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第36話 エキシビションと人類の裏切者

 「リリー・アカシアと申します。ご命令により、参上仕りました。」

 『少し時間かかったな。何かあったのか?』

 「城を出たところで、貴族が奴隷になれと言ってきまして、ひと悶着がありました。」

 「おい!そこのエルフ!命令だ!俺の奴隷になれ!」

 『チッ、面倒くせぇなぁ。ちょっとぶっ飛ばしてくるか。・・・貴様は誰だ?ここがどこだか知っての狼藉(ろうぜき)か?』

 「なんだ?獣が喋っただと?ちょうどいい、お前ら、その獣を捕らえて、儂の屋敷に持ってこい。見世物にして「貴様!宰相様に言っていい発言ではないぞ!口を慎め!」」

 『ソフティー捕縛して、姿を現して。』

 「う、うわあああああぁぁぁぁ!な、何だこの糸は!?あ、あ、あ、アラクネだ!な、何をしている!アラクネを退治しろ!」

 『名を名乗れと言ってるんだ。誰だ貴様は?』

 「は、早くアラクネを退治しろ!街中にアラクネがいるんだぞ!」


 アルティスが、床に転がされた男の上に乗り、男の右頬を引っ叩いた。


 スパーン!

 『とっとと名を名乗れ。命令だ。名乗らぬのなら、牢にぶち込むぞ?』

 「わ、儂はペラード・スクラータムだ。伯爵だぞ。牢なんぞに入れたら、女王に怒られるんだぞ!?」

 『コルス、こいつの領の状況は判るか?』

 『ヨークバル領よりも少しだけマシな程度です。農民への税は7割です。』

 『よし、お前は、伯爵位をはく奪。今日から平民だ。資産は全て没収する。コイツが着けている宝石その他アクセサリーを全て取り除け。第一騎士団!1名をスクラータム領の領主にする。一人選んで派遣しろ!。第二騎士団アントニー、2名をスクラータム領に派遣しろ。領主邸を制圧して、領主家族を捕縛しろ!』

 『『『はっ!』』』


 『新領主はスクラータムを名乗りますか?』

 『陰嚢(いんのう)って意味になるけどいいのか?』

 『変えます。領の名前も変えた方がいいですよね?』

 『当然だろ。誰だよ、こんな変な名前付けた馬鹿は。』

 『何がいいですか?』

 『スクランプシャス』

 『意味は?』

 『とてつもなく美味しい。』

 『それにします。』

 『誰がやるんだ?』

 『私がやります。今日から、リアス・スクランプシャスです。』

 『そうか。お前の代わりになる奴はいるのか?』

 『ターレスがやります。』

 『全く、押し付けられました。』

 『じゃぁ、ターレスは第一騎士団団長な。副長2名決めておけ。』

 『『ええー!!』』

 『あの、取り消しは・・・』

 『無理だな。部下を放り出して行くやつを団長にはできない。以上。』

 『女王陛下、ペラード・スクラータム伯爵をクビ。今日から平民です。私を見世物にするとか、ほざきやがったので。代りに、元第一騎士団のリアスをリアス・スクランプシャスとして元スクラータム領の領主とします。領の名称も、スクランプシャス領に変更します。スクラータムでは陰嚢という意味なので。』

 『判りました。』


 『ちょっと、スクランプシャス領の領主邸に行ってきます。』

 『お気をつけて。』

 『リリー、孤児院の子供達に、魔法を教えてやってくれ。一度にやる人数は、決めていい。多すぎると手に負えなくなるからな。』

 「判りました。言葉の問題はどうしますか?」

 『今着けているアミュレットを外し、こっちを着けろ。』

 『キャリス、案内してやれ。トークン制の説明もしてやれ。俺は、ちょっと出かけて来る。』

 「畏まりました。いってらっしゃいませ。」

 シュン


 『あの、アルティス様。少しよろしいですか?』

 『ターレスか、どうした?』

 『私、第一騎士団の中では、最弱なんですよ。なので、騎士団長には向いてないかなぁと思います。』

 『騎士団長に必要なのは、何も強さだけでは無い。副長としてやってきたんだろ?だったら問題無い。自分には、相応しくないと思うのなら、相応しくなればいい。頑張れ。』

 『第一騎士団全員に告ぐ。今から騎士団長はターレスだ。以上。』


 スクランプシャス領にやってきた。

 この領は、円形山脈の東側にある細長い領で、一部魔王軍により侵略を受けた領でもある。

 街には活気は無いし、商店も無い。

 路地裏には、たくさんの子供が寝ている。

 というか、人口比率がおかしい。

 大人が少なく、子供が倍以上いるのだ。


 『領主邸は制圧したか?』

 『はい、制圧はしたのですが、もぬけの殻ですね。資産はある様なのですが、絵画や壺など持ち去られた様な跡があります。』

 『コルス、状況は?』

 『領兵が持ち去った後の様です。盗まれたのは、駄作の壺と贋作の絵ばかりで、大したものではありません。使用人達は地下に閉じ込められている様です。』

 『地下牢で使用人達を発見しました。三日間飲まず食わずだった様で、衰弱している様です。いま、水と干し肉を渡したところです。』

 『領兵の残りは?』

 『20名程残っています。兵舎に閉じ込められていたそうです。』

 『判った。コルス、領兵をとっ捕まえてくれ。抵抗する者は、殺しても構わん。』

 『一部は、家族と共に逃げている様ですが?』

 『家族も捕まえろ。盗んだのなら、罪は罪だ。』


 家族を連れていようがいまいが、捕まえる事に変わりは無い。

 コルスは、罰せられる事が気になる様だが、考え方がだいぶ変わったな。


 『本当に捕まえるのですか?』

 『悪い様にはしない。捕まえてこい。』

 『判りました。』

 『ここの領の子供は、誘拐されてきて、放逐された子供か?』

 『多分そうですね。』

 『リズ、狼人族達は、料理できるんだよな?』

 『はい、できます。ほぼ全員。どこに行かせますか?』

 『スクラータム領の領都に頼む。炊き出しを行う。それと、送還もやるから、人員が必要だな。』

 『暗部を5名でいいですか?』

 『それでいい。』


 全く、子供を何だと思ってるんだ?

 ふざけやがって!

