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第32話 キース・ヨークナル新領主

 それでは、本題に入ろうと思う。

 そもそも、今回保護した子供達は、バネナ王国の南東にある、3領の無能領主が神聖王国に売る為に集めた子供達である。

 つまり、その3領主をどうにかしなければ、何度も繰り返される事になってしまうのだ。

 なので、その馬鹿共を排除するなり、奴隷にするなりして、平定しなければならい。

 という訳で、翌日、騎士3名とアルティス、ソフティーでテレポートした。

 まずは、馬鹿領主その1、グリーディ・ヨークバル子爵のヨークバル領に行ってみた。

 領内は、荒野という感じに見えるが、切り株があちこちにあるので、金を稼ぐために木を伐りまくったのだろう。幾つか切り株が掘り起こされた跡があるが、これは、薪を作る為に誰かが掘り起こしたのかも知れない。

 街の中に入っても、人々に活気が無く、服装もボロボロで、瘦せこけている。

 ゴロツキがすぐに集まってきたが、無視して進む。


 「おう、こら、無視すんじゃねぇよ!金を寄越しな!痛い目に遭う前に」

 ヒュッ

 『お!いい剣筋してるねぇ。さすがルースが選んだ精鋭だ。』

 「お褒めに預かり、光栄です。」

 「てんめぇ!ぶっ殺せ!!」

 ヒュヒュヒュッ


 3人がそれぞれ、一振りしただけで、9人が死んだ。

 というか、持ってる剣ってロングソードだよね?エストックじゃないよね?


 『君らには、ロングソードは軽すぎるのか?』

 「そうですね、もう少し長くてもいいかも知れないですね。」

 「私は、寧ろもっと細くて鋭い方が好みかも知れません。」

 「私は両手剣を使いたいですね。」


 彼等の名前は、上からマイク、トモス、キースだ。

 武器の好みは、三者三様で、ブロードソード、エストック又はレイピア、バスタードソードといった感じか。

 うん、騎士にバスタードソードは、無いな。

 試作した剣を渡してみよう。


 『これを使ってみてくれ。』

 「ブロードソードですか、いいですね。長さもいい感じですね。」

 「これは、レイピアですか?エストック?」

 「ブロードソードの両手持ちタイプですか。使ってみます。」

 『色々試しに作ってみたんだよ。エストックはちょっと細すぎるから、レイピアにしてみたよ。エルフ達も使ってるからな。折れないとは思うけど、ロングソードとは間合いが違うから、練習がてら使ってみるといい。』

 「「「ありがとうございます。」」」


 などと話していると、正面から騎乗した騎士っぽいのがやって来た。


 「貴様ら!殺人罪で捕縛する!」

 『殺さずに』

 ゴスッ

 ドカッ

 ゴスッ

 『手が早いな。まぁ、遅かれ早かれ倒すからいいんだけど。』

 「すみません、馬が手に入るチャンスだと思いまして。」

 『面白いな、マイク。』

 「ありがとうございます。」

 『()めてねぇよ。』


 「あはは、怒られてやんの。」

 『あんまり手が早いと、ゴロツキと変わらないぞ?』

 「すみません、街の様子を見て、早く領主の所に行きたくて、どうにかして改善してあげたいんですよ。この街は、私の出身地によく似てますから。」

 『隣の領出身だったっけ?』

 「はい、もう縁を切ったと思っていたのですが、領主候補だと言われまして、立候補したのです。」


 『そうか、でも、お前がやるなら隣の領がいいだろ?』

 「はい!」

 『ソフティーこいつら縛って。さっきからパシパシ煩いんだわ。』

 『はーい』

 『さっさと領主をクビにして、片付けるぞ。』

 「「「おうっ!」」」


 領主の館に来てみると、すげー金ぴかの建物だよ。

 全く、どうしようもないな。

 門の前には、騎士が40名程立ち塞がってるが、どいつもこいつも雑魚だらけだ。


 『殺さずに痛めつけてやれ。こいつらは、鍛えなおして兵にするんだから。』

 「「「了解!」」」


 相手は、全員剣を構えてはいるが、屁っ放り腰で頼りない。

 持ってる物を、剣からパターに変えた方が、似合ってるくらいだ。

 こちら側は、剣を抜かずに無手で行く様だ。


 『ソフティー、倒れた奴を捕縛してって。』

 『はーい』


 あ、ソフティーは小さくなってもらってるよ。

 大きいままだと、蜘蛛の子を散らす様に逃げちゃうからね。

 アラクネだけに。


 ゴッガッドスッバキッドカッゴスッガンッ


 30秒くらいかな。

 全員縛り上げて、門の中に入って行くと、中からぞろぞろと、50人程が出て来た。

 まだ居たんだね。

 烏合の衆だが。

 一人だけ、用心棒的な風貌の奴が居るけど、恰好ばっかりで中身が無いカスだ。


 『あの一人は、早い者勝ちだな。』

 「大した事無いので、パスで。」

 「そうですね、こいつらと比べれば強いかも知れませんが、大した事は無さそうです。」

 「まぁ、誰もやらないなら、やってもいいですよ?」

 「そうかい、じゃぁ先にやらせてもらうよ。」

 『じゃぁ、キース相手してあげなさい。』

 「へーい」

 「そんな武骨な武器で、速さについてこれるのかねぇ。」

 『早くやれよ。』

 「小癪な!」

 キンッゴスッ


 予想通り、一瞬で終わったよ。

 どれだけ早いのかと思っていたが、所詮は鍛えてないクズという感じで、ゆっくりにしか見えなかった。

 剣技というのは、やはり筋力が無ければ発揮できないので、剣技スキルを持っていても100ちょっとのSTRでは、宝の持ち腐れでしかない様だ。

 勝負は、スーパースローモーションで近づいてくる剣を、キースの剣が折り、剣の柄で鳩尾に一撃入れて終了した。


 他の連中は、剣を置いて両手を上げているが、騙される訳ねぇだろ?アホか。

 どこの世界に、抜き身の剣を拾いやすい位置に置いて、降参を示す奴が居るんだよ!


