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第35話 しばしの休暇と王都の事

 時は少し戻り、ガメーツィの対策を練っていたお昼頃、女王様の声明が発表された。

 この声明により、各地の貴族たちは、天と地がひっくり返ったかのような騒ぎになった。

 悪政が敷かれていたにも関わらず、何の処罰もされていなかった、3領地の貴族が粛清された事により、自分達の身も危ないのではないか、という疑念が生じたのだ。

 この事により、各地では放置されていたゴロツキへの対処が厳しくなり、冒険者ギルドは、自主規制が為され、商人ギルドでは、訪れた商人たちの馬車が、検閲されるなどで、誘拐に加担していた者達が、次々と捕縛されていった。


 各地の領主たちは、自分達の潔白を証明する為の資料を持って、王都への移動を開始する準備をし始めた。

 暗部達には、遠い地方の貴族達に、迎えに行く旨の連絡をさせて、一気に集める事になった。

 アルティス頼みである。


 『大変なんじゃないですか?』

 『じゃぁ、コルス手伝ってくれよ。』

 『MPが足りませんよ。』

 『魔力鉱石を使って飛べばいいじゃん。』

 『その手がありましたね。』

 『67領あるから、何人出せる?』

 『60人出せますね。』

 『じゃぁ、出してくれ。一番遠い所は俺が行くから。魔力鉱石は極力見せない様にしてくれ。面倒ごとにしかならないからな。』

 『そうですね。』

 『それと、暗部全員に装備を支給してくれ。死なれると困るからな。あ、コリュスは除外で。』

 『何故!?』

 『アイツに渡すと、調子に乗って、挑発しそうだろ?』

 『・・・確かに。』

 『付与耐性ってのは、発動する度にMPが消費されるんだよ。だから、調子に乗っていると、MP切れでぶっ倒れるんだよ。』

 『コリュスなら遣り兼ねませんね。』

 『虫系なら防虫香で防げるからいいんだけど、ワザと殴られる様な奴は除外してくれ。』

 『了解しました。』

 『やった奴がいたら、キュプラの子達使って繭玉の刑に処す。』

 『伝えておきます。』


 繭玉の刑とは、アラクネ糸の繭玉の中に閉じ込め、上下に伸縮性の糸を繋げて、ボヨンボヨンさせる刑だ。

 一見面白そうだが、アラクネ糸の繭は硬く、中でシェイクされて、打ち付けられまくる為、今までに無傷だった者は居ないのだ。

 しかも、HPが9割減るまで続けられる為、気絶すると骨折しまくる。

 一番最初にやったのはアーリアで、目を回して気絶してた程だ。

 キュプラの子達が遊んでいたのを見て、やってみたいと言ったのだそうだ。

 何やってんだか。

 ガメーツィの対応も終わり、やっと王都に帰って来れた。

 で、何をやってたんだっけ?


 『・・・そうだ!?子供達の帰還が残ってたんだ。すっかり忘れてた。』

 シュン


 「アルティス帰って来たのか?ってあれ?・・・居ない。ハニービー?」


 クスノベルティに来た。

 フール・サムの様子は、特に変わりない様だ。


 『よう、ちゃんとやってるか?』

 「ちゃんとしないと、困るんだろ?やってるよ。ガキ共はいつ居なくなるんだ?」

 『命令に礼儀作法も追加しようかな。』

 「わ、判りました!やります。」

 『子供達はこれから移送する。誰も欠けてないよな?』

 「見張りが付いているので、大丈夫だと思います。」

 『そうか。では、子供達を預かってもらった分の費用だ。受け取れ。』

 「・・・意外にちゃんとしてるんだな。」

 『お前、ホントに言葉に気を付けた方がいいぞ?』

 「・・・気を付けます。」


 子供達の所に来た。


 『コルスはどこにいるんだ?』

 「ここに。何か用ですか?」

 『特に用は無い。』

 「酷くないですか?」

 『王都の周辺に浄化の木って無いか?』

 「ハニービーですか?」

 『そうだ。折角ハチミツを集める能力があるのに、使わないのは勿体ないと思ってな。』

 「無いですね。」

 『そうか。』


 『じゃぁ、移送を始めるかな。領別に分けてあるか?』

 「はい、こちらが、ヨークバル領、隣がデーシャバル領、向こうがガメーツィ領です。」

 『よし、お待たせしてすまなかった。これからヨークバル領主邸に送るから、領主に会いに行け。自宅には、領主の補佐が連れて行ってくれる。使用人の子供は、そのまま領主邸に住む事になる。領主は新しくなっているから、前見たく豚では無いぞ。これから、みんなで領を盛り上げて、住みやすい街にして欲しい。』

 『君達には、未来がある。希望がある。だから、困った事があったら、気兼ねなく、領主に聞いてみてくれ。新しい領主の名前は、ヨークバル領が、キース・ヨークナルだ。デーシャバル領が、マイク・センエーツだ。ガメーツィ領が、トモス・ビーキーパーだ。ガメーツィ領は、大きな不幸があったから、もしかしたら、みんな居なくなっているかも知れない。もし頼れる相手が居なかったら、領主邸に行け。もう一人で苦しむ必要は無い。』


 『では、ヨークバル領飛ばすから、みんな手を繋げ。繋いだか?いくぞ。みんな元気でな!』

 シュン


 『次、デーシャバル領だ。手を繋げ。いいか?いくぞ。みんな元気でな!』

 シュン


 『次、ガメーツィ領だ。手を繋げ。いいか?いくぞ。みんな元気でな!』

 シュン


 『ふぅ、ってあれ?君は?』

 「私、アルティス様の所に行きたいです!」

 『俺の所と言っても、孤児院だぞ?』

 「私、勉強したいんです!両親もいないし、兄妹もいません。お願いします!。」

 『じゃぁ、誰か連れてって。』

 「アルティス様が行けばいいのでは?」

 『特別な子になっちゃうだろ?駄目だよ。そういうのがイジメに繋がるんだよ。』

 「では、私が連れて行きます。」

 『頼む』

 シュン


 『よし、暗部も手伝わせて悪かったな。ご褒美だ。』

 「干し肉!ありがとうございます!!」


 干し肉の威力絶大だなぁ。

 まぁ、暗部は毎日美味い飯を食える訳じゃないからな。

 仕方ないか。


 「これ、何個までいいのですか?」

 『好きなだけ持って行け。』


 取り合いになった。


 『こらこら、喧嘩するなら取り上げるぞ?』


 大人しくなった。


 『ガメーツィ領で、新しい保存食の開発も始めるから、楽しみにしておけよ。ハチミツ入りの美味しいクッキーとかな。』

 『新しいバネナ王国になる様、尽力してくれ。』

 「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 シュン


 『あるじの所にいくか。』


 『あるじー』

 「アルティス!?もう、どこ行ってたんだよ。アルティス成分が足りなくて、困ってたんだ。」

 『なんだそれ?』


 キュプラが羨ましそうにこっちを見ている。


 「アルティス様が羨ましいです。」

 『何かコメントし辛い。けど、あるじの腕の中が一番落ち着く。ふあーぁあぁあぁあ』


 アーリアの腕に抱かれ、そのまま寝てしまった。


 「ふふ、寝てしまった様だ。頑張ったな。」


 2時間程寝て、目を覚ました。


 『女王様おはようございます。』

 「おはようございます。よく眠れたかしら?」

 『疲れが取れる程では無いですが、一休みできました。ヨークバル、デーシャバル、ガメーツィの平定は進捗(しんちょく)しています。ヨークバル領の新領主は、キース・ヨークナル。デーシャバル領の新領主は、マイク・センエーツ。ガメーツィ領の新領主は、トモス・ビーキーパーです。それと、出入りしていた商人の本店がある、マルグリッド王国国王に会いまして、友好条約の約束をしております。かの国は、昔にスタンピードを引き起こした国として、各国に賠償金を支払っておりましたが、王都は、中々に賑わっておりましたので、宰相の采配がいい物と思われます。』

