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第33話 マルグリッド王国

 ヒュー・・・パーン!

 『あー、お前馬鹿だな。救援信号か?お前が、トラブルを起こしましたって、言ってる様なものだぞ?これで、再度攻撃でもされたら、今度はアラクネクイーンが暴れるからな?滅亡するぞ?』

 「あ、アラクネクイーンだと!?、ま、まさか・・・」

 『しーらないっと。折角復興が進んでたのに、また滅亡の危機に落とされるなんてなぁ?ジョリド・ダベンスのせいで。早く通信の魔道具で、連絡した方がいいんじゃね?』


 ジョリドが、魔道具を起動して、王城に連絡をした。


 「お、王にご報告願う、ば、バネナ王国宰相殿が、王都にご訪問なされております。至急ご報告を!また、王への謁見を「謁見じゃねぇよ。馬鹿かおめぇは。」王へ会いたいとおっしゃっております!。」


 騎士団長が謁見とか言ったので、マイクがどついて訂正させた。

 突然の訪問とは言え、無理やり連れて来られた上に、騎士団に攻撃をされ、それを返り討ちにしたのだから、王家が関わっていようがいまいが、関係無く、国家間の紛争として賠償責任の追及ができるのだ。

 謁見の間では無く、応接間にて話し合う問題だ。


 『ば、バネナ王国の宰相が来てるぅ!?聞いて無いぞ!どうなってるんだ!?』

 「よ、ヨーク・タカールが、て、てて、転移で連れてまいり巻いた、ました。」

 『あんの馬鹿商人がぁ!!すぐに王に報告する!おい!お前行って来い!!』

 『ジョリド!毎度毎度いざこざを起こしやがって!後で覚えてろよ!!』


 報告して、燃え尽きた様で、真っ白になっている。


 王都の中に入って行くと、街中は、中々の活気が溢れていて、とても最貧国とは思えない様な賑やかさがあった。

 この国の暗部だろうか、両側の建物の屋根伝いに走ってるのが見て取れる。

 いや、見て取れては、いけないんだが、忍ばない忍者みたいなものだな。

 街の規模としては、バネナ王国の王都の4分の1程度か。

 そこかしこに、飛蝗(ばった)の足が飛び出た袋が置いてあるな。


 王城前に着くと、門前に白い鎧を着た騎士が3人待ち構えている。


 「お待ちしておりました。私は、近衛騎士団団長ルーカス・マルゲリータと申します。バネナ王国宰相殿・・・はどちらに?」

 「こちらの方です。」

 『バネナ王国宰相アルティスだ。出迎えご苦労。案内を頼む。』

 「あ、はい、ではこちらへどうぞ。」

 「えっと、お二人は騎士の方でよろしいですか?武器はお持ちでは無いのでしょうか?」

 「このポーチに入っております。お気になさらずに。」

 「マジックバッグ!?騎士の方達は、マジックバッグを装備しておられるのですか!?」

 「アルティス様が、我々の為にお作り下さいました。ワイバーンの革で。」

 「ワイバーンの革!?え?薄くないですか!?」


 マジックバッグを装備している事にも驚いている様だが、ワイバーンの革を使っていると聞いて、腰にピッタリと張付く様にぶら下げられているポーチの厚みに驚いている様子だ。


 「アルティス様は数々の発明をなさっておいでです。我々の装備は全て、アルティス様お手製の物ですよ。」

 「そのスケイルメイルの素材は・・・見た事が無い素材ですが、何を使われているのですか?」

 「これはロックリザードの革です。」

 「??ロックリザードにそんな色の鱗ありましたっけ?」

 『あ、そういえば、お前らにはまだ渡して無かったな。すまんすまん。後でドラゴンの鱗を使ったスケイルメイルを渡しておくよ。』

 「ドラゴン!?」


 王都にいる騎士達のスケイルメイルは、ドラゴンの鱗を加工して使っているのだが、未だ王都に到達できていない、クスノベルティにいる騎士達の装備は、未だにロックリザードの革のままだった。


 「おお、新しい防具ですか。楽しみです。新機能もあるんですか?」

 『ったりめぇよ。今度のは、打撃耐性も付けたから、斬撃、刺突ときて打撃も防ぐ完璧防具だぞ。』

 「あ、あのぅ、暴れたりはしませんよね?」

 『何も無ければな。あぁ、取り押さえられないとか思ってるんだろ?大丈夫だ。こいつらがパンツ一丁になっても、お前らは、勝てないから。気にすんな。』

 「む、それでは後でお手合わせをお願いしてもよろしいですか?」

 『全裸でや「嫌ですよ、パンツくらい履かせてくださいよ。」』


 「ブフッ!アッハッハッハッハッ、面白い方ですね。」

 「全く、冗談が過ぎますよ。」

 『あぁ、そうだ、言い忘れていたんだが、アラクネクイーンがいるから、部屋の外で待たせておくけどいいか?』

 「アラクネクイーン!?ど、どこにいるんですか!?」

 『こいつらの後ろだよ。姿を見せてもいいか?』

 「暴れたりしなければ・・・」

 『俺に剣を向けなければ大丈夫だよ。君らの剣じゃ、傷一つ付けられないしな。』

 「はは、ははははは。」


 騎士団長の顔がヒクヒクしてるが、気持ちは判るよ。

 恐怖の対象であるアラクネの更に上位である、伝説のアラクネクイーンが同行していると言われたのだから、普通の神経の持ち主なら、全身から脂汗が噴き出している事だろう。


 『[キャンセル]』

 「!?」


 突然目の前にアラクネが現れ、息をのむ近衛騎士団の面々。

 応接間の扉の前で現れたアラクネクイーンの姿に、一同息を呑む。


 『この額のマークがクイーンの証だ。うちの国には、もう一人アラクネクイーンがいる。』

 「で、伝説のアラクネクイーンが二人も・・・この国は終るんですか!?」

 『何でだよ。魔族に攻められてるのに、厄介ごとを増やす訳無いだろ?』

 「そ、そうですか。よかった。」

 『そうだ、これを渡しておこう。着ければソフティーと話ができる様になるぞ。敵対しなければ可愛いから、世間話でもしてるといい。』

 「あ、ありがとうございますっ!?こ、これはもしかして!魔力鉱石を使っているのですか!?」

 「うそ・・・こんなに大きいのは初めて見ました!?」


 渡したアミュレットは、直径2㎝程の魔力鉱石を使った物で、品質は最低のランクの物を使用している為、性能としてはそれ程高くは無い物ではあるものの、価値としては白金貨何十枚か程になる物だ。

 付与した効果は、精神異常耐性と状態異常耐性、VIT1000と言語理解を付与している。

 それを3人の騎士に渡したのだ。


 『あげるよ。売れば、一生遊んで暮らしていけるだろうけど、買い叩かれて、大損するか、見せた挙句、命を狙われる事になりかねんからな。自分で使ってた方がお得だよ。VIT値1000の補正も付いてるから、そんじょそこらの雑魚相手なら無傷でいられるぞ。』