 サクッと全員のして、屋敷の中に踏み込んでやったよ。

 中で待っていたのは、3豚トリオだった。


 「き、貴様ら!ここを誰の家だと思っている!私は、ヨークバル子爵であるぞ!平伏しろ!」

 『我々は、女王陛下の指示により参じた。貴様、ヨークバル子爵は、本日、子爵の位をはく奪、財産は全て没収。一族郎党平民とする。抵抗するなら、切り捨てる。以上。』

 「何をぬかすか!ふざけやがって!出合えこいつらを殺せ!」

 「・・・。」

 「まだですか?」

 「誰も来ませんね。」

 「まだいるのかと思って、損した気分です。」


 『オーク3匹は捕縛だ。牢にぶち込め。』

 「「「はっ!」」」

 「やめろ!何をする!ふざけるな!」

 「脂肪が分厚くて、殴っても効いてないな。切っていいですか?」

 『駄目だな。死なない程度にならいいぞ。』

 「じゃぁ、死なない程度に切りましょう。」

 「や、やや、やめ、やめてください・・・」

 ブルブルブルブル


 『すげぇ、全身が波打ってるぞ。身包み剥いで襤褸(ぼろ)切れでも被せておけ。』

 「子供の方は、これ、人形ですね。おい!本物のガキはどうしたんだ?」

 ブルブルブル

 『屋敷には居ないな。王都の学園にでも行ってるんじゃないのか?』

 『コルスー』

 『そうです。王都にいますね。捕縛しますか?』

 『よろしくー。あ、誰かにつけるか。痩せさせないと役に立たないからな。』


 「私までも裸にするのですか?魅力的過ぎて、惚れちゃうんじゃないかしら?」

 「あぁ、私は太ってる方は専門外なので、無理ですね。」

 「私も遠慮します。」

 「無理無理、自分で自分の尻を拭ける人じゃないと無理。」

 『アハハハハハハハ、キース面白いな。アハハ、ウケル。』

 「失礼な方たちです事!」


 『お前らは、国に対して失礼極まりないがな。当分の間は、飯はくず野菜スープだけだ。時間はたっぷりあるから、牢屋で反省してろ。』

 『この屋敷に、執事とかメイドはいないのか?』

 『あぁ、離れにいるのか。キース、連れて来い。』

 「はい。」

 『牢屋に入れたら、牢屋に捕まってる奴を解放して連れて来い。』

 「使用人達を連れてまいりました。何か、鎖で繋がれてました。」


 『何でだ?』

 「旦那様は、お食事以外の時は、我々を屋敷から追い出していたのです。」

 『だから、埃っぽいのか。もう、そんな心配は無いぞ。ここの暫定領主は、キースがやれ。』

 「はっ!承りました。」

 『領内の平定と回復が早ければ、褒美をやるぞ。』

 「がんばります!褒美は、新しい武具が欲しいです!」


 『それは、褒美にはならんな。とりあえず、宝物庫に案内しろ。売れる物は売り払うぞ。』

 「その前に、お願いがございまして、メイド達は、給金をここ数ヶ月頂いておりませんので、どうかご慈悲を頂けますと、ありがたいのですが。」

 『あぁ、ほら、金貨10枚ずつだ。執事もな。この領の財政状況なんてものは、判り切っているが、給金は、月額銀貨20枚ずつで、月宴祭の日に、俸給として金貨1枚だ。一人頭の年額は、金貨4枚と銀貨80枚だ。働きが良ければ、金額を上げてやれ。その辺はキースに任せる。それと、兵士は、全員扱き上げて、3か月で一級冒険者並みに仕上げろ。』


 給金が銀貨なのは、この領には金貨を使える様な場所が無いからだ。

 先に渡した未払金が金貨なのは、食料や買出しに行った際に、立替払いができる様に、多目に渡したのだ。

 経済を動かさない事には、復興なんてあり得ないし、領主に対して立替払いをする事で、優越感や貢献(こうけん)、好感度も上がるチャンスを作れる。


 「畏まりました。」

 『しかし、この屋敷、一見豪華に見えるが、金が何処にも無いな。全部黄銅貼ってるだけじゃねぇか。像は石膏だし、宝石?じゃないな。これは、水晶だな。削ると白いのが出てくるから、偽物だな。これなんか、石灰磨いただけじゃねぇか。騙されまくってんな。』


 石灰岩も磨けば綺麗ではあるし、結晶型なら大理石と呼ばれる綺麗な石なんだが、ここにあるのは、低品質の脆い奴で、砕いて別の事に使いたいと思える物ばかりだよ。

 というか、後で砕いてしまおう。


 「宝物庫は、こちらでございます。」

 ギィィィ

 「んー、金貨以外は金が無いですね。」

 『絵画も全部贋作(がんさく)・・・あ、そこの絵は本物?』

 「こちらでしょうか?」

 『その後ろの絵だな。』

 「こちらでしょうか。」

 『それだな。何の絵だ?作者は、バーバラ・ドリアンエキス・・・捨てろ。ゴミだ。ここの出入りの商人は、いるのか?これらの贋作盛り沢山を売りに来る奴だが。』

 「はい、通常通りなら、本日来られる予定でございます。」


 『締め上げるか。』

 「そうですね。まぁ、騙される方が悪いと言われると思いますが。」

 『そうだが、どうせまた持ってきてるんだろ?偽物出されたら、脅せばいい。』

 『アルティス様、牢屋の中に多数の遺体がありますが、どういたしますか?』

 『ある意味予想通りだな。後で確認して、ワラビを呼ぼう。』

 『了解』


 突然、別の声の念話が届いた。

 

 『アルティス様、いまよろしいでしょうか?』

 『誰だ?黒エルフか?』

 『エスティアと申します。』

 『で、何の用だ?』

 『王子がそちらに勉強に行きたいと申しておりまして。』

 『性格が治ったらいいぞ。あのままなら、考えるに値しない。来なくていい。というか来るな。』

 『女王様か宰相様にご判断を頂けないでしょうか?』

 『俺がその宰相様だよ。』

 『判りました。お時間を頂きありがとうございました。』


 あの変なエルフは、まだこっちに来たいとか言ってんのか。

 変というのは、何が変なのか説明が難しいが、何かが可笑しい奴だったのだ。

 そういう奴は、大抵の場合、魔族の変装か悪魔の偽装のパターンが多く、タダでさえ忙しいのに、態々(わざわざ)大陸の端っこから(わざわい)の元を呼び寄せたいとは思わないから、難癖付けて断るのだ。