 『まだまだ貧しい国ではありますが、これからどんどん良くなると思います。友好条約を結んで、仲良くするのがよろしいと存じます。』

 「国内に留まらず、隣国にまで手を伸ばすとは、破竹の勢いですね。ありがとうございます。数日後には、また、ご苦労をおかけしてしまいますので、それまでは、ゆっくりとお休みください。」

 『そうしたいのですが、そうも言ってられない事情がありますので、今晩ゆっくり休んで、明日からまた頑張ります。』


 何か、自分でもつくづく、ワーカホリックだなって思うけど、悪魔がはびこっている以上は、やらなければならない。

 そこの手を緩める訳には、いかないのだ。

 だって、自分だけ幸せになっても、周りが不幸だったら、きっと自分も不幸な気分になるだけだからね。

 優越感を感じられるのは一瞬だけなのさ。


 夜まで時間があるので、訓練場に立ち寄ってみた。


 「あ、アルティス様、お帰りになられたのですね?みんな成果を見せたくて、お待ちしてましたよ。」

 『ただいま。じゃぁ、ちょっと見せてもらおうかな。カレン、リズはどうした?』

 「リズですか?どこにいるのか知りませんね。訓練にも来ませんし、どこにいるのでしょうか?」

 『リズーどこにいるんだ?』

 『え?孤児院にいます。子供達に剣術を教えています。何か御用ですか?』

 『それはいつ終わるんだ?』

 『もうすぐ終ります。』

 『終ったらカレンの所に来なさい。楽しい訓練のお時間ですよ。』

 『すぐに向かいます。』


 リズが来るまでの間に、訓練の成果を見学する。

 中々に練度が上がってきた様だ。

 だが、チーム戦では、動きがバラバラで、息が合って無いから、思った成果が出ない様だ。


 「お待たせしてすみません。」

 『おう、じゃぁ、カレンとリズで模擬戦やって。』

 「「はい!」」


 まぁ、結果は見えている。

 カレンの圧勝だ。

 毎日人族を鍛えながら指揮を執るカレンと、お子様と軽く訓練しているだけのリズでは、差が出るのは当然だ。


 『リズ、鈍ってるぞ。その内、マルグリッド王国の王子も訓練に来るから、そんなんじゃ、会わせられないな。今のお前は、ルースよりも弱い。という訳で、明日からこいつらの訓練は、リズがやれ。』

 「判りました。」

 『カレンは、今やってる訓練をリズに引き継げ。それと、第一騎士団がぼちぼち帰ってくると思うから、そいつらの訓練もやること。バリアの訓練もやってくれ。アイツはすぐサボるからな。』


 「判りました。マルグリッド王国の王子とは?いつから仲良くなったんですか?」

 『一昨日だな。用があったから行って来たんだよ。』

 「いいなぁ、私も行きたかったです。」

 『観光じゃないぞ?外交だから、王様と面談が殆どだぞ?』

 「あ、それならいいです。遠慮します。」

 『来週には、全土の貴族が一気に集まるんだ。あ、そうだ、エルフも含めて、行進と整列の練習をしておけ。全員がビシッと同時に敬礼できて、行進も一糸乱れずに歩ける様にしろ。軍が強くても、ダラダラしてる様だと、恰好が付かないからな。』


 「うわぁ、難しそう。」

 『全員整列!』

 バタバタバタ

 『見てみろ。列がグニャグニャしてるだろ?あれを綺麗に並ぶ様にするんだよ。士気は高いんだ。だが、息が合って無い。さっきのチーム戦も、息が合って無いから、タイミングが取れないんだよ。個々の力が強くても、集団戦が苦手な軍になってる証拠だ。女王の前を行進できるようにしておけ。』

 「判りました。」


 『我々王都の軍が、領軍の手本となる様に、士気の高さを見せつけてやれ。』

 『全員右腕を伸ばして肩の高さに上げろ。正面の奴の右肩に触れる様に整列しろ整列の順番は、背が低い順で、種族別に整列しろ。整列する時は、バタバタせずに、さっとできる様になれ。』

 『行進の時は、剣を持って、顔の前に掲げる。片手剣は片手で、両手剣は両手で持ち、槍、弓、ハルバードは、普通の敬礼をしながらだ。王城前の広場を横切る様に歩いて、テラスに女王が立つから、女王の前では敬礼しながら歩き、通り過ぎたら直り、行進に戻る。そんな感じだ。全員の呼吸を合わせて、手の動きと足の動きを揃える。』


 『ディアマーナ3人でやってみろ。横一列に並んで歩いて、視線は真っ直ぐ正面、歩幅と手の動きを合わせて歩いてみろ。』

 「「「はっ!」」」

 ザッザッザッザッザッザッ

 『どうだ?決まってるだろ?全員でやったら、凄いと思うだろ?』


 3人の行進を見る目が、キラキラと輝いて見える。


 『この行進の先頭が、カレンとリズだ。』

 「「やります!」」


 そういえば、最近のソフティーが空気だ。

 実際に、見えないから空気みたいなもんなんだけど、光学迷彩で消えてるだけだよ。


 『ソフティー疲れてない?』

 『だいじょーぶ。アルティスと一緒にいると楽しいよ?』

 『それならいいんだけど。』


 道行く人々が不思議そうな顔で、こっちを見ている。

 光学迷彩を使った、ソフティーの背中に乗っているから、空中に浮いてる様に見えるんだよね。

 しかも、アラクネは、基本的に足音が聞こえないのだ。

 何故なら、糸で作った柔らかい靴を履いているからだ。

 まぁ、履いて無くても音はしないけど、石畳を傷つけてしまうので、履いているのだ。


 『第一騎士団、進捗はどんな感じだ?』

 『はっ!ほぼ完了してます!。明日には戻れるかと思います。』

 『了解。子供の保護は?』

 『先日まではありましたが、現在はありません。ただ、子供の浮浪者が多数見受けられます。』

 『その子たちは、誘拐されて、運搬途中に放逐されたんだよ。集めて故郷に返す準備をしろ。放置するな。』

 『はっ!すぐに手配します!』

 『バリア?今何をしてる?』

 『ミーソジールの食堂でお茶してます。』

 『お前最近太った?』

 『え!?どこで見てるんですか!?』

 『カマかけたんだよ。暇なら新兵の訓練しろ。肉が垂れてたら、神聖王国まで走らせるぞ?』

 『訓練します!』

 『騎士、兵士、警備隊全員に告ぐ。俺に命令されていないからと言ってダラダラしている奴をみかけたら、神聖王国までマラソンさせる。休暇中は対象外、勤務時間中に遊んでる奴とデブは確定だ。ベルトに腹が乗ってる奴は、俺に見つかる前に引っ込めるんだな。見つかった時に、休暇中などと嘘を言った奴は、ハンザ神国か、ガメーツィ領に送る。どちらも今は、休みなど取れない程に忙しい所だ。新兵は、一人見つけたら、連帯責任で全員に適用する。それと、警備隊。相手が騎士だろうが、ゴロツキだろうが、犯罪者に手心を加えるな。叩きのめせ。できない奴は訓練しろ。以上。』