 

 教会に狼人族を迎えに行くと、神官が泡を吹いて転がっていた。


 『何かやったのか?』

 『出てきたら、コボルトとか言いやがったので、威圧してしまいました。すみません。』

 『まだまだだな。そんな事をしてるから、小者に見られるんだよ。まぁいい。ついて来い。』

 『神官は・・・?』

 『放っておけ。街中に子供が溢れているのに、何もしない神官など、どうでもいい。』

 

 領主邸の前に来た。

 旅で使っていた竃を置き、火を焚く。


 『お粥をスープで作れ。それと肉を焼くぞ。』

 「「「了解」」」

 『領都にいる、飢える者よ。領主邸前広場で炊き出しを行う。器をもって集まれ!』


 ボチボチと人が集まってくる中に、頭の悪そうな連中も混じっている。


 「おーいい匂いさせてんじゃん。それ、俺らに全部寄越しな。痛い目に遭う前に、素直に渡してくれたら、何もしないで居てやるよ。」

 『叩きのめせ。』

 「「「了解!」」」


 ゴロツキは、後ろから飛んで来た糸に引っ張られて、領主邸の中に飛んで行った。

 アルティスは、風魔法を吹かせて、路地裏に匂いを届けた。


 『女性と子供優先だよ。そんな所に隠れてないで、早くこっちに来な。』

 「おい、あんな連中にやるなよ。俺達領民が優先に決まってるだろ?」

 『うるせぇ、子供の面倒も見れず、領主に不満があっても、文句を言わなかったのは、お前らじゃないのか?てめぇの不甲斐なさを棚に上げて、ふざけた事を言ってんじゃねぇよ。』

 「ああ?てめぇ「黙れ!この方はこの国の宰相様だぞ!口を慎まないと痛い目に合わせるぞ!ゴロツキの腰巾着め。」」

 「ひいいぃぃ」

 「宰相様!?そんな方がこの街に来るなんて、何かあったのですか!?」


 騒ぎを聞きつけてきたのか、人が集まって来た。


 『この街の路地裏にいる子供達は、誘拐されてこの街で捨てられた子供だろ?保護する為に来たんだよ。お前ら街の人間は、多少腹が減ってるだろうが、路地裏に居る子達はもっと腹が減ってるんだよ。先を譲れ。俺は飢える者と言ったんだ。飢えてねぇ奴らは帰れ。』

 「チッ、ただ飯食えると思ったのによ。ケチくせぇ宰相様だよ。」

 『あぁ、俺はケチなんだよ。昼間っから家でゴロゴロしてる連中に、食わせる物はねぇよ。飯が食いたければ働け。大人の癖に不甲斐ない。』

 「儂はこの街を仕切っている者でのぉ、一声掛ければ、数百人は集まるんだぞ?」

 『だから何だ?正規軍にゴロツキが勝てるとでも思ってるのか?こいつらは、毎日過酷な訓練をやってる、戦闘のエキスパートだぞ?住民に毛が生えた程度の雑魚が、何万集まろうが、大した労力じゃねぇな。集めたきゃ集めろよ。全員犯罪奴隷にして、死ぬまでこき使ってやるからよ。』

 「ほぉ、威勢のいいおチビちゃんだ。おい!全員集めろ!」

 ピィー

 『第二騎士団も出てこい。領主もな。力を見せつけるいいタイミングだぞ?』

 「既にいますよ。殺さず捕縛ですね?」

 『当然だ。復興の為の元気な労働力の確保だよ。安上がりでいいだろ?』

 「確かに。」

 『鎧来ている連中もいるな。領軍って奴か?雑魚ばかりだな。爺さん以外を懲らしめてやりなさい。』

 「爺さん?あぁ、儂の事か。侮ってる様だが、痛い目を見たいのかな?おチビちゃん?」

 『さぁ?痛い目を見るのは、お前の方だが、まぁ先手はお前にくれてやるよ。』

 「ふん、アラクネがいなけりゃ何もできない癖に、生意気な奴め死ね!」


 自称ゴロツキのボスが、アルティスに斬りかかってきた。


 スパーン!


 アルティスが剣の腹を叩いて軌道を逸らし、剣を持つ手を踏み台にしてジャンプして、男の頬を引っ叩いた。

 男は、10m程横に飛ばされて、気を失った。


 『一撃かよ。口ほどにも無い。あ、ソフティー、殺さないでね?じっくり重労働させてやるんだからさ。』

 『えー、アルティスの事馬鹿にしたから怒ってるんだよ!?』

 『まぁまぁ、領主でも無いのに、街を取り仕切ってるそうだから、こき使ってやらないとね。[鑑定]』

 「排除完了しました。」

 『ご苦労。逃げた連中は、暗部が捕らえたみたいだな。そこの物陰に隠れてる奴も捕らえておけよ?そいつがサブリーダーだからな。』


 鑑定でザッと周囲に集まったゴロツキを見て、物陰に隠れるサブリーダーを見つけた。


 「ギャッ」


 ゴロツキは全員奴隷にして、領主のいう事を聞く様に命令しておいた。


 路地裏から子供達がワラワラと出て来たので、器を渡して料理を配った。

 体調を崩している子には、[治療術]を掛けて、ポーションを飲ませた。

 ゴロツキ共は、すぐさま、街の掃除を命じて、作業をやらせている。


 『君達は、どこに住んでいたんだ?』

 「東のサンダルーン領に住んでましたが、領主様に捕らえられて、神聖王国に売られると聞いていたのですが、この街で解放されました。でも、子供だけで帰る事なんかできないので、路地裏に隠れ住んでいたんです。」

 『元々孤児だった子はいる?』

 「全員を知ってる訳じゃないけど、3人だけ知ってます。」

 『とりあえず、家族がいる子は、家に送ってあげるよ。ご飯食べ終わった子は、領主邸の中に入ってくれ。メイド、子供達に湯浴みをさせてやれ。』


 暗部達が馬車に逃げた領兵を乗せて、やって来た。

 仕事が早くて素晴らしいね。


 『アルティス様、逃げた領兵を連れてきました。』

 『ご苦労さん。みんな家族連れだな。独身のは別で来るのか?』

 『次の馬車に乗せてあります。』

 『判った。』

 『さて、領兵の脱走兵諸君、逃げた理由を教えてくれ。』

 「この領はもう駄目だと思ったんですよ。給金ももらえないし、税金ばかり高くなって、子供を養っていけないから、王都の新兵募集に応募しようと思ったんです。」


 代表者の説明に、他の兵士も家族も頷いている。


 『この領の領主は新しくなった。給金も払うから、またここで働かないか?』

 「本当にもらえるんですか?」

 『そうだな、兵士は月銀貨50枚、騎士なら金貨1枚。その代わり、訓練は厳しいが、王都の新兵になるつもりだったのなら、問題無さそうだな。兵士には、街の警備をやってもらうが、騎士なら、町周辺の魔獣狩りだな。屋敷の庭にゴロツキが積もっているが、連中を叩きのめす実力はすぐに付く。装備も新しく支給してやろう。簡単には死なない装備をな。』