 「VIT値1000!?・・・絶対に売りません!!」

 「私も!」

 「私も!」

 「コホン、では」

 コンコン

 「バネナ王国宰相殿をお連れしました。」

 「入れ」

 「では、部屋の外でお待ちして「騎士団長は中におれ。」はっ!」

 「私は、マルグリッド王国国王、アーノルド・マルゲリータとなりは、妻のマルベリーだ。」

 「マルベリー・マルゲリータと申します。」

 『私は、バネナ王国宰相アルティスと申します。突然の訪問にご対応頂きありがとうございます。後ろの二人は、騎士マイクとトモスです。どちらも貴族ではなく、平民出身です。何か失礼があるやもしれませんが、ご容赦の程お願いいたします。』


 二人の騎士のどちらかが宰相だろうと当たりをつけていたが、騎士は口を開かず、念話で騎士を紹介した事で、小さな獣が宰相である事を認識した。


 「お、おおぅ!本当にこちらの方が、宰相殿なのですな!?驚きました。」

 『みなさんそうおっしゃられますね。私も宰相などになるとは、露程(つゆほど)も思っておりませんでしたが、他になれるような者もおらぬ為、仕方なく拝命した次第です。』

 「という事は、かなり頭が切れるという事ですか。我が国にも頭の切れる部下が欲しいものですな。」

 『そこの騎士団長が、度胸もあって頭がいいと思いますが、どうですかな?』

 「こやつは、王太子という身分もあります故、宰相では無く王の素質を鍛えておる所です。」

 『いやいや、王には宰相の才能も必要ですから、使える内に使っておいた方が、後々この国の発展に繋がると思いますよ。何なら、我が国で、周辺諸国最強の騎士に育て上げる事も可能ですが、いかがですかな?』

 「しゅ、周辺諸国最強ですか!?」

 『えぇ、後ろの二人も、本来は、一伯爵領の私設騎士だったのですが、今や我が国の騎士の中でも、精鋭の内に入る程の強さを持っております。ほんの2か月前までは、ゴブリンにも苦労する程の弱さだったのですがね?』

 「発言よろしいでしょうか?」

 「うむ、申してみよ。」

 「はい、我々は、アルティス様のご指導により、単独でオーク討伐及びゴートキャトル討伐にも成功する程の力を着けました。アルティス様は、数々の発明と高度な魔法、的確な指揮と時に厳しく、時に優しく、訓練に連れ出された時は、苦しい思いを致しましたが、今となっては、感謝こそすれ、憎むような事はあり得ません。また、錬金術の腕前に留まらず、付与魔法まで会得されており、我々兵の強化には熱心に取り組まれております。アルティス様へは、絶対の忠誠と感謝をささげております。」


 「ゴートキャトルとは、どの様な魔獣ですかな?」

 『体長10メトルの大きな牛ですね。』

 「体長10メトル!?」

 『我が国には、スケープゴートなる、際限なく増殖する山羊の群れもおりますので、事訓練には持ってこいの環境が整っております。』

 「あぁ、スケープゴートですか。あれには、我々も苦汁を飲まされた経験があります故、殲滅できる兵士を育てられるとは羨ましい限りですな。」

 『先日は、魔王軍によるスケープゴートを使っての攻撃もありましたが、数名の怪我人のみで排除しております。』

 「ど、どのくらいの数だったのですかな?」

 『1万以上ですね。』

 「1万!?・・・ルーカス、少し行って来た方が良いのでは無いか?」


 ルーカス騎士団長が、やや困惑した表情で答えた。


 「後で、騎士殿と模擬戦を予定させて頂いておりますので、その結果次第かと存じ上げます。」

 「うむ、私も観戦させてもらうとしよう。」

 『では、模擬戦については、後ほど行うとして、本日の目的について、お話させて頂きましょう。昨日、我が国の東寄りにある、悪徳領主の是正の為に行きましたところ、領主の館にあった品物が、全て偽物だと判明しまして、貴国のタカール商会が売りに来ていたことを知りました。そこで、タカール商会も昨日来訪しましたので話をしたのですが、いきなり詐欺をしようとしまして、追及の上、今までだまし取った金、全てを返金させる旨の契約を取り交わしました。本日、その金を持って来る約束だったのですが、腕利きという護衛のみを連れてきて、私を殺害しようと目論み返り討ちに会うと、次なる手として貴国への転移にて、第三騎士団の目の前に飛ばされました。第三騎士団については、騎士団長を尋問しましたが、我々が送り込まれる事を承知の上で、攻撃を仕掛けてきており、このままでは貴国は、バネナ王国宰相の暗殺未遂という結果を以て、我が国への宣戦布告状態へと移行してしまいます。』

 『そこで、我々としても、他国への賠償で手痛い思いをされた貴国に、今以上の痛手を負わせる事は忍びない思いもあります故、タカール商会の財産没収という事で手を打たせて貰えないかというご提案をしにまいりました。』


 少々長い説明だったが、内容を理解した王は、渋面になっている。


 「我が国の騎士がご無礼を働き、誠に申し訳ない。此度の提案によれば、我が国への賠償は求めぬという事ですかな?」

 『その通りです。我々としては、襲撃はされましたが、大して脅威にも感じませんし、第三騎士団には多少の傷を負わせてしまいましたが、御愛嬌という事で済ませたいと思います。』

 「ま、待たれよ、第三騎士団と相対して、傷を負ったのが第三騎士団だけという事ですかな?」

 『はい。』

 「そなたから見て、第三騎士団はどうであったか、お聞かせ願えぬか?」

 『クズの一言ですね。』

 「クズ・・・ルーカス、第三騎士団長になれる人材はおるか?」

 「・・・貴族には居ませんね。」

 『貴族にこだわる必要は無いと進言します。我が国の騎士団長は、全て平民の出です。』

 「なんと!?指揮に問題が生じる事は無いと申すか。」

 『貴族は、言い訳ばかりで、役に立ちませんから、兵の指揮ではなく、内政に関してのみ有効と存じます。我が国の貴族は、魔族と悪魔の手により、無能者ばかりになってしまいましたので、貴族には期待しておりません。どうしても貴族でなければというのであれば、家柄ではなく、実力で選んだ方が、兵は強くなります。試合で決めるのであれば、全員白い覆面を被り、発言した者は即座に失格というルールの下、剣術及び戦術の試験を行うのがよろしいでしょう。威張るだけの屑など、兵には必要ありませんので。』