 丁度目の前で、騎士っぽい姿の男の犯罪を、取り締まっていた警備隊がいたので、追加してやった。

 騎士っぽい奴は、聞こえてないらしく、?が頭の上に出ている様だ。


 『その男は騎士じゃねぇよ。捕縛しろ。』

 「「はっ!」」

 「やめろ!おれは第一騎士団だぞ!?」

 『第一騎士団に貴様の様な貧弱な奴はいない。なりすましは、重罪だ。死んでもいいから捕縛しろ。』

 「おとなしくしろ!」

 『貴族街にいる警備隊は、孤児院前の警備隊もどきと、騎士もどきを捕縛しろ。巡回も強化しろ。バッヂの使い方を理解していない奴は、貴族街から外せ。』


 3名の警備隊が走ってきて、サクッと捕縛して連行していった。

 孤児院に入ると、大騒ぎになった。


 「アルティス様、お帰りなさいませ。」

 「皆さん!アルティス様がいらっしゃいましたから、失礼の無い様にしましょう!。」

 『ずっとほったらかしだったから、見に来たよ。教室の配置とか、勉強の様子とか見せてくれ。』

 「畏まりました。」


 勉強の様子を見たが、みんなが一緒くたにやっている様子を見て、提案した。


 『ちょっといいか?、足し算ができる人は手を挙げて。』


 大体半分くらいができる様だ。


 『今のままだと効率が悪いから、足し算できる人は、掛け算を勉強しようか。』

 「あのー、掛け算ができる先生が居ません。」

 『判った。ちょっと待ってろ。』


 王城のケットシーに念話した。


 『会計係の中で、雑用しか仕事が無い者の中から、4名、孤児院に来い。掛け算と算盤の使い方を子供に教えろ。』

 『王城の会計係4名に来てもらって、掛け算と算盤の使い方を教える。種族はケットシーだが、頭がいいから、ちゃんと勉強しろよ?』

 「掛け算は、私達も覚えたいのですが。」

 『じゃぁ九九を覚えるといい。』


 案内役に紙とペンを持たせて、掛け算の九九を書かせた。


 『これを覚えろ。この紙を見なくても、言える様になれ。これが掛け算の基本だ。』

 『これは、足し算とも関係がある。だから、足し算ができないと、掛け算は理解できない。ただ覚えればいい訳じゃない。ちゃんと理解するんだ。』


 この教室には、黒板を使っている。とはいっても、黒鉄板に焼き入れしただけだが。

 チョークもちゃんとある。

 チョークは、石灰岩を粉にして、水と混ぜて押し固めた物だ。


 黒板に、15=○+6と書かせて、○の中に入る数字を考えさせる。

 日本人から見れば、誰でも判るだろうが、この世界では、商人以外では、会計士くらいしか答えられないのだ。

 現に、先生役のメイドも判らない様だ。

 計算方法を教えると、足し算を習得した子はすぐに理解し、習得していない子は首を傾げる。

 勉強熱心な子供は、九九を紙に書き写して、覚えようとしているし、仕方なく勉強している子は、ボケっとしている。


 『足し算が覚えられない人に、何で覚えなきゃいけないのか、教えてあげよう。』

 『ここに、銅貨が30枚ある。それぞれ、2枚3枚4枚5枚6枚7枚の山が一つずつ、銅貨1枚が3つある。この銅貨の中からいくつかを取って15枚を手に取ってくれ。15枚ぴったりになったら、出してみて。数える。』

 「あれ?10枚しかない・・・」

 『君は今、銅貨5枚を損したんだ。銅貨5枚程度、と思うだろうが、1日に銅貨5枚を毎日1か月間損し続けると、何枚になるか判る人はいるか?』

 「はい!」

 『はい、答えて。』

 「130枚!」

 『違う。』

 『計算方法は、28かける5だね。この計算を簡単にすると、8かける5足す20かける5は?』

 「あ!140枚!」

 『正解』

 『たかが銅貨5枚損する程度だと思って放置していると、1か月で銅貨140枚、つまり、銀貨1枚と銅貨40枚を損する事になるんだ。これで何が買える?勿体ないだろ?足し算ができていれば、損をする事は無かったのに、できないから、大損したんだよ。大切さが判るだろ?』

 コクコク

 『判ったなら、友達同士で考えて、計算式をどんどん解いていくんだ。紙はどんどん使っていい。』

 「でも、紙を削減しろって言われました。」

 『誰に?』

 「騎士の人で、誰だっけ?」

 『男か女かは?』

 「男の人です。ひょろっとしていて、よく孤児院の前に居る人です。」

 『そいつは偽物だ。さっき捕縛した。』

 「え!?そうなんですか!?」

 『そういう事を言ってきたら、名前を聞いて、誰からの指示なのか、確認しろ。ここの孤児院に命令できるのは、俺か女王以外には居ない。だが、女王はそんな事を命令しないから、残りは俺になるだろ?だが、俺はそんな、訳の分からない指示なんか出さないよ。削減するくらいなら、紙を作る工場を作って、増産する。その方が、働き口ができて、雇用が増えるて、経済の発展が期待できるからな。』

 『おかしいと思ったら、コルスかカレンか、リズ、その辺に聞け。それと、男の騎士なんか使ったとしても、騎士は必ず敬礼をする。しない奴は偽物だ。この俺が経営する孤児院に横柄な態度をとる馬鹿は、この国には居ないと思え。』

 「畏まりました。」


 どこの馬鹿が偽騎士団を派遣しているのか知らんが、ふざけた事をする奴が居るもんだ。

 迷惑かけさせて、一体、何がしたいんだか。


 『スミル、今大丈夫か?』

 『はっ!』

 『孤児院に警報用の魔道具を渡す。警報が鳴ったら、孤児院に駆けつける体制を作れ。さっき捕まえた馬鹿の様な奴が居たら捕縛しろ。』

 『了解しました!。先程捕縛した男ですが、孤児院の子供を攫うつもりだったとの事です。いかが致しますか?』

 『誰の指示でやったのか聞き出せ。そいつが主犯なら処刑だ。貴族か商人なら立ち入り調査を騎士と共に実施しろ。証拠を集めて確定したら、牢に入れる。捕縛の権限は、騎士に対しては厳しいが、商人の捕縛はやっていい。城の御用商人でも構わん。捕縛しろ。貴族の捕縛は騎士がやる。判ったか?』

 『はっ!了解しました!』


 『偽騎士は、子供の誘拐を画策していた様だ。警報用の魔道具を置いて行くから、騎士や警備隊が訪れた場合は、知ってる奴以外の時は、必ず魔道具で警報を出せる体制をとれ。それと、第一騎士団に、ひょろっとした奴はいない。全員がっちりした体格だ。第二は神聖王国にいるし、第三はまだ王都に到着しない。警備隊の顔を覚える時は、スミル隊長に頼んで、紹介してもらえ。』