 「税金は、何割ですか?」

 『兵士から、税金は取らないぞ?渡した給金から、税金を取ったら意味が無いからな。(むし)ろ、君らの給金の為の税金なんだから。』

 「でも、それでは、領の運営資金が無くなってしまうのではないですか?」

 『何でだ?領主の館の中には、大量の金貨があったぞ?かなり貯め込んでいた様だな。』

 「伯爵がそう言っていたんです。領の運営が厳しいと。」

 『それは嘘だな。給金を渡すのが惜しくなっただけだろう。今度の領主は、王都の第一騎士団団長の座を蹴ってまで、ここの領主になりたがった程の奴だ。領民の為に頑張ってくれるだろう。』

 「そ、そんな凄い人が!?この領が良くなるんなら、残って頑張ります!」

 『この領を良くするために尽力してくれ。』


 次に来た馬車には、ゴロツキに毛が生えた様な兵士が乗っていた。


 『貴様らは、何で逃げたんだ?』

 「ああ?領主が給金をくれねぇから、絵画とか壺を売ってとんずらしようと思ったんだよ。俺らを捕まえた連中が、全部ぶっ壊しちまったから、請求ならそいつらにしてくれよ。」

 『あぁ、請求はしないぞ。その前に、お前らは窃盗を犯したんだよ。領主が居ない間に、物を盗んで逃げた。つまり、脱走兵であると共に、窃盗犯でもあるんだよな。法律では、犯罪奴隷20年の刑になるんだが。』

 「あんなクソ領主に仕えたばっかりに、俺の人生が狂っちまったよ!クソッ!」

 「俺らは、世話になった孤児院に恩返しをする予定だったんだよ。だけど、給金は貰えないし、領民を脅して来いとか言われるし、もう、うんざりしてたんだよ。」

 「孤児院を守れなかったしな。先生に会わせる顔がねぇな。クソッ」


 なんだ、真面ないい奴らじゃないか。

 それなら奴隷なんかにする必要は無いな。


 『じゃぁ、犯罪を帳消しにしてやるから、兵士に戻れ。伯爵は平民になったから、別の領主に変わったんだよ。だから、給金もちゃんともらえる様になるぞ。』

 「アルティス様、こいつらちょっと臭いので、別の所に行ってもらえませんか?」

 『あぁ、悪い。すぐ終る。』

 「アルティス・・・!?あんた、宰相様か!?あの極悪非道の!?」

 『俺って、そんなに極悪非道な事やったっけ?』

 「さぁ?、子供に優しくて、兵士を大事にしてくれるし、差別もしない、凄く頼もしいお方だと思いますよ?」

 「ヨークバルの領主を惨殺したって聞いたぞ?」

 『殺して無いぞ?牢にぶち込んではいるが、三豚一家だったな。領民はガリガリだったのに。税率8割取ってる馬鹿領主だったぞ?』

 「8割!?ここよりヒデェじゃないか・・・。」

 『デーシャバルも監禁しただけだし、死んでたのはガメーツィだけだが、あそこは、領内に毒霧が漂ってたからな。俺は殺していないぞ?』


 とりあえず、夕方になったので、兵士達は縄を解き、子供達は領主邸に泊める事にして、狼人族を二人だけ置いて、王都に戻った。

 子供の人数は600人にも上り、中には口減らしで売られた子供もいる様で、ひとまず翌日に対応する事にした。


 『ルース、今どの辺?』

 『うお!?びっくりした。今は、円形山脈の麓にいますよ。明日には王都に着くと思います。』

 『ルースは、一旦新兵の訓練に回ってもらうから。騎士は第一騎士団に組み入れる。』

 『あれ?第三騎士団は作らないのですか?』

 『人数がどんどん減って行くんだよ。馬鹿領主が多くてさ、対応しきれない。』

 『あー、うちからも出しましたもんね。』

 『新兵は、今50人くらいいるらしくて、スミルじゃ手に負えなかったらしいから、カレンが今、扱いてるんだよ。』

 『リズさんとバリアさんはどうしたんですか?』

 『混成軍の鍛錬やってるよ。二人ともサボってたから、カレンが一人飛びぬけちゃってね。』

 『混成軍とも模擬戦をやってみたいですね。』

 『今度、全土の貴族を集めるから、エキシビジョンで模擬戦を見せるのもいいかもな。』

 『どの種族と対戦ですか?』

 『ドワーフ』

 『きつくないですか?武器はハルバードでしたよね?』

 『戦場で相手が長柄武器だったら、どうするんだ?』

 『経験を積ませるって事ですか?』

 『それ以外に何があるんだ?』

 『ですよねー。アルティスさんですもんねー。』

 『とりあえず、早く来るのを待ってるよ。じゃないと、俺が過労でぶっ倒れる。』

 『急ぎます。では、おやすみなさい。』

 『おやすみー』


 食堂で女王陛下と食事をしながら話をする事になった。


 「アルティスさん、また子供が沢山居たようですね。」

 『今度は600人ですね。ただ、口減らしも居る様なので、送る人数は減るかと思います。』

 「領内が安定すれば、返して欲しい農家も増えると思いますが、難しい問題ですね。」

 『一旦口減らしで売られましたから、子供も馬鹿ではありませんし、戻らない子供の方が多いと思いますよ。』

 「サンダルーンはどうする予定ですか?」

 『もう領主にできる人員も、余裕がありませんし、隷属で縛ります。相当な馬鹿なら考えますが、人員が足りないので、やり様が無いというのが、実情ですね。』

 「人材が増やせない理由は、何ですか?」

 『頭が悪い、それだけですね。』

 「頭がいい条件は、どんな内容ですか?」

 『街が発展する事の意味を知っている。人材の重要性を知っている。物事の本質を見極める事ができる。このどれかに該当するなら、頭がいいと判断できますね。』

 『まず、最初の、街が発展する事の意味ですが、街が発展すれば、人が増える。人が増えればお金の流れが活発になる。お金の流れが活発になれば、商人が儲かる。商人が儲かれば、税収が増える。これが理解できていれば、増税をしなくても税収は増えるんですよ。つまり、領が潤うという事です。ですが、殆どの領主は、税額を6割以上に設定をしていて、民衆にお金が無い。街が貧しいから商人も来ないし、居着かない。だから税収が増えません。税額を上げれば上げる程、税収は減って行きます。』


 『次に人材の重要性ですが、人材とは、人が働くことを意味します。人が働くには、技能や知識が必要です。ところが、領主が働く意欲を削いでいるのが現状です。人が働く意欲を持つには、安心してお金を稼げる、環境が必要です。つまり、物価が安く、家賃が安く、子供が元気に生活できて、食うに困らないこと。』


 『お金を稼ぐ理由は、食料の確保というのが殆どですが、服を良くしたい、広い家に住みたい、家族と幸せになりたいそう思って、働いています。ですが、領主が農民の税額を高くすると、農民は少しでも多く収入を得ようと、作物の値段を上げます。すると、物価が高くなるのです。商人の税額も高いですから、自分達の収入を高くするために、賃金を下げるのです。働く労力に賃金が見合って無ければ、働く気など起きないのが普通ですね。』