 「うむ、確かに必要無いな。ルーカス、選定試験の準備は任せた。」

 「承りました。」

 「アルティス殿のご提案も痛み入ります。急ぎ、タカール商会の資産没収の、手配をしよう。」

 『それと、第三騎士団団長ですが、タカール商会の方に、向かっておられる様です。急ぎ捕縛した方が、よろしいかと存じます。』

 「なに!?すぐ手配しろ!」

 「はっ!」

 「凄まじい能力であるな。私もそんな能力が、欲しいと思った事が何度もあったものだ。」

 『差し上げましょうか?こちらのゴーグルですが、アラクネの糸を加工して作ってありますので、頑丈さは折り紙付き。簡易鑑定もできます故、謁見の際にも役に立つ物です。マルグリッド王の人柄の良さも好感が持てますし、今後の事もあります故、いくつか魔道具をお渡ししておきましょう。』


 正直言って、タカール商会に王族が絡んでいない可能性は、低いと考えている。

 だが、あくまでも可能性の範疇から逸れる事は無く、確かな証拠も無い事から、バネナ王国側からの贈り物として、位置情報及び盗聴機能を持たせた魔道具を持たせるのだ。

 外すのが難しいと思える機能を持たせてしまえば、宝物庫に投げ入れる様な事は無いだろう。

 只より高い物はないのだよ。


 『まずはアミュレットを。こちらは、精神魔法耐性と刺突耐性、斬撃耐性、MPタンク、毒感知、毒耐性を付けております。それと言語理解も付いております故、他種族の判りにくい言語などありましても、全て理解可能です。王妃様もどうぞ。』

 「こ、これは、もしや、魔力鉱石を使ってらっしゃるのですか!?」

 『はい、我が国で魔力鉱石が、いくつか産出しております故、魔道具に利用しております。マナの吸収も良く、半永久的に使える物です。売らずに大切に使用してください。それと、我が国との友好条約を結んで頂けるのであれば、王冠と王妃様のティアラなどに、耐性の付与もできるかと存じます。』


 あからさまに高価な物を差し出されたので、訝しんでいる様だ。

 当然の反応ではあるが、それを以てしても、隣国の情勢と王族の方針を知る事は重要なのだ。

 そして、腐った貴族による、悪政を敷かれるのも困るという理由もある。


 「・・・アルティス殿は、何故それほどまでに、我が国、いや、我々に尽くされるのか。いや、疑っている訳では無いのだが、国を守る立場としては、勘ぐってしまう物でな。」

 『私は、散々、馬鹿な者達を見てきましたので、有能な方には、長生きしてもらいたいと思っております。真面そうな国名の神聖王国についても、実際は悪魔に乗っ取られておりましたし、ハンザ神国に於いては、何の統治もされておらず、貴族も神官も、頭のおかしいものが取り仕切っている始末で、失望を感じざるを得ません。ですから、真面な方が統治されているのならば、頼りない騎士よりも、頼りがいのある騎士を育て、少しでも狂わされない様な、手を打つ事が肝要と存じます。』

 「そうであるか。ふむ、ハバネロ国王もいい宰相を持ったものだ。」

 『ハバネロは死にました。今はエカテリーヌ女王が即位しております。』

 「何!?あやつが死んだのか!だから最近下らない話を持ち込む輩が減ったのであるか。朗報だ!しかし、何故亡くなられたのだ?」

 『我が国は、初代勇者が興した国です。初代勇者が簒奪(さんだつ)を禁じていたにも関わらず、簒奪して前王を殺害したのです。ですので、数ある簒奪者排除の仕掛けにより、死亡したものと思われます。』

 「して、今の女王は、前王の王女殿であるか?」

 『その通りです。』

 「エカテリーヌ王女もかなり、頭の切れるお方だったと記憶しておる。それでお主を、そうかそうか。流石の慧眼であるな。納得がいった。」

 コンコン

 「ルーカスです。」

 「入れ。」

 「只今戻りました。無事、ジョリド・ダベンスを捕縛してまいりました。」


 王の顔が困惑に満ちている。

 こちらをチラチラと見ているので、マイクとトモスに許可を出した。


 『マイク、トモス、やれ。』

 「わ!何を!」

 「まぁ!?貴方何をなさってますの!?」

 『この者は偽物でございます。王都中心部よりここまでの所要時間が片道10分かかります。ここを出てから、城を出るまで3分掛かっておりますので、移動でも最低20分は掛かります。ですが、15分で戻ってくるとなると、王城の外壁を昇って来たか、空を飛んで来たかといった手段が必要になります。明らかに王太子のできる範疇を超えております。また、王にお渡ししましたゴーグルには、簡易鑑定がついており、悪魔を感知する事が可能となっております。』

 「私にはいただけないのですか?」

 「これ!、厚かましいぞ。」

 『王妃様には、ゴーグルよりもこちらの方がよろしいかと存じます。』


 渡したのは、最新式のルーペじゃなくて、メガネタイプだ。

 オートフォーカス付の度入りメガネだ。


 「どうかしら?って、貴方が良く見えるわ!?あぁ、世界がこんなに鮮明に視えるなんて・・・うう、ありがとうございます。うっうっ・・・」


 王妃が泣き始めた。

 老眼だと思ってたら、弱視だった様だ。

 そうだ、老眼は言い過ぎだったな。

 成人が15歳だから、王太子が18歳だとしても、まだ30代前半なのだった。


 『明るい所では、メガネに少し色が入りますが、異常ではありませんので。目を光から守る為の措置ですので、掛けたままで大丈夫です。どんなに風が強くても、どんなに頭を振っても、王妃様が外したいと思わない限り外れませんので、付けている事を忘れてしまうかも知れません。』


 メガネを着けたまま寝ても、壊れる事は無いが、圧迫されて痛みを生じたり、跡が付いたりする事は、よろしくないと言える。


 『寝る前に必ず外してください。起きた時に顔に痣が出てるかも知れませんので。』

 「はい。判りました。」

 コンコン

 「ルーカスか?」


 騎士団長が戻る時間としては、まだ早すぎるので、ソフティーに聞いてみた。


 『ソフティー扉の前にいる?』

 『うん。いま知らない人がいる。』

 『ソフティー捕縛よろしく』

 『はーい』

 「うわっ!何をする!」

 『マイク開けろ』

 カチャッ


 扉が開くと、知らない男が後ろ手に縛られて、正座していた。


 『お知り合いですか?』

 「宰相だ。お前は何で黙っているんだ?馬鹿者が!」

 「私は怒っているんです!。何故他国の宰相が来ているのに、私が呼ばれないのかと!」

 『・・・これが宰相?』


 扉の前で、応接間に入る前に名乗りを上げず、黙っている家臣など普通は居ない。

 ましてや、王と客が居ると判っている部屋に入るのに、無言を通すなど、あり得ない対応となる。


 「何だこいつは!」

 『この部屋にいるんだから、客に決まってるだろ?少しは頭を使え。お前はその客に対して「こいつ」呼ばわりをしたんだ。自分が、何を仕出かしたのか、理解できるか?』

 「ぐっ・・・」


 こんな低俗な奴が宰相?やはりこの国は、要注意とした方が良さそうだ。

 王族が実権を握っていない可能性も視野に、対応して行くべきだろう。


 『そして、何故宰相を呼ばないのかという事の回答は、こんなだからだ。王でも無く、王族でも無く、王に助言を求められた訳でも無く、名乗りも上げずに部屋の前に立ち、私の護衛に捕縛されている。呼ばれても居ないのに、ここにいる事自体が不自然で、不敬に当たる行為ですよ。貴方の役目は、王に助言を求められるまで、待機という事で、客人に対し、「こいつ」呼ばわりをする重臣など、厄介事の種にしかならないですからね。自分の事を理解すらしていない貴方に、ここにいる資格は無い。それと、貴方の様な不躾な(やから)が宰相である事に、不信感を抱かざるを得ませんね。』