 「畏まりました。まだ居るのですね。誘拐を計画する人が。」

 『そうだな。何に使うのか知らないが、撲滅するのは難しいんだ。だから、君らが細かくチェックできるように、体制を整えるしかないんだよ。』

 「はい、肝に銘じておきます。」


 中々ケットシーが来ないので、警らに見回りを指示した。


 『警備隊、王城から孤児院の間で、ケットシーが、トラブルに巻き込まれていないか、確認しろ。』

 『あ、今ケットシーが、騎士に問いかけられて困っているので、助ける所です。』

 『王都内で活動している騎士は殆どいないぞ。』

 『第一騎士団、お前らの偽物が、王都に蔓延ってるぞ。評判が落ちる前にどうにかしないと、大変な事になるなぁ。』

 『急ぎ対応させます!』

 『警備隊、王都内にいる第一騎士団モドキを捕縛しろ。確認方法は、偽物と決めつけて剣を刺せ。本物なら、刺さらない。頭以外の足や腕、腹を狙え。』

 『本物は居ないのですか?』

 『本物なら避けるだろ。問題無い。俺の指示でやったと伝えろ。後で確認用の魔道具を配布する。』

 『了解しました。パトロールは暫らく続けますが、よろしいですか?』

 『お前が決めていい。任せる。』

 『了解!』


 誰の差し金か知らないが、下らん事をする奴も居るものだ。

 何をやりたいのか知らないが、評価を下げようと言うのであれば、大した効果は出ないだろう。

 ケットシーと警備隊が到着した。


 『ふぅ、大変でした。お待たせして申し訳ありません。』

 『すまんな、警備隊を手配するべきだったな。』

 『いえ、私どもも頼めば良かったと後悔しております。』

 『幻影魔法使えないのか?』

 『使えますが、それ程効果はありませんよ?』

 『[キャンセル]』


 目の前にアラクネが現れて、驚いている。


 『幻影魔法だ。凄いだろ?。使い方次第で、効果が変わるんだよ。』

 『ソフティー様がいらしたのですね?全然気が付きませんでした。アルティス様が浮遊魔法を覚えたのかと思ってました。』

 『お前らは、おしゃべりだもんな。黙ってれば、見つからないんだぞ?』

 『あはは、すみません。』

 『定期的に来て、計算を教えてやってくれ。』

 『畏まりました。我々も、少々退屈しておりますので、仕事が増えるのは歓迎ですね。』

 『そうか。地方に行く事もできるぞ?6人ずつ3領に欲しい所だ。』

 『それはいいですね。戻ったら話してみます。』


 ケットシーが教える算数を見てから城に戻った。

 そろそろ夕飯の時間だが、食堂にヒマリアが入ってきた。


 『ヒマリア、調子はどうだ?』

 「あ、アルティス様!食堂の運営は順調ではあるんですが、収支が合わないんです。どうしたらいいですか?」

 『誰かが抜き取ってるんじゃないか?』

 「そんな事してません!ちゃんと見てますから!」

 『ちょっと手を出せ。小銭を持って、握って、小指を曲げたままテーブルに出して。』

 「あ・・・」

 『挟まった小銭は、手に残るだろ?そういう手法があるんだよ。毎回入金額を確認するしか、証拠を取れないから、やるんだ。それか、その女には、会計をさせないか。警備隊に協力してもらうか。』

 「捕まえるの?」

 『ヒマリアが決めればいいが、泣き落しで反省を口にする様なら、捕縛確定だな。捕まえたら、理由を聞け。ヒマリアが子供だから盗んだのなら駄目。借金とかなら、事実確認をするんだ。コルスかペンタかオロシに聞けばいい。』


 コルスが現れた。


 「ヒマリアさんのお店の方ですか?小銭をくすねてる方は、シングルで子供が3人いらっしゃるので、お給金だけでは辛いのかもしれませんね。」

 『収容所って今は使ってないんだよな?』

 「はい。使われていませんね。」

 『従業員用のアパートにでもするか?』

 「家賃どうしますか?」

 『暗部からも取るか?』

 「・・・何故バレたのでしょうか。」

 『想定しているからな。リフォームしていいから、警備頼むな。食堂と銭湯の従業員寮としても使え。』

 「了解しました。」

 『あ!そうだ!学校をそこに作っちゃおうか。』

 「学校ですか?」

 『非番なのに、休まずに仕事してる奴多いだろ?そいつらに先生をやらせれば、いけるんじゃないか?』

 「何で、そんな事まで知ってるんですか?」

 『渡したゴーグルで確認できるんだよ。上下動を見れば、休んでるのか、働いてるのか、一目瞭然だよ。』

 「アルティス様が、休みなく働いているのに、休む訳にはいきません。と言って休んでくれないんですよ。」


 自主的なブラックカンパニーだが、一人で対応できる者がいないんだから、仕方が無い。


 『俺の代わりに、対応してくれる奴がいれば、休めるんだけどなぁ。王都以外の暗部も、すぐに王都に来れるだろ?休暇中の暗部は何人いるんだ?』

 「30人程です。」

 『ワラビ、大聖堂で神官の育成できるか?』

 「育成してもよろしいのですか?」

 『神官兼教師だな。シスターも育成していいぞ。各地の教会には、神父が少ないだろ?教育して派遣してやれ。構成は、神父一人にシスター二人。全員回復魔法を取得させて、神聖魔法も初期のを覚えさせろ。年一回入れ替わりで、大聖堂に研修に来させて、その時に悪魔チェックと信仰度チェックをすればいいだろう。回復魔法は、大怪我の時だけ金をとる様にして、金額は、銀貨1枚程度だな。緊急時は、ギルドか領主から金を貰え。』

 『教会に学校を併設して、午前9時からお昼まで学校を開き、お昼ご飯を無料提供。こんな感じでどうだ?』

 「以前、アルティス様が歌っていらした、あの歌を録音して広めてもよろしいですか?」

 『何か歌ったっけ?』

 「ぼーくらはみんなーいーきているーいきーているからうたうんだーという歌です。」

 『あぁ、手の平を太陽にか。アレの歌詞は一部変えないと危ないからな。こっちでは、ミミズもオケラもアメンボも魔獣だからな。友達と言われると困るな。』

 「変えるとしたら何がよろしいですか?」

 『そりゃ、人族だろ。エルフとか兎人とかアラクネとか、迫害や差別の酷い種族をメインに入れてみてくれ。』

 「ご飯が来ましたよ?」

 『食べよう。』


 夕飯の後、厨房に来た。

 カレンとリズ、アーリアもいる。


 『じゃぁ、実験だ。なだれ豆を茹でてくれ。少しでいいよ。』

 「どれくらい茹でますか?」

 『30分茹でてみようか。』


 現在、厨房では、なだれ豆を大量に、水に浸けた状態で置いてある。

 味噌と醤油を作る為に浸けておいたのだ。

 今回は、圧力なべの実験と豆腐作り、ラーメンの試作の為に来た。


 『リズは、こっちで麺を作ろう。小麦粉に水を加えて練って。にがりも少しだけ入れる。』

 『纏まってきたら、ガンガン練ろうか。』


 ある程度練ったら、一旦落ち着かせてから、薄く延ばして切る。

 スープは、豚骨スープと鶏ガラの合わせ出汁。具材は、煮豚とネギ。

 ネギは、薬草の一つで、長ネギと野蒜(のびる)を合わせた感じで、そこら中に生えてるが、以前使ったリッキーとは別の物だ。

 繁茂力も強くて、1本植えると、あっという間に広がる性質を持っているから、ガメーツィで育てる予定だ。


 『器に塩と香辛料を準備して、麺を準備しよう。棒を使って薄く延ばすんだけど、少しずつ伸ばして行って、5ミリくらいの厚さになったら、棒に巻き付けて、打ち粉を広げて、

転がしながら内から外に押し出す様な感じで。』

 『圧力なべを弱火の方に置いて、そのまま20分煮たら、火から下ろして。鍋に水を掛ける。まだ開けちゃ駄目だよ。火傷するよ。』

 『リズの方はそれを棒から外して、畳んで。細長く。そしたら、2ミリ幅に切る。』

 『切ったら茹でる。カレンの方は、鍋が冷えたら開けていいよ。お湯ごと豆を潰す。』

 『リズの方は、器にスープを入れて、麺を掬って、水気を切る。器に麺をいれて、煮豚とネギをいれて、完成。食べてみて。』

 「アルティス様どうぞ。」

 モグモグ

 『うん、ちょっと味薄いな。もう少し塩を足した方がいいね。』

 「ちょっと食べにくいですね。どうやって食べるんです?」

 『吸い込む。ストローで飲むときみたいに口の中に吸い込んで食べる。』


 アーリアが早速実践して、食べ始めた。


 ズズッズズッ

 「アルティス、美味しいよ。これはいい味だ。新しい食べ物の誕生だな!」

 『カレンの方は、ミルクみたいになったら、漉してカスを取る。カスは捨てないよ?残しておいて。別の料理に使えるから。ミルクの方ににがりを入れて、泡立たない様にゆっくり混ぜてね。固まって来るから。少しずつ入れて。入れすぎると苦くなるよ。固まってきたら、型に布を敷いて、掬って入れて、蓋を入れて、重しを乗せる。』