 『三つ目の物事の本質を見極める力。これは、税収が増えない事の原因が、どこにあるのかを考えられるかどうかです。税率を引き上げれば、飢える者が増える。飢える者が増えれば、人が減る。人が減れば税収は減る。負のスパイラルですよね?これを打破できる能力があれば問題無いのですよ。』


 「どうすれば解決できますか?」

 『知識を身に付けさせるか、君主制にするか、ですかね。』

 「君主制とはどういう仕組ですか?」

 『君主が税率や制度を全て決めて、貴族はその君主が決めた制度で、民を管理する。この国は、君主が居るが、貴族制ですね。本来、貴族には、ノブレス・オブリージュという、高貴なる義務があります。それが無ければ、真面に統治する事等できません。先日、私が言ったのは、世襲制の貴族制を已めるという意味です。貴族とは、血で決まる訳ではありません。優秀でなければ、ならないのです。貴族はその血統を守る為に、高い給金の中から養育費を捻出して、後継者を立派に育てて継がせるのが普通なのです。』


 『元々は君主制だった様ですが、いつから貴族が、税率を決められる様になったのか、判りますか?』

 「前王の時代ですね。前王は、考えるのが面倒くさいのを理由に、各貴族に、税率を決めさせる方法に、変えてしまいました。それを元に戻すという事ですね?」

 『そうですね。戻してください。それと、領内の孤児と、誘拐されてきた子供達を保護しろとも伝えて下さい。』

 「判りました。では、領主会議は、14日に執り行う事とします。議場は、謁見の間の隣に、全員が入れる議場がありますので、そこで行います。」

 『そこ、見ましたか?酷い有様ですよ?』

 「大丈夫です。錫杖の力によって、直しましたから。」

 『あぁ、そんな事もできるんですね。もしかして、書庫の復活もできたりしませんか?』

 「できますが、まだ見つからないのですね。」

 『そうですね。禁書庫はきっとディメンションホールになっていると思います。』

 「子供の頃に見た時は、何も入っていなかったと思いますが。」

 『そう見えるだけだと思いますよ。普通は、禁書庫というのは、封印されている物ですから、誰でも閲覧できるものでは、ありません。』

 「何があると思いますか?」

 『王位の継承についての、ルールブックが保存されていると思います。それと、嘘を見破る為の方法などでしょうかね。』

 「嘘を見破る?」

 『今回の様に、子供の誘拐についての嫌疑が掛かっている場合、殆どの実行犯は、嘘をつくでしょうから、それを見抜く術ですよ。』

 「今から、謁見の間に行って、開きましょう。」

 『はい、お願いします。』


 謁見の間に行くと、アラクネだらけだった。


 『キュプラの子達も、大きくなったなぁ。』

 「アルティス、彼女らに何か役目を与えたいのだが、何か無いか?」

 『大河での漁とか、セイレーン達の手伝いとか、円形山脈の警備とか、王都の警備とかかな。』

 『大河での漁は、行って欲しいね。13日の夜に晩餐会やるんでしょ?』

 「その為の料理の材料か。確かに必要だな。」

 『行きたがらないの?』

 「そうなんだよ。まだ子供だから、我儘でな。」

 『あるじから、手渡しで干し肉あげてみたら?』

 「これか?ほい。」

 『美味しい!!』

 「いう事聞かない子にはあげない。」

 ザッ

 『効果抜群だ。』

 「前より美味しくなったんじゃないか?」

 『改良したからね。旨味を吸って美味しくなってるんだよ。』

 『どの子を行かせる?マジックバッグとゴーグル渡すから、教えて。』

 「では、ラ隊から10名だけ向かわせよう。ララからラシまでだ。」

 ザッ

 「明日の昼までに、タイラントライスフィッシュを、5匹持ってきなさい。」

 サッ

 『じゃぁ、獲ったらこの中に入れて持って帰ってきてね。それとゴーグルを着けてね。文字は読める?簡易鑑定で名前が判るから、タイラントライスフィッシュがどれかも判るよ。違う魚が獲れても、全部入れちゃっていいから。人間が流れてきたら、助けてあげてね。頼んだよ。』

 コクコク

 「では、行って来い!」


 他のアラクネ達が、アーリアを見る。

 アーリアがアルティスを見る。


 『じゃぁ、王都の警備に5人、シープキャトル20頭捕獲に4人王都周辺の平野警備に15人、円形山脈の内側警備に20人、円形山脈外側の森に10人、お城の警備に6人、残り30人が暗部の警護で、丁度100人になるね。城以外の警備は、街道に影響しそうな場合のみ、狩りを許可する。オークの集落を見つけた場合は、報告。ゴブリンの集落も同様に。魔王軍を見つけたら警戒態勢を敷いてから、報告。警戒態勢は、5人一組で横並びに2km離れて配置。このマインドキャンセラーを使ってみてくれ。スイッチ入れて、魔王軍の方に投げ入れるだけだ。』

 『シープキャトルの捕獲は、20頭だけで、他は殺さない事。スケープゴートの大群を見つけたら、全部狩りとって入れてきて。干し肉の材料は、スケープゴートだからね。』

 「暗部の警護とは?」

 『貴族を連れて来るのに、暗部を使うんだよ。だから、彼女らの警護さ。』

 「必要か?」

 『要らないとは思うけど、念の為ね。囲まれたら厳しいと思うからね。』

 「可能性は?」

 『割と高め。』

 「そうか。領軍が集まる可能性は?」

 『それは無いね。MPが足りないからテレポートできないし、連れてくるのは3人までだから、騎士団長と妻と当主だけだろうね。』

 「アルティスだけ、狙われる可能性が高いんだろ?」

 『カレンを連れて行くから大丈夫だよ。』

 「そうか。それなら安心だ。ソフティーも行くのか?」

 『行くよ。防ぐのは、直接攻撃のみだけどね。』

 

 女王の準備が整って、禁書庫を開いた。


 「[フォルビデン・ライブラリー]」

 「本当にありますのね。見た目は空っぽですが、本が入っていますわ。」

 「これですね。」


 出て来た禁書庫は、予想通りディメンションホールを利用したもので、王以外は閲覧できない様になっている様だ。

 取り出した分厚い本には、継承権の秘密と、口伝で伝えられるべき内容が、書かれている様だ。


 「嘘発見の秘術も確認できました。」


 翌日、近隣の領から貴族たちが、続々と集まってくる中、テレポートを使って王都に連れて来る準備を進めていく。

 テレポートに向かう暗部達を集めて、小さくなったアラクネを連れて、向かってもらう。

 アラクネ達は、光学迷彩で見えなくしている為、手を出さないと判らないだろう。

 暗部達は、防具を身に付けてはいるが、それぞれにタキシードを着て、迎えにいく。


 『攻撃されたら帰ってきても問題無いが、制圧しても問題無い。ゴーグルに録画機能を付けたから、貴族の首を落とさない限り、罪に問われる事は無い。アラクネは、プ隊15人とラ隊15人だから、飛ぶ前に名前を聞いておけ。剣で傷つく事は無いから、守らなくても大丈夫だ。』