 「私の言葉を全て言われてしまったな。我が国の宰相が失礼をした事をお詫びしたい。申し訳ない。」

 『いえ、気にしてませんから、お気になさらずに。マイク閉めろ。』

 バタン

 「あの通り、プライドばかり高くて、意識が低いのがどうしようも無くてな。困っておるのだ。」

 『あの者は、貴族ですよね?』

 「侯爵家の嫡男だ。宰相に任命する前は、頭の切れる者だと思っておったが、父親が居なくなった途端に、豹変しおったのだ。」

 『貴族では無いのですか。嫡男という事は、当主はご健在ではないのですか?居なくなったというのは?』

 「今は病に()せておる。元々はその侯爵が宰相だったのだよ。」


 無詠唱で鑑定をしてみたが、特に洗脳も魅了もされている訳では無かったが、甘言に踊らされているだけだろうか?プライドが高いだけで、礼儀作法を忘れるとは思えないが。

 当主が元宰相で、病気になっているのという事は、奴は臨時の宰相という事か。


 この世界でも、病気は存在しているが、なまじ、回復魔法で殆どの病気の一時的な回復ができてしまう為、臓器の損傷などを伴う病気は、殆ど根治する事が無く、体が疲弊するまで放置される事が多いのだ。

 もちろん回復魔法が通用しない病気も存在している為、一定の医学は発達はしている物の、魔法の存在が科学技術の発展を阻害しているので、細菌やウイルスなどを原因とする病気については、未知の領域のままだ。

 そして、他にも呪いや魔法生物による病気や障害も存在している為に、神官=医者という認識だったりする。

 そして、それら医学を根底から覆すのが、万能薬の存在だ。

 更に、その万能薬を上回るのが、アルティスの持つ治療術だ。

 この治療術が存在しているから、医学が発展しないとも言えるのだが。


 『治しましょうか?』

 「治せるのか!?」

 『治せますよ。呪いでも毒でも病気でも何でも。』

 「可能性としては?」

 『見ていないので、なんとも言えませんが、立場上で言えば、毒か呪いでしょうね。』


 立場上というのは、元宰相と言う地位を狙われた可能性が高いと思われる事と、倅が20代である事を見れば、当主はまだ30代半ばという事で、病気になる程の歳では無いからだ。


 「では、メイドに案内させよう。」

 『どちらで療養されているのですか?』

 「城の中なのだが、私は方向音痴でな、いつも迷子になって、戻るのに時間がかかるのだよ。」

 『あぁ、ブラウニー関連ですか。案内をお願いします。大丈夫。すぐに仲良くなれますよ。』

 「ブラウニー?」

 『お城やお屋敷に憑く、妖精の一種ですね。悪戯好きですが、家を守ってくれると言われてます。あぁ、部屋の外にはアラクネが居ますが、私の友人なので剣を向けない様お願い致します。』


 ブラウニーとは、日本で言う座敷童の様な妖精の事で、主に古い建物や城、砦などに居着く事が多いのだが、殆どは姿を見せる事は稀で、ゴーストやレイスと間違われる事が多い。

 嫌われると、悪戯(いたずら)されたりする事があり、城の様に広くて複雑な通路の建物では、迷子にさせられたりする事があるのだ。


 マルグリッド王と部屋を出た。

 後ろには、王妃とマイク、トモスが続いている。

 部屋の外にアラクネが居るのを見て、一瞬ギョッとした顔をしていたが、ソフティーがニコニコしているので、笑顔になっていた。


 「このアラクネが友人なのか。」

 「アルティス様、このアラクネさんのお名前は?凄く大人しいし、笑顔が可愛いのね。」

 『ソフティーです。言葉も話せますので、会話してあげて下さい。』

 「まあ!、ソフティーさんとおっしゃるのね?笑顔が素敵ですこと。私、アラクネさんとお話しするのは初めてなのですが、よろしいかしら?」

 『私も王妃様とお話しするのは初めてです。お話できる事を光栄に思います。』

 「凄いなぁ!丁寧な言葉遣いができるとは。うちの宰相に見習わせたいな。」

 「貴方がそんな事ばっかり言うから、反抗的になるんじゃないのかしら?」

 『いい大人が、少し嫌味を言われた程度で、反抗してたら、その内、周りに人が、寄り付かなくなってしまいますがね。それが宰相なら尚更ですよ。』

 「そういう物なのかしら。」

 『宰相にするには、落ち着きが無さ過ぎます。もっと礼儀作法を徹底してからでないと、無作法にも程があります。国内の状況を広く見る必要がありますが、あの様子では、視野が狭い様に感じます。興味のない事をほったらかしにすると、後々面倒に繋がりかねませんから、全体を見れる、視野の広い人を任命する事をお勧めします。』

 「国の内情を知ると、体調を崩すものが多くてな。以前はそんな事は無かったのだが。」


 「先程のブラウニーについて、教えて欲しいのだが、何かコツがあるのか?」

 『ブラウニーはお菓子が大好きなんです。よく床にクッキーのカスが落ちていませんでしたか?』

 「それを見つけた時に、侍女を大声で呼んだりするのだが・・・」

 『それが原因ですね。これからは、途中ですれ違った侍女に、静かに頼むのが良いでしょう。』

 「仲良くする事に意味はあるのか?」

 『ブラウニーは家に着く妖精です。主人を好きになるか、嫌いになるかで、訪れる人の種類が変わってきます。また、老朽化したり、埃が溜まったりするのを防いだり、悪い物が居たりすると、追い出したり、教えてくれたりする様です。たまに、クッキーのカスが落ちている所に、クッキーを置いたりすると、好感度があがりますので、お勧めします。』