 

 正面ロビーに戻ると、商人が来ていた。


 「あのー、ヨークバル子爵様はどちらにいらっしゃいますか?」

 『ヨークバルは解任された。今後は、このキース・ヨークナルが領主となる。』


 キースがジト目でアルティスを見た。


 「キース・ヨークナルだ。」

 「あぁ、そうでございますか。それでは、今後の件もございますので、お話をさせて頂きたいのですが。」

 『応接間に案内しろ。』

 「こちらへどうぞ。」


 応接間に来てみたが、やはり金は装飾に使われていないようだ。


 「お初にお目にかかります。タカール商会のヨーク・タカールと申します。以後お見知りおきを。」

 「さっそくですが、一つお尋ねしたい要件がございます。ヨークバル子爵様が解任されるという事になりますと、ヨークバル子爵様にお貸しした、借金の方はどうなりますでしょうか?」

 「証文はありますか?」

 「はい、こちらでございます。締めて一億リーブルで御座います。」


 『・・・これをどう計算すれば、1億リーブルになるのか、教えてもらおうか?』

 「はい?」

 『どう計算すれば1億になるのか説明しろって言ってんだよ。どうやったって計算が合わないだろうが。貴様は、新任の領主を騙そうとしているのか?』

 「申し訳ございませんが、こちらの小動物は何なのでしょうか?」

 シャキッ


 「貴様、云うに事欠いて、小動物などと。こちらは、この国の宰相殿であらせられるぞ。その首を落とされたく無ければ、謝罪しろ。」

 「ひ、ひいいいぃぃぃぃ、ごご、ごご、ご無礼を致しましたぁ、どどどうか、ご容赦を!」

 『許してやろう。だから早く、説明しろ。どう計算しても3000万リーブルにしかならないのだが?。それと、この証文のサインだが、インクの種類が違うのと、サインのアクセントが全然違うのは何故だ?しかも、日付が入ってないし、まるで、この時の為に適当に作製した証文の様なんだが?どうなんだ?事と次第によっては、打ち首にしなければならないんだが?』


 借用書として出してきた証文だが、ヨークバルのサインとタカールのサインのインクの種類が違い、ヨークバルのサインの方には、魔力が含まれているのだ。

 また、筆圧がかかった様子も無く、印も無ければ、日付も入っていないのだ。

 しかも、複数の借金が一つの証文で纏められている等、通常はあり得ない方式だ。

 そして、言っている金額と、記載されている金額が一致しないのだ。


 「そ、そそ、それは、いい、インクのしゅ、しゅりいが、種類が違うのは、わ、わわ、わたい、私が持って来たい、インクをし、しし、使用したもので、ご、ご、ござ、います。」

 『ほう、それではそのインクを出してくれ。』

 「も、申し訳、ご、ございません。ここ、このインクは、しょ、少々、特殊でごごございまして、いあ、今は、ももも、持ち合わせが、御座いません。」

 『そうか。ペンを使わずにサインが書けるとは、ヨークバルも器用な事ができるものだと思ったが、特殊なインクでサインをコピーしたという訳か。お前は、打ち首確定だな。』

 「お、おお、お助けを!お助け下さい!何でも致します!お助けを!」

 『そうか、では、お前がヨークバル子爵に売りつけた贋作の絵と、偽物の高級壺、偽の石膏製の石像と金を一切使っていない調度品を全て売値と同じ金額で買い取ってもらおうかね。おい!帳簿を持ってこい。それと領収書も。さて、幾らになるのか楽しみだなぁ。あぁ、逃げても無駄だぞ?お前の魔力は覚えた。どこに行っても捕まえるからな?逃げたら素っ裸にひん剥いて、王都の王城前広場に1か月間さらしてやるからな。生きたまま。』

 カタカタカタカタカタ


 『怖いか?散々貴族を騙して、儲けて来たんだろ?、まぁ、ヨークバルがホントに馬鹿だっただけだがな、俺達まで騙せると思ったら、大間違いなんだよ。次回は腕の立つ者を連れてきてもいいぞ?返り討ちにしてやるがな。キース一人でも300人くらいは相手にできるからな。それと、お前の隣には何が居るか判るか?』

 「へ?ひいいいいいぃぃぃぃ・・・アラクネ・・・」


 気絶しちゃったよ。

 寝てる間に帳簿を調べるか。


 『キース、メモしろ。』


 帳簿を調べた結果、領収書との差がどえらい金額になっている。


 『執事、この帳簿は誰がつけていたんだ?』

 「帳簿係は、先日クビになりました、ピコという者がおりまして、その者がつけておりましたが、旦那様が、領収書を紛失したとかで、追及を致しましたところ、クビを言い渡されてしまい・・・」

 『出て行ったのか?殺されたのか?どっちだ。』

 「出て行きました。ただ、まだ街は出て居ない様でして、やりかけの仕事を放り出す事はできないと、連日押しかけてきております。」


 『来たら呼べ。雇ってやるかもしれん。』

 「もうそろそろ来る頃かと思われます。」

 ドンドンドンドン

 「来たようでございます。」

 『連れて来い。』


 連れて来られたのは、ハーフエルフの男だ。


 「こちらは、バネナ王国の宰相様です。そのお隣の方が新しい領主様です。」

 『バネナ王国宰相のアルティスだ。』

 「新しくヨークバル領の領主になった、キース・ヨークナルだ。よろしく頼む。」

 「ヨークバル家の帳簿係をしておりましたが、先日クビになりました、ピコと申します。」

 『ちょっと、帳簿の事で聞きたい事があるんだが、いいか?』

 「はい、なんなりと。」


 『帳簿の金額と、領収書の金額の差が、偉い事になっているんだが、心当たりはあるか?もしくは、改竄(かいざん)とか。』

 「とんでもございません。改竄なんてしません。ヨークバル様は、よく領収書を無くされるんですよ。それで、いくら使ったのか聞くんですが、殆ど覚えてらっしゃらなくて、金額が判らないので、入れていないのです。」