 『じゃぁ、どんどん飛ばしていくぞ。』

 

 それぞれの暗部達が飛んで行った。

 アルティスは、カレンとソフティーと共に、左上の領から順番に行く予定だ。数が多いので、爵位ごとに連れてくると、訳が判らなくなるためだ。


 1カ所目から攻撃されたが、カレンが、剣で切りかかってきた奴の剣を切り飛ばした為、領主が腰を抜かして、尻餅をついている。


 『ソフティー捕縛して行くよ。』


 10カ所終って、切りかかってきたのは、5領。

 何故か一つ飛びに切りかかって来るのだ。

 槍で突いてきた奴は、首を切り落とされた。


 次の20カ所は、切りかかってきたのは5領だけだった。

 残り11領はどうなる事やら。

 ちなみに、領の数は、74領プラス1で、プラス1が円形山脈の内側。

 残り74領の内、5領が領主が騎士で、1領が空席のバウンドパイク領、1領がホリゾンダル領、ハンザ神国は執事、神聖王国は第二騎士団のアントニーなので、その辺は自力で来てもらう予定だ。


 テレポートが全部終わった。


 「アルティス様、MP残量は大丈夫でしょうか?」

 『2割強くらいしか減ってないよ。全く問題ない。』


 カレンがちょっと引いてる。

 酷くない?

 当初の予定では、アルティスが一番外側だけを担当する予定だったのだが、暗部に行ってもらうと、MPがカツカツになって、動けなくなってしまう事が判明したので、近場の領だけにしてもらったんだよ。

 一人だけなら200くらいで済むんだけど、3人分となると消費量が増大し、MAGが500無い者では、総量の半分近くを消費する事になり、フラフラになってしまうのだ。

 MPは、魔法を使うエネルギーではあるが、体力の一部でもあるので、一気に3割4割消費すると、慣れていなければぐったりしてしまうのだ。

 感覚的には、フルマラソンで消費する体力が、一瞬で消費される様なもので、少し休めば動けるようになるが、敵の目の前でぐったりはできないからな。


 王都から遠い領が41領あり、その中で近い領はMP1000、一番遠い領が2000消費する。

 西側は、大河があるから比較的近い領しか無くて、東側がほぼ平原の為に遠いのだ。

 王都のある円形山脈は、国土のほぼ中央にあるのだが、本当の中央は魔の森の中なので、若干西に寄ってる感じで、東端にある領とそれより若干西にある数領が2000使う。

 大体75000MPくらい使ったから、2割強ってところかな。

 総量は29万だよ。


 『何で引いてるんだよ。酷い奴だ。』

 「いえ、すみません。41カ所で、総計7万近く行ってると思いますが、3割も減ってないとなると、30万を超えているのかなぁと、考えてしまいまして。」

 『越えてないよ。29万ちょいだよ。』

 「もう魔法は、使い放題ですね。」

 『まぁな。』

 『暗部は大丈夫だったか?』

 「はっ!、アルティス様のおかげで、怪我人はいません。捕縛者18名でしたが、全く問題ありませんでした。」

 『そうか。良かった。引き続き、警備の方を頼むよ。』

 「お任せ下さい!」


 今回捕縛した領主たちは、全員奴隷にして、引き続き領の運営をやらせる事になる。

 今回の会議の前には、領主たちの知能度テストを行う予定だ。

 IQテストとは違い、普通に計算ができるかどうかと、領地運営のやり方を問う内容だ。

 使う筆記用具は、こちらで全て用意しており、全て魔道具だ。

 カンニング防止と替え玉防止の措置を施してある。


 ペンを持つと、[ディスペル]と同じ様な効果を持つ、[イレーズ]で魔法の効果を打ち消すのだ。

 替え玉発覚は、3人いて、本物は来ていないらしいので、牢屋に放り込んでおいた。

 当人は、面倒なので、騎士3人を送り込んで、強引に連れてきてもらった。

 当然奴隷化しておいた。


 議場でテストを始めてみると、簡単な計算で躓く奴が多い事が判った。

 領の運営方針に至っては、税率を上げる奴が、7割。

 残りは、街を発展させる派だったよ。

 3割だけでも居てくれて助かった。


 解答用紙を確認していると、計算が全くできない者も居て、頭が痛くなってきた。

 幸いにして、すぐ隣に同じ大きさの領を持つ有能な領主が居る為、くっ付けてしまおうと思う。

 馬鹿領主は、殺してしまいたいが、できないので、何かをやらかす迄、放置する事にした。

 が、早速やらかしてくれた様だ。

 何と、王城内で立ちションしていた所を、警備していた兵に見つかったのだ。

 王城は、王の住まいだ。

 つまり、国の君主に対して小便をしたのと同義という訳で、投獄の上、後日斬首刑だ。


 昼食の際に、捕縛された馬鹿者共の発表及び、刑の発表を行うと、コソコソと鬼だ悪魔だとささやく声が聞こえた。


 『君ら人間には判らないだろうけど、我々動物系の者は、耳の向きを変える事で、一番奥に座っている者の囁き声も、はっきりと聞こえるのだよ。私の事を鬼とか悪魔とか言った声も、ちゃんと聞こえているのでな、不敬罪がどれ程重い罪なのかを、きっちりと教えてあげようと思う。』


 『まず、王城の物を盗む行為、これも不敬罪にあたる。王の物を盗むのだからな、当然と言えば当然の話だな。隣国のアバダント帝国では、不敬罪は全て火炙りの刑だそうだ。反対側のマルグリッド王国の場合は、全て絞首刑だ。どちらの国も死罪という事だな。』

 『当然、我が国も死罪だ。我が国の死罪には、2種類の刑がある。一つは絞首刑だ。死体は2日間野ざらしにされる。次に斬首刑だが、こちらは、民衆の前で行われる。』

 『自分のVIT値が高いから、切れない等と思っている者もいるとは思うが、第一騎士団の剣は、ミスリル製の鎧でも、真っ二つだ。君達程度のVIT値では、太刀打ちできないな。それと、VIT値は、人間の皮膚には適用されない。防具を着けなければ意味を持たないんだよ。』