 「そうなのか?」

 『娘だと思って可愛がってあげて下さい。幸運が訪れる事がありますので。』


 中庭にぽっかりと空いた空間を見つけた。


 『ふむ、そこの中庭に何か木がありませんでしたか?』

 「以前は浄化の木が植えてあったのだが、枯れてしまってな。それがどうかしたのか?」

 『浄化の木は、悪い空気を綺麗にしてくれる効果がありますので、植えなおした方がよろしいのでは無いでしょうか。』

 「何度か植えなおしてみたのだが、成長せんのだ。」

 『では、原因は地下にあると思いますね。下水の経路を変えたとか、廃棄場の場所を変えたとかですね。』

 「宰相が変えたな。あやつに変えた直後に工事をしておった。」

 『多分それですね。栄養が無ければ植物は育ちません。特に浄化の木は、豊富な栄養が無ければ育ちませんので。』

 「すぐに戻させよう。今は廃棄物の臭いが臭いと、評判が悪くなっておるのだ。」

 『そういうのは、改良ではなく、改悪といいます。工事をする前に、そこに、何があるのかを確認した方が、いいかも知れませんね。』

 「何かある可能性があると?」

 『はい。多分悪魔関係。我が国も、神聖王国に、悪魔を仕向けられましたから、未だに排除に、苦慮している所です。』

 「こちらのお部屋でございます。」

 ガチャ

 「何だ!?この臭いは!!」


 部屋の中は、腐敗臭と汚物臭が充満しており、マルグリッド王が叫んだ。


 『[クリーン]』

 『まだ駄目か。[ホーリーフィールド][鑑定][ディスペル][ホーリーフィールド]』

 ガシャーン

 『マイク』

 「はっ!」


 部屋の中は、薄暗く陰鬱とした雰囲気で、悪魔の仕業だと思って聖域を出したが、効果が見られなかった為、一度鑑定をしてみると、幻影魔法と転送魔法が仕掛けられていた為、破壊した後で、再び聖域を展開した。

 そして、マイクが、神聖魔法のセンサーライトを点灯させてから、部屋の片隅に置くと、ベッドの下から黒い煙が吹き出し、消えて行った。


 「一体何が・・・」

 『悪魔がベッドの下で悪さをしていた様です。異臭は、誰もお世話をしていなかった、いや、させて貰えなかったからだと思います。』

 「どういう事ですかな?」

 『悪魔が偽の情報で、偽の侯爵の世話を侍女にさせていたのでしょう。マイク、これを飲ませるんだ。』

 「はっ!」

 「偽の侯爵を世話したとしても、侍女なら判るのでは無いか?」

 『精神魔法に掛けられ、別の部屋に転送される様になっていました。我々は、全員アミュレットを装備していますから、精神魔法には抵抗していたのです。』


 マイクが万能薬とポーションを飲ませると、顔色が良くなり、呪術による病巣も改善した様だ。

 万能薬には、ワラビに作ってもらった、神聖魔法の聖水を使っていて、中程度の呪術であれば、聖水の効果で回復できる。


 ムクッ

 「アーノルドか。助けてくれたのか?」

 「助けたのはこちらの御仁だ。バネナ王国の宰相殿だ。」

 『バネナ王国宰相アルティスと申します。以後お見知りおきを。貴方は誰かに呪われていました。万能薬とポーションを飲ませたので、もう大丈夫でしょう。それから、こちらのアミュレットを付けて下さい。精神魔法耐性と状態異常耐性、斬撃・刺突耐性が付きます。それと、VIT値が1000増えます。人間が相手なら、魔剣でも使われない限り、普通の服でも防御力が付きます。ほぼ死なないですよ。』

 「それは、我々のにも付いておるのか?」

 『当然ですよ?一番守らねばならないお方ですから、王と王妃様のには、VIT値2000付いています。城の最上階から落ちても死にませんよ。』

 「ワッハッハッハッハッハッハッハッハ、そんな国宝級の物を頂けるとは、光栄でございます。私は、元宰相ウイリアム・ペスカトーレと申します。この度は、この様な姿で失礼仕ります。このお礼はいかほどお支払いすれば、よろしいでしょうか?」

 『必要ありません。この手の装備は、我が国の兵士でも装備しております。』


 うちの兵士達には、それプラス、打撃耐性とMPタンク、各種属性耐性が付いていますがね。


 「何と!?・・・」

 「議題で、バネナ王国に攻め込もうなどと、喚いていた馬鹿がいたな。牢屋にぶち込んでおこう。」

 「左様ですな。我が息子は、精進しておりますかな?」

 「お前の倅が吠えておったのよ。すぐに宰相を解任する手続きを取ろう。」

 『今回の呪いですが、術者に反射していると思います。術者には、首に痣が出ていると思いますので、すぐに判ると思われます。特に、普段はしていないスカーフや立て襟など、不自然な姿で現れると思われます。また、呪い自体は、倍返しとなりますので、今頃は苦しみまくっているのでは無いかと。』

 「我が息子ではない事を祈ろう。」


 呪術は、術者が解除すれば反射しないのだが、他者が解除すると、術者に反射するリスクがある。

 反射した場合は、同じ呪いでは無く、状態異常を伴い、露出した部分に現れる様になる為、通常はあまり使われる事が無いのだが、確実に殺せる環境にあれば、稀に使われる事がある様だ。

 呪術の燃料は、対象者のMPと生命力で、即効性が無いものの、対象者を長く苦しめたい場合は、有効な手段とも考えられる。

 アルティスは、ねちっこいのと、リスクを考えると、全く利用価値を見出せない魔法だと思っているが。


 『再教育は承りますよ?従順とまではいきませんが、捻くれた根性を、叩きなおす程度の事は致しますよ。丁度、領を再生させる計画がありますので、そこでビシバシ鍛えなおすのは、如何でしょうか?』

 「面白そうですが、実力を見ない事には何とも。」

 『丁度、王太子も戻られた様ですし、少し休まれたら模擬戦を開始しましょうか。』

 「あの、アルティス宰相殿、そのアラクネクイーンは一体・・・」

 『ソフティーは私の親友です。というか、クイーンと判るのですね。』

 「えぇ、アラクネには、何度か遭遇しておりますし、普通のアラクネには無い印がありますから、アラクネの上位種のクイーンなのかと思いまして。」

 『この近くにアラクネがいるのですか?もしいるのでしたら、仲良くしてあげて下さい。攻撃さえしなければ、何もしてきませんし、仲良くするだけで、アラクネ絹の服がもらえる可能性もあります。過去にアラクネが暴れた事もありますが、それは人間の傲慢さから、アラクネを怒らせたのが原因ですし。』

 『彼女達は、温和で優しいですから、頼もしい隣人として、迎え入れるのがいいと思いますよ。』

 「しかし、意思疎通ができないのでは、中々話が通じないのでは無いか?」

 『お渡ししたアミュレットには、言語理解というスキルも入っております。普通に話せますよ。それに、彼女たちは、頭がいいので、人間の言葉もすぐに覚えますよ。』

 「本当ですか!?」

 『先程は、王妃様とおしゃべりを楽しんでいましたし。』

 「王妃様・・・器が大きいのか、能天気なのか・・・」

 『後ろに居ますよ?』

 「え!?あ・・・」

 「誰が能天気ですって?」


 王妃の笑顔が怖い。


 騎士団の訓練場に来たが、訓練している騎士団は、筋肉量が足りておらず、鍛えがいがありそうだ。

 マイクとトモスが、短パン一丁で、近衛騎士団と模擬戦を行うのだが、相手は真剣、マイクとトモスは、木剣だ。

 最初は、真剣でーとか騒いでいたが、マイクが鎧を着せた的を、バッサリと切り裂いたのを見た騎士達は、木剣でやる事を了承したのだ。


 「それでは、始め!」

 「はあ!」

 カッドスッ


 終わりである。

 一瞬で決着がついた事に、驚きを隠せない王達と騎士。

 真剣を木剣で受け、折られる事も無く、いなして意識を刈り取った。

 アルティスがアドバイスを送る事にした。


 『剣を振る時に、態々、はあ!とか、えい!とか言ってたら、剣がどこに振られるのかバレるだろうが。黙って振れ。あと、息を止めるな。人間は息を吐く時が一番力が出るんだよ。ほら、今の事を踏まえて、次のやつ行け。』