 『それだと、金額は一致するはずなんだが、一致しないのは何故だ?』

 「判りかねます。クビになった後の事は知りませんし、途中から変わってませんか?字が。」


 『あぁ、一か月前から変ってるな。ふむ、そうか、変わった後の数字がめちゃくちゃなのか。しょうもないな。この辺は兵士を問い詰めれば金額が大体合ってきそうな予感がするな。よし、ピコ、ここで働かないか?給金は、月額銀貨50枚だ。』

 「よろしいのですか?」

 『よろしいも何も、優秀な帳簿係が目の前に居るんだから、雇わない手は無いだろ?』

 「宜しくお願い致します。」

 『よし、では、今後は、商談の時は、ピコも同席して助言してやれ。帳簿係以外もできるのなら、任せたいのでな。』

 「えっと、アルティス様も、こちらに滞在するのでしょうか?」

 『まさか。ここが済んだら、次は隣の領だ。』

 「隣の領とは、デーシャバル領ですか?」

 『そうだ。デーシャバルが済んだら、その隣のガメーツィ領だな。』

 「やっと良くなるんですね?良かった。もう、この3領の民衆は、あまり持たないと、思ってましたので、これから暮らしが、どんどん良くなるのは、大歓迎です。」


 『まぁ、そう簡単ではないんだがな。とりあえず、できる事から始めないと、何も始まらないからな。』

 「いえ、この国は、100年前から、どんどんおかしくなっていきましたので、それが改善されるだけでも、嬉しいですよ。」

 『100年前か。インセクトスタンピードの後だな。何かきっかけがあったのかな?』

 「よく解りませんが、王様の様子が、少し変な感じになりましたかね?」

 『インセクトスタンピードのせいで、国が疲弊して、弱ってる時に、魔族や悪魔が入って来たんだろうな。どうせ、スタンピードの原因も魔族あたりだろうしな。』

 「あぁ、それは違いますね。スタンピードの原因は、発生源が隣国でしたから。」

 『隣国?上の方か?下の方か?』

 「下の方のマルグリッド王国の方ですね。あの国は、殆どが湿地帯なんですが、飛蝗とカエルが特産なんですよ。確か、カエルを狩り過ぎてしまった為に、飛蝗が増えてスタンピードの原因になったと記憶していますね。」

 『今はどうなってるんだ?』

 「今は、スタンピードの被害を受けた国々に、賠償金を支払ったせいで、最貧国になってしまいましたね。」

 『そうか、そういう昔の話を知ってるのは、それだけ長生きしているからなのか?』

 「えぇ、今年で343歳になりました。」

 『長いな。ずっとこの国にいたのか?』

 「いえ、マルグリッド王国に、100年程滞在していました。」

 『へぇ、ハーフエルフはみんなそんな感じでいろんな所を転々としてるのか?』

 「そうですね、私は会計が専門ですが、殆どのハーフエルフは、木工や服飾などの職人が多いですから、何かのきっかけで、移動する事はありますね。」

 『そういえば、王都にもハーフエルフがいたな。確か、フレイヤさんだったか。』

 「それ、私の姉です。」


 『はぁ?そんな長く無かった筈だが・・・』

 「姉さんは、歳を若く言うんですよ。バレないので。」

 『まぁ、判らないな。そうか。今はどこにいるのやら。』

 「家に居ますよ?」

 『いるんかい!。王都に戻ってきてくれないかなぁ?というか、早くないか?』

 「どうなんですかねぇ、姉さんは、短距離のディメンションウォークしか使えませんし、私は、使った事がありませんし、どうなんでしょ?」

 『そうか、教えてもらいたいんだよなぁ、ディメンションウォーク。便利だし。』

 「MPが多くないと使えませんよ?」

 『あぁ、俺のMPは今10万以上あるから大丈夫だ。』

 「え?、今なんていいました?」

 『MPが10万以上あるんだよ。』

 「嘘でしょ?」

 『MAG値は5000以上あるぞ?』

 「あわわわわわわわわ、魔王ですか?」

 『違うが?』

 「勇者様ですか?」

 『違うが?』

 「神様ですか?」

 『違うが?』


 「そんな数値初めて聞きました。ハイエルフでも1000ちょっとの筈なのに、それ以上って、何をしたら増えるんですか?」

 『魔法を使えば増えるが?』

 「いえ、そもそもMPを全部使う事はできないじゃないですか。どうやってそんなに魔法を使うんですか?」

 『例えば、MP500あったら、ファイアとかMP消費の少ない魔法を、30分置きに使えば、殆ど消費しないだろ。MAG値300以下なら、ホイホイあがるぞ?』

 「使い続けてたんですか?」

 『必要だったからな。魔の森の中で生まれたから、魔力感知使わないと生き残れないしな。』

 「そうですか。私も増えますかねぇ。」

 『暇な時に魔法の練習をするといいぞ?特に魔力操作を覚えると、ゴリゴリ上がるんだよ。』

 「覚えたんですか?」

 『覚えたな。』

 「どうやって?」

 『魔法の練習をしててかな。』

 「飽きないですか?」

 『飽きないな。未だにやりたい事が沢山あって、使い続けているからな。どんどん増えて行く。』

 「ちなみに、何の魔法の練習で覚えました?」

 『錬金術と水魔法が中々にいいぞ?[ウォーター]で形を変える練習をするんだよ。撃つ必要も無いし、ピコの姿だって再現できる。』

 「商人が目覚めていますが、放っておいていいのです?」

 『あぁ、忘れてた。[サイレント]かけてたから、聞かれてないけどな。』

 「いつの間にかけたんですか?」

 『無詠唱だ。』

 「できるんですか!?」


 驚くピコにキースがどや顔で自慢した。


 「私もできますよ?」

 「はぁ!?無詠唱って伝説になってるんですよ!?」

 『練習次第だな。コツは、難しいと思わない事だ。為せば成る。為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり。ってな。』