 『次に、重臣への殺人未遂についてだが、これは、反逆罪にあたる。アバダント帝国では、一族郎党斬首刑だそうだ。マルグリッド王国でも同様に、一族郎党斬首刑だ。』

 『我が国も斬首刑だ、と言いたい処だが、今は領主を無暗に減らすのは、得策では無い為、代りの人材が育つまでは、奴隷契約にて領主を継続してもらう。但し、今までの様な頭のおかしい領地運営はさせないので、覚悟する様に。代りの人材が育ったら、斬首刑に処す。一族郎党ではない分、優しいと思え。』


 ザワザワ

 「よろしいでしょうか?」

 『いいぞ。』

 「その場合、身内の者は貴族として残るのですか?」

 『貴様の家族は、爵位を持っているのか?反逆者の家族を、何故国が補償しなければならないんだ?国外追放に決まっているだろ?』

 「子供がいてもですか?」

 『当たり前だ。乳幼児又は馬鹿な教育が施される前の子供なら、孤児として扱ってやっても構わないが、大人は駄目だ。孤児になったら当然、爵位は大人になっても戻らないし、戻すつもりも無い。』

 「将来、復讐に来るかもしれませんよ?」

 『来ればいいだろ。負ける要素は無いな。』

 「それ程までに強いのですか?」

 『ああ、強いな。オーガを単独で倒せる程にな。』

 ザワザワ


 『午後に、訓練場でエキシビジョンマッチを予定している。今朝、円形山脈の外側で、サイクロプスを捕獲したから、第一騎士団3名と戦わせる。君達の領軍では、何十人で対応するのか知らんが、我が騎士団であれば、数名で問題無く倒せる程度の雑魚だ。是非、参考までに見て行くがいい。』

 『また、我が王国軍には、他種族の混成部隊も存在している。エルフもいるが、ふざけた事を言えば、弓で頭を撃ち抜けと指示をしているので、撃ち抜かれない様に言葉に気を付けるんだな。』


 昼食後、訓練場の観覧席には、貴族連中が多数集まっていた。

 そこに、バリアが先頭で国旗を掲げて、第一騎士団が3列縦隊で一糸乱れぬ動きで、行進して入場してきた。

 後ろには、混成部隊がリズを先頭にして、入場しきてきた。

 こちらも一糸乱れぬ動きで、第一騎士団の後ろに並び、観覧席の女王陛下の方に向き直り、綺麗に整列した。


 「女王陛下に敬礼!」

 ザッ

 「直れ!」

 ザッ

 「休め!」

 ザッ


 その様子を見ていた貴族たちは、軍の規模と、一糸乱れぬ動き、線を引いたような綺麗な整列を見て、口をぽかんと開けたまま固まっていた。


 『女王陛下のお言葉である!心して聞け!』

 「第一騎士団と混成軍のみなさん、日頃の厳しい訓練に耐え、よくぞここまで鍛え抜きましたね。私も鼻が高い思いです。今日は、全領主が集まっているという事で、エキシビジョンマッチを行いますが、日頃の訓練の成果を遺憾なく発揮してください。」

 『陛下、ありがとうございます。では、デモンストレーションを先にお見せしましょう。』

 「直れ!」

 ザッ

 「全員配置に付け!」

 ザッ!ザッザッザッ

 「エルフ第一小隊!戦闘配置に付け!」

 ザッザッザッ

 「アルティス様、お願いします。」

 『[ロックバレット]!』


 空中に数百の石礫が出現し、エルフ達に向かって襲い掛かった。

 観覧席からは、悲鳴に似た声が上がったが、エルフ達が、次々と弓で撃ち落としていく様を見て、唾を飲み込んだ。


 「エルフ第一小隊!戻れ!」

 ザッザッザッ

 『如何かな?士気も練度も高い我々に、復讐心だけで勝てる者がいると思いますかな?次は、1か月前までは、ただの領軍の一兵士だった者が、現在は騎士としてここにいますので、元魔王軍のドワーフと戦ってもらいましょう。ドワーフの武器は、ハルバード。取り扱いは難しく、威力は高い。どのくらいの威力なのか、お見せしましょう。[ロック]』


 高さ2m程の岩を出現させて、ドワーフに切らせる。


 「ふんっ!」

 スパッドスン!ガラガラガラ

 おおおおおー!

 『次は、対戦相手の騎士、ルースの武器はロングソードです。極一般的な武器ですが、わが軍では、剣にワイバーンの牙が練り込まれています。普通の鋼鉄の剣では太刀打ちできず、ミスリルの剣なら受ける事は可能です。ですが、技量によっては、ミスリルでもいとも簡単に切る事は可能です。』


 ルースの目の前に、ミスリルの剣をバリアが立てた。

 呼吸を整え、ルースが剣を振ると、ミスリルの剣が縦に真っ二つに切れた。

 ・・・。

 その光景に、観覧席の貴族たちは、声も出ない。


 『では、エキシビジョンマッチ、第一戦目始めます。制限時間は10分。致命傷になる攻撃は、寸止めしますが、それ以外は当てます。寸止めになったら、決着ですが、制限時間を過ぎたら、引き分けです。』


 ルースとドワーフが10m空けて向かい合い、武器を構えた。


 「構え!始め!」

 ガキン!キンッキンッギャリギャリキンッ


 ルースが開始と同時に前に進み、ドワーフに斬りかかるが、ハルバードの柄で防がれ、石突を跳ね上げて反撃されるも、剣で弾き、反動を利用して襲い掛かるハルバードを剣で軌道を逸らせて避けた。

 一旦下がって、再びルースが攻めに転じて突きを放つが、ハルバードを回転させて軌道を逸らされ、浮いた上体に石突が薙ぎ払われたが、ブリッジの様に上体を逸らして避けた。

 ルースは避けた勢いを利用してバク転で離れ、息を整えながら、攻め方を考えている様だ。

 一方、ドワーフの方も、攻撃を全て防いではいるものの、ルースのトリッキーな動きと、素早い攻撃に防戦一方となりつつあり、攻めあぐねていた。


 白熱した闘いを見ている貴族たちは、ルースの剣速についていけず、飛び散る火花に驚きながら、固唾を飲んで見守っていた。


 二人の鬼気迫る攻防は、10分間続き、引き分けで終わった。

 二人は、がっちりと握手をして、観覧席にお辞儀をしてから、退場していった。

 貴族たちは、大興奮で惜しみない拍手を送った。


 次は、サイクロプスとの対戦だ。


 『両名とも、お疲れ様でした。次は、第一騎士団による、サイクロプスの討伐に移ります。捕獲したサイクロプスですが、魔王軍の中でも力が強く、大きな目からは、状態異常になる光線を発し、声には威圧が乗りますので、マジックシールドを張ります。サイクロプス程度の力では、壊せませんので、安心して見ていてください。』