 『水が出て来なくなったら、取り出して水に晒しておいて。』

 『切って食べてみよう。』

 「味付は?」

 『無しで。』


 うん、豆腐だ。

 木綿豆腐になってる。


 「味が無いですね。」

 「これが作りたかったのか?」

 「ほんのり甘みがありますね。」

 『これが故郷の味だ。いい感じ。』

 「アルティス・・・」


 急に抱きしめられた。

 泣いてたみたいだ。

 

 「こちらのカスは、何に使うんですか?」

 『それも食べられる物だから、乾かして粉にして、パンに混ぜ込むと、風味が付くのと、便秘が治る。』


 メイド達がササッと乾かす準備を始めた。


 『こっちの豆腐も便秘にはいいんだよ。』

 「女王様が気にされてたから、料理に使うといいだろう。」


 夜は、久しぶりにアーリアと一緒に寝て、熟睡できた。

 翌朝のアルティスとアーリアは、元気になっていた。

 何をした訳では無いが、近くに居ると魔力がグルグル回って、リフレッシュできるんだよ。


 訓練場には、カレン、リズ、バリアがいた。

 アルティスが行くと、リズが命令を出した。


 「整列!」

 ザッ


 1日で真っ直ぐ並べられる様になった様だが、横幅がバラバラだな。


 『全員右腕を肩の高さに上げ、横に伸ばせ!ドワーフは、ハルバードの節を基準にしろ。先頭の奴の幅に合わせて整列!』

 「敬礼!」

 ザッ

 「直れ!」

 『いい感じだ。回れ右で、真後ろを向かせる。右向け右で、右を向かせる。回る時は、右足を少し後ろに下げて、踵で回るんだ。真後ろを向いたら、右足の踵を左足の踵に当てる様にして揃える。直立のままだと長い話を聞く時に、フラフラするから、休めで足を肩幅に広げて、手を後ろに回して、右手で左手首を掴む。顔は真っ直ぐ前を向いたままできる様にしろ。行進は4列ごと。先頭役のお前らも、ちゃんと練習しておけよ?』

 「「了解!」」


 バリアが面食らった顔をしている。


 『バリアは、第一騎士団を同様に訓練しろ。お前が先頭役だ。』

 「了解!」

 『ところで、腹の状態は大丈夫か?』

 「!?」

 『今日は、こいつらと一緒に湿地帯で狩りをしろ。今のままでは、25歳を過ぎたらデブ一直線だからな?』

 「判りました!」

 『カレン、魔族はどうした?』

 「湿地帯奥地で訓練中です。」

 『ソフティー、見に行ってみよう。』

 『はーい』


 奥に行くと、アリエンと魔族達がいた。

 だが、人数がすくない。


 『アリエン、他の魔族はどこだ?』

 『向こうで水の中に隠れております。』

 『何の為に?』

 『アルティス様に見つからない様にです。』

 『そうか。[アイスボール]』

 ドボドボドボドボン

 「へーっくしょん!寒い!!」

 「上がれ!凍死するぞ!!」

 『アリエン、サボってる奴も訓練をしろ。サボりを許すな。全員でやれ。聞かない様なら叩きのめせ。殺してもいい。』

 『いいのですか?』

 『クズはいらん。』

 『了解しました。』

 「アルティス様の命令だ!訓練をしない者は殺してもいいと許可を頂いた。さぁ訓練しろ!」


 魔族の社会って、どうなってんのかねぇ?いや、許可を出した奴が言えた話では無いのは、わかるよ。

 でも、殺すって脅されないと動かないのは、どうかと思うね。

 魔族の訓練も正常になったので、見てるフリをしながら、第一騎士団に状況報告を求めた。


 『第一騎士団、昨日の対応の報告は?』

 『はっ!、偽騎士は、20名程捕縛しまして、アンセアリス子爵家の第一騎士団だという証言を得ております!』

 『装備を真似していたのは?』

 『その装備が標準装備だと言っています。我々の装備にそっくりですが、全然別物ですね。色も少し黄色みがかっていて、タイラントライスフィッシュの鱗だと思われます。』


 あの鱗を防具に使っただって?

 アルティスもタイラントライスフィッシュを捕獲した事があるが、あの鱗は生臭く、大して固くないし、軽くも無かった為、洗って乾燥させて、死蔵してある。

 アレでも、一応カルシウムではあるので、畑に撒くなり、何かに混ぜ込むなりして使えないか、検討するつもりだが、防具には使う予定は無い。


 『コルスー』

 『アンセアリス子爵の領軍に第一騎士団はありません。』

 『領が近いから、既に王都にいるのか?』

 『いえ、まだ来ていません。』

 『判った。捕まえた奴の中に団長はいるのか?』

 『いませんね。下っ端だけです。』

 『牢を乗せた馬車で一部を連れて行くぞ。準備しろ。』

 『了解!』


 偽物を捕えた第一騎士団と共に、偽物を入れた牢を荷馬車に乗せ、テレポートした。

 アンセアリス子爵領は、円形山脈の外側を囲むバウンドパイク領の隣にあり、距離的にはホリゾンダル領と同じくらい離れた所にある領だ。

 位置的には、円形山脈の西側に当り、領の南側は大河に面している。

 領都の外側まで飛び、そこから馬車を引いて、領主邸前に来た。

 偽第一騎士団は、市中引き回しの刑だ。


 『アンセアリス子爵に会うから通せ。』

 「何だこい「宰相様だ。さっさと開けろ。それ以上言うと、不敬罪で処罰するぞ?」」


 門番の教育がなってないな。

 訪問してきた客に対し、コイツ呼ばわりとか、程度が低いにも程がある。

 これは、気にする気にしないの問題では無く、門番を置く以上は、客人に対する最低限の礼儀を徹底させる必要性を、理解できているかどうかの問題だ。


 門番とは、謂わばその家の顔なのだ。

 そんな大袈裟なと思うかも知れないが、門番がゴロツキなら、その家はゴロツキの親分に見られるし、横柄な兵士なら、低俗で民度の低い貴族か商人の家と思われる、表向きの顔なのだ。

 だから、家を良く見せたいのなら、高級ホテルのドアマンや、執事の様な、教育を受けた者がやるべき、重要な仕事なのだ。


 そして、今回は宰相自らの訪問なので、第一騎士団から先触れが出ているのだ。

 先触れとは、訪問を受ける側の準備を整えさせる為の、アポイントメントの事で、電話が存在せず、手紙では数か月かかる様な世界なので、早くても前日、遅い場合は直前に来るのが普通である。

 穏便な話し合いでも、利益を伴わない場合などでは、鷹便や魔道具による伝達などは使わないのが普通だ。

 遠い者同士の場合、先触れを出しても、馬車で片路1カ月の距離であれば、当主が行くのは、3カ月後になってしまうので、先触れを出した数日後に、当主が出発するか、最寄りの街で泊まり、その間に先触れを出すという形をとるのが、一般的である。


 因みに、鷹便や魔道具を使って連絡をする場合、鷹便なら冒険者ギルドに金貨10枚を支払い、魔道具なら通信に使う魔石を購入しなければならないのだ。

 普通に考えれば、ただの挨拶程度に、そんな金を掛ける馬鹿は居ないだろう。


 そんな、教育がされていない門番に命じて、門を開けさせた。

 エントランスを抜け、中に入ると、子爵と執事が待ち構えていた。


 外では、檻を開けようとする兵士が居るが、無視する。

 君達の剣では壊せないのもそうだが、客人が持ち込んだ物を、勝手に壊そうなどと、普通はしないものだ。

 勝手に壊せば、その責任を追及されるのは当然で、自分の雇い主を窮地に陥れようとしているとしか、思えない行為なのだ。

 それを知ってて壊そうとするとなると、檻を管理する者が、居なくなる前提でもあるのだろうな。


 「本日は、御来訪いただき、ありがとうございます。私は、ウィーク・アンセアリスと申します。突然のご訪問とは、何か急用でもありますかな?」

 『突然の訪問で申し訳ない。応接間にも通されないとは、礼儀がなっていないな。私は、宰相のアルティスだ。貴殿の部下と申す輩が、アンセアリス領に存在しない筈の第一騎士団と名乗り、王都にて捕縛されてな、心当たりはあるか?』