 「どういう意味ですか?」

 『何事も、やらなきゃできない、努力次第で、できる様になる。できないのは、無理だと決めつけて、やらないからだ。という事だ。無詠唱やってみるか?』

 「深いですね。いいのですか?私にもできるでしょうか?」

 『無詠唱なんて簡単だぞ?いいか?指を目の前に出せ、指先に火が灯るイメージを思い浮かべろ、頭の中で詠唱してみろ。』

 ポッ

 「できた!?ありがとうございます!凄い勉強になります!!」

 「伝説って何なんですかね?」

 『じゃぁ、新領主もその意気で頑張ってくれ。』

 「「はい!」」


 『さてと、タカール商会には、この金額を請求する。白金貨24枚だな。24億リーブル、払えるだろ?』

 「そ、それは、もう、払います。払わせて頂きます。すぐに商会に戻りまして、明日には必ずお支払いします。」

 『折角9割引きにしてやったんだ。必ず払えよ?裏切ったら、本当にやるからな?俺は嘘はつきたくないんでね。』

 「は、はいー!で、では!もも戻らせて頂きます!し、失礼します。」

 「何て脅したんですか?」

 『ん?全裸で生きたまま王都の王城前広場に磔にするって話した。』

 「それだけですか?」

 『死ぬかそっちかどっちがいい?って感じだな。』

 「どっちも嫌ですね。」

 『だな。』

 『おっと、こんな時間か。そろそろ晩飯の支度しないと、間に合わないな。執事ー厨房に連れてけー』

 「ほっ、良かった。教えて行って下さるなら、安心です。」

 『当たり前だ。美味い飯は、力の源だ。』


 厨房に来てみると、まるで独身男の家の台所というか、セルフネグレクトの人の台所という感じの汚さだ。


 『これは一体、どういうことですか?』

 「これは、夜中に兵士達が、食い荒らした後の光景でございます。」

 『で、掃除は誰がやってんの?』

 「・・・。」

 『誰もやってないと。[クリーン]かければ、済む話じゃ無いのか?』

 「我々では、MPが尽きてしまいます。」

 『では、今日からお前ら以外は入れない様に、鍵をかけろ。キースには言っておく。違反した奴には罰を与える。鍵をかけ忘れた場合も、同じだ。[クリーン]』


 『キース、兵士達を全員奴隷にしろ。馬鹿は徹底的に躾けろ。』

 『初めからそのつもりです。フール・サム男爵に禁じた内容を真似してもよろしいですか?』

 『殺し以外は、俺の真似をどんどんやっていい。精神魔法耐性と状態異常耐性の魔道具の設置と、この街だけでもいいから、結界を張れ。オロシに依頼しておけ。』

 『了解です。』


 メイド達が片付けをしている間に、キースに指示を出した。


 『じゃぁ、夕飯の支度を開始する。今ある食材を全部出せ。』


 メイド達に、料理の仕方を教えて、実家にも近所にも教えていいと許可を出した。

 執事とメイド達は、必死になってメモを取り、夕食を食べながらメニューの開発に乗り出した。

 夕食の席には、マイクとトモスも同席した。


 「いやぁ、アルティス様の料理は、久しぶりです。やはり、一味違いますね。」

 『最近は、カレンの方が上手くなっているんだ。あいつは、料理に誇りを持っているからな。リズも中々に上手くなってきているぞ?』

 「リズ様は、メビウスさんと上手くやっているのですか?」

 『メビウスはもういないんだよ。あいつは、偽物だったんだ。本物は19過ぎの若い貴族だったんだよ。勇者の末裔とかなんとかで捕まったらしい。』


 ルースには伝えたが、こいつらには言ってなかったか。


 「ええ!?本当ですか?偽物とはどういう事なんですか?」

 『神聖王国の枢機卿(すうききょう)だか、司祭だかが、ホムンクルスを操作していたのがメビウスだったんだよ。どうりで、何度教えても足の運びが上達しないし、いつも屁っ放り腰で、ステータスも上がらない訳だよ。』


 疑問をマイクが投げかけてきた。


 「鑑定でも判らなかったんですか?」

 『鑑定ってのは、魂と肉体の状態を数値化して表示しているだけだから、魂が入っていない状況でなら、ホムンクルスになるんだが、入ってる状態では、人間になるんだよ。()()()()()()()()だけだからな。総じて()()となる訳だ。』


 トモスも気になる様で、聞いてきた。


 「何故判ったのですか?」

 『リズがな、夜になると、死んだように眠っているとか言ってたからな。夜中に見に行ったんだよ。そしたら、息もしてないし、触ってもビンタしても何の反応もしない。で、鑑定してみたら()()()()()()だった訳だ。』


 困惑するキースには、どう反応していいのか、判らない様子だ。


 「それは、見つかって良かったと言うべきなんでしょうか?」

 『良かったに決まってるだろ?そのおかげで、神聖王国の悪魔を、見つける事ができたんだからな。』


 結果として良かっただけだが、目的が知りたいよな。


 「目的は何だったのでしょうか?」

 『偵察目的なんだろうな。本当は、王都まで行くつもりだった様なんだが、途中でバレたから、仕方なく正体明かして逃げる算段だったんだろうな。逃げられなくして、捻り潰してやったが。本体の方は、意識も無く、眠る様に死んだんだろうな。』