 『サイクロプスが持っているのは、直径1mの大木から切り出された、こん棒です。鍛えてない人であれば、当たれば即死です。ぺっちゃんこになります。一方、第一騎士団の武器は、ブロードソードとロングソード、一人はタンク役としてタワーシールドを持っています。タンク役は、敵の注意を惹きつけ、攻撃をシールドで防ぎつつ、他の二名が、攻撃をする為の隙を敵に作らせます。』

 『サイクロプスの皮は分厚く、強靭ですので、普通の鉄製の剣では、刺す事もできません。また、我が軍の剣でも傷は付けられますが、急所となる様な場所は3メトル以上上にあります。倒すには、どうにかして、急所を届く所まで引き摺り降ろさなくてはなりません。彼らが、少人数でどの様にして倒すのか、よく見ていって下さい。』

 『これは、今までの、兵士を突撃させるだけの戦闘の時代は、終わった事を告げる為にお見せします。弱い兵士を何万集めた処で、この様な敵が来れば、数分で全滅してしまいます。私は、精鋭を育て上げ、数名でこの様な敵に、対応できる軍を作りました。お見せしましょう。わが軍の力を。』


 「始め!」


 バリアの号令と共に、サイクロプスの拘束が解け、イライラが募っていたのか、棍棒を騎士目掛けて振り下ろした。


 ブオン!

 ガキンッ!

 「はっ!」

 ズバッ

 「ギャアアアアオオオオォォォ」


 タンクが、盾でサイクロプスの攻撃を受け止め、ブロードソードを持った騎士が、いきなり腕を切りつけたが、サイクロプスには再生能力がある為、すぐに傷が塞がる。

 観覧席では、サイクロプスの叫び声に耳を塞いで耐える貴族達。

 サイクロプスの目が騎士を睨み、目が光った。


 キラッ

 「[ディスペル]」


 即座に光線を打ち消し、体制を整える騎士。


 ブオン!

 ガシンッ

 スパスパッ

 「ギャアアアアオオオオォォォ」

 ズドーン!


 サイクロプスの攻撃を盾でいなし、体制が崩れたところで、二人の騎士が膝の裏にある腱を断ち切り、サイクロプスを倒れさせた。


 ガアンガアン!

 「おらぁ!こっちだぞ!」


 倒れたサイクロプスの気を引く為に、タンクが顔の横で盾を鳴らし、挑発した。

 立ち上がろうとしたサイクロプスは、頭を下げて、タンク役を正面から睨もうとした。


 ズバッズバッ

 「[フレイムスロワー]」

 「シールドバッシュ!」


 ロングソードの騎士が、サイクロプスの体を支えていた腕を、手首の所で切断し、叫び声を上げようとした瞬間に、ブロードソードで首を切り落とした。

 だが、サイクロプスの生命力は、首を切り落としただけでは尽きないのだ。

 即座に首の切断面に火魔法を撃ち込み、再生を阻害して、シールドバッシュで胴体から首を離し、胴体の心臓部にある魔石に剣を突き刺した。


 ザクッ


 サイクロプスの目が見開き、目から光が消え、瞳孔が開いた。

 アルティスの魔力感知から、サイクロプスの点が消えた。


 うおおおおおおお!

 『サイクロプスの死亡を確認しました。健闘した騎士達に拍手を。』

 ワーパチパチパチパチ


 貴族達から、惜しみない拍手が送られた。

 王国の歴史上で、勇者以外でサイクロプスを倒した記録が無い事は、みんなが知っている。

 何故なら、勇者の物語に、サイクロプスを倒すのに、数十人の死者を出した話があるからだ。

 王国史の中で、初めて少人数で、サイクロプスを打倒するという、偉業を成し遂げた瞬間だった。


 本当は先日までは、オークを何匹かソロで倒して、解体後に晩飯のおかずにする、予定だったのだが、今朝になって円形山脈の外側に魔王軍が現れて、撃退したのだ。

 サイクロプスの他にも、ペルグランデスースや、オークジェネラル等を数匹捕獲してあるのだ。


 次は、アルティスの番である。


 『さて、サイクロプスの興奮も冷めやらぬ様ですが、次は私が戦います。相手は、オークジェネラル。冒険者ギルドでは、オークキングに次ぐ脅威度Bとされています。オークジェネラルは、一級冒険者でもソロで倒したという記録は無く、王国史に於いても、ソロで倒したという記録はありません。勇者伝説の中でも、オークジェネラル相手に、十数名の死者を出して、辛勝したという話がありましたね。今回、私は、ソロで対戦します。私の命を狙う方々には、面白くない結果になってしまいますが、まぁ、自分達がどれ程に浅はかだったのか、思い知るが良い。オークジェネラルが持つのは、どこぞの貴族の紋章が入った、バスタードソードですね。見覚えがあると思いますよね?取られたんですか?それとも、渡しちゃいました?魔王軍に。人類の敵である魔王軍に武器供与など、末代までの恥ですよ?まぁ、余裕で勝てますけどね。よく見ておけよ?コックブレイン家よ。』


 「ナンダ?オレサマノアイテハチビダナ。クッテモハラニタマリソウニナイゾ。」

 『おやおや、人間の言葉まで覚えているとか、教えたんですか?コックブレイン』

 「コックブレインガイルノカ。ブキトボウグヲテイキョウスルトハ、ナカナカニミドコロノアルヤツヨ。」

 『あららぁ?バラされちゃいましたね。魔王軍に武器を提供した事を。どうりですんなり山脈の外まで来てる筈ですね。どこに隠していたんですか?後で、領主邸を制圧させて頂きますね。ちなみに、円形山脈の外側に居た、魔王軍は既に全滅していますよ?無駄骨でしたね。残念ながら。』