 「・・・いえ、ございませんが?それが何か?」

 『アンセアリス子爵の第一騎士団と名乗る者が、我が国の第一騎士団の真似をして、王都でトラブルを起こしていたのでな、一部を連れて来たのだよ。騎士団長に確認してもらいたいのだが、すぐに呼べるか?』

 「すぐにお呼びしましょう。おい!騎士団長を呼べ!」


 30秒程で、全身鎧の男がやって来たが、客人の前に出て来る時に、抜き身の剣とは、些か騎士団長としての立場を理解できていないと見える。


 「お呼びでしょうか?」

 「うちの騎士団員が王都で騒ぎを起こして、捕縛されたそうだが、知っているか?」

 「えぇ、私が指示を致しました。宰相をおびき出せと。」

 「そうか。では殺せ。」


 あー、こういうパターンか。


 『本気でできると思っているのか?』

 「そちらはまだ剣も抜けていないのだ、できない訳が無いであろう?怖くなって、命乞いでもするのかね?」

 『命乞いねぇ、こちらがする必要は無いが、アンセアリス子爵はする事になるだろうな。身の程を知れ。斬り捨てろ。』


 まぁ、思い知るがいい。

 自分達がどれだけ馬鹿だったのかを。


 「驚き過ぎて動けない様ですな。」

 『あぁ、驚いてるよ。あまりにも馬鹿過ぎてな。うちの騎士にお前が勝てると思ってる時点で、駄目だな。相手の力量も測れない程の実力で、俺を殺すだと?馬鹿馬鹿しい。』

 「貴様ぁ!!」

 ズバッ


 剣を振り上げた瞬間、うちの騎士に鎧ごと袈裟懸けに切られ、支えを失った上半身は、振り上げた剣の反動で後ろに傾いた。

 騎士団長の体が、ズレ落ち、足と胴の一部だけが立ったまま残った。

 斬られた騎士団長は、驚愕した表情のまま、息絶えた。

 斬った方の騎士が、踏み込みの1歩しか動いていない事には、アンセアリス子爵が気付く事は無さそうだ。

 

 「あ、あわわわわわわ」

 『理解できたか?武器と防具を装備すれば、民衆より強くなるのは当然だが、厳しい鍛錬を積んだ者は、更なる高みにいるんだよ。』

 『捕縛しろ。暗殺未遂だが、王都で処刑する。王都に居る第一騎士団はアンセアリス子爵領主邸まで来い。一族郎党を捕縛せよ!』

 『『『『『『『はっ!』』』』』』』


 第一騎士団が教会のポータルを使って転移して、続々と中に入ってきた。


 『邸内を捜索しろ。地下も含めてすべてだ。邪魔する者は切っても構わん。』

 「「「「「「はっ!」」」」」」


 一族を持って来た牢の中に押し込み、王都に戻る。

 アンセアリス子爵家には、息子と娘が居るが、二人とも父親を罵り、牢屋の中で蹴り倒している。

 妻は5年前に他界している様だ。

 第一騎士団の数名が子爵邸に残り、仮統治をおこなう。


 謁見の間で、子爵一家を女王に会わせると、子爵は苦々しい顔で俯いた。


 「面をあげよ。アンセアリス子爵、宰相を暗殺しようとした事に異議はあるか?」

 「私の言い分を聞いてもらおう。宰相が直接向かって平定したという、デーシャバルは、私の従兄弟だ。何故あやつが平民に落とされなければならないのだ!少し領内が荒れている程度で!」

 『少し処では無い。領の予算をゴミ同然の美術品購入に充て、領民を牢に入れて殺し、悪魔まで召喚していたのだ。美術品は、全て贋作、壺は駄作、建物の装飾には、金が一切含まれておらず、クズ商人に騙されまくっていたよ。領の運営を疎かにしていた上に、私を暗殺しようと画策もしていた。これを許す訳にはいかないな。これでも貴様は、奴が無罪だと言い張るのか?』

 「そ、そんな馬鹿な・・・」

 『貴様宛に手紙が来ていた様だが、書いてある内容の全てが嘘だな。毒が蔓延(まんえん)していたのは、ガメーツィ領の方だ。デーシャバルの方は、保管庫に大量の麦を貯め込んでいたよ。数年分の保管量があったのだが、デーシャバルは、全て自分で食べる為だと言い張っていたな。領内の税率は、収穫量の8割で、商人にも重税を課していたから、領内に商人も商店も無かったよ。何の根拠があって、あの男のいう事を信じ込んでいたのかは知らんが、自分で見て確認した訳でも無いのに、人の命を狙う程の恨みを持つとは、些か(いささか)無謀では無いのか?』


 「私は確認させたのだよ。騎士を3人行かせて、領の様子を見てこいと命令したんだ。領内の様子を書いた手紙も届いた!」

 『そいつらは、たどり着いてなどいないぞ?貴様の領から、デーシャバル領まで、馬車で何日かかると思っているのだ?』

 「馬車では無い!騎馬だ!」

 『同じ事だよ。たとえ半分の期間で着いたとしても、片道1月は掛かる。だが、貴様の部下は、2週間で着いたと報告しているではないか。2週間で着いて、手紙を出せば、手紙は2か月かかるのではないのか?早馬でも使って送ったのか?普通の手紙は、商人が持って行くか、冒険者が持って行くよな?冒険者は歩きだぞ?どうやって2週間で着くんだ?鷹便か?鷹はどこで調達したんだ?それとも飛竜便か?』


 アンセアリス子爵が、騎士を派遣したのは8月の事だ。

 アルティスがアーリアと出会う前の話で、ベアリングも無いし、テレポートも使えないのだ。

 鷹便はそれなりに大きな街の冒険者ギルドで、飛竜便は商人ギルドで使えるが、どちらも手紙を送る為には高額な為、領の内情報告書程度で使う事は、まずあり得ない。

 やっと真実を知った様に、両手を床に着いて、項垂れた。


 『貴様は、貴様に忠誠を尽くす部下を育てなかった事と、しっかりと考察していなかった事が、失敗の原因だ。何か申し開きはあるか?』

 「・・・ございません。」

 「では、アンセアリス子爵を絞首刑とする。アンセアリス子爵の子女は、3か月間、アルティスの部下となり、領主としての素養を学ぶことを命ずる。」

 「「はっ!承りました!」」


 ええ!?聞いて無いよ!?アンセアリス子爵家を潰したのは、内戦一歩手前だから、仕方ないじゃん?目を残す訳にも行かないんだからさ。


 『仕方ない。やりますよ。』


 女王の命令により、アルティスの下に付けられてしまった二人は、謁見の間から退出し、応接室でアルティスの前に跪き、指示を待っている。


 『とりあえず、椅子に座れ。話し難くて敵わん。えーっと、嫡男の名前は?』

 「はい!ウィーガン・アンセアリスと申します!。アルティス様の御高名は、ペティセイン様より伺っておりました!。尊敬をしております!」


 暑苦しい奴だった。

 ペティが何やら学院でやっている様だが、たまには役に立つ事もあるんだな。

 殺気!?


 『煩いから、普通に話せ。で、娘の名前は?』

 「キャリス・アンセアリスと申します。よろしくお願いいたします。」

 『何かやりたい事は?』

 「「何でもやります」」

 『じゃぁ、ウィーガンは訓練な。新兵に混じってやれ。キャリスは、孤児院で、子供達の教師だ。』

 「「畏まりました。」」


 そういえば、新兵の訓練って誰がやってるんだっけ?