 操作中の本体の様子が知りたいのは、マイクだ。


 「操作している時の本体は、どんな状態なんでしょうか?」

 『寝てるだけだよ。魂は殆どが抜けていて、最低限の機能しか残ってない。だが、魔力の線が繋がっていて、繋がっている間は生きてるんだよ。切れると死ぬがな。』


 トモスが、倒し方を知りたい様だから、教えてやろう。


 「どうやって切るのですか?」

 『簡単だ。空間を断絶すればいいだけだ。命の線をピンと張った糸だとすると、途中に壁ができたらどうなると思う?』

 「切れますね。」

 『だから、メビウスの周りだけ別空間にしてやったんだよ。次元が違う空間だから、魂の繋がりも途切れる訳だ。』


 よく解らないという顔をされた。

 キースは対策が知りたい様だ。


 「今後は、どうやってホムンクルスを見つけるんですか?」

 『簡単だ。心臓の動きをトレースしてやればいい。止まってる奴がいれば、ホムンクルスだ。』

 「トレースするという事は、そいつがホムンクルスであるという疑いが無ければできませんよね?」

 『そうだな。それか、アミュレットにトレースする機能を付けて、全員やるかだな。』


 「ずっと入ってたら?どうなりますか?」

 『本体が死ぬだろうな。』

 「どうしてですか?」

 『飯を食ってるのは、ホムンクルスで、本体じゃないからだよ。どんどん衰弱していって、やせ細り、餓死する。寝てるだけでも糞も尿もでるから、世話をしてくれる奴がいないと、どうにもならないしな。便所の中にずっといる訳にも行かないだろうしな。偵察するにしても、効率が悪すぎるだろ。まだゴーレムの方がいいと思うぞ。』


 魔力は便利だが不便でもあるんだよ。


 「魔力で何とかなるのでは無いですか?」

 『魔力は便利だが、難しくもあるんだよ。例えば、[ドライ]がいい例だな。何も考えずにかけると、一瞬でミイラになる。細かく設定しないと、難しいだろ?生命維持も同じなんだが、生きていくうえで、必要な事を全て意識するとなると、めちゃくちゃ大変な作業になるんだよ。』


 「大変とは?」

 『例えば、遠征で1週間行ったとして、毎日干し肉とパンだけしか食べてないとしたら、万全の体調でいられるか?』

 「そりゃぁ無理ですけど、寝てるならいいのでは?」

 『お前らが、色んな物を食いたいと思ってるのは、ただの食い意地だけじゃないんだよ。お前らの体が、足りない栄養を欲しがってるんだよ。』


 普段は意識していないから、判らないのは当然だ。


 「足りない栄養?」

 『激しく鍛錬をした後には、何が欲しくなる?』

 「水と甘い物ですね。」

 『普段甘い物は好きだったか?』

 「いえ、あまり好きでは無いですね。」


 『激しく鍛錬をすると、体のエネルギーが足りなくなるから、甘い物で補おうと思うんだよ。甘い物つまり、糖分は、即効性のあるエネルギーだからな。食べ過ぎると太るのもそのせいだ。』

 「摂り過ぎると、余分が脂肪に変わると?」

 『そうだよ。脂肪はエネルギーのタンクなんだよ。だから運動すれば痩せるんだ。さっきの話に戻ると、寝てる奴にお粥だけをあげてると、他の栄養が入って来なくなるから、他の栄養を必要とする機能が働かなくなる。一緒に補おうとすると量が多くなり、余分な栄養は脂肪になる。起きてれば、体が勝手に摂ってくれる栄養は、他人には判らないからな。』


 栄養とは糖分だけでは無いからな。

 塩分やビタミン、タンパク質もカルシウムも必要だ。

 特に、タンパク質とカルシウムは、新陳代謝でも使うから、摂らなきゃ駄目だ。

 この辺は、採血で健康状態が判る現代医学が優れているよな。


 「摂らなければ死ぬが、摂り過ぎると太る、加減を知っているのは、自分だけ。という事ですか?」

 『そういう事だ。』

 「街の人々に足りていない栄養は何ですか?」

 『全部だ。エネルギーも栄養も何もかもが足りていない。』

 「では、与えるとすれば、パンと肉だけではなく、野菜も食べさせなければいけないという事ですね?」

 『そうなんだが、特に意識する必要は無いだろう。野菜と肉と小麦を渡せば、勝手に食うだろうな。』

 「調達はどうやってやればいいんですか?」

 『執事に聞け。その辺は、お前が決定権を持っているが、執事もメイドもピコも仲間だ。みんなで相談して決めろ。必要なら、配給でも炊き出しでも、何でもいいからやれ。信用できそうな奴が居たら、仲間に引き入れろ。役人がクソならクビにしていい。それと、学校を作れ。子供を教育しろ。あ、忘れてたな。クスノベルティに置いてきたままの子供達を連れてきて、勉強を教えるんだ。頭がいい奴は、すぐにでも役に立つ様になる。』

 「判りました。明日はもう行かれるので?」

 『早くしないとまた、子供が攫われるからな。』

 「確かに。」

 「元領主には何をあげますか?」

 『今日は抜きだ。何も残ってないからな。』


 「装備はどうしますか?」

 『アクセサリーは、誰に渡すかは、お前が決めろ。好きとか嫌いではなくて、信用できるかどうかで決めて、恥ずかしいなら、何人かまとめて渡してやれ。あっち目的では無いとちゃんと説明しておけよ?じゃないと、夜中に裸で部屋に入って来るぞ?』