 『違う!、そうじゃない!。剣が重いんだから、肘を伸ばしたら、最悪折れるぞ?常に次の手を考えろ。止まるな!相手が確実に死んでいるのを確認するまで、手を止めるな。狙う場所を睨むな。顔を見ろ。相手の目を見て、何を狙ってるのか考えろ。キョロキョロするな。足元は目の端で見ろ。膝を使え。そこのノッポは腕をまず鍛えろ。そこのデブは走り込め。腹が引っ込むまで剣を持つな。足が震えてる奴はやるな。自信が無いなら鍛えろ。素振りをしろ。相手をイメージしろ。殺すつもりで行け。ビビるな。死ぬ気で行かなきゃ殺せる訳無いだろ?ビシッとしろ!ヘロヘロするな!』

 「くそー!チビの癖に煩いんだよ!」


 一人の騎士が、アルティスに向かって剣を振り下ろしたが、あまりの遅さに驚きつつも、スレスレで避けて、往復ビンタをかました。


 スパーン

 スパーン

 『そのチビに負ける雑魚が、吠えるな。騎士だったら、民衆の憧れになる位にビシッと背筋を伸ばして、胸を張れ!背中を丸めるな!顎を引っ込めろ!首を前に出すな!顎を引け!真っ直ぐ前を見ろ!そう、その調子だ!』

 『踏み込んで打ってみろ!』

 バキッ

 「うわっ!折れた・・・凄い!」


 「懐かしいな。俺らもあんな風に、毎日扱かれたもんだよな。」

 「そうそう、3日目には、ロックリザードを狩れ!とか言われたもんな。」

 「あの時は、ホント死ぬかと思ったよな。」

 「アルティス様は強いのですか?」


 遠い目で懐かしむマイクとトモスの会話に、ルーカスがアルティスの強さについて聞いてきた。


 「ロックリザードを一撃で3分割したんだぜ?」

 「!?・・・」


 ロックリザードといえば、外皮が硬くて、倒すのに苦労すると言われる魔獣で、外皮ごと3分割したという話に、絶句した。


 「言葉が出ないだろ?俺達もそうだったよ。あの爪、ミスリルも切り裂くんだぜ?怒らせたら、さっきの奴みたいにビンタされるしよ。あれでもかなり手加減してるんだから、おっかねぇんだよ。」

 「本気だとどのくらいで?」

 「さぁ?ロックリザードが爆ぜたのは見たな。あと、魔王軍のダッドアイって居ただろ?あれを引っ叩いて、潰してたな。」

 「・・・」


 魔王軍のダッドアイと言えば、魔王軍の中で最強と謳われている四天王の一人で、強力な魔法と高いVITによって、倒すのは難しいと言われていた筈。

 そのダッドアイを引っ叩いて潰した?ロックリザードが爆ぜた?到底信じられない話に、思考がついて行けない。


 「おっかねぇから、怒らせんなよ?一級冒険者のウルファ・スティングレイって知ってるか?ワーウルフの。あいつも敵わなかったしな。」

 「そうだったな。往復ビンタと鳩尾(みぞおち)に一発入れられて、蹲って(うずくまって)たな。」

 「そういえば、クスノベルティの教会で、ソフティーさんの背中を抉ったとか言ってなかったっけ?」

 「あー言ってたな。祭壇を蹴飛ばした時にソフティーさんの背中から飛び出して、その時に抉ったって言ってたんじゃなかったっけ?」

 「そうそう、その時点で、俺らの剣では、傷一つ付けられなかったもんな。」


 ウルファ・スティングレイと言えば、1級冒険者最強と言われる程の強者で、数か月前までは依頼達成率100%と言われる程の実力者だった。

 最近は、全く話を聞かないが、有名人である。

 そのウルファが一蹴される程の実力者とは・・・


 「めちゃくちゃ強いじゃないですか・・・。」

 「でも、アーリア様には勝てないって言ってなかったか?」

 「いや、確か微妙に負けてるとか言ってた気がするな。」

 「アーリア様は、アラクネを素手でねじ伏せて、子分にしちまうくらいだからな。」

 「その人、人間ですか?」


 新しい名前が出て来たと思えば、アラクネを素手でねじ伏せた!?本当に人間かそれ!?


 「王子さん、それ本人の前で言うなよ?アイアンクローで頭握り潰されるぞ?」

 「アルティス様もよくやられてたよな。余計な一言言うから。」

 「どんな事を言ったのですか?」

 「アルティス様の部下に女騎士がいて、兵士とイチャイチャしてるのを揶揄う(からかう)のに、オークの金玉使うか?とか言うから、アーリア様が怒ってな、ガシッと頭掴んで締め上げるんだよ。めちゃくちゃ藻掻くんだけど、抜け出せないみたいだったよな。」

 「はは、はははははははは・・・」

 「アルティス様と最初から一緒にいた連中は、みんな1か月で見違えるほどに強くなってたもんな。」

 「そうそう、伯爵令嬢がソロでロックリザードを撃破したり、8人でミスリルリザードを撃破したりな。」

 「ええ!?あの話は、アルティス様達がやった事なんですか!?」


 噂を聞いた時、信じられない思いで一杯だった。

 まず、伯爵令嬢が単独で、最弱の攻撃魔法と言われていた、ウォーターだけでロックリザードを撃破したという噂を聞いた時、どうやって倒したのか、不思議でならなかった。

 続けて聞いた、ミスリルリザードの初撃破、外皮が硬く魔法も効かない為、嘗ては、1級冒険者のパーティーが壊滅したと言われる程の強敵で、それまで討伐したという記録は無かった。