 『今は、スミルがやっています。』

 『あれ?バリアに任せなかったっけ?』

 『徐々にスミルに移行していった様です。』


 今、バリアは第一騎士団の行進訓練と沼地で贅肉と闘ってるのか。


 『カレーン』

 『はい、何でしょうか?』

 『新兵の訓練教官やってー』

 『了解しました。どこに向かえばよろしいですか?』

 『スミルー』

 『はい!』


 『新兵を王城に連れてきてー』

 『誰に預けるのですか?』

 『カレンだよ。新兵にご愁傷様って言っとけ。』

 『はは、ははは、よかった。やっと解放される。』

 『すまなかったな。』

 『問題児が数名いますので、お気をつけて。』

 『大丈夫だよ。叩きのめすから。』

 『お願いします。』

 『スミルが連れて来るよ。問題児が数名いるらしいから、ぐぅの音も出ない程に叩き上げよろしく。あと、アンセアリス子爵の息子も混ぜるから、他の連中と一緒に鍛えてやってくれ。』

 『了解しました。』

 『ウィーガンは、カレンの所に行ってくれ。キャリスは俺について来い。ソフティー来て。』

 『はーい』

 『バリアー、今何してんの?サボってる様ならエルフ王国に行って、魔王を倒して来てよ。』

 『えっ!?新兵の訓練をやってますが?』

 『警備隊をスミルがやってる意味は?』

 『人数が多すぎるからです。伝言で分けろって言われましたよね?』

 『言って無いが?というか、行進の訓練と贅肉の消費は?スミルは誰から聞いたんだ?』

 『第二騎士団の方に言われました。アンセム・マーブルチェアという方です。』

 『アントニー、アンセムって奴いるか?』

 『誰ですか?それ?』

 『マーブルチェアは知らないそうだぞ?』

 『騙されたという事ですか!?』

 『そうだな。静かなバリアが怪しいが。カレン頼んだよ。それと、スミルに命令できるのは、俺、カレン、リズ、陛下のみとする。バリアは除外な。』

 『了解』

 

 部屋に、普通に入ってきたアラクネを見た二人は、後退りながら、部屋の隅で一塊になった。


 『あぁ、そういえば、アミュレット渡して無かったな。二人とも、大丈夫だからこっちに来い。』

 「ほ、本当に、だ、大丈夫、なんですか?」

 『いいから、こっちに来い。』

 『これを着けろ。ウィーガンは挨拶したら返せ。訓練するのに着けてたら意味が無いからな。騎士レベルになったらくれてやる。』

 「私はよろしいのですか?」

 『キャリスも騎士になりたいのなら、お預けだが?』

 「キャリスは、冒険者になりたいって言ってましたが。」

 『そうか、でも、とりあえずは、孤児院で勉強だな。2週間後に入れ替える。』

 『着けたな。じゃぁソフティーに挨拶しろ。』

 「私は、ウィーガン・アンセアリスと申します。よろしくお願いいたします。」

 「私は、キャリス・アンセアリスと申します。よろしくお願いいたします。」

 『ソフティーと言います。よろしくお願いします。』

 「「喋った!?」」

 『よし、ウィーガンは返せ。キャリス、ソフティーと話をしてみろ。』

 「ソフティー様はアルティス様と仲がよろしいのですか?」

 『うん、親友だよ?』

 「え?ちょ、ちょっと待って下さい。何を言ってるのか判らないのですが!?」

 「もしかして、これの効果ですか?」

 『そうだよ。今着けているのは、カレンと同等のアミュレットだ。無くさない様にな?国宝級の価値がある物らしいから。』

 「国・・・、気を付けます。」

 「そんなに凄い物なんですか?」

 『精神魔法耐性、毒耐性、状態異常耐性、打撃耐性、斬撃耐性、刺突耐性、各属性耐性、VIT値2000、MP10000、言語理解、毒感知、魔力感知が付いている。』

 「・・・無敵ですね。」

 『耐性は無理だが、感知系は、外した後に覚えられる可能性が高い。魔力感知は覚える努力をしろ。毒感知は、無くてもいいが、毒耐性は覚えた方がいいな。それと、魔法を使ってもアミュレットのMPが優先的に使われるから、魔法の練習をしたい場合は、着けていてもいいが、覚えたい場合は、OFFにしてからじゃないと覚えられない。』

 「判りました。」

 『ウィーガン、早く行かないとカレンが見つからなくなるぞ?』

 「あ!はい!行ってきます!」

 『では、ついて来い。』


 孤児院に来た。


 『今日から、先生役をやる者だ。学はあるが、料理はできないだろう。教えてやってくれ。』

 「キャリス・アンセアリスと申します。よろしくお願いいたします。」

 「お貴族様ですか?」

 『メイドと同じ扱いでいい。特別に扱う必要は無い。』

 「畏まりました。」

 『ウルチメイトはどこだ?』

 「向こうでリシテア様に勉強を教えております。」

 『リシテア様じゃない、リシテアだ。この孤児院では、皆平等に扱え。特別視は不要だ。先生は先生、子供は生徒。立場をしっかりと教えてやらないと、将来クズに育つぞ?』

 「は、はい、申し訳ございません。他の元貴族子女についても、平等でよろしいのですか?」

 『元貴族なら、今は平民だ。当然平等に扱え。問題児でもいるのか?』

 「はい、そういう子が数名いらっしゃいます。」

 『引っ叩いて(ひっぱたいて)もいいから、しっかり躾けろ。』

 「僕は貴族だぞ!いう事をきけ!」

 「嫌だよ!貴族じゃないくせに!威張るな!」

 『ほら、行け。』

 「はい!」

 「こらっ!イジメてはいけません!貴方は、元貴族かも知れませんが、孤児になったら平民です!貴族だったのは貴方の親であって、貴方ではありません!。」

 「うるさい!僕には貴族の血が流れているんだ!平民とは違う!」

 「貴族の血などありません!。平民と同じ血が流れているんです!。貴方が大人になっても、貴族になれる訳ではありません!」

 『教室にいくぞ。ここには、他種族とのハーフもいる。先生には、ケットシーもいるから、差別はしない様にな。今までの常識は捨てろ。人間は、今や、世界最弱の人族だ。馬鹿でアホで間抜けでカスが人間だ。だから、勉強して賢くなる必要がある。お前が貴族なのは、人間の世界だけの話だ。他種族には関係が無い。アミュレットを着けている以上、喧嘩(けんか)には強いだろうが、それは、心が弱い証拠でもある。喧嘩をするなら、アミュレットを外してからやれ。』

 ゴクッ

 「ペティセイン様が、学院の先生に、他種族を見下すのは間違っていると仰っていました。私もそれには、賛成です。人間は変われるでしょうか?」

 『変われるかどうかじゃない。変わるんだ。変わらなければならないんだよ。人間以外は皆長寿だ。長く生きている分、知識も多いし、知恵もある。経験も豊富だ。人間が50年で代替わりするのに対して、他種族は代替わりをしない。迫害すれば、その時の感情は、子供の世代どころか、ひ孫の世代、いや、子々孫々(ししそんそん)尾を引くんだよ。今、街道沿いに魔獣が出ているが、それは、人間の周りから、他種族が居なくなったから、狩れなくなったんだ。イジメるという事は、自分達の首を絞める事に繋がるんだ。だから人間は変わらなければならない。』