 「「あははははは」」

 『笑ってるお前らも、領主になればやるんだからな?。領主用のマジックバッグと食料用のマジックボックスは置いて行く。それと、魔力感知は常に発動しておけ。』

 「あぁ、何かいますね。」

 ぎゃーああああああ

 バタバタバタバタバキッ

 ドサッ


 天井裏から、メイドが落ちてきた。


 『さて、寝る前に尋問といきますか。』

 「魔族でも悪魔でも無いですね。貴方は何ものです?」

 「・・・」

 チャキッ

 「私は短気では無いですが、コソコソされるのは嫌いなんですよ。逃がしませんし、喋るまで開放もしません。」

 「・・・」

 「耳でも切り落としますか。」


 キースが剣を振り上げた。


 「待って!待って下さい!話します。私は、王都から派遣されてきたスパイです。ここの領の状況を、王都の方に連絡していただけなんです!」

 『ほう、誰の差し金だ?』

 「もちろん女王様です。」

 『嘘つきは嫌いだな。殺していいぞ。死体はスライムにでも食わせとけ。』

 「本当です!信じて下さい!」

 『カノエ』

 「はい。この者は、隣国のスパイです。」

 『だそうだが?』


 シュタッと現れたカノエを見て、目を見開いているが、ずっと気配を消してお前の後ろに居たんだがな。


 「嘘・・・今までどこに・・・」

 『お前らよりも優秀なスパイがいるんでな。お前如きと同じレベルとは思うなよ?一度隣国にお邪魔して、滅亡の危機に落としてやろうか?』

 「私には『うるさい』」

 『ベタな言い訳は要らない。何をしに来たのか言え。お前らの国にメテオを落とす事も可能なんだぞ?』


 本当の事だろうと、泣き落としだろうと、こちらの欲しい情報を何も出さずに、いい訳だけをされても困るんだよね。

 助けて欲しいなら、それなりの対価を提示しなければ、聞く必要など無いんだよ。


 「私はタカール商会に雇われて、弱みを握れと言われています。」

 『タカール商会ねぇ、本店は、マルグリッド王国あたりか。お前は幾らで雇われたんだ?』

 「タカール商会に借金がありまして、返さないと弟たちを殺すと脅されています。」

 「なら、話は早いですね。弟達をこの屋敷に連れてくればいい。」


 事情を聞いたキースが解決案を出すが、安易すぎるよ?


 『弟と称したタカール商会の丁稚じゃなければいいんだがな。』


 アルティスの勘繰りを聞いて、しまったという顔をしているが、まぁ、経験しなけりゃ判らないか。


 「6人兄弟で、10歳以下の弟と妹が5人います。」

 『そいつらなら、神聖王国に売りに出されたんじゃないか?何か月会って無いんだ?』

 「半年ほどです。」

 「可能性が高いみたいですね。名前は?」

 「クー、ター、イー、メー、ルーです。」

 『クーイーターメールーとかふざけた名前だな。』


 アルティスが並べ替えて言葉にすると、驚いた顔を向けてきた。


 『コルス、クスノベルティに、その名前の子供がいるか調べてくれ。』

 『了解』

 『居るようです。全部で5人クーイーターメールーというふざけた名前の子供ですね。』

 『居たな。もうあの商会に義理立てる必要は無いぞ。他に同じ様な境遇の奴はいるか?』

 「執事も含めて全員です。」


 カノエが調査結果を教えてくれたが、あまりの醜悪さに反吐が出るね。


 『あの商会は潰そう。財産没収してな。クズだ。奴も殺せ。』

 「本店は、マルグリッド王国ですが?」

 『明日来るからな。問題無い。執事!全員集めろ!』

 ドタドタドタドタ

 「お、お呼びでござ・・・、あぁ、バレたのですね。如何様な処罰も受けますので、どうかメイド達だけは助けて頂けないでしょうか。」

 「勘違いしないで下さい。アルティス様は、そこまで非情なお方では無いですよ。」

 『お前らの人質の名前と年齢を教えろ。』


 聞き出した名前を照合すると、全員クスノベルティにいる事が判った。


 『じゃぁ、密偵まがいのメイドは、密偵になれる様修行してこい。入れ替わりで暗部から一人連れて来てくれ。』

 『では、キノエネを派遣します。』

 『密偵まがいのメイドの名前は?』

 「シーと申します。」

 『上と下にメーとヲーでもいたのか?』

 「何故それを!?死んでしまいましたが・・・」

 『居たのか。キース、変な名前の奴が居たら教えろ。名前を付けなおしてやるよ。』

 「了解しました。」


 空いた時間は、キースが兵士を隷属する手伝いと、鍛錬を見ながら新しい装備を作った。

 材料の鉄は、建物の装飾として沢山あるからな。

 領兵の装備は、基本的には革鎧程度で問題無いのだが、魔獣に対応できる防具と武器は必須となり、治安維持の為に魔獣を討伐すれば、それが夕飯のおかずになるのだ。

 そして、対人も視野に入れなくてはならない領兵の装備は、革製では役不足だ。

 革製防具の欠点は、刺突に弱いという、大きな弱点が存在する。

 アルティスの最初の革鎧は、ワイバーンの革製でドワーフ作だったから判らなかったのだが、リズやコルスに色々聞いているのだ。


 ワイバーンの革製であれば、問題は無くなるのだが、国軍では無く、領の私兵に手持ちのワイバーンの革を出すのは、筋が違う。

 周辺どころか、他の領にバレれば、すべての領が手を挙げるだろう。

 同様に、武器も豪華な物は与えず、装備の手入れをちゃんと覚えて、実力が伴って来なければ、渡す意味が無いのだ。

 どんなにいい装備を持っていても、毎日の手入れを欠かさずできなければ、早晩使えなくなるのは当然の話なのだから。

 明日は、あの商人を退治するシーンだな。


 翌朝、朝食を食べたすぐ後に、タカール商会がやってきた。

 護衛を引き連れて来たな。

 片方はパワータイプで、もう片方はテクニカルタイプかな?

