくくなるんだよ。』
『計算すりゃぁ数値も多分判るが、面倒くさいからやらないけどな、今の俺の経験値は2億くらいだよ。』
「2億・・・途方もない数字ですね。」
経験値は、どのくらいあるのかは判らないが、多分、倍か、少し少ない倍率で増加していて、前回が2億だったので、次回は4億近い数値だと思う。
魔力操作を覚えれば、レベルが上がり易くなると思ったが、逆だった様で、消費魔力が減った分、余計に上がり難くなった気がする。
これは、魔力操作を使いこなすには、更なる熟練が必要になるという事なのかも知れない。
カンストがどれくらいなのかは判らないが、そう遠くないとは思っているよ。
上がり過ぎれば、ほんとにバケモノじみてくるからな。
「アルティス、STRや他のステータスにもあると思うか?」
『あるに決まってるじゃん。無ければ何を基準にあげるのさ。一番単純なのは、筋肉の付き方で変わる方法なんだけど、きっともっと複雑だよ。種族毎に上がり易いとか上がり難いとかあるでしょ?だけど、筋肉量に対してSTRの数値がおかしいじゃん?きっと、鍛えにくい筋肉を鍛えると、数値が上がり易くなるんだと思うよ。』
ステータスの数値については、現地人達にもよく解らない様だ。
もちろんゲームじゃないから、ボーナスポイントも無い。
筋肉量に対して、STRの数値が可笑しいと言うのは、アーリアはそれ程マッチョという訳では無いのに、STRが244もあり、普通のマッチョの3倍くらいの力があるのに対し、冒険者ギルドに行けば、身長3m近い筋肉の塊みたいなデカブツのSTRが150前後だったりする。
これを見るに、アルティスは同じ筋肉ばかりを鍛えていると、見た目の筋肉量が増えて、数値が伸びないのではないかと、思っている。
ただ、種族毎に、勝手にボーナスポイントが振られている、可能性は高いと思っている。
ステータスの育ち方には、種族毎に色々ある様だ。
例えば、狼人族と兎人族では、STRの上がり方に違いがあるとかだ。
狼人族の場合、割と均等に数値が上がって行くのに対して、兎人族では、AGIの上がり幅が高いのだ。
もちろん、走り方や腕の振り方も違うから、それぞれの種族単位の走り方を真似すれば、狙ったステータスの上昇が見込めるかも知れない。
ただ、元になっている動物の細かい特徴が生きているから、できない場合も多いとは思う。
とりあえずステータスの話は、一旦置いておいて、王都中の寄生虫の駆除を開始する。
魔道具をたくさん作る必要があるので、首輪のコピーを延々と作っている部隊を連れて来て、手本の魔道具を作ってから、コピーを作らせる。
魔道具の作成には、錬金術も関係してくるので、魔道具作り隊には、MPに余裕がある時には、ポーション作りもやってもらっている。
『スミル、街中でオークの肉を使った干し肉が売られてないか、調べてくれ。』
『何かあるのですか?オーク肉の干し肉は、結構人気が出てますよ?』
『寄生虫に感染して、異常行動を起こしたり、行動力の低下を引き起こすんだ。オーク肉の干し肉を売っている奴を摘発しろ。』
『了解しました。』
『コルスー』
『対応してますが、あの魔法は、結構きついですね。』
『いつ頃から出回り始めたか判る?』
『昨日からです。盗賊ギルドの構成員が、露店で売り始めました。』
『盗賊ギルド、潰すか。確実に魔族と繋がってるよなぁ。』
『可能性は高いと思います。殺しますか?』
『変身の魔道具付けてる奴から、魔道具を掏ってあげてくれ。王都の魔族のトップが誰なのかも、調べてくれ。』
『了解しました。干し肉が残り少ないのですが、頂けますか?』
『すまん、俺も在庫が少なくなってきているんだよ。砦で作らせているから、届き始めると思うぞ。』
『そうですか。こっちでは、スケープゴートが居ませんしね。仕方がありませんね。』
『未練たらたらだな。』
『みんな残り少なくなってきて、不安がってますので。』
『どんな安心材料だよ。そんな事より、寄生虫駆除の魔道具を作ったから、設置して来てくれ。』
街には、冒険者ギルドの本部の他に、支部が4つあり、その隣には診療所を設けている。
診療所には、回復魔法を使える者がおり、ポーションを常に大量に保管している。
それと同時に、各種魔道具も設置してあって、精神魔法、カビ、魔薬、毒、害虫、伝染病と各種状態異常を常に治しているのだ。
入り口前には、左手を挙げた招き猫があって、その中に魔道具を仕込んであって、撫でると商売繁盛のご利益があると、噂を流した。
商人達は、半信半疑ながらも、各ギルドに立ち寄るついでに撫でる様になったし、街の人々も真似をする様になった。
今回の寄生虫発覚で、各所の魔道具も更新しなければならないな。
街の乗り合い馬車の床下にも魔道具を仕込んでおけば、街中をグルグルと移動してくれるので、疫病対策にはぴったりだった。
乗合馬車の馬車は、最新鋭の装備で、安くて乗り心地が良いいと評判だ。
乗合馬車には、ベルが付いていて、一定距離を進むとベルが鳴り、乗合馬車が来た事を知らせる様になっている。
以前はゴトゴト揺れる馬車の上で、常にカラコロと鳴っていた為、乗ってる者からは煩いと言われ、近隣住民からの評判も悪かった。
今の乗合馬車には、ベアリングとタイヤと板バネ装備で、音が静か過ぎて来た事が判らないと言われる様になり、車輪に連動した羽が、ベルに繋がる棒を叩き、ベルが鳴るという仕組だ。
警備隊には、以前から乗合馬車のカラコロ鳴り続けるベルの音が煩いと、苦情が引っ切り無しだったそうだが、今の馬車になってからは、苦情が無くなった様だ。
乗合馬車とは、所謂路線バスの様な物だから、公共事業として御者と添乗員を配して、料金の徴収もしっかりやっている。
また、雇用創出と人の流動性を高める為に、人力車も制度として新たに作られた。
勝手にやらせると、荷車を使ってやろうとする者が出てきて、大勢乗ると遅くなるとか、たどり着けなくて迷惑かけたりするので、使える車両を認可を受けた工房で作った、専用車両のみに制限した。
また、許認可制度を作って、引っ張る人のスタミナと力を確認する為に、王都の周りを1周できなければ、許可が下りない様にしてある。
乗合馬車よりは割高だが、急いでいる時は、目的地まで早く着くので、利用したい人が多いらしい。
もちろん、この人力車にも魔道具を付けてある。
一々指示しなくても、勝手に街中を駆けずり回ってくれるので、使わない手は無いのだ。
休憩や、食事などで駐車する場所も決まっているので、その周辺には、マッサージ屋や露店などが立ち並び、修理屋もいるので、住民達も集まって来る場所になり、ますます魔道具の効果が上がるってものだ。
まぁ、当然行かない場所もたくさんあるので、そこには個別に魔道具を仕込むしかないんだよね。