 「理解しました。全身全霊で子供達の指導を徹底致します。」

 『ところで、計算は得意か?』

 「うっ・・・」

 『不得手か。ケットシーに教えてもらえ。』

 「はい。」

 『大丈夫だ。ケットシーは教え方が上手いんだ。子供達もメキメキ上達してるくらいにな。』

 「アルティス様は計算は得意ですの?」

 『得意では無いが、計算はできるぞ?』

 「割り算とかもできますか?」

 『簡単だぞ?』

 「何が簡単なのですか?」

 『掛け算の逆をするだけだからな。』

 「おー、アルティス様、ご機嫌麗しゅう」

 『ちょっと見学させてくれ』

 「はい、ご自由に見学していってください。」


 ケットシーの教え方は、式を分解して計算する。

 時間はかかるが、暗記だけで、理解が足りていない子供達には、丁度いいと言える。


 ふと、気付いた事があったので、メイドに聞いてみた。


 『ここで算数を勉強しているメンバーが、昨日見た時と一緒なんだが、他の連中はいつ勉強しているんだ?』

 「他の子達は、絵本や言葉、文字の勉強を自主的に行っております。」


 つまり、国語は自習のみ、という事だ。


 『キャリス、お前の受け持ちは、国語だ。文字の読み書きから、国の歴史、道徳までを教えてやれ。』

 「判りました。一纏めでよろしいですか?」

 『あぁ、それで、参加しない子供には、理由を聞いて、全員参加させるように仕向けろ。』

 「難しそうです。」

 『そうだなぁ・・・ここでの子供の仕事は、勉強と手伝いだ。だから、どちらかをやったら、トークンを渡す。トークンを持っている子供には、ご飯をあげるが、持ってない子供には、あげない。そんなシステムを作れば参加するんじゃないかと思うが、どうだ?』

 「つまり、働かざる者食うべからず。という事ですね?」

 『そうだ。平民である以上、働かなければ食っていけないのは、道理だからな。』


 メイド達を全員集めて、トークン制の説明を行った。


 『まず、雑用の手伝いを半日以上やった場合は、トークン1個、勉強に参加した場合は、1教科につき1個。これは、教室に入れば貰えるのではなく、休憩から休憩までの2時間いた場合のみだ。毎週テストを行い、全問正解の子にはトークン2個、全問不正解の子は、追試又は、トークン1個没収。追試でも全問不正解の場合は、トークン1個没収。追試で1問でも正解していれば、没収は無しだ。』


 『次、普段の行い。雑用のお手伝い半日以上は1個。半日未満は、無し。先生の指示を無視した場合は、-1個つまり取り上げる。喧嘩は、両方から取り上げる。怪我させた・犯罪行為した場合も取り上げる。取り巻きも同罪だ。』


 『トークンを持つ事の特典として、5個出せば、食事は1回だけ、お代わり自由か、勉強を、個別指導。3個出せば、食事は、お代わり1回。勉強では、一番前の席だ。基本的に勉強でトークンを出すのは、特別になりたい子、つまり3個以上の場合のみだ。トークンを持ってない奴の勉強は、強制参加だ。』


 『1か月間0個の場合は、新兵訓練に連れて行く。トークンは、盗めない様に、渡す際に腕輪に触れさせてから渡す事。それで、本人の登録ができる。違う子のトークンを持って来た馬鹿は、新兵訓練だ。トークンの個数は、毎日深夜12時に集計される様にした。カウントも自動でやる。』


 『先生達には、この指輪を渡しておく。この指輪を嵌めている手で、腕輪に登録するんだ。指輪と腕輪のセットじゃないと、登録はできない。だから、トークンを盗んで、腕輪に登録しようとしても、登録はされない。』

 「そこまでする必要があるのでしょうか?」

 『きっと、やる奴はいるぞ。未登録トークンに腕輪を近づけた奴は、トークンを調べれば判る様にしてあるから、未登録トークンが落ちていたり、捨てられていた場合は、必ずチェックする事。盗みは犯罪だからな?甘やかしは無しだ。』

 「少し厳しすぎる気がしますが。」

 『甘いんだよ。犯罪行為を見逃す必要は無いと言ってるだけだぞ?。普通に生活していれば、マイナスにはならないし、空腹に耐える必要も無い。それだけだ。』


 このトークン制は、元々は別の所で採用しようと思っていたシステムで、職業訓練学校や普通の学校で導入して、働く事の意味を教育しようと考えていた。

 ゴロツキも、生まれた時からゴロツキという訳では無く、最底辺の仕事では、食べていく事ができずに、悪事に手を染めてしまうパターンが殆どだ。

 戦争で人が減った今なら、仕事は幾らでもあるのだが、一度停滞した経済で、真面に食っていける程の給金を貰う仕事自体が少なく、学が無く、手に職も付けてない人では、自ら仕事を作り出す事も難しい。

 だから、学校で隙間産業のヒントを得られる様な、仕組みを作ってやる必要があると思い、準備をしていたのだ。


 「障害があって、できない子はどうしますか?」

 『そんな子いたか?』

 「一人、視力がもの凄く悪い子がいまして、よく壁や柱にぶつかっていたので、確認をしてみたのですが、見えていない様でした。」

 『連れて来い。』

 「はい。」


 6歳くらいの女の子を連れてきた。


 『名前は?』

 「ミルク・ウェハースです・・・。」

 『何で震えているんだ?』

 「呼ばれた理由が判らなくて、何の事で怒られるのか不安だから・・・」

 『怒らないぞ?目が見えてないのか?』

 「判らないです。」

 『これを着けてみろ』

 「!?」

 『外してみろ。違いはあるな?今は見えていない。違うか?』

 「見えていないです!」

 『よし、目を(つむ)れ。[治療術]』

 シュワシュワシュワシュワシュワシュワシュワシュワシュワ


 この子は、先天性の白内障だった様だ。


 『よし、目を開けてみろ。見えるか?』

 「わぁ!見えます!けど眩しい!」

 『そうだな。暫らくは、このメガネを着けて生活しなさい。寝る時は外す様に。君以外は着けられないから、もし誰かに取られたら、先生に言う事。誰にも言うなって言われたら、アルティスがぶっ飛ばすって言ってたと、そいつに言え。』

 「売られる心配はありませんか?」

 『ミルクから50m離れると、自動的に戻って来る。だから、売れないだろ。万が一、その仕組みを利用して詐欺を行ったら、国法で裁かれて、犯罪奴隷として鉱山行きだ。』

 『他に障害を持っている子はいないか?』

 「もう一人、足が悪い子がいます。」

 『連れて来い。』


 今度は、大人しそうな男の子だ。4歳くらいだろうか。

 獣人のハーフだな。


 『名前は?』

 「らるく」

 『ラルクか。足が悪いのか?そこに座って。・・・骨折した後の処置が悪くて、変な風に繋がった感じだな。』

 「ちょっと右足が変ですね。」

 『これ治す時痛いんだよな。[アネスシージア]』

 「何ですか?その魔法は。」

 『ちょっと触ってみろ。』

 「??」

 『判るか?』

 「わかんない」

 『よし、[治療術]』

 シュワシュワシュワシュワシュワシュワ


 「治って行く・・・」

 『よし、治ったな。[キャンセル]立っていいぞ?』

 「?なんか変?」

 『もう走れるようになったぞ?みんなと遊べるな。』

 「ホントに?」

 『行っていいぞ。』

 「あるてすさまありがとうごらいます!」

 「あ!アルティス様ありがとうございました!。私アルティス様みたいに、なりたいです!」

 『そうか、まずは魔法の練習とお勉強を頑張れ。』

 「はい!頑張ります!」


 ん、良き良き。


 『魔法の先生っているのか?』

 「いませんね。」

 『リズ、魔法が得意な奴いないか?』

 『アルティス様の事では?』

 『俺以外で、孤児院で魔法を教えられる人材が欲しい。』

 『聞いてみます。』

 『エルフが得意で、一人()()()()()()がいますね。』

 『警備隊に護衛させて、孤児院に連れて来い。』

 『了解』


 暫らくして、エルフがやって来た。


 「リリー・アカシアと申します。ご命令により、参上仕りました。」

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