 どっちも見掛け倒しだけど。


 『よう、今日は護衛付きか。』

 「えぇ、うちの商会でも一番の腕利きを連れてきました。貴方を殺す為にね。」

 『そうか、歓迎するよ。大した腕じゃないが、そいつらも、貴重な兵士になるからな。届けてくれてうれしいよ。』

 「殺してしまえ!」

 「うぉらぁ!」

 キンッ


 目の前に居たキースを無視して、アルティスの方に切りかかったが、右に伸ばしたブロードソードの剣先で、バスタードソードを男の顔の前で止めた。

 止められた方は目を見開いて驚いている。

 だって、キースの右斜め後方で、真っ直ぐに伸ばした腕に握られた剣の先で、3倍以上の太さがあるバスタードソードを止めたのだから。


 「無視されては困りますね。貴方の相手は私で十分ですよ。アルティス様のお手を煩わす必要はありません。」

 「はんっ!どこのお坊ちゃんか知らねぇが、痛い目に遭わない内にお家に帰んな!」


 キースから一旦距離を取った男は、内心焦っていた。

 バスタードソードを止められた時、押さえつけられた状態から、振り下ろす事が一切できなかったからだ。

 その一瞬で、勝てない事を悟ったが、今更引くにも引けず、大口を叩いたのだが、キースの視線から逃れたくて、視線を彷徨わせてしまったのだ。


 「相手の実力も測れない、貴方程度に負ける事はありませんね。」

 「んだとおらぁ!」


 ああ、人生終わった・・・剣を振り下ろしながら、そう思った次の瞬間、強烈な痛みと共に視界が暗転した。


 ゴッ

 「ぐぇぇ」

 ドサッ


 キースが相手の剣を、素手で押さえて、鳩尾に肘鉄入れて倒した。

 まぁ、最初の一撃を剣で防いだ時、バスタードソード相手にブロードソードで防御して、音がキンッて、何をどうしたら、そんな音が鳴るのか、さっぱり判らないよ。

 バスタードソードは、両手持ちの幅広の剣で、鉄製なら重さは30㎏ほどはあるだろう。

 対して、キースのブロードソードは、140㎝程の剣身に25㎝のグリップで、特製の材料だから重さは5㎏くらい。

 金属同士のぶつかり合いだとしても、重い金属と硬い金属がぶつかれば、普通はもっと低音が入って、ガンッとかゴンッとかになるんだが、今回の音は軽かった。

 とすると、バスタードソードの中身はハリボテの可能性が高い。


 「さぁ次の方どうぞ。どこからでもいいですよ?」

 「あの筋肉馬鹿と一緒にされては困るな。この神速のスロウと呼ばれる、私の剣を見切れるかな?」


 言ってる事は凄そうだけど、早いのか遅いのか判らん名前だし、実力不足も甚だしい。

 見切るどころか、避ける必要もなさそうだな。

 うちの連中は、普段からスピード重視の暗部達と模擬戦をやっているから、素早い動きには慣れているんだよね。

 いつかの模擬戦用魔道具で、気軽に模擬戦ができる様になって、暗部達の戦闘力も上がって来てるんだよ。


 「ふんっ!」

 ドフッ

 「ごはぁっ!」

 ドサッ


 避けるどころか、剣を振り下ろす前に、懐に入って鳩尾に一撃入れて終了したよ。

 避けたのは、振り下ろされた剣の柄を避ける為に、頭を3㎝傾けたくらいだな。

 見切りは、剣技の基本だから、それができなければ、技なんて覚えられないんだよ。


 「さて、お次は商会の方でしたか。魔道具でも何でもいいですよ?」

 「ひっひいいいいぃぃぃ」


 へたり込んで漏らしやがった。

 汚ねぇなぁ。


 『金は?持って来る訳無いか。本店に飛ぶか。キースはお留守番な。』

 「畏まりました。」

 『よし、いいぞ、飛べ。』

 「ままままっまま待って下さいぃ。わわわわわわわ私一人ではMPが足りませぬぅ」

 『いいから早く飛べ。飛ばないとここで殺すぞ?』

 シュン


 到着した場所には、騎士団が剣を構えて待っていた。


 『あー、そういう手で来るのか。いいぞ。ソフティーおっきくなってくれ。』

 『はいはーい』

 「ぎゃー!アラクネだー!!」

 ザザザザザザ


 前衛の騎士が素早く後退りして、離れた。


 「魔法師部隊構え!」

 『[ショックウェーブ]』

 ドンッ!

 うわあああああああ


 自分の周囲2mの所から、外側に向けて衝撃波を発生させた。

 威力は半径10m以内が吹き飛ぶくらいだったのだが、20m離れていてもそれなりの衝撃波が来たようで、ひっくり返っていた。


 『マルグリッド王国は、バネナ王国と事を構えるって事でいいのかな?宰相暗殺未遂とか、賠償金やばいぞ?』

 『あ、ソフティー全員捕縛で。』

 『殺しちゃ駄目?』

 『駄目』

 『はーい。』


 ソフティーが凄い不機嫌な声で返事してきた。


 『こいつは殺していいよ。どうせ店判るし。』

 「ひいいいいぃぃぃおたおたたおたたおたおたお助けを」

 『今更何を言ってるんだ?助ける訳無いだろ?素直に死ね。』

 ザクッ


 ソフティーの足がヨーク・タカールの額に刺さった。


 『さて、賠償金をふんだくりに行きますか。』

 『[オプティカルカモフラージュ]』


 トモスとマイクが、消えたソフティーに驚いた。


 「すげぇ、ソフティーさんが見えなくなった。」

 「どこかに行ったんじゃなくてですか?」

 『ここにいるよ?ね?』

 『うん、いるよー?』

 「あぁ、動くと何か判る。」

 「ほんとだ。判る。」


 使ったのは、光学迷彩という幻影魔法の一種で、背後の光を投影しているのだ。

 プロジェクターで投影した、映像の前に立っている様な感じだ。

 そして、対象の光の反射率を弄ってやれば、影が薄くなって、動かなければほぼ見えなくなるという訳だ。


 『騎士団長はどれだ?』

 「あのちょび髭じゃないですかね?」

 『貴様は何者だ?名を名乗れ。』

 「貴様などになの「黙れ」」


 マイクがちょび髭の喉に剣を当てた。


 『早く名乗れ。そいつは気が短いんだ。髭を剃ってやれよ。片方だけ。』

 ヒュッ


 マイクが左右に分かれた髭の左側だけを、剣先で剃った。

 いい深剃り具合だ。


 『いい剃り加減だ。で、お前の名前は?』

 「ま、マルグリッド王国第三騎士団団長ジョリド・ダベンスだ。」

 『俺は、バネナ王国宰相アルティスだ。王の所に案内してもらおうか?』

 「き、貴様を「口調を正せ、でないと首を飛ばすぞ?」」

 「き、貴殿を王の所に連れて行く訳にはいかん。」


 『何故だ?』

 「わ、私は、王の命令で来た訳では無いからだ。」

 『そんな事は、俺には関係ないな。ヨーク・タカールが、連れて来たんだから、密入国でも無いし、お前らがここに居たって事は、俺が、来るって事を了承していたって事だもんな?』

 「そ、そんな事をすれば、私の首が飛ぶのだ。」


 『今ここで飛ばされるのと、そう変わらんが?』

 「この人数差を覆せるとでも?」

 『先程覆したじゃないか。俺一人で。今度は、全員ひとまとめに、殺してやってもいいんだぞ?』

 「・・・わ、判った。案内しよう。」


 

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