 『さぁ、豚さんやりましょうかね。豚が武器を持っても豚に真珠・・・あぁ、意味が無いって意味ですよ?』


 今朝魔王軍が現れたと聞き、向かってみると、オークが武装しており、どこぞの貴族の紋章入りの武器を所持していた。

 暗部からの報告では、コックブレイン伯爵家が魔王軍に武器を提供し、領内を素通りさせたとの報告があった。

 コックブレイン領を出た後の途中にある街や村は、(ことごと)く壊滅させられており、多数の死者が確認されている。

 生き残った人々には、ポーションを使って治療を施してあり、周辺の魔王軍の残党を排除してあるが、国としては多大な損害を被っている。

 円形山脈の外側に集結した魔王軍は、捕獲した魔獣以外は既に殲滅してあるが、コックブレインの資産全てを使っても、受けた損害を(まかな)う事は不可能だろう。

 今回は、アルティスが直接実力を見せる事で、コックブレインに絶望を味わってもらう事にした。


 バリアの号令により、戦闘を開始した。


 「開始!」

 「ブヒー!」

 シュッシュシュシュシュッ

 プシュッ

 「プギャアアアアアァァァ!」


 オークジェネラルの攻撃を躱したアルティスは、スキルでは無く、爪を使ってオークジェネラルの皮膚に、部位ごとに切り込みを入れた。

 オークジェネラルの着ていた鎧ごと、切り込みを入れたので、一部の鎧は剥がれ落ち、血まみれの皮膚が見えている。

 ダメージを受けたオークジェネラルは、バスタードソードを杖の様に立てて、荒く息をしている。


 『さぁ、休んでる場合じゃないよ?ここは戦場なんだからさ。』

 スパッ

 ボトッ

 プシャー


 オークジェネラルの頭が落ちた。

 首から吹き出した血を浴びない様に、さっさと離れたアルティス。

 観覧席では、青褪めた顔のコックブレインと、冷や汗をかきながらコックブレインを横目で見る、近隣の貴族達が絶句していた。

 他の貴族たちも、今までは、宰相はアラクネの背後に隠れているだけで、弱いと思っていたが、単独で、一方的にオークジェネラルの首を刈り取ったのを見て、喧嘩を売った相手を間違えたと後悔していた。


 魔法にしても、貴族全員を守れるマジックシールドを張り、石礫(いしつぶて)を一度に数百も出し、シールドを出したまま、近接戦闘を行ったのだ。

 人間の常識では、シールド系の魔法は、術者が動いただけで解除されるのが普通で、術者が動いても、戦っていても、張ったままのシールドなど、見た事も聞いた事も無い。

 そして、強力な軍を作り上げたという手腕、愕然(がくぜん)とする貴族たちを他所(よそ)に、次のショーが始まった。


 『さて、コックブレインの処罰は、後回しでいいでしょう。次は、私の右腕と言える、側近の腕前を披露しましょう。彼女は、女騎士ですが、我が国で3番目の強さです。ちなみに、私は2番目ですよ?私より、もっと強い人が居ますので。』

 『カレンの相手は、少々実力不足ですが、ペルグランデスースです。巨体を生かした突進には、一級冒険者も慌てて避ける程の威力がありますね。大木も小枝の様にポキポキと折りながら、目の前にある物を、全て破壊する威力があります。一級冒険者でも、ソロで戦う事は無いそうですので、彼女もまた、伝説を作ってしまいますね。』

 『カレンの剣は、ロングソードです。特別製で、ドラゴンの鱗を練り込んでありますので、オリハルコンの鎧でも、紙の様に切り裂く事ができます。カレンは、温和な性格ですが、私が絡むと苛烈になるので、彼女の前で、私に絡むような事をすると、スライスされてしまうかも知れませんねぇ。既に袈裟切りになった領兵の隊長も居ますがね?』

 『無駄話も何ですし、そろそろ始めますか。』


 「始め!」

 ズドドドドドドドドドド


 今回は、ペルグランデスースという事もあり、カレンとペルグランデスースは、50m離れた場所から開始した。

 勢いよく檻から放たれたペルグランデスースは、カレンに体当たりしようと走り抜ける。

 対するカレンは、剣を抜いておらず、観覧席では女騎士が怖気づいて動けないのでは?と声を上げていた。

 ペルグランデスースが、カレンに衝突すると思われた瞬間に、カレンが動いた。


 シュッ


 カレンが半身になり、一瞬剣を抜いて、すぐに鞘に納めた。

 カレンの前を通り過ぎたペルグランデスースは、反転する事も無く、胴体が頭を巻き込みながら転倒した。

 たったの一撃で、一瞬だけ剣を抜き、倒してしまった騎士を見て、貴族たちは絶句した。


 そして、本日のメインイベント、アーリアの絶技の時がやってきた。


 『最後に、女王陛下の護衛として、常に側に控えている、我が国最強の騎士の登場です。私と従魔契約をしている、私のあるじ様です。世界で初めて、アラクネを力でねじ伏せ、従えた方です。この人は怒らせてはいけませんよ?私との対戦では、20対15で、あるじが20です。曲がった事と犯罪者は大嫌いですから、私の命を狙った方々は近づかない方が無難でしょうね。』

 『対するは、今回の敵で最大級のゴートキャトルです。今まで見た中でも最大級の大きさです。体長15m。でかいですね。あるじの剣もカレンの剣とほぼ同じですが、こちらはオリハルコンとドラゴンの鱗、魔力鉱石とダイヤモンドを使用しています。対抗できるのは、ヒヒイロカネくらいですね。アダマンタイトでは歯が立ちません。防具もドラゴンの鱗とアラクネ絹を使用した、特別製ですから、普通の剣では傷一つ付きません。剣のサイズは、ブロードソードサイズですが、片手剣です。さぁ!今回のメインイベントの始まりです!』


 「始め!」

 シュパッ

 ドスンッ


 一瞬で終わった。

 ゴートキャトルの首が落ちたのだ。

 頭の先から尻尾迄が15mと言っても、高さも12m程あり、頭が直径3m程なので、9m上に首がある事になる。

 それを、その場から一歩も動かずに、剣の一振りで首を落としたのだ。

 観覧席では、頭の上に()マークが浮かんでいる様な顔で驚いている貴族達。

 初めから切れていた?いやいや、生きているのを見ていたのだ。

 アルティスには見えていた。

 素早く振り抜いた剣の先から、圧縮空気の刃が飛んで行ったのを。

 ゴートキャトルは、頭が落ちた後も、まだ、死んだことに気が付かない様に、数分間立ち尽くしていた。


 『流石あるじ。今のは、剣の先から圧縮空気の刃を飛ばし、ゴートキャトルの首を落としました。並大抵の技量では、決して出せない。剣を極めたからこそ出せる技です。魔力は感じませんでしたから、風魔法でもなく、純粋に剣技だけで撃った事になります。』

 『では、本日の余興はこれで終わりです。今回倒した魔獣は、解体されて今晩の夕食に出されます。楽しみに待っていてください。』


 キンッ


 魔道具から撃ち出された毒針が、女王陛下のシールドで跳ね返された。

 まさか、今頃そんな事をして来るとは思ってもいなかったよ。


 『コックブレイン、まだ判っていない様だな。最高の騎士と、最高の武器や防具を揃えてるんだぞ?女王陛下の装備も最高の物に決まってるだろ?その程度の事も判らないとは、頭の悪さに恐れ入ったよ。コックブレインを捕らえろ!』

 『全く、一番守るべき相手の装備が、(おろそ)かになる訳が無いと、判らないのかねぇ?』

 「全くだ。私が側を離れるんだから、どうあがいても怪我一つ負わない程度の装備にするのが普通では無いのか?少し考えれば、判ると思うのだがな。」

 『さすが、人類の裏切者だな。』

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