 「何か帰り道でオークの集落を潰してきたとか言ってたよな。150匹殺したとかで。」

 「何人でやったんですか?」

 「確か、10人だったっけ?」

 「10人!?」


 オークの集落を発見した場合、通常は騎士団や冒険者が数百人で対応するのだが、毎回数十人の死者が出る程に、危険度が高い。

 それをたったの10人で、片付けたと聞けば、驚かない者は居ない。


 「そこでエルフ達を助けて、エルフ達も鍛えなおしたらしいし、今や、配下にエルフ、人間、ワーキャット、ワーウルフ、セイレーンに魔族と翼人族だったか?」

 「そうそう。どんどん増えて行ってるから、話聞くと面白いんだよな。」


 しかも、囚われていたエルフを助け出したとなれば、当然アルティス達の被害は少なかったと言える訳で、今までにそんな話を聞いた事等、一度も無いのだ。


 『お前らさぁ、話しながらポーズとるのやめろよ。みっともないぞ?』

 「うぇっ!見られてた・・・」

 『パンツ一丁でなにやってんだよ。』

 「す、すいません。」


 二人が話ながら、何やらポーズを取っていたのは、鍛錬しながら話していたのではなく、何かをアピールしていたらしい。

 ルーカスには、何のポーズなのか理解ができていなかったので、申し訳ないと思っていた。


 『早く装備を着てこい。昼飯食ったら出るぞ。』

 「タカール商会の資産没収はいいんですか?」

 『見たけど、金貨以外は殆ど偽物ばっかりで、真面(まとも)なのは、ミスリル鉱石くらいだったよ。あ、王子さんこれ、作ったからあげる。よく切れるから、取り扱いには注意してくれ。』


 突然、アルティス殿から剣を渡されたが、ぱっと見でも判る、素晴らしい業物だが、取り扱いに注意?


 『刻印に触れて魔力を流すと、属性剣になるから。一応全属性対応してるけど、殆どの場合、火か光だろうな。悪魔を切る時は、火より光にした方が効果的だよ。一応、神聖属性もあるんだけど、MP消費激しいから、信仰している神がいないと、ほぼ使えないよ。』

 「あの・・・属性剣って、伝説級の剣なんですが・・・」


 なんと!属性剣で、しかも全属性対応!?もうそれ、国宝通り越して伝説級なんですけど!?


 『うちの騎士は標準装備だよ。バネナ王国には、2000本くらいあるよ。気にしたら負けだよ?』

 「そうそう、気にしたら負け。俺らの剣も属性付くしな。アルティス様は自重を知らないんだよ。」


 ルーカスの思考能力が停止した。


 『知っとるわ!!ただな、自重どうこう言ってて、部下が死んだら後悔しかしないからな、死なない様に手を尽くすんだよ。神がどうとか知ったこっちゃないからな。』


 いや、自重以前に、そんな強力な魔法を付与できる技術が凄いと思う。

 今までの魔道具では、色々な機能を持たせようとすると、失敗するというのが常識だったのだが、アルティスの作る魔道具では、多数の魔法が付与されており、実用化されるだけでは無く、大量生産までされているという。

 どうやって一つの魔道具に複数の機能を付けているのか、教えて欲しいと思っていると、新たに凄い情報が暴露された。


 「杖も凄いのを作ってましたよね?」

 『ワラビの杖の事か?ストーンゴーレムのコアを使って、レアトレントの木で作った奴か。あれよりも、凄いのあるぞ?魔力鉱石でアマーティスの神像を作って、アラクネ絹で作った玉の中に入れて、杖部分を浄化の木を使って作った、聖女用の杖だ。対悪魔用に作ったから、神聖魔法の威力が半端ない奴だ。』

 「な?自重を知らないだろ?」


 な?じゃないですよ?サラッととんでもない物を作ったという事を暴露されましたよ。

 ワラビ?もしかして、聖女様のワラビー・ライスケーキ様の事じゃないですよね?

 ストーンゴーレムのコアとは、半割れでも強力な力を発揮すると言われる、垂涎(すいぜん)の魔石をレアトレントの杖に装着したと?レアトレントって、白木のトレントの事ですよね?それは、神様が持ってる杖じゃないですか?


 「な?じゃないですよ。それ、もう神話級の杖ですよ?確か魔法の神の杖がそんな感じだったと思いますよ。」

 『違うよ、魔法の神のカストレーロの杖は、魔力鉱石と世界樹の枝だよ。』

 「様って付けないのですか!?」


 呼び捨て!?神を呼び捨てにしましたよ!?今!!


 『付けないね。神聖王国で神っぽいのが出て来た時に、役立たずって言ってやったし。』

 「「「ブフッ」」」


 神に対して、直接暴言を吐いたのに、ここに居るって事は、神罰は下されていないという事ですよね?

 神に、そんな発言を許されてしまう程のお方という事ですか・・・ははは。


 「怖い物無しですね。」

 『よーし、全員自動回復を任意に設定しろ!そんな物に甘えているから、強く成れないんだぞ!平時の今は全く必要が無いんだから、訓練中は必要無いから外しておけ!明日からのメニューは、朝は体操、朝食後にマラソン、その後剣の基礎錬、午後に肉体の鍛錬、その後模擬戦だ。ルーカス王太子も含め、お前らは近衛騎士風の騎士レベルでしかない。ちゃんと毎日訓練しろ。寝る前には、必ずストレッチをやれ。トモス、ストレッチを教えてやれ。』

 「了解」


 ルーカスも含めて始まった、すとれっちという体操だが、ムキムキのトモスが180度開脚や、前屈で膝に顔が付くなど、驚きの柔らかさを披露した。

 なんでも、ストレッチをする事で、筋肉痛が和らぎ、体が柔軟になって、怪我が減り、筋肉痛も和らぐそうだ。


 「先程、アルティス殿が仰っていた訓練メニューは、バネナ王国では毎日やっているのですか?」

 「あぁ、あれは、新兵用のメニューだよ。騎士と兵士は、基本的に沼地でラバーフロッグやボグダイル、ロスクスなんかを狩りながら、戦闘訓練をやってるらしいよ。俺とマイクは、まだ王都の訓練には参加していないが、クスノベルティでは、見回りと言う名のマラソンと、整備と言う名の鍛錬、模擬戦と言う名の争奪戦に、実戦として治安の維持をしていたな。」

 「整備と言う名の鍛錬??」

 「下水の詰まりを取ったり、外壁の修理や街道の清掃なんかだな。」

 「それが何の鍛錬になるのですか?」

 「下水にいるヒュージスライムの退治や、街道に蔓延る(はびこる)ゴロツキの排除、外壁の修理は、材料の運搬に、修理中に襲撃してくる魔獣の排除だな。」

 「ヒュージスライムの退治は、どうやっているのですか?」

 「槍で一突きだぞ?囮が気を引いている間に、槍を核に一突きで倒せるよ。」


 ルーカスは、何を言っているのか判らなかった。

 ヒュージスライムは、下水の発達しているバネナ王国では、よく下水内で発生していると聞くが、マルグリッド王国では滅多に発生する事は無い。

 マルグリッド王国では、国土の8割が湿地帯であり、街や都市は、わずかにある硬い地面の上にしか存在しないので、態々地下に穴を開けてまで、水を通す事は無いのだ。

 生活排水の除去に、若干ではあるがスライムを利用してはいるが、殆どは浄化の木によって浄化している。

 たまにハニービーが街中に巣を作るのだが、蜜は欲しいが、街中を大きな虫がブンブン飛び回るのは困る為、早々に撤去されてしまう。


 マルグリッド王国内でヒュージスライムが発見された場合、ヒュージスライムの周りに防壁を構築し、大量の矢と魔法攻撃によって弱らせてから、全方位から槍を打ち込むのだ。

 前回の討伐では、20名が犠牲になった。

 それを、ほぼ日常的に数名で退治していると聞いて、驚かない者は居ないだろう。


 「それは、何人程で倒すのですか?」

 「ん?二人だよ?」


 バケモノだ!こいつらは、正真正銘のバケモノだ!!


 『バケモノみたいに思っているのかも知れないが、君らが苦労しているのは、倒し方を研究していないからだよ?こいつらが少人数で倒せるのは、倒し方を研究し尽くした結果だよ。同じ種類だから、性格も生態も同じとは言わないが、行動にはパターンがあって、こうしたらあーする、そうしたらあーなるってね、決まった行動があるんだよ。今までの観察記録を見直して、行動パターンを見出せば、倒すのは難しくないと思うよ。』


 アルティスに、見透かされていた様だ。


 『そういえば、貴国では薪を買っているんだっけ?泥炭(でいたん)は使わないのか?』

 「でいたんとは何ですか?」


 初めて聞く名だが、何に使うと言うのか?


 『街の端に湿った地面の土地があるでしょ?あの地面、乾燥させたら、薪の代わりに使えるよ?それと、その奥に見えた茶色い草原、あれも燃えるんじゃね?』

 「それは本当ですか!?あの地面を乾燥させるとは、どうやるのですか!?」


 あ、耳が後ろを向いた。

 アレは確か、イラついている時の耳だった気がする。

 何か気に障った事を言ったのだろうか?


 『王太子殿、乾かす方法など、幾らでもあるだろう?少しは自分で考えろよ。せっかくヒントを貰ってんのに、自分達でどう利用するか、考えるって方向には向かないのか?何でもかんでも聞こうとするなよ。難しい話じゃねぇんだから、てめぇで考えろよ。何の為に脳みそ持ってんだ?』

 「あ、アルティス様、抑えて、抑えて。仮にも一応、他国の王太子殿下ですから。」


 アルティス殿に怒られて、自分の犯した失態に初めて気が付いた。

 マイク殿がアルティス殿を宥めて下さってはいるが、今回は自分が悪いとそう思った。


 「いえ、大変失礼を致しました。何も考えずに浅はかな事を聞いてしまいました。お詫びいたします。アルティス殿のいう事に間違いはありません。確かに乾燥させるなど幾らでも方法はあるのに、そんな事まで聞かなきゃ判らないなんて、馬鹿な事をしてしまいました。」


 乾燥させると言われた時、地面を丸ごと乾燥させると思ってしまったが、切り出して干せばいいだけだ。

 何も、地面全体を乾燥させる必要など、何処にも無いのだ。


 怒ったアルティス殿は、行ってしまわれた。

 まだ他にも聞けることがあったと思うのだが、下らない事をしてしまったばかりに、その機会を失ってしまったと後悔した。


 アルティスは、お昼ご飯を食べる前に、厨房にお邪魔して料理を見せてもらったが、やはり出汁がないので、ホリゾンダル家でやった様に、出汁を作ってやった。

 補助は、マイクとトモスだが、二人共自分達の領地で美味い飯を食べる為に、覚えるのに必死になっていた。

 厨房の料理人達は、30分後には全員土下座していたが、アルティスの怒号と共に、ワチャワチャと動き始めた。


 おかげで、お昼ご飯も美味しく頂けたよ。


 おかずは、(いなご)の炒め物とホースフロッグという、この国にいるカエルの足の唐揚げ、パウンドカープという魚の素揚げにあんかけ、ヒポポタマス(カバ)のステーキだ。

 マルグリッド王国には湿原が多い為、ここの主食もお米だったんだが、長粒種でパサパサしていたので、スパイスでピラフの様にした。

 他にも、短粒種のお米もあったので、炊き方を教えてから出る事になった。


 時間は、午後2時。

 浄化の木の下の事も心配ではあるが、神像と神聖魔法のセンサーライトも渡したし、なんとかなるだろう。

 駄目だったら連絡するように言っておいた。


 「色々とありがとう。バネナ王国との友好条約は、必ず締結すると誓おう。」

 「近くにいらした時は、また寄って下さいませ。いつでもお待ちしております。」

 「もしかしたら、本当に留学する事になるかも知れないけど、その時はご連絡致します。」

 『あぁ、待ってるよ。浄化の木の下の件も、油断せずに対応してください。あのライトを盾にくっつけて行くだけでも、全然違いますから。では、また会う日まで、お元気で。』

 「アルティス殿も気を付けて。」

 「お体にも気を付けて下さい。」

 「ありがとうございました。」

 シュン


 アルティス達が去った後のマルグリッド王国は、てんやわんやの大騒ぎだ。

 まず、ルーカス王太子が着手したのは、泥炭の採取だ。

 燃えると聞いたから、薪の様に細長く切り出して、乾燥させた。

 火を点けてみると、確かに燃える。

 火力は弱いが、この土であれば、国中のどこにでもあり、取り放題である。

 もう一つ言っていた、茶色の草原だが、この草原の下には、カエルの卵があり、過去の王家もこの草を燃料として刈り取った為に、カエルの数が減り、飛蝗のスタンピードに発展したという経緯があるのだ。

 

 だが、その時の教訓はカエルを減らしてはいけないという事ばかりでは無く、時折見つかる鞘に入った卵が、飛蝗の卵であるという事実だ。

 卵の大きさは長さが5㎝程もあり、鞘は50㎝程あり硬くて食べられないが、卵は茹でたり炒めたりして食べられている。

 この卵は、獲りすぎるとカエルの数が減り、獲らずに放置するとスタンピードの前兆である、赤い卵が大量発生する為、現在では採取が推奨されている。

 つまり、カエルを減らしても、飛蝗の卵を取れば、数を調整できると言う事かもしれない。

 ルーカス王太子は、飛蝗の卵の収穫率とカエルの減少率の調査と、茶色の草原の原因である麻の草原を刈り取る方法の模索に乗り出したのだった。


 一方、城内の浄化の木の根元では、神聖魔法のライトを盾に着けて、騎士達が浄化の木の根元で活動する悪魔達を排除し、城内の廃棄物をそこに集まる様に修理するべく、職人たちが入って行った。


 厨房の料理人達は、米の調理方法を民衆に広めるべく、街の広場で実演を始めた。

 タカール商会の跡地では、地面を掘り返す第三騎士団員を眺める暗部達が居た。


 「これ、いつ終わるんですかねぇ?」

 「さぁ?商会長の持っていたマジックバッグには、少量の白金貨しか入ってなかったらしいし、儲けた金額の殆どが、どこに消えたのか調べろって指示だから、ここに無ければ、他を当たるしかないって事よ。」

 「ホントにあるんですかねぇ?もう4メトルですよ?」

 「無いかも。